2023 Volume 59 Issue 2 Pages 81-88
There are two types of community-based farms (CBFs): one has been established to maintain farmland in rural areas suffering from the shortage of agricultural workers and the other has been established in response to policy. Although the purpose or activity differs by CBFs, the central government is encouraging the incorporation of the CBF. In this study, the author focuses on typological differences in the CBFs and empirically clarifies the factors influencing the establishment and incorporation of CBFs. The estimation results of the generalized ordered logit model suggest that the two types of CBFs tend to be established when communities are located in hilly and mountainous areas and CBF members regularly foster intercommunal cohesion. Conversely, CBFs are less likely to be established when there are many small-scale farm households in the community. Also, CBFs are unlikely to be incorporated when there are more farm households than non-farm households in the community.
我が国の農政は,旧農業基本法以来個別農家の規模拡大と自立経営の育成を目指してきた.しかし,農家数や農村人口は減少の一途をたどり,農業者や農村住民の高齢化も進行している.このような状況において,個別で営農を続けることが困難となった農家が集落内で協同し,農地の維持を図るためにとる手段の1つが「集落営農」である.農家の総兼業化と生産調整に迫られる中,担い手が不足する西日本を中心に,農地を維持し,「地域を守るための危機対応」として集落営農が進展していった(安藤,2008).一方,1999年の食料・農業・農村基本法以降,集落営農は国の施策対象となり,担い手として位置づけられていく.政府は集落営農に対して農業構造改革の役割を期待し,主に経営安定対策を実施することで農業集落へ集落営農の組織化を行うよう促してきた.さらに,政府は効率的かつ安定的な農業経営の実現のため,集落営農に対して経営体化,すなわち法人化を求めている.
安藤(2008)は,経営耕地面積3ha以上の水田農家が少ない地域を担い手枯渇地域,一定規模の経営が層をなす地域を個別経営展開地域と分類している.担い手枯渇地域では農地維持のために生まれた集落ぐるみ型の集落営農が多く,個別経営展開地域では政策に対応して設立された,助成金の受け皿的性格の強い集落営農が多い傾向にある.
そこで本稿では,こうした集落営農の展開の地域差と農政の進める集落営農法人化に着目し,集落の性質に基づく集落営農の設立要因と法人化要因を定量的に分析する.対象は広島県三次市と新潟県上越市の集落である.前者を担い手枯渇地域,後者を個別経営展開地域の一例として取り上げる.
分析対象地を広島県三次市と新潟県上越市とした理由は,第一に広島県は担い手枯渇地域,新潟県は個別経営展開地域の典型例とみなせるためである.
まず,安藤(2008)は東山,東海,近畿,中国,四国地方を担い手枯渇地域に分類しており,集落営農は中山間地域や総兼業化地域といった担い手不足の地域で地域を守るための危機対応として生まれたものだと述べている.その点,中国地方に含まれる広島県は県内集落のうち76%が中山間農業地域に該当する(農林水産省,2015a).また,小規模零細な農家が多く,農業従事者の高齢化や耕作放棄地の増加といった課題も抱えており,集落を守るため全国に先駆けて集落営農育成に取り組み始めた県として知られている.これらの点から,広島県は担い手枯渇地域の典型例であると判断した.
次に,個別経営展開地域について,安藤(2008)は東北,北陸,北関東,北九州,南九州,沖縄が該当するとしている.これらの地域では2007年の品目横断的経営安定対策や2011年の農業者戸別所得補償制度といった政策に対応して,助成金の受け皿としての集落営農の設立が進んだ.北陸地方にある新潟県の集落営農数の推移もこれに該当する(農林水産省,2005–2020).また,同県は我が国最大の米の生産地であり,規模の大きな個別農家と多くの認定農業者の存在1から,個別経営が成立する地域であるといえる.これらの点から,新潟県は個別経営展開地域の典型例にみなせると判断した.
第二の選定理由はサンプル数確保のためである.2015年の集落営農実態調査(農林水産省,2005–2020)によると,全国の市区町村の中で三次市は1番目,上越市は8番目の集落営農数となっている.なお,個別経営展開地域に分類される市の中では,岩手県奥州市,宮城県登米市,宮城県大崎市が上越市よりも集落営農数が多い.しかし,いずれも法人の集落営農数が少ないため2本稿では対象としなかった.
