Journal of Rural Problems
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Short Papers
The Economic Effects of Introducing a Radish and Sweet Potato Double Cropping System on an Upland Farm in Southern Kyusyu
Kotaro FusayasuHiroshi NiimiMasayuki Senda
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2015 Volume 51 Issue 2 Pages 110-115

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1. はじめに

(1) 研究の背景

南九州畑作地域1では,往時は澱粉原料用甘藷,麦,ナタネ,そば等の作付けが盛んであり,これらの作物を組み合わせた輪作が行われていた.しかしながら,高度成長期以降の農産物輸入自由化の下でそれら作物の競争力が低下し,代わって焼酎原料用甘藷,根菜類を中心とする露地野菜,飼料用作物等の作付けが拡大した.このような商品生産農業への転換により,収益性の高い作物を優先的に作付けするようになり,またマルチ被覆栽培の普及による作期延長等を背景にその前後作を排除する傾向が強まった.結果,甘藷や野菜の単作化・連作化が進行し,伝統的な輪作体系は失われた.

このような変化により,農家一戸あたり所得は増加したものの,他の畑作地域と比較すると未だ低い水準にある.さらに,輸入野菜の増加等により近年野菜価格が下落傾向にあり,農業所得の向上が経営面での課題となっている(金岡,2010).一方,環境面では,作付けの単作化により肥料の多投入,殺虫剤の多用(連作による病虫害の発生による)が一般化し,環境への影響が問題視されている.そのため,環境に配慮した作付け体系の再構築が課題となっている(持田,1995).

(2) 課題解決に向けた新技術

そのような中,近年の栽培技術の発達により甘藷と野菜による新たな輪作体系が構築可能となり,農家の所得向上と環境負荷低減を実現できる可能性が生まれている.その一つが,九州沖縄農業研究センターの開発したダイコン―サツマイモ畦連続使用栽培体系(以下,新技術とする)である.これは,南九州の主要作物である春大根と甘藷の二毛作に,畦間でのえん麦間作を組み合わせた栽培体系である.春大根と甘藷の交互作ではなく二毛作である点が特徴であり,前後作を通した肥培管理の共通化・合理化により一作物あたりの作業時間,資材費の削減を図っている.具体的には,1)大根と甘藷に共通使用できる幅広で高さのある畦を開発し,前作(大根)で使用した畦を連続して後作(甘藷)に使用することによる甘藷移植前の耕耘・畦立て・マルチ被覆作業の省略と資材費の削減,2)緩効性の肥料(牛糞堆肥と窒素肥料の併用)を大根播種前に一括施用することによる甘藷移植前の施肥作業の省略と前後作を通した肥料養分の効率的利用を図っている.大根は窒素を多く必要とする一方,甘藷はほとんど必要としない.このような養分要求の違いが一括施肥を可能にしている2.さらに,3)両作物の連作障害の一因である線虫は土壌表層に発生するので,甘藷移植前に土壌を耕耘しないことで線虫の土中拡散を防ぐことができる.畦をマルチで被覆するため土壌表層は夏期に高温になり,表層の線虫は死滅する.これにより,土壌消毒を行うことなく連作障害を回避できる.以上から,新技術は経営面,環境面双方の課題解決に寄与する可能性を持つ(表1).

表1. 期待される新技術の導入効果
要素技術名 経営面 環境面
畦の連続使用 作業省略による省力化 線虫発生防止,殺虫剤の使用減
資材費の削減
施肥の共通化・
合理化
施肥作業の省力化 肥料の多投入による土壌蓄積・溶脱防止
一作物あたり肥料費の削減
畦間えん麦間作 畦間除草作業の省力化 除草剤の使用減
除草剤費の削減

(3) 研究の目的

環境面における新技術の導入効果は既に実証されている3.そのため,本稿では経営面における導入効果を定量的に計測し,技術の普及可能性を検討することを目的とする.分析対象は,新技術の現地実証試験協力農家のA農家である.A農家は家族経営(常雇なし)であり,甘藷,露地野菜,水稲の複合経営である.また,経営規模が10 haを超える担い手農家である.高齢農家の離農に伴う耕作放棄地の増加が問題となっている南九州においては,農地の受け手となる担い手経営の発展が特に重要な課題となっている.なお,2010年農林業センサスによると,南九州畑作地域における経営規模4 ha以上の担い手の経営形態は,家族経営(常雇なし)が最多である.また,畑作と水田作との複合経営が主要な営農類型の一つとなっている.

