Journal of Rural Problems
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Short Papers
Management of Relationships in Farming from Economic and Ruling Points of View on Restricted Rural “Socialized” Trading
Nahoko Kihara
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2017 Volume 53 Issue 2 Pages 108-116

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1. 課題と背景

(1) 背景と問題意識

多様な経営形態が存在する我が国農業において,地域農業という次元における効率的な生産体系を形成することは,個々の農業経営の成長・維持に大きく影響する.しかし多様な経営形態が存在するからこそ起こる問題もある.例えば規制改革会議で議論されている農協の生産資材販売に対する低価格要求である.確かに低価格で生産資材が調達できれば農業経営の所得は向上するが,実際には農業経営は価格のみで調達先を選択していない.生産資材の品質の他,納品や代金回収のタイミング,販売員の人間性や今後の経営発展の可能性など,様々な指標で調達先を選択している.また過去の慣習や制度によって調達先を規定している場合も散見される.

このような多様な指標で選択する調達先との関係性では,地域という限られた範囲があるからこそ,より厳密な管理が必要となる.しかし近年,農業振興方向として議論されているのは,上述の低価格要求のように,個々の農業経営の経済取引に関わる制約の排除のみである.農業経営における調達先との関係性の管理問題はなおざりにされ,その経済性および包含される問題は見逃されている状況にある.

地域農業を基盤とする我が国の農業経営の経済取引において調達時の「つき合い」取引が重要な構成要素であることに議論の余地はなく,その管理に関する理論構築の重要性が高まっていると言える.

(2) 研究課題

本研究では農業経営における経済取引に関して,特に「つき合い」取引と呼ばれる関係性に焦点を当て,我が国の農業経営の経営行動の特質とその論理を明らかにすることを試みる.具体的にはまず,農業経営と調達先との「つき合い」取引の構造を明示する.次にその「つき合い」取引が如何に機能し,経営行動を規定しているのかをマーケティング論,特に顧客と企業との良好な関係を示す関係性マーケティング論を視座に明らかにし,「つき合い」取引の構造を明らかにする.その上で「つき合い」取引が農業経営の経済性に与える影響を考察し,現状における調達方法と経営管理のあり方に接近する.

2. リレーションシップと資材調達に関する理論的枠組み

(1) 購買取引に関する先行研究

Kotler and Keller(2006)によると,マーケティングを「収益性の高い顧客を引きつけ維持する技術」とし,「長期的なカスタマー・リレーションシップの育成」によって顧客価値が最大化するとしている.企業は顧客との絆を強くするために個々の顧客の詳細情報を管理し,それらを基に顧客との接点を管理することによって,より個別的に顧客が感じる価値の最大化を図ってきた.これをカスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)と呼んでいる.この関係性は顧客ごとにカスタマイズした製品の供給や頻繁な営業活動等によって組織購買者とのリレーションシップを構築し,パートナーになろうと努める等,企業の購買担当者にも援用される.

残念ながら農業における購買システムを通じたリレーション構築による経営の効率化の研究は皆無に等しく,それが故に他産業との比較の中で農業経営の生産資材調達の非効率性が指摘されると言える.そこで自動車産業の購買システムとリレーションシップの関係性を取り上げる.

磯村(2011)は特に,トヨタの自動車用の鋼板取引における集中購買システムの変遷をたどっている.トヨタの部品メーカーとのリレーションシップの管理手法は,戦争による原料調達確保の困難性や高度経済成長に伴う鉄鋼メーカーの生産性の向上等,社会情勢の変化とともに変遷してきた.トヨタによる資材支給方式や部品メーカーによる自給方式,トヨタが価格・発注枠の管理を行い部品メーカーが調達・検収業務を行う管理自給方式等,購買システムを変化させながら関係性を維持してきたとまとめられる.

