2025 Volume 63 Pages 38
本論文は、アフリカ大陸自由貿易協定(AfCFTA)の「物品貿易に関する議定書」の中に規定されている最恵国待遇(MFN)条項について検討したものである。MFN条項は多くの貿易協定に組み込まれており、貿易自由化を拡大するうえでとても重要な機能を果たしている。ただしMFN条項には、第三国に与えたより特恵的な措置(例えば優遇関税など)を何の見返りもなくMFN条項を結んでいる相手国に供与する無条件のMFNと、相手国に同等の補償を求める条件付きMFNの2種類がある。無条件MFNは貿易自由化を拡大する手段として認識され、世界貿易機関(WTO)も無条件MFNを規定している。一方の条件付きMFNは選択的に活用すれば国内産業保護にもつながるため、貿易を制限する作用があると批判されてきた。
AfCFTAは条件付きMFNを採用しているが、著者たちはアフリカの文脈では条件付きであることが重要と主張する。その主な理由として、①第三国とりわけアフリカ域外国との自由貿易協定(FTA)の交渉・締結を阻害しないこと、②MFN関連の紛争が発生する危険性が低いことを挙げている。仮にAfCFTAが無条件MFNの場合、著者たちは、AfCFTA締約国が第三国と新たなFTA交渉を行う際、AfCFTAメンバーへの優遇措置の自動均霑を恐れてより踏み込んだ関税譲許などを意図的に控える可能性があり、結果的にアフリカ諸国の貿易自由化が阻害されると懸念する。著者たちによるとアフリカ域内貿易はアフリカ諸国全体の貿易総額の16%しかなく、EUやアメリカなどの域外国・地域との貿易が主流である。そして、こうした域外国とのFTA締結は、アフリカ各国の貿易活性化に非常に重要であると指摘している。
また、AfCFTAのMFN条項によると、例えばAfCFTAの締約国Aが第三国との新たなFTAにおいてAfCFTAより特恵的な措置を供与している場合、AfCFTA締約国Bがその優遇措置を得たい時にはA国との協議が必須となる。著者たちは、MFN条項は一般原則でありその規定内容があいまいであるため、これまでFTA参加国間でその相互付与について法的な紛争がしばしば発生してきたことを明らかにしたうえで、AfCFTAの場合は、A国とB国が協議する過程で将来の紛争要因が解決される可能性が高いと指摘する。そして、AfCFTA締約国間の法的紛争を抑えることは自由貿易圏としての存在の維持につながると結論付けている。
本論文はMFNに関する一般的な論理も整理しており、AfCFTAのみならず、多国間のFTAや地域間FTAの関係性を考察する際に非常に有用な指針を与えてくれる。
箭内 彰子(やない・あきこ/アジア経済研究所)