2023 Volume 59 Issue 2 Pages 61-73
A farmers’ group may have a collective character which formed in a specific geographic and historic background and its members’ relationships. And a collective character may affect the way of group operation and the expected behavior for its members. In this study, I conducted a comparative study of two farmers’ groups which produce leafy vegetables. The first case is a group of an agricultural cooperative, and the second case is a contract farming group with a consumers’ cooperative. To analyze how they formed their collective character, I applied the organizational culture theory. The results showed that the first case has strong territorial connections, therefore the members’ voluntary contributions are restrained. But it has allowed the coexistence of its various members. In contrast, the members of the second case are expected to participate in the group operation and provide mutual support. Therefore, some members have quit who felt burdened by making contributions to group operation or mutual support. In conclusion, this study clarified that the collective character of a farmers’ group can actually restrict farmers from developing their business as its members.
青年農業者は,経営の采配を振れることや,主体性1を発揮し経営展開していくことを就農動機とする場合が少なくない.しかし,生産から販売までを自身で手掛けるのではなく,農業協同組合(以下,農協)の生産部会や出荷組合といった生産者組織のメンバーとなる場合がある.ある作物の生産者が組織化され,面的に展開された範囲は産地と呼ばれる.
生産者組織は,後述の和泉(2018)が指摘するように,生産・販売に関する経済性の集団的な追求に加えて,青年農業者をはじめ新規就農者の育成基盤としても期待されている.ただし,生産者組織には,産地の地理的・歴史的性格やメンバーの関係性のなかで形成されてきた,集団的性格があると考えられる.集団的性格は,生産者組織の事務を取り仕切る業務執行や,そのための意思決定の方法といった産地運営のあり方,また,産地のなかでメンバーに期待される行動を規定している可能性がある.このため,個々のメンバーは,集団から期待される行動を受け入れることが重要であり,それが自身の目指す生産・販売のあり方や集団との関わり方といった,経営志向と相容れなければ脱退に至る可能性がある.したがって,集団的性格がメンバーに与える影響を解明することは,生産者組織に参入する青年農業者がメンバーとして定着し,その一員として経営展開するための条件を検討するうえで大きな意義がある.
そこで,本研究は,ある生産者が生産者組織の一員として経営展開を図る場合,その集団的性格が経営展開の制約となり得ることの検証を目的とする.その方法として,軟弱野菜を生産する,農協の生産部会と生活協同組合(以下,生協)の産直産地の生産者組織を事例とし,聞き取りによる質的調査を実施する.調査に基づき,集団の存立環境やメンバーの関係性に着目した,シャイン(1985)と鈴木(2013)の組織文化論を分析視角に援用し,集団的性格の形成要因を分析する.そして,その集団的性格を,産地運営のあり方とメンバーに期待される行動から考察する.このようにして,メンバーの経営展開は集団的性格に制約されることをあきらかにする.
本研究が事例とする園芸産地に着目すれば,農業生産の選択的拡大のもとで生産者の組織化が進展した.その主な形態に農協による産地運営と共同販売(以下,共販)があるが,佐々木(1980)は,生産者組織の発展に伴って農協等の運営側が優位となり,販売・管理機能を掌握することで「小農的主体性の制限」が生じる恐れを指摘した.そして,産地のなかで,個々の経営活動の自由や,生産者組織の意思決定への参加が確保されなければならないとした.
対して,磯辺(1984)は,地域農業のなかで個々の経営体は「自由に意志決定できるわけではなく,意志決定するには,一方において技術に制約され,他方において国民経済さらに所在する地域に対し社会的責任に答えなければならない」(磯辺,1984:p. 38)と指摘した.また,秋津(1996)は,地域のなかで生産者組織のような公式組織が成立する背景に,産業構造の変化に伴って産地が形成された経緯や,メンバーが生活のなかで所属する年齢集団やオツキアイ等,地縁的な非公式組織の存在を指摘した.
メンバーの経営体としての独立性を重視する佐々木(1980)に対して,磯辺(1984)や秋津(1996)の議論では,メンバーの主体性は,農業構造や地域社会等,おかれた地理的性格のなかで発揮され,生産者組織自身も,産地の歴史的性格や地縁的結合のもとで形成されるものとして捉えられている.しかし,1980年代以降,経営水準の格差や経営志向の違いといった,メンバーの異質化が明確となってきた.
例えば,キク産地を事例とし共販体制を分析した石田(1987)は,生産部会には,地縁的結合に基づく地域集団と,経済性追求のための機能集団の側面があるとしたが,同産地では労働力や施設能力等の経営格差が拡大していた.このようなメンバーの異質化は,機能集団の追求の障壁となり,野心的で栽培技術や経営資源に優れる者は自身で販売し,共販はこれらが劣る者の販路となる問題を指摘した.また,西井(2006a)は,有機栽培野菜等の産直産地だった生産部会が,農事組合法人として農協から独立した事例を分析した.同事例は,メンバーが企業家的感覚や自律的な産地運営を志向したものだった.
石田(1987)の議論は,おかれた産地構造の枠内で経営展開するメンバーの様相に変化が生じ,西井(2006a)の議論は,そのなかで形成された集団的性格が,産地の展開方向に影響を与えることを指摘し示唆に富む.さらに,メンバーの異質化に伴って個々の主体性が明確となり,その経営志向が集団的性格と相容れなくなれば脱退に至る可能性がある.それでは,脱退はどのように議論されてきたのか.
例えば,イチゴ産地等を事例とし共販体制を分析した岩崎(2013)は,物量確保と集団的な有利販売の観点から脱退は回避すべきとした.同産地では,高齢化や労働力の減少が出荷規格に基づく集荷の障壁となっており,メンバーの負担低減のため,共同パック詰め施設が整備され効果を上げていた.岩崎は,生産者組織がメンバーを留めるには,このような経営上のニーズへの対応が重要であるとした.また,ナシ産地等を事例とし運営構造を分析した西井(2006b)は,生産者組織はメンバーの民主的な統治体であるとするガバナンスの観点から,脱退を回避し,改善を期待する告発を促すことが重要であるとした.そのためにはメンバーのロイヤルティが重要であり,その形成には,意思決定や役員の選任・罷免等,メンバーの運営参加が求められるとした.
