Journal of Rural Problems
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Short Papers
Increasing the Number of Local Eco-agricultural Products and Preserving Urban Agriculture through the Cooperation of Local Consumers and Farmers
Kana Nakatsuka
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2016 Volume 52 Issue 3 Pages 118-123

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1. はじめに

都市における農業の必要性は,古くは大正末期に当時の大阪市長であった関(1988)が,ドイツの都市計画を範とし,その必要性を唱えている.しかし高度経済成長に伴う開発需要で都市農地は年々減少してきた.近年,都市に農地が存在することによる景観形成,食農教育,地産地消,防災などの多面的機能が重要視されるようになり,2015年3月に策定された新たな食料・農業・農村基本計画では,都市農業の推進が盛り込まれ,同年4月16日には都市農業振興基本法が策定された.とはいえ,都市農家の高齢化や世代交代時の相続税等により,都市部の農地面積は今後も減少することが予測される.

都市農業が存続するための課題として,樋口(2008)は土地利用制度や税制の変更の必要性を指摘している.蔦谷(2006)は「都市農業は農地としての維持は,農業者個人の努力によってはいかんともし難い状況に置かれている」とし,消費者や自治体の協力が必要であると示唆し,林(2013)は農業に無理解な都市住民への対応をあげており,ここでも消費者の都市農業に対する理解の醸成の必要性が述べられている.農林水産省(2011)では,税制改正や,今後の都市農業振興施策のありかたの検討が必要であるとしている.

一方で東京都生活文化局(2015)による都市住民の都市農業に対するアンケート結果では,9割近くが「大都市に農業・農地が必要だと思う」と回答しており,農業の多面的機能に対する期待は高く,都市農地を守る支援として「購入すること」や「学校給食への供給」などがあげられており,都市住民と連携した都市農業存続の受け皿であることがわかる.

2009年に都市農業の復権と再生を目指して開催された都市農業サミットをきっかけとし,2010年に都市農業振興協議会が設立され,都市農業振興のための施策や税制の改革を提言しているが,会員市は正会員15団体,賛同会員52団体,賛助会員4団体にとどまっている.都市農業を有する各自治体は今後,地域の実態に応じた独自の都市農業振興を模索する必要がある.

そのような状況のもとで,大阪府下にて府認定の大阪エコ農産物の申請者数が突出して多い市がある.町工場の数が日本一多いことで有名であり,農地面積が市面積の4%にも満たない東大阪市である.東大阪市の取り組みについては,青木(2013, 2015)の都市部での生産者の農業持続へのモチベーションや消費者の購入意欲に関する先行研究や田中(2011a, 2011b)の農業改良普及員の視点からの先行研究があるが,自治体としての都市農業の振興方策のありかたに着目しての言及はない.そこで本研究では,なぜ東大阪市で大阪エコ農産物の申請者数が多いのかを自治体の施策のあり方に視点をおいて調査し,エコ生産者増加の要因や東大阪市における都市農業の保全方策,今後の課題を明らかにし,他地域での都市農業振興の一助となることを目的とした.

2. 調査対象の概要と調査方法

(1) 東大阪市の農業概要

大阪府東大阪市は,府の中央に広がる大阪平野の東部に位置する.人口は502,259人(2015年)であり,大阪府内では大阪市と堺市の両政令都市に次ぐ第3位の人口を有する中核都市である.東大阪市花園ラグビー場を擁する「ラグビーのまち」として,また,技術力の高い中小企業が多数立地する「ものづくりのまち」として全国的に知られている.市域の大半は平坦な低地であるが,市東部には生駒山系の山々が連なる.江戸時代には,大和川の付け替え工事が行われ,大坂商人によって新田開発が行われ,木綿と菜種の産地として名を馳せた歴史もある.

