2021 Volume 57 Issue 1 Pages 23-26
In this report, I will 1) summarize the “role of social science,” 2) discuss the approaches of “qualitative research” and “quantitative research” based on my experience, and 3) discuss the future prospects using my collaborative research as a case study. The role of social science is to conduct medical treatment for social issues. The stages can be categorized as follows: basic research to clarify the nature of the issues in the social structure and construct hypotheses, clinical research to examine the universality of the constructed hypotheses in the field and to formulate countermeasures, and epidemiological research to prove the effectiveness of the formulated countermeasures in a time series or in a large population. In addition, qualitative and quantitative research have different areas of expertise. Qualitative research is good at constructing new hypotheses, while quantitative research is good at demonstrating the universality of hypotheses based on numerical values. I was able to have a very meaningful experience by collaborating with researchers who have different research methods on a common problem. The importance and necessity of interdisciplinary research is increasing. It is important to provide opportunities to tackle common problems with different research methods.
本報告の趣旨では,筆者自身が全く異なる研究分野で全く異なる研究手法を専門とする研究者と共同研究を行った経験に基づいて,これからの地域農林経済研究への期待を整理することである.筆者は,日本の農村をフィールドしてアンケート調査などの量的なデータを用いた計量的分析を行ってきた.共同研究者は,日本の都市をフィールドとしてインタビュー調査を主として質的なデータを用いて社会学的なアプローチの研究を行ってきていた.そこで,本報告では,「質的研究」と「量的研究」の融合の可能性を検討する.筆者と共同研究者は,7年ほど前に,あるプロジェクトに参加して,ベトナム・タイの農村でのフィールド調査に同行した.その中で,ベトナム等のアジアの発展途上国と日本との間での「関係性」に関する議論から,研究交流を行うようになった.現在は,アジアの発展途上国諸国の持続的・安定的な食料生産をテーマとして共同研究を行っている.
本報告では,まず地域農林研究である「社会科学の役割」を整理する.その後,筆者自身の経験から「質的研究」と「量的研究」との,それぞれのアプローチ方法などを考察する.最後に,筆者自身が行ってきた共同研究を事例として,これからの展望を考察する.学際的な研究の重要性・必要性が高まっている中で,全く異なる分野間での共同研究のきっかけになれば幸いである.
なお,本報告の内容には,筆者自身の「勝手な思い込み」が多く含まれおり,本文中に筆者自身の考えである点は分かるように記述しているつもりである.筆者自身の思い・考えに関しては,多くの皆様からのご意見やお叱りを頂き,更に新しい研究の在り方ができることを期待している.
大辞林では社会科学(social science)とは「社会現象を研究の対象とする科学の総称」とされている.また,文部科学省(2009)では「社会科学は人間集団や社会の在り方を主な研究対象とする学問で」,「研究対象は,基本的に人間によって作られたものである」としている.つまり,社会科学は,人間の行動を科学する学問であると考えることができる.そこから,社会科学には,社会の持つ様々な課題に対する解決策を提供し,その解決策の効果の有無を明らかにすることが求められている.社会科学の役割とは社会課題を治療する医療行為を行うことであると考えられる.この視点では,人間の持つ様々な症状への医療行為を提供する医学とよく似た役割を求められている学問であると考えることができる.
医学では,治療行為・医療行為が3種類に分類されている(山本,1981).基礎研究は,主にラボ(研究室)内で行われ,人体などの普遍的なメカニズムを解明することを主な目的とする.臨床研究では,実際に医療行為を起こっている現場をフィールドとして,治療法の有効性を確認することを目的とする.疫学研究では,社会全体を対象として医療行為の有効性を主に統計的分析に基づいて明らかにすることを目的としている(表1).この分類では,基礎研究により発見・開発された治療方法が,臨床研究によりその有効性の有無を確認し,疫学研究により,その治療方法の社会全体へのインパクトを計測する.この,治療方法の発見・開発→有効性確認→社会への普及の流れで,人間の持つ症状への医療行為が行われる.