しかし,岩崎(2013)や西井(2006b)の議論では,集団的性格との相違に起因する脱退が考慮されていない.その背景には,メンバーの異質化が指摘されつつも,例えば和泉(2018)に認められるように,生産者組織は,一定の経営志向を持ったメンバーの結集が前提とされてきたことが指摘できる.和泉は,就農支援のあり方を生産者組織の役割と関連させて検討した.その役割とは,集出荷体制の利用だけではなく,品質確保や生産性の向上等に集団的に取り組むことを指す.ただし,このような取り組みが機能する背景には,産地としての集団的な対応を高く評価する集団的性格と,そのなかで取り組みに協力するメンバーの貢献があると考えられる.
したがって,メンバーには,生産者組織の集団的性格を受け入れ,そのなかで経営展開していくことが求められると考えられる.しかし,先行研究では,どのように集団的性格が形成され,メンバーの行動に影響を与えているか解明されていない.
(2) 分析視角そこで,本研究は,組織文化論を援用し,生産者組織の集団的性格とその形成要因に接近する.
組織文化論は,企業組織のような目的志向の集団を対象とし,その集団的性格を,従業員をはじめメンバーの行動と関連させて分析する理論として,経営学分野において発展してきた.その端緒となったピーターズ・ウォータマン(1982)は,生産性の高い企業の特徴として,顧客や従業員との関係性,基軸事業等に加えて,組織に通底する基本的価値を重視し,メンバー間でその認識を共有していることを指摘した.また,佐藤・山田(2004)は,個々の組織には,組織運営のなかで形成されてきた「観念的・象徴的な意味のシステム」(佐藤・山田,2004:p. 51)があり,ある価値があらゆる組織で望ましいわけではなく,その形成では,社会的な制度や文化,市場環境等,存立環境の影響を受けていると指摘した.
本研究が組織文化論を援用するのは,生産者組織の集団的性格を,組織とそのメンバーに着目して捉えるためである.生産者組織は,生産・販売の経済性を追求する目的志向の集団であり,メンバーは生産過程を担い,そこから選出された役員が,農協職員等の担当する部会事務局等とともに運営側となり業務執行を担うといった,企業的な産地運営がされる.確かに,メンバーは,企業の従業員とは異なり個々が独立した経営体だが,ある経営体で対外的に生産者組織や他のメンバーとの接点となるのは,経営体を代表する個人である.このため,集団的性格に着目するうえでは,企業の一員として働くことと,生産者組織の一員として集団的な生産・販売に組み込まれることとは,同様に捉えられると考えられる.
ただし,佐藤・山田(2004)が指摘したように,集団的性格は存立環境の影響を受け,磯辺(1984)や秋津(1996)が指摘したように,生産者組織は地縁的結合を含むメンバーの関係性や,地理的・歴史的性格のもとで形成されるため,それが産地運営のあり方や,メンバーに期待される行動の形成要因となっている可能性がある.したがって,生産者組織の集団的性格を分析するうえでは,地理的・歴史的性格のもとで産地運営のあり方が形成され,産地運営のなかで形成されたメンバーの関係性が,個々に期待される行動を規定している可能性を考慮することが重要である.そこで,本研究は,存立環境のもと,集団のなかでパターンとして形成されてきた性格に着目した組織心理学者である,E・シャインの「組織文化」の議論に基づき集団的性格に接近する.
シャイン(1985)は,組織文化を「外部への適応や内部統合の問題に対処する際に学習した,グループ自身によって,創られ,発見され,または,発展させられた基本的仮定のパターン」であり,「新しいメンバーに,そうした問題に関しての知覚,思考,感覚の正しい方法として教え込まれる」(シャイン,1985:p. 12)と説明した.すなわち,組織文化は,組織運営やメンバーの行動のなかに表出されるが,その背景には,メンバーが無意識に前提とする価値や仮定があり,組織に通底する知覚・思考・感覚の正しい方法とされるのが「基本的仮定」である.
本研究は,集団的性格を,シャインに基づき,組織運営やメンバーの行動のなかに表出された組織文化として捉える.そのうえで,組織文化の前提となる基本的仮定を分析するため,次の視角に着目する.
その1つは,シャインが組織文化の役割として指摘した,外部適応と内部統合への対応のあり方である.外部適応とは,組織が存立環境に対応し,そのなかで期待される役割を発揮するため,組織自身の使命と戦略,手段等を集団として合意することである.内部統合とは,組織が外部適応のもとでメンバーを包摂しシステムとして機能するため,メンバーに共通する概念や認識,集団の境界や成員性,親密さ,イデオロギー等の問題に対処することである.
このように,シャインは組織運営に認められる基本的仮定に着目したが,基本的仮定は,内部統合のもとで組織化されたメンバー間にも認められ,個々に期待される行動を規定していると考えられる.それを捉えるための視角として,組織行動論が専門である鈴木竜太の「関わりあい」の議論が参考になる.
鈴木(2013)は,製造業を事例とし,従業員の関わりあいに着目して職場のマネジメントを検討した.鈴木は,職場をコミュニティとして捉え,メンバーが割り当てられた仕事を遂行するために関わりあうなかで,次の3つの行動が引き出されることが期待されるとした.それは,他のメンバーへの自発的な支援である「援助行動」,集団の秩序を重視し仕事を勤勉に遂行する「忠誠行動」,創意工夫し自発的に仕事に取り組む「進取的行動」である.そして,鈴木は,メンバーは関わりあいのなかで期待される役割を引き受けて,できること・しなければならないことを把握するようになるとし,メンバー間にこのような行動を高く評価する集団規範が形成されることが,個々の貢献を引き出すために重要であるとした.
