Africa Report
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2024 Volume 62 Pages 49

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近年の計量政治学では、制度や政策だけでなく、文化や規範といった「データ化しにくい」概念についても盛んに研究がなされている。RobinsonとGottlieb(2021)はその好例で、アフリカにおける母系社会では、より女性優位な規範が形成され、女性の政治参加が進んでいることを示している。

本論文によれば、母系社会では、母方の血筋に基づいて家族が形成され、母から娘に財産が相続されることが多い(ただし、父からその姉妹の息子への相続もありうる)。その結果、女性は結婚後も同じ血縁集団に属し、土地などの財産を所有することが多い。結果、父系社会と比べて、女性の家庭内外での発言力が強くなると考えられる。一方、母系社会においても男性、特に母方オジが強い影響力を持ち、女性の政治参加に大きな違いはないという見方も存在する。そこで、RobinsonとGottliebは、Ethnographic Atlasおよびアフロバロメーター第5回調査(2011~2012年)を組み合わせ、サハラ以南アフリカ26カ国の383民族、3万7198人を対象とした回帰分析を行い、父系社会に比べて母系社会で女性の政治参加が高いことを示している。

さらに、著者らはマラウイを対象にメカニズムの検証も行っている。具体的には、Malawi Longitudinal Study of Families and Health(マラウイ長期家族健康調査、2004年)を使い、母系社会では、女性が村落の会議に参加し、また離婚に対して寛容であることを示している。一方、母系社会で女性の教育水準が高いわけではなく、また女性が他の方法で土地を取得したとしても、彼女らの政治参加や離婚に対する態度に違いは見られない。すなわち、教育や財産によって母系社会と父系社会の違いを説明することは難しく、より重要な要因は女性優位ないしは男女平等な規範が母系社会に根付いていることと考えられる。実際、著者らはマラウイの5つの村落で40人の女性および10人の村長を対象としたインタビュー調査を行い、母系社会では女性の発言力が高いことを示している。

本研究は、国家間比較およびマラウイでの量的・質的な研究を組み合わせ、母系社会でより女性優位な規範が醸成されることを説得的に示したものとして評価できる。国家間比較では差の差分法、マラウイのデータ分析では操作変数を使うなど、データ分析の手法にも工夫が見られる。質的・量的アプローチを組み合わせる研究の一つの例としてひろく読者に読まれるべき研究と考える。

菊田 恭輔(きくた・きょうすけ/アジア経済研究所)

 
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