Journal of Rural Problems
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Research Article
The Nexus between Land Fragmentation and the Geographical or Social Conditions of Rural Communities: A Spatial Econometric Approach
Iori OkamuraTakeshi Fujie
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2021 Volume 57 Issue 3 Pages 95-106

Details
Abstract

The objective of this paper is to shed empirical light on spatial characteristics of land fragmentation (LF) and the nexus between LF and the geographical or social conditions of farmers. We collected data from the “Agricultural Land Information System,” cadastral data from three cities in Hyogo Prefecture, and “Plot Polygon” data from MAFF. We then processed these data and calculated LF indices that contain the average plot size, Simpson index, maximum distance between plots, and standard distance between plots. Using LF indices, we firstly examined the spatial autocorrelation of LF using Moran’s I. In addition, we applied the spatial autoregressive model to investigate the correlation between LF and rural community conditions. The main results of our analysis are as follows. Firstly, the calculated Moran’s I showed that all LF indices have spatial autocorrelation. This implies that there were strategic interactions between farmers at the time of farmland accumulation. Secondly, spatial econometric analysis considering autocorrelation of LF has revealed that geographical conditions such as the steepness of land and average plot size significantly correlated to LF. On the other hand, we could find little evidence of correlations between LF and social conditions such as the number of farmers or the number of meetings in rural communities.

1. はじめに

今日,農業人口の高齢化等によって,担い手と呼ばれる大規模な経営体への農地集積が進展している.しかし,農地集積の過程で,担い手が遠隔地の圃場を引き受けざるを得ないケースも発生し,その結果,耕作圃場が空間的に分散するという状況が生じる.こうした圃場分散に伴う通作距離の増大によって,作業時間の増加や燃料コストの上昇がもたらされる.さらに,圃場分散による弊害はこうした点にくわえて,圃場が連坦化されないことで,大型機械の導入が困難になるといった点も指摘される(梅本,2019).

圃場分散を解消し,団地化を進めることは生産コスト削減に有効な手段であると認識されるが,そのためには,圃場分散発生のメカニズムや圃場分散に関わる条件を整理することが有効であろう.この点に関して,実態調査をもとに検討した研究蓄積は膨大である.例えば,田畑(1995)は圃場分散の発生要因や問題点を,包括的に整理している.また,個別事例をもとに圃場分散に対する農家行動を検討した研究として,細山(2004)山浦(2008)井坂(2019)などがあげられる.一方で,圃場分散に関わる条件について計量的に分析した研究は,管見によれば少数にとどまる.例えば,仙田・藤栄(2009)は,圃場の最大2点間距離を圃場分散の変数とし,圃場分散に関連する要因を計量的に検討している.また,Tan et al.(2006)は,中国において圃場分散に影響を与える要因を整理し,圃場数や圃場面積にいかなる要因が影響するか,計量的に検討している.

こうした研究は,圃場分散が生じるメカニズムについて一定の示唆を与えるものの,圃場分散の要因については計量的に未解明な部分も多い.例えば,圃場分散における農家間の空間的自己相関について,計量的に検討した研究はみられない.圃場分散の解消は自己完結的に行われず,周辺農家との調整が必要である.このように,農家の圃場分散は,周辺農家の圃場分散と空間的に相互作用を及ぼしあう関係にあり,圃場分散が空間的自己相関を有する可能性がある.また,実態調査による先行研究は,圃場分散の解消過程において,集落機能などの社会的条件が,重要な役割を果たすことを指摘する(田畑,1995).しかし,これまで圃場分散状況に関するデータ作成が困難であったため,上記の点について計量的に検討を行った研究はみられない.

そこで本稿では,兵庫県の3市町を対象に,農業経営体ごとに,圃場分散状況の尺度である圃場分散度を算出し,以下の2点を明らかにすることを課題とする.第1の課題は,空間的自己相関の指標を用いて,圃場分散の空間的自己相関について計量的に検討することである.また,第2の課題は,圃場分散と,農業集落における地理的・社会的条件との関係について,空間的自己相関を考慮しつつ,実証的に明らかにすることである.なお,分析対象地域を兵庫県の3市町としたのは,当地域の農地集積が他の地域に比べて遅れており,圃場分散の改善が農業経営の重要課題とされているためである.

本稿の構成は以下のとおりである.次節では,分析対象地域とデータの概要を述べる.第3節では,圃場分散度の空間的自己相関について検討する.第4節では,圃場分散に関する先行研究をもとに,圃場分散に関連する要因を検討する.第5節では,空間計量経済分析のアプローチによって,圃場分散と農業集落の地理的・社会的条件の関係を計量的に検討し,第6節で結論を述べる.

2. 分析対象地域の概要と圃場分散度の作成

(1) 分析対象地域の概要

本稿では兵庫県のA市,B町,C市(以下,分析対象地域)を対象に分析を行う.A市には平地農業地域,B町には山間農業地域,C市には中間農業地域に分類される集落が多く存在する.また,分析対象地域の経営耕地総面積に占める田の面積割合は2015年で96%と,他の都府県に比べて高い1

分析対象地域では,全農家に占める第Ⅱ種兼業農家の割合が他の都府県に比べて高く(2015年で75%2),担い手が耕作する農地面積の割合(2019年度で31%3)は他の都府県に比べて低い.このことから,分析対象地域では担い手の育成が比較的遅れており,多くの小規模兼業農家によって農業が維持されているという特徴を読み取れよう.

また,水田面積に占める30a以上区画の面積割合(2015年)は,A市で92%,B町で7%,C市で67%であり,市町によって圃場の区画状況が大きく異なることがわかる4.なお,分析対象地域では,50a以上の区画の圃場はほとんど存在しない.

