Journal of Rural Problems
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Short Papers
Creating a CSR Accounting Table for Agricultural Management
Hitomi OmaeHideo Furutsuka
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2015 Volume 51 Issue 1 Pages 38-43

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1. はじめに

近年,企業の不祥事が相次いでいることから,社会ではCSR(企業の社会的責任)への注目が高まっている.CSRとは,従来の経済的側面の活動だけでなく,社会・環境の側面も含んだ企業活動のことである.このCSRの広がりに伴って,多くの一般企業がCSR報告書を発行し,一部の企業がCSR会計を報告している.農業においても,次のような理由によってCSRを行う必要性が高まっている.すなわち,食の安全への消費者意識が高いこと,女性労働が家事と農作業を負担することにより過重になっていること,家族労賃の適正な評価と支払いが必要になっていること,農薬と化学肥料の過度な使用により環境が汚染されていること,などである.しかし,農業経営においてCSR会計は未だに構築されていな‍い.

そこで,本研究では農業経営におけるCSR会計の構築を目的としている.この目的を達成するために,第1に,一般企業が報告しているCSR活動,CSR会計の特徴を明らかにする1.第2に,鳥取市にある農事組合法人Y生産組合(以下Y生産組合という,2012年度,2013年度)を事例として,生産履歴を利用した農業経営におけるCSR会計について検討する.第3に,農業経営におけるCSR会計について分析方法を検討する.

2. 既往の研究成果

(1) 一般企業に関する研究成果

一般企業に関する研究成果として,倍(2008)は,一般企業が報告しているCSR会計を次の5つに類型区分している.すなわち,その1として,付加価値分配型である.この類型は,「付加価値をステークホルダーに対してどのように分配したか」(倍,2008:p. 148)を示す方式である.その2として,収入支出対比型である.この類型は「損益データを収入と支出に区分し,その内訳とステークホルダーとの関係を明らかにする」(倍,2008:p. 148)方式である.その3として,CSR関連コスト主体型である.この類型は,CSR活動に要した費用を開示する方式である.その4として,CSR関連効果対比型である.これは,CSR関連コスト主体型に貨幣価値以外の物量ベースや文章を用いた効果の側面を加えたものである.その5として,総合的CSR関連効果対比型である.これは,CSR関連効果対比型の効果の側面に貨幣価値を加えて効果を示す方式である.本研究では,付加価値分配型と収入支出対比型をまとめて付加価値型,CSR関連コスト主体型とCSR関連効果対比型,総合的CSR関連効果対比型の3つをまとめてCSR関連コスト型と呼び,この類型に基づいて研究を行う.

(2) 農業経営に関する研究成果
図1.

社会的責任を組み込んだ経営の財務諸表のイメージ

出所:佐々木(2008)p. 408図2を引用.

第1に,佐々木(2008)は,社会的責任を社会的期待と応答と捉え,農業経営はその応答により意思決定を行うものであり,そのことを「応答的意思決定」と呼んでいる.この「応答的意思決定」を会計表示するために新たに必要となる勘定が「応答的純資産勘定(仮称)」である.図1に応答的純資産勘定を含んだ一連の会計報告を示している.これは,今までの現金収支計算書,貸借対照表,損益計算書に応答的純資産計算書を組み込むということである.この応答的純資産計算書はCSR活動の収支を表したものである.つまり,貸方はCSR活動の遂行に伴う純資産の増加を,借方は純資産の減少を意味している.今までは,損益計算書の借方にある当期純利益が貸借対照表に組み込まれていたが,この新会計では,当期純利益は応答的純資産計算書に組み込まれて,CSR活動の遂行に伴う収支の末,算出される応答的純資産増加額が貸借対照表に組み込まれる.この研究では,社会的責任を組み込むために新たな勘定科目と計算書が必要となる.しかし,小規模零細な農業経営にとって,勘定科目の増加と新しい計算書の作成は大きな負担になる.したがって,本研究では,既存の勘定科目と財務諸表からCSR会計を構築することを考えている.

第2に,香川他(2008)によると,トリプルボトムラインの概念からCSRは,経済的パフォーマンス・環境パフォーマンス・社会的パフォーマンスの3つに分けることができる.そして,経済的パフォーマンスとしては付加価値計算書を,環境パフォーマンスとしては環境会計や環境活動報告書を,社会的パフォーマンスとしては労働慣行・人権・社会・製品責任について情報開示すべきであるとしている.この経済的パフォーマンスに農業経営における付加価値計算書があげられる.本来の付加価値は,「企業の最終的な売上高から原材料など外部から仕入れた物財費を差し引いた額として計算される」(香川他,2008:p. 418)が,CSR会計における付加価値計算書では誰に対する支出で誰による収入なのかを明確に情報開示する必要がある.そのために,売上高や労働費などの項目に,「地元地域」などと内訳を示す必要がある.特に家族労賃は,「自家労働を公正に評価していることや,税務上の会計操作を行っていないことを明示することにつながる」(香川他,2008:p. 419)としている.また,農業経営においては,「国土の占有的利用を行っている事実から,土地純収益等の指標を組み込む必要がある」(香川他,2008:p. 419)としている.本研究では,小作地について支払地代を付加価値の分配額として計上する.

