Journal of Rural Problems
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Short Papers
Increasing Produce Consumption of Patrons of Farmers’ markets
Mihoko SuzukiAkiko Kitabatake
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2019 Volume 55 Issue 2 Pages 89-96

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Abstract

This study investigated peoples’ attitudes towards health and diet by specifically targeting patrons of farmers’ markets. Four groups were identified. The largest group prioritized ease of preparation of dishes as well as shorter preparation times. This group differs from the consumer base that market proprietors previously envisioned. To appeal to this group and simultaneously increase the consumption of produce, information about their unfulfilled needs was collected. Next, three-/four-step recipes were designed for dishes that could be prepared by two individuals within 10–15 minutes each. We believe the design of these recipes and the concept underlying these designs are both highly valuable and practical.

1. 背景と目的

JAが運営主体となっている農産物直売所(以下「JA直売所」という)は,2016年度日本農業新聞の調査1で推定売上高5億円以上が133店舗と示されている.神奈川県のJA直売所は2017年で39店舗あり,売上高10億円の大型店は3店舗存在する.しかし近年JA直売所の売上高は,横ばい傾向が続いている.森下(2013)は,2009年以降のJA直売所を中心とした売上高の減少や延びの鈍化の要因の一つに,直売所の強みである,顔の見える安全性や生産者との会話が,売り場面積の大型化に伴い失われたことを挙げている.

一方神奈川県では,県民の健康寿命の延伸に向けた取り組みを進めており,その中でJA直売所は県産農産物を活用した食育,食農を進める拠点として期待されている.

佐藤他(2015)は,JA直売所の利用者を対象とした成人向け食育イベントでの調査で,「健康日本21」が推奨する野菜の目標摂取量350 gの認識率が39%と低いこと,自身の摂取量を意識せず野菜を摂取している利用者が多いことを報告している.

さらに,直売所利用者に食事記録調査を実施したところ,野菜摂取を意識しているが,目標摂取量350 gに満たない層の存在を明らかにした(佐藤他,2018).

そこで,直売所の本来の強みである消費者との情報交流に改めて注目し,その手段として直売所利用者のニーズに沿ったレシピ提供を行うため,利用者のニーズ解明を行うこととした.

直売所の運営に関する文献や調査報告書2などでは,農産物の利用提案,レシピ提供の必要性が述べられており,実際JA直売所ではレシピが提供されている.しかし,筆者が過去に実施した直売所利用者への調査では,「レシピがあることは知っているが,活用していない」との回答が多くを占めていた.さらに,利用者のニーズの把握と,そのニーズに対応したレシピがどのような効果を有するかを検証した事例はない.神奈川県(2018)によれば,県産野菜の流通実態は27%が直売等であり,直売所が青果物の流通・販売の重要な位置を占めている.野菜摂取量増加を目的としたレシピのコンセプト開発は,直売所の差別化と共に農産物の販売促進も期待できる.

そこで本稿では,直売所利用者を食と健康の側面から類型化し,ターゲット層を特定する.また,そのターゲット層の未充足ニーズを明らかにする.さらに,ターゲット層のニーズに対応したレシピコンセプトを解明し,その内容の評価を求めた取り組みを報告する.

2. 直売所利用者層の分類

(1) 調査方法

2013年から2015年にかけて,年に4カ所,合計12カ所のJA直売所で実施された「地産地消とヘルスケア」に関するイベントにて調査を行った.実施した曜日の区分は,平日が3日,土日が9日である.

年齢階層や所得水準で消費者を分類するよりも,意識タイプによって分類したほうが,背景となるニーズを捉えられるとした磯島(2006)の研究から料理や食材の購入に関する意識の項目を抽出し,さらに健康と食事の関連性についての項目を加え,合計8項目を利用者に提示し,「当てはまる」,「やや当てはまる」,「どちらでもない」,「あまり当てはまらない」,「当てはまらない」の5段階尺度の意識調査を行った.回答結果に因子分析を適用して因子を抽出し,各回答者の因子得点を用いたクラスター分析により類型化を行った.

