Journal of Rural Problems
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Book Review
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Megumi Oomiya
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2019 Volume 55 Issue 2 Pages 105-106

Details

本書は超高齢社会における高齢者の配食・給食システムおよび医福食農連携のバリューチェーンの構築について複数の研究者・実務者によって執筆されている.まずは,本書の構成に従い序章,Ⅰ~Ⅲ部に構成される各章ごとに概観していく.

序章では医福食農の連携が介護食品,薬草生産の拡大,障害者雇用などの視点から注目されるが,それでは本来の課題をやや矮小化しすぎており,6次産業化の戦略と同様にバリューチェーンの構築の視点から解明する必要があるとの課題を提起し本章へ進む.

第Ⅰ部「高齢化社会と食ビジネス」は第1~3章から成る.

第1章では,要介護者はもとより,食ビジネスの対象としてアクティブシニアの存在を挙げる.当該市場における特徴を分析し,要介護状態を予防し快適な生活を送るためには彼らが共通に感じる「難」の解消に努める食品が必要であると提案する.

第2章では,複数の病院を有する医療法人が建設したセントラルキッチン(以下,CK)の導入から運営について実務的な立場で事例が紹介される.この中では障害者や高齢者の雇用,農家などと連携し使用野菜の70%を自社のカット野菜工場を利用するなど医福食農連携の一端が示され,地域包括ケアシステムにおける食の分野でCKが優位であることが示唆されている.

第3章では,高齢者福祉施設における制度的根拠や高齢者の栄養・食事管理の特徴が整理されている.在宅において高齢者の健康・栄養状態をアセスメントし適切な栄養を確保するためには宅配ができる環境の整備と高齢者の金銭的負担の軽減が求められ,これが高齢者の食事の安定,さらに健康寿命の延伸につながると指摘する.

第Ⅱ部は「配食・給食サービスの革新とフードシステム」であり,同じく3章で構成される.

第1章では,配食サービスと福祉の統合に焦点を絞り,上野千鶴子の「私」「官」「民」「協」の4つのセクターを引用し,福祉ビジネスにおいては「官」よりも「協」「民」という主体がより重視されることを紹介し,これらの主体において配食サービスを取り巻く現状について事例を交えて整理している.

第2章では,病院・施設における給食収支の悪化と人手不足解消のためには,一定規模病院の新調理システムへの移行,中小病院,介護施設のサテライト化,法人グループのCK新設を提案している.さらに,CKを核とした患者・介護給食,食品工場へ給食メニューの開発と販売,中間事業者や食品小売業を介した在宅配食などの新たなフードチェーン構想について述べている.

第3章は,給食受託会社の事業戦略についてである.その特徴は全国8箇所の拠点を中心としたセントラルバイイングと地域小売業者からのローカルバイイングを組み合わせた物流機能であり,CKの新設から既存CKの増産体制の確立が図られていた.さらに個人や小規模施設への配食事業,物流機能を活かした外販事業を視野に入れており,委託化が進行する中でそれを受託する企業の戦略を事業者の立場から示したといえる.

第Ⅲ部は「医福食農連携とフードシステムの革新」であり,Ⅰ~Ⅲ部の議論を踏まえた総括とこれまでの事例とは異なる市民グループを主体とする配食サービスについて紹介される.

第1章では,第Ⅱ部1章に取り上げた事例をさらに発展させ,佐久医療センターのCKとJA佐久浅間のカット野菜の食材提供を通じた連携,青森保健生活協同組合とコープ青森による「協同組合間協同」を今一度整理し,農村のモデルとして位置づけた.とくに,JAについては農村における組織的優位性を持ち,配食事業においてもJA間・医療法人・生協との連携によって農業生産とのチェーンを構築すべきであると指摘している.一方,都市部では,生協およびNPOにおける事業へ着目している.なお,むすびに著者は医福食については新たな関係の構築がなされるが,農業との関係はいくつかの品目や特定の産地の取り組みを除けば,単に仕入れ業者という関係に留まっていることが多く,サプライチェーンの構築までには進展していない,と断言していることに留意しておきたい.

第2章では,ボランティア参加を伴って生成された市民参加型食事サービスについて取り上げている.著者はこのサービスをフードシステム内における一つのサブシステムと位置づけ,収益を上げることは困難だが既存の制度の隙間を埋めるサービスであると指摘する.

では,次に本書について評者の感じたコメントについて述べていく.

まず,「医福食農の連携」を含めて,本書の提案したい概念が,複数の著者が論じる中で,やや難解であった.またそのフードシステムについても新旧の実態が明確に示されず,変化がどこを指すのか読者には分りにくいのではないだろうか.疑問に感じたことをもう少し詳しく整序してみる.

第一に,医福食農連携とCKの関係である.CKは規模の経済の追求であり,食材についてはコスト意識が強く働く.第Ⅲ部1章でも指摘されるが,これこそが農業との関係が仕入先に留まる所以であろう.評者も病院給食の食材調達について研究してきたが,とくに地域農業と給食部門の連携には,物流量の確保や品目が限定的となるなど,選択的に産地を限定することはコストが増大し,CK化との矛盾が生じるのではないだろうか.

第二に,地域包括ケアシステムにおいて,医療法人のCKなどが配食サービスを担うことについてである.配食サービス自体は本書でも取り上げるように複数の主体で行われる.しかし給食運営部門がこれらを担うためには,別会社の設立や配送事業を他事業者へ委託することが本書でも指摘され,その実現可能性について詳細な提案が欲しかった.

第三に,全国的な新調理システム導入率や委託化,CK化など動向についての根拠が不足している点である.本書を読み進める上で,数量的なデータや根拠となる事例が少なく,これらが先進事例であるのか一般化されているものかが判断に苦慮した.

最後に本書が評価される点について簡単ではあるがまとめていく.

高齢者を取り巻く環境として,従来の病院での療養や施設での介護から,住み慣れた地域での在宅介護へと国の方針が転換していく中で,継続的な食事の支援方法が課題となっている.また,これまで食事を提供してきた給食部門自体も課題を抱えていることを本書は指摘している.その解消として既存施設のCK化から,CKなどを通じた配食事業,食ビジネスとしての企業の存在,協同組合やNPOの活動など多様な主体が本書では提案される.食事は個人の生活環境,所得,身体状態,嗜好などが強く影響し,高齢者となれば更に身体状態への配慮も必要な場合が多い.そのニーズに適合した供給主体は多様に存在すべきであり本書はそれを示したといえる.また都市部と農村部では特徴が異なることを指摘したことも意義深く,今後当該研究における分析の視点ともなろう.とくに医福と食そして農の連携構築の可能性を示した主体として「協」の存在を指摘し,人々のくらしを支えていくシステムの一端をこれらが担うことを示したことは大変意義深い.本書が始まったばかりの当該研究の議論を深める一冊になることを期待したい.

 
© 2019 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
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