Journal of Rural Problems
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Short Papers
Applicability of Construal Level Theory to Agricultural Products: A Case Study of Strawberry Purchasing
Shinichi YoshidaYuji OuraKiyokazu Ujiie
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2016 Volume 52 Issue 2 Pages 65-70

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1. はじめに

日本の食生活の成熟化とともに,食料消費行動に対する価格や所得等の経済的な要因の影響力の相対的な低下が指摘されている(時子山,1999).このようななか,デモグラフィック要因やライフスタイル,状況要因等に着目した研究が展開された1.近年は,限定合理性を出発点とした研究が注目されている.マーケティング研究領域では,その1つとして,「解釈レベル理論」がある2.これは,社会心理学を中心に開発された包括的理論であり「人々が対象や出来事に対して感じる心理的距離(psychological distance)3の遠近によって,精神的表象(mental representation)が解釈レベルの高次なものと低次のものに分かれ,前者は抽象的,単純,構造的,脱文脈的,本質的,上位的,目的関連的なものになるが,後者は具体的で,複雑,非構造的,文脈的,副次的,下位的,目標無関連的なものになるという.(中略)解釈レベルの高低の差は単に表象の差というだけではなく,物事や対象に対する予測や評価基準の差,あるいは選択基準の差となってあらわれてくることになる」(阿部,2009:p. 7)とするものである.ここでいう心理的距離は当初,時間的(temporal)距離を中心に研究が展開されてきたが,社会的(social)距離,仮説性(仮説的か現実的か:certainty-related),空間的(spatial)距離,経験的(experiential)距離等さまざまな距離への適用可能性を持つものとして拡張されてきている.この理論は,古典的な期待効用理論では説明できない選択の仕方について,ユニークな理論的説明と予想を提供する理論として期待されている.

この理論は農産物以外の一般消費財で盛んに研究されているが,農産物では十分に研究されていない.そこで本稿では,解釈レベル理論を農産物消費行動に利用するための一次接近として,適用可能性を検討する.具体的には,心理的距離が異なる状況において,農産物を購入する際の評価基準(重視する評価軸)を調査し,解釈レベル理論に基づく仮説と整合するか検証する.一次接近のため,また包括的理論としての特徴を重視するため,本稿では複数の種類の心理的距離について分析することを目的とする.具体的には時間的距離,社会的距離,空間的距離について分析する.

2. 方法

(1) 調査内容

時間的距離,社会的距離,空間的距離を分析するために,「ある時間的距離までに,ある社会的距離の人物にあげるために,ある空間的距離の産地の農産物を購入する場合」に,重視する項目(評価軸)を調査した.

各距離は2水準ずつ設けた.時間的距離は「明日」・「3ヶ月後」,社会的距離は「親しい友人」・「あまり親交が深くない知人」,空間的距離は「近隣の都道府県産」・「遠方の都道府県産」である4.各距離がそれぞれ異なる8つの状況を設けた.

対象とする農産物は,社会的距離を分析するため,気の置けない親しい友人にあげる場合から,あらたまった贈答用にまで用いられる品目である必要がある.そこでイチゴを対象とした5

評価軸としては,商品品質(色,形,重量,香り等),商品価格,店舗利便性(立地,品揃え等),商品知名度(有名なブランドや産地)の4つを設けた.

これらの8つの状況においてイチゴを購入する際に,4つの評価軸それぞれについて,「重要である,やや重要である,どちらともいえない,やや重要ではない,重要ではない」の5件法で回答を求めた.なお,順序効果を避けるために,回答者ごとに設問の順番はランダムにした.

(2) 仮説設定

解釈レベル理論に基づき,1つ目の仮説は,心理的距離が異なる状況で各評価軸の重要性が異なる,とした.評価軸のうち商品品質は本質的,商品価格,店舗利便性,商品知名度は副次的・下位的と考えられる.そこで2つ目の仮説は,商品品質は心理的距離が近い場合に比べて遠い場合により重視され,評価軸のうち商品価格,店舗利便性,商品知名度は心理的距離が遠い場合に比べて近い場合により重視される,とした6

(3) 調査方法

調査は,WEBアンケートによる.これは,調査会社に委託し,同社登録モニターに対して行った.2014年9月11日(木)からモニターにアンケートウェブページを公開して回答を受け付け,回答者が200名に達した同17日(水)に公開停止された.得られた回答者の性別年代は,50代が若干多いが,概ね均等であった(表1).また,回答者の居住地分布は人口分布に近かった(表2).回答者のうち過去一年間にイチゴを購入した者は126人(63%),過去一年間にイチゴを同居家族以外にあげた者は44人(22%)であった.

