Journal of Rural Problems
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Yoshihiro Uenishi
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2023 Volume 59 Issue 4 Pages 203-204

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1. はじめに

2022年2月20日に農林統計出版より公表した拙著に対し,西村武司氏(以下,評者)から非常に的確なコメントをいただき,また,本誌編集委員会からリプライの機会をいただき,心より御礼申し上げたい.本稿では,評者からいただいた3点の指摘に対して,拙著執筆後の研究の展開もふまえてリプライを試みたい.

2. 農法の普及率の計算方法

評者はまず,農法の普及を把握する際に,農法導入者数ではなく,導入面積の増減に一貫して着目するべきであると指摘している.この点は具体的に,トキ農法を対象とした第5章に関する指摘である.第5章では,JA佐渡管内の全組合員を対象としたアンケート調査を実施したが,アンケートを設計する際に事前に関係機関にヒアリング調査を実施したところ,いったんは導入したがその後中断する農業者が一定数存在するという話を伺った.そこで,農法の面的普及を実現するためには,まずは中断理由を把握した上で中断者を出さないような取組,すなわち面積を減らさない取組が重要であろうとの考えから,導入後に継続するか中断するか等の二値で把握して中断理由などの分析を行った.次なる分析として,継続導入者を対象とした面積の増減理由も検討すべきであったが,筆者の力不足により拙著では分析ができていないため,今後の課題として残されている.

評者はさらに,第1章と第3章のコウノトリ農法の面積普及率が整合的でないことを指摘しているが,この点に関しては読者の混乱を避けるために次の注釈を追記すべきであったと考える.第1章(図1-1)では2015年度の面積普及率を計算するにあたって,農林業センサスにおける販売農家の水稲作付面積を分母とした.その一方で,第3章(図3-2)では各年の面積普及率を計算する必要があったことから,農林業センサスではなく,作物統計の水稲作付面積を分母に用いた.

なお,拙著の第1章では,コウノトリ農法の2015年度の導入面積率を掲載しているが,農林業センサスと豊岡市(2022)のデータを用いて2020年度の面積普及率を計算すると,無農薬タイプは6.3%,減農薬タイプは11.9%である.2015年度はそれぞれ3.7%と10.0%であったので,減農薬タイプはほぼ現状を維持している一方で,無農薬タイプは着実に普及している(面積は2015年度から2020年度にかけて,無農薬タイプは89.1haから147.1ha,減農薬タイプは240.2haから278.6haに増加).この背景には,JAおよび行政などの関係機関による継続的な販路開拓と高付加価値化の取組が影響していると考えられる(上西,2022).

3. 技術適用の難易度

評者は次に,技術適用の難易度の高低がどのように決まるのかに関する記述が見当たらないと指摘する.この点に関しては,第1章の最終段落(p. 70)で言及したように,両者の農法の内容に着目した.コウノトリ農法は農薬使用量の8割削減,化学肥料不使用,年間を通した水管理(冬期湛水,早期湛水,中干し延期など)が必要となる.その一方で,トキ農法は農薬・化学肥料の5割減と,「生きものを育む農法」の最低一つを実施することなどが要件であり,「生きものを育む農法」には江の設置や冬期湛水など限定された期間の取組も含まれている.そのため,水管理面なども含めて,コウノトリ農法の方がトキ農法よりも栽培方法としての難易度が高いと考えた.

技術適用の難易度という考えは,拙著内でも述べたように,稲本(2005:p. 12)が革新の普及曲線の形状に影響を及ぼす要因の一つとして,普及する技術に関する要因を挙げていることに依拠した.拙著では具体的に,普及する技術に関する要因として技術適用の難易度を要素として設定し,技術適用の難易度が低ければ農法の最終普及率が高くなると考えた.

この場を借りて技術適用の難易度について補足説明したい.拙著では,両農法間の難易度の高低は農法そのものの内容で判断し,導入した農業者にとっての高低の変化は農業者を取り巻く外部環境および内部環境の変化から判断した.難易度を把握する方法として,農業者に二つの農法の受容性や導入にあたっての阻害要因などの主観的評価を尋ねる選択肢も考えられるが,拙著が対象とする農法の普及対象地域が異なることから,技術的特質および農業者を取り巻く環境の変化をもって難易度を把握することとした.第3章では農法の普及から時間が経つにつれて,関係主体による支援体制の拡充や農業者の高齢化など農業者を取り巻く環境が変化するため,これにともなって技術適用の難易度が変化すると考えて分析した.いずれにせよ,以上の内容を拙著内で明確に説明すべきであったと考える.

4. 農法の普及とは

評者は最後に,拙著で議論している農法の普及とはいったい何であるのかについて指摘している.拙著において,筆者自身は朱鷺と暮らす郷づくり認証制度の認証要件を満たすことでトキ農法を導入していると捉えていた.そのため,認証要件を満たしている場合,トキ米を生産するための一連の技術体系を満たしていることとなる.さらに,拙著内では,「生きものを育む農法」のうち冬期湛水を選択する農業者も江の設置を選択する農業者も認証要件を満たしているという観点から,区別せずにトキ農法を導入しているとみなした.

評者の指摘を契機に改めて認識したのは,両農法の目的であるシンボルとなる生物の餌場確保と生物多様性の実現について評価するためには,農法の普及状況に加えて,地域内での生物多様性の実現状況や環境負荷低減状況などとあわせて検討する必要があるということである.その際には,評者が指摘するように,トキ農法の中でも「生きものを育む農法」の選択技術によって区別した上での分析が必要となる.

5. おわりに

以上のように,本稿は,リプライというよりも評者の指摘によって拙著に残された課題を再確認する内容となった.これらの課題については今後の研究課題として引き続き解明に取り組みたい.最後に,以上の貴重な気付きの機会をいただいた評者と本誌編集委員会に改めて感謝の意を表したい.

引用文献
  • 稲本志良(2005)「農業普及序説」日本農業普及学会企画編集『農業普及事典』全国農業改良普及支援協会:3–18.
  • 上西良廣(2022)「稲作における持続可能性とイノベーション―「コウノトリ育むお米」を対象として―」南石晃明編著『デジタル・ゲノム革命時代の農業イノベーション』農林統計出版:151–165.
  • 豊岡市(2022)「2022年度コウノトリ育む農法水稲作付の実績」,https://www.city.toyooka.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/024/231/202212-2.pdf(2023年10月3日参照).
 
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