さらに,担い手への集積状況について,2019年3月末時点での担い手の農地集積率は,分析対象地域全体で31%である.担い手の農地集積率の都府県平均が44%であることを踏まえると,分析対象地域では農地集積が比較的遅れていると言えよう.なお,担い手の農地集積率が最も高い市町はB町(47%)であり,次にA市(31%)が高く,C市(22%)が最も低い.

(2) データの収集・加工

圃場分散度を算出するために利用した情報は,農地台帳に基づいた農地情報公開システムである『全国農地ナビ』,市町の農業委員会が管理する『水稲生産実施計画関連データ』(以下,農地台帳データ),農林水産省が公開している農地の区画情報である筆ポリゴンの3点である.

まず,『全国農地ナビ』については,澁木(2018)に倣い,webスクレイピングを用いた方法により,圃場ごとの地番と緯度・経度を収集した5

次に,農地台帳データについては,分析対象地域の3市町から,2015年時点の圃場の地番・面積,耕作者の割付番号,作目などの情報が記載されたデータの提供を受けた6.なお,農地台帳データは,農業共済の組合員番号の情報をもとに耕作者が定義されるため,『全国農地ナビ』では考慮されない特定農作業受委託契約による貸借や,ヤミ小作による貸借も反映される.これらのデータを加工し,地番をもとに接続することで,圃場の緯度・経度,圃場面積,耕作者の割付番号,作目からなるポイントデータを作成した7

ただし,ポイントデータの状態では圃場の隣接関係を把握できない.そこで,筆ポリゴンをもとに,上記のポイントデータをポリゴンデータに変換した8.具体的には,QGISを用いてポイントデータと筆ポリゴンを重ね合わせ,ポイントと交差(intersect)したポリゴンに,ポイントの属性を付加する方法でポリゴンデータへの変換を行った9.このポリゴンデータをもとに,ポリゴン間の最短距離が10m以内であれば,当該ポリゴンどうしは隣接するとみなし,耕作者が同一で隣接する圃場を,団地化された圃場とした.

(3) 圃場分散度の作成

圃場分散は,圃場規模の零細性,圃場の分散性,圃場形状の不整形性など,多様な側面を有する事象である(辻,1984).このため,これらの異なる側面を数値化した複数の圃場分散度を作成し,圃場分散状況を評価する必要がある.

まず,圃場の団地化状況を表す圃場分散度として,平均団地面積(以下,AD)を用いる.ADは,耕作者が同一で隣接する圃場を1つの団地とみなし,その平均面積とした.また,圃場の筆的分散を表す圃場分散度として,Simpson index(以下,SI)を用いる.1団地当たりの面積をakとすると,SI=1−Σk(ak)2/(Σkak)2で表され,SIが大きければ,圃場が筆単位で分散することを意味する.さらに,圃場の空間的分散を表す圃場分散度として,圃場の最大2点間距離(以下,MD)と標準距離(以下,SD)を用いる.MDは農家の耕作圃場のうち,最も離れた圃場間の距離である.ただし,MDは離れた飛び地があれば,その影響を大きく受けるという問題点がある.この問題点に対処するために,すべての圃場の位置情報を用いて算出する圃場分散度であるSDも用いる.SDは,農家が耕作する圃場の数をn,それぞれの圃場の直交座標を(xk, yk),耕作者が耕作する全圃場の重心の直交座標を x-,y- とすると, kxk-x-2+yk-y-2/n で表される.なお,圃場が1つの場合,SDとMDはゼロである.

以上の方法により,圃場の団地化状況,筆的分散,空間的分散を表す圃場分散度を作成した.本稿で算出した圃場分散度の特性として,耕作地の空間的な情報を利用できる点がある.次節では,この特性を生かし,算出した圃場分散度を用いて,圃場分散が空間的に自己相関を有する現象であるか検討する.

3. 圃場分散の空間的自己相関

(1) 空間的自己相関の指標

空間的自己相関を把握するための指標として,MoranのI統計量(以下,Moran’s I)とAnselin(1995)によるLocal Moranを用いる.Moran’s Iは空間的自己相関に関する代表的な指標であり,分析対象地域全体について,空間的自己相関の有無を判別できる.一方で,Local Moranは局所的な空間的自己相関の有無に関する検定統計量であり,Local Moranを図示することで,空間的自己相関が高いエリアを把握できる.

Moran’s IやLocal Moranの算出には,農家どうしの隣接条件を定義し,空間重み付け行列(spatial weight matrix)を作成する必要がある10.本稿では,ボロノイポリゴンを用いた方法により,空間重み付け行列を作成した11.まず,圃場単位のポイントデータをボロノイ分割し,各圃場のボロノイポリゴンを作成した.次に,ボロノイポリゴンを農家単位で融合(dissolve)し,農家レベルのポリゴンデータを作成した.このポリゴンデータを用いて,農家が耕作する圃場のうち,他の農家が耕作する圃場と隣接する圃場があれば,農家どうしが隣接関係にあると定義した.この際,ボロノイ分割のみでは,非常に離れた圃場も隣接関係にあると認識される可能性がある.そのため,140m以上離れた圃場は隣接関係にないものとした12

上記の方法によって空間重み付け行列を作成し,Moran’s Iの算出およびMoran’s scatter plotの描画を行った.Moran’s Iは−1から1までの値を取り,1に近ければ正の空間的自己相関があることを表す指標である.4つの圃場分散度のMoran’s Iを算出したところ,AD(対数値)が0.320,SIが0.034,MD(対数値)が0.098,SD(対数値)が0.110であった.SIのMoran’s Iは他の圃場分散度に比べて低いものの,すべての圃場分散度で正の空間的自己相関が存在するという結果が得られた13

次に,圃場分散度が比較的高かったAD,MD,SDのMoran’s scatter plotを図1に示す14.図1を見ると,第1象限(当該農家の圃場分散度,周辺農家の圃場分散度ともに大きいサンプル)のプロットが多く,第4象限(当該農家の圃場分散度は大きいが,周辺農家の圃場分散度は小さいサンプル)のプロットが少ない傾向がみられた.ADについては,団地面積が大きい農家の周辺農家は,団地面積が大きい傾向にあることがわかる.また,MDとSDについても,広範囲の圃場を耕作する農家の周辺農家は,広範囲の圃場を耕作する傾向がみられた.