このような長期的関係性の構築によるリレーションシップの管理は取引方法に影響を与えていると言える.加護野(2007)は特に地域産業の独自の取引制度や慣行に着目している. 顧客による長期的・継続的な取引が企業の資金循環を支え,経営状態を把握したフィードバックによって地域産業は成立しており,この長期取引は地域産業を活性化させる制度と慣行を生み出す取引文化であるとする一方,取引経路が規定されやすくなると指摘している.

この取引経路の規定性は特に「経路依存性」と呼ばれ,購入者が製品の選択とその購入のタイミングが将来的な市場でのシェアを決める特性を持つとされている(Liebowitz and Margolis, 1995).

このように長期的関係性の構築による取引は不完全競争下での産業組織のあり方とも捉えられる.不完全競争下での産業組織論を扱うハーバード学派では企業行動が市場構造に依存して決まるとする(井出,1994).さらに市場構造を規定する要因として需要側と供給側の諸要因としての基礎的条件,公共政策,諸要因間の因果関係の反作用(フィードバック)がある.すなわち商品の代替性の程度や価格弾力性,需要の伸び率,購入頻度といった基礎的な条件の他,補助金や独占禁止法といった公共政策,フィードバックを介した垂直統合による調達の容易さが企業行動および成果の変化に繋がることを実証している.

(2) 本研究でのリレーションシップの枠組み

日本農業におけるリレーションシップの変遷としてまず,農業経営における関係性を示す用語として「ネットワーク」が挙げられる.門間(2006)では,日本農業の担い手としてフランチャイズ型の農業経営に焦点を当て,そのメリット・デメリットをまとめている.門間は特に,このようなメリット・デメリットを持つ新たな農業経営を空間ネットワーク型経営と題し,従来の地縁を基礎とする農業経営とは異なる視点を投げかけている.しかしこのネットワークによる関係性の維持の焦点は販売およびコスト削減による所得向上のための組織化にあり,農業経営間の水平的な関係性の構築に主眼があると言える.

一方,垂直的な関係については主に農業経営と加工・販売業者との関係性を主要な論点として研究されてきており,農業経営と生産資材調達先との関係性は議論されてきていない.個人経営が太宗を占める我が国農業ではこれまで,農協による共同購入体制が一般的な調達方法であった.このような共同購入体制の中では,農業経営にとっては農協からの資材調達のみで事足り,他の関係性を管理する必要がなかった.つまり農業経営における資材調達に関しては歴史的な背景から確立された取引慣行の下での議論が不文律として成立しており,他産業に見られるような資材調達方式の多様性は議論されなかった.

しかし地域農業の中においても多様な経営形態が包含されるようになったことに加え,政策的意図によって資材調達方法に変化が求められていると言える.農協は多様な事業展開によって組合員たる農業経営者との関係性を維持しようとし,農業経営は他の商系からの資材調達の可能性を模索している.

このような状況の下,農協を含む調達先と農業経営との相互的な関係性を維持するための新たな制度や慣行の構築が求められていると言える.しかし先行研究では収益向上とコスト削減を目指す水平的ネットワークの構築に関する研究は見られるものの,コスト削減を実現する調達先との垂直的な組織間の関係性構築に関する研究は見られない.個人経営が主である日本農業においては,農協からの資材調達に見られるような長期的関係性の構築・維持による資材調達の効率化を図る取引文化,つまり不完全競争下での資材調達取引が残存しており,農業経営と調達先との垂直的関係性が農業経営に与える影響を明らかにする意義は高い.

先行研究より農家間の水平的な関係はネットワークで示されるが,農業経営と販売業者・供給業者を含む垂直的な関係性が判然としていない.そこで本研究ではこのような垂直的な関係性をKotler and Keller(2006)になぞってリレーションシップと規定し,その中での「つき合い」取引と称される現状の農業経営における資材調達の特殊性を明らかにすることを試みる.なお,農家や原料メーカー,加工,販売業者間におけるネットワークとリレーションシップの関係性を図1に示す.

図1.

