Journal of Rural Problems
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Short Paper
Actual Situation and Problems of Agricultural Employment Support Activities for Persons with Disabilities
Satoko IibaNaoto Yamabata
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2022 Volume 58 Issue 3 Pages 157-164

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Abstract

The purpose of this study was to investigate the status and problems of employment support activities for people with disabilities engaged in agriculture. Factor analysis revealed that the supporters provide “direct guidance,” “network construction,” “work environment improvement,” and “mediation.” In addition, factor scores were used to classify supporters into four types, of which supporters who actively engaged in all activities received no reward. Supporters who did nothing also had little knowledge or experience about people with disabilities.

1. 背景と目的

近年,農業経営体による障がい者の雇用,障害福祉サービス事業所等の農業参入や作業受託など,農業分野における障がい者就労の取組,いわゆる農福連携が全国的に広がっている.農福連携は農業の新たな働き手を確保するとともに,障がい者の自信や生きがいを創出し社会参画を実現する等の効果につながることが期待されており,農業・福祉分野の双方から注目されている取組である.しかし,新たに障がい者就労を進める際には課題もある.そのうちの一つが,農業者側の障がい者支援制度に関する知識や障がい特性への理解不足である.また,福祉側も農業に関する知識や技術不足の課題を抱えている.そのため,農業と福祉双方の知見を持ち助言や相談等を行う人材面での支援体制整備が求められている.

こうした要望を受けて,農林水産省をはじめ地方自治体やNPO法人,一般社団法人等が障がい者の農業就労を支援する人材の育成研修を実施している.しかし,これらの研修を受けた人材が支援現場で有効に機能しているかが把握できていないため,研修の改善の必要性も不明である.障がい者の農業就労支援という従来の職務領域を超えた活動には,標準化された手法があるわけでなく,支援者は支援対象者の状況やニーズに応じて試行錯誤を重ねていると想定される.こうしたなかで研修受講者の支援活動の実態や課題との関連を把握し,研修制度にフィードバックを目指すことは,人的基盤の充実による支援体制の強化に寄与できると考えられる.

農業分野における障がい者就労支援に関する先行研究においては,牛野他(2007)が農業者と障がい者とを仲介し,職場定着のサポートと定着後のフォローアップを継続的に支援できる中間支援組織の必要性について言及している.さらに,大澤(2009a)は,横浜市の障害者農業就労援助事業のシステムが,知的障がい者の農業経営体等への雇用に成果を上げていることを報告している.また,片倉他(2007)小柴・吉田(2016)は地方自治体の障がい者就労推進体制は,運営コストの点で継続性に課題があることを指摘している.一方,支援者側から支援の実態を把握した研究は,大澤(2009b)の職業安定所職員や養護学校教師がジョブコーチ的役割を担っている事例,中本(2019)の農業経営者が主体となった支援実態などがあるが,いずれも事例研究にとどまっており,適切な支援体制を導き出すために必要な支援者視点の支援実態の量的把握がされていない.

そこで本研究では,三重県の農業ジョブトレーナー養成講座修了者に対して質問紙調査を行い,統計的手法を用いて養成講座修了者の支援活動の実態を把握する.更に,そうした支援活動の実態と,支援者の職業や支援活動目的,支援活動の際の課題との関連を明らかにする.そこから,支援体制強化のための課題を考察する.