図1.

各圃場分散度のMoran’s scatter plot

資料:空間データ処理ソフトGeoDaにより筆者ら作成.

1)いずれの散布図も横軸が当該農家の圃場分散度,縦軸が周辺農家の圃場分散度を表す.

さらに,分析対象地域において,4つの圃場分散度についてLocal Moranを算出した.本稿では,紙幅の制約上,すべての結果を掲載することはできないが,SDのLocal Moranを算出し,地図上に示したのが図2である.図の左に最も農地集積が進展するB町を,図の右に農地集積が比較的遅れているA市とC市を示す15.図2をみると,B町では他の市に比べ,多くの圃場でSDの空間的自己相関がみられることを読み取れる.また,図からは判然としないが,Local Moranが統計的に有意に検出された圃場では,SDの高い農家どうしが隣接するという,正の空間的自己相関が検出されるケースが多かった.なお,AD,SI,MDについて,同様の地図を作成したところ,いずれの指標についても,B町で有意な空間的自己相関が多く検出された16

図2.

圃場間の標準距離に関するLocal Moran’s I

資料:空間データ処理ソフトGeoDaにより筆者ら作成.

1)図の左にB町,右にA市とC市を示す.

2)グレーが濃くなるほど,高い有意水準で空間的自己相関が検出されたことを示す.

以上より,圃場分散には正の空間的自己相関が生じており,空間的自己相関の程度は市町によって異なることが確認された.本稿の分析では,農地集積が比較的進むB町で,有意な空間的自己相関が多くみられた.

圃場分散度に空間的自己相関が生じた原因の一つとして,圃場分散度の高い農家と隣接する農家は,必然的に圃場を分散させざるを得ないといった地理的制約が考えられる.また,農家間で圃場を交換することで,圃場分散の解消を行うといったstrategic interactionの結果,空間的自己相関が検出された可能性も考えられよう.

次節では,計量分析に先立ち,実態調査による先行研究の結果をもとに,圃場分散度に関連しうる地理的・社会的条件を整理し,実証分析で用いる変数について検討する.

4. 圃場分散と農業集落の地理的・社会的条件

(1) 地理的条件

圃場分散に関係する第1の地理的条件として,農地の傾斜度をあげられる.傾斜地が多く,農地が狭隘な場所では団地化できる面積が限られ,規模拡大に従って圃場間距離が伸長する可能性がある.

第2の地理的条件として,集落単位でみたときの,1筆当たりの圃場面積がある.圃場面積が大きい集落では,団地化は容易になると予想される.また,こうした集落では,団地化が容易になることで,比較的狭い範囲内で農地を確保することができるため,圃場間距離の縮減につながる可能性も考えられる.

(2) 社会的条件

圃場分散に関わる社会的条件として,第1に,集落内での兼業農家の割合をあげられよう.兼業農家比率の高い集落では,貸出希望農地が抑制され,農地の集約化が困難になる可能性がある.一方で,専業農家が兼業農家に転じ,経営規模を縮小することで,農地の供給量が増加し,農地集積や圃場分散解消の契機となる可能性もある.

第2の社会的条件として,集落内の農家数をあげられる.農家数の多い集落では,農家数の少ない集落に比べて,農地利用権の調整が困難であると考えられる.この点について,細山(2004)山浦(2008)が,一定の地域内で担い手による農地利用の寡占度が高まれば,担い手間での農地利用調整が容易になり,圃場分散の改善に寄与することを指摘している.したがって,農家数と圃場分散の間には正の相関が存在すると予想される.

第3の社会的条件として,集落による農地利用権の調整機能をあげられよう.例えば,先述のように,地域内で大規模経営による寡占度が高まり,所有権と利用権の分離が進展していれば,大規模経営間の交渉によって圃場分散の解消が可能であると考えられる17.しかし,分析対象地域は,多くの零細農家や兼業農家が存在する地域である.そうした状況では,農地利用に関わるアクター間を集合的・集団的に調整する集落機能が,圃場分散の解消に不可欠である(荘林・岡島,2014).ただし,集落による農地利用権の調整機能を,明確に反映する変数を見出すことは困難である.そのため,本稿では次善の手段として,寄合回数を代理変数として用いる.

なお,以上の地理的・社会的条件に加えて,2014年度に始動した農地中間管理機構が,農地集積や圃場分散の解消に重要な役割を果たしている.しかし,分析対象時点は2015年であり,農地中間管理機構による影響は限定的であると推察される18.そのため,本稿では農地中間管理機構に関する変数を含めなかった.

5. 計量分析

(1) 変数の記述統計量

以上の議論に基づき,圃場分散度の説明変数を表1のように設定した.農地台帳データには,農地の耕作権を有する農家がすべて含まれているため,多くの小規模農家が存在する.本稿の関心はこうした小規模農家ではなく,比較的規模の大きな農家にあるため,30a未満の経営規模の農家をサンプルから除外した19.また,農地台帳に登録されている圃場のうち,『全国農地ナビ』に接合できた農地が,面積ベースで80%以上の農家のみを分析対象とした.