以上の検討から,本研究は,生産者組織の組織文化にその基本的仮定を分析することで接近するため,図1に示すように次の2つの分析視角を設定する.

基本的仮定を捉えるための分析視角
資料:筆者作成.
1つは,シャイン(1985)に基づく,地理的・歴史的性格のもとで形成されてきた産地運営のあり方を捉える視角であり,外部適応と内部統合の視角から分析する.外部適応を捉えるため,生産者組織が存立環境に対してどのように産地展開し,そのためにどのようにメンバーの合意形成がされているかに着目する.内部統合を捉えるため,産地のなかでどのようにメンバーが包摂されているかに着目する.
もう1つは,鈴木(2013)に基づくメンバーに期待される行動を捉える視角である.生産者組織が外部適応のもとで内部統合していくなかで,メンバー間に形成されてきたパターンとしての関わりあいを捉えるため,産地のなかで表出される行動を,援助行動,忠誠行動,進取的行動に着目して分析する.
本研究の第1事例は,東海地方の農協の生産部会(以下,X部会)である.第2事例は,滋賀県にあり,Y株式会社(以下,Y社)によって運営され,同県を事業地域とするW生協の産直産地である.
予備調査の結果,事例産地は,同時期に結成され,主に平地農業地域(後述の開拓農協は中間農業地域)に展開し,メンバーの多くが専業農家か第1種兼業農家だった.しかし,最近5年間にX部会でメンバーの脱退はなかったが,Y社では4経営体が脱退していた.本研究は,この違いが集団的性格によって生じると考え,その形成要因として着目している(1)地理的・歴史的性格と,そのもとで形成されてきた(2)産地運営のあり方を捉えるため調査を実施した.メンバーに期待される行動を捉えるため,その特徴が顕著に認められた(3)生産支援にも着目した.調査は,運営側と主要メンバーを訪問して聞き取りし,2020年1月から12月に断続的に実施した.電子付録の表A1は事例産地の概要を示している.
また,第2事例では,最近新規参入した青年農業者が経営する甲農園と乙農園の2つの経営体があり,うち乙農園はY社を脱退していた.そこで,新規参入時の支援の実態を捉え,乙農園の脱退要因に接近するため,両経営体に詳細な聞き取りを実施した.
(1) 地理的・歴史的性格 1) 第1事例:X部会農協への聞き取りに基づけば,X部会は,戦時下の青果物配給統制規則に基づく1941年の出荷統制組合の結成を発端とし,1970年に農協の生産部会の1つに組み込まれ現在に至る.河川沿いの砂地のため稲作に向かず畑作がされていたが,1965年からの農業構造改善事業によって灌漑施設やビニールハウス(以下,ハウス)が整備され,ニンジン,ゴボウ,イモ類等から,ダイコン,ナス,キュウリ,現在の主力となる軟弱野菜に転換していった.旧村地域の南東部に産地が形成され,メンバーの圃場(約40 ha)は集落周辺(約2.5km2)に密集している.圃場の多くにハウスが設置され,周辺地域の水田型の土地利用とは明確に区別できる.X部会の事務は,農協の部会事務局が担い農協職員2名が担当している.
2019年度のメンバーは84経営体で,経営体の主な担い手が49歳以下の家族経営体は22経営体,新規参入者は1経営体である.年代別では60歳代19名,70歳代16名が最も多く,次いで親元就農者を中心とする40歳代14名である.また,2つの法人経営体があり,1つはコマツナを,もう1つはネギを主に生産している.前者は,1995年に5名のメンバーが任意団体として設立し,2002年に法人化された.5名は法人経営体とは別に自身の家族経営体を持つ.経営耕地面積は3.2haで,その主な圃場である1.0haの連棟ハウスは借地した水田転換畑に設置され,集落の周縁から約300m離れた場所にある.後者は,2016年に別の5名のメンバーが家族経営体とは別に設立し,経営耕地面積は1.2haである.
産地の主力はコマツナで,80経営体が生産し,2015年度以降メンバーは変化していない.名古屋市中央卸売市場まで直線距離で約40kmという交通至便な立地を活かし,ほぼ全量のコマツナが東海・北陸地方を中心とする卸売市場に出荷され,一部は農協直売所等にも出荷され,2018年度の販売高は約5億円である.他に,ネギ,ミズナ,ホウレンソウ等,16品目が生産されている.メンバーは,数品目を組みあわせることで連作を避け効率的に生産している.
2) 第2事例:Y社Y社への聞き取りに基づけば,Y社は,戦後,県南部のある旧村地域(現,栗東市)の開拓のため,1947年の開拓農協の結成を発端とする.17戸が入植し造成された約0.4km2の集落と畑地では,スイカ,ダイコン,イモ類等の他に畜産もされていたが,1970年代以降,ハウスが設置され軟弱野菜の生産が拡大していった.同地域は,1965年に4農協が合併し発足した総合農協の管内となったが,代金決済等で同農協を利用する一方で生産部会の1つとはならず,独立性を保ったまま産地が発展していった.
1976年に開拓農協は解散し,その役割は農業生産組合に継承された.1970年代以降,食の安全性への懸念や生活・農業排水による琵琶湖の汚染が社会問題となり,消費生活を通じてこの問題に取り組む運動が起こった.そのなかで,1972年にV生協が結成され,V生協は1993年に県内の4生協と合併しW生協となった.V生協は,環境に配慮し栽培方法が明確な野菜を,大産地との提携によって調達することが難しいなかで,1981年に同生産組合と産直に向けた話しあいが持たれた.それをきっかけに,W生協の前身となる他の生協にも販路を広げていった.
1990年代以降,栗東市や草津市の生産者が加入し,2000年代以降,後述の丙・丁農業法人等で雇用就農や研修を経た新規参入者が加入し,守山市や野洲市に産地の範囲が拡大していった.任意団体である生産者グループを経て,2016年にメンバー全員(19名)を株主として発足したY社による運営が開始され現在に至る.メンバーの圃場は地理的に分散し,2019年度は守山市6経営体,栗東市5経営体,草津市3経営体,野洲市2経営体,長浜市1経営体である.Y社の事務は同社職員3名が担当している.