ネットワークとリレーションシップの関係概念図

3. 農業経営の資材調達の特色

本研究では調達先との関係性の構築過程とその経済性を明らかにするため,若手農業者に焦点を当て,その資材調達方法をまとめる.具体的には,若手農業者が組織化し調達先からの効率的な資材調達を行う株式会社兵庫大地の会(以下,大地の会)と,予約購買による資材調達を行う南あわじ市の若手農業者への聞き取り調査結果の2例をまとめる.

(1) 大地の会の概要と資材調達

大地の会は兵庫県の若手稲作農家を中心に平成24年3月に資本金150万円で株式会社化した組織であり,生産情報の共有化や購買活動・販売活動の効率化を行っている.もともと8名の米生産農家で始まったが,現状では25名で構成される組織となっており,組織構成としては一人の代表とその他従業員がそれぞれの職務を持つ社として働いている.生産面積は総計で700 ha,社員となるには1年間の経営状況の確認が必要となる.本研究では月に1回開催される役員総会にて聞き取り調査を行い,主に54歳の社長と40代以下の役員の返答を得た.

主な販売先は農協の直売所や消費者への直接販売,全農への出荷となっている.消費者ニーズに即して多様な品種を生産しているが,それらの生産体制は対応可能な社員が生産する.社員は大地の会として得た情報を無料で活用できるが,大地の会ブランドでの販売の際には5%の手数料を支払う.一方資材調達では,肥料や農薬,機械など生産に必要な生産資材の調達内容をまとめ,大口取引による価格交渉および支払サイト交渉,効率的な生産のための情報提供依頼を行うことによって,社員は生産資材を大地の会から調達することが可能となる.しかし,生産品目による予約購買の他,農地の面的拡大を見越した上での地域の農協とのつき合いを継続する社員も存在し,各農業経営にとって大地の会も農協も資材調達のための「一つの選択肢」となっている.

上西(2016)によると,大地の会では①サービス内容,②価格,③支払いサイトの長さの3つの要因によって調達先の選定・交渉を行っている.①サービス内容については,生産資材に関する情報提供の程度や休日対応の有無などが基準となっている.資材品質に関しても多様な資材を試用し,生産資材にかかる情報獲得機会とも兼ね合わせて高品質な資材の購入を決定している.②価格に関しては大口取引による値引きの程度,③支払いサイトの長さに関しては長期の設定が可能であるかどうかが基準となっている.このような調達先の選定基準に加え,農業経営者と調達先との信頼関係を基にした④良好な人間関係の構築の必要性をまとめている.その背景として,長期的かつ継続的な取引を行うことによる資材調達にかかる雑務の軽減化や地域農業,日本農業への貢献への思いがある.

つまり資材調達を人間関係の構築・維持を通した地域農業・日本農業を維持するための一つの手段として見ている.このため社員に大地の会の活用を強要するのではなく,社員それぞれの地域の実情および関係性に合わせた活用を推進していると言える.

(2) 南あわじ市の若手農業者の概要と資材調達

一方,南あわじ市で新規就農した若手農業者2名は淡路島ブランドを活用した生産に取り組む.1名は現在30歳で,分家出身ではあるが本家が持つ農地を借地設定し,レタス約200 aを生産している.もう1名は現在35歳で,親戚の農地を借用し父親と共に就農したが平成24年に独立,借地でレタス80 aと玉ねぎ35 a,WCS米25 aに取り組んでいる.

これら2名の若手農業者の資材調達を支えているのがJAあわじ島である.南あわじ市は淡路島の約3分の1を占め,主な農業生産は温暖な気候特性を活かし,玉ねぎ,レタス,はくさい,キャベツ,ブロッコリー等の野菜中心,加えて米,畜産,果樹,花卉など多様な農産物を生産している.JAあわじ島の総販売額および各品目の販売額でみると,販売総額が約122億,うち玉ねぎが約47億(38.4%),レタスが47.7億(38.9%)を占めており,淡路島という地域ブランドを活用した販売を行っている.

