Journal of Rural Problems
Online ISSN : 2185-9973
Print ISSN : 0388-8525
ISSN-L : 0388-8525
Short Paper
Recognition of Farmers Cultivating Rice for Sake, using the Muramai System and Prospects for Succession of Activities: A Case Study of the Yamada Nishiki Special A District Community in Miki City, Hyogo Prefecture
Shigehito MatsubaraMasaya Nakatsuka
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 59 Issue 2 Pages 74-80

Details
Abstract

In the Kita-Harima region of Hyogo Prefecture, a contractual rice cultivation system, known as the “Muramai System,” has been in place since around the 1890s between communities and sake breweries. The Muramai System is still in place in 37 communities and nine sake breweries in Yoshikawa-cho, Miki City. This paper aims to clarify the potential perceptions and value standards of farmers regarding the Muramai System, and to discuss issues for its future succession. The survey was conducted by interviewing farmers in communities that maintain the Muramai System. The results of the survey revealed that the economic value of the Muramai System has become less important as the farmers have become dual-income farmers who do not depend solely on agricultural income. Contrarily, social value, which is a source of pride and self-esteem, was considered a factor in the inheritance of the Muramai System.

1. はじめに

兵庫県の神戸市から西宮市の海岸部には灘五郷とよばれる日本酒の酒蔵が数多く集まっている.江戸時代から代表的な日本酒の産地であり,灘五郷酒造組合によると,「『灘の酒』は江戸での人気を得て,江戸後期には江戸の酒の需要の8割を供給したと言われています」と記されている(灘五郷酒造組合,2022).現在でも日本酒の生産量は,国税庁(2022)の令和2年酒造年度都道府県別清酒製造数量では,兵庫県が91,621キロリットルで最も多く,2番目が京都府の55,262キロリットルで,3番目が新潟県の24,964キロリットルと,全国の約30%は兵庫県で生産されている.

日本酒の最大の産地である兵庫県は,その原料である酒米の産地でもあり,特に代表的な品種である兵庫県産山田錦は,農林水産省(2022)の「酒造好適米の農産物検査結果(生産量)と令和2年産の生産量推計②(銘柄別)」によると,出荷量は16,702t(2020年産)で,全国の約60%を占めている.この兵庫県における酒米の取引について,森(1983)によると,1890年代(明治25~26年頃)から灘五郷の酒蔵と北播磨地域の村(集落)とで酒米の長期的な栽培契約を結んでおり,これが村米制度といわれている.村米制度は,良質の酒米を安定的に確保したい灘の酒蔵と,長期安定した確実な売り先を確保したい農村集落との,両者の思いが一致して始まったといわれている.多くの集落では村米制度が消滅したが,三木市吉川町の37集落では約130年間受け継がれ,現在でも9社の酒蔵との村米制度が維持されている.

村米制度は,時代に合わせて淘汰されたと考えられる.例えば,戦後の食糧難の時代には,酒米より食用米を作ることが奨励され,食用米が高値で取引されたことから村米制度が消滅したという集落がある.また別の市町では,国による奨励に応じて建設された大型ライスセンターが,村(集落)ごとに乾燥調製することには対応できず,それがきっかけで村米制度が消滅したという例もある.そうした潮流の中ではあるが,兵庫県三木市吉川町では村米制度が一定数維持されてきた.しかしながら,竹安他(2018)によると,農家の3割は後継者が不明と答えており,後継者の不在が指摘されている.加えて,集落営農が必ずしも十分に機能しておらず,農協組織の受託機能の充実が重要として,受託組織の課題も指摘している.このように今後の継承には多くの課題を抱えている.つまり,村米制度は,長年農村と酒蔵の取引において重要な役割を果たしてきたが,後継者不足や受託組織の課題が露呈しており,今後のあり方が問われる時期が来ている.

村米制度について,松原(2011)では,村米制度は集落と酒蔵との連携したサプライチェーン・マネジメントに該当し,農村と酒蔵との取引において,リードタイムや在庫の効率化,取引コストの低減など,一定の最適化の役割を果たしていることを示した.そして,鈴木・高田(2017)では,村米関係は流通量が安定しており,減産傾向の時期においても酒蔵は農家の生産を下支えされてきたことが示されている.以上のようにこれまでの酒蔵との関係の重要性を指摘しているが,村米制度に関する農家の認識については議論されていない.また,竹安他(2018)では,酒蔵と農家との直接的関係は,山田錦の生産技術の研鑽と農家の生産意欲の向上にきわめて有効であるが,酒蔵との関係構築は十分とはいえず,農協組織などの仲介による両者の信頼関係の構築に一層の努力が望まれると指摘している.

