2016 Volume 52 Issue 2 Pages 46-51
和歌山県有田地域におけるみかん産地については,主に細野(2009)によって取り上げられている.みかんの主要産地では,生産,選別,出荷に関して共同化を進めて,市場評価を高めてきたが,主要産地の1つである有田地域では,共同化が進まず,現在においても共選と個選が併存し,個々に選別・出荷が行われている.このことは,有田地域において,産地として統一性のある市場対応を取ることによって,市場評価を高めることが難しいことを示しており,細野(2009)は,出荷主体だけでなく,行政や農協が介入した連携体制に基づき,統一的な生産・販売方針を確立する必要があると指摘している.
そこで,有田地域では,2006年に「有田みかん」を地域団体商標登録し,2010年には「有田QUALITY」という有田市統一ブランドをつくり,産地として統一的な対応を行っている.しかし,このような統一的対応にも関わらず,有田地域の市場評価が高まったことを確認することはできない.
そこで本研究では,「有田みかん」や「有田QUALITY」といった有田地域における統一的な産地対応が市場評価を高めることに至っていない要因を明らかにすることを目的とする.具体的には,共選と個選が併存し,出荷単位が多様に存在する有田地域と,産地のほとんどのみかんを農協が運営する共選によって出荷されている愛媛県西宇和地域を比較対象地とし,両地域に対する市場評価を東京都中央卸売市場大田市場(以下,大田市場)および大阪市中央卸売市場本場(以下,大阪本場)における卸売会社へのヒアリング調査によって把握するとともに,両産地へのヒアリング調査によって産地内の取り組みについて把握する.これらの調査結果に基づいて,有田地域の統一的な産地対応と市場評価との関連性を明らかにする.
有田地域の農業産出額に占める果樹の割合は約81%であり,樹園地面積に占めるみかん結果樹面積の割合は約65%である.一方,西宇和地域では前者は約87%,後者は約42%である.従って,有田地域と西宇和地域はともに果樹生産に特化した農業が行われており,その大半をみかん生産が占めている.しかしながらこの両地域では集出荷形態に大きな差がある.平成17年における両地域のみかん出荷量に占める共選と個選の割合(共選/個選)は,和歌山県で43% / 57%,有田地域で48% / 52%,愛媛県で81% / 19%であった.西宇和地域は愛媛県の水準とほとんど同じであった1.つまり,有田地域では個選による出荷が比較的多い一方,西宇和地域では共選による出荷が際立っていた.また,西宇和地域では,地域内のすべての共選が農協による運営であるのに対し,有田地域では,地域内の14組織の共選のうち,5組織は農協による運営であるが,9組織は生産者による出荷組織となっている.
(2) 市場評価順位 | H.16 | H.17 | H.18 | H.19 | H.20 | H.21 | H.22 | H.23 | H.24 | H.25 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | O△ | O△ | O▲ | O△ | O▲ | a△ | O▲ | O▲ | O▲ | a▲ |
2 | a△ | a△ | a▲ | a△ | a▲ | O△ | O△ | O△ | O△ | O△ |
3 | O△ | a△ | a▲ | a△ | a△ | O△ | O△ | O△ | a△ | O△ |
4 | a△ | a▽ | a▲ | a△ | a△ | a▽ | a△ | a△ | O△ | a△ |
5 | O▽ | N▼ | N△ | a△ | N△ | a▽ | O△ | a△ | a△ | N△ |
6 | O▽ | N▼ | O△ | O▽ | O△ | O▽ | O△ | O△ | N△ | O△ |
7 | a▽ | O▼ | O△ | O▽ | O△ | O▼ | a△ | O△ | N△ | N△ |
8 | N▽ | O▼ | O△ | N▽ | O▽ | N▼ | O△ | O△ | N△ | N△ |
9 | O▽ | O▼ | N△ | O▽ | O▽ | O▼ | a△ | N▽ | N△ | N▽ |
