Journal of Rural Problems
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Short Papers
Development of Agriculture 4.0 in Germany
Iiguni YoshiakiNanseki Teruaki
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2021 Volume 57 Issue 2 Pages 31-37

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Abstract

This paper aims to describe the development and features of agriculture 4.0, or the fourth revolution applicable to this sector, in Germany. The concept was introduced by an institute, Leibniz-Forschungsverbund, based on industry 4.0. However, the concept remains multivocal and changing. The viewpoint of value chain played an important role in the initial concept of agriculture 4.0. However, it has not been emphasized in later discussions. Focus of the concept has moved to production process because of difficulty to establish M2M or machine-to-machine technology in agriculture that is a required condition for making the value chain flexible. The other typical feature of agriculture 4.0 is to take environmental conservation into consideration. The technology of agriculture 4.0 is also being applied to agricultural environmental programs.

1. はじめに

日本で精密農業やスマート農業が注目を集めるように,欧州でもデジタル技術を用いた新しいタイプの農業には多くの注目と期待が集まっている.そうした農業のひとつにドイツの農業4.0がある.

しかしながら,日本で農業4.0が取り上げられるとき,後に述べる新産業政策である産業4.0からの類推で語られることが多い1.ドイツで農業4.0がどのように概念化され,理解されているか,また,どのような実態にあり,いかなる方向に展開しつつあるのかについての分析は皆無に近い.また,EU農政がこれまで重視してきた農業環境政策との整合性についても情報はないままである.

そこで,本稿ではドイツ・バーデン・ヴュルテンブルグ州(以下BW州)を対象としたインタビュー調査を2019年11月18日から21日の間に実施し,その実態を分析した.

BW州の平均農業経営耕地面積は36.0haで,全国平均(63.1ha)の6割弱の水準にあり,その規模が最も小さい(BMEL, 2020a).また,有機農業面積比率についても13.2%と全国平均(9.7%)を大きく凌ぐ水準にある(BMEL, 2020b).加えて,BW州の農業政策は小規模な家族経営で環境保全的な経営形態を重視する姿勢を鮮明に打ち出している(MLR, 2020).したがって,農業4.0という新たな革新と農業環境政策の調和はBW州にとって重要な政策課題であることが予想される.また,後に述べるFAKTプログラムがEUの農村振興政策の環境保全プログラムとして先進的に取り組まれている点もBW州を調査対象とした理由である.

同州の調査では,農村空間及び消費者保護省(Ministerium für Ländlichen Raum und Verbraucher­schutz Baden-Württemberg:以下,農村空間・消費者保護省),ホーエンハイム大学農学部及びKTBL2においてインタビュー調査を実施した.いずれの機関においても農業4.0の理解やその適用のあり方について調査を行った.

以下では,これらの調査結果及び先行研究の検討結果をまとめる.まず,次節では農業4.0(Landwirtschaft 4.0)が提唱された経緯を産業4.0(Industrie 4.0)との経緯で整理する.農業4.0の捉え方については,ドイツにおいても共通の認識は確認できなかった3.その理解は多様であり,第2節では時系列的にその理解の変化を追跡する.第3節では,農業4.0の捉え方を関連省庁や研究者間で比較し,その多様性と共通性を確認する.第4節では,農業4.0の政策に沿って展開されている農業環境政策や技術開発の事例を紹介する.また,第5節では農業4.0に対する農業者の反応を整理し,第6節で,以上の分析結果をまとめる.

2. 農業4.0の起源

農業4.0はドイツの産業戦略である産業4.0を基礎として概念化された用語である4.産業4.0は,ドイツ経済省の「ハイテク戦略」に起源を持ち,モノとサービスのインターネットを製造業に導入した産業づくりを指している.産業4.0の検討は2006年に始まり,2010年の連邦教育研究省「ハイテク戦略2020」を経て,2013年に同省で策定された「戦略的イニシアチブ産業4.0実施のための勧告」(最終報告)でその方向が確定される(Federal Ministry of Education and Research, 2013).産業4.0では,スマート機械,在庫システム,生産施設が自律的に情報を交換し動くとともに,独立して相互に制御し合う.また,水平的及び垂直的なend to endのバリューチェーン全体のデジタル統合が進められる.象徴的な事例としては自動車工場があげられている.これまでの工場のラインでは硬直的で顧客のニーズに応じて車のシートを他社のものへ,例えば,フォルクスワーゲン社のシートをポルシェのものへと交換することはできない.しかし,産業4.0ではM2Mのネットワークを通じて,こうした柔軟な対応ができるとする.