2. 農業ジョブトレーナー養成講座の概要

本研究は三重県の農業ジョブトレーナー養成講座修了者を対象とする.三重県では,平成21年に名張市障害者アグリ雇用推進協議会が全国に先駆けて「農業ジョブトレーナー」の名称で支援者の養成に取り組み始め,平成27年度以降は一般社団法人三重県障がい者就農促進協議会(以下協議会)も農業ジョブトレーナー養成講座(以下養成講座)を開催,令和2年度までに県内外の約350人が協議会の養成講座を修了している.養成講座は作業分割のスキル及び障がい者側と農業者の意思疎通を円滑に行うための橋渡し役として必要な知識の習得を目標に,障がい特性の理解,障がい特性に配慮した農作業の指導方法,分かりやすく伝え理解を促す技術,障がい者雇用制度の概要,支援計画の策定演習などの座学と農作業実習を2日間で行い,すべて出席すると修了証が発行される.農作業実習では実際に障害福祉サービス等事業所に出向いて障がい者と一緒に作業し,作業分割や適した人材の割り当ての工夫を実体験する.養成講座に類似の研修制度としては,令和元年度から開講した農林水産省の農福連携技術支援者研修があるが,この研修は,農作業における作業細分化・難易度評価・作業割当ての技法の座学・実習が特に充実しており,研修期間が7日間と長く修了試験も課される.農福連携技術支援者研修がより高度な知識を持った専門人材を育成するカリキュラムであるのに対し,養成講座は基本的な知識習得に加え,養成講座が支援者間の関係構築の契機となること,より多くの支援者を獲得し,それら多様な経歴を持つ多くの支援者で構成する支援体制の構築等もねらいにしている.そのため,既就業者が受講しやすいように短期間のカリキュラムとしている.

3. 方法

(1) 分析の枠組み

はじめに,今回明らかにしようとする支援活動の範囲を検討した.三重県の農業ジョブトレーナー制度は厚生労働省のジョブコーチがモデルとなっている.小川(2001)によると,ジョブコーチによる支援プロセスは①どのような仕事内容や勤務スケジュールの就労が対象とする障がい者にとって望ましいかを評価する「アセスメント」②「職場開拓」③仕事と人とのマッチングを行い,受け入れ事業所の環境整備,仕事の内容調整を行うなど事業所側が障がい者を雇うために必要な受け入れ準備をする「職場環境のアセスメント」④仕事に必要な技術獲得及び働く際に必要とされるマナー獲得の支援,従業員の協力関係の構築などを行う「職場での訓練・援助」⑤職場での援助時間を徐々に減少させていく「フェーディング」⑥雇用契約成立後一定期間行う「フォローアップ」から構成される.したがって,農業ジョブトレーナーとして求められるのは,障がい者の職場適応に向けた支援活動であり,障がい者側と農業経営体のニーズの掘り起こしや調整を行うといったコーディネート機能までは求められていない.しかし,養成講座は障がい者の農業就労に興味のある人を対象に広く参加を募っており,障害福祉サービス等事業所の職員をはじめ,農業者,公務員,福祉・農業関係団体職員など多様な職業から参加がある.また,農業ジョブトレーナーは職業として確立していないので,農業ジョブトレーナーの多くは本来の仕事を通じて,あるいはボランティアとしてそれぞれの直面する課題に応じた支援活動を行っていると想定される.そこで,本研究では農業ジョブトレーナーとして規定された活動に限らず,障がい者の農業就労に向けた作業環境整備のための支援行動全般を捉えることとした.

(2) 調査票の設計

実態の把握に用いる質問紙を作成するために,協議会代表,障がい者の農業就労支援を行うNPO法人の代表及び農業ジョブトレーナーとしての活動経験が豊富な3名の計5名にそれぞれ1~2時間程度の半構造化インタビューを行った.作成した逐語録から作業環境整備のための具体的な支援行動を抽出,萱間(2007)の質的データの分析方法に基づき発言情報を整理した.発言情報の整理にあたっては,調査対象者と調査者で表現や分類を議論し確認した.以上の方法により,28個の支援行動を表す評価項目を作成した.

(3) 調査の方法

2021年3月に養成講座修了者で転職等により送付先が不明な者を除く295名に無記名式で郵送調査を実施した.支援行動を表す28個の評価項目は,「よく当てはまる」「だいたい当てはまる」「どちらともいえない」「あまり当てはまらない」「まったく当てはまらない」の5件法で回答を求めた.その他に性別,年代,職業,養成講座受講年度と活動時の課題等について調査した.回収率は52.5%(155名)で,うち支援行動の評価項目,職業,活動上の課題にすべて回答のあった127名のデータを,SPSSを用いて分析した.