10 | O▽ | N▼ | O△ | N▼ | N▽ | N▼ | O△ | a▽ | O△ | O▽ |
11 | O▽ | N▼ | N△ | N▼ | N▽ | O▼ | a△ | N▽ | O▽ | O▽ |
12 | O▽ | O▼ | N△ | a▼ | N▽ | N▼ | O△ | N▽ | O▽ | O▽ |
13 | N▽ | O▼ | O△ | N▼ | O▽ | O▼ | N△ | O▽ | O▽ | O▽ |
14 | N▽ | O▼ | A△ | O▼ | O▽ | N▼ | O△ | a▽ | O▽ | a▽ |
15 | A▽ | a▼ | O△ | O▼ | O▽ | O▼ | O△ | O▽ | a▽ | O▽ |
16 | A▼ | N▼ | O△ | a▼ | N▽ | O▼ | O△ | O▽ | N▽ | O▽ |
17 | N▼ | O▼ | O△ | O▼ | O▽ | O▼ | N△ | N▽ | O▽ | O▽ |
18 | O▼ | O▼ | a△ | A▼ | O▽ | N▼ | O▽ | N▽ | N▽ | N▽ |
19 | A▼ | O▼ | O△ | O▼ | a▽ | O▼ | O▽ | a▽ | O▽ | O▽ |
20 | O▼ | O▼ | a△ | N▼ | O▽ | O▼ | N▽ | O▽ | O▽ | O▽ |
資料:大田市場A卸売会社.
1)「A」,「a」はそれぞれ有田地域の大規模な出荷単位,小規模な出荷単位を示す.「N」に西宇和地域の出荷単位を,「O」はその他の出荷単位を示す.また,「△」は301円/kg,「▽」は300円/kg以下の平均単価で取り引きされたことを示し,「▲」は401円/kg以上,「▼」は250円/kg以下の平均単価で取り引きされたことを示す.
表1に大田市場のA卸売会社における平均単価が上位20位までの出荷単位の価格的な位置づけを整理した2.出荷単位全体で見ると,最近の4年間で20位となる出荷単位の価格が上昇しており,1–20位間の価格差が縮まっている.個別に見ると,上位5位までは,300円以上で取引されるものがほとんどであり,有田地域の小規模な出荷単位が多く見られ,400円を越えるような高価格取引を実現しているものまで確認できる.6位以下では西宇和地域の出荷単位が多く,250–350円の間で取引されているものが多い.しかし,有田地域の大規模な出荷単位は,上位20位にほとんど確認することができない.次に,両地域の出荷量を示した図1を見てみると,表1で高順位に位置した有田地域の小規模な出荷単位の出荷量は10年間少量で維持傾向である3.それに対し,ほとんど20位以内になかった有田地域の大規模な出荷単位の出荷量は多く,増加傾向を示している.その結果,平成25年には,有田地域から出荷されたみかんの販売金額の9割を有田地域の大規模な出荷単位が占めている.
大田市場における出荷規模別出荷量
資料:大田市場A卸売会社.
そこで,大田市場における出荷規模別の平均単価の推移を算出すると,有田地域の小規模な出荷単位は高価格となる一方で,有田地域の大規模な出荷単位では,全国水準を下回っていた(図2).なお,有田地域の大規模な出荷単位の出荷量の1%程度を占める和歌山県統一ブランドの「味一」は高価格を示した4.一方,西宇和地域から出荷されたみかんは,全国水準の価格を上回った.
大田市場における出荷規模別平均単価
資料:大田市場A卸売会社,有田地域内共選.
1)「全国」の数値は,取扱金額が上位50~55位までのすべての出荷単位の平均価格を算出した.
みかんの価格は主にその品質に依存していることが卸売会社へのヒアリング調査によって確認できたことから,「味一」や,個選であってもこだわって生産された有田地域の小規模出荷単位のみかんは,その品質の高さが評価されていると言える.しかし,有田地域の共選は,平均単価が全国水準を下回っていることから,その品質が高くないと評価されていると言える.その要因として,品質のバラツキが大きく,低品質なみかんが出荷されているとの指摘がある.これらのみかんが有田地域から出荷されるみかんの9割を占めていることが,有田地域の産地としての市場評価を引き下げている.これに対して,西宇和地域から出荷されるみかんについては,出荷みかん全体の品質のバラツキが少ないことが高く評価され,産地として高価格を維持している.