表1. 変数の定義・作成方法・記述統計量
変数名 変数の定義・作成方法 データレベル 観測数 平均 標準偏差
AD 各農家の団地面積の平均(単位:a) 農家 2,182 20.97 14.23
SI 各農家の団地面積をもとに算出したSI 農家 2,182 0.59 0.22
MD 圃場間の最大2点間距離(単位:m) 農家 2,185 809.55 1,409.00
SD 各農家の圃場の位置より算出した標準距離(単位:m) 農家 2,185 288.38 428.78
圃場数 各農家の保有圃場数 農家 2,185 9.38 19.62
傾斜度 各圃場の傾斜度を圃場面積で加重平均 農家 2,185 4.14 4.04
圃場面積 集落内の圃場面積の平均(単位:a) 集落 150 13.52 4.96
農家数 集落の総販売農家数 集落 150 19.24 16.32
兼業農家率 販売農家に占める第Ⅱ種兼業農家の割合 集落 150 0.75 0.13
寄合回数 集落における寄合の開催回数 集落 150 18.14 12.31
都市的地域 都市的地域であれば1,それ以外は0 集落 150 0.11 0.32
平地地域 平地農業地域であれば1,それ以外は0 集落 150 0.46 0.50
中間地域 中間農業地域であれば1,それ以外は0 集落 150 0.25 0.43
山間地域 山間農業地域であれば1,それ以外は0 集落 150 0.18 0.39

資料:農林水産省(2015)全国農業会議所(2021),農地台帳データ,筆ポリゴンより筆者ら作成.

1)AD・SIとMD・SDで観測数が異なるのは,筆ポリゴンと整合しなかったサンプルが除外されたためである.

被説明変数であるAD,SI,MD,SDと,説明変数である圃場数,傾斜度は農家レベルの変数であり,その他の説明変数は集落レベルの変数である.圃場数は,農地台帳データに掲載されている圃場の総数とし,圃場分散をコントロールする変数として導入した.また,傾斜度については,国土地理院が公開している『標高・傾斜度5次メッシュデータ』をポイントデータと重ね合わせ,各圃場の傾斜度を設定した.さらに,その傾斜度を圃場面積で加重平均することで,各農家の傾斜度とした20

圃場面積に関する変数は,農地台帳データに記載されている1筆当たり圃場面積の平均値とした.また,農家数,兼業農家率,寄合回数,都市的地域,平地,中間,山間農業地域の変数は集落レベルの変数であり,『地域の農業を見て・知って・活かすDB』に公表されている『2015年農林業センサス』の情報を用いた.これらの変数の定義,作成方法,記述統計量は,表1に示す通りである.なお,複数の集落に耕作地を有する農家については,農家の耕作面積が最も多い集落を,農家が所在する集落とした.また,これらの説明変数を用いて算出したVIFは2.42であり,後の計量分析において多重共線性が生じる可能性は低いと考えられる.

(2) 重回帰モデル

推定式は,圃場分散度を被説明変数,地理的・社会的条件を表す変数を説明変数とし,(1)式で表す重回帰モデルとした.

  

y=Xβ+Zγ+e (1)

ただし,yは被説明変数,X(1×k1)は農家レベルの説明変数ベクトル,Z(1×k2)は集落レベルの説明変数ベクトル,β(k1×1)γ(k2×1)は推定する係数ベクトル,eは誤差項を表す.なお,k1k2は,それぞれ農家レベル,集落レベルの説明変数の数を表す.また,SIを除く圃場分散度と圃場数は対数値を用いた.

(1)式の推定にあたって,観察できない集落固有の要因が圃場分散に影響すれば,集落内で圃場分散度が類似する,すなわち,階層性が生じる可能性がある.こうした階層性を考慮しなければ,算出された標準誤差が過小となり,見せかけの有意な結果が得られる可能性が指摘されている(Hox, 2010: p. 5).実際に,4つの圃場分散度が,集落内で類似性を持ち,階層性のある変数として扱うべきかを評価するために,ICC(intra-class correlation coefficient)とdesign effectを算出した21.その結果,いずれの圃場分散度も階層性を有する可能性が示唆された22

階層性に対する対処法として,本稿では,(1)式をOLS(ordinary least squares)推定し,集落をクラスターとする頑健標準誤差(cluster-robust standard error)を算出した23.これにより,集落レベルでの階層性に加え,集落内での空間的自己相関もある程度考慮できる可能性はある.ただし,上記の方法は,空間重み付け行列を用いておらず,農家の空間的な相互関係を明示的に考慮していない.そこで,以下では,空間重み付け行列を用いた空間計量経済モデルを用いて分析を行う.

(3) 空間計量経済モデル

第3節において,圃場分散が空間的自己相関を有する現象であることが確認された.空間的自己相関を持つ変数を被説明変数としてクロスセクションの重回帰分析を行うと,除外変数バイアスなど,複数の問題が生じる可能性がある(LeSage and Pace, 2009).実際に,(1)式のOLS推定について,Kelejian and Prucha(2001)の方法で,誤差項間の空間的自己相関の有無を検定したところ,すべての推定式において,1%水準で誤差項が空間的自己相関を有することがわかった.この結果は,(1)式のモデルでは,空間的自己相関が十分にコントロールされていないことを示唆している.