本稿では,1)A農家への聞き取り調査から,当該地域の家族経営の現状と課題を整理する.次いで,2)農作業日誌のデータを用いて新技術の収益性等を計測し,慣行栽培と比較する(技術単独での評価).さらに3)線形計画モデルを作成し,新技術の導入に伴う農業所得,作付け体系の変化等を計測する(経営レベルでの評価).4)分析結果から新技術の経営面における導入効果と,普及に向けた課題を提示する.

なお,これまでの畑作物を対象とした技術評価研究は,葉菜類の収穫機の導入効果を計測した高橋(2001),根菜類の洗浄機械の導入効果を計測した中川他(1996)等,機械化技術の評価が中心である.また環境負荷低減を目的とした輪作についても,栽培面積拡大に対応するため各作物の機械化を伴う体系が評価対象となっている(中島,2000).一方で,本稿で対象とするような機械化を伴わない省力化・環境対応技術についての評価研究はほとんど見られない.また,南九州畑作地域を対象とした経営研究は,近年,大規模法人経営の形成や食品企業の農業参入に関するものが中心である.一方,担い手の大部分を占める家族経営を対象とした経営研究は不足している.特に生産構造の分析等,作物の生産段階を対象とした研究は杉本(1986)以降十分に行われていない.

2. 対象農家の経営概要と課題

(1) 対象農家の経営概要

A農家の経営概要を表2に示す.A農家は南九州畑作の代表的地域である宮崎県都城市に所在する.家族労働力は3名であり,経営面積は畑10.0 ha,水田5.5 haである.主要作付け作物は,焼酎原料用甘藷と水稲である.甘藷は酒造会社との契約生産であり,経営主は価格の安定性を評価している.甘藷は作業適期が長く,移植は4月~6月,収穫は8月~12月まで可能である.A農家はこのような甘藷の特性を利用し労働ピークを分散させ,作付け規模を拡大している.さらに,水稲作(6月移植,10月収穫)を組み合わせることで労働をより分散させ,家族労働力の有効利用を図っている.一方で,有力な冬作物が不在のため,冬期は労働力を十分に活用できていない.

保有する機械施設は数ha規模で効率的運用が可能な小~中型のものが中心であり,多くが畑作と水田作に共通して利用できる.水稲作では専用機械を一式保有するが,近隣農家の作業受託により稼働率を高めている.このように,複合経営でありながら機械施設を効率的に運用している.

表2. 対象農家の経営概要
労働力 3名(50代夫婦,息子),臨時雇用(人参収穫期に数日間)
経営面積 畑10.0 ha 水田5.5 ha
作付作物 焼酎原料甘藷(コガネセンガン,ムラサキマサリ)10 ha,ジュース加工用人参50 a,新技術の試験区15 a,
主食用水稲(ヒノヒカリ,マイヒカリ)4 ha,イタリアンライグラス1 ha,その他(里芋等)
水稲作業受託 耕耘・田植え受託2~3 ha,収穫受託10 ha,乾燥受託18 ha
主な機械
施設装備1)
トラクター3台ロータリー肥料散布機動力噴霧器畦立て機,甘藷収穫機,田植え機(5条),
コンバイン(4条),乾燥機4台,2 tトラック4 tユニック育苗ハウス出荷施設倉庫 等

1)下線を引いたものは複数作物に共通して使用するものである.

(2) 対象農家の課題

経営状況について尋ねたところ,「夫婦の労働報酬の一部を息子に分配することで,息子には他産業並みの所得を確保している」という.大規模経営であっても,地域の他産業従事者と同水準の所得を確保できていないことが窺える4.しかし,ピーク時の労働時間は一日9~10時間となっており,家族3人で経営できる限界規模に達している.常雇の導入が一つの有効な手段だが,労務管理のコスト増,周年雇用の難しさ等からその意向はない.また,畑作機械の新規導入,大型化の意向もない.理由は,1)近年の企業参入等の影響から平場で区画が大きく,自宅から近い畑地は借地困難であり,機械の効率的運用が可能な規模まで経営面積を拡大できないこと,2)規模拡大に伴い,機械化できない工程で大量の雇用が必要になること,3)水稲作の機械設備を保有しているため,畑作機械の大型化は経営全体として非効率になることである.以上より,対象農家の所得向上に向けた課題は,①機械化以外の手段による家族労働時間あたり所得の向上,②冬期の労働力の有効活用である.