市面積61.81 km2のうち,2014年度で農地面積は,表1にみるように2.3 km2しかなく,面積割合はわずか3.79%である.2010年度の総農家数は689戸(自給的農家497戸,販売農家192戸),販売農家の平均年齢は66.4歳であり,年々農家戸数の減少と高齢化がすすんでいる.しかし,大阪府独自の特別栽培農産物の認定制度である大阪エコ農産物の申請者数および栽培面積は表2に示すとおりで,毎年,増加傾向にある.

表1. 2014年度の東大阪市の農地面積
区分 面積(km2 対市面積の割合(%)
市街化区域 宅地化農地 0.6 0.98
生産緑地 1.2 1.91
市街化調整区域 0.5 0.89
合計 2.3 3.79

資料:東大阪市役所農政課への聞き取り調査より.

表2. 東大阪市のエコ農産物申請動向
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
申請者数(人) 6 24 43 55 58 80 119 143 157 170 187
栽培面積(ha) 0.86 2.19 2.36 2.9 2.79 5.5 9.19 15.45 20.58 24.84 26.29

資料:東大阪市役所農政課への聞き取り調査より.

1)大阪エコ農産物は1月と7月の年間2回申請を受け付けているため,2回分の合計のべ数である.

(2) 調査対象と方法

調査対象は,東大阪市農政課とJAグリーン大阪の担当者,東大阪市内のエコ農産物の生産者のうち比較的直売所への出荷量が多い農家(5戸)を対象とし,東大阪市における都市農業の振興方策とその効果に関する聞き取り調査を行った.

3. 東大阪市の農業振興方針と支援策

(1) 東大阪市の3つの農業振興方針

東大阪市の農業振興方針の特徴は以下の3点である.1点目は,2004年から取り組み始めた農薬や化学肥料の使用を慣行栽培よりも5割以上削減して栽培したエコ農産物を2009年より東大阪市の特産品としてブランド化したことである.近辺の都市では,「八尾市の若ゴボウ・枝豆」や「門真市のレンコン」などの特産物があるが,東大阪市にはとりたてて特徴のある特産品目がなかった.そこで品目を限定せず,つくりかたに着目した特産品づくりを行った.大阪府の大阪エコ農産物1の認定要件は,1品目につき1アール以上の作付面積が必要である.また認定品目はエコ農産物基準のある77種類(表3)に限られている.そのため作付面積が1アールに満たないか,認定品目にない農産物を生産している生産者はエコ農産物の申請ができない.

表3. 大阪エコ農産物の認定品目
水稲
豆類 だいず
いも類 さつまいも,さといも,じゃがいも,ヤーコン,やまのいも
雑穀類 スウィートコーン
野菜 赤しそ,いちご,えだまめ,しろな,おおば,オクラ,かぶ,かぼちゃ,カリフラワー,キャベツ,きゅうり,くわい,ごぼう,こまつな,さやいんげん,さやえんどう,しゅんぎく,しろうり,すいか,ずいき,ズッキーニ,だいこん,たまねぎ,チンゲンサイ,とうがらし類,とうがん,トマト,なす(水なすを含む),にがうり,にんじん,にんにく,ねぎ,はくさい,葉ごぼう,葉だいこん,非結球あぶらな科葉菜類,非結球メキャベツ,非結球レタス,ピーマン,ふき,ブロッコリー,ほうれんそう,実えんどう,みずな,未成熟そらまめ,みつば,ミニトマト,モロヘイヤ,レタス,れんこん
果樹類 いちじく,うめ,温州みかん,かき,かんきつ,キウイフルーツ,くり,すもも,なし,ぶどう,もも
花き類 アイリス,きく,けいとう,チューリップ,はぼたん,フリージア,ゆり
樹木類 まつ

資料:大阪府環境農林水産部農政室推進課への聞き取り調査より作成.

そこで,JAグリーン大阪およびJA大阪中河内では,大阪エコ農産物の栽培基準を満たしていれば面積が1アールに満たない場合でも,JA独自のエコ農産物マークを貼付できる制度を発足したのである.