そのため,本稿では(1)式のOLS推定に加えて,被説明変数間に空間的自己相関が存在すると仮定する(2)式の空間ラグモデル(spatial lag model,以下,SLM)を推定する24

  

y=+λWy+Xβ+Zγ+e (2)

ただし,W(n×n)は空間重み付け行列,y(n×1)は被説明変数ベクトル,X(n×k1)Z(n×k2)は,それぞれ農家レベル,集落レベルの説明変数行列,λは被説明変数間の空間的自己相関の強さを表すパラメータ,e(n×1)は誤差項ベクトルを表す.なお,nは観測数を表す.(2)式で用いる空間重み付け行列は,3節で述べた方法によって作成し,Kelejian and Prucha(2010)に倣い,固有値の最大値が1となるように標準化した.また,(2)式の推定には最尤法を用いた.

(4) 推定結果の検討

推定結果を表2に示す.パネルAにADとSIに関する推定結果を,パネルBにMDとSDに関する推定結果を示す25

表2. 推定結果
【パネルA】 AD SI
OLS SLM OLS SLM
圃場数 0.1182 *** (5.96) 0.1570 *** (10.24) 0.1784 *** (26.47) 0.1376 *** (24.57)
傾斜度 −0.0083 * (−1.77) −0.0096 *** (−3.26) 0.0007 (0.38) 0.0022 ** (2.00)
圃場面積 0.0485 *** (10.15) 0.0497 *** (16.64) −0.0031 (−1.66) −0.0036 *** (−3.20)
農家数 −0.0012 ** (−2.44) −0.0009 ** (−2.10) 0.0007 *** (2.99) 0.0002 (1.55)
兼業農家率 −0.2771 * (−1.92) −0.2662 *** (−3.10) 0.0152 (0.31) 0.0041 (0.13)
寄合回数 0.0014 (0.92) 0.0010 (1.38) −0.0012 (−1.51) −0.0077 *** (−2.61)
平地地域 0.1669 ** (2.31) 0.1924 *** (4.11) 0.0038 (0.17) −0.0235 (−1.34)
中間地域 0.1678 ** (2.41) 0.1970 *** (4.19) −0.0081 (−0.36) −0.0416 ** (−2.36)
山間地域 0.1071 (1.20) 0.1242 ** (2.43) −0.0308 (−1.23) −0.0502 *** (−2.62)
定数項 6.7480 *** (44.51) 6.7009 *** (73.71) 0.3097 *** (5.85) 0.3453 *** (10.16)
λ −0.0227 *** (−4.26) 0.2766 *** (12.95)
Adj R2 0.2249 0.4054
Pseudo R2 0.2327 0.4457
AIC 2630.0 2616.0 −1499.4 −1656.4
観測数 2,182
【パネルB】 MD SD
OLS SLM OLS SLM
圃場数 0.6692 *** (26.31) 0.4389 *** (16.71) 0.4804 *** (19.92) 0.2566 *** (9.86)
傾斜度 0.0106 (1.31) 0.0178 *** (3.61) 0.0084 (1.05) 0.0154 *** (3.14)
圃場面積 0.0164 ** (2.31) 0.0118 ** (2.33) 0.0185 ** (2.61) 0.0136 *** (2.70)
農家数 0.0034 *** (3.66) 0.0008 (1.15) 0.0032 *** (3.44) 0.0007 (1.00)
兼業農家率 −0.1423 (−0.46) −0.2147 (−1.48) −0.2249 (−0.73) −0.2935 ** (−2.04)
寄合回数 −0.0025 (−1.19) −0.0008 (−0.60) −0.0024 (−1.18) −0.0007 (−0.56)
平地地域 0.0298 (0.28) −0.1157 (−1.47) −0.0061 (−0.06) −0.1329 * (−1.70)
中間地域 0.0839 (0.71) −0.0984 (−1.24) 0.0656 (0.58) −0.1099 (−1.40)
山間地域 0.3798 ** (2.55) 0.2711 *** (2.87) 0.3605 ** (2.46) 0.2311 *** (2.71)
定数項 4.7073 *** (15.97) 4.9834 *** (32.31) 4.1708 *** (14.25) 4.4446 *** (29.07)
λ 0.1525 *** (15.01) 0.1740 *** (14.75)
Adj R2 0.3050 0.1938
Pseudo R2 0.3682 0.2646
AIC 5031.6 4805.4 4969.9 4766.7
観測数 2,155

1)***,**,*は,それぞれ1%,5%,10%水準で有意であることを,カッコ内の数値はt値及びz値を示す.

まず,空間的自己相関の水準を表すλをみると,SI,MD,SDでは,正で有意であった.一方,ADでは,符号が負で有意となった.この結果は,推定式で考慮した観察可能な説明変数によってコントロールすると,SI,MD,SDは正の,ADは負の空間的自己相関を有することを示している.また,すべての圃場分散度でλが有意であることから,空間的自己相関を有する除外変数が制御され,推定結果が改善されたことが示唆された.

なお,ADではMoran’s Iにおいて正の空間的自己相関が検出された一方で,λの符号は負となった.Moran’s Iの結果は,面積の類似する圃場が空間的に集中していることを反映したと思われる.一方で,λは圃場面積などの条件を考慮しているため,農家が団地化を進める過程で,他の農家の団地面積が縮小するといった農家間のstrategic interactionが推定結果に反映されたと推察される.

また,SI,MD,SDについては,空間的自己相関を織り込むことによって,OLSで統計的に有意であった説明変数の多くが,有意ではなくなった.例えば,SI,MD,SDの農家数の結果をみると,OLSでは係数がすべて有意であるが,SLMではすべて有意でないという結果が得られた.このことは,圃場分散に伴う空間的な相関を考慮せずに,圃場分散と集落の農家数などの社会的条件との関係を検討すれば,圃場分散に関わる社会的条件の過大評価につながりうることを示唆している.