一方の購買事業における総供給額は約61億に上る.生産に関しては他管轄JAと同様,多様な部会が存在しているが,出荷したことによって部会員と認知されるのみとなっており,栽培方法の統一や生産量の調整などは行われていない.

南あわじ市の若手農業者2名は,どちらも少量を青果業者やインターネットによって販売しているものの,大半を農協に出荷し,農協から生産資材を調達している.農協外に出荷する理由として,旬の時期にかかる出荷の際の待ち時間短縮や会心の出来栄えのものを個人的に販売するため等がある.しかし出荷業者・出荷形態を変更することによる諸経費・管理費が高いこと,また淡路島ブランドのシェアが下がることに対する危機感があり,産地維持という長期的視点に立った上で農協出荷を選択している.

これに伴い生産資材の調達も,自然と農協からの予約購買になっている.肥料商社やホームセンターも地元には存在し,肥料商社からの営業が来ることもあるが,価格の安さおよび在庫不足の際に試用はするものの,資材品質は農協から購入する場合と比べて高品質なものが購入できる訳ではなく,農協からの調達方法を変えようとは考えていない.

この理由として大きく3つの原因がある.それは農協が提供する①資材品質を維持するための経費,②出荷代金の入金と資材調達代金の支払いのタイミング,③営農指導体制である.

①資材品質を維持するための経費では,同等の品質のものであったとしても,自ら購入する場合にかかる人件費および燃料費とを販売価格に上乗せすると,予約購買によって入手する場合と同等の価格になるという算段がある.これは,総合的に見た場合の調達価格が影響していると言える.

②出荷代金の入金と資材調達代金の支払いのタイミングでは,期間を区切って出荷した量をまとめ,翌週には出荷分が入金されるという短期間での入金体制がある.また生産資材調達にかかる支払いは毎月末締め翌月10日払いと規定通り,大口取引に関しては3月・8月・12月の年3回の支払いとなっている.このように比較的良好なキャッシュフロー状況が維持できることが他の調達先との取引の煩雑さに繋がっている.ただし,経営者が交渉可能な支払条件とはなっていない.

③営農指導体制は,地域特有の人間関係を主とする原因となっている.JAあわじ島の営農指導員数は24~25名であり,生産に関する営農指導が農業経営に届きやすい状況が整えられている.また,兵庫県の農業試験場との連携や農協間での情報交換を行われており,若手農業者は営農指導員を介してそれらの情報を得やすい状況にあった.これは調達にかかるサービスの質が影響していると言える.

上記①~③の要因により,若手農業者においても農協を活用する理由として,現状の生産体制への満足度の高さにより,他の調達先の探索する必要性が低いことが挙げられる.つまり,確立された地域固有の淡路島ブランドによる高価格販売が維持できる体制にあることが,新規就農者・既存農業者に関わらず調達先の経路依存性を高めていると考えられる.

4. 農業経営におけるリレーションシップ

(1) リレーションシップの中の「つき合い」取引

1に示したネットワークの場合,農業経営者が組織化することによって購買の効率化,販売量に対する交渉のしやすさといった規模による効果が見込めるため,一定の基準を満たすことによる一方的な拡大方向を模索することが農業経営の効率化に直結する.一方リレーションシップの場合,農業者個人にしても組織化して量をまとめるにしても,取引業者は調達・販売量の限度や品質の他,これまでの取引実績といった慣習に着目した上での価格決定になる場合が多いことが聞き取り調査より分かった.

また農業経営の場合,地域ブランドを生産する場合など,リレーションシップが地縁的な人間関係に左右される場合があること,長期的な関係性の構築による繰り返し取引がリレーションシップの強化に影響することが南あわじ市の調査結果により分かっている.これは,調達先とのリレーションシップが農業経営に影響を及ぼし,繰り返し取引の中で各農業経営の短期目標および中長期目標を明確に共有できるからであることも考察できる.