2015年度以降,1家族経営体と1法人経営体が加入するが4家族経営体が脱退し,2019年度のメンバーは2つの法人経営体を含む17経営体である.主な担い手が49歳以下の家族経営体は11経営体,新規参入者は9経営体である.年代別では30歳代7名,40歳代4名が最も多い.法人経営体では,その1つである丙農業法人は,後述のように産直の初期から関与し,メンバーの育成でも重要な役割を担っている.もう1つは,2018年に設立されたW生協の子会社で,農業やリサイクル事業を通じた障害者雇用に取り組み,経営耕地面積は0.5haである.
産地の主力はコマツナで,12経営体が生産し,ほぼ全量がZ株式会社(以下,Z社)を通じて,W生協をはじめ近畿地方の生協を中心に出荷されている.Z社は,県内に3つある産直産地を統括するため,W生協の関連会社として1994年に設立され,流通や代金決済といった商社機能を担っている.卸売市場や食品宅配業者にも出荷される等,Z社によって複数の販路が確保され,2018年度の販売高は約2億円である.他に,ミズナ,ネギ,ホウレンソウ等,17品目が生産され,メンバーは数品目を組みあわせて効率的に生産している.統一の有機質肥料の使用や減農薬・減化学肥料栽培に取り組み,2013年から県の「環境こだわり農産物2」認証を取得している.
(2) 産地運営のあり方次に,事例産地の産地運営のあり方を集出荷体制,業務執行,意思決定,実需者との関係から捉える.
1) 集出荷体制第1事例の集出荷体制は個選共販である.農協の集荷場に持ち込まれた野菜は,取引のある十数の卸売業者のうち複数に出荷され,その割当は部会事務局が担う.卸売市場で価格が決定され,共同計算を経てメンバーに精算される.役員や部会事務局といったX部会の運営側は,メンバーの部会以外への販売を認めている.しかし,部会事務局によれば,大物量を出荷しなければならない中核メンバーを中心に,部会以外への販売は良く思われず,その販路の1つとなる農協直売所にはX部会を通じて出荷されるため,メンバーの部会以外への販売はないという.
第2事例の集出荷体制は生産割当を伴う契約栽培である.Y社の集荷場に持ち込まれた野菜は,Z社の拠点があるW生協の物流センターや,卸売業者に出荷される.メンバーは出荷計画に基づき出荷し,既定の価格で精算される.価格はY社,Z社,生協側が折衝し年4回程度見直される.生産割当は,メンバーに年1回提出を求める年間計画に基づき,生協からの注文に応じた毎日の出荷数量の調整は,Y社職員が担う.余剰を見込んだ作付となるため,Y社は,メンバーのY社以外への販売を認めている.
2) 業務執行第1事例の業務執行はX部会の役員が担う.産地の主力であるコマツナ部会の役員6名3は,メンバーから選出され任期は2年である.後述の総会で決議されメンバーはだれでも立候補できるが,慣行では,今の部会長が事前に候補者に声を掛けておき,今の副部会長が次の部会長となる.2019年度の役員は40歳代3名,50歳代2名,60歳代1名である.
第2事例の業務執行はY社の役員が担う.Y社は,会社形態をとるが,メンバーの持分は均等で実態は組合である.役員は,会社機関としての役員に一致し,メンバーから選出され任期は4年である.メンバーはだれでも立候補できるが,実際には,後述の例会での協議を経て総会で決議され,全員改選が原則である.2019年度の役員は,取締役が30歳代2名と40歳代1名,監査役が30歳代1名である.
3) 意思決定第1事例の最高意思決定は総会,日常的意思決定は役員会である.総会は,年1回設けられメンバー全員に出席を求める.役員会は,年4~6回設けられ,役員と部会事務局が出席し,市場出荷先の検討を含む生産・販売方針の調整,総会や生産者会議での協議事項等が協議される.役員や部会事務局へのメンバーの意見反映は,主に生産者会議が担い年2~3回設けられ,メンバー全員に出席を求める.
第2事例の最高意思決定は総会,日常的意思決定は例会である.総会は,年1回設けられメンバー全員に出席を求める.例会は,2週間に1回設けられ,メンバー全員に出席を求めZ社のバイヤーも出席し,生産割当の調整や生協の商品企画への対応等が協議される.メンバーの意見反映は主に例会が担う.例会は,ほぼ全員が発言するフラットな協議体4で,野菜の生育や病害虫の状況等の情報共有もされる.
4) 実需者との関係第1事例では,役員と部会事務局は,卸売業者,仲卸業者,スーパーマーケットのバイヤー等が産地を訪れる際に意見交換している.特に,仲卸業者との連携に力を入れ,その得意先のスーパーマーケットでの試食販売等,産地の宣伝にも取り組んでいる.X部会は,消費地近郊で交通至便な立地を活かし,日持ちがし大産地と競合しやすいニンジンやゴボウ等から,鮮度が重視される軟弱野菜へと転換することで,卸売市場での競争力を確保してきた.しかし,一般に軟弱野菜は,小売業者は全国の産地から市況に応じて調達し,消費者も産地を意識して購入しない場合が多い.最近の卸売市場流通は相対取引が主流であり,部会事務局は,販路を確保し有利販売するため,流通の小売側との関係構築を重視している.
第2事例では,Y社は,Z社を介し1~2か月に1回程度の頻度で産地見学を受け入れている.生協の組合員活動として受け入れる場合が多いが,生協役職員の視察等の場合もある.生協組合員や役職員との意見交換会が設けられることが多く,Y社役員とZ社役員が対応する他,圃場見学等がある際にはメンバーが輪番で対応している.Y社役員によれば,メンバーに負担はなくはないが,メンバーは,組合員との交流等は産直産地としての責任であり,その声は励みになると肯定的に評価5しているという.