農業4.0の概念は,この産業4.0にやや遅れてLeibniz研究協会が2016年にポジションペーパー「革新的農業4.0」で提唱した5.ここでは,農業4.0を産業4.0に基礎を置きつつ,生物経済的バリューチェーン(Bioökonomische Wertschöpfungs-kette)の要請に沿って発展させるものとして位置づけられている.また,革新的農業4.0では,(1)その地域に適した技術による自然資源や生態系の維持・改善と(2)さまざまな人口グループの栄養状況の現状や予測に基づいた高品質な食料品の提供の2つが目的とされる.

このように,Leibniz研究協会が提唱する農業4.0は食料品のバリューチェーンへの柔軟な対応が強く意識されている点に特徴がある.産業4.0枠組みを踏襲し,ほぼそのままに農業に適用したといってもよいであろう.

しかし,この後の展開では農業4.0の関心はもっぱら農業生産に向けられ,川下のニーズに対する柔軟な対応といった側面は後退する.

3. 農業4.0の捉え方の多様性と共通性

(1) 中央・地方政府の農業関係省の捉え方

連邦食糧農業省(BMEL, 2016)は,産業4.0を意識しながらも農業4.0という用語はほとんど使用せず,もっぱら農業のデジタル化(Digitalisierung in der Landwirtschaft)の表現をとる.ここでいうデジタル化とは,アナログ型の情報をデジタル型に転換することであり,デジタル情報やそれに基づいた利用システムに基礎づけられたプロセスを指す.

そのプロセスの説明は,M.ポーターら(Porter and Heppelmann, 2014)の図「業界の事業領域の変遷」に拠る6.この図をGindele and Doluschitz(2018)が簡略化して示したものが図1である.この図では1)製品,2)スマート製品,3)接続機能を持つスマート製品,4)製品システム,5)複合システムの5段階の発展プロセスが想定されている.ここでいう「製品(product)」とは機械部品や電気部品である,この製品にセンサーやマイクロプロセッサが搭載された製品が「スマート製品」となる.その製品がネットに接続すると「接続機能を持つスマート製品」,製品がセンサーで情報を収集し,製品を制御し,最適化も図るようになると自律性を高めて,他の製品と「製品システム」を形成する.そして,製品システム同士が連携すると「複合システム」に至る.

図1.

system of systemへ発展

資料:Gindele and Doluschitz(2018)より訳出の上転載.

このように,Porter and Heppelmannの図は産業4.0などに象徴される生産過程の変化を整理しているものの,産業4.0のようにバリューチェーンを強く意識したものとはなっていない.むしろ,生産過程のスマート化やデジタル化さらにはシステム化が主眼となっている.

その意味では,BW州の農村空間・消費者保護省も同様である.すなわち,ポーターらの理解に沿ってデジタル農業を捉えている(MLR, 2018).ただし,同省は農業4.0の用語を積極的に用いている点で連邦食糧農業省とは異なる.同省は農業4.0を「産業革命の展開に沿った農業分野の技術的な過程である.それは,機械の電子化や電子データの加工からデジタル化やネットワーク化システムの領域まで広がる」と捉える.その定義は広く曖昧である.

(2) 研究者の捉え方

研究者においても4.0の理解には曖昧さが残るものの,多くの場合,重層性・発展性をもって理解されている.例えば,DLG(2019)では農業4.0(デジタル農業)はスマート農業を包含するものとし,スマート農業は精密機械を包含するものとする.前の2つを分けるものはIoTやM2M技術,クラウド機能,ビックデータの利用などであり,後の2つを分けるものは情報の統合や分析を通じた意思決定支援とする(図2参照).

図2.

精密農業,スマート農業及びデジタル農業

資料:DLG(2019)より訳出の上転載.

また,Gindele and Doluschitz(2018)はその定義はあいまいなままであることを強調した後に,一般論として農業4.0を次のように定義する.すなわち,「農業4.0とは生産過程を自己制御し,機械と機械が交信し,現代的な情報・コミュニケーションシステムと接合している.また,コンピュータによる意思決定が用意され,さまざまなプロセスが垂直あるいは水平的に繋がっている状況」とする.その具体例として前掲の図1を示す.この図はすでに述べたように,M.ポーターらの概念図を簡略化したものであり,農業4.0の展開を段階的に捉えているものとなっている.なお,Gindele and Doluschitzは,図1の最終段階である複合システム(system of systems)を農業4.0と呼んでいる.