特に農業経営における資材調達に関するリレーションシップの中で「つき合い」と呼ばれる取引がある.このようなリレーションシップの一部である「つき合い」取引の市場構造を規定するのは,聞き取り結果より,㋐地縁関係も含む長期取引の中での人間的信頼関係,および㋑その信頼関係の中での繰り返し取引による情報開示度,㋒情報開示を通じた経営情報の共有度の高さ,㋓経営情報の共有を前提とした歩み寄りの度合いによってまとめられる.そして「つき合い」取引構造の中で以下のような経営行動をとることになる.㋐長期取引の中での人間的信頼関係を構築することにより資材調達先の可能性を下げ,参入障壁を設けることによって調達先から最大の調達メリットを引き出そうとする.㋑繰り返し取引によって㋐の強化を図る(つまり,経路依存性を高める)とともに調達価格の弾力性を下げ,自らの経営目標に沿った資材を継続的に低コストで購入しようとする.このようにして獲得した長期的関係性の中で㋒経営情報の共有度を高めることによって,代替品の探索にかかるコストを下げ,調達条件をより良くすることによるキャッシュフローの維持を図るとともに,㋓調達先との歩み寄りを図ることによって調達量の調整を行っている.

すなわち農業経営は㋐~㋓によって規定される長期的な調達品市場構造の中で,聞き取り調査によってまとめられる①調達価格,②調達品の品質,③調達にかかるサービス,④支払条件の要件において経営行動の管理を行っていると言える.これを図示すると,図2のような概念図になる.

図2.

リレーションシップと「つき合い」取引の関係概念図

このことから「つき合い」取引を定義すると,「つき合い」取引とはリレーションシップに包含される取引の一種であり,農業経営が設定する目標から発生する取引要因に影響を与えていると言える.つまり中長期的な取引上の費用の低減による利得の増加を見込んだ経済行動であり,短期的かつ価格のみに注目するのではなく,価格以外のサービスを含めた長期的な取引の包括的評価に基づく経済行動である.ただし,長期的な評価であるが故に経済性を主軸とした取引行動においては,調達先選択の自由度が低下するという性格を有していることも事実である.

(2) 「つき合い」取引管理の必要性

上記のような「つき合い」取引の仮定に基づき,調達先管理の4つの要因が「つき合い」取引の市場構造から受ける影響を,聞き取り結果を基に,その程度も踏まえて考察し,「つき合い」取引が経営に与える影響を明らかにする.

①調達価格に関して,調達先との「つき合い」取引により,低価格での調達交渉の可能性,およびその交渉による農業所得の向上に影響を与える.調査結果では,大地の会にしても南あわじ市の若手農業者にしても低価格での購入のみを志向しているのではなく,調達品によっては他の調達先と比較して高価格であっても購入する場面も見られた.

この経営行動は「つき合い」取引が高価格資材の調達を規定し,短期的には所得低下の原因となっているように見える.しかし経営者自ら調達した場合の諸経費を考慮したとしても,長期的関係性の構築による法外に高額な価格は設定されない状況や地域固有のブランド品目の生産による経路依存性が見られる.つまり㋐地縁関係を含む長期的関係性の中での人間的信頼関係,および農地集積による規模拡大の可能性や効率的な生産方法といった㋒情報開示を通じた経営情報の共有度の高さが長期的な地域内での関係性および地域農業の維持という目標への整合性に基づく経営行動に特に影響している.加えて南あわじ市の場合,地域ブランドの生産を基軸としているため㋑繰り返し取引による情報開示が見られる.

②調達品の品質に関しては,特に調達品に付随する情報は含まず,調達品そのものの使い勝手を指す.調達先との「つき合い」取引の有無に関わらず,農業経営者は高品質な生産資材を調達することが分かった.特に大地の会ではより高品質な資材を調達するための調達先の探索を継続的に行い,様々な調達先を試用するという行動が見られる.一方,南あわじ市の若手農業者のように,同程度のものであれば長期的関係性を構築している調達先から購入するという行動も見られる.

