Journal of Rural Problems
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Short Papers
Determinant Factors of Sellers’ Satisfaction in Urban “Marchés”
Shiori TakedaYasuo Ohe
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2021 Volume 57 Issue 2 Pages 77-82

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Abstract

Temporal direct-selling shops in urban areas called “marchés” are drawing attention as a connecting place between urban consumers and producers in rural areas. However, little has been studied on sellers’ satisfaction, which is a crucial factor for the sustainability of the activity. Thus, this study investigated sellers’ satisfaction and identified the factors affecting their satisfaction by focusing on marchés in Tokyo. The data were collected through a questionnaire survey of sellers in “Taiyou no marché” held once a month in Kachidoki; 43 sellers responded. A binary logit model was employed to identify the factors that influence the sellers’ satisfaction. The results revealed that those who have regular customers, engagement with multiple persons, and higher academic background had higher satisfaction than those do not. Thus, marché organizers should consider these points for the sustainable management of marchés.

1. はじめに

「マルシェ」とはフランス語で「市場」を意味し,民間主導によるマルシェが盛んに開かれている.我が国では行政や地域住民主体でのマルシェが,2009年から国や自治体の支援のもとで開催されており,地域住民の関心を引いている.

マルシェは公園や駅前の広場などで開かれるため常設店舗を必要としないという特徴を持っており,出品者と客が直接やり取りするため,直売所よりも生産者と消費者の距離が近いとされている.

佐藤(2017)は,距離が近い結果,生産者,消費者に対してそれぞれ影響を与えているとしており,生産者の面からは生産物の品質向上や生産のモチベーションの維持,消費者に対しては,食に対する意識の変化を挙げている.

マルシェを定期開催することは,地域コミュニティにも影響を与えており,運営に携わることによる住民の当事者意識の形成(中島,2016),新しいコミュニティプラットフォームの展開(辻他,2019)がみられる.また,地域外の生産者がマルシェに出店することで活動範囲を拡大させるという動きも見られた(加納・真野,2012).

豊嶋他(2015a)は,マルシェの持つ社会的意義について,「交流を重視する」タイプと「新たな農産物販売の場の提供を重視する」タイプに分類することができるとしており,さらに運営形態から「施設管理者主導タイプ」と「運営者主導タイプ」に分かれると述べている.さらに豊嶋他(2015b)は,マルシェの属性によって消費者のマルシェに対する関わり方が変化すると述べており,それぞれの特性を活かした展開が必要であるとしている.

マルシェの継続的運営に関する取組については,藤原他(20162017)が消費者のニーズや食への意識に合わせた運営の必要性を述べている.また,豊嶋他(2017)は,行政が主催しているマルシェに注目し,行政と民間の運営者の役割を分担し,行政予算のみに頼らず運営していけるように工夫や知見の蓄積が必要であると述べている.

マルシェの事例研究については,鷹取(2014)中村(2015)二村(2013)が行っている.

しかし,上記の研究結果は,出店者や消費者の意識調査に留まっており,その経営の持続性に作用する重要な条件と考えられる出品者の売上満足度とその要因については,これまで分析されていない.

マルシェの分類については行政で定義されていないが,本研究では都市部で開催されているものを都市型マルシェと分類し,都市型マルシェを対象にして出品者の意識と売上満足度に作用する要因について実証的に解析し,今後の発展的展開に向けたマルシェ出品者への支援策について考察する.

2. 調査対象「太陽のマルシェ」の概要

本研究では全国から出品者が参加している点,100店舗以上が参加する日本最大級の都市型マルシェである点から「太陽のマルシェ」を調査対象とした.本マルシェは,首都圏に位置することから都市型に該当する.

「太陽のマルシェ」は,2013年から東京都中央区勝どき第二児童公園で開催されており,毎月第2土・日曜日の2日間にわたり開かれている.出品品目としては野菜やその加工品といった食料品から,花,衣料品,ワークショップなど多様であり,1日目には料理を中心としたナイトマルシェが開催されている.

3. 調査方法

本研究では,上記の東京都中央区勝どきで開催されている「太陽のマルシェ」の出品者を対象としてアンケート調査票を用いた対面調査を行った.具体的には,2019年11月9日(土),10日(日)に33名,12月15日(日)に10名に対して調査を行い,計43件の回答を得た.先述の文献レビューを踏まえて,調査項目に関しては,売上満足度について5段階で選択肢を設定し,売上満足度を左右する要因として出品品目を5つの選択肢,出品理由について6つの選択肢,及び客層を聞く質問を設定した.また,出品者の属性に関して年齢,学歴,マルシェでの経営形態についての質問を設定し,全21問のアンケート調査票を作成した.

4. 出品者へのアンケート調査結果(単純集計)

それでは,実施したアンケート調査結果の集計結果をみてみよう.まず,太陽のマルシェに参加する理由としては「販路拡大・PR」(56.8%)で半数以上を占めており,出品者においては消費者や出品者同士の交流より利益追求のほうが重視されていることが分かった.出品品目は,野菜(23.3%),加工品(48.8%)を合わせた食料品が7割以上を占めており,加工品を中心とする食料品が主要な販売品目となっている(図1).