次に三次市と上越市の農業や集落営農の概要を述べる.
(2) 広島県三次市三次市は県北部に位置し,農業産出額では畜産が半数を占める(農林水産省,2015b).品目でいうと,水稲,ぶどう,鶏卵,生乳,肉用豚,アスパラガスの生産が盛んである.
同市の農業構造の特徴は,広島県と同様に,小規模零細農家が多いこと,担い手への農地集積が進んでいないこと,農業者の高齢化があげられる.集落営農に関しては,集落営農組織数,法人数ともにデータの存在する2011年以降大きな増加は見られない(農林水産省,2005–2020).農林水産省(2005–2020)と市提供のデータをもとに2015年時点の集落営農の実態を見ていくと,同市には古くから存在する集落営農が多く,品目横断的経営安定対策開始以前に設立された組織が8割以上に上る.主な活動内容について「機械の共同所有・共同利用を行う」と回答している組織の割合が85%と全項目の中で際立って高く,これは広島県の集落営農の多くが機械利用組合を母体にしていること(松永,2012)の表れだと考えられる.また,広島県は集落営農を組織設立時から法人化させる方針をとっているが,三次市の法人化率は2011年から2020年まで広島県内の市町村で最も低い水準である.さらに,経営所得安定対策に加入している集落営農の割合も県内最低水準であること,全戸参加の組織と主たる担い手がいない組織がともに約8割であることを踏まえると,三次市は地域を守るため危機対応的に設立された,集落ぐるみ型の集落営農が展開している地域であるといえる.
(3) 新潟県上越市上越市は県南西部に位置し,市内を流れる関川の流域には高田平野が形成されている.農業産出額のおよそ8割を米が占めており(農林水産省,2015b),県内有数の米の産地となっている.稲作が盛んであることから兼業化率は8割と都府県平均を上回る(農林水産省,2015a).また農地集積も進んでおり,県内でも特に大規模農家の育成が進んでいる.
集落営農については,市提供のデータによると2015年時点で品目横断的経営安定対策開始後(2007年以降)に設立された組織が半数以上である.また,農林水産省(2005–2020)のデータによれば,2015年時点で9割の集落営農組織は1集落が単独で構成しており,広域連携は進んでいない.これらに加えて,集落内の農家が全戸参加である組織は約1割,主たる従事者がいない組織の割合が約2割であり,三次市とは対照的な性質を持つ集落営農の展開が見受けられる.集落営農の主な活動内容には,「農産物等の生産・販売活動」「機械の共同所有・共同利用を行う」「農家の出役により,共同で農作業(農業機械を利用した農作業以外)を行う」と回答している組織の割合が高い.
なお,新潟県及び上越市の農業政策において,集落営農は,広島県及び三次市ほど重要な位置づけはなされていない.その要因として,新潟県と上越市はともに米の一大産地として確立しており,ある程度規模の大きな個別農家と多くの認定農業者の存在から,個別経営が成立する地域であることが挙げられる.以上から同市は個別経営の維持が可能で,地域を守るための危機対応としての集落営農は不要であったものの,政策に対応するためにその設立が進んだ地域であるといえる.
分析には次の3つのデータを用いる.第一に広島県,新潟県の2015年農林業センサス農業集落カード(農林統計協会,2017)である.それぞれ三次市,上越市の部分を抽出して用いる.第二に三次市産業振興部農政課提供の集落営農データである.三次市では2015年のデータが存在しないということで,三次市農政課の協力のもと,他年度のデータに基づいて2015年のデータを復元したものを用いる.第三に上越市農林水産部農政課提供の2015年の集落営農データである.以上のデータを用いて3,集落営農の設立要因と法人化要因について,三次市と上越市の全集落(集落カードで非公開となっているものを除く)を対象にして分析を行う.
(2) 分析手法本稿では一般化順序ロジットモデルを用いた推計を行った.この分析方法の元となる順序ロジットモデルを用いた分析は,目的変数が3つ以上の順序尺度である場合に用いられ,連続的な潜在変数の存在を仮定し,それを目的変数とする回帰式の推定を行うものである(石黒,2008).
順序ロジットモデルは非線形の確率分布に従っているため,パラメータを直接解釈することはできない.そこで,本稿では平均限界効果を算出して結果の解釈を試みる.