このように,当該地域における集落と酒蔵との意義や重要性は先行研究でも指摘されている一方,日本酒消費量の減少傾向が新型コロナ禍により加速化し,酒米の契約数量も大幅に削減されるなど,村米制度をめぐる環境は大きく変化しつつある.こうした中,村米制度の継続に向けた関係性の再構築を議論するためには,改めて農家が酒蔵との連携をどのように考えているかを明らかにすることが必要と考えた.

そこで,本稿では,農家の村米制度に対する潜在的な価値認識を明らかにすることにより,次世代への継承にむけた展望の考察を目的とした.このことは,地域農業と集落の維持という点だけでなく,伝統的な村米制度の維持という文化的な点,さらには,今後の食品加工企業と生産者の契約関係を模索するという点においても意義があると考える.

2. 研究方法

(1) 調査と分析方法

本研究では,兵庫県三木市吉川町の特A地区に含まれ,村米制度を維持してきた集落を対象に,まず,先に示した関連文献と予備調査に基づき,村米制度の価値を分析する枠組みを見いだし,その上で,酒米生産農家へのインタビュー調査を行うことによってその内容を明らかにすることとした.

予備調査は,2022年6月に,対象集落の2名の農家に,日常感じている村米制度の現状と課題について,自由に話してもらう形式で聞き取りを実施した.そこから得られた情報をキーワードで抽出し,カテゴリー化して分類をしたところ,表1に示すような経済的価値と社会的価値の2側面を見出した.

表1. 分析の枠組みとインタビュー内容
経済的価値 安定性 村米制度による安定的な収入や契約量の変動
価格 山田錦の価格や村米制度での価格面のメリット
家計充足性 家計への補助度合や離農による家計への損失
社会的価値 誇り・自尊心 酒米を生産することに対する誇り,愛着,自尊心
楽しみ・つながり 酒蔵との交友関係
文化・歴史性 村米制度の文化や歴史性に対する認識

具体的には,経済的価値は安定性,価格,家計充足性の3つの項目を,社会的価値は誇り・自尊心,楽しみ・つながり,文化・歴史性の3つの項目であり,この枠組みに沿って,詳細なインタビューを進めた.

(2) 調査対象と調査時期

事例対象地とした兵庫県三木市吉川町には,現在37集落があり,その全ての集落において酒米山田錦を生産している.そして,表2のようにそれぞれの集落が9社の酒蔵と村米制度で売り先が決まっている.

表2. 三木市吉川町の村米制度
酒蔵 三木市吉川町の村米集落
白鶴酒造(株) 新田・上中・豊岡・南水上
剣菱酒造(株) 上荒川・畑枝・福井・冨岡・古市・古川・北水上
白鷹(株) 市野瀬・楠原
菊正宗酒造(株) 前田・有安・長谷・上松・田谷・法光寺・湯谷・大畑・金会・福吉・毘沙門・東田
大関(株) 稲田・奥谷
日本盛(株) 西奥
沢の鶴(株) 実楽
櫻正宗(株) 南豊岡
菊姫(合) 山上・貸潮・鍛冶屋・米田・大沢・吉安下・吉安上

資料:村米部会と酒蔵の資料を参考に筆者作成.

今回の調査集落は,集落営農がない集落で,ライスセンターへの出荷農家ばかりではなく,ライスセンターを利用せずに,乾燥,籾摺り,袋詰めなどの調整作業を各農家で実施するという,従来からの地場検査方式で出荷している農家も残っている集落で,かつ,圃場の未整備地も混在している,昔ながらの吉川町の酒米生産地を代表する集落を考慮し表2の中から1つを選定した.

当該集落では圃場の未整備地が集落を流れる河川の上流部に多く,下流に向かうにしたがって比較的圃場整備がされている.集落は,上流から順にア地区,イ地区,ウ地区と3地区に分けられており,今回は,各地区から2名を調査対象者として選定し,その際には,ライスセンターを利用しない地場検査の農家を含めた.ライスセンターを利用しない農家は,ライスセンターを利用する農家と酒蔵に対する認識の違いを見るために含めた.その上で,世代による認識の違いを検証するため,異なる世代の農家を含めた.また,当該地域ではライスセンターが1995年に建設され,70歳代の農家は若い頃にライスセンターを利用しない地場検査の経験があるが,50歳代では農業を引き継いだ時から地場検査を全く経験したことがない農家もいる.つまり酒蔵との直接的な付き合いが希薄な世代であり,両者を比較することで,酒蔵に対する認識の違いがより明確になると考えた.表3はその調査対象者の概要である.