表1. 性別年代別回答者数 (人)
男性 女性
20代 16​ 15​ 31​
30代 17​ 16​ 33​
40代 20​ 15​ 35​
50代 21​ 20​ 41​
60代 18​ 16​ 34​
70代以上 15​ 11​ 26​
107​ 93​ 200​

資料:WEBアンケート調査.

表2. 居住地域別回答者数
回答者 参考:人口
割合(%)
人数(人) 割合(%)
北海道 5 2.5 4.3
東北 16 8.0 7.3
甲信越 6 3.0 4.2
関東 78 39.0 33.3
東海 24 12.0 11.8
北陸 5 2.5 2.4
近畿 44 22.0 16.3
中国 8 4.0 5.9
四国 3 1.5 3.1
九州・沖縄 11 5.5 11.4
200 100.0 100.0

資料:WEBアンケート調査,総務省(2011)

なお,解釈レベル理論に関する研究では経済実験的な手法が用いられる場合がある7.しかし,本稿のように複数の種類の心理的距離を分析する場合には,経済実験的な手法をとると複雑になりすぎることが予想された.そこで,前述のようなアンケート調査とした.

(4) 解析方法

回答は,それぞれ,「重要である」を5点,「やや重要である」を4点,「どちらともいえない」を3点,「やや重要ではない」を2点,「重要ではない」を1点に点数換算した.これについて設問ごとに平均点を求めた.また,分散分析を用いて,心理的距離が異なる状況において,差があるかを分析した.

3. 結果と考察

(1) 結果

各設問での評価軸の平均点を表3に,各評価軸の分散分析結果を表47に示す.

表3. 各設問での各評価軸の平均点
設問番号 時間的距離 社会的距離 空間的距離 商品品質 商品価格 店舗利便性 商品認知度
Q1 4.02 3.97 3.47 3.53
Q2 4.06 3.94 3.55 3.51
Q3 4.09 3.98 3.46 3.53
Q4 4.07 3.93 3.56 3.52
Q5 4.19 4.04 3.59 3.70
Q6 4.24 4.05 3.69 3.71
Q7 4.25 4.07 3.63 3.67
Q8 4.23 4.00 3.71 3.63

資料:WEBアンケート調査.

1)質問の順番は回答者ごとにランダムに表示されており,必ずしも設問番号順に表示されていない.

表4. 商品品質に関する分散分析表
変動因 自由度 平方和 分散 F
処理 7 12.10
主効果
 A 1 0.06 0.06 0.40
 B 1 11.22 11.22 72.32 ***
 C 1 0.36 0.36 2.32
2因子交差効果
 A×B 1 0.00 0.00 0.00
 A×C 1 0.42 0.42 2.72 *
 B×C 1 0.02 0.02 0.15
3因子交差効果
 A×B×C 1 0.43 0.43 2.79 *
誤差 1393 216.15 0.16

資料:WEBアンケート調査.

1)Aは時間的距離,Bは社会的距離,Cは空間的距離を示す.

2)***は1%,**は5%,*は10%水準で有意であることを示す.

表5. 商品価格に関する分散分析表
変動因 自由度 平方和 分散 F
処理 7 3.95
主効果
 A 1 0.46 0.46 2.78 *
 B 1 3.15 3.15 19.23 ***
 C 1 0.02 0.02 0.10
2因子交差効果
 A×B 1 0.02 0.02 0.10
 A×C 1 0.23 0.23 1.38
 B×C 1 0.02 0.02 0.10
3因子交差効果
 A×B×C 1 0.30 0.30 1.84
誤差 1393 228.17 0.16

資料:WEBアンケート調査.

1)表4に同じ.

表6. 店舗利便性に関する分散分析表
変動因 自由度 平方和 分散 F
処理 7 11.38
主効果
 A 1 3.06 3.06 12.42 ***
 B 1 8.12 8.12 32.93 ***
 C 1 0.09 0.09 0.36
2因子交差効果
 A×B 1 0.00 0.00 0.00
 A×C 1 0.00 0.00 0.01
 B×C 1 0.06 0.06 0.25
3因子交差効果
 A×B×C 1 0.04 0.04 0.17
誤差 1393 343.62 0.25

資料:WEBアンケート調査.