(3) 農業4.0理解の変遷

Leibniz研究協会が農業4.0を提唱した時点では,その像は産業4.0の枠組みをそのまま農業に移し替えた部分が少なくなかった.しかし,その後農業4.0が展開する過程で,バリューチェーンを重視するスタンスが薄れてくる.

これは農業技術が産業4.0で強調される多様なニーズに対応するM2Mのシステムの構築までには到達していないことに原因のひとつがあると考えられる.また,農産物の場合,産業4.0の事例に上げられる自動車や家具などと比較すると製品の多様性が少なく,消費者に届くまでにある中間過程が長い点も原因となっていると考えられる.例えば,自動車では,事例にあがっていたような座席シートの取り換え,家具であればスペースに応じた家具セットの製造など消費者から要請される製品の種類は多様である7.こうした場合,最終消費に応じて生産過程を変化しうる余地が大きい.しかし,農産物(例えば,キュウリ)ではそうした余地は大きくない.加えて,農産物の場合には加工段階で製品が付加価値や製品の多様性を大きく増加させることが少なくない.このため,消費者のニーズに合わせて生産過程を変更する余地は農業生産段階より加工段階の方が遥かに大きいといえる.

こうしたことから,当初は産業4.0を念頭に提唱された農業4.0は,バリューチェーンや川下との関係が薄れて農業の生産段階の技術をM2Mに向けて引き上げるところに焦点が絞られてきたのではないかと考えられる.

4. 農業環境政策へのデジタル技術の導入

(1) 農業4.0における環境への配慮

次に,農業環境保全と農業4.0の関係を検討する.この点について,結論をやや先取りすれば,環境保全には一貫して高い配慮がなされており,両者の整合性は高い.

例えば,Leibniz研究協会が農業4.0を提唱したときの目標の第一に自然資源や生態系の保全が述べられている点は上記で確認した通りである.連邦食糧農業省においても早い段階から「デジタル化は,私達の自然資源を保全し,農薬や肥料の利用を効率化して,環境保全に寄与する」あるいは「飼料ロボットや牛乳成分調整のための測定器さらに空調システムは動物愛護にも寄与する」として,デジタル化を環境保全や動物愛護に積極的に援用する姿勢をみせている(BMEL, 2016).

このほか,DLG(2019)も農業工学の視点から「デジタル化は,生産の効率化と環境保全を両立させるといったさまざまな目標のための最適化が可能となる」.また,「ロボット技術は小規模で,電気走行するものが多い.また,大規模圃場についても小さな機械を集めて作業ができる.こうした機械化は生産性や反収を落とさないし,生物多様性をも向上させる」と指摘する.また,農業4.0の技術は環境保全と整合的であり,大規模圃場などでも小型化で対応できるとの見通しを述べている.

(2) FAKTプログラムの導入

調査対象としたBW州には,そうした農業4.0と環境保全を組み合わせた試験的なプログラムが実施されている.それは精密農業(precision farming)プログラムである(MLR, 2017).

このプログラムは,MEPL III8の枠組み内で実施されている.MEPL IIIには16の分野があり,その中の農業環境,気候保護及び動物愛護への助成:Förderprogramm für Agrarumwelt, Klimaschutz und Tierwohlプログラム(FAKT9と略される)の下に精密農業プログラムがある10

このプログラムの目的は余分な肥料の散布を抑えて,表層・地下の窒素およびリン酸の含有量を引き下げることにある.受給要件は,次の通りである.

・実施期間は5年.

・次の精密農業の技術を一括して実施する

1)Nセンサーに基づく窒素の施肥(毎年)

2)リン酸肥料の必要量の調査

3)必要量に応じたリン酸(元肥)の適所施肥(5年に1度以上)

・デジタル地図や機械装備やマシーネンリンク利用などの記録

具体的には,プログラムの実施者はまず圃場に存在する窒素などの賦存量をセンサーで計測する.次に,植物体の生育状況を光センサーにより計測し吸収分を推計してから,最適な(不要な肥料分を除いた)施肥を実施する方法を特定して実施する.これらの制御はGISのデータを前提に計画されており,農地の実情に即した対応ができる仕組みとなっている.