大阪本場のB卸売会社のヒアリング調査によれば,有田地域からの出荷量のうち,共選による出荷と個選による出荷がほぼ半分ずつであった.平成25年における「味一」の平均単価は,350円を超える高価格であった5.また,共選の出荷みかん全体の平均単価は,230円程度と全国水準を20円程度上回っていた.一方,同地域の個選では,個別で見ると350円程度の平均単価を実現する高品質なみかんを出荷する出荷単位も存在するが,全体的に見ると200円程度と全国水準を10円程度下回っていた6.
大阪本場では,和歌山県産,特に有田地域産のみかんに対する需要が大きいため,産地として有利販売が実現されていたので,共選のみかんの平均単価が全国水準の価格を上回ると考えられる.一方,個選が全国水準の価格を下回るのは,産地名による有利販売が可能であるにも関わらず,低品質なみかんの出荷割合が高いためである.つまり,出荷量の5割を担う個選において,低品質なみかんが出荷されるため,有田地域の産地全体としての評価を大きく引き下げていると考えられる.
以上より,有田地域の共選では,大田市場と大阪本場の両方において,ブランドみかんの「味一」に関しては,品質の高さが評価されていたが,全体としての品質のバラツキが伴うみかんの出荷によって,市場評価は低水準となっていたと言える.特に,同地域の個選は,大田市場には高品質のみかんを出荷し,高評価を得ている一方で,大阪本場では,低品質品の出荷が目立っており,ブランド価値を下げていた.その結果,両市場における有田地域から出荷されるみかん全体に対する評価が低くなっていた.
(3) 市場評価と選別状況の関連性有田地域の農協によって運営されるA共選では,みかんの集荷基準(糖度下限/酸度上限)はレギュラーみかんが10.0/1.29であり,ブランドみかんは11.5/1.00となっている.ブランドみかんは和歌山県統一ブランドの「味一」と,そのほかのブランドを1種設定している.また,「味一」を出荷する際には食味検査を実施するなど,ブランドみかんを厳しく管理している.B共選も農協によって運営される共選であるが,みかんの集荷基準は,レギュラーみかんで10.5/1.2,ブランドみかんで12.0/1.0であり,A共選とは異なっている.ブランドみかんは「味一」,「味一α」と,その他に2種設定している.B共選では,管轄区域の特性上,酸度が高いみかんが多く生産されやすいことから,集荷基準を上回る酸度のみかんを出荷した場合には,生産者の手取り金額が減少するような取り決めが存在している.また,農協が運営に関与するC共選でも,集荷基準がレギュラーみかんで10.5/1.10,ブランドみかんで11.0/1.00であり,ブランドみかんは「味一」,「味一α」と,もう1種設定している.しかし,C共選では,集荷上の特別な規則を設定していなかった.有田地域の農協が運営に関与するこれらの共選では,生産者から集荷したみかんを光センサとカラーグレーダーによって全量検査しており,すべてのみかんの等階級や糖酸度を機械処理によって保証することができている.
有田地域の集落の生産者によって運営されるD共選では,みかんの集荷基準は,レギュラーみかんで9.0/1.2,ブランドみかんで12.0/1.0とされており,ブランドみかんは1種設定していた.しかし,カラーグレーダーや光センサは生産者から集荷したみかん全量に対して利用されるものの,レギュラーみかんに関しては,糖酸度による選別は行うことなく,外観に依存した選別が行われていた.また,E共選も集落の生産者によって運営されているが,カラーグレーダーを所持せず,光センサは生産者からブランドみかんとして集荷したみかんをサンプル測定する程度でしか利用されていなかった.
以上より,有田地域の共選では,選別基準が共選単位で設定されているほか,光センサやカラーグレーダーによる検査方法にも差があり,共選間で出荷みかんの品質基準に差が存在していると言える.しかし,いずれの共選においても,高品質なみかんをブランドみかんとして抽出することには,収益を増加させる上で重要視していた.