順序ロジットモデルでは,パラメータはどのカテゴリ間の変化においても一定であると仮定して分析を行う.この仮定は平行性の仮定と呼ばれる(安川,2002).しかし,実際の集落営農がそうした変化をするとは考えにくい.そこで本稿では,この共通パラメータの制約を外した,一般化順序ロジットモデルを採用した.
一般化順序ロジットモデルを用いるに先立って,パラメータがカテゴリに関わらず共通であるかどうかを把握する必要があるが,いくつかある検定のうち本稿ではワルド・テストを採用した.ワルド・テストは,パラメータがすべてのカテゴリに対して一致している必要はなく,一部のカテゴリに関してはパラメータが共通で,他では一致しないという部分的並列を認めるか否かを判定するものである(北村,2009).
なお,目的変数である質的変数が3つ以上の値をとる場合,類似の手法として多項ロジットモデルを用いる分析がある.この分析手法は,目的変数の値の中から基準となるベース・カテゴリを定め,説明変数の変化に応じてベース・カテゴリから他のカテゴリに移る確率を検討するものである(石黒,2008).多項ロジットモデルを用いた分析における目的変数は名義尺度であり,順序ロジットモデルとは異なり,値の大小関係や差に意味はない.今回多項ロジットモデルではなく順序ロジットモデルを採用した理由は,国が集落営農の発展プロセスとして,任意組織から特定農業団体を経て特定農業法人になるという段階を想定していることを考慮したためである.
分析に用いたソフトウェア及びコマンドは,Stata17のgologit2である.なお,ワルド・テストにはautofitオプションを用いた.
(3) 仮説耕地面積規模別の水田農家の動態を見ることによって,各地域は担い手枯渇地域と個別経営展開地域に分けられ,この分類によって集落営農の展開に違いがあるということはこれまでに述べた通りである.本稿では三次市と上越市という2つの市の集落を分析することで,集落営農の設立要因と法人化要因の地域差,共通点を明らかにしたい.
桂(2005)は,集落営農の成功要因に優れたリーダーと集落の和(協力の気質・雰囲気)の存在を挙げている.また田畑(2017)は,集落営農の参加単位は家から個人へと変化しており,女性や若者もメンバーとなる組織になりつつあると述べており,これに従って集落営農への女性参加の度合いが高まると,集落営農の取り組みが営農面にとどまらず加工や販売等へ発展していく動きも強まるとしている.
こうした先行研究を踏まえ,以下のような仮説を立て,目的変数と説明変数を表1のように設定した.記述統計量を表2に記す.
変数 | 定義 | |
---|---|---|
目的変数 | 集落営農組織の状態 | 集落内に 集落営農組織が存在しない:0 非法人(任意組織)の集落営農組織が存在する:1 法人の集落営農組織が存在する:2. |
説明変数 | 中山間地域 | 非該当:0,該当:1. |
DIDまで30分以上 | 非該当:0,該当:1. | |
小規模農家割合 | 経営耕地面積1ha未満の販売農家数(経営耕地面積なしを除く)を総農家数で除したもの. | |
女性農業従事者割合 | 女性農業従事者数を総農業従事者数で除したもの. | |
農業就業人口における生産年齢人口割合 | 販売農家の15~64歳農業就業人口を販売農家の農業就業人口で除したもの. | |
第二種兼業農家割合 | 第二種兼業農家数を総農家数で除したもの. | |
寄り合いの回数 | 寄り合いが行われた回数の対数値. | |
農家割合 | 総農家数を集落の総戸数で除したもの. |
三次市 | 上越市 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全体 | 集落営農なし | 非法人集落営農あり | 法人集落営農あり | 全体 | 集落営農なし | 非法人集落営農あり | 法人集落営農あり | ||
標本数 | 367 | 148 | 179 | 40 | 509 | 400 | 45 | 64 | |
中山間地域 | 平均値 | 0.959 | 0.899 | 1.000 | 1.000 | 0.540 | 0.530 | 0.644 | 0.531 |
(標準偏差) | (0.198) | (0.303) | (0.000) | (0.000) | (0.499) | (0.500) | (0.484) | (0.503) | |
DIDまで30分以上 | 平均値 | 0.245 | 0.270 | 0.229 | 0.225 | 0.371 | 0.370 | 0.489 | 0.297 |
(標準偏差) | (0.431) | (0.446) | (0.421) | (0.423) | (0.484) | (0.483) | (0.506) | (0.460) | |
小規模農家割合 | 平均値 | 0.648 | 0.710 | 0.635 | 0.476 | 0.376 | 0.394 | 0.368 | 0.270 |