このプログラムは単なるコスト削減ではなく,地下水保全を目的としたプログラムであることから,デジタル化による環境保全的な農業の実践の一事例と捉えることができる.

州政府からの補助金は1ha当たり80ユーロであり,大きな額ではない.また,農村空間・消費者保護省でのインタビュー調査によれば参加者は2015年の3戸から2018年には31戸へと順調に増えている.しかし,30戸程度で頭打ちの傾向にあり,参加農地も2018年時点で500ha弱,予算も400百万ユーロに留まっている.次期(MEPL IV)にどのように引き継ぐかは検討中とのことであった.

(3) 農薬自動散布機PAMrobustの開発

FAKTプログラムにみるように,精密農業が作業効率の向上であると同時に資源節約的であるとき,それ自体が環境保全的な働きを持つ.この場合,環境保全は生産効率化の副次的な効果ととらえることができる.これに対して,筆者らが調査したKTBLでの研究開発ではさらに環境保全を強く意識した技術開発が行われている.その中でも最も実践性が高いものが農薬自動散布機の開発である.

ドイツには植物防除に際して,厳密な規則が多数存在する.それら植物防除法(Pflanzenschutzrecht)や各州の水法(Wassergesetz)などに規定されている.この中に農薬散布の際に一定の距離を空ける規定(隔離規制:Abstandauflagen)が設けられている.例えば,地表水付近での散布については州ごとに個別に規制されている.全く規制のない州がある一方で,ヘッセン州,ザールランド州やザクセン州などでは地表水から4,5m以内の散布を禁止している(KTBL, 2019).

また,近隣の生息地を保護するために,農業または園芸地域,道路,広場を除いて,圃場に隣接する地域までの距離が規定されている.すなわち,森林や畑地との境界,生け垣などである.これらの場合は少なくとも3mの幅をとって散布を控える必要がある.実際には,例えば5mの散布禁止エリアとそれに続く20m幅のドリフト(農薬飛散)逓減エリアを設定したりする.また,その逓減比率も50,75,または90%などさまざまである.

集落近辺でも散布規制がなされており,住宅,プライベートガーデン,一般向けのエリア,特にパブリックガーデン,公園,緑地,スポーツフィールド,学校,幼稚園,遊び場,ヘルスケア施設や墓地などの周辺でも散布を禁止するバッファーゾーンが決められている.

このように,圃場周辺の自然や建物の状況や立地する州の規制によって農薬の種類別に散布の規制は変化し,一律ではない.PAMrobustはこれらの複雑な規制を機械に覚え込ませるとともに圃場の周辺の環境をGISデータとして入力し,規制に沿って適切な布を可能にする.その操作手順は図3に示す通りである.

図3.

PAMrobust の作業工程

資料:KTBL(2019)より訳出の上転載.

5. 新技術に対する農業者の反応

農業4.0などの新しい技術革新に対する農業者の反応をまとめた分析は必ずしも多くない.数少ない情報のひとつが図4と図5である.これは2018年11月にバイエルン州農業局によって実施された自動除草機の実証圃場に集まった農家を対象にしたアンケート結果である.サンプル数は118と少ないものの,農業者の意向を知る貴重な資料となっている.

図4.

農業者のスマートへの反応

資料:Deutscher Landwirtschaftsverlag(2018)より訳出の上転載.

図5.

農業者からみたスマート農業の促進・阻害要因

資料:Deutscher Landwirtschaftsverlag(2018)より訳出の上転載.

4は,スマート農業をどのように使うかという設問に対する回答である.農業専用アプリ(Agrar APP)やセクション制御(回転のための枕地や圃場の縁で自動的に作業機械のスイッチのオンオフを切り替える制御),自動走行システムまでのスマート農業機械は来年購入予定を含めると5割を超える利用者がある.それ以外,とりわけ,圃場の部分を特定した施肥(圃場に残存する肥料成分を推計した上で施肥を行う技術)以下の機械については2割以下にとどまっている.導入は技術の間に大きな格差が存在している点が確認できる.

また,図5は農業者からみたスマート農業の促進・阻害要因に関するアンケートの結果である.ここから初期投資,ランニングコスト,システム間の整合性などが大きな阻害要因として認識されているのがわかる.他方,省力性,労働の質の向上,データ蓄積などの機能は高く評価されている.また,環境保全との関係でみるとき,慣行農業者と有機農業者の間に一部で明朗な回答の差異がみられる.有機農業者の場合,慣行農業者より作業記録や省力性への評価が高い.これは有機農業者がトレーサビリティのためのデータ収集や栽培飼育のための省力化への関心の高さを反映しているものと思われる.