3. 一般企業におけるCSR活動の現状

(1) CSR報告書等2

「エコほっとライン」3にCSR報告書等を掲載している一般企業505社について2012年度を対象にCSR報告書等の内容を検討する.すなわち,第1に,GRIガイドラインの実施についてである.GRI(Global Reporting Initiative)は,オランダに本部をおく非営利団体であり,全世界で使用可能な持続可能性報告のガイドラインを作成・普及している.このGRIガイドラインは大きく4つの組織情報(戦略および分析,組織のプロフィール,報告要素,ガバナンス・コミットメント)と6つの社会的パフォーマンス(経済,環境,労働,人権,社会,製品)に分けられており,CSR報告書にはこれらの項目について掲載すべきとしている.CSR会計においても,この項目に着目して報告する必要がある.このGRIガイドラインの指標と業種別開示率を示したのが表1である.調査した企業505社のうち,GRIガイドライン対照表を記載していたのは,152社であった.表1の値は,開示企業数を各業種の企業数で割ったものである.変動係数の値が大きいほど業種間の格差が大きいといえる.表1から組織情報(上述( )内参照)では平均開示率が高い.特に「戦略および分析」と「組織のプロフィール」では平均開示率が90%以上と高く,しかも,変動係数が小さい.このことから,これらの項目はほとんどの企業で開示されているといえる.それに対して,社会的パフォーマンス(上述( )内参照)については,開示があまりされておらず,特に「人権」「社会」「製品」では平均開示率が約30%と低く,変動係数が大きいことから,これらの項目は開示率が相対的に低く,しかも業種間で開示の有無に格差があるといえる.

表1. 業種別GRIガイドライン開示率 単位:%,社
業種      指標 戦略及び
分析
組織のプロ
フィール
報告要素 ガバナンス,
コミットメント
経済 環境 労働 人権 社会 製品 企業数
建築業・農林 100.0​ 96.7​ 80.8​ 80.4 48.1​ 61.1​ 50.0​ 31.5​ 39.6 46.3​ 6​
食料品・医薬品 96.7 94.3​ 79.0​ 80.2 36.3 60.2​ 48.3 21.5 31.7​ 37.4​ 30​
石油・ガラス 100.0​ 96.0​ 81.5​ 88.8​ 37.8 62.7​ 57.9​ 34.4​ 50.0​ 46.7​ 10​
鉄鋼・金属 100.0​ 93.3​ 81.2​ 85.0​ 53.1​ 61.5​ 42.9 23.5 40.3​ 35.8 9​
機械・電気製品 98.3​ 94.3​ 79.7​ 83.5​ 45.6​ 64.6​ 51.0​ 40.4​ 36.7​ 40.4​ 30​
輸送用・精密機器 97.4 90.5 70.4 72.1 36.8 65.8​ 51.5​ 27.5 27.0 28.1 19​
卸売業・金融業 96.2 92.3 79.3​ 91.4​ 46.2​ 51.0 42.3 30.8​ 27.9 27.4 13​
証券・保険 100.0​ 92.5 76.9 84.8​ 35.2 39.2 46.4 15.7 28.1 30.6 12​
不動産・運輸業 91.7 91.7 75.6 71.6 42.6​ 56.7 54.8​ 31.5​ 31.3 35.2 6​
通信業・電気・ガス 100.0​ 91.2 70.1 81.3 39.2 59.0​ 52.5​ 19.0 34.6 35.9 17​
総合(平均) 98.0​ 93.3​ 78.1​ 81.9​ 42.1​ 58.2​ 49.8​ 27.6​ 34.7​ 36.4​ 152​
標準偏差 2.6​ 1.9​ 4.0​ 6.1​ 5.7​ 7.5​ 4.7​ 7.2​ 6.8​ 6.4​
変動係数 2.6​ 2.1​ 5.2​ 7.4​ 13.5​ 12.8​ 9.4​ 26.2​ 19.6​ 17.6​

出所:各社『CSR報告書』等(2012年度).

1)下線は平均より下回っている数値を示す.