4. 分析方法と結果

(1) 回答者の属性

回答者の概要を表1に示す.回答者は男性が60.8%で女性より多い.また,20歳代が少ないことを除き,各年代の割合は概ね同じであった.三重県内の受講者が68.6%と7割近くを占めるが,県外からも参加がある.職業については,障害福祉サービス等事業所職員が半数を占め,農業者は10.2%であった.障がい者の農業就労支援を行う目的は,障がい者の就労支援であるとした回答が70.2%で,農業労働力確保のためとした回答は10.5%と少なかった.なお,農業労働力確保のためと回答した者のうち農業者は1名のみで,残りは農業系公務員やその他農業関係団体・企業等の職員であった.異動や退職により古い年度の受講者の回答率が低くなる傾向に加え,受講者数そのものも令和2年度が多いことから,令和2年度受講者が66.1%と多かった.

表1. 回答者の属性
n(%)
性別 男性 76(60.8),女性 49(39.2)
年代 20代 8(6.5),30代 25(20.2),40代 29(23.4),50代 33(26.6),60代以上 29(23.4)
居住地 県内 83(68.6),県外 38(31.4)
職業 障害福祉サービス等事業所職員 65(51.2),農業者 13(10.2),公務員 20(15.7),その他 29(22.8)
目的 障がい者の就労支援 87(70.2),どちらともいえない 24(19.4),農業労働力確保 13(10.5)
受講年度 H27 3(2.7),H28 2(1.8),H29 4(3.6),H30 10(8.9),R1 19(17.0),R2 74(66.1)

1)表中の%は無回答を除く.

2)職業の「その他」はJA等農業関係団体職員,NPO法人等福祉関係団体職員,退職者,障がい者の保護者など.

3)就労支援の目的を問う選択肢は,農業ジョブトレーナー説明資料(一般社団法人三重県障がい者就農促進協議会HP)を参考に作成.「どちらともいえない」は回答者本人の支援目的を問う内容であることから,「どちらにも該当する」の意で設定・解釈した.

4)複数回受講者は,最も古い受講年度.

(2) 因子分析結果

支援行動に関する質問28項目に対し因子分析を行った.スクリープロットと寄与率から因子数4と判断し,再度4因子を仮定し,主因子法,プロマックス回転により分析を行った.さらに,因子負荷量0.400未満の項目を除外し因子分析を行い,26項目からなる4因子構造とした(表2).

表2. 支援行動に関する因子分析結果
項目 直接指導 NW構築 就労環境整備 仲介
障がい者に農作業のやり方を教えている 1.042 .015 −.114 −.034
障がい者に働く時のマナーや日常生活の指導をしている .982 −.074 −.077 .061
農作業のやりがいや喜びを障がい者と分かち合っている .854 .049 .006 .009
障がい者が農作業をする際の作業環境について安全を確認している .751 .033 .190 −.022
障がい者の農作業が楽になるよう,方法・道具を工夫している .694 .140 .176 −.078
自分自身が栽培技術を身に着けている,または身に着けるよう努めている .592 .098 −.196 .143
支援者として,障がい者との信頼関係を構築するよう努めている .590 .167 .347 −.218
就労できる場所かどうか(トイレ・交通手段)を確認している .533 −.128 .373 .154
農業や福祉の関係機関から活動への協力を得ている .064 .784 .060 −.062
農業や福祉の関係機関と一緒に農福連携活動を進めている .087 .778 .045 .002
農福連携に関心を持つ人たちと積極的に関係を構築している −.103 .759 .189 .009
農福連携に関する活動の企画や運営をしている .141 .737 −.233 .189
活動の状況や障がい者の情報を必要に応じて関係者と情報共有している .241 .583 .100 −.065
農福連携の活動について,関係者同士で困ったことを話したり相談し合っている −.040 .543 .015 .162
支援者として,就労先農業経営体との信頼関係を構築するよう努めている −.228 .204 .988 −.093
農業者に,就労している障がい者の障害特性を伝えている .119 −.080 .845 .033
就労先農業経営体と障がい者が打ち解けあえるよう,努めている .162 −.079 .845 −.001
農作業に障がい者が参加することについて,就労先農業経営体の従業員の協力が得られるよう努めている .169 .003 .640 .121
作業環境の安全や障がい者が作業しやすい労働環境について,農業者に改善の提案をしている .084 −.079 .565 .335
障がい者が体験する作業内容や流れを確認するため,自分自身も見学や作業体験をしている .241 .047 .547 .020
障がい者がしやすい農作業のやり方を,障害福祉サービス等事業所職員や農業者と話し合っている .245 .129 .507 .084
障がい者に,農業体験や就労が可能な農業経営体を紹介している .160 −.202 .068 .825
農家・農業法人の作業依頼を障害福祉サービス等事業所に紹介している .012 −.003 .008 .791
農福連携の取り組みを希望する障害福祉サービス等事業所や農業経営体の相談に乗っている −.108 .303 −.092 .676
障害福祉サービス等事業所職員や障がい者,農業者を農福連携事例の見学や研修に誘っている −.001 .252 .002 .622
農福連携に取り組んでいる障害福祉サービス等事業所や農業経営体の様子を継続的に見に行っている −.095 .254 .163 .533
寄与率(%) 57.3 8.4 5.4 4.0
累積寄与率(%) 57.3 65.7 71.1 75.2