(3) 生産支援次に,事例産地の生産支援を,農協や普及指導センターといった関係機関による支援と,関係機関によらないメンバー同士による相互支援から捉える.
1) 関係機関による支援第1事例では,農協によって統一の肥料,農薬,種子,包装資材が購買され,栽培暦が策定されている.また,普及指導センターの普及指導計画に位置づけられ,産地の課題となっている連作障害に対応するため,メンバーの協力のもと,年4回の土壌診断と個別面談,巡回指導,研修会がされている.さらに,実需者の調達基準の高度化に対応するため,産地として県版GAP(農業生産工程管理)に取り組み,加えて2つの法人経営体は,それぞれ2018年と2019年にJGAPとGLOBALG.A.P.を取得している.県版に加えてこれら第三者認証GAPも,農協が取得を推進し普及指導センターが支援している.
設備投資等のための助成制度や制度資金では,認定新規就農者か認定農業者が条件の場合が多く,その認定計画の作成では,普及指導センターが窓口となり,生産・販売に関する内容は農協の部会担当職員が作成を支援している.また,就農希望者には,栽培技術の習得のための雇用就農の斡旋や,新規参入時の遊休農地の融通等に,普及指導センターや県農業会議等の関係機関が農協と連携し対応している.
第2事例では,Y社によって統一の有機質肥料と包装資材が購買され,年1回の土壌診断も斡旋されているが,集団的な技術指導はされていない.普及指導センターによって巡回指導がされているが,普及指導計画に基づく支援はされていない.助成制度等の利用でも,産地としての支援はされていない.
2) 関係機関によらない支援第1事例では,ある法人経営体の役員によれば,メンバーの圃場が密集しているため,自身の圃場で病害虫が発生した際,他のメンバーの圃場に伝播した場合に批判されるのを憂慮し,メンバー間の情報共有は躊躇される傾向があり,農協や普及指導センターからの個別の指導・助言が重視されているという.また,部会事務局によれば,関係機関による支援が充実し栽培暦等も整備されているため,栽培技術に関するメンバーの相互支援は乏しいという.
対して,第2事例では,次に示すように,その相互支援に第1事例とは異なる実態が認められた.
(4) 相互支援と新規参入事例次に,第2事例の相互支援の特徴が顕著に認められた,新規参入メンバーの育成・支援の実態に着目する.最近新規参入した甲農園と乙農園を事例とし,農地・施設の融通と栽培技術の指導・助言に着目し,相互支援のもとでどのように経営確立していったかを捉える.電子付録の表A2は,両経営体の経営指標を新規参入2年目と直近で比較し示している.
1) 事例経営体甲農園はA氏(30歳代,男性)が経営している.A氏は,非農家世帯に生まれ製造業で働いた後,丙農業法人に雇用就農した.丙農業法人を3年目で退職し2013年に甲農園を開始した.主な販路はY社(8割),農協直売所,民間集荷業者である.
乙農園はB氏(30歳代,男性)が経営している.B氏は,非農家世帯に生まれ別の農業法人で働いた後,丙農業法人に雇用就農した.丙農業法人を4年目で退職し2010年に乙農園を開始した.主な販路はY社(7割),民間集荷業者,庭先販売である.しかし,乙農園は2020年にY社を脱退している.
なお,丙農業法人は,C氏(60歳代,男性)が1992年に自営農業を法人化し設立された.Y社のメンバーだが独自の販路が主力で,2020年度は水稲27ha,大麦21ha,大豆21ha,野菜2.3haを経営している.C氏は,Z社の設立に関与し丁農業法人の設立にも関与している.丁農業法人は,Y社のメンバーではなく,就農希望者を名目上雇用し自身の采配で経営できる農地・施設を提供するため,1999年に設立された.丙・丁農業法人は,2019年度のY社の5経営体が新規参入する前の雇用就農先である.
2) 農地・施設の融通甲・乙農園は,雇用就農を経て新規参入する際,丙農業法人が地権者との調整役となることで円滑に農地を確保している.このような仕組みはY社発足前から機能し,新規参入メンバーの多くが,丙・丁農業法人やベテランメンバーの経営体で雇用就農や研修を経験し,新規参入時には農地の融通を受けている場合が多い.また,最近では,甲農園は6棟(計0.18ha),乙農園は5棟(計0.15ha)のハウスを経営に加えている.これらは,丁農業法人が借り上げた農地に一団のハウスが設置された後,棟毎に分割しメンバーに融通されているものを利用している.
3) 栽培技術の指導・助言甲・乙農園の新規参入時の品目は,産地の主力で栽培が比較的簡単なコマツナとホウレンソウである.両経営体を含む新規参入メンバーの多くが,雇用就農等で栽培を経験した品目を当初の品目としている.また,新規参入メンバーは,次第に品目を増やし規模拡大していくが,新たに品目を導入する際には,近隣のベテランメンバーから指導・助言を受ける場合が多い.例えば,甲農園はミズナ,レタス,スイートコーンを経営に加えている.ミズナの導入では近隣のベテランメンバーから指導を受けた.スイートコーンの導入は,すでに導入していたB氏から,収穫後の草本をすき込むことで土壌改良が期待できると助言されたことも理由である.レタスは産地として経験が浅く,メンバーは,肥培管理や種子の選定等で情報共有し生産性の向上に取り組んでいる.
(5) 小括第1事例では,関係機関による支援が充実しているが,病害虫の情報共有や栽培技術に関するメンバーの相互支援は,第2事例と比べて活発ではない.対して,第2事例では,栽培技術の指導・助言に加えて農地・施設の融通でも相互支援が認められた.生産支援のあり方にこのような違いが生じる理由として,事例産地の集団的性格が,産地運営のあり方やメンバーの行動に影響を与えている可能性がある.