6. まとめ

本稿では,ドイツにおける農業4.0の起源と展開を文献と現地調査で収集した資料から追跡した.その起源はドイツの産業4.0を基礎にしたLeibniz研究協会の提言にあった.この提言では産業4.0の構想をそのまま引き継いで,農業技術をM2Mに引き上げ川下のニーズに柔軟に合わせる内容となっていた.しかし,M2Mの技術は自然環境の変化を前提とする農業技術では実現が容易でなく,また,下流のニーズを反映するほどの製品の多様性も高くない.結果として,その後に続く農業4.0の技術はM.ポーターらが描いた図を共有しながら,M2Mや複合システムに向かう技術過程と捉える考え方が主流になってきている.

また,本稿ではドイツの農業政策の重要施策のひとつとなってきた農業環境政策と農業4.0の関係についても検討した.スマート農業などを包括する農業4.0は先端的で大規模な収益重視の経営を連想しがちである.しかし,ドイツでは農業4.0が最初に提唱された時点から,環境保全は重要な関心事であり続けている.政府や研究者を問わず,農業4.0をそうした分野で活用しようとする意欲は高く,実際に農業環境政策への導入や技術開発が進められている点が確認できた.また,大規模な圃場においても機械を小型化して鎮圧力を抑えながら,効率的に働くロボットの開発なども進められている.

このようにドイツにおいては農業4.0と環境保全は整合的であり,有機農業などを含めて新たな胎動が期待される状況にある.

謝辞

本調査に際しては,R. Doluschitz教授及びH. W. Griepentrog教授(ホーエンハイム大学),T. Berrer氏(バーデン・ヴュルテンブルグ州農村空間及び消費者保護省),M. Kunisch博士(KTBL)に多大のご協力を頂きました.記して謝意を表します.また,本研究はJSPS科研費JP 19H00960の助成を受けています.

1  例えば,大豆生田(2017)は農業4.0を「インダストリー4.0(中略)が高まるなか,日本で急速に脚光を浴びつつあるのが農業分野でのIT活用,アグリテック(Agritech)だ.農業におけるインダストリー4.0,すなわち「農業4.0」とみなせる」としている.

2  KTBLは,Kuratorium für Technik und Bauwesen in der Landwirtschaft e.V.(農業における技術と建設のための評議会)の略称であり,連邦政府の資金を基礎に農業に関する技術と知識の移転を目的とする非営利組織である.

3  EUの政策レベルにおいても,Agriculture 4.0はデジタルトランスフォーメーションの一環としてIndustry 4.0の延長で捉える論考を確認できる程度である(EU commission, 2017).

4  第4の産業革命とされるのは,言うまでもなく,蒸気機関,電力,ITに続くサイバーシステムによる4つ目の産業革命だからである.

5  ドイツ連邦議会の状況報告書は2016年時点でスマート農業や農業4.0などの概念に関連する文献を収集・整理している(Deutscher Bundestag, 2016).この中で最も早く体系だった形で農業4.0の概念を提唱しているとされるのがLeibniz研究協会(Leibniz-Forschungsverbund, 2016)である.

6  ポーターらの論文の訳語はポーター他(2015)に従った.また,ここでいうポーターらの図は農業を事例としているため,ドイツの農業関係者がしばしば引用する.しかし,図のタイトルにもあるようにこの図は産業間の垣根が低くなることを示すための図であり,農業に関わるIoTの技術の発展過程を説明するための図ではない.発展を示す図としてはむしろポーターらが「接続機能を持つスマート製品のケイパビリティ」と題した図の引用が適切であろう.

7  産業4.0の事例としてしばしば参照される家具メーカーにNobiliaがある.ダイナミックセルと呼ばれる生産方式で生産工程や対象を動的に組み替えることができるという(川野,2015).

8  MEPLはMaßnahmen- und Entwicklungsplan Ländlicher Raum Baden Württembergの略である.「農村空間の支援措置と発展計画」と訳出できる.このプログラムは,EUのVerordnung (EU) Nr. 1305/2013に基づくものである.

9  FAKTプログラムは,これまで日本でしばしば紹介されてきたMEKAの後継プログラムである.

10  以下の解説はMLR(2020)による.

引用文献
 
© 2021 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
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