1)因子抽出には主因子法,Kaiserの正規性を伴うプロマックス法を用いた.

第1因子は「農作業の仕方の指導」,「マナーや日常生活の指導」,「農作業のやりがいを分かち合う」,「作業環境の安全確認」,「指導者自身の栽培技術向上」など,障がい者に対して行う直接的な指導に関する8項目が高い負荷量を示していることから,「直接指導」因子と命名した.第2因子は「関係機関との協力関係構築」,「関係機関との協働」,「支援者同士の関係構築」,「活動の企画・運営」といった関係機関や農業と福祉の連携に関心を持つ支援者同士の関係構築を表す6項目から構成されていることから,「ネットワーク(NW)構築」因子と命名した.第3因子は「農業経営体との信頼関係構築」,「農業者に障がい特性を伝える」,「農業経営体と障がい者との関係構築」,「農業経営体従業員の協力確保」など農業経営体における円滑な就労のための環境整備に関する7項目から構成されていることから「就労環境整備」因子とした.そして第4因子は「就労先の紹介」,「相談に乗る」,「見学や研修に誘う」等の5項目から構成されていることから「仲介」因子と命名した.回転前の累積寄与率は75.2%であった.各因子の内的整合性を検討するためにクロンバックのα係数を算出したところ,0.885~0.954と十分な値が得られた(表3).4つの因子を構成する項目の平均値は2.383~3.257で,「仲介」因子が他の3因子と比較するとやや低かった.相関係数は0.575~0.837で,互いに有意な正の相関を示した.

表3. 支援行動の下位尺度間相関と平均,SDα係数
直接指導 NW構築 就労環境整備 仲介 平均 SD α
直接指導 .674** .837** .575** 3.257 1.317 .954
NW構築 .696** .675** 3.190 1.136 .902
就労環境整備 .674** 3.024 1.329 .950
仲介 2.383 1.133 .885

1)**P<0.01

さらに,職業,目的別に因子得点の平均値を示した(表4).職業別に見ると,直接指導因子と就労環境整備因子は障害福祉サービス等事業所職員と農業者で高く,公務員とその他で低かった.農業就労支援の目的別に見ると,直接指導因子は障がい者就労支援と回答した者が,農業労働力確保のためと回答した者よりも高かった.

表4.

職業・目的別因子得点の平均,SD

1)抽出された各因子の因子得点は回帰法により算出.

2)Leveneの検定で等分散性が仮定されなかった目的別の就労環境整備因子はKruskal-Wallis,その他は一元配置分散分析の結果を記載.

3)多重比較はBonferroni法による.

4)*P<0.05,**P<0.01,**P<0.001

5)性別,年代,居住地による差はなかった.