1)表4に同じ.

表7. 商品知名度に関する分散分析表
変動因 自由度 平方和 分散 F
処理 7 10.51
主効果
 A 1 0.08 0.08 0.42
 B 1 9.77 9.77 54.66 ***
 C 1 0.23 0.23 1.26
2因子交差効果
 A×B 1 0.01 0.01 0.03
 A×C 1 0.03 0.03 0.17
 B×C 1 0.33 0.33 1.85
3因子交差効果
 A×B×C 1 0.11 0.11 0.59
誤差 1393 248.87 0.18

資料:WEBアンケート調査.

1)表4に同じ.

社会的距離については,全ての評価軸で有意差があり,社会的距離の遠近で評価軸の重要性が異なっていた.時間的距離については,一部の評価軸で有意差があった.空間的距離については,有意差が検出されなかった.ただし,商品品質に関して,時間的距離と空間的距離の2因子交差効果と,時間的距離と社会的距離と空間的距離の3因子交差効果に有意差があった.

社会的距離が遠い場合に比べて近い場合に商品品質,商品価格,店舗利便性,商品知名度の全ての評価軸を重視していた.このうち商品価格と店舗利便性,商品知名度については解釈レベル理論と整合的であるが,商品品質は整合的ではない.時間的距離が近い場合には店舗利便性を重視していた.これは解釈レベル理論と整合的である.時間的距離が遠い場合には商品価格を重視していた.これは解釈レベル理論と整合的ではない.この他には有意差が検出されなかった.

(2) 考察

まず,心理的距離ごとに考察する.

社会的距離が遠い場合に比べて近い場合には,全ての評価軸を重視していた.農産物をあげる相手が親しい場合には,商品選択が難しいものになっていると考えられる.また,贈答用農産物の調査・分析は,贈る相手との関係性によって農産物の評価軸が変わる可能性があるため,注意する必要がある.さらに,用途(贈る相手)ごと効果的な商品訴求方法が異なることが指摘できる8.社会的距離が遠い場合に,本質的と考えられる商品品質が重視されないことは解釈レベル理論と整合的ではない.この原因として,商品を購入して贈ること自体が本質的な要素であり,商品品質も副次的な要素と捉えられている可能性がある.

時間的距離が近い場合には店舗利便性を重視していた.このことから,例えば「友人宅を訪問するずっと前には少し遠くの果物専門店で買おうと思うものの機会を逸し,当日に道中の店で買う」といった行動が説明できる.また,店舗立地の重要性を指摘できる.時間的距離が遠いアンケート調査と時間的距離が近い実際の行動では,店舗選択に差があり,アンケート調査と実際の行動では選好が逆転する可能性がある9.したがって,調査・分析に注意する必要がある.他方で,時間的距離が近い場合に,副次的と考えられる商品価格が重視されないことは解釈レベル理論と整合的ではない.この原因として,最寄品的な性格が強い農産物では,商品価格が本質的な評価軸となっている可能性がある10

空間的距離に関しては有意差が検出されず,農産物の評価軸に影響を与えているとは言えなかった.今日「地産地消」が広く認知されているが,地場産であることで農産物の評価が異なるのか慎重な研究の蓄積が求められる11

最後に,全体を通じて考察する.

一部の心理的距離や評価軸では有意差が検出されなかった.この原因としては2つ考えられる.第一に,農産物の財として特質が考えられる.農産物は最寄品で購入頻度が高く,心理的距離(経験的距離)が常に近くなりがちで遠くなりにくいと考えられる.また,農産物は低関与であることが多いため,心理的距離が近くなっても情報処理量は相対的に多くないと考えられる.これらのために,農産物に関して解釈レベル理論の有効性は,一般消費財に比べると限定的である可能性がある.第二に,本稿の研究方法に由来する限界が考えられる.いくつかの状況を仮想してイチゴを購入する際に重視する点をWEBアンケートで回答するという本稿の調査方法では仮説性が高い.このことが影響した可能性がある.今後,経済実験的手法など他の調査方法による研究蓄積が求められる.