(標準偏差) | (0.268) | (0.249) | (0.243) | (0.352) | (0.309) | (0.314) | (0.290) | (0.272) | |
女性農業従事者割合 | 平均値 | 0.458 | 0.453 | 0.461 | 0.466 | 0.424 | 0.427 | 0.412 | 0.412 |
(標準偏差) | (0.080) | (0.090) | (0.073) | (0.069) | (0.081) | (0.081) | (0.090) | (0.070) | |
農業就業人口における生産年齢人口割合 | 平均値 | 0.189 | 0.187 | 0.190 | 0.189 | 0.255 | 0.262 | 0.276 | 0.193 |
(標準偏差) | (0.185) | (0.208) | (0.160) | (0.204) | (0.213) | (0.219) | (0.170) | (0.190) | |
第二種兼業農家割合 | 平均値 | 0.583 | 0.573 | 0.606 | 0.516 | 0.618 | 0.635 | 0.612 | 0.514 |
(標準偏差) | (0.235) | (0.256) | (0.194) | (0.303) | (0.274) | (0.268) | (0.238) | (0.312) | |
寄り合いの回数 | 平均値 | 2.252 | 2.126 | 2.280 | 2.586 | 2.473 | 2.407 | 2.657 | 2.748 |
(標準偏差) | (0.741) | (0.721) | (0.745) | (0.696) | (0.605) | (0.614) | (0.434) | (0.557) | |
農家割合 | 平均値 | 0.376 | 0.341 | 0.434 | 0.246 | 0.294 | 0.306 | 0.371 | 0.168 |
(標準偏差) | (0.205) | (0.212) | (0.190) | (0.150) | (0.188) | (0.186) | (0.185) | (0.145) |
資料:農林統計協会(2017),三次市農政課・上越市農政課提供データ.
目的変数は,集落内に「集落営農組織が存在しない」「非法人組織が存在する」「法人組織が存在する」の3段階で設定した.
説明変数に関しては,まず集落の条件として,中山間地域に属するかという点とDIDから30分以上かかるかという点に着目した.中山間地域ではその土地条件の悪さから集落や農地の維持が困難となり,集落営農が設立されやすい.ただし,このような地域は,地域維持のための危機対応として集落営農が設立されるため,法人化にはつながらない可能性が高い.DID(人口集中地区)からの距離に関しては,DIDまでの距離が遠い集落では若い世代が利便性を求めて都市へと転居し,担い手が不足することが予想されるため,集落営農は設立されにくいと考えられる.また距離の基準は,中山間地域等直接支払制度の特認地域4の条件としてDIDからの距離が30分以上としている都道府県が多いことから,30分以上で区切ることとした.
次に営農条件として,第一に小規模農家が多いほど集落営農組織が設立されやすいと予想する.三次市農業振興協議会水田収益力強化ビジョンの中で,三次市は「1ha未満の小規模農家の占める割合が多」いと述べられていることから(広島県,2022),本稿では小規模農家を経営耕地面積が1ha未満の農家と定義する.個別経営が困難となった小規模農家が集まって,集落営農へ発展すると考えられる.第二に女性の参画度合いである.田畑(2017)が指摘するように,集落営農の取り組みの発展と女性の参加度合いに相関があるのであれば,女性の農業従事者が多いほど集落営農の取り組みが進み,法人化しやすいと予想される.第三に年齢である.若い農家が多い場合,彼らが個別経営体として農地の受け手になり得るため集落営農設立の必要性が小さくなる.よって農業就業人口における生産年齢人口の割合が高い場合,集落営農組織は設立されにくいと予想される.第四に第二種兼業農家率である.かつて集落営農組織が広がったのは中山間地域だけでなく兼業化地域でも同様であった.第二種兼業農家は個別での規模拡大を望まないため集落全体での農地保全を志向し,集落営農設立に至ると予想する.ただし,第二種兼業農家は兼業所得が農業所得を上回る農家であることから,積極的に集落営農組織の経営効率化や収益増加を目指さないことが予想される.従って,法人化に至る可能性は低いという仮説を立てる.また,兼業農家に関連して,農地の受け手となりうる主業農家が集落営農設立に影響を与える可能性が考えられる.しかし,兼業所得が農業所得よりも多い農家である第二種兼業農家の割合と所得の50%以上が農業所得である主業農家の割合には相関があると考えられ,多重共線性回避のため本稿では説明変数から除外した.