表3. 調査対象者の概要
調査対象者 年齢 同居家族 後継者可能性 耕地面積(ha) ライスセンター利用
ア地区 a 72 妻,弟,息子夫婦と孫 なし 0.3 利用
b 53 母,妻,娘 なし 0.5 利用
イ地区 c 75 妻,息子夫婦 なし 0.7 利用
d 51 父,妻,息子 なし 1.5 利用せず
ウ地区 e 74 なし 近隣在住(息子夫婦と孫) 0.8 利用
f 73 遠方在住(息子夫婦と孫) 0.9 利用

また調査時期は,2022年8月から10月である.

3. 結果

(1) 経済的価値

経済的価値についての言説は表4の通りである.まず,安定性については,村米制度により売り先が決まっているという意味では安定的と認識しているが,契約量が減っていることもあり,村米制度=安定的と認識していないことがわかった.また,対応策については,食用米に転換している農家も一部あるが,特に対応策を講じていない.

表4. 経済的価値に関する言説
項目 言説 カテゴリー
安定性 村米によって安定的な収入に結びついている(a氏・c氏) 安定・安心に繋がっている
決まった売り先があることで安心して生産できる(bd
契約量が減っているので,安定的といえるかわからない(e氏) 契約量が減少し,安定しているとはいえない
酒の販売不振で仕方がないが,最近は安定的とは感じない(f氏)
契約量が減ることは困るが,仕方がない(a氏・b・e氏)
契約量の変動は,農協経済連(現JA全農兵庫)が政策的に決めている.経済連の上層部は農家の方を向いていない.地域ごとの事情を配慮していない(f氏)
価格 食用米より高いが満足はしていない,農家の収支は赤字(a氏・b・e氏・f氏) 価格には満足しておらず,メリットを感じない
価格について農家は決定権がない(c氏・f氏)
村米制度があるから高いとは感じていないので,メリットがあるとは感じていない(a氏・e氏・f氏)
他の山田錦生産地と比べると,価格や減反量でメリットがあると聞いたことはあるが,村米制度だからか,特A地区だからかは不明なので,村米制度のメリットかどうかは分からない(d
村米制度のことを詳しく知らないので分からない(b・c氏) 価格についてあまり知らない
家計充足性 家計の助けになっていない.家計にプラスとは感じていない,逆に持ち出しである(a氏・d・e氏・f氏) 家計の足しにはならず支出超過
家計における農業所得の割合はマイナス10%ぐらい(b
やめると周りに迷惑になるので仕方がない.家計の手助けどころか赤字だけど仕方がない(b
やめても生活は影響ないし損失もない(a氏・c氏・d・e氏)
赤字だし身体を壊したこともあり,圃場を農業法人に生産委託している(c氏)
現状維持しかない.田畑を増やす気もないので,これといって対応策はしていないが続けるしかない(d 家計に影響しない
生活の家計には影響はないが,やめると伝統的なものがなくなる(f氏)

資料:インタビューを基に筆者作成.

1)50代のb氏,d氏に下線.

次に,価格について,食用米と比べると高い価格ではあるが,資材費や機械代の経費を引くと赤字になることから,全ての農家が満足はしていない.そして,ほぼ全ての農家が村米制度による価格面でのメリットはないと認識している.また,価格面での対応策は,品質を上げて上位の等級で買い取ってもらうための対策を一部の農家では考えてはいるが,ほとんどの農家はなにもしていない.

そして,家計充足性について,家計の助けになっている農家は全くなく,どの農家もいつやめても損失はないと考えている.ただし,対応策について聞くと,多くの農家はなにもしていないが,「やめると周りに迷惑になるので仕方がない」「現状維持しかない.田畑を増やす気もないので,これといって対応策はしていないが続けるしかない」といった,消極的な理由で続けていることがわかった.

(2) 社会的価値

社会的価値については表5の通りである.まず,誇り・自尊心について,愛着や誇りの度合いには個人差があるが,ほとんどの農家は村米の酒蔵には愛着を感じている.そして,全ての農家は自分のところで作っている酒米が灘の酒になっていることを,周りの人に話すということから,自尊心を高めることに結びついている.ただ,比較的若い世代は日本酒に興味がない人も多く,「話しても興味を持ってもらえない」との意見もあり,対策を講じなければ,今後は,自尊心につながる効果が減少する可能性もうかがえる.

