Journal of Rural Problems
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Book Review
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Masayuki Senda
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2024 Volume 60 Issue 1 Pages 61-62

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わが国の畜産物の自給率はカロリーベースで約16%と低く,食料自給率全体を押し下げている.畜産物の約3分の2は国内で生産されているが,その給与飼料の自給率が低いためである.とりわけ自給率が14%と低い濃厚飼料の国産化は食料の安全保障上,喫緊の課題という声が多い.

本書は,濃厚飼料国産化の切り札として飼料用米の本作化の条件を明らかにしようとするものである.水田作経営や畜産経営にとって,どのような論理で飼料用米が生産ないし利用されているのか,経営レベルで選択される論理を事例分析から摘出し,定着条件の提示を試みている.

第1部「コメ生産調整政策への経営対応」では,①戸別所得補償制度において飼料用米が10 a当たり8万円の高額交付金の対象となった2009年以降,②数量払い制度の導入された2014年以降,③主食用米の生産数量目標配分のなくなった2018年以降の3期に分けて,飼料用米の作付動向を抑えつつ,その生産を継続ないし拡大している水田作経営から,著者は定着のヒントを見出そうと試みる.

ここで明らかにされた飼料用米選択の理由として,栽培技術面や圃場条件面で主食用米からの転換が容易(主食用米への回帰も容易),相手(耕畜連携)を気にせず取引可能,専用品種では倒伏リスクが少なく,防除の一部(いもち病やカメムシなど)が削減可能,色彩選別が不要などの省力性,主食用品種との作期分散,主食用米の価格変動に対するリスク分散などがあげられている.その一方で,本作化の条件となる優良圃場への作付や施肥量の増加による多収の追求など生産力の向上につながる行動は必ずしも見出せていない.あくまで,高額の交付金に支えられた収益性と省力性が飼料用米の主な選択行動にとどまっていることが明らかにされているように見える.

第2部「耕畜連携の経営行動」では,耕畜連携による国産飼料の生産と利用の成立条件の解明を試みる.ここでは,飼料用米のみならず,稲WCS,イタリアンライグラスなどの牧草,稲わら,子実用トウモロコシなど国産飼料の利用や作付を高く評価している経営体の分析が行われている.まず,畜産経営におけるこれらの給餌内容と畜産物の生産性(乳量や肉質など)や,生産力(生産コスト)を明らかにしつつ,国産飼料の生産と供給がどのように行われて高い評価を得るに至っているかを解析している.

飼料用米については,籾米サイレージ,SGSへの加工が利用する畜産経営の評価を高めるとともに,水田作経営側にも経済的メリットのある取り組みであることが示されている.すなわち,サイレージ調製にすることで品質の安定と向上がはかれ,畜産経営では配合飼料の代替量が多く,水田作経営では1 kg当たり32~40円掛かるとされる乾燥調製経費が不要となり,15円程度でサイレージ調製が済むことなどである(第4章).

水田飼料を多給しながらも搾乳牛1頭あたり年間1万kgの高い泌乳量を確保している酪農経営の事例分析からは,青刈トウモロコシやイタリアンライグラス,稲WCS,稲わらの利用が多いこと,飼料費の大幅な低減が実現していることが示されている.その条件として,TMR調製による給餌の省力化と品質の安定化,そして耕種経営サイドで設立している粗飼料の収穫組織(コントラクター)の存在をあげている(第5章).しかし,ここで主として取り上げる国産飼料は,主題の飼料用米ではなく粗飼料である.すなわち,濃厚飼料よりも価格の高い輸入乾草に置き換えて,国産の青刈トウモロコシや牧草,稲WCSなど粗飼料を多給することで高い家畜生産性とコスト低減が図られており,それらを確保するうえで収穫調製を担うコントラクターの存在が重要であることが示唆されているように読める.

第6章では資源循環(畜産経営側の堆肥活用)に飼料用米の成立条件を見出そうとしているが,著者も言うように飼料や家畜生産の高度化につながる資源循環を必ずしも見い出せていない.

第7章は水田飼料作が肉用牛繁殖経営の生産基盤として不可欠となっている事例が分析されている.ここでも転作田の牧草や稲WCS,河川草の粗飼料など,高価な輸入乾草に代替する粗飼料の確保により高い収益性が確保されていることが示されている.

第8章は大規模水田作経営における子実用トウモロコシ生産の評価,第9章は養豚経営における子実用トウモロコシ利用の評価が明らかにされている.子実用トウモロコシは,耕種経営においては,10 a当たり作業労働時間が約1.5時間の省力的な作物であること,緑肥としての機能や土壌の物理性改善に寄与し,後作の大豆等の生産に好影響を与える輪作作物であること,生産コストが低いこと,畜産側での飼料評価及び取引価格が高いことなどが評価されている.加えて,地域の農業従事者が激減し担い手経営に農地が急速に集積され,省力的かつ水稲等との作業時期が競合せず労働生産性・収益性の高い作物が模索されるなかで,子実用トウモロコシはその条件にあった有力な作物の一つであることが示されている(第8章).

他方,子実用トウモロコシを利用する養豚経営では,生産物の品質に好影響が確認され,配合飼料よりも高い価格で調達している.対照的に飼料用米の調達価格は配合飼料単価の3分の1程度と低いことが示されている(第9章).

第3部「基本法の理念と政策展開」では,飼料用米の本作化を図るには,転作助成金から,小麦や大豆のように「わが国と農産物輸出国との生産条件格差に関わる交付金」に位置づけることが必要と結論付けている.

本書のテーマは飼料用米の本作化の条件を経営面から解明することであった.しかし,経営分析結果からは,交付金を前提にした低価格で調達できること以外に,飼料用米の積極的な評価は必ずしも明らかにされていないように思える.むしろ,稲WCSや牧草,子実用トウモロコシが,畜産経営にとって不可欠な飼料として定着しつつあり,水田作経営の規模拡大への対応や経営成長にも寄与しているように読み取れるのである.すなわち,「食料安全保障上,飼料自給率の向上が課題⇒とくに自給率の低い濃厚飼料の国産化が必要⇒その切り札として飼料用米の定着が必要⇒しかし経営体において飼料用米は他の飼料作物ほど生産性が高くなく評価も高くない⇒定着