また大阪エコ農産物の認定品目に指定されていない品目(わけぎ,人参葉,ミント,ラディッシュ,ケール,ローズマリー,ローリエ,ビーツ,わさび菜,スイスチャード,アイスプラント,ルバーブ,オイスターリーフ,ロケット,オカリナ,アスパラガス,ショウガ,ミョウガ,ピーナッツ,シカクマメ,ビワ,サクランボ等)については,農薬も化学肥料も一切使用しない「ゼロ・ゼロ申請」に限りJAのエコ農産物として認めることとし,市内の農家が面積と品目の規定でエコ農産物の申請が不可能になることがないような体制を整えた.

2点目は,地産地消をすすめるための販売チャネルの創設である.栽培ロットが少ない農家が卸売市場への出荷に困難が生じるようになったこともあり,JAグリーン大阪およびJA大阪中河内の各店舗前にて,ロットが少なくても出荷可能である朝市(10カ所)を開催し,さらに管内に直売所(JAグリーン大阪は「フレッシュ・クラブ」,JA大阪中河内は「畑のつづき」)を合計で5店舗開設した.

3点目は,直売所に出荷されている農産物には,エコ農産物だけではなく慣行農産物もあるが,「エコ農産物が100%」になることを目標として掲げたことである.

(2) エコ農産物生産者への直接支援策

前述した農業振興方針を達成するために,東大阪市では,エコ農産物の生産者を増やす支援策として,以下の4点を実施している.

1点目は,管内の農家全員を対象としたエコ農産物の申請書類作成支援である.JAグリーン大阪とJA大阪中河内の一室にて,エコ農産物の認定申請に必要となる栽培計画の作成支援相談会を開催し,直売所出荷の要件であるトレーサビリティーのための記帳を徹底した.

2点目は,エコ農産物の直売所出荷額に応じた金銭的支援である.直売所の出荷手数料は,通常15%であるが,エコ農産物を出荷すると販売金額の5%をキャッシュバックするようにした.エコ農産物の生産者には,一旦,慣行農産物と同様の15%の手数料を差し引いた金額が振り込まれた後に,5%分が振り込まれる.

3点目は,エコ農産物に貼付するシールの無償提供である.エコ農産物を出荷する際には,通常のバーコードシールとは別に,生産者名,住所,連絡先を記載したエコ農産物のシール(以下,「エコシール」とする)を貼付することになっている.シール代金(約170万円)の財源は,JAグリーン大阪,JA大阪中河内によって現在賄われているが,田中(2011b)にも書かれているように,運動開始前から財源については取組の継続性を重んじて受益者負担の原則に基づいた活動計画をたてており,近い将来,この財源はエコ農産物の販売価格を上げたうえで直売所への手数料から賄う等,生産者の懐が痛まない方法で負担することが検討される予定である.

4点目は,ファームマイレージ2運動2の実施である.前述した3点の下準備を整えた上で2009年5月より,東大阪市産のエコ農産物の購入者を増やすための消費者啓発運動を開始した.運動に係る財源はJAグリーン大阪,JA大阪中河内,東大阪市等で構成する東大阪市農業振興啓発協議会3(以下,啓発協議会)によって賄われている.「地域の産業を地域に住む人と共に無理なく守っていく」ことを理念に発案され,「東大阪市産の農産物を食べることが,東大阪市の野菜が育つ畑を守る(増やす・残す)ことにつながる」という考え方を消費者に啓発し,地産直売所に出荷されている農産物には,エコ農産物だけではなく慣行農産物もあるが,「エコ農産物が100%」になることを目標として掲げたことである.

この運動を開始するにあたり,当時から普及活動に携わる田中(2011a)は,2009年2月に直売所の来客者111名を対象に対面方式で意向調査を行い,①「おまけ」が購買意欲をそそること,②電子ポイントカード制よりは,昔ながらの商店街や市場のチケット制(台紙1杯になればガラガラ抽選1回等)の方が実感が湧くということ,③金券より野菜の現物がおまけとして好ましいという消費者意向を考慮して実施に踏み切った.

