Africa Report
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2024 Volume 62 Pages 29

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アフリカの地域統合に関する最近の主要な話題といえば、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)であろう。アフリカ大陸全体にわたる自由貿易圏の形成を目指すAfCFTA設立協定は、2018年にアフリカ連合(AU)加盟国間で合意され、2019年に発効、2021年に運用開始した(現在、AU加盟55カ国中エリトリアを除く54カ国が署名、そのうち47カ国が批准)。このAfCFTAに関する論文や著作は数多くあり、アフリカ域内の貿易や産業、さらには政治や社会問題などについてさまざまな見解が示されている。しかし本書は、そうした大陸内に向けた視点とは異なり、AfCFTAの存在がアフリカとアフリカ最大の貿易相手である欧州連合(EU)との大陸間関係にどのような影響を及ぼすのか、あるいは逆にアフリカとEUの関係がAfCFTAの進展にどのように影響するのかといった対外的な論点を考察しており、その問題設定が非常にユニークである。

本書は11章からなる編著本である。国際政治経済学、地理学、法学、政治学など多様なバックグラウンドをもつ研究者が集結し、AfCFTAを共通の分析対象として、AfCFTA成立前後のアフリカとEUの関係性の変化を解き明かそうとしている。その議論は貿易関係にとどまらず、安全保障や移民問題などにも及び、幅広い角度から大陸間関係について分析している。さらに取り上げる主体も、国家や地域機構のみならず、市民社会や在欧のアフリカ系移民など多岐にわたる。

各章は、アフリカとEUが相互協力を維持し、対等な関係性を構築していくことが必要であるという点で一致しているが、それぞれが考察するアフリカ-EU関係にはさまざまな結論がある。たとえば、AfCFTAがアフリカ域内の産業構造や経済関係を変革させ、アフリカとEUの関係を再構築する一助となる可能性を指摘する章がある一方で、EUがアフリカ各国/地域と締結している経済連携協定や自由貿易協定などは、アフリカ域内の貿易活性化の障害となり、AfCFTAの進展に悪影響を及ぼすとする章もある。また別の章では、AfCFTAが形成されるとアフリカ域内の人の移動は大幅に増加するがアフリカからEUへの移民の動向は変わらないとし、EUが進めている国境管理の外部化プログラムはあまり意味がないと指摘している。

本書のもうひとつの特徴は、アフリカ-EU関係をアフリカの視点に立って考察していることである。なかでも終章は、EUに対して「アフリカの声を重視せよ」という強いメッセージを発している。終章の著者達はEUがアフリカ側と十分な協議をせずに新しい対アフリカ政策を導入したことを批判し、これまでのパターナリズムに基づいた一方的なアフリカ-EU関係を対等なパートナーシップに変えていくべきと主張している。今後のアフリカ-EU関係を考える際に、ぜひとも参考にしたい一冊である。

箭内 彰子(やない・あきこ/アジア経済研究所)

 
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