また,第2事例では最近5年間に4経営体が脱退していた.メンバーの経営志向が集団的性格と相容れないことが脱退要因になっているとすれば,事例産地を前掲の分析視角から分析することで,その一員として経営展開できるかは集団的性格に制約されるという,本研究の課題に接近できると考えられる.
そこで,産地運営のあり方を外部適応と内部統合の視角から,メンバーに期待される行動を関わりあいの視角から分析する.第2事例では脱退要因も検討する.電子付録の表B1は分析要点を示している.
(1) 第1事例:X部会 1) 外部適応第1事例は,市場出荷が主な近郊産地として発展してきた.普及指導計画に位置づけられる等,地域の農業政策と密接に関係し,助成制度等の利用や就農希望者への支援でも,関係機関との連携が機能してきた.このような存立環境に対する産地展開として,部会事務局は,好立地を活かし競争力のある品目への転換に取り組んできた.販売では,卸売市場での有利販売が重視されたため,栽培暦の統一や普及指導センターと連携した生産支援等,品質確保に取り組んできた.最近では,産地の宣伝やGAPの取得等,実需者の継続的な評価のために努力している.日常的な事務は部会事務局が担っているが,実需者との関係構築等では役員とともに対応している.
そのための合意形成に着目すれば,品目転換や栽培暦の統一等,メンバー間の協議を要する場合,役員が部会事務局とともに合意形成を促進している.部会事務局によれば,産地は,内部統合として示すように多数のメンバーで構成されるため,役員とメンバーだけでは意見がまとまりにくいという.このため,特に普及指導センターと連携した取り組み等,日常的だが集団的な対応を要する場合,部会事務局が主導的役割を発揮している.生産者会議がそのための協議体だが,年2~3回設けられる程度である.
2) 内部統合その産地構造は,年齢や規模等様々な80名超のメンバーで構成され,代々農業をしている者が多い.メンバーの6割(48名)は60歳以上が主な担い手で,中堅の家族経営体を中心とするが,法人経営体や親元就農者が主な40歳代前後では,企業的な経営を志向する者も認められる.ただし,メンバーの圃場は集落周辺に密集し,新たに利用可能な圃場が限られている.このため,ある法人経営体の役員によれば,経営展開では地縁的結合への配慮が伴い,家族経営体による規模拡大には限界があるという.
そのなかでのメンバーの包摂に着目すれば,経営水準によって収益構造が偏らないよう部会出荷が重視され,直売所にもX部会を通じて出荷されている.また,2つの法人経営体の設立には,メンバーの共同経営とすることで地縁的結合に配慮しつつ,新たに利用可能な圃場が限られるという地理的な制約を回避し,規模拡大を図る意図があった.このため,1つは集落から離れた場所に主な圃場を設置している.いずれの法人も自身で販売する能力があるが,部会出荷を継続し他のメンバーと協調を図っている.
3) 関わりあい関わりあいに着目すれば,忠誠行動では,栽培暦の統一や連作障害への対応等,役員や部会事務局といった運営側が主導し産地の課題に取り組むなかで,メンバーは運営側に協力している.また,部会出荷を重視し部会以外への販売は抑えられ,メンバーには集団の秩序を重視する行動が認められる.
しかし,進取的行動では,役員の選任に前例踏襲の慣行が認められる.また,病害虫の情報共有が躊躇される等,メンバーは,産地のなかで目立つ行動を避け,自発的に役割を引き受ける姿勢は乏しい.
加えて,援助行動では,就農希望者への支援を含め関係機関による支援が充実しているが,栽培技術に関するメンバーの相互支援は第2事例と比べて乏しく,他のメンバーへの積極的な支援行動は弱い.
このように,第1事例では,運営参加や相互支援で互いに一定の距離をとる関わりあいが認められる.
(2) 第2事例:Y社 1) 外部適応第2事例は,開拓農協を前身とし,次第に生協が重要な販路となり,農協の再編のなかで独自に発展・拡大してきた.このような存立環境に対する産地展開として,Y社とその前身は,生協の期待に応えるため,有機質肥料の使用や環境こだわり農産物認証の取得等,環境に配慮した品質確保や,組合員との交流に取り組んできた.販売では,価格が既定の契約栽培となるため,日常的な事務はY社職員が担っているが,出荷計画や価格等では,役員がZ社や生協側と折衝しメンバーの利益を確保している.
そのための合意形成に着目すれば,役員は出荷計画や価格の折衝等で対外的に産地を代表しているが,対内的にはメンバー間の協議が重視されている.第1事例と比べて役員が主導的役割を発揮しない理由として,内部統合として示すように,生産割当を伴う契約栽培を集団的に遂行するため,メンバーの運営参加が日常的にされていることが指摘できる.
2) 内部統合その産地構造は,第1事例とは対照的に,比較的少数のメンバーで構成され,その半数が新規参入者で役員も若手が多い.メンバーの圃場は地理的に分散し地縁的結合は弱いが,契約栽培を集団的に遂行するため,既定数量を毎日出荷しなければならない.
そのなかでのメンバーの包摂に着目すれば,メンバーは,業務執行に積極的に関与し,特に2週間に1回の例会は,生産割当の調整や意思決定のための協議体として必要だが,メンバーの日常的な接点としても重要であり,病害虫の情報共有等につながっている.また,関わりあいとして示すように,メンバーは,生産過程に留まらず,相互支援等,多方面で役割を発揮している.ただし,余剰を見込んだ作付となるため,甲・乙農園のようにY社以外にも販路があり,Y社を販路の一環として位置づけている.
3) 関わりあい関わりあいに着目すれば,メンバーは,組合員との交流等を通じて,産直産地の一員であることを肯定的に評価している.ただし,Y社を販路の一環として位置づけ,集団的な技術指導はされておらず,部会出荷を重視し品質確保の取り組みに集団的に協力する第1事例と比べて,集団への忠誠行動は弱い.
しかし,進取的行動では,例会をはじめ積極的な運営参加が認められ,役員の選任のあり方でも第1事例とは対照的に対応している.また,栽培技術の指導・助言では,ノウハウの伝達や生産性の向上にメンバーが連携して創意工夫を発揮し,期待される役割を自発的に引き受ける姿勢が強く認められる.