さらに,OLSとSLMのモデルとしての妥当性を検討した.OLSの自由度調整済み決定係数(Adj R2)とSLMの疑似決定係数(Pseudo R2)は単純に比較できないため,OLSとSLMのAIC(Akaike information criterion)を比較した.その結果,すべての推定結果でSLMのAICが,OLSよりも低く,情報量基準の観点からは,SLMがより適切なモデルであることが示された.以上より,以下で推定結果を検討する際には,OLSとSLMの結果を比較しつつ,SLMの結果を中心に検討する.

まず,傾斜度の係数について,OLSの結果をみると,ADのみ有意となった.一方で,SLMの結果をみると,すべての推定結果で傾斜度の係数が1%水準で有意となり,OLSと異なる結果が得られた.クロスセクションデータを用いたOLSにおいて,誤差項が空間的自己相関を持つ場合は,推定量は一致性も不偏性も持たない(瀬谷・堤,2014).このため,OLSとSLMの分析結果の相違は,OLSの結果が,傾斜度を過小評価したことを示唆している.また,ADとSIについて,SLMにおける傾斜度の係数の符号をみると,ADでは負で,SIでは正である.このことから,傾斜度が高い圃場を耕作する農家は,団地の規模が小さく,圃場が筆単位で分散する傾向にあることを読み取れる.さらに,MDとSDのSLMにおける傾斜度の係数の符号は,ともに正であるため,傾斜度の高い圃場を耕作する農家は圃場間距離が大きい傾向を読み取れる.

圃場面積に関しては,すべての結果において,OLSとSLMで結果に大きな違いはみられなかった.ADとSIについて,SLMの圃場面積の係数をみると,圃場面積の小さい集落で,筆単位で圃場が分散する傾向を確認できる.一方で,MDとSDについて,SLMの圃場面積の係数をみると,圃場面積が大きい集落で,圃場間距離が大きい傾向にあることがわかる.この結果から,圃場面積が大きく団地化が容易な集落においても,圃場が広範囲に分散することは避け難いことがわかる.さらに,圃場面積と傾斜度について,標準化偏回帰係数を算出したところ,すべての推定式において,圃場面積の係数が傾斜度の係数よりも大きくなった.このため,圃場面積は傾斜度よりも,圃場分散に関連する重要な要素である可能性が示唆された.

次に,社会的条件に関する推定結果について検討する.まず,農家数の係数をみると,空間的自己相関を考慮しないOLSの結果では,すべての係数が10%水準で有意となった.一方で,空間的自己相関を考慮したSLMの結果をみると,ADにおける農家数の係数が負で有意であったものの,SI,MD,SDにおいては有意ではなかった.先述のとおり,OLSにおいて,誤差項に空間的相関が生じると推定結果にバイアスが生じる.このため,SI,MD,SDにおけるOLSの結果は,傾斜度の場合とは逆に,農家数との相関を過大に評価していたと考えられる.実態調査に基づく先行研究では,農家数が多い集落で土地利用調整が困難になり,圃場が分散するという傾向が指摘される.ただし,本稿の分析からは,農家数と団地の規模との相関が検出できたものの,圃場の筆的分散や圃場間距離と,農家数との相関はみられなかった.

また,兼業農家の係数についても,SDにおいてOLSとSLMで係数の有意水準が異なるなど,推定結果に相違がみられた.SLMの結果をみると,SIとMDでは兼業農家率の係数が有意でなかった一方で,ADにおいては正で,SDにおいては負で有意であった.以上より,兼業農家が多くを占める集落では,団地面積が小さい傾向にあり,集落における兼業化の進展は団地化を困難にする可能性が示唆された.また,兼業農家比率の高い集落で,圃場間距離が短いという傾向も検出された.これは,兼業化が進んだ集落では,広範囲の圃場を耕作する大規模農家が少ないことを反映した結果と推察される.

さらに,寄合回数の係数をみると,すべての圃場分散度において,OLSとSLMに大きな違いはみられなかった.SLMの結果を見ると,寄合回数の係数が有意であった係数はSIのみであり,AD,MD,SDにおいて,寄合回数との相関は検出されなかった.この結果から,集落機能と団地の筆的分散との関連が示唆されたが,集落機能と圃場間距離との関連は示唆されなかった.このことから,分析対象地域では,集落としての圃場分散解消の際に,圃場間距離の縮減よりも,筆的分散の改善が重視された可能性をあげられよう.

6. 結論

本稿では,兵庫県の3市町を対象に圃場分散度のデータセットを作成し,圃場分散の空間的自己相関について検討した.さらに,圃場分散が空間的自己相関を有することを考慮して,空間計量経済分析によって,圃場分散と農業集落の地理的・社会的条件との関係を検討した.主な結果は以下のとおりである.

まず,Moran’s IやLocal Moranなどの指標を算出したところ,圃場分散が空間的自己相関を有する事象であることがわかった.この結果を踏まえ,圃場分散と農業集落の地理的・社会的条件との相関について,空間的自己相関を考慮した分析を行った.分析の結果,OLSは誤差項の空間的自己相関によるバイアスを伴うことや,空間的自己相関を考慮したSLMが,モデルとして妥当であることを明らかにした.また,OLSとSLMの結果を比較したところ,OLSでは,圃場分散と社会的条件との関連が多く検出された一方で,SLMでは,圃場分散と地理的条件との関連が多く検出された.このため,OLSによる分析は,農家数や寄合回数といった社会的条件を過大評価し,圃場の傾斜度といった地理的条件を過小評価するバイアスを内包していたことがわかった.