表2. 業種別ISO26000開示率単位:%,社
業種       指標 組織統治 人権 労働慣行 環境 公正な
事業慣行
消費者課題 コミュニティ
への参画
企業数
建築業・農林 66.7 58.3 66.7 100.0​ 80.0 66.7 100.0​ 5​
食料品・医薬品 100.0​ 77.5 96.0​ 100.0​ 80.0 91.4​ 100.0​ 6​
輸送用・精密機器 100.0​ 100.0​ 100.0​ 100.0​ 100.0​ 100.0​ 100.0​ 6​
卸売業・金融業 100.0​ 93.8​ 100.0​ 100.0​ 90.0​ 100.0​ 100.0​ 3​
証券・保険 100.0​ 93.8​ 100.0​ 100.0​ 80.0 92.9​ 85.7 3​
不動産・運輸業 100.0​ 75.0 100.0​ 100.0​ 100.0​ 85.7 85.7 2​
総合(平均) 92.9​ 79.5​ 91.4​ 100.0​ 84.3​ 87.8​ 96.9​ 25​
標準偏差 12.5​ 14.7​ 12.4​ 0.0​ 9.8​ 11.5​ 6.9​
変動係数 13.5​ 18.5​ 13.6​ 0.0​ 11.7​ 13.1​ 7.2​

出所:各社『CSR報告書』等(2012年度).

1)下線は平均より下回っている数値を示す.

第2に,ISO260004の開示率を表2に示している.表2の見方は表1と同じである.ただし,ISO26000対照表を記載している企業が25社と少なかったため‍5に,表1では記載している業種が表2では記載していないことがある.表2のとおり,ISO26000では,取り組むべき中核主題として7項目をあげている.「人権」では平均開示率が79.5%と低く,変動係数が大きく業種間で開示の有無に格差がある.これは,GRIガイドラインと同じ結果である.「組織統治」「労働慣行」では平均開示率が約90%と高く,変動係数も大きくなり,業種間で開示の有無に格差があるといえる.

第3に,表1,表2からGRIガイドラインの平均開示率が59.7%,ISO26000の平均開示率が89.0%となり,ISO26000の平均開示率が高い.これは,GRIガイドラインの項目がISO26000の項目に比べて細かすぎるのが原因であると考えられる.また,両者の共通点として,「人権」の平均実施率が低く,業種間で開示の格差が大きいことがあげられる.

(2) CSR会計

実際に調査企業が報告しているCSR会計について次の3点について検討する.すなわち,第1に,調査企業とCSR会計の開示状況についてである.調査企業505社のうち20社(4.0%)がCSR会計を報告している.その内訳をみると,16社(80.0%)が付加価値型で,4社(20.0%)がCSR関連コスト型となっている.

第2に,付加価値型における付加価値の分配先の種類についてである.「社員・役員」「株主・少数株主」「政府」は100.0%である.それに対して,「社会」や「環境」を分配先として認識・表示している企業は少ない(各68.8%,50.0%).このほかの分配先として,「債権者」(87.5%)がある.

第3に,損益計算書とCSR会計の関係についてである.CSR会計情報の正確性・信頼性のためには,CSR会計における数値が損益計算書などの財務諸表で確認できる必要がある.付加価値型では,計算式が記載されていることが多いので,数値の確認をすることができる.これに対して,CSR関連コスト型では数値の確認はできない.付加価値型の例としてJR東日本のCSR報告書では,CSR会計だけでなく略した形ではあるが損益計算書を示し,算出方法を記載している.これによって,ステークホルダーがCSR会計における数値の正確性を確認することができる.付加価値型で報告をしているこのほかの企業においては,損益計算書が記載されている企業は少ないが,算出方法が記載してあるため数値の正確性を確認することができる.

以上のことをとりまとめると,一般企業が実施しているCSR会計では,以下の2つの特徴があげられる.第1に,報告形式として付加価値型の報告が最も多いことである.その理由として,2000年からCSR報告書等のガイドラインとして世界的に利用されているGRIガイドラインに準拠していること,CSR会計の数値の確認ができること,が考えられる.第2に,分配先に「社会」「環境」を含めている企業があることである.