その結果をもとに,性別,年代,直売所の利用頻度から類型の特徴付けを行った.同じイベント時に,2013年から2014年に6カ所の直売所で,「直売所でほしい情報」6項目について複数選択による回答を求めた.さらに,レシピ作成の参考として,2013年と2015年に各1カ所合計2カ所で,夕食作りに要する時間を調査し,類型間の比較を行った.

(2) 結果

回答者は,男性220名,女性783名の合計1,003名である.回答者の年齢構成は,30歳代以下14%,40歳代16%,50歳代19%,60歳代32%,70歳代以上19%であった.家族構成は,単身世帯6%,2人世帯44%,3~4人世帯40%,5人以上の世帯が10%であった.直売所1カ所あたりの回答者数は,最大146名,最小29名である.

回答結果に,因子抽出法は最尤法を用い,因子の回転法はプロマックス回転を採用した.その結果,固有値1以上の3つの基本因子を抽出した(表1).

表1. 食生活や健康に関する意識の因子分析結果
調査項目 第1因子
健康関心
第2因子
料理関心
第3因子
商品と時間短縮関心
健康に気をつけている 0.81 −0.06 −0.06
栄養のバランスに気をつける 0.74 0.09 −0.08
健康にいい食材は使ってみる 0.39 0.05 0.41
料理レパートリーは多い −0.04 0.91 −0.03
料理が好き 0.07 0.74 −0.08
新しい食品は買ってみる 0.00 0.09 0.71
惣菜や冷凍食品を上手に使いたい −0.08 −0.10 0.44
料理の時間はかけたくない −0.01 −0.16 0.22
因子間相関 第2因子 0.50
第3因子 0.31 0.31

1)評価項目は,5:当てはまる~1:当てはまらない の5段階評価.因子抽出法:最尤法,回転法:Kaiserの正規化を伴うプロマックス法,固有値1以上を抽出.表中の数値は因子負荷量を示す.絶対値0.3以上を太字斜体で表示.

第1因子は「健康に気をつけている」,「栄養のバランスに気をつける」,「健康にいい食材は使ってみる」といった項目の関連が高いことから「健康関心因子」とした.

第2因子は「料理レパートリーは多い」,「料理が好き」といった項目の関連が高いことから,「料理関心因子」とした.

第3因子は,「健康にいい食材は使ってみる」,「新しい食品は買ってみる」の健康や新商品への関心や,「惣菜や冷凍食品を上手に使いたい」といった項目の関連が高く,「料理の時間はかけたくない」の因子負荷量が第3因子において高いことから,「商品と時間短縮関心因子」とした.

抽出した3因子を用いて,回答者の因子得点によって大規模クラスター分析,平方ユークリッド距離を適用し,回答者を4類型に分類し,さらに類型別に意識調査の比較を行った(表2).

表2. 因子得点を用いたクラスター分析による類型化
因子項目 類型1
食と健康
マルチ関心型
類型2
料理関心
保守型
類型3
時短と商品
関心型
類型4
食と健康
お任せ型
第1因子 健康関心因子 0.68 0.48 −0.29 −1.30
第2因子 料理関心因子 0.85 0.29 −0.39 −1.18
第3因子 商品&時間短縮関心因子 0.69 −0.71 0.21 −0.95
人数 313名 192名 339名 159名
割合 31% 19% 34% 16%

1)クラスター分析:大規模クラスター分析,平方ユークリッド距離による分類.数値は各類型における因子得点の平均値.絶対値0.3以上を太字斜体で表示.

第1類型は,3因子の因子得点がすべて高く,意識調査においても健康に気をつけ,料理好きで,健康食材や新商品への関心も高いことから,「食と健康マルチ関心型」とした.全体の31%,313名にあたる.

第2類型は,「健康関心因子」が高く,「商品と時間短縮関心因子」の因子得点が低く,意識調査においても,「新しい商品」や「惣菜や冷凍食品の利用」への関心が低いことから,「料理関心保守型」とした.全体の19%,192名にあたる.