治療・医療の3分類
| 分類 | 概要 | 研究手法等 |
|---|---|---|
| 基礎研究 | 人体の構造や機能・メカニズムを詳細に解析し,治療方法の基礎を構築する研究 | 研究室での実験を行い,対象は細胞・動物等が多い |
| 臨床研究 | 実際の患者を対象として診察して,治療法の選択,その有効性を明らかにする研究 | 特定の症状などを対象にした介入実験 |
| 疫学研究 | 大規模な人口・集団を対象とし,治療法の有効性などを調査し,普及を目的とする研究 | 医療経済・統計等の調査データに基づく研究 |
資料:山本(1981)を参考に筆者が作成.
この流れを社会科学に当てはめて考えてみると,1)社会科学における基礎研究とは,社会構造の課題の本質を明らかにし,普遍的な仮説を構築する研究,2)社会科学における臨床研究とは,現場などにおける構築された仮説の普遍性を検討し,対策を立案する研究,3)社会における疫学研究とは,立案された対策の有効性を,時系列や大規模な集団で証明する研究であると考えられる.ただし,医学では立案された治療行為を研究者自身が行うことが可能であるが,社会科学では立案された対策を実際に施策として社会実装を行うことは研究者自身には,非常に難しいと考えられる.
農林水産省(2020)の食料・農業・農村計画では,産業政策と地域政策を組み合わせて,食料の安定供給・食料自給率向上と食料安全保障の確立を目指している.地域農林経済研究は,農業生産とそれを取り巻く社会全体の課題を整理しその対応策を提示することが求められていると,筆者は考えている.
質的研究と量的研究の定義には,多くの解釈がある.ここで述べるものは,筆者自身の少ない経験に基づいて整理したものであることを断っておきたい.一般的に質的研究は,インタビュー・ヒアリング調査などに基づいて,普遍的な理論を構築することを目的として,社会全体をヒエラルキーの様に捉えていると,筆者は考えている.例えば,先進的な農業経営者を成功事例としてとらえてその成功要因を理論として構築するような研究である.「○○に関して××の知見を得た」といった結論が一般的である.一方,量的研究では,物事や事象を確率分布としてとらえて研究を行っており,その普遍性を課題として扱っていると考えられる.先行研究などに基づいて仮説を構築し,その仮説の一般性を統計的に明らかにして,「○○において××であることが明らかとなった」といった結論が多い(図1).

質的研究と量的研究の比較
資料:筆者作成
量的研究では統計的な手法が用いられ,結果が数値として示されることが一般的である.高木(2004)は,「一般的に統計学的方法を用いた量的研究は,データの主観的解釈を中心とする質的研究に比べて科学的方法であると考えられている」としている.しかし,その統計的分析を行う前提となる仮説や理論モデルは先行研究などから構築される.社会的な事例をとらえて,新たな仮説の構築は質的研究によってなされることが多い.秋津(2020)は,先行研究に入り込みすぎると,研究対象を既存研究の枠組みでしてしかとらえることしかできず,研究論文の独創性である「ズレ」を感じることができない,としている.更に,「質的研究のよいところは,『現実』がこのズレの発見の助けとなること」と指摘している.量的研究では,この様な「ズレ」は「誤差」や「残差」といった形で認識されることが多く,新しい仮説の構築につながることが少ないように,筆者自身は感じている.また,高木(2004)は「量的研究では適さない研究領域があるからであり,質的研究でしか扱えない研究課題が存在する」と述べている.この様に,質的研究と量的研究のそれぞれに得意とする研究視点と不得手とする研究視点がある.質的研究では,研究者自身が感じる「ズレ」に基づいて,社会現象・課題の整理を行い「〇〇でないか」との理論仮説の構築が可能である.一方で,量的研究では,この様にして構築された理論仮説を社会(母集団)での成立の有無を数値データに基づいて分析することでその普遍性の検証が可能である.理論仮説の構築から数値データに基づく実証までを一人の研究者が行うことが理想的である.
