Journal of Rural Problems
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ISSN-L : 0388-8525
Book Review
[title in Japanese]
Keishi Ogawa
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2023 Volume 59 Issue 2 Pages 100-101

Details

本書は,国内の畜産経営と集落営農を対象に,農業経営と地域ネットワークについて,多角的な学術的視点から検討した研究成果が取りまとめられたものである.人口減少が進む農村と,激しい環境変化への対応を迫られる農業経営にとって,多様なステークホルダーが連携する地域ネットワークの重要性が高まっている.本書は,農業経営が地域との連携関係を構築しながら,経営発展と地域貢献を両立する多様な実態を示すことで,農業・農村の課題解決に資する含意を提供する,貴重な書籍である.

以下に,本書の概要を紹介する.

序章では,本書全体の社会的・学術的背景と目的,各章の対象,研究課題が整理されている.

第1章から第3章では,畜産経営を対象として,経営の成長プロセスと地域ネットワーク形成の実態が示され,その要点について考察がなされている.第1章では,繁殖部門を有する肉用牛経営について,飼育技術(施設か放牧か)と経営の自己完結性(自己完結か地域連携か)による類型を示し,その課題と対応が検討されている.これにより,自由貿易が進展するなかでの肉用牛繁殖部門の振興策について考察されている.第2章では,中山間地域の酪農経営について,頭数規模と多角化の程度による類型を示し,酪農経営における経営発展に伴う家族的要素と企業的要素の変容と役割について検討されている.第3章では,異業種との多様な連携関係の構築により,経営発展と地域貢献を両立させた資源循環型の大規模肉用牛経営について,その確立過程を明らかにするとともに,産地再編の特徴について検討されている.

第4章と第5章では,農業経営と地域ネットワークの「直接的な結節点」として,耕蓄連携システムの実態が検討されている.第4章では,堆肥・稲藁利用を軸とした耕蓄連携システムを対象として,耕蓄連携システムの展開形態,耕種農家と酪農家による堆肥運搬散布組作業と稲藁収集・運搬作業の実態と課題,耕種農家の堆肥利用に対する評価が検討されている.第5章では,集落営農放牧の組織化過程と運営体制について,組織形態が異なる類型間の比較を行うことで,集落営農放牧の普及条件が検討されている.

第6章から第8章では,集落営農組織を対象とした検討がなされている.第6章では,集落営農法人の組織文化と経営戦略について,地域個性と村落機能に着目した既往の論点の整理と,予備的な事例分析が行われている.これにより,集落営農法人の組織文化形成,組織化・法人化,組織形態,および組織活動の分析枠組みが提示されている.第7章と第8章では,集落営農組織を対象に,島根県におけるアンケート調査結果を用いた計量分析と事例分析により,環境保全型農法導入の規定要因(第7章),地域貢献活動の特徴(第8章)が検討されている.これにより,地域条件や組織属性に応じた集落営農組織の活動実態と,集落営農組織が地域農業に対して担う役割が示されている.

終章では総括として,各章の重要な発見と含意が整理され,本書の課題が示されている.

本書は,これまで農業経営学の発展に寄与してきた「農業経営に対する高度な抽象」が「地域の農業者の日々の暮らしや目線を等閑視してしまうリスクを孕んでいる」という問題意識のもと,地域資源や地域個性などを含めた多角的視点による分析が意図されている.この点を念頭に置きつつ,以下に評者なりの見解を述べる.

本書では,各章において,丁寧な学術的背景の整理のもとで,課題設定や分析枠組みの設定が明確に行われ,経営と地域の個性を捉えた実態分析がなされている.これにより,他地域にも参考になる含意を導くことに成功していると評者は考えた.具体的には,技術や規模,家族的要素と企業的要素,経営戦略等の学術的な概念を用いて経営の異質性が捉えられ,また,地域ネットワークや経営の展開プロセスが,時系列に沿って捉えられ,図表を用いつつ簡明に整理されている.これにより,関連するテーマに取り組む研究者や,地域における連携体制の構築に取り組む自治体職員や農業経営者,地域リーダーは,地域や経営の現状を踏まえて,本書による分析結果や提案を適切に参照することができるだろう.

一方で,本書が対象とした農業経営と地域ネットワーク,あるいは畜産経営と集落営農とを,多角的な視点から検討したことの意義(多角的視点により何を得ようとしたか,何が得られたか)が不明瞭であるように感じた.例えば,農業者や住民の目線を等閑視することで生じるどのような問題への対応が意図されたのか.各章の分析結果を総合的に考察した際に導かれる「地域ネットワークに共通の特徴と課題」は何か.これらについては,評者による見落としの可能性も多分にあるが,本書において必ずしも明示されていないと思われる.

上記の論点に対する評者なりの見解としては,本書は,より現場目線に近い分析視点を用いたことで,実践の場により受け入れられやすい含意を提示しており,その点から,学術研究と実践の現場とが乖離してしまう問題に対処していると考えた.また,各章の分析結果を総合的に考察すると,有効な地域ネットワークの形成において,歴史的に形成されてきた地域や経営に固有の要素が重要な役割を果たしており,それゆえ,地域や経営の個性を尊重した支援・推進施策が必要となることが示唆されていると考えた.ただし,本書から導かれた含意が,地域ネットワーク一般にどこまで適用可能であるかは,判然としない.その評価のためには,多様な地域ネットワークの視点と対象における畜産経営と集落営農の位置づけを示したり,本書の各章を統合する分析枠組みを提示したりする必要があると考えた.

また,気になった点として,調査分析手法についての記述がやや物足りなく感じた.本書における調査分析手法の記述としては,各章において,対象とその選定理由,調査期間が簡潔に示されている.本書の分析結果や含意を参照したい実践の場の人々を読み手と想定すれば,簡潔な記述は長所と評価できる.しかし,農村をフィールドに調査・研究に従事する立場からは,著者による研究手法の詳細が気になった.具体的には,経営発展や地域ネットワーク形成の実態を捉えるために,どのような調査手法,事前準備,資料収集,工夫がなされたのか.収集した情報は,どのように整理,分析されて,本書のような簡明な図解,説明に辿り着いたのか.これらについての情報提供があれば,農村・農業経営を対象にフィールド調査を行う多くの研究者にとって非常に参考になったと思われる.

最後に,繰り返しとなるが,本書の研究成果は,農業・農村のフィールドで重要性が高まる地域ネットワークについて,研究者だけでなく,実践の場にいる方々にも大変参考になる内容である.ぜひ多くの方に一読を勧めたい書籍である.

 
© 2023 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
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