加えて,援助行動では,新規参入メンバーの育成・支援でも相互支援が重要な役割を担っている.特に,農地・施設の融通では,メンバー間での融通に加えて法人経営体が施設を融通することで,新規参入時や規模拡大時の障壁を低減させており,他のメンバーへの積極的な支援行動が強く認められる.
このように,第2事例では,積極的に運営参加し,相互に連携し支援しあう関わりあいが認められる.
4) 脱退要因このような関わりあいが認められる理由として,農業生産組合の時期からのメンバーであるD氏(60歳代,男性)によれば,次の2点が指摘できるという.1つは,地域の農業政策や農協の部会等に組み込まれてこなかったため,自分達で維持・発展させていく意識が強い集団であることである.もう1つは,生産割当を伴い自身の生産状況が他のメンバーに影響を与えるため,他のメンバーに気を配り,メンバー間の面倒見が良い集団であることである.
しかし,D氏によれば,このような産地の特徴に起因する問題も指摘でき,それによって数年に1経営体程度の頻度で脱退する者がいる.地縁的結合が弱くメンバーはY社以外にも販路があり,脱退しても生産を継続できることも脱退を助長させているが,脱退には特に次の2つの要因が指摘できるという.
1つは生産割当に起因する.割当数量を出荷できなければ他のメンバーに迷惑を掛けるため,メンバー間に潜在的な緊張関係が生じていることである.もう1つは,集団への積極的な貢献が期待されていることである.情報共有や相互支援に加えて組合員との交流等を伴う産地の特徴は,生産過程に専念したく出荷後の取り扱いには関心がない等,その特徴と相容れない経営志向のメンバーには負担が大きい.
それでは,新規参入メンバーはこのような産地の特徴をどう捉えているのか.A氏とB氏によれば,生産割当に伴うメンバー間の緊張関係を辛いと感じることがあった.組合員との交流は励みになったが,それでどれだけ自分達の野菜の選好につながるか疑問に思うことがあったという.そのなかで,A氏がY社に留まり続けているのは,新規参入時に農地・施設の融通や栽培技術の習得で相互支援の恩恵を受けたため,関わりあいを重視する産地の特徴を肯定的に評価していた.また,出荷数量や価格が安定で生産の見通しが立てやすいという,Y社を販路とする経営上の特徴を高く評価していたからだった.
対して,B氏は,組合員との交流や販路としてのY社を高く評価していたが,例会等で自身の生産状況に他のメンバーから口を出されるのが煩わしく,栽培技術でも,秘密にしたい内容に踏み込んだ情報共有が求められると感じていた.自分のやり方を重視するB氏には,そのメンバー間は親密すぎると感じられ,Y社に留まり続けていては経営体としての独立性を確保できないと判断し,脱退に至っていた.
B氏が経営への干渉として捉えた行動には,他のメンバーに気を配り,有益な情報を交換しあおうとする,援助行動や進取的行動の側面も指摘できる.しかし,B氏の事例は,Y社が販路として経営的に優れていても,メンバーによっては関わりあいのなかで期待される行動を負担と感じ,それを許容できなくなれば脱退に至る場合があることを表している.
以上の外部適応と内部統合,関わりあいを前提として形成されてきた組織文化を,産地運営のあり方とメンバーに期待される行動から考察する.
(1) 第1事例の組織文化第1事例の外部適応では,品目転換等の産地展開やそのための合意形成では,役員や部会事務局が主導的役割を発揮し,生産支援では関係機関との連携が機能してきた.内部統合では,圃場が密集し利用可能な圃場が限られるなかで,様々な経営水準や経営志向の多数のメンバーで構成されるため,部会出荷をはじめメンバー間の協調が重視されてきた.そのなかで,産地運営のあり方では,生産過程を担うメンバー,業務執行を担う役員と部会事務局,生産支援を担う農協や普及指導センター等,産地のなかでの役割分担が明確な組織文化が形成されてきた.
このような産地運営のなかで,メンバーの行動には,集団の秩序を重視し,おかれた枠内で経営展開する姿勢が期待される組織文化が形成されてきた.メンバーは,関わりあいとして認められるように,品質確保の取り組みに集団的に協力しているが,役員への立候補や病害虫の情報共有等,目立つ行動を避け,第2事例と比べて運営参加や相互支援に距離をとっている.このような行動が期待されることで,メンバー間のコンフリクトを回避しつつ,地縁的結合のもとで産地としての生産継続が確保されていると指摘できる.ただし,経営体としての独立性や,メンバーとしての主体性が抑えられているわけではない.例えば,法人経営体を設立しつつも部会出荷を継続している実態のように,メンバーは,自身の経営展開と他のメンバーとの協調を両立させている.
(2) 第2事例の組織文化第2事例の外部適応では,生協側との連携が重視され役員は対外的に産地を代表してきたが,対内的にはメンバー主導の合意形成が重視されてきた.内部統合では,契約栽培を集団的に遂行するため,メンバーが例会を通じて業務執行に積極的に関与してきた.そのなかで,産地運営のあり方では,メンバーが生産過程に留まらず,運営参加や相互支援等,多方面で役割を発揮する組織文化が形成されてきた.
このような産地運営のなかで,メンバーの行動には,集団への積極的な貢献が期待される組織文化が形成されてきた.集団への積極的な貢献は,例会をはじめ意思決定への関与のあり方や,相互に連携し支援しあう関わりあいとして認められる.第2事例で,メンバーが運営参加や相互支援を通じて主体性を発揮できる理由として,関わりあいのなかで,このような行動を貢献として高く評価する,集団規範が形成されてきたことが指摘できる.集団規範は,例えば「産地では相互支援が高く評価されている.私も支援されてきたのだから,できる貢献はすべきだ」といった行動の規範が生じ,それがメンバー間に期待される行動として共有されることで形成される.A氏はこのような産地の特徴を肯定的に評価していたが,B氏のように脱退要因となることもある.