日本の外国人技能実習生(以下,「技能実習生」)は2018年に28万人を超えている.軍司・堀口(2016a)は,過疎高齢化が深化する日本の農村地域では,技能実習生が大規模農業経営に不可欠であることを指摘している.後藤(2015)は,経済モデル分析を適用し現在の制度では技能実習生の受け入れが日本全体の経済にネガティブな影響を与えるとしている.技能実習生やその制度に関しては,様々な立場からそれぞれの見解が示されており,その是非や有用性に関して多くの議論がなされている.これらの研究は,日本国内の実習生や受け入れ機関での調査に基づいたものが多く,実習生自身の実習・生活への「期待」や「希望」を調査したものはほとんど見られない.そこで,実習生を目指す途上国の若者の意識(「なぜ,実習生を選択したのか?」),希望(「どの様な実習生制度が評価されるのか?」)を整理した1.
(2) 研究の進め方と感想この研究では,実習生自身の意識を知ることを研究の課題とした.前述の様に実習生自身を対象とした調査・研究は極めて少なかった.軍司・堀口(2016b)は,カンボジアからの実習生の帰国後の追跡調査を行い,日本で実習が帰国後のキャリアップに貢献していることを明らかしている.しかし,彼らが実習生を目指した・選択した理由に関しては触れられていない.
共同研究者は,日本国内の実習生へのインタビュー調査を行ってきており,彼らが様々な希望をもって実習生として来日していることを感じていた.そこで,これらの「感じ」を仮説とした構築するために,更なるインタビュー調査を日本国内外にて実施した(表2).この調査に筆者も同行し,秋津(2020)の述べる質的研究者の「職人技」を実感した.筆者は先行研究に基づいて,仮説を構築し構造的な調査票を用いることが主であった.多岐にわたる会話の中で,トピックを整理するスキルを感じることで,非常に刺激なった.一方で,質的調査のみでは,複数の要因の重要度などを明らかにすることが困難であった.そこに量的な調査を行うことで,数値として,どの要因が最も重要であるか,また絶対的な重要度などを示すことが出来た.この様に,先行研究が極めて少ない分野での,仮説構築において質的研究が不可欠でる.また,普遍性を提示することが困難な研究である場合は量的研究を行うことでそれが可能となったと考えている.また,お互いの調査に同行することで,筆者自身では気が付かない新たな発見が多くあり,共同で調査票を作成するディスカッションが非常に有効であった.
研究の流れ
| 調査内容 | 調査結果概要 | 手法 | |
|---|---|---|---|
| 仮説構築 | 国内の実習生及び帰国した実習生へのインタビュー | 所得以外の要因もある,日本語能力の獲得,日本型の勤務方法の獲得など | 質的研究 |
| 仮説検証1 | 実習生送り出し機関でのインテビュー・アンケート調査 | 実習生が帰国後のサポートが重要 日本は公的な制度が充実している |
質的研究 量的研究 |
| 仮説検証2 | 選択型実験の適用 | 実習生自身の帰国後のスキルアップ | 量的研究 |
社会の現象が複雑化・細分化していく中で,社会の課題を整理して,対応策を提示する社会科学の意義は大きくなっていくと考えられる.複雑化・細分化していく中では,先行研究をベースとした仮説構築が困難となるケースも増えてくる.前述の様に,一人の研究者が,全てのステップ(医学での基礎研究・臨床研究・疫学研究)を行うことが理想だが,ほぼ不可能な状態である.本学会には,質的研究と量的研究の両アプローチの研究者が所属しており,異なる研究手法で共通の課題に取り組めるような場所(プラットフォーム)になっていると考えている.そのような特徴を活かした研究者同士のディスカッションが出来るように努力していきたいと考えている.