2016 Volume 52 Issue 1 Pages 19-21
現在喪失過程にある農山村地域のコミュニティを,SNS(ソーシャルネットワークサービス)を活用して再構築できる可能性がある.この本で著者が一番いいたい主張であろう.ここでいう,農村地域での再構築を目指すコミュニティは,農村部において継承されてきた現在喪失過程にある「社会的コミュニティ」と,グローバル化やICTで新たに構築されつつある「テクノロジー的コミュニティ」とを融合するものである.この融合を通じて農山村地域の交流活性化の発展上でコミュニティを再構築し,経済活性化を目指している.
著者は,民間企業でソフトウェア研究開発や調査にかかわってきた経験から,ICTこそ,中山間地域のような条件不利地域の状況を大きく好転させるポテンシャルをもっていると感じ,その仮説の実証に取組んでいる.その背景には,東京の中心部で育ち,里帰りを通じて自然豊かな地域に触れてきた「漠然とした憧れ」を憧れのままにせず,後日,田舎暮らしに結びつけた経験がある.その田舎暮らしの中で,高齢者がITを駆使して活発に仕事をしている現場を目の当たりにし,研究の着想を得ている.さらに,本書の研究事例は7章をのぞき,総務省戦略的情報通信研究開発制度の採択課題(平成23年度から24年度)である「地域のストーリーの生成を通じて知識の伝達を促進する多階層連携システムの研究開発」に基づくプロジェクト(通称SCOPEプロジェクト)に研究分担者として参加し,条件の異なる3つの地域をフィールドに比較調査を進めている.
このようにICT開発の実務経験を生かし,田舎暮らしを憧れに止めず実践に昇華した実体験をふまえ,農山村地域におけるICTの潜在能力のひとつであるSNSを活用したコミュニティの再構築の可能性を模索した点に,まずは敬意を表したい.以降,著者が本書において結論をどのように導き出したかについて,本書の結論と方法論から要点を抽出し,その中で解明されずに残されたとおもわれる課題について批評したい.
本書では,第2章において関連する研究の動向を整理して本研究の位置付けをおこなっている.その中で先述したコミュニティ再構築のあり方を示し,理論的背景として,ナレッジ・マネジメントとソーシャル・キャピタルとの関連性と,それらを総合的に高める上でのICTの役割に関する研究を整理している.その中で,これまでの農山村地域におけるソーシャル・キャピタル研究は,それを評価・計測する方向での多くの研究が蓄積したことが到達点であり,ソーシャル・キャピタルの具体的形成手法に関する研究が非常に不足していると批判している.さらに農山村地域におけるナレッジ・マネジメント研究は知識共有の実態やその重要性の解明について多くの成果があがっていることを研究到達点として,実践理論としての方法論の確立にいたっていないと批判している.それらの実践手法のひとつとして期待されるICTの活用に着目した研究もほとんどみられないと批判している.以上の研究動向から,手法のひとつとしてSNSを活用したコミュニティ活性化の取り組みを通じて,その有効活用に向けた課題を明らかにし,ナレッジ・マネジメントやソーシャル・キャピタル実現のための実践的手法のひとつとして位置付け研究を進めている.
本書の議論は,「農山村地域住民のインターネットの利用状況と利用意識の解明(4,5,6章)」と「農山村地域におけるSNS活用事例を通じた活用上の課題と可能性の解明(7,8,9章)」に大別して知見を展開し,SNS活用によるコミュニティの再構築の可能性を,①過疎化・高齢化により脆弱化した地域コミュニティの再生,②ICTを活かし実現可能となる地域内外の多様な主体を交えた新たなコミュニティの構築の2つの側面から検討し,結論を導き出している.
利用状況と利用意識から展開し導き出した主な要点は以下の通りである.
まず,ICTの利用状況に基づき以下の4点を指摘している.①高齢化率が高い農山村地域は不十分である.②それは学習の機会の不足が原因となり積極的に利用していない可能性がある.③地域意識は高いがICTについて活用度合いが低い高齢層と,地域意識が低いがICTについて活用度合いが高い若年層に分離している.④そのため別々の対策が必要である.