圃場分散に関する既存の実証研究に対する本稿の貢献は,以下の3点に集約される.第1に,圃場の位置情報を用いて圃場分散に関する指標を作成し,圃場分散が正の空間的自己相関を有することを明らかにした点である.第2に,圃場分散に関連する要因を検討する際には,OLSよりもSLMがモデルとして妥当であることを示した点である.第3に,空間的自己相関をコントロールすると,社会的条件よりも地理的条件が,圃場分散に関連する重要な要素であることを示した点である.

最後に,今後の課題について述べる.本稿では,担い手への農地集積が比較的遅れている兵庫県の3市町を分析対象とした.このため,本稿で得られた結果が,農地集積の進んだ地域に,直ちに当てはまるとは限らない.より一般的な結果を導出するには,農地集積が比較的進んでいる地域においても分析を実施するなど,分析対象を拡大する必要があろう.また,本稿では,使用したデータの性質上,農家レベルでの変数をモデルに多く含めることはできなかった.例えば,農家の労働力の保有状況や,土地の所有者との関係など,本稿で用いた変数以外にも影響を与える要因が存在しうると考えられる.こうした除外変数をモデルに含めて,より精緻な分析を行うことは,今後の課題としたい.

付記

本稿は,JSPS科研費JP21H02296による研究成果の一部である.

1  『2015年農林業センサス』より.

2  『2015年農林業センサス』より.

3  兵庫県庁提供データより.

4  『農業基盤情報基礎調査』,『2015年農林業センサス』より.

5  本稿では,PythonによってGoogle Chromeを自動制御してwebスクレイピングを行った.圃場の地番については,HTMLから,圃場の緯度・経度についてはJavaScriptのソースから情報を取得した.また,webスクレイピングの際には,サーバーへの負荷を軽減するために,リクエストの間に2秒程度の間隔をあけた.

6  本稿では,農地台帳データや全国農地ナビで一つの農地データとなっている農地の塊を圃場と称する.なお,この圃場は畔,水路,道路などに囲まれた最小単位の農地である場合がほとんどである.

7  農地台帳データは,『全国農地ナビ』のデータのように地番と圃場の位置情報が必ずしも1:1で整合しているわけではない.そのため,複数の地番が1つの圃場である場合は,それぞれの地番に均等になるように面積を按分し,一つの地番が複数の圃場として分割されている場合は,それぞれの圃場の位置が同じであると仮定した.また,農地台帳データの圃場の一部は,『全国農地ナビ』の情報に登録されていなかったため,データセットに含めることができなかった.これらの圃場は欠損値として扱われるが,欠損した圃場の割合は市町ごとに異なり,面積ベースでA市で20%,B町で10%,C市で15%であった.

8  筆ポリゴンは,衛星画像をもとに農地の形状に沿って作成されたポリゴンである.なお,本稿で作成したポイントデータのうち,面積ベースで97%の農地が筆ポリゴンと整合した.

9  ポイントデータと筆ポリゴンを重ね合わせた際に,同一のポリゴンに複数の耕作者が存在するケースがみられた.その場合には,同一の位置や形状で所有者が異なるポリゴンが生成されることになる.

10  空間重み付け行列には,様々な作成方法があり,作成方法によってMoran’s IやLocal Moranの値が異なる.そのため,結果の頑健性を確認するために,本稿では,以下の方法によっても空間重み付け行列を作成した.まず,農家が耕作する最大の団地を便宜的に農家の所在地であると定義した.そのうえで,ある農家の所在地から,4番目に所在地が近い農家を隣接する農家とした.以上の手順で定義した空間重み付け行列を用いて算出したMoran’s Iは,ADで0.207,SIで0.095,MDで0.133,SDで0.141であった.また,この空間重み付け行列を用いてspatial randomnessを帰無仮説とする仮説検定を行ったところ,1%水準で帰無仮説が棄却された.さらに,農家の所在地から3番目と5番目に所在地が近い農家を隣接農家とした場合も同様に,正の空間的自己相関が検出された.以上より,圃場分散度が空間的自己相関を有するという結果は,空間重み付け行列の作成方法に対して頑健であることが確認された.

11  空間重み付け行列を作成する際に筆ポリゴンを用いなかったのは,筆ポリゴンはポリゴン間に間隔が存在し,空間重み付け行列を作成することが困難であったからである.このため,本稿では,代替策として圃場どうしで間隔が生じないボロノイポリゴンを用いて,圃場どうしの隣接関係を定義した.

12  分析対象地域において,1辺が140mを超える農地はみられなかったため,140m以上離れたポイントどうしで隣接関係が生じないようにした.

13  それぞれの圃場分散度について,spatial randomnessを帰無仮説とする仮説検定をpermutation-based bootstrap testによって実施したところ,すべての圃場分散度でpseudo p-valueが0.01以下となった.以上の統計的検定により,すべての圃場分散度のMoran’s Iが,1%水準でゼロと有意差を持つことが確認された.

14  MDとSDの対数値を算出する際に,圃場が1つの場合はMDとSDがゼロとなり,対数値を定義できない.このため,MDとSDがゼロのサンプルには1を加えて対数変換を行った.また,MDとSDのMoran’s scatter plotの左側にみられる外れ値は,圃場が1つのサンプルである.なお,これらのサンプルを除外しても,Moran’s Iや,表2に示した空間計量経済分析の結果に大きな違いはみられなかった.

15  図2で市町の境界といった情報を記載していないのは,市町の特定を避けるためである.