地域条件や営農条件は農林業センサスでも調査され,数値化しやすい項目である.しかし,本稿では優れたリーダーの存在や集落の和といった主観的で数値化しにくい要因を説明変数として組み込みたいと考えた.そこで,これらの代理変数として,寄り合いの回数を用いる.寄り合いの回数が多い集落について,その結束力が強い傾向にあることは想像に難くない.寄り合いの中で集落の今後や集落営農組織化について考える機会も増え,集落営農組織設立に至りやすくなると考えた.なお,本項目のみカテゴリ変数や割合ではないため,他の説明変数との兼ね合いと非線形の可能性を考慮して対数をとったものを説明変数とした.また農家割合に関しては,農家割合が高いほど農地や用水路といった農村の地域資源の維持管理活動を継続しやすいため,集落営農組織は設立されにくいと予想する.
平均限界効果の分析結果は表3の通りである.なお,ワルド・テストの結果,平行性の仮定が成り立つという帰無仮説は,三次市では中山間地域と農家割合,上越市では農家割合の項目で棄却された.以下,統計的に有意となった説明変数ごとに結果を考察する.
変数 | 集落営農なし | 非法人集落営農あり | 法人集落営農あり | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
係数 | 標準誤差 | 係数 | 標準誤差 | 係数 | 標準誤差 | ||
三次市 | 中山間地域 | −0.893*** | 0.067 | 0.835*** | 0.106 | 0.058 | 0.084 |
DIDまで30分以上 | 0.059 | 0.058 | −0.036 | 0.036 | −0.023 | 0.022 | |
小規模農家割合 | 0.429*** | 0.111 | −0.264*** | 0.076 | −0.165*** | 0.046 | |
女性農業従事者割合 | −0.378 | 0.304 | 0.233 | 0.185 | 0.145 | 0.121 | |
農業就業人口における生産年齢人口割合 | 0.154 | 0.137 | −0.095 | 0.085 | −0.059 | 0.053 | |
第2種兼業農家割合 | −0.114 | 0.130 | 0.071 | 0.081 | 0.044 | 0.050 | |
寄り合いの回数 | −0.061* | 0.033 | 0.038* | 0.020 | 0.023* | 0.014 | |
農家割合 | −0.145 | 0.132 | 0.543*** | 0.145 | −0.398*** | 0.099 | |
上越市 | 中山間地域 | −0.122** | 0.048 | 0.051** | 0.021 | 0.071** | 0.029 |
DIDまで30分以上 | 0.025 | 0.044 | −0.011 | 0.018 | −0.015 | 0.025 | |
小規模農家割合 | 0.170** | 0.070 | −0.072** | 0.029 | −0.099** | 0.043 | |
女性農業従事者割合 | 0.300 | 0.193 | −0.126 | 0.083 | −0.174 | 0.112 | |
農業就業人口における生産年齢人口割合 | 0.072 | 0.088 | −0.030 | 0.037 | −0.042 | 0.051 | |
第2種兼業農家割合 | 0.081 | 0.070 | −0.034 | 0.029 | −0.047 | 0.041 | |
寄り合いの回数 | −0.119*** | 0.030 | 0.050*** | 0.014 | 0.069*** | 0.018 | |
農家割合 | 0.226* | 0.117 | 0.172*** | 0.058 | −0.398*** | 0.085 |
1)三次市:Number of observations=339;Log-pseudolikelihood=−277.462;Pseudo R2=0.118;Wald Ch2=201.92;prob>chi2=0.000.
2)上越市:Number of observations=466;Log-pseudolikelihood=−271.914;Pseudo R2=0.091;Wald Ch2=53.82;prob>chi2=0.000.
3)*,**,***はそれぞれ10%,5%,1%水準で有意であることを示し,標準誤差はロバスト標準誤差である.