3. 新技術の導入効果―技術単独での評価―

(1) 作業労働時間

新技術の作業は12月より始まり,施肥,耕耘,畦立ての後,大根,えん麦(畦間)を播種する.また大根の保温のため不織布トンネルを畦上に設置する.播種,トンネル設置は手作業のため時間を要する.その後翌年の3月にトンネルを撤去し,3月下旬から4月にかけて大根を手作業で収穫する.収穫後は畦をそのまま利用し,4月下旬~5月に甘藷を移植する.この頃にえん麦が茂るため畦間の除草の必要はなく,大根収穫後のマルチの穴から生える雑草の除草のみでよい.その後10月末~11月に甘藷を掘り取り機で収穫し,収穫後に大根作の準備に入る.冬期に作業がある点,水稲作の繁忙期(6月と10月)に作業がない点がA農家に導入する際の利点である.

新技術の10 aあたり作業労働時間は年141時間(大根103時間,甘藷38時間)である5.慣行栽培と比較すると,新技術の甘藷作では耕耘,施肥,畦立て,消毒,畦間の除草作業が省略できるため,慣行の甘藷単作より作業労働時間が5.9時間/10 a短い.大根作では,えん麦の播種作業が加わるが,収穫後のマルチ撤去作業を省略でき,慣行の春大根単作と比較し作業労働時間が0.7時間/10 a短い.

(2) 物財費

新技術の10 aあたり物財費は18.8万円,慣行春大根と慣行甘藷をそれぞれ単作で栽培した場合の物財費の合計(各10 a,合計20 a)は22.7万円であり,3.9万円の削減が可能である6.新技術ではえん麦播種により種苗費が4,500円増加するが,被覆資材費8,800円,動力費630円,肥料費16,200円,殺虫剤・除草剤費15,100円等の削減が可能である.

(3) 粗収益

試験区で栽培した春大根の単収は約5,300 kg/10 aである.鹿児島市内のスーパーに直接出荷しており,収穫量の約8割が青果用,成長しすぎて味が落ちたもの等2割が加工用となる.単価はそれぞれ86円/kg,23円/kg(2013年実績値)であり,10 aあたり粗収益は約40万円となる.なお,新技術と慣行栽培の単収,単価に違いはない.甘藷は慣行栽培のものが単収3,200 kg/10 aであり,新技術では移植前作業の省略により移植時期が前進するため,約1割多い3,500 kg/10 aである.単価はともに55円/kg(2013年実績値)であり,10 aあたり粗収益は慣行17.6万円,新技術19.3万円となる.

以上の結果より,家族労働1時間あたり農業所得を試算すると,新技術が2,380円となり,甘藷単作1,980円,春大根単作1,750円を上回る.

4. 新技術の導入効果―経営レベルでの評価―

(1) 線形計画モデルの作成
表3. 新技術及び慣行栽培の各作物の10 aあたり作業労働時間と利益係数
新技術(二毛作) 慣行栽培(単作)
春大根 コガネセンガン コガネセンガン ヒノヒカリ
8月収穫 9月収穫 10月収穫 11月収穫 12月収穫
利益係数1)(円) 265,156 168,700 98,967 111,337 119,417 117,134 88,537 77,045
労働時間
(時間)
1月2) 0.24 0.24 0.24 0.24 0.24 0.80
2月 0.60 0.60 0.60 0.60 0.52 0.52
3月 22.70 0.60 2.42 2.44 0.60 0.52 0.52
4月 39.80 5.79 12.75 3.88 3.42 0.87 0.22
5月 4.37 2.79 9.51 11.81 5.08 4.26 2.00
6月 0.60 0.63 0.56 8.80 11.73 4.13
7月 1.50 2.55 0.63 1.60 1.37 0.67 2.78
8月 16.14 1.30
9月 1.00 16.54 1.81 1.80 2.02
10月 6.08 19.20 3.45
11月 18.23 24.27
12月 40.50 0.54 0.54 0.54 0.54 18.00
合計 103.00 38.30 38.03 35.01 40.38 44.01 36.72 15.68

1)利益係数は,機械施設の償却費,一般管理費等の固定的生産費用を差し引く前の値である.

2)実際の線形計画モデルでは上,中,下旬ごとに設定している.