図1.

出店品目

資料:アンケート調査により作成.

1)( )内は回答数.

売り上げの満足度について5段階で問う設問では,大変満足(5.1%),やや満足(53.8%),どちらでもない(28.2%),やや不満(2.6%),不満(7.7%)という結果が得られ,出品者の58.9%が自身の売上について満足していた(図2).

図2.

売上満足度

資料:アンケート調査により作成.

1)( )内は回答数.

次に,表1からマルシェに複数回出品する理由としては,「リピーターがいるから」(41.9%)が最も多く,次いで「売上が良かったから」(34.9%),「客と交流ができるから」(30.2%),「出品者同士で交流ができるから」(20.9%),「人が集まると思ったから」(4.7%)の順となり,客・出品者との交流を理由とする回答が51.1%であった.主な客層は30代と40代となっており,聞き取り調査の結果から1日目は買い物を目的とする客が多いものの,2日目はマルシェの見学を目的とし,買い物をしていかない客が多いという意見が得られた.

表1. 複数回出品理由と客層
項目 回答数 構成比(%)
質問:マルシェへの複数回出品の理由(複数選択)
リピーターがいるから 18 41.9
売り上げが良かったから 15 34.9
客と交流ができるから 13 30.2
出品者同士で交流ができるから 9 20.9
人が集まると思ったから 2 4.7
その他 3 7.0
質問:客層の世代構成(2つまで選択)
10代 2 4.7
20代 3 7.0
30代 22 51.2
40代 33 76.7
50代 17 39.5
60代 5 11.6

資料:アンケート調査により作成.

1)構成比は,全回答者数43に占める各項目の回答の割合を表す.

回答者の属性をみると,図3より回答者の年齢は40代が37.2%と最も多く,次いで30代がおよそ4分の1(25.6%)で,合わせて6割を超えており,客層でみられた世代層とおおむね対応するような世代構成となっている点は興味深い.この点は,上記でみた客との交流ができるからとの回答とも関連する要因とも考えられる.調査時の聞き取り調査から回答者の来訪範囲は,神奈川県や千葉県などの首都圏が比較的多いが,遠方では九州や青森県などからの出品者もいた.

図3.

回答者属性(年齢)

資料:アンケート調査により作成.

1)( )内は回答数.

遠方からの出品者は,加工食品の販売が多い傾向があるものの統計的な有意差はなかった.また満足度についても同様に有意差はみられなかった.ただし,遠隔地からの出品者は,当マルシェに出品する際,駐車場の確保に苦労するとのことで,これは都市型マルシェ特有の課題といえる.

5. 分析モデル

売上に満足している出品者の意識とその要因を分析するため,ロジットモデルで分析した.被説明変数には売上満足度を置き,大変満足・やや満足をまとめて「満足」を1,どちらでもない・やや不満足・不満足をまとめて「非満足」を0とした.満足度を計測することが本研究の目的であるため,「どちらでもない」は非満足に区分している.雷・大江(2018)では,飲食店の経営状況を5段階で評価して,「どちらでもない」を良好でないと区分して2値データとして用いていることから,本稿も同様の区分とした.また上記の2区分で,サンプル数が満足:非満足で6:4と大きな偏りがなく区分できることも,当区分を採用したもう一つの理由である.

当初は,満足度の5段階評価を用いた順序ロジットモデルを試みたが,有意な結果が得られなかった.この結果から5段階で評価することは妥当ではないと判断し,カテゴリーを上記のような2段階に統合して2値ロジットモデルを採用することとした.

説明変数には①出品理由,②経営形態,③回答者属性,④出品品目×回答者属性(年齢)の交差項を加えて4つの変数を設定した.

具体的な変数として,①出品理由:「リピーターがいる(yes=1, no=0)」,②経営形態:「2人以上で運営(yes=1, no=0)」,③回答者属性:「大学・大学院卒(yes=1, no=0)」,④出品品目×回答者属性(年齢):「食品(野菜+加工品)×20~30代(yes=1, no=0)」の交差変数を用いた.出品理由については,質問したすべての項目についても考慮したが,リピーターの要因以外は有意とはならなかったため,リピーター以外の理由は最終的な計測モデルでは考慮していない.経営形態,回答者の学歴の項目についてもすべての項目を変数として計測で用いたが有意とならなかったため,それぞれの質問で最も多かった「2人以上で運営」(78.1%),「大学・大学院卒」(74.7%)の項目のみ計測モデルに使用した.出品品目×回答者属性の交差変数については,当初それぞれ単独での変数として計測を試みたが,その結果は不安定であった.そこで,若い世代で食品の出品が多く見られることから,特定の年代と品目の関係を検証する必要があると考え交差変数として用いた.