直売所でのファームマイレージ2運動の具体的な仕組みは次のとおりである.消費者がエコ農産物を購入し,袋に貼付されているエコシールを48枚(JAグリーン大阪の場合)もしくは50枚(JA大阪中河内の場合)を台紙に貼り直売所に持参すると,啓発協議会から300円分のエコ農産物と感謝状を付与する.さらに感謝状を10枚集めた消費者には,表彰状と記念品(500円分相当の東大阪市産の醤油等)を付与するというものである.

また,ファームマイレージ2運動では東大阪市の農業を消費者に直接的に知ってもらい,理解を促すための様々な体験イベントも実施している.子ども向けイベントでは,直売所で食材を調達し,調理する料理コンテスト「地産地消の鉄人」,田植えから稲刈り,加工(調理・試食),販売までの一連の流れを体験できる「THE米」,大人むけイベント「いも」では,安納芋の植え付け前の準備作業,苗植え,収穫に加え,収穫した芋を長崎県の酒蔵で加工したいも焼酎の試飲体験といも焼酎が1本付与される.「いも」では,「農業の大変さを知っていただくことにも重点をおき,もくもくと作業に打ち込んでいただく」という旨を募集チラシやお知らせハガキに記載し,農作業に真剣に取り組む意欲のある都市住民の参加を促すようなフィルターをかけた.

これらの消費者啓発イベントは,生産者にとると本来,農地は自分たちで管理しなければならないところ,都市住民が自らお金を支払って農作業を行い農地管理を手伝いにきてくれているという農業ボランティアの仕組みとしても捉えることができる.

4. 東大阪市の支援策の効果

(1) 直売所でのエコ農産物の割合増加

東大阪市の農業振興方針とエコ農産物生産者への支援策により,表4に示すように,直売所におけるエコ農産物の販売金額は増加し,直売所全体売上に対するエコ農産物の割合も,2008年度の18%から2013年度には53%と半数を超え,2014年度には64%にまで上昇した.

表4. 直売所でのエコ農産物の売上割合
エコ農産物売上(千円) 対全体売上(%)
2008 10,086 18
2009 20,130 25
2010 32,214 41
2011 39,444 46
2012 43,270 48
2013 48,281 53
2014 64,985 64

資料:東大阪市役所農政課への聞き取り調査より.

そこで,何がエコ農産物の生産振興につながったのかを生産者や関係各者への聞き取り調査結果から考察したところ,次の4点が明らかとなった.

(2) エコ農産物の申請を促す支援体制の整備

「エコ農産物の認定制度を策定しただけで,あとは生産者が申請してくるのを待つ」という体制ではなく,JA管内の全生産者を対象として,支店ごとに栽培計画の作成支援相談会の機会を設け,エコ農産物申請を後押しする支援体制を整備したことが,エコ農産物の生産者の洗い出しや育成につながった.エコ農産物を特産品にするべく,「皆でエコ農産物を生産しよう」,「皆でエコ農産物の申請をしよう」という雰囲気づくりができた,栽培計画の作成支援相談会に参加した生産者が,まだ参加していない生産者に参加を促す姿もみられたという.

(3) エコシールの販促ツール的役割

エコシールは,「この農産物がエコ農産物の基準を遵守して栽培された」ということを示すシグナリングの役割を果たすアイテムであるが,生産者が出荷すればするほど,必要経費が増加する.しかも,消費者が手にとりレジに並んだ段階で,シグナリングの使命を終え,ゴミとして捨てられる宿命である.

