2025 Volume 63 Pages 73
“最後のフロンティア”ともよばれるアフリカの経済成長は日に日に目覚ましい。本書は、そのアフリカ経済の全体像を、筆頭編著者の高橋基樹が『アフリカ経済論』(2004年)、『現代アフリカ経済論』(2014年)にひきつづき、新たな共編著者とともに説明した一書である。前編著の刊行以降、2015年の持続可能な開発目標(SDGs)の採択や2020年からの新型コロナウイルス感染症の流行など、アフリカを取り巻く環境も大きく変化した。本書では、こうした近年の世界的な動向も議論に取り入れ、アフリカ経済の動きを多角的に捉えて説明している。
本書は4部構成で、それぞれの部はさらに複数の章に分かれている。第1部では、アフリカの地理や歴史など、現在のアフリカ経済がいかにして形成されてきたのかを理解するために必要な情報が提供されている。つづく第2部は産業に焦点を当て、これまでのアフリカにおける産業政策を解説するとともに、労働や金融といった経済活動の理解にかかせない観点についてアフリカの現状を詳説している。第3部では対外関係に着目し、アフリカ地域内外との貿易や国際開発援助について説明される。第4部では「アフリカと人間の安全保障」と題し、アフリカの経済開発を考える上でますます重要になる、教育や紛争、環境といった視点からアフリカ経済が論じられている。
また、先行する2冊にはない「開発」という言葉が書名に取り入れられたのは、アフリカ経済をより動的に捉えるという狙いに加え、経済の中心である「人びと」の生き方の可能性を広げることこそが開発であるという著者らの考えに基づく。本書で扱われている、産業、対外関係、人間の安全保障といったテーマは、アフリカで暮らす人びとの生き方の選択肢を広げるうえで重要な要素といえる。
本書は、アフリカ経済について、歴史的な背景や教育のありかたなどの社会的な側面も踏まえた解説がなされている。これからアフリカについて学ぶ学生はもちろん、アフリカに関連のある業務を担う社会人やアフリカに関心がある人にとっても、同地域への理解を深めるうえで参考となる一冊である。さらに、読者がこれからのアフリカの発展に何が重要なのかを考える際の手立てにもなるだろう。
吉﨑日菜子(よしざき・ひなこ/アジア経済研究所)