表5. 社会的価値に関する言説
項目 言説 カテゴリー
誇り・自尊心 誇りや愛着はある(a氏・bd・e氏) 誇りや愛着をもつ
灘の酒に使われているのは誇りに思う(f氏)
村米の酒は飲むが,誇りや愛着とまでは感じていない(c氏) 誇りや愛着まではない
村米の酒について知人によく話す(a氏・c氏・e氏・f氏) 話題として話す
村米の酒について,酒に関心のある人には話す(b
自分は自信をもって話すが,興味を示す人が少ない(d
楽しみ・つながり 酒蔵との交友は楽しみ,親睦ゴルフ大会は毎年参加(a氏) 酒蔵との交友を楽しみにしている
山田錦まつりには以前はよく行っていた.身体を壊して行かなくなったが,楽しみにしていた(c氏)
山田錦まつりは楽しみ.地域を元気にする意味では大事(d
交友の場はいいことだと思う(f氏)
山田錦まつりは1度も行ったことがなく,ゴルフもしないし,そんなに楽しみではない(b 酒蔵との交友はない
山田錦まつりは役に当たらなければ行かない(e氏)
文化・歴史性 歴史的にも文化的にも価値はある.村米制度の文化は歴史があると職場や知人に言われたりする時に感じる(a氏) 関係性に価値があると感じる
農会長会に出た時,酒蔵や県の人達が来ていたのを見て,歴史的や文化的価値があると感じた.村米制度のことを少し知って,これからは見方が変わる(d
昔からやっているので歴史的にも文化的にも価値はある(e氏)
農会長を経験して,村米制度については初めて知った.制度としては残っているが,知っている人は少ないのではないか.残した方がいいと思うが,文化や歴史を感じることはない(b 自分では価値があるとは感じない
村米制度は安定した売り先であるので残したいとは思うが,文化としては分からない(b
歴史的や文化的価値については感じたことない(c氏)
昔は価値があったが,今は値打ちがあるとは思はない(f氏)
義務感まではないが,地域として残した方がいい(a氏) 出来れば残すべきだが何もしない
残した方がいいが,高齢で身体を壊したのでなにもできない.村米制度だから,今は農業法人に委託でき助かっている(c氏)
残すべきだと思うが,自分が率先してやるまでではない(d
残した方がいいと思う(e氏)
残すべきだと思う.ある程度は義務感もあるが,歳なので次の年代の人に頑張ってもらいたい(f氏)

資料:インタビューを基に筆者作成.

1)50代のb氏,d氏に下線.

次に,楽しみ・つながりについて,酒蔵との交友は大事だと考える人と,あまり関心がない人と,2極化していることがわかった.新型コロナウイルス等によるイベントの自粛などにより,交友の場が少なくなると,つながりの希薄化が懸念される.

最後に,文化・歴史性について,50歳代の農家は,村米制度について詳しく知らないと認識しており,文化・歴史性についてはよくわからないという回答と,価値があるという回答が半数ずつである.しかし,村米制度を残すべきかどうかということに対しては,全員が残すべきだとは考えている.義務感を持って自分から動こうと思う人はいなかった.また,村米制度の文化は根付いていると感じるかという問いについては,70歳代の農家はほとんどの人が根付いていると感じている一方で,50歳代は村米制度についての知識が少なく,地域に根付いていると感じることは少ないようである.しかしながら,「農会長を経験して,村米制度については初めて知った」や「農会長会に出た時に,多くの酒蔵や県の人達が来ていたのを見て,歴史的や文化的価値があると感じた」など,農会長や集落の役職を経験することで,その価値を理解するようになってきていることが明らかになった.

4. 考察

(1) 次世代の価値認識の特徴

対象の集落における農家の中心的な世代は70歳代であるが,ここでは,次世代の担い手となる50歳代の2人の農家の意識を改めて整理する.

50歳代に共通する部分としては,経済的価値に関しては,「やめると周りに迷惑になるので仕方がない」や,「現状維持しかない.田畑を増やす気もないので,これといって対応策はしていないが続けるしかない」といった消極的な継続意識が見られた.70歳代の農家は後継者や委託先などを検討している段階だが,50歳代は消極的ながらも継続する意思を確認できた.そして,両者とも「決まった売り先があることで安心して生産できる」といった安定性については評価をしているが,価格については村米制度によるメリットがあるとは感じていない.これらは70歳代とあまり差異はなかった.