(3) 支援タイプと課題

次に,因子得点を用いた階層化クラスター分析(ward法)によって類型化を行った.クラスター数は,クラスター別因子得点の特徴が明確に生じ,クラスター間の人数の偏りが比較的小さい4クラスターを採用した.図1に,各クラスターの因子得点平均及び表5に各クラスターの職業構成を示す.まず,タイプ1は「ネットワーク構築」や「仲介」をあまり行っておらず,これらに比べると「直接指導」,「就労環境整備」がやや行われていることから,障がい者が就労する現場での支援機会は多少あるものの,他組織の関係者や支援者との関わりは少なく,主に支援対象の組織内で活動が完結している支援者群と考えられる.障害福祉サービス等事業所職員の29.2%がタイプ1で,タイプ1の7割を占める.タイプ2は「ネットワーク構築」がやや活発であるが,「直接指導」「就労環境整備」「仲介」には特徴を見出せない支援者群である.4群のうち最も人数が多く,中でも公務員に占める割合が高く公務員の45%がタイプ2に該当する.このことから,障がい者に直接接するよりも,間接的支援を行う機会が多い支援者群と考えられる.タイプ3は「直接指導」「ネットワーク構築」「就労環境整備」「仲介」のどれもほとんど行っておらず,直接的にも間接的にも障がい者の農業就労支援に関わる機会がない支援者群と考えられる.職業がその他の者の48.3%がタイプ3に該当する.最後に,タイプ4はすべての活動において得点が高く,多活動の支援者群と言える.農業者の30.8%,障害福祉サービス等事業所職員の27.7%が該当する.

図1.

クラスター分析による支援者の類型化

表5. 職業構成
タイプ1 タイプ2 タイプ3 タイプ4
事業所職員n=65 29.2 35.4 7.7 27.7
農業者n=13 15.4 38.5 15.4 30.8
公務員n=20 15.0 45.0 25.0 15.0
その他n=29 10.3 27.6 48.3 13.8

(4) 支援課題

支援活動の際の課題は表6のとおりである.課題として最も多く挙げられたのは「農業の知識・経験が少ない」で全体の47.2%が該当した.次に多く挙げられたのが「仕事が忙しく時間が取れない」で40.2%である.これら2つの課題は,4タイプ間で有意差はなく,すべての支援者に共通の課題と言える.3番目に多く挙げられたのが「障がい者や障がいに対する知識・経験が少ない」で,全体の21.3%が該当した.中でもタイプ3のうち46.2%が支援活動の際の課題であると回答している.最後に,「活動に報酬が出ない」は全体の17.3%が該当すると答え,前述の3つの課題よりも該当者が少ない.しかし,多活動のタイプ4は44.8%が報酬を支援活動の際の課題としていた.

表6. 支援活動の際の課題
n(%)
タイプ127 タイプ245 タイプ326 タイプ429 合計127
活動に報酬が出ない*** 3(11.1) 4(8.9) 2(7.7) 13(44.8) 22(17.3)
仕事が忙しく時間が取れない 10(37.0) 20(44.4) 9(34.6) 12(41.4) 51(40.2)
農業の知識・経験が少ない 15(55.6) 24(53.3) 12(46.2) 9(31.0) 60(47.2)
障がい者や障がいに対する知識・経験が少ない** 3(11.1) 9(20.0) 12(46.2) 3(10.3) 27(21.3)
支援者一人当たり課題数 1.1 1.3 1.3 1.3 1.3

1)人数は,支援者が課題として選択した項目をすべてカウントした(複数回答).

2)Fisherの正確確率検定.

3)**P<0.01,***P<0.001

5. 考察

本研究では,三重県の農業ジョブトレーナー養成講座修了者の支援活動状況を明らかにするとともに,活動の際の課題との関連を検討した.明らかになったのは以下の諸点である.