(3) 集団的性格とメンバーに期待される行動事例産地では,外部適応・内部統合していくなかで産地運営のあり方が形成され,その内部統合のもとで,関わりあいとして認められるメンバーに期待される行動が形成されてきたと指摘できる.それでは,集団的性格との相違に起因する脱退は,生産者組織がメンバーを包摂できなかったという内部統合の失敗として回避すべきなのか.そこで,内部統合とメンバーに期待される行動に踏み込んで考察する.
確かに,第1事例では,地縁的結合が強く,同地域で軟弱野菜を生産するのにX部会以外の販路が利用しづらいことは,脱退の抑制要因である.ただし,留意すべきは,内部統合では,部会出荷やメンバー間の協調を重視することで,様々な経営水準や経営志向のメンバーを包摂してきたことである.このような内部統合のもとで役割分担が明確な産地運営がされ,そのなかで,運営参加や相互支援で距離をとる関わりあいが形成され,メンバーには秩序を重視し枠内で経営展開する行動が期待されてきた.第1事例で多数のメンバーが共存できる理由として,このようにメンバーを包摂してきた内部統合のもとで,期待される行動が形成されてきたことが指摘できる.
対して,第2事例では,Y社を脱退した者の背景には,脱退しても生産継続できることや生産割当に伴う緊張関係がある.しかし,B氏が脱退要因として指摘したのは,期待される行動を受け入れられなかったことである.その内部統合では,業務執行に積極的に関与し,相互支援等,多方面で役割を発揮するメンバーを包摂してきた.そのなかで,相互に連携し支援しあう関わりあいが形成され,メンバーには集団への積極的な貢献が期待されてきた.このような内部統合のもとで,メンバーは,運営参加や相互支援を通じた主体性の発揮に,Y社への所属の意味を見出すことができる.しかし,このような行動があらゆるメンバーに期待されることで,それを負担と感じる者は脱退に至る場合がある.B氏の事例は,メンバーとして経営展開できるかは集団的性格に制約され,具体的には,その内部統合が包摂してきたメンバーに期待されている行動が,自身の経営志向に沿っているかによることを表している.
このように,事例産地の組織文化は,存立環境に対応した産地運営のあり方を確保するために形成され,そのなかで期待される行動は,内部統合が包摂してきたメンバーによって集団が構成されることで,維持されていると指摘できる.したがって,B氏のような脱退は,失敗ではなく内部統合を維持するために許容すべきであると考えられる.このことは,集団的性格は,メンバーに期待される行動を通じて,どのような経営志向の者がメンバーとなり得るかという,成員性に影響を与えていることを表している.
本研究は,生産者組織の一員として経営展開を図る場合,その集団的性格が経営展開の制約となることを検証するため,2つの産地を比較し組織文化論の視角から接近して,次の3点をあきらかにした.
第1に,集団的性格は,産地運営のあり方やメンバーの行動として表出され,その形成には,磯辺(1984)や秋津(1996)が指摘したように,地理的・歴史的性格やメンバーの関係性が関与していた.本研究は,それをシャイン(1985)に基づき組織文化として捉え,前提となる基本的仮定を分析した.集落周辺に圃場が密集し,農業政策と密接に関係し発展してきた第1事例では,地縁的結合に配慮した産地運営がされ,おかれた枠内で経営展開するメンバーの様相が認められた.対して,産直産地として独自に発展してきた第2事例では,積極的な運営参加や相互支援が認められ,メンバーは多方面で役割を発揮していた.佐々木(1980)は,第1事例のように運営側が優位となることを主体性の制限として問題視したが,本研究は,存立環境によってはメンバーの行動を枠内に収めることが重要であると指摘し,第1事例ではそれによってメンバーが共存していた.このように,集団的性格は,産地としての生産継続や円滑な業務執行の確保に重要な役割を担っていた.
第2に,集団的性格は,メンバーに期待される行動を規定し,それを負担と感じる者は脱退に至る場合がある.岩崎(2013)はメンバーの経営上のニーズに対応することで,西井(2006b)は運営参加を確保することで脱退を回避できると指摘した.しかし,第1事例では,メンバーの運営参加は乏しいが脱退は抑えられていたのに対して,第2事例では,関わりあいのなかで期待される行動を負担と感じる者が脱退していた.本研究は,岩崎や西井の議論とは異なる脱退要因として集団的性格との相違を指摘し,さらに,脱退は回避すべきとした両氏に対して,脱退要因によっては許容すべきという見解を示した.
第3に,メンバーが主体性を発揮し経営展開できるかは,そのメンバーが集団から期待される行動を受け入れ,かつ,その主体性を発揮した行動が集団から貢献として評価されるという,二重の一致が前提となる.鈴木(2013)は,メンバーに負荷を与え集団的な目標達成を重視することで,関わりあいが高まり個々の貢献が引き出されると指摘した.しかし,第1に指摘したようにメンバーに期待される行動は集団的性格によって異なり,第2に指摘したようにその期待を負担と感じ脱退に至る場合がある.
このことは,青年農業者が生産者組織に参入する際に留意すべき,次の知見を示している.すなわち,集出荷体制や取引価格といった生産者組織の経営上の特徴はもちろん,その集団的性格が自身の経営志向に沿っているかどうかも,メンバーとして経営展開するための重要な条件になるということである.
しかし,本研究は,集団的性格に制約されるメンバーの様相を捉えることを重視したため,新たなメンバーが一員となる過程に踏み込んでは解明できなかった.特に,集団的性格をどのように認識し,期待される行動を習得しているのか,自身の経営志向と集団としての展開方向を,どう統合させているのかといった点である.これらは,メンバーとしての経営確立を検討するうえで大きな意義があり,メンバーによる集団的性格の受容・適応や,集団のなかでの役割取得といった観点から接近できると考えられる.このような点に関しては今後の課題としたい.
注