第3類型は,料理関心因子の因子得点が低く,意識調査において,「料理の時間はかけたくない」や「新しい食品は買ってみる」が高いことから,「時短と商品関心型」とした.この類型が最も多く,全体の34%,339名にあたる.

第4類型は,3因子の因子得点がすべて低いことから,「食と健康お任せ型」とした.全体の16%,159名にあたる.

「時短と商品関心型」の12か所のJA直売所の類型の分布状況は,2か所の直売所においてそれぞれ22%と28%であったが,その他10か所は30%を超えていた.また調査曜日別では,平日調査日は32%,土日調査日では34%と差は認められなかった.

3において類型別の属性の特徴を示した.性別では「食と健康お任せ型」は男性の割合が高かった.次に家族構成では,「食と健康マルチ関心型」は2人世帯の割合が高く,「時短と商品関心型」では3~4人世帯,16歳以下の子供がいる家庭の割合が高かった.女性の年代別では,「食と健康マルチ関心型」が50歳代と60歳代が高く,「時短と商品関心型」は30歳代と40歳代が高い傾向が認められた.

表3. 類型別の基本属性(性別と年代)
属性 全体 直売所利用者の意識類型1)
食と健康
マルチ関心型
料理関心
保守型
時短と商品
関心型
食と健康
お任せ型
(名) (割合)
性別 男性 220 22% 14% 17% 24% 39%
女性 783 78% 86% 83% 76% 61%
家族構成 単身 63 6% 6% 7% 6% 7%
2人 436 43% 53% 39% 42% 34%
3~4人 403 40% 32% 42% 45% 45%
5人以上 96 10% 9% 12% 7% 13%
不明 5 1% 1% 1% 0% 1%
16歳以下の
子供の有無
いる 246 25% 17% 22% 30% 32%
いない 745 74% 82% 77% 69% 67%
不明 12 1% 2% 1% 1% 1%
女性の年代 ~30歳代 103 13% 6% 12% 17% 25%
40歳代 122 16% 11% 10% 21% 26%
50歳代 159 20% 23% 21% 22% 7%
60歳代 268 34% 39% 37% 28% 32%
70歳代~ 131 17% 21% 20% 12% 10%

1)太字斜体は,カイ二乗検定における調整済み残差が5%水準で有意に高いカ所を示す.

さらに,6カ所で調査を実施した「直売所で欲しい情報」を表4に示した.すべての類型の半数以上が「野菜がいっぱい食べられるレシピ」の提供と回答した.類型別では「時短と商品関心型」は「簡単な調理方法でできるレシピ」を,「食と健康,マルチ関心型」は「旬の野菜・果物を使ったレシピ」と「珍しい野菜・果物のレシピ」の要望が高く,類型ごとの関心の方向性と一致した.

表4. 類型別の直売所でほしい情報の項目別の回答割合
項目 全体 直売所利用者の意識類型1)
食と健康
マルチ関心型
料理関心
保守型
時短と商品
関心型
食と健康
お任せ型
(543名) (188名) (92名) (182名) (81名)
野菜がいっぱい食べられるレシピ 55% 55% 50% 59% 49%
簡単な調理方法でできるレシピ 49% 47% 38% 58% 43%
旬の野菜・果物を使ったレシピ 47% 51% 39% 49% 41%
珍しい野菜・果物のレシピ 42% 50% 42% 37% 35%
農家のオリジナルレシピ 38% 34% 38% 43% 35%
月ごとの旬の野菜・果物の出荷予定 27% 28% 24% 27% 28%
生産している農家の紹介 23% 26% 22% 20% 23%
レシピごとのカロリー栄養成分の表示 20% 23% 14% 23% 14%

1)2013年~2014年度にかけて6カ所の直売所にて調査を実施.複数回答にて回答を求めた.

夕食作りに要する時間とおかずの品数を類型別に整理したが,調理時間はいずれの類型でも60分程度が多く,差はみられなかった.

3. ターゲット層の特定と未充足ニーズの解明

(1) 調査方法

「時短と商品関心型」は,4類型の中で最も多く,30~40歳代の割合も高いことから,直売所の今後の顧客ターゲットと設定し,この層の未充足なニーズの抽出を行った.