まとめると,高品質な資材を調達することは㋐地縁関係も含めた長期的関係性の中での人間的信頼性の中では当たり前であるという認識がある.このことより,長期的関係性を構築した調達先からの調達で固定することによる調達先の管理を行うことが考えられる.この一方,大地の会の事例の通り,自経営を把握した上での㋒情報開示を通じた経営情報の共有度の高さで,より良い資材を調達するための調達先の管理行動も見られた.

③調達にかかるサービスに関しては特に,農業経営が設定する目標に沿うか否かが大きく影響している.大地の会では,長期的関係性・繰り返し取引を前提に,調達先が商品に付随して提供するサービス内容と支払条件とを判別することにより,獲得可能な生産情報の引き出しを図っていた.このことより㋐~㋓すべてが経営行動を規定していると言える.一方,南あわじ市の事例においては,地域ブランド生産を前提とする予約購買による生産効率の向上を,営農指導員を通じた生産情報の獲得によって達成している.しかし規定通りの支払条件等,調達先から経営に対する考慮は少なく,㋐~㋒が調達先選択に影響していると言える.

④支払条件における「つき合い」取引の影響は大地の会の事例において顕著に見られる.多様な調達先が新規であるか既存であるかに関わらず,支払条件の交渉が農業経営の良好なキャッシュフロー状態を保つのに寄与している.つまりこの要因においては特に,㋑信頼関係の中での繰り返し取引による情報開示度および㋒情報開示を通じた経営情報の共有度の高さ,㋓経営情報の共有を前提とした歩み寄りの度合いが経営行動に影響を与えていると言える.しかし南あわじ市の若手農業者にとって地域ブランドを生産することによる「つき合い」取引は農協の部門別に起因する支払条件の固定化につながっており,寄与しているとは言い難い.故に南あわじ市の若手農業者にとって㋐地縁関係を含む長期取引の中での人間的信頼関係および㋑繰り返し取引が経営行動に影響していると言える.

これらの結果より,大地の会および南あわじ市の若手農業者の「つき合い」取引の規定要因と経営行動との関係性をまとめると,それぞれ表1,表2のようになる.つまり,「つき合い」取引の規定要因によって経営行動への影響の程度が決定すると言える.具体的には,①調達価格に関しては「つき合い」取引からの影響があるほど低価格を求めることは困難になり,②調達品の品質に関しては「つき合い」取引のうち㋐地縁関係も含めた長期的関係性の中での人間的信頼関係が最も重要な要因であり,その要因が経営行動に大きく影響を与えるとまとめられる.このように高品質である一方,高価格になりがちな「つき合い」取引のバランスを取るために大地の会の事例ように③調達にかかるサービスや④支払条件における「つき合い」取引の規定要因を利用し経営行動への影響を高めることによって調整を図ったり,南あわじ市の若手農業者の事例のように③調達にかかるサービスが得られることによって④支払条件を妥協したりするなど,他の経営行動に影響を与えているとまとめられる.

表1. 大地の会の「つきあい」取引規定要因と経営行動との関係性
①価格 ②品質 ③サービス ④支払
㋐人間的信頼関係 1)
㋑繰り返し取引
㋒経営情報の共有
㋓歩み寄りの度合い
影響の程度

資料:著者作成.

1)経営行動に影響している場合は「○」,そうでない場合は「―」としている.

表2. 南あわじ市の若手農業者の「つき合い」取引規定要因と経営行動との関係性
①価格 ②品質 ③サービス ④支払
㋐人間的信頼関係 1)
㋑繰り返し取引
㋒経営情報の共有
㋓歩み寄りの度合い
影響の程度

資料:著者作成.

1)経営行動に影響している場合は「○」,そうでない場合は「―」としている.