以上の共選に対して,有田地域における個選では,光センサなどの選別機械を所有しないため,みかんを収穫した園地条件や外観など,生産者独自の選別基準に基づき,等階級別に選別を行い,そのまま出荷みかんとしていた.個選aでは,所有園地で優良品種や施肥方法の試行錯誤を行っており,こだわりをもってみかん生産に取り組んでいた.このようなこだわりによって高品質生産された園地のみかんは関東の市場へと出荷されていたが,こだわりが反映されていない園地のみかんは,個選同士でグループをつくり,近隣の市場へと共同輸送を行っていた.また,個選bは,特にこだわり生産を行っているわけではないが,優良園地のみかんは関東の市場へと出荷していた.明らかに低品質なみかんが生産されるような園地のものであっても,規格外品として加工品へ回すより収益が増加すると考え,近隣市場へと生食用として出荷していた.
以上より,個選では,最終選別者と生産者が一致しているため,みかん園地の特徴を活かした選別によって差別化みかんを出荷できていたと言える.特に,優良園地を利用したり,生産方法にこだわりを持たせたりすることで,高品質なみかんを生産し,一般的なレギュラーみかんとの差別化が図られていた.しかし,低品質なみかんを近隣市場へと敢えて出荷することによって,収益を増加させようとする動きも確認された.そのため,個選間の出荷基準は個々の出荷意識に依存するところが大きく,共選と比較すると,個人差が大きくなると考えられる.
一方,西宇和地域も同様に,ブランドみかんの出荷基準は共選単位で決定されていた.しかし,レギュラーみかんに関する出荷基準に関しては管轄農協が産地としてのみかんの出荷基準を統一し,品質の低いみかんが出荷されることを防いでいた.
以上より,有田地域と西宇和地域では,出荷単位が個々で出荷みかんの等階級基準を決定し,高品質なみかんをブランドみかんとして区別することによって,収益の増加を図っていることは共通している.しかし,みかん出荷に係る最低品質基準をもつ西宇和地域では,産地としてみかん品質のバラツキを縮小し,市場評価を高く維持している.一方で,有田地域では,出荷効率に優れた共選では,出荷市場に関わらず,品質のバラツキを伴ったみかんを出荷している一方で,出荷効率に優れない個選では,大阪本場などの近隣市場へ,低品質なみかんを出荷する傾向があった.つまり,有田地域では低品質なみかんを出荷することが許容されている状況にあり,産地としての市場評価を引き下げる要因となっている.
(4) 「有田QUALITY」の問題有田地域では,産地として出荷みかんの統一的管理を図り,2006年にJAありだが「有田みかん」を地域団体商標登録している.しかし,「有田みかん」は安全面を除いて具体的な品質基準は存在せず,認定主体が各出荷単位であるため,これまでの出荷状況に変化はなく,市場評価を高めることには繋がっていなかった.その反省を踏まえ,有田市は,長野県で導入されていた「長野県原産地呼称管理制度」を参考とした「有田市原産地呼称管理制度」に基づく「有田QUALITY」という有田市統一のブランドみかんを設立した.有田市では,この制度により,指定条件を満たすみかんおよびみかんジュースを認定することによって,有田市で生産されたみかんの評価を向上し,販売量の増加や付加価値の実現を図っている.そのため,一定条件さえ満たせば,個々のみかんが個性を認められながら,認定品を統一されたブランドとして出荷することが可能となっている.「有田QUALITY」は,有田市内から出荷されるすべての生産者のみかんに対して,安全面に加えて糖酸度などの統一基準に基づき,品質保証できる認定形式となっており,共選・個選といった垣根を越えてブランド認定を受けることができる.
しかし,表2に示す「有田QUALITY」認定状況を見ると,認定生産者数は少数で推移しており,出荷量も極めて少なく,有田市産全出荷量のうち1%にも満たない7.この要因は,当ブランドの認定方法にある.表3の「有田QUALITY」の認定品質基準を見ると,「有田QUALITY」として認定されるためには,和歌山県統一ブランドの「味一」と同程度のみかん品質が要求されることがわかる8.「味一」は有田地域産みかんのうちの1%程度しか出荷されておらず,その意味で「有田QUALITY」として認定されるための基準が厳し過ぎることが,認定量を制限していると考えられる.