しかし,ファームマイレージ2運動ではエコシールは啓発協議会から無償提供されるため,生産者にとってはシール作成にかかる必要経費の負担がなく,エコ農産物の生産・出荷へのブレーキ要素にはならない.それ以上に,エコシールは単なるエコ農産物のシグナリングとしてだけではなく,ファームマイレージ2運動で消費者に台紙いっぱいに貼付し,マイレージ特典の付与を目指させる消費振興を促す販売促進ツールとして有効活用されるという二次的効用を有するようになった.

(4) プレミアムの「見える化」

直売所における出荷手数料は15%であるが,エコ農産物の出荷手数料は10%である.JAからは,いったん全員に販売金額から15%を差し引いた金額が振り込まれ,その後,エコ農産物生産者だけに販売金額の5%のキャッシュバック分が再び振り込まれる.これはJAのシステム上の都合によるものであるが,エコ農産物の生産者にとると,キャッシュバック分の金額を目にすることができる,いわゆる「見える化」になっており,エコ農産物生産のプレミアムを実感することができる.エコ農産物を出荷すればするほど,あとから振り込まれるキャッシュバック金額が増えることで,よりいっそうエコ農産物を生産して直売所に出荷しようというインセンティブにつながっている.

プレミアムの「見える化」は,消費者側にもある.

消費者はエコ農産物に貼付されているシールを48~50枚集めて台紙に貼ることでマイレージ特典(300円分のエコ農産物)と交換できる.交換時に付与される感謝状には,マイレージ特典が貰える理由として「農産物を購入することで生産者を応援し,かつ,市内の農地約5 m2の守り手になった4」ということを認識させる文面が書かれている.特典目当てだけでシールを集めていただけの消費者にも地産地消の意義を伝えている.感謝状をさらに10枚集めると表彰状と記念品が付与されるため,「東大阪市産のエコ農産物を購入」すればするほど,地産地消の購買行動のプレミアムが「見える化」され,地産地消が促進される.

ファームマイレージ2運動を開始してから5ヶ月後に啓発協議会が直売所の消費者にとったアンケート結果では,エコ農産物の認知度は開始前よりも30%,エコ農産物を意識して購入する人が49%も増加したという田中(2011b)の報告もある.2009年5月から2014年3月までの間の消費者への累計付与枚数は,感謝状7,663枚(実数1,581人),表彰状256枚(実数186人)であった.

(5) 消費者との関係性によるエコ農産物生産のインセンティブ

生産者のエコ農産物生産と直売所への出荷のインセンティブには,消費者との関係性が大きく関わっていることも明らかとなった.エコシールに記載されている連絡先情報をもとに,消費者から生産者に「美味しかった」や「今日,直売所にいったのに出荷されてなかったから残念でした」等を伝える電話がかかることがある.もともと地方卸売市場だけが出荷先であった生産者にとって,直売所でエコ農産物を販売するようになってから,こうした消費者からの賞賛の声が直接届くことは何よりも嬉しく,これからもエコ農産物を生産・出荷したいと思わずにはいられないという.農業を実践するうえで,販売金額の増減よりも,「おいしい」と言ってもらえることのほうがやりがいを感じるというのがインタビュー対象のすべての生産者の共通認識としてみられ,消費者との良好な関係性がエコ農産物の生産および出荷のインセンティブに大きく関わっていた.

青木(2013)による東大阪市の直売所に出荷している生産者への聞き取り調査でも,エコ農産物の生産に関しては,経費削減や健康および土壌の悪化防止といった生産面に関する利点と,売れる楽しさとともに消費者の声が聞ける,連絡先を記載することで責任がもてるといった販売面での利点が生産意欲につながっていることが報告されている.

また,農業体験イベント「いも」の参加者の中に「定年後で比較的自由な時間があり,日頃から農作業を手伝いたいと思っていた消費者」がいた.いも焼酎の試飲会で出会った生産者と意気投合し,イベント終了後からは有償ボランティアとして農作業を手伝っている.農業体験イベントが絶好のマッチングの機会となった.アルバイトの正規雇用となると経営上,難しいが,現物支給を含む「ボランティア(有償も無償もある)としての都市住民の雇用」は,生産者のニーズがあることも明らかとなった.