プレ調査として,A直売所を利用する30歳~49歳の女性8名を対象に2015年8月に,「野菜料理を作る際のなやみ」についてグループインタビューを実施し,野菜料理の悩みに関する具体的項目を7項目抽出した.

次に2016年の5月と6月に,グループインタビューと同じA直売所において,「主に料理を担当している」利用者を対象に,抽出した7項目について複数選択による回答を求め,仮説の検証を行った.同時に,夕食づくりに要する時間および品数についても調査を行った.

(2) 結果

プレ調査であるグループインタビューにより,「野菜料理を作る際の悩み」として多く確認された7項目は図1に示したとおりである.「料理方法」,「味付け」をはじめ,「家族の好み」への対応などの意見が出された.

図1.

年代別の野菜料理のなやみに関する回答割合

次に抽出した項目を用いてアンケート調査を実施した.有効回答者数は130名ですべて女性であった.回答者の年齢構成は20~30歳代25%,40歳代27%,50歳代25%,60歳代以上23%であった.家族構成は,単身世帯5%,2人世帯28%,3人世帯29%,4人世帯23%,5人以上15%であった.

1に示すとおり野菜料理の悩みは,「野菜料理がいつもワンパターンになりがち(炒め物やサラダになる)」が最も多く,次いで「料理の味付けが同じようになってしまう」,「使う野菜の種類が多くない(いつも同じような野菜を使っている)」の順となり,この3項目において6割以上の回答者が「悩みが有る」と回答があった.特に40歳代は,上位2項目の「料理方法と味付けのワンパターン」について80%以上が「有る」と回答した.

5は夕食作りに要する時間とおかずの品数についでの回答である.回答者の83%にあたる109名から回答があった.時間は,「40分未満」が最も多く,次いで「40~50分」であった.おかずの品数は,時間にかかわらず3品程度が多かった.

表5. 夕食づくりにかかる時間とおかずの品数 (単位:名)
夕食づくりに
かかる時間
おかずの品数 全体
2品以下 3品程度 4品以上
40分未満 13 20 5 38
40~50分 7 18 5 30
50~60分 1 13 4 18
60分以上 5 14 4 23
全体 26 65 18 109

以上の結果から,「時短と商品関心型」の未充足ニーズを解消する次の5つの要素を,レシピ開発コンセプトと設定した.

1)調理時間が2人分で10分から15分

40分程度で3品のおかずを作っていること,2.の調査において2人世帯が多かったことから設定した.

2)調理工程が3から4工程で完成する

プレ調査の中で「簡単と感じる調理」は,「切る,調理する,味付けの3工程で完成」との意見が出されたことによる.

3)家庭に常備している調味料を使ってできるが目新しい味

プレ調査において,味付けのワンパターンを解消する提案は欲しいが,使い慣れない調味料は定着しないとの意見が出されたことによる.

4)他の野菜料理に応用できる調味料の配合

料理方法のワンパターンの解消と,使用する野菜の種類を増加させる目的で提案する.

5)幅広い年代層に好まれる味

「家族の好みがバラバラで作るのに時間がかかる」悩みに対応.

このコンセプトは,ターゲットとした顧客層のみならず,幅広い年代にも受容されると推定された.次に,このコンセプトの評価を行うこととした.

4. ニーズに対応したレシピ提供の効果測定

(1) 調査方法

野菜ソムリエに,3.の結果によるコンセプトに基づいた「なすのレシピ」の作成を依頼し,4品のレシピを掲載した配布資料(以下レシピ集)を作成した.

2017年7月の平日にB直売所において,対面式のアンケート調査を行った.B直売所は,最寄り駅から徒歩10分以内と交通の便の良い場所に立地しており,利用者が30歳代から40歳代の利用者が比較的多いとされているため選定した.

調査では,レシピ集の4品の見本を展示し,そのうちの「レンチンなすの中華あえ」(以下「なすの中華和え」)を試食提供しつつ,レシピ集の開発コンセプトを説明した.