H.22 | H.23 | H.24 | |
---|---|---|---|
有田市産みかん(t) | 23,300 | 29,300 | 24,100 |
「有田QUALITY」(t) | 167.4 (0.7) |
66.5 (0.2) |
106.1 (0.4) |
「有田QUALITY」認定数 | 16 | 14 | 13 |
共選 | 3 | 3 | 3 |
個選 | 13 | 11 | 10 |
資料:有田市.
1)認定回数に関わらず,各年内に1度でも認定が確認されれば,認定数を「1」として集計した.
2)括弧内は有田市産みかん全量のうち「有田QUALITY」が占める数量割合(%)を示す.
階級 | 等級 | 糖度 | 酸度 |
---|---|---|---|
2S~L | 秀 | 12度以上 | 1.0%以下 |
官能検査1)の審査項目 | |||
外観 | 糖度 | 酸度 | 味(バランス) |
資料:有田市.
1)食味による審査であり,複数の官能審査委員が各審査項目に対して採点を行う.
また,認定みかんは,こうした厳しい認定基準を通過しているにも関わらず,市場において既に一般的なみかんと区別されて,高く評価されている高品質なみかんに対して,「有田QUALITY」という追加的な名称を付加しているに過ぎず,新たなブランドとして確立されていないと言える.さらに,認定の都合上,個選のみかんは園地単位の認定,共選のみかんは銘柄認定となっている.そのため,平成22年から平成25年の間に当ブランドとして認定されたみかんの市場平均単価は,共選は300–600円間で取引されているのに対し,個選では200–800円と非常に大きな差が生じている.これは園地内の品質格差によるものと考えられ,光センサによってブランドみかんの品質のバラツキを抑えている共選では,価格差が小さくなっている.つまり,個選の場合は,園地認定さえ完了すれば,登録園地のみかんがブランド認定基準に達しているか否かに関わらず,「有田QUALITY」として出荷できてしまうため,厳密には統一ブランドの品質基準を満たしていない可能性を有するという問題も存在している.
以上より,「有田QUALITY」は,認定基準が厳しいにも関わらず,認定の有無に関わらず高価格となるような極少量の高品質なみかんが当ブランドとして出荷されている.そのため,ブランドとしての付加価値が実現しておらず,有田地域の出荷単位に対して,みかんの選別基準を改善させる動機をつくっていないと言える.
有田地域では,各出荷主体が高品質なみかんをつくり,一般的なみかんと区別して販売することにより,高価格取引を実現している.また,大市場に近接することから,低価格となる低品質なみかんであっても比較的容易に出荷することが可能となっており,このことが個選などの出荷単位の独自性を維持し,出荷基準の統一が進んでいない.このような状況下で,「有田QUALITY」の認定基準は厳しく設定されており,当ブランドに認定されるためには高品質であることが条件とされる.しかし,有田地域の高品質なみかんは,既に市場において高く評価され,高価格であるため,さらに高品質であることを保証しても付加価値の実現はなく,みかんの生産や選別を改善する動機には結びつかない.そのため,高品質化対応によって間接的に低品質なみかんが減少することを想定し,認定基準を厳しく設定しても,個々の出荷単位が出荷基準を変更させる必要性はなく,みかんの出荷基準が改善されることはなかったために,結果として低品質なみかんの出荷を抑制することができなかったと考えられる.
従って,有田地域の低品質なみかんの出荷を減少させるためには,有田地域のみかんの品質のバラツキを縮小させる直接的な対応が必要であると考えられる.具体的には,「有田QUALITY」の認定基準を高品質なみかんを意識したものではなく,低品質なみかんを含まない標準品質以上のみかんを対象とするものに改変し,選別を改善する意義を有田地域の各出荷単位に認識させ,生産を含めた品質向上を図ることが求められる.
ただし,その場合,「有田QUALITY」のブランド認知が拡大して付加価値が実現するまで,一定の収益損失が予測されることから,農家間の合意形成が困難であると考えられる.そのため,損失補填などの策を講じるとともに,産地組織の積極的な連携によって,ブランドの要綱や管理体系を整備しながら,優良園地の流動化や優良品種の導入など,品質向上に係る施策の整備が不可欠である.