このように「つき合い」取引は農業経営の経済性に影響を与えている.その背景には「つき合い」取引が一般的なマーケティング論と同様に,希望価格や納品方法,支払条件の他,各農業経営の経営目標など,詳細な経営情報への理解を求め,その経営行動を規定するからであると言える.さらに「つき合い」取引の場合.①~④のような調達行動が短期的に収入に負の影響を与えたとしても,特に調達先からの③調達にかかるサービスによる経営目標を達成する長期的な期待感が残る.このため農業経営は短期的には所得が低下しても長期的な展望によって調達先を選択する「つき合い」取引を行うと考えられる.つまり,CRMの機能でもある顧客価値の最大化に沿って農業経営が長期的関係性の中で調達行動の成果を調達先にフィードバックすることが経路依存性を高めることになり,より「つき合い」取引の選択を強固なものにしていると言える.さらに調達先のフィードバックの結果によっては,「つき合い」取引における調達方法に変化をもたらすと考察できる.

特に農業経営の経営目標は長期的な展望に基づく.このため地域の基幹産業としての活性化や地域ブランドの確立・維持などに関わる情報など,調達先を含む外部の組織が農業経営にもたらす情報は農業経営との「つき合い」取引に大いに影響を与える.このため生産品目やブランド化の状況等,地域の状況によっては「つき合い」取引が規定される場合があることが,南あわじ市の若手農業者の例によっても示されている.このことは農業経営における「つき合い」取引の特徴と言えよう.

5. 農業経営における資材調達方式の検討

更に「つき合い」取引を基とした現状の農業経営の調達方法の違いを明らかにするために,上記のような「つき合い」取引の経済性と規定性を考慮した,現状の農業経営における調達方式を分類する.

Cannon and Perreault(1999)は企業と購買者とのリレーションシップを変化させる要因として代替製品の利用可能性と供給の重要性,供給の複雑性,供給市場のダイナミズムの4つに着目しリレーションシップを8カテゴリーに分類した.すなわち①基本的購買と販売,②ベア・ボーンズ(最小限),③契約取引,④カスタマー・サプライ,⑤協力システム,⑥コラボレート,⑦相互適応,⑧顧客は神様である.

①基本的購買と販売とは,適度なレベルの協力と情報交換を伴う比較的シンプルでルーチン化した取引を指し,この①と類似しているが販売者側の歩み寄りが大きく,協力や情報交換の度合いが小さい取引を②ベア・ボーンズ(最小限)としている.③契約取引とは一般的に信頼,協力,交流の度合いが低く,正式な契約による取引を指す.④カスタマー・サプライは協力よりも競争が勝るタイプの供給形態であり,⑤協力システムとは逆に,法的手段や適応アプローチを通しての構造的なコミットメントがないにも関わらず運営面で密接につながっている取引を指す.⑥コラボレートは信頼やコミットメントが大きく,リレーションシップを通してパートナーシップを結ぶような取引を指す.⑦相互適応とは,購買者と販売者にとってリレーションシップ特有の適応が顕著であるが,必ずしも強い信頼や協力がある訳ではない場合の取引のことを指し,⑧顧客は神様とは,密接で協力的なリレーションシップにより結びついているが,販売者の方が顧客ニーズに合わせる取引であり,顧客側が販売者に適応したり変化したりすることを期待していない取引である.

この分類を援用し「つき合い」取引による調達先選定の自由度の低下および「つき合い」の管理による調達先選定の要因が農業経営に与える影響と現状の調達方法との関係性を示すと,表3のようにまとめられる.なお,上述の調達先選定要因の通り「つき合い」取引における生産資材の品質に関しては高品質な資材が供給されることを前提としていた.このため分類の際には生産に影響を与える低品質な資材を選択することはないと仮定している.

表3. 農業経営における調達方式
価格 品質1) サービス 支払2) 方式 調達先
× 即時調達方式 ホームセンター専門業者
ホームセンター特化方式 ホームセンター
× 調達先交渉方式 専門業者
調達先協力方式 専門業者
× 資材センター利用方式 農協
調達先適応方式 専門業者
× 従来方式 農協
コラボレーション方式 専門業者

資料:著者作成.