その後,表6の「食と健康に関する4つの意識タイプ」から自分に当てはまる類型を1つ選択させた後,表7に示す「なすの中華和え」レシピ作成時のコンセプト8項目について,「良い」,「やや良い」,「どちらとも言えない」,「やや悪い」,「悪い」の5段階尺度で評価を求めた.さらに,野菜を使ったレシピに求める項目について複数回答により回答を求めた.

表6. 提示した「食と健康」に関する意識タイプ
タイプのそれぞれの内容
Aタイプ 時短と商品関心型
・お料理はやや苦手(料理レパートリーは多くないと思っている)
・新しい食品,健康にいい食品は興味がある
・料理の手間はできれば省きたいと思っている
・お惣菜や冷凍食品を上手に取り入れたい
Bタイプ 食と健康マルチ型
・健康に気をつけている
・新しい食品,健康にいい食品は興味がある
・お料理は好き(料理レパートリーは多い方だと思う)
・お惣菜や冷凍食品を上手に取り入れたい
Cタイプ 料理関心保守型
・健康に気をつけている
・お料理は好き(料理レパートリーは多い方だと思う)
・新商品はすぐに買う方ではない
Dタイプ 食と健康お任せ型
・食生活や健康管理はどちらかと言うと家族におまかせ
・直売所の農産物を色々試食してお気に入りを見つけたい
・家庭菜園や体験などをしてみたい
・新商品などはあまり関心がない
表7. 類型別の「なすの中華和え」レシピ作成時に配慮した点に関する評価
食と健康に
関する
意識類型
調理時間が2人前10分でできる 電子レンジ調理でできる 調理方法が簡単 たくさん野菜が食べられる 野菜を切って和えるだけでできる 家にある調味料を使って
できる
他の野菜でも使える調味料の配合 大人にも子供にも喜ばれる味
時短と商品関心 4.6 4.4 4.7 5.0 4.4 5.0 4.8 4.1
食と健康マルチ 4.5 4.6 4.7 4.7 4.6 4.7 4.7 4.3
料理関心保守 4.7 4.5 4.7 4.8 4.6 4.7 4.6 4.3
全体 4.6 4.5 4.7 4.8 4.6 4.8 4.7 4.3

1)5:良い~1:悪い の5段階で評価を求めた.表中の数値はその平均値.

(2) 結果

回答者数66名のうち,回答者数が1名であった「食と健康お任せ型」を除き,3類型65名を有効回答とした.「食と健康」に関する意識タイプは,「時短と商品関心型」が21%,「食と健康マルチ関心型」が39%,「料理関心保守型」は40%であった.

65名の回答者の属性は,女性が88%であった.年齢構成は,30歳代以下11%,40歳代15%,50歳代23%,60歳代以上49%,不明2%であった.また家族構成は,単身世帯3%,2人世帯32%,3人世帯34%,4人世帯20%,5人以上世帯6%,不明5%であった.

7にレシピ作成時のコンセプトの評価について類型別に示す.類型では「時短と商品関心型」の全体に占める割合が低かったものの,試食提供した「なすの中華和え」レシピの評価は回答者すべてから,作成時に配慮した要素のすべてで「やや良い」の4を超える評価を得た.

類型別に見ると,「時短と商品関心型」は,「たくさん野菜が食べられる」,家にある調味料を使ってできる」,「他の野菜でも使える調味料の配合」が高く,「大人にも子供にも喜ばれる味」がやや低かった.他の2類型は,全体の評価と同様の傾向がみられ,「たくさん野菜が食べられる」,「家にある調味料を使ってできる」の評価が高かった(表7).

2では,野菜を使ったレシピに求める要素を示した.「時短と商品関心型」,「食と健康マルチ関心型」は「作り置きできる野菜おかず」が高かった.また「時短と商品関心型」は,「野菜を使ったメインおかず」のほか,「電子レンジ調理のレシピ」と「野菜の使い切りレシピ」が他の2類型と比較して回答割合が高かった.

図2.

