Africa Report
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2025 Volume 63 Pages 36

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この論文は、警察組織と信頼関係を構築した研究チームが、汚職に関する内部情報を収集し、その実態を明らかにしようとするものである。対象となるのはコンゴ民主共和国、キンシャサの交通取り締まりの警察機関であるが、かれらは主要な交差点での交通違反の取り締まりに際して、罰金ではなく賄賂を要求している。賄賂の収集は組織的で、警察署長が警察署に連行するドライバーの数をノルマとして署員に課し、警察署において賄賂の交渉、収受が行われている。その一部は組織の上層部に送られている。

研究チームは、交通警察が得る賄賂の総額を知ることと、ノルマ制度が道路交通に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。そのために、研究チームのメンバーを8つの警察署に滞在させ、職員が作成する内部記録へのアクセスの許可を得るとともに、研究チームによる警察署内での会話の聞き取り、交差点での取り締まりの観察を通じて、容易には知ることができない汚職に関する情報を収集している。さらに、署長が決めるノルマをランダムに変更する介入も実施し、ノルマの多寡が賄賂や交通に及ぼす影響を推定する試みも行っている。

これらの調査の結果、賄賂は警察署の総収入の77%にあたり、署員や職員の収入の80%以上を占めると推定されている。また、警察署に連行されたドライバーの多くは交差点での観察では明確な違反がみられないこと、ドライバーの後ろ盾となる保護者がいる場合には賄賂をあきらめる事例が多いといった賄賂の実態が明らかにされている。さらに、ノルマを変化させる介入から、ノルマの増加によって交差点における交通渋滞と事故が増加すること、明確な違反が観察されないドライバーや有力な保護者のいないドライバーの連行が増えることを示している。つまり、ノルマ制度は、交通違反をしていないドライバーを脅迫して賄賂を取り立てる組織的な「犯罪」によって成り立っていることを強く示唆しており、警察の本来の目的である安全な交通を害していることが明らかにされている。

本研究は、賄賂に関する先行研究の中で、特に汚職の強度を変化させることで因果推論に基づく分析を行っている点に特徴がある。研究者がデザインする介入を受け入れているという本事例の特殊性には留保を付したいが、収賄側に働きかけるという、これまで例がないと思われる思い切った方法に驚かされた。内部情報を入手しているので、組織的な汚職を成立させる警察の内部構造について、例えば署員が個人的な賄賂の収受に力を注ぐ動機を弱める仕組みなど、さらに詳しく知りたいと感じた。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)

 
© 2025 Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization

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