時間的距離について商品価格,社会的距離について商品品質では有意差があったものの仮説と非整合的であった.これは,農産物購買において,商品品質が本質的で,商品価格が副次的とした本稿の前提に問題があったと考えられる.購入する財や状況によって本質的・副次的な属性は異なるのか,どの属性が該当するのか,知見の蓄積が必要である.

一部の心理的距離や評価軸では有意差が検出されなかったが,他方では複数で有意差が検出された.したがって,心理的距離が農産物購入において評価基準の一部に影響を与えることが示された.また,それらの影響は概ね解釈レベル理論と整合的であった.したがって,解釈レベル理論は,農産物購買行動においても一定の妥当性を持つと考えられる.解釈レベル理論は,(一般消費財に比べると限定的であるとしても)農産物購買行動の解明において一定の有効性をもち,解釈レベル理論を用いることで農産物購買行動をより正しく説明できる可能性がある.また,農産物購買行動の調査・分析においては解釈レベルに注意を払うことが望ましいといえる12

謝辞

本稿はJSPS科研費25660180「農産物消費行動研究への「解釈レベル理論」の適用可能性に関する理論的・実証的研究」の助成を受けた研究成果の一部である.

1  食料消費行動に関する研究のレビューとしては茂野(2012)が新しく,これを参照されたい.

2  解釈レベル理論に関する研究のレビューとしては阿部(2009)が詳しく,これを参照されたい.

3  心理的距離は,守口(2013)のように定量的な尺度の開発が試みられているが,まだ一般的なものはないと考える.多くの研究では,いずれか1つの種類の距離のみを取り上げて,順序尺度として導入されている.

4  時間的距離の水準は,外川他(2013)と同様に「明日」・「3ヶ月後」とした.社会的距離と空間的距離は,「社会的距離は何かの製品を自分の使用目的ではなく他の人の使用のために購入しているような状況で関わりを持ってくる距離となる.他の人とは購入者にとって身近な家族構成員なのか,それともあまり親しくないが世話になっている方への贈り物なのかで選択基準が異なってくることになる.(中略)空間的距離も遠くなるほど高次の解釈レベルが用いられることになる.距離的に遠い国の消費者がそのブランドを推奨しているCFは製品の本質的ベネフィットを協調するときに適しているということになる」(阿部,2009:p. 8)との指摘を参考に水準を設定した.

5  磯島(2010)によると,贈答用途に最も利用される農産物は果物であり,贈答用果物はその地域で産出額の高い果物で,果物の旬の時期に合わせる形で贈答用利用されている.したがって,①出荷期間が長く,②多くの地域で生産されて,③贈答用途に用いられる果物が対象として望ましい.イチゴは,これらの条件にも当てはまる.

6  解釈レベル理論では「製品・サービスが機能的に優れていることは,心理的距離が遠い場合,重視されるのに対して,製品・サービスの使い易さや入手容易性等は,心理的距離が近い場合に重視される傾向がある」(阿部他,2010:p. 178).また価格に関しては,スマートフォンの機種選択を対象にコンジョイント分析を行った竹内・星野(2015)では,低レベル解釈(心理的距離が近い)条件で価格の効用推定値が高かった.

7  例えば,竹内・星野(2015)では,被験者を2組に分け,解釈レベルを操作した組と無操作の組にアンケートする実験を行い,その後実際の購入商品を追跡調査した.

8  親しい相手に贈る場合には,具体的で詳細な情報を提供することで訴求し,あらたまった贈り物の場合には,抽象的でも本質的な贈ることの意義等を訴求することが有効と考えられる.

9  阿部他(2015)では,時間的距離の変化による選考の逆転を,割引の概念を解釈レベル理論に組み込んで分析し,選考の逆転を説明できることを示している.

10  「必要だから買う」ではなく「安いから買う」というように商品価格がより本質的な評価軸になっている可能性がある.

11  例えば,串田他(2013)では地区産と市内産での認識の違いが見られなかったとしている.ただし,本稿では近隣の都道府県産と遠方の都道府県産を対象としている点に留意する必要がある.

12  例えば,氏家他(2014)竹内・星野(2015)のように,調査にあたって被験者の解釈レベルを操作する手法を用いること等が考えられる.

引用文献
 
© 2016 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
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