類型別の直売所のレシピに求める要素

「食と健康マルチ関心型」は,「疲労回復に役立つレシピ」,「数種類の野菜が一皿で食べられる」,「低カロリーのレシピ」が他の2類型と比較して高かった.「料理関心保守型」は,すべての項目で他の類型と比較して低かった.この類型は,料理好きで,料理のレパートリーが多いことが特徴である.その他の意見として,「凝ったメニュー」や「珍しい野菜のレシピ」がみられたことから,料理レパートリーを増やす要素を求めていると推測された(図2).

5. まとめ

本研究では,直売所の利用者の食と健康に関する意識は多様であり,関心の方向性も多様であり,大きく分けて4つの意識を持つ利用者像を明らかにすることができた.

今回注目すべきは全体の34%存在する「時短と商品関心型」である.この類型は,健康への関心はあるものの,料理の簡便さを志向し,惣菜などを上手に取り入れたいと考えていた.この層は,年代が30歳から40歳代と,16歳以下の子供がいる割合が高いことが特徴である.顧客の高齢化が進む直売所においては,次世代の顧客として確保すべき層であると考える.

調査場所や平日,土日の調査日に差が見られなかったことから,「神奈川県のJA直売所利用者の1/3が,料理の簡便さを求めている」と言える.しかし,今までこの層を意識して,調理時間や調理方法に配慮した情報は提供していなかった.

そこで夕食づくりに要する時間を調査し,時短を感じる調理時間と,野菜料理を作る際の悩みの内容を明らかにし,その未充足なニーズを解消するためのレシピ開発に向けた具体的なコンセプトを明らかにした.このコンセプトは,簡便化を志向する層だけでなく,直売所利用者に幅広く受容された.このことから,野菜摂取増加のみならず新野菜等のレシピ作成などにも広く活用できるであろう.さらに要望の高い「作り置きできる常備菜」や「野菜を使ったメインとなるおかず」の要素を加えることで提供するジャンルの幅が拡大すると考えられる.

現在JA直売所では,食育や地産地消推進をキーワードに,地域の大学や野菜ソムリエと連携したレシピの開発,提供が盛んに行われている.本報告で明らかにしたコンセプトを情報提供することで,連携する機関は,特に食育の世代に訴求効果のあるレシピ開発を行うことができる.レシピをもとに試食会や実演などのイベントを開催することにより,直売所の本来の強みである情報交流機能を発揮することができるであろう.

さらに,日本政策金融公庫(2018)の食の志向等に関する調査では,食の志向は「健康」,「経済性」,「簡便化」の三大志向に集中しており,特に20歳代と30歳代の「簡便化志向」は4割弱と,他の世代よりも高くなっている.そこで,市場出荷においても,このコンセプトを元にしたレシピは産地PR資料として活用できると考えられる.

今回はレシピのコンセプト追及にとどまり,レシピ提供が野菜摂取の増加,さらには直売所の野菜購入量増加につながるまでの効果測定には至っていない.しかし,鈴木ら(2016)は直売所利用者へのモニター調査から,野菜摂取量の増加を目指した講座の実施により,その後の野菜の摂取行動の変化を測定している.今後は,レシピの提供頻度や提供の方法について,今回のコンセプトを組み入れた調査を行って,その後の食行動と購買行動の変化について測定を行っていく予定である.その際には,測定の方法も含めて課題としたい.

謝辞

野菜摂取量の増加に向けた教育とグループインタビュー,アンケート調査に際しまして,鎌倉女子大学中谷弥栄子教授,河内公恵教授,東京医療保健大学佐藤祐子助教より,多大なご助言とご協力を賜りました.心より感謝申し上げます.

1  2017年8月12日付日本農業新聞1面に掲載.推定売上高5億円以上133店舗中110店舗からの回答のうち,売上高10億円以上は全国で39店舗,うち神奈川県は3店舗であった.

2  例えば青木(2002)は直売所のPRとして,レシピは不可欠であると述べている.また,日本政策金融公庫(2012)の「農産物直売所に関する消費者意識調査」では,消費者のニーズとして「試食」,「レシピ」の提供といったサービスへのニーズが高いとしている.

引用文献
 
© 2019 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
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