5. おわりに―結論と考察―

以上,東大阪市にてエコ農産物の申請件数がなぜ大阪府下で一番多いのか,どのような生産振興方策があり,効果をもたらしたかについてみてきた.

その結果,つくりかたに着目したエコ農産物そのものを特産物とし,品目を限定しなかったことで東大阪市内の多くの生産者の参入を促すことができたこと,認定申請のソフト支援を実施したこと,エコ農産物の生産・消費によるプレミアムを「見える化」したこと,消費者との関係性を良好にしながら都市農地を守る体制づくりを常にしかけていることが効果をもたらしていたことが明らかとなった.これらを実現できたのには,大阪府,東大阪市,地域のJAという推進主体が同じ方向を向いて運動をすすめてきたことの効果も大きい.

ファームマイレージ2運動は「地域の産業を地域住民と共に無理なく守っていく」ことを理念に実施され,消費者目線を尊重した都市ならではの取り組みである.佐賀県佐賀市や兵庫県姫路市など他地域でも広がりを見せているが,各地域での効果および課題やこうした取り組みを今後多くの地域で展開する為の必須条件などについては今後の課題としたい.

謝辞

本論文をまとめるにあたり,東大阪市経済部農政課の田中康太氏には多大なるご助言とご支援をいただきました.心より御礼申し上げます.

1  大阪エコ農産物の基準は,化学合成肥料については,窒素肥料のみならずリン酸肥料も5割減を基準としている.

2  「地場農産物が買われ消費者からの声が届くことで生産者は,期待感からまた栽培意欲がわくため,消費者の購入分に相当する農地を守ったことになる」という考え方.ファームマイレージ2の「2」には,距離×距離=面積(畑)という意味がこめられている.

3  JAグリーン大阪,JA大阪中河内,東大阪市農業委員会,大阪府北部共済組合,東大阪市,大阪府中部農と緑の総合事務所で2000年10月に設立された任意団体である.年間予算は約400万円である.

4  エコ農産物のシール1枚で守れた農地の面積を便宜的に1,000 cm2とし,シール48~50枚分を5 m2と換算している.

引用文献
  •  青木 美沙(2013)「都市部の農協直売所を活用した農業振興事業が販売および生産に与える影響―東大阪市『ファームマイレージ2運動』を事例に―」『くらしと協同』5,61–73.
  •  青木 美沙(2015)「農産物直売所を核とした地域循環型経済の構築条件に関する一考察―東大阪市『ファームマイレージ2運動』を事例に―」『協同組合研究』35(1),38–45.
  • 関  一(1988)『都市政策の理論と実際』学陽書房.
  •  田中 康太(2011a)「都市農業への消費者の意識を高める『ファームマイレージ2』制度」『技術と普及』48(2),40–42.
  •  田中 康太(2011b)「ファームマイレージ2―誰もが納得し農業振興に向かえる仕掛け―」『技術と普及』48(5),50–53.
  •  蔦谷 栄一(2006)「都市農業(個別経営)の実情と課題-都市農業を考える③」『農林金融』59(5),28–39.
  • 東京都生活文化局(2015)「平成27年度第2回インターネット都政モニターアンケート結果「東京の農業」」(http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2015/08/60p8a100.htm)[2016年6月6日参照].
  • 農林水産省(2011)「都市農業に関する実態調査(農村振興局)」(http://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/tosi_nougyo/pdf/tosi_tyousa_honntai.pdf)[2016年6月6日参照].
  •  林  琢也(2013)「東京都稲城市における農家直売所の経営特性―都市における「農」の役割を考える―」『地域生活学研究』4,25–36.
  •  樋口  修(2008)「都市農業の現状と課題―土地利用制度・都市税制との関連を中心に―」『調査と情報』(621),1–11.
 
© 2016 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
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