6. 分析結果

ロジット分析の計測結果を表2に示す.OLSによりVIFを計測したところ,最大VIFは10未満で小さく,多重共線性はないと言える.また,同様にOLSで不均一分散の検定を行った結果,不均一分散は検出されなかった.以上から,計測結果の吟味は可能と考える.

表2. ロジットモデルの計測結果
被説明変数:売上満足度 満足=1,非満足=0(n=43)
説明変数 パラメータ 限界効果 VIF
①理由 リピーターがいる(yes=1, no=0) 4.6993*** 0.7786*** 1.19
②経営形態 2人以上で経営(yes=1, no=0) 3.4111** 0.6121*** 1.09
③回答者属性 大学・大学院卒(yes=1, no=0) 2.8843** 0.6804*** 1.13
④出品品目×回答者属性 食品×20~30代(yes=1, no=0) 1.8382* 0.3795** 1.15
定数項 −6.7856***
尤度比カイ二乗値:26.67***
疑似決定係数:0.4518***
Breusch-Pagan/Cook-Weisbergカイ二乗値:1.40

資料:アンケート調査により作成.

1)***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%水準で有意を示す.

2)VIF,分散不均一性の検定はOLSによる.

各説明変数に対して見ていくと,「リピーターがいる」が1%で正に有意,「2人以上で運営」,「大学・大学院卒」は5%で正,および「食品×20~30代」の交差項が10%で正に有意となった.つまり,いずれも出品者の満足度を高める要因となっている.

限界効果の値を見ると,「リピーターがいる」が0.7786で最も大きい値となり,出品者の売上満足度への影響が最も強いことが分かった.このことは,消費者との交流的な要因が出品の継続性に作用する重要な条件であることを示しているといえる.

7. 考察

先述のとおり,マルシェに複数回出品する理由として最も多いのは「リピーターがいるから」という理由であった(表1).この複数回出品理由としてのリピーターがいるという要因は,ロジット分析の計測結果より,売上満足度を決める要因として最も効果があることが明らかになった.都市農村交流活動において,経営上リピーターの確保は,その持続性にとり重要な要因であることは,以前から指摘されている(大江,2003Ohe,2020).したがって,リピーター確保の重要性に関して,本分析結果からも整合的な知見を得たといえる.言い換えれば,この点でマルシェへの出品活動も他の都市農村交流活動との共通性がみられる.

このことから売上満足度を高め,継続的なマルシェへの出品を促すには,交流の楽しみを持てるリピーターをつくることが重要といえる.この点で,交流活動としてのマルシェの意義が認められるといえる.運営に関する変数では,「2人以上で運営」が正に有意であったことから,複数人で運営した方が売上向上に作用し,結果的に満足度が高くなると考えられる.また,先述したように「大学・大学院卒」の割合が最も多く,正に有意であったことから,マルシェ出品者の経営にも一定の経営者能力が必要であると考えられる.さらに聞き取り調査時に,回答者の一人から,将来起業を計画しているという意向もうかがった.このことは,高学歴と経営者能力との関連性を示唆するものと考える.

さらに,「食品×20~30代」の交差項が正に有意になったことから,継続的なマルシェの運営には食品に関係する若い世代の参加が重要であることを指摘できる.食品を出品する若い世代は,交流型での活動への経営意欲・能力も高いためと考えられる.この点について,詳細な調査を行ってはいないのでこれ以上の解釈は控えておきたい.

8. むすび

本研究では,いままで注目されて来なかった都市型マルシェへの出品者の売上満足度について,アンケート調査により収集したデータから統計的に分析を行った.今後のマルシェ運営には20代・30代の若い世代が参加しやすい仕組み,複数人での出品推奨などが出品者への支援施策として有効といえる.また,リピーターの存在は複数回出品の主たる理由になっており,それは売上満足度を最も高める要因となっているが,リピーターを得るためにはそもそもマルシェへの複数回の出品が必要になる.このため,マルシェへの出品経験を重ねるような支援策の工夫などの検討も有効であると考える.

また,単純集計の結果から,マルシェの役割として一般的には生産者と消費者の交流や地域交流といった社会的意義が注目されているが,出品者としては利益追求が重視されており,出品者との間に意識の差があると考えられる.他方で,継続的に参加する理由としては出品者・消費者と交流できることを理由としている回答が約3割を占めている.このことから,リピーターと同様に出品者の継続的な参加への動機づけにも消費者との交流は効果的と考えられる.

最後に本研究の限界と今後の課題を述べておきたい.第一に,本研究では100店舗以上が出品する大規模な都市型マルシェを対象としたが,地方で開催される小規模なマルシェでも高学歴出品者などの点で同様の結果が得られるのかについて,今後さらに検証を行う必要があると考える.第二に,本研究ではマルシェの供給サイドに焦点を当てたため,需要サイドである消費者に関する分析は行っていない.消費者側は,従来の直売所とどのような違いを感じてリピーター化するのかなどの点に関する解明は,今後の課題としたい.

付記:本研究の実施には,科学研究費補助金No. 18H03965およびNo. 20H04444の支援を受けた.

引用文献
 
© 2021 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
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