3にA農家の作業日誌及び経営記録より集計・分析した新技術を含む主要作物の10 aあたり作業労働時間,利益係数を示す7.甘藷は収穫時期によって単収と単価が異なり,利益係数も異なる.これらの数値を使用し,計61プロセスの線形計画モデルを構築した.プロセスは畑作,水田作,水稲作業受託,臨時雇用の4つの大区分に分類した.さらに,畑作はコガネセンガン(8月~12月収穫),ムラサキマサリ(11月,12月収穫),人参(単作,甘藷と二毛作),春大根単作,新技術(二毛作),水田作はヒノヒカリ,マイヒカリ,コガネセンガン(5プロセス),ムラサキマサリ(2プロセス),イタリアン(単作,水稲裏)とした.作業受託は耕耘・田植え受託,収穫受託,乾燥受託,雇用は各月,3旬の計36プロセスとした.なお,水田への甘藷作付けは湿害による収量低下を招くため,水田作の甘藷の利益係数は畑作より低く設定した.水稲価格は平成25年産,水稲助成は7,500円/10 a,転作助成(イタリアン)は35,000円/10 a,水稲作業受託料金はJA都城の基準,臨時雇用労賃は745円/hとした.また,制約条件として,各月旬別の家族労働制約(降雨量10 mm未満の日数×9時間×3名),畑作付制約(現状の経営面積),水田作付制約(現状の経営面積),転作制約(転作率30%以上),水稲作業受託制約(現状の受託面積),イタリアン作付制約(収穫は畜産農家が行うため現状の4 haを上限)を設定した.以上のモデルを使用し,XLP8により次の4つのケースについて所得最大となる作物別作付け面積を計測した.①新技術導入なし,②新技術導入,③新技術導入に加え臨時雇用が可能な場合,④新技術導入に加え水田の借地が可能な場合(地代は1万円/10 a)である.当該地域では,今後高齢農家の離農に伴う水田供給面積の増加が見込まれている.

(2) 分析結果

分析結果を表4に示す.ケース①の作物別作付け面積がA農家の現状とほぼ一致していることから,モデルの精度は高いと言える.農業所得は790万円,家族労働時間は年5,995時間となった.なお,春大根単作はモデルにおいても採用されない.ケース②では,新技術が1.1 ha(延べ面積2.2 ha)採択される.甘藷単作が減少するが,これは作付けが単作から二毛作に移行する他,新技術の大根の収穫期と移植時期が重なる8月甘藷の作付け減少が要因となっている.結果,甘藷の作付け延べ面積が減少し,畑経営面積が約1.5 ha減少する.一方,水稲及び水田の経営面積は変化しない.農業所得は910万円(15%増),家族労働時間は年6,132時間(137時間増)となる.家族労働時間の増加は,冬期労働時間の増加によるものである.また,家族労働1時間あたり農業所得は1,320円から1,480円に増加する.ケース③では,大根収穫期の4月に100時間を上限に臨時雇用が導入できる場合について分析した9.ケース②において,労働の限界利益が4月労働において最大値を示したためである.新技術が1.4 ha(延べ面積2.8 ha)採用され,農業所得は1,010万円(28%増)となる.ケース④では,水田の借地により水稲の作付けが拡大し,畑経営面積が減少する.この場合にも,新技術が1.0 ha採用される.

表4. 作物別作付面積と家族労働時間及び所得
①技術導入なし1) ②技術導入 ③雇用導入可 ④水田借地可
甘藷単作 94.5 68.0 65.0 54.0
甘藷人参二毛作 5.5 5.5 5.5 5.5
新技術(二毛作) 0.0 11.0 14.0 10.0
水稲 39.0 39.0 39.0 73.0
イタリアン単作 11.0 16.0 16.0 40.0
甘藷単作 5.0 0.0 0.0 4.5
水田経営面積 55.0 55.0 55.0 117.5
畑経営面積 100.0 84.5 84.5 69.5
畑作付延べ面積 105.5 101.0 104.0 85.0
家族労働時間
(時間)
5,995 6,132 6,329 6,176
農業所得(万円) 790 910 1,010 1,020

1)面積の単位は10 aであり,網掛け部分が畑,それ以外が水田における作付面積である.

5. おわりに

本稿では,南九州畑作地域の家族経営を対象に,ダイコン―サツマイモ畦連続使用栽培体系の導入効果を計測した.分析の結果,新技術の導入により農業所得が120万円(15%)増加し,さらに春大根収穫期の臨時雇用導入により220万円(28%)増加することが明らかになった.家族一人あたり農業所得は約340万円となり,地域の他産業における常勤労働者の平均年収を上回る.要因は,甘藷作の労働時間と資材費の削減により家族労働時間あたり農業所得が向上することに加え,収益性が甘藷等に劣ることから単作では採用されなかった春大根が,二毛作の後作として導入され農閑期の労働力の活用が図れることである.南九州畑作地域の先進的家族経営は,小~中型機械体系の下で,家族労働による限界規模にまで経営面積を拡大している.しかしながら,経営形態や営農類型,経営体が置かれている地理的・社会的条件によっては,さらなる機械化と規模拡大による経営発展を描くことができない場合がある.本稿では,二毛作を含む畑地の高度利用体系が,そのような家族経営の所得向上に寄与することを示した.