1)低品質を選択することはないと仮定している.

2)支払条件が交渉可能である場合「○」,交渉不可である場合「×」としている.

即時調達方式とは,資材を必要な時に農業経営者が自らホームセンター等から調達する方式であり,ホームセンター特化方式とは,地域のホームセンターが独自に設定する支払条件を活用して,農業経営者が自ら調達する方式である.調達先交渉方式とは,価格や支払条件等によってより良い調達先を選定する方式であり,調達先協力方式とは,調達先からの密接なリレーションシップによって達成される方式である.資材センター利用方式とは,農協が運営する資材センター(資材販売店)を利用する方式であり,ホームセンターよりも高価格であるものの,農業経営者が自ら調達するのに利便性が良い場合に採用される.調達先適応方式とは,調達先からの密接なリレーションシップは期待できないものの,選定可能な調達先の一つとして利用する方式である.従来方式とは資材調達を農協の購買部門に依拠するこれまでの調達方式に即した方式であり,コラボレーション方式とは,調達価格は高いものの調達不可能な価格ではなく,支払条件等の従来方式からの課題をクリアした方式である.本研究における大地の会の例はコラボレーション方式,南あわじ市の若手農業者の場合は従来方式であると言える.

このような方式の違いは他産業と同様,社会情勢によっても変化するとともに,農業経営における目標設定,すなわち経営戦略にも影響を与えている.このことはすなわち,農業経営における収益性にも影響を与えると考えられるが,それぞれの方式が収益性に与える影響に関しては,論を改めたい.

6. 結果と今後の課題

本研究では農業経営における調達の際の「つき合い」取引の構造とそれに基づく経営行動とを明らかにした.さらにそれらの結果から現状の農業経営における調達方式の分類を試み,農業経営の調達方法の多様性「つき合い」取引管理の必要性を明らかにした.すなわち農業経営における「つき合い」取引管理は,その管理如何によって経営行動が左右されること,また地域ブランドの確立・維持のために生産体制が確立されている場合,「つき合い」取引が農業経営を規定することが示された.

また,リレーションシップの影響要因と管理方法によって分類されている現状の農業経営における調達方式の違いは,農業経営が選択する経営戦略によって左右される可能性があることを本研究では示している.しかし,調査事例の少なさによる研究結果の限定性があることも否めず,具体的にそれぞれの方式を選択することによってどのように農業経営の収益性に影響を与えるかまでには至らなかった.それぞれの調達方式を採用する経営を精緻に調査し,収益性を分析することを今後の課題としたい.

引用文献
  •  磯村 昌彦(2011)「自動車用鋼板取引における集中購買システムの進化」『経営史学』45(4),29–51.
  • 井出秀樹(1994)「ハーバード学派」小西唯雄編『産業組織論の新潮流と競争政策』晃洋書房,15–26.
  •  上西 良廣(2016)「㈱兵庫大地の会-兵庫県」『農業と経済』82(9),89–93.
  •  加護野 忠男(2007)「取引の文化:地域産業の制度的叡智」『国民経済雑誌』196(1),109–118.
  •  門間 敏幸(2006)「日本農業の新たな担い手としてのフランチャイズ型農業経営の特色と意義」『農業および園芸』81(9),947–952.
  • Kotler, P. and Keller, K. L. (2006) Marketing Management, 12th ed.(月谷真紀訳『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント(第12版)』丸善出版,2016).
  •  Cannon,  J. P. and  Perreault Jr.,  W. D. (1999) Buyer-Seller Relationships in Business Markets. Journal of Marketing Research, 36(1), 439–460.
  •  Liebowitz,  S. J. and  Margolis,  S. E. (1995) Path dependence, lock-in, and history. Journal of Low, Economics and Organization, 11(1), 205–226.
 
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