さらに,SNSの利用状況に基づき以下の4点を指摘している.①若年層の利用が多いためSNS利用者の地域意識は低い.②匿名SNSと実名SNSの利用者を比較すると実名SNS利用者の地域意識が高い,③実名SNS利用者が一過性の関係性にとどまらない関係性を志向している可能性がある.④SNS利用者は地域内における活動参加や関心は低いものの地域外との交流意欲は高い.
つぎに,SNS活用から展開し導き出した主な要点は以下の通りである.①集落・小学校区レベルの小範囲に閉じたSNSでは,サイト上の交流や知識共有は起こりにくく情報発信に留めるのが妥当.②地域内外でフレキシブルに交流範囲を定められる汎用SNS(FACEBOOK)を有効に活用するにはキーパーソンが必要,③FACEBOOKを活用したワークショップでは,外部からの専門家の参加により現場の議論に外部からの知恵を取り込むことが可能,④ワークショップをきっかけにネットワークが形成され維持される効果がある.⑤一方でセミナー後は追加議論や交流はほとんど起きなかった.
以上のSNSの活用の主たる要点のうち,特にFACEBOOKを活用したワークショップの実施に関しては,ひとつの到達点として評価したい.ナレッジの共有がSNS上でおこったという側面については,追加の議論や交流という自律的な交流にはいたっていないし,ナレッジを活用した具体的なアクションが確認できないため現時点では評価は難しい.しかしながら,キーパーソンの活用によりFACEBOOKを通じたワークショップをきっかけに形成されたネットワークが維持される効果があった側面については特に評価したい.その理由は,SNSのメリットは,テクノロジーを活かした外部人材の周辺参画のみならず,地域づくりに精力的に取組んだ結果により,再構築された社会的コミュニティのメンテナンスに応用できる可能性を示唆しているからである.今後のコミュニティ再構築への維持発展上,応用できる知見であると評価したい.
最後に本研究の発展課題を指摘しておきたい.本書の研究対象となっている地域は,地域づくりに精力的に取組んでいて,外部に対する情報発信意欲が高い地域が選ばれたにもかかわらず,FACEBOOKの普及率は1割~2割に止まっている普及上の課題があるといえる.それ以上に課題となるのは,著者が結論で弁解しているが,本論文のデータを得たSNS上の活動は1年程度しかたっておらず,結果がSNS上のコミュニティの活性化にとどまっている現実を,どう評価するかである.つまり,本研究では,SNSの活用が実際の地域コミュニティの機能を強化するアクションに結びついたかどうかを検証するまで,踏み込んだ研究にはいたっていない.誤解を恐れずに言えば,現場でのアクションと切り離してSNSを検証することが実践的方法といえるのかという点に限界があるのではなかろうか.特に,先述したように著者のICT活用の理論的背景として,ソーシャル・キャピタルおよびナレッジ・マネジメントの形成に有効な実践的方法を模索することを掲げている以上,実際の現場でのコミュニティの機能を強化するアクションにどうSNSが資するのか,連動させうるのかについて,踏み込むべきであったであろう.例えば,著者が7章で批判したさとねっとの事例に関しては,現場でのむらづくりやコミュニティ強化のアクションは,外部人材の活用も含めて活況である.従って,SNSの活用のみをもって評価するのではなく,地域づくりに精力的に取り組む現実の場を補強する一手段として評価されるべきではなかろうか.そうだとすると,農山村地域のコミュニティの課題によって,精力的に取組んでいる実践も変わるはずであり,それを補完するSNSにもとめられるコミュニティ機能もバリエーションが存在すると考えられないだろうか.
つまり,SNSの活用のアウトプットはネットワークの形成などでかいま見えるが,農山村コミュニティ強化につながるアウトカムは具体的にどのようなものであるかはまだ見えてきていない.今後の追跡研究にもとづいた仮説の発展に期待したい.