4. 農業経営におけるCSR会計

(1) 事例に基づくCSR会計の構築

前節のとりまとめで述べたCSR会計の1つ目の特徴によって,農業経営におけるCSR会計では,付加価値型を採用することにする.また,本節では,鳥取県東部に立地する鳥取いなば農業協同組合(以下JA鳥取いなばという)管内のY生産組合を事例として検討するが,このCSR会計の特徴として,付加価値型であることのほかに,生産履歴を利用する点がある.すなわち,JA鳥取いなばでは,全組合員に対して生産履歴の記入を義務付けている.生産履歴とは,栽培農地・品目ごとに農薬・肥料の種類や使用量,使用時期を記載し,JA鳥取いなばに出荷の際は提出を義務付けているものである.財務諸表や仕訳帳では,農業経営全体としての農薬費・肥料費の使用金額はわかるが,それだけでは,どの作物にどのように使用したのか,つまり,病害虫の発生が減少したことによる影響なのか,それとも経営努力によるものなのかを判断することができない.そこで,生産履歴を用いることによって,これらのことを明確に表示することができる.ところで,Y生産組合の概要は次のとおりである.1999年設立,2012年度は作付面積が17.04 ha,米を中心に白ネギ,大豆などを栽培している.売上高は,19,234.1千円である.組合員が12名,繁忙期のみ臨時パートを4人~5人雇用している.

生産履歴を用いたCSR会計,すなわち,表3の作成方法は,以下の通りである.第1に,売上高を損益計算書により計上する.このとき,売上を仕訳帳を用いて販売先ごとに分ける.すなわち,JAなどの地域内への売上と地域外への売上を区分する.このことにより,地域との関わりを明らかにすることができる.第2に,製造原価報告書と損益計算書により,前給付原価に含まれる項目を計上する.ここで,「材料費」の「素材費」に含まれる「農薬費」と「肥料費」を,生産履歴・栽培暦に基づいて経常的と臨時的と分ける.このことにより,減農薬・減肥料など,経営努力に取り組んでいることを示すことができる6.第3に,「粗付加価値支弁高」に「人件費」及び「租税公課」を除くすべての販売費および一般管理費(損益計算書),製造経費(製造原価報告書)を計上する.ここでも,「賦課金」なども地域からのものについては,別途記入する.第4に,「粗付加価値分配高」に構成員,土地,政府への適切な支払を意味する「賃金等」,「支払地代」,「租税公課」を計上する.残額は,損益計算書上の営業利益と一致する.この点において数値の確認が可能である.

表3. 生産履歴を用いたCSR会計単位:千円
2012年度 2013年度 2012年度 2013年度
Ⅰ.売上高 Ⅲ.粗付加価値支弁高
   JA 15,589.6​ 12,703.6​    減価償却費 1,333.0​ 1,368.3​
   中嶋米穀 2,184.8​ 1,743.6​    賃借料 711.1​ 878.6​
   地区の団体 107.6​ 72.1​    修繕費 1,078.9​ 1,391.0​
   受託費 1,330.9​ 873.9​    共済掛金 231.0​ 286.3​
   その他 21.2​ 11.3​    支払保険料 53.4​ 49.9​
19,234.1​ 15,404.5​    交際費 29.4​ 7.9​
Ⅱ.前給付原価    賦課金 37.9​ 49.1​
  1.材料費     うち地域賦課金 3.8​ 4.1​
   素材費 4,369.4​ 4,814.6​    拠出金・基金 9.5​ 0.0​
    うち農薬費 1,412.1​ 1,262.3​    会費 82.4​ 92.9​
    (経常的 7.2​ 7.2)​    研修費 52.0​ 67.0​
    (臨時的 0.0​ 1.1)​    会議費 34.7​ 21.0​
    うち肥料費 1,537.6​ 1,633.5​    雑費 147.3​ 48.9​
    (経常的 17.1​ 2.8)​ 3,800.6​ 4,260.8​
    (臨時的 0.0​ 0.0)​ Ⅳ.粗付加価値分配高
4,369.4​ 4,814.6​   1.構成員
  2.製造経費    賃金等 2,531.2​ 1,252.4​
   委託費 1,835.3​ 2,136.6​    福利厚生費 72.1​ 248.7​
   動力光熱費 762.9​ 876.6​    役員報酬 3,000.0​ 5,000.0​
   農具費 282.7​ 15.8​    法定福利費 71.5​ 73.0​
   リース料 1,088.2​ 1,947.1​    報酬・料金 200.8​ 121.2​
3,969.2​ 4,976.1​ 5,875.6​ 6,695.3​
  3.販売費及び一般管理費   2.土地
   旅費交通費 40.5​ 21.0​    支払地代 0.0​ 0.0​
   通信費 15.2​ 37.8​   3.政府
   消耗品費 6.7​ 152.7​    租税公課 442.7​ 428.6​
   支払手数料 62.9​ 144.4​   4.営業利益 651.4​ △6,126.7​
125.3​ 355.8​
10,770.2​ 5,258.0​ 10,770.2​ 5,258.0​

出所:農事組合法人Y生産組合『財務諸表』,仕訳帳,生産履歴(2012年度,2013年度)

1)農薬費・肥料費欄の「経常的」「臨時的」はデータの関係により,「きぬむすめ」の10 a当りのみを記載.

