2025 Volume 63 Pages 33
かつて冷戦史といえば米国とソ連、東西ヨーロッパの分析が主流であった。だが、その後さまざまな公文書の開示があり、また非欧米諸国の研究が進んだ結果、近年では脱植民地化の歴史のみならず冷戦史においても、アジア、アフリカ、ラテンアメリカといった地域に軸足を置いた歴史的叙述の試みが進んでいるという。本書もこの流れに沿う。
冒頭の〈展望〉に収められた「自律と連帯」は、南アフリカ共和国の研究に長年携わっている峯陽一の手になる。峯というアフリカ研究者を語り手に得た本章では、冷戦は主としてアジア、アフリカ、ラテンアメリカの諸地域の立場から照射され、私たちは、国際連盟をデザインした中心人物が南アの人種隔離体制を築いたアフリカーナーであることにも触れることになる。「光と影」が現代史を彩なしてきた様子が描かれており、読み応えがある。非欧米の国家やその他の政治主体の相互関係から冷戦の展開をたどり直した青野利彦「国際関係史としての冷戦史」で示されるのは、冷戦の展開に生じた地域差と、「冷戦」という名前に反して振るわれてきた実際的な暴力である。続く難波ちづる「脱植民地化のアポリア」は、主としてアジア、アフリカ諸国の苦難に満ちた独立過程を植民地宗主国の動きと併せて語り、各国の「アポリア(難問)」に満ちた脱植民地化の過程が国によっては現在まで続いていることを描き出す。南塚信吾「さまざまな社会主義」ではアジア、中東、ラテンアメリカと並んでアフリカ諸国の「脱植民地化の道」としての社会主義実践とその終焉を画期づける経緯が網羅される。
アフリカ諸国に正面から焦点を当てるのが砂野幸稔「アフリカ諸国の「独立」とアフリカ人エリート」である。本章はデヴィッドソンによるアフリカ人エリート批判、マムダニによる都市と農村の問題を指摘した「分岐国家」論、さらにクーパーの「門番国家論」にも言及しつつ、統合に不可欠な国語の不在などをキーワードに、アフリカ諸国の脱植民地化の内実と独立後の課題を鮮やかに再構成する。本書ではその他、欧州の統合、中国のソ連型社会主義、イスラエル建国とパレスチナ問題、ベトナム戦争、オセアニア諸国と核問題、沖縄をめぐる問題について専門家の手による貴重な概観と分析が提示されるほか、5編のコラムが所収されている。
アフリカや途上国に興味のある読者にとって、本書はぜひ読んでおきたい1冊だといえるだろう。またこの第22巻は政治的領域を主とするが、次の第23巻は社会・経済・文化領域を主とする。ぜひ併せて第23巻を手に取られることをお勧めしたい。
津田 みわ(つだ・みわ/アジア経済研究所)