2025 Volume 63 Pages 35
本書はエチオピアの首都アディスアベバで2010年代後半を過ごした二人の特派員ヴァンサン・ドゥフェ(フランス報道機関)とカリム・ルブール(AFP通信)の、現地での日々を漫画で描くルポルタージュである。記者の二人はエチオピアのコーヒーセレモニーに集う人々のように、コーヒーを飲みながら語らう隣人として日々交流した。ただし、ルブールの胃にエチオピア・コーヒーは強すぎ、初回以降はマキアートになったという。
ルブールの赴任前のエチオピアのイメージは、シバの女王とハイレ・セラシエ皇帝と1980年代の飢饉だった。しかし着任早々、彼はこの国がアフリカのなかで政治的に最も安定した国の一つで、2000年以降は平均年10%を超える経済成長率を記録し、アフリカで最も急成長する国の一つであることを知る。この頃のアディスアベバの街中は「どこも工事だらけ」だった。経済成長の原動力は農業、製造業、インフラ投資などで、ドナー国、とりわけ中国の膨大な投資がエチオピアの開発戦略を支えていた。本書の副題に「チャイナフリカ」とある所以である。本書でも、現地の人々が外国人を見かけて「チャイナ」と呼びかけ、市場で中国人相手に中国語で会話する様子など、 エチオピアの日常生活で存在感を増す中国の様子が描かれている。
高い経済成長の一方、政府は反対勢力となる野党やマスメディアを厳しく取り締まった。エチオピアは民族連邦制を採り民族の自決権を認めてきた。しかし連立政権内では人口のわずか6%を占めるティグライ人の政党が権力を掌握し、各民族の不満を招いていた。国内には80以上の民族がおり、民族間の対立が激しくなっていた。高い経済成長のもとで経済格差も広がっていた。各地で抗議運動が頻発したすえ、2016年10月9日、政府は非常事態宣言を発するに至る。著者らは取材した人々の声や緊迫した市井の様子を具体的に報告している。この翌年の2017年、二人は次の仕事に向けてエチオピアを後にしたが、その後、2020年に同国では内戦が勃発した。
本書では、記者二人の目を通した現地の日々の暮らしや会話のそこかしこに、当時のエチオピアの躍動感や緊張感が感じられる。コスタリカの漫画家レオ・トリニダードの作画は日本の漫画とは違いシンプルかつ淡々としたものだが、それが一層その印象を強めているように思う。また、本書は情報量が多いにもかかわらず、漫画であることから読み進めやすいという特徴もある。エチオピアに関心はあるものの何を読んだらよいのか迷っている方は、本書をぜひ手に取ってほしい。
岸 真由美(きし・まゆみ/アジア経済研究所)