2)農薬費・肥料費に関しては2014年7月現在の価格を用いる.

3)数値は千円で四捨五入しているため,合計額があわないことがある.

(2) CSRに関する分析
表4. 地域還元額と地域還元率
項目 2012年度 2013年度
地域還元額(千円) 7,367​ 8,389​
 地域住民の雇用 2,531​ 1,252​
 作業委託費 1,835​ 2,137​
 役員報酬 3,000​ 5,000​
 支払地代 0​ 0​
地域還元率(%) 38.3​ 54.5​

出所:Y生産組合『財務諸表』(2012年度,2013年度).

1)地域還元額=地域住民の雇用+作業委託費+役員報酬

地域還元率=地域還元額÷総売上高×100

表5. 栽培品目と農薬費・肥料費(10 a当り)
栽培品目 費用 2012年度(円) 2013年度(円) 栽培面積(a)
経常的 臨時的 経常的 臨時的 2012年度 2013年度
ひとめぼれ
(T地区)
農薬費 6,530​ 4,850​ 701.5​ 712.1​
肥料費 6,220​ 0
コシヒカリ 農薬費 6,530​ 4,850​ 299.0​ 299.0​
肥料費 5,770​ 0
きぬむすめ 農薬費 7,153​ 0 7,153​ 1,095​ 120.7​ 213.7​
肥料費 17,100​ 0 2,770​ 0
ひとめぼれ
(Y地区)
農薬費 6,530​ 5,000​ 72.7​ 163.0​
肥料費 7,270​ 0
特栽米
コシヒカリ
農薬費 6,443​ 0 209.0​ 210.6​
肥料費 11,791​ 0

出所:農事組合法人Y生産組合 生産履歴(2012年度,2013年度).

1)「―」はデータがないところを意味する.

CSR会計(表3)に基づく分析方法を検討する.ただし,分析指標をトリプルボトムラインの概念に基づき社会・経済・環境の3つに分けると,経済については,従来の財務分析を利用することができる.したがって,本研究では,社会と環境についての分析方法を検討する.第1に,地域貢献(社会貢献)を分析するために地域還元額7,地域還元率8を算出する.表4をみると,地域還元額は2013年度は2012年度に比べて約100万円増加しており,地域還元率は約16%上昇している.この増加要因としては,役員の数が1人増えたことによる役員報酬の増加があげられる.第2に,CSR会計作成方法の第2で計算した「材料費」の「農薬費」,「肥料費」を「経常的」と「臨時的」に区分した値を利用して,同じ作物でも栽培方法が異なる場合における,環境負荷の軽減について検討する.表5より,同じ「ひとめぼれ」を栽培しても地区が違うことにより,肥料費が大きく異なってくることがわかる.また,特別栽培米コシヒカリはふつうのコシヒカリを栽培するよりも農薬費は「臨時的」が少なく,肥料費は「経常的」が約6,000円多く負担していることがわかる.これが特別栽培米の特徴といえる.本研究では2カ年度を比較したが,数年度について作物や栽培地区ごとに農薬費・肥料費を示すことによって,将来の栽培計画を立てることが可能になる.

5. おわりに

本研究では,農業経営において生産履歴を利用した付加価値型のCSR会計を構築することができた.また,そのCSR会計に基づく分析方法を提示することができた.今後の課題として,地域還元額に,地元からの仕入と賦課金を計上するかどうか,また,香川他(2008)のように自己資本,自作地について付加価値の分配を行うかどうか検討することがある.

1  一般企業におけるCSR活動,CSR会計の特徴に関しては,農業会計研究会(2013年1月12日,京都大学)で報告済み.

2  企業がCSR活動を報告する文書として,「CSR報告書」以外に「社会・環境報告書」や「サステナビリティレポート」など様々な名前で報告しているため,これらをまとめて「CSR報告書等」としている.

3  「エコほっとライン」とは,CSR報告書等を掲載・発送代行サービスを行っているwebページである.

4  ISO(国際標準化機構)のSR(社会的責任)に関する基準であり,今までのような認証システムではなく,ガイドラインとされている.

5  GRIガイドラインは初版が2000年に発行されているのに対し.ISO26000は2010年に発行されていることが,原因と考えられる.

6  本事例では,データの都合上一部のみ記載している.

7  四方(2012)を参考にして算出する.

8  古塚(2013)を参考にして算出する.

引用文献
 
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