また,社会的価値の項目である,誇り・自尊心については,「酒に関心のある人には話す」や「興味を示す人が少ない」といった,誇りや自尊心は持っているが,周りの多数の人たちからは若干ネガティブな視線を受けていることを気にしていることが明らかになった.70歳代では誇りや自尊心を強く持っていたが,この点は世代間で明らかに異なっていた.

そして,村米制度の認知については,「農会長を経験して,村米制度については初めて知った」や「農会長会に出た時,酒蔵や県の人達が来ていたのを見て,歴史的や文化的価値があると感じた」というように,集落の役職を担うことで重要性を認知していることが明確になった.

次に,酒蔵との交友について,b氏は必要性を感じていないのに対して,d氏は地域を元気にするためにも酒蔵との交友は大事だと感じている.この違いの理由の1つとして,ライスセンターを利用しない地場検査の存在があると考えられる.d氏は地場検査で出荷しており,乾燥,籾摺り,袋詰めなどの調整作業を自らおこなっている.地場検査では一袋ずつ検査があり,品質の等級も目の前で細かく評価される.村米制度の場合,取引先の酒蔵の社員も地場検査に立ち会い,等級評価を実施する.農家にとっては1年の最終評価を受ける最も緊張する場面である.ライスセンターを利用する農家は,刈り取った酒米を搬入するだけで,評価は後日されるが,酒蔵の立ち合いのもとでの緊張した評価の場面はないのである.50歳代のb氏はライスセンターを利用しており,地場検査を経験したことがなく,酒蔵とのつながりがそもそも希薄であると考えられる.

そんな中でも,全ての農家が村米制度は残すべきだと考えていることも明らかになった.今後残すべきと考えているのであれば,集落単位での行動も必要と考えられる.

(2) 村米制度を継承するための展望

農家の村米制度に対する潜在的な認識を明らかにすることにより,今後の継承にむけた展望を考察する.

まず,村米制度に対する潜在的な認識について,経済的価値としてのメリットが少ないにもかかわらず,全ての農家が村米制度を残すべきだと考えている.特に,若い世代では村米制度について詳しいことは知らないと自覚しているが,農会長や隣保長などの集落の役をすることで,村米制度についての情報を得て,理解を深めている.それにより,村米制度を残していくべきだという意識が高まっている.すなわち,潜在的には,村米制度の継承は必要とされることが明らかとなった.

また,社会的価値として,全ての農家において,村米制度により自尊心が高められていることも確認された.しかし,村米制度の文化・歴史性を認識する農家は約半数にとどまっていた.

そこで,当事者である村米の集落の農家が,村米制度を残すべきだと考えているのであるなら,今後の継承にむけた展望として3点を提示する.

1点目は,村米制度が酒米生産における自らの自尊心に結びついていることを認識してもらい,村米制度を残す必要性を集落全体で再確認してもらうことである.

2点目に,若い世代は集落の役職を経験することで村米制度に関する情報を得る.そこから内容や意義を理解していることが明らかになった.したがって,次世代が若い年齢から役職に就くという仕組みを作っていくことが,継承に結びつくと考えられた.

3点目に,経済性の担保として,これ以上の契約数量の減少や価格低下を防ぐためには,酒蔵との交友などの連携強化の活動も重要である.次世代では酒蔵との交友の希薄化も見られたことから,次世代に合う酒蔵との連携強化の仕組みの構築も重要だと考える.

また,今回の調査では圃場整備の度合いにより,3地区に分け調査対象者を選定し,村米制度に対する価値認識の違いを検証したが,特徴的な差異は見られなかった.ただし,後継者の可能性については,表3の通り,圃場の未整備地が多いア地区とイ地区では,息子や娘がいても後継者なしと回答しており,圃場整備の進んでいるウ地区では,同居はしていないが明確に後継者がいると回答している.

最後に残された研究課題としては,本稿は村米制度に対する認識についての農家の言説に焦点をしぼった調査で,農家の行動に踏み込んだものではない.今後,同集落における農家の行動についても,参与観察による現場での農家の行動を調査することで,より深い村米制度に対する認識を解明することができると考える.そして,それらを基に持続可能な地域農業と集落の維持の方策についても検討する.

謝辞

本稿の執筆にあたり,2名の匿名の査読者の先生方から,丁寧で建設的なご助言とご指導をいただいたことに感謝したい.また,インタビュー調査において,山田錦特A地区集落の農家の方々には多大な協力を得た.ここに記して謝意を表したい.

引用文献
 
© 2023 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
feedback
Top