また,新技術と水稲作の労働のピークは重ならず,労働の競合が小さい.そのため新技術の導入によって水稲の作付面積が大きく減少せず,このことが複合経営の所得向上の一因となっている10.今後,担い手経営として放棄水田の受け手となる場合においても,水稲作を拡大しつつ畑作部門の所得向上を図ることができる.

最後に,新技術は新規の機械投資や技術習得を伴わずに所得を向上できることから,現場への普及可能性は高いと言える.ただし,普及に向けては以下の3点が課題となる.1)春大根の販路確保が課題である11.ただし,収穫期の3~4月は大根の端境期にあたり,全国的に需要が大きい.A農家では現在試験的に販売しているスーパーへの出荷量の拡大,及び県外の消費地への出荷を予定している.2)新技術をより大面積で実施するためには,臨時雇用の確保が課題となる.シルバー人材センター等と連携し,今後増加する高齢離農者の雇用を図ることが有効であると考える.3)畑地の集約的利用は畑経営面積を減少させる.地域社会への影響を考えた場合,担い手農家からの農地流出を防ぐため,例えば余剰となった畑地を利用し,畜産農家との交換耕作による甘藷―飼料作の地域的な輪作構築を図ることが有効である.飼料作との輪作は甘藷の生育を良好にし,また線虫害の抑制効果があるため,経営面,環境面においても導入意義は大きい.

1  宮崎県の東霧島,鹿児島県の北大隅,南薩を指す.

2  このような施肥設計に加え,有機質肥料を多く投入することから,大根と甘藷の二毛作を繰り返した場合でも地力低下等の問題は生じない.詳しくは農研機構(2013)を参照.

4  平成24年宮崎県勤労統計調査によると,県内の製造業,建設業,小売業等の他産業の常勤労働者の平均給与額は年間約290万円である.

5  新技術の作業労働時間はA農家の作業日誌より,単収,単価,生産費は経営データより計測した.慣行甘藷についても同様である.ただし,新技術の甘藷作と同じ10月末~11月収穫の慣行甘藷のみ抽出し平均値を使用した.慣行春大根については,新技術と共通する作業は新技術の作業労働時間,その他の作業は平成22年宮崎県農業経営管理指針の数値を使用した.また,単収,単価は新技術の数値,物財費は新技術の数値と平成22年宮崎県農業経営管理指針の数値を使用した.

6  物財費のうち機械施設の償却費等はA農家における費用を現状の作物別作付け面積で按分し10 aあたりに換算した値を用いた.

7  作業日誌において,各種作業の面積あたり作業時間に男女差が見られなかったため,労働係数は男女別に設定していない.

8  XLPについては農研機構(2015)を参照.

9  上限の100時間/月は,A農家の甘藷作,人参作における雇用実績に基づくものである.

10  比較のために,新技術の導入がない状態で水田が借地可能となるケースを分析した結果,水稲作付面積が7.5 ha,農業所得が907万円となる.分析ケース④との比較から,水田が借地可能な状況下においても,新技術の導入により水稲の作付面積は大きく減少せず,農業所得が向上する.

11  大根の出荷作業については,圃場で葉を切り落とし,泥を落としてそのまま箱詰めするため,大規模な出荷施設や大量の雇用労働は必要ない.A農家は,栽培面積が1 ha程度に増加した場合でも個人出荷が可能であると回答している.

引用文献
  •  金岡 正樹(2010)「九州沖縄地域における地域農業の構造展望と農業経営の展開方向―南九州畑作の企業的畑作経営を素材として―」『中央農業総合研究センター経営研究』60,53–62.
  •  杉本 文三(1986)「南九州畑作経営における土地利用問題」『農業経営研究』23(3),18–27.
  •  高橋 伸幸(2001)「全自動移植機・半自動収穫機を導入したキャベツ機械化一貫体系の経済性」『関東東海農業経営研究』92,87–91.
  •  中川  暁・ 堀内 久太郎・ 塩谷 幸治(1996)「ダイコン作における新技術の経営評価」『農業経営通信』190,10–13.
  • 中島征夫(2000)『地域複合農業の展開論理―地域営農をみつめて―』農林統計協会.
  • 農研機構(2013)「ダイコン-サツマイモ畦連続使用栽培システム」(http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/une_renzokusiyou.pdf)[2015年3月15日参照].
  • 農研機構(2015)「線形計画法プログラムXLP」(http://fmrp.dc.affrc.go.jp/programs/mathprograming/xlp/)[2015年3月15日参照].
  •  持田 秀之(1995)「南九州畑作付体系の現状と技術的展望」『九州の雑草』25,23–28.
 
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