第一に,農業分野における障がい者支援活動は「直接指導」「ネットワーク構築」「就労環境整備」「仲介」,の4つに分類できた.養成講座の内容及び支援者間の関係構築という目的から考えると,「直接指導」「ネットワーク構築」「就労環境整備」の3つの平均点が「仲介」よりも高くなる結果は順当と考えられる.また,ジョブコーチの支援プロセスに農業ジョブトレーナーの支援内容を照らし合わせると,4つの支援活動のうち,「直接指導」「就労環境整備」が農業ジョブトレーナーとして期待される支援活動に該当するものと考えられる.そして,職業別因子得点の高さから判断すると,「直接指導」「就労環境整備」の役割を主に担っているのは,障害福祉サービス等事業所職員及び農業者であった.つまり,農業分野における障がい者支援活動のうち農業ジョブトレーナーとしての役割は,実際のところ,障がい者の職場適応の課題に現場で直面している者が担っていることが確認された.

第二に,支援のパターンは4タイプに分類できた.回答者は多様な職業で構成されているため,当初,支援者らが本来の仕事を通じた支援活動を展開することにより,「直接指導」と「就労環境整備」を中心に行う農業ジョブトレーナー型と,「仲介」を中心に行うコーディネーター型に分かれると予想していたが,そうした支援者群は形成されなかった.一方で,「直接指導」「ネットワーク構築」「就労環境整備」「仲介」すべてを活発に行う支援者群の存在が明らかになった.中でも「仲介」はすべての活動が活発な支援者群でのみ行われていることから,これらの支援者は組織的体制による仲介業務というよりむしろ,障がい者や農業経営体との個人的なつながりを前提とした紹介や相談活動を行っていると考えられる.

第三に,支援者群ごとに支援活動の際の課題が明らかになった.特に,多活動の支援者群では無報酬が課題と回答した者がほかの支援者群に比べて多い.この支援者群は自組織における支援活動だけでなく,他の農業経営体や障害福祉サービス等事業所を対象とした支援,関係者との連携活動にも携わっているため,金銭的負担感が大きいと考えられる.加えて農業ジョブトレーナーの活動が適切に評価されていないことも,無報酬を課題とした要因の一つと推測される.障がい者の農業就労に広がりや発展を求めるのであれば,多活動の支援者が長期間に渡り取り組みを続けることができるよう,報酬の検討が必要と言える.一方で,ほとんど活動のない支援者群は農業と障がいの知識・経験がないことを課題に挙げている.養成講座は日数が短く参加しやすい反面,養成講座のみで支援に必要な知識・経験を補うことが難しい.この支援者群に対しては,農業や障がいに対する知識習得や障がい者の農業就労支援を経験する場をさらに提供する必要があるだろう.例えば,より高度な知識を得る機会の一つとして,農林水産省の農福連携技術支援者研修を活用することも考えられる.また,支援活動をほとんど行っていない支援者群と他の3群を比較すると,支援活動を行っている3群では障がい者や障がいに対する知識・経験不足を課題に挙げた者が減少するが,農業の知識・経験不足の課題は全支援者群で差がなく,農業技術指導の難しさが示されたと言える.そこで期待されるのは農業者による支援であるが,養成講座参加者の職業構成から見て,支援活動に参加する農業者が少ない現状にある.今回の調査結果では農業労働力確保を支援動機とした農業者が少なかったことから,労働力の確保を第一義的な価値として農業者に支援を呼び掛けることの限界が示唆された.そのため,農業者に対しても障がい者の農業就労の福祉的意義を示し,支援を募るアプローチが必要と考えられる.

最後に,本研究は限られた範囲での調査であり,結果の一般化には限界があるため,今後は調査対象を拡大した実態把握が必要と考える.また,今回は個人に焦点を当て,支援実態の把握と課題の検討を行ってきているが,これら支援活動がどの程度効果につながっているかについては明らかにできていない.支援活動に報酬を必要とするのであれば,どのような支援が効果を上げているかを明確にする必要がある.これらの点については今後の課題としたい.

謝辞

本研究を進めるにあたり,快く研究に協力してくださった一般社団法人三重県障がい者就農促進協議会の皆様方に深く感謝いたします.

引用文献
 
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