中山間地域の項目は,三次市で2段階,上越市で3段階が有意な結果となった.この結果から,担い手枯渇地域では,非法人の集落営農設立は進むが法人の設立が進むとは限らないことがわかる.また,個別経営展開地域では,中山間地域において集落営農組織が設立されやすいことがわかる.
小規模農家割合については,三次市,上越市ともに全段階で有意となった.符号は「集落営農なし」のみ正となっており,小規模農家割合の上昇によって集落営農設立は促進されないという,仮説とは異なる結果となった.このような結果となった要因として,本稿における小規模農家の定義の影響のほか,小規模農家が多いと組織設立にかかる取引費用が高くなること,各農家が小規模なあまり組織を設立する体力がないといったことが考えられるが,さらなる考察が必要である.
寄り合いの回数については,三次市,上越市ともに全段階で有意となった.符号は2市ともに「集落営農なし」のみ負である.この結果から,担い手枯渇地域,個別経営展開地域を問わず,寄り合いの回数が多いほど,集落の結束力が強い,集落営農設立について考える機会が増えるといった理由から,集落営農組織設立に至りやすくなるという仮説が支持された.
農家割合については,2市ともに農家割合が高くなると「法人集落営農あり」の集落の割合が低下することがわかる.このことから,農家割合の増加は,担い手枯渇地域,個別経営展開地域を問わず,特に法人化に対して負の影響を与えると言える.農家割合が高いということは,混住化が進んでいないということである.小林(1994)によると,混住化の進んだ集落が伝統的社会集団を維持しようとするとき,伝統を固持する方向か,従来の体制から変化する方向に動く.また,井上(2010)によると,非法人の集落営農がすでに地域貢献を達成しており,生産条件や労働力などに差し迫った問題がなければ,法人化に魅力を感じないことがある.つまり,農家割合が高い集落は,現状に問題がないため法人化の選択をとらないということが考えられる.
集落営農はもともと地域を守るための危機対応として西日本の中山間地域や兼業化地域を中心に広がっていったが,2007年の品目横断的経営安定対策を機にその組織数が全国で急増した.集落営農の展開には地域差があり,組織の性格も集落機能維持を目的とするものから収益向上を目指すものまであって一様ではない.その中で政府は集落営農を担い手として位置づけ,現在はその法人化を推進し,集落営農組織の経営体化を目指している.こうした現状を踏まえ,本稿では集落営農の展開・性質の地域差に着目し,担い手枯渇地域の例として広島県三次市,個別経営展開地域の例として新潟県上越市を取り上げ,集落営農組織の設立要因と法人化要因に関する計量分析を行った.
今回の分析で明らかとなったのは以下の点である.担い手枯渇地域,個別経営展開地域を問わず,集落営農組織は,中山間地域に属している集落,寄り合いの回数が多い集落では設立されやすい傾向にある.反対に,経営耕地面積1ha未満の小規模農家が多い集落では設立されにくい傾向にある.この結果から,集落営農組織の設立要因として,集落が中山間地域にあること,集落の結束力が高い状態にあることが挙げられる.農家の規模についてはさらなる分析,考察が必要である.そして農家割合が高い集落では法人化が進まないことも示された.集落営農は,集落が何らかの変容を必要としたとき初めて法人化の検討がなされるのである.
最後に本稿の課題を述べる.第一にサンプル数が十分でなかった可能性がある.分析の結果,設定した項目のうち有意な結果が出たものが少なかった.今回のような集落分析を行う場合,市単位ではサンプル数(集落数)が不足していると考えられる.今後対象地を拡大した分析が行われることに期待したい.第二に,説明変数として用いた項目が集落カードで得られるものに限定されてしまった.集落営農実態調査の調査項目を説明変数として用いることで,特に法人化について,より明確な傾向を把握できることが考えられる.第三に,内生性の問題を十分に考慮できていない点である.説明変数のうち特に寄り合いの回数については,組織設立・法人化をしたために話し合う事柄が増えて寄り合いの回数が増えたという逆の因果関係があることも考えられる.この問題を解消する方法としてラグ付きの説明変数を用いることや操作変数法があるが,今回は得られたデータの都合や適切な操作変数の設定に至らなかったことから実施できなかった.以上を本稿の課題とし,今後集落営農に関する定量的な分析が増えることを期待する.
注