16  注10に示した方法によって作成した空間重み付け行列に基づいて,Local Moranを算出した.その結果,図2と同様に,B町の比較的多くの圃場でLocal Moranが統計的に有意に検出された.

17  具体的な事例として,北陸における実態調査を行った細山(2004)を参照.

18  小針(2015)の整理によれば,農地中間管理機構初年度の実績は全国的に低調であったとされる.

19  30a未満の農家を除外したことで,推定結果にバイアスが生じる可能性もあるため,10a未満の農家を除外した場合の推定も試みた.その結果,推定式の係数の符号や有意性はおおむね同様であり,こうしたバイアスが生じている可能性は低いことが確認された.

20  標高・傾斜度5次メッシュデータはメッシュの単位が250mとやや粗いため,圃場の厳密な傾斜度ではなく,圃場周辺の傾斜状況として解釈する.また,集落レベルではなく農家レベルの傾斜度を用いた理由は,他の集落に出作している農家が耕作する圃場周辺の傾斜状況を正確に把握するためである.

21  ICC=τ2/(τ22),design effect=1+(k*−1)である.ただし,τ2は集落レベルの分散,σ2は農家レベルの分散,k*は集落内の平均農家数である.

22  清水(2014:p. 11)はデータに階層性があると判断する際の基準として,①ICCが有意である,②ICCが0.1を超えている,③design effectが2以上である,という3点をあげている.4つの圃場分散度について,ICCとdesign effectを算出したところ,ADで0.36と4.81,SIで0.09と2.23,MDで0.09と2.28,SDで0.11と2.45であり,いずれのICCも有意であったため,これらの圃場分散度は階層性を有すると判断した.

23  本稿では,圃場分散度の階層性に対処するために,集落をクラスターとする頑健標準誤差に加え,集落固有の効果をランダム効果で表現した階層線形モデル(hierarchical linear model)による推定も行った.階層線形モデルは,(3)式で表わされる.

  

y=Xβ+Zγ+u+e (3)

ただし,集落固有の効果であるuと誤差項のeは,それぞれ平均がゼロの標準正規分布に従うと仮定する.

階層線形モデルとOLSの分析結果との相違点は,以下のとおりである.まず,OLS推定では有意ではなかったSI,MD,SDの寄合回数について,階層線形モデルでは10%水準で有意となった.また,OLS推定では有意ではなかったSIの圃場面積の係数は5%水準で有意であった.なお,OLSと階層線形モデルの推定結果の間で,係数の符号の変化はみられなかった.

24  分析結果の頑健性を確認するために,本稿ではSLMに加えて,誤差項に空間的自己相関が存在すると仮定する空間誤差モデル(spatial error model,以下SEM)を推定した.SEMの推定式は,誤差項間の空間的自己相関の強さを表す係数をρとすると,(4)式で表される.

  

 y=Xβ+Zγ+u, u=ρWu+e (4)

SEMの推定結果を付表に示す.SLMとSEMのモデルとしての妥当性を検討するために,LM(Lagrange multiplier)テストを実施したところ,λとρがゼロであるという帰無仮説が,それぞれ1%水準で棄却され,いずれのモデルもOLSによる推定に比べて妥当な推定方法であることが示された.ただし,一部の係数でSLMとSEMで異なる結果が得られたため,SLMとSEMのAICを比較し,モデルとしての妥当性を検討した.その結果,SI,MD,SDの推定ではSLMが,ADの推定ではSEMが,情報量基準の観点から妥当なモデルであることがわかった.なお,ADの推定では,農家数の係数がSEMでは有意でなかったことを除き,SLMとおおむね同様の結果が得られた.

25  表2の観測数が表1よりも少ない理由は,対数をとったことで,距離がゼロのサンプルが除外されたためである.

付表
付表 空間誤差モデル(SEM)による推定結果
AD SI MD SD
圃場数 0.1428 *** (10.76) 0.1626 *** (29.26) 0.5300 *** (21.73) 0.3436 *** (14.05)
傾斜度 −0.0085 ** (−2.49) 0.0010 (0.74) 0.0108 * (1.78) 0.0090 (1.49)
圃場面積 0.0442 *** (12.02) −0.0411 *** (−2.90) 0.0040 (0.60) 0.0067 (1.01)
農家数 −0.0006 (−1.02) 0.0003 (1.27) 0.0031 *** (2.76) 0.0031 *** (2.83)
兼業農家率 −0.2407 ** (−2.28) −0.0012 (−0.03) −0.3003 (−1.57) −0.4060 ** (−2.13)
寄合回数 0.0014 (1.38) −0.0011 *** (−2.68) −0.0032 * (−1.66) −0.0029 (−1.51)
平地地域 0.1841 *** (3.18) −0.0001 (−0.01) −0.0440 (−0.41) −0.0723 (−0.69)
中間地域 0.1580 *** (2.67) −0.0179 *** (−0.77) −0.1193 (−1.09) −0.1384 (−1.27)
山間地域 0.1059 * (1.68) −0.0307 * (−1.25) 0.2228 * (1.94) 0.2062 * (1.81)
定数項 6.7330 *** (62.30) 0.3522 *** (8.26) 5.1848 *** (26.17) 4.6468 *** (23.61)
ρ 0.7746 *** (10.16) 0.7909 *** (10.09) 0.5392 *** (32.31) 0.9549 *** (25.39)
Pseudo R2 0.2210 0.4012 0.3681 0.4457
AIC 2555.2 −1565.3 4805.4 4839.8
観測数 2,182

1)***,**,*は,それぞれ1%,5%,10%水準で有意であることを,カッコ内の数値はz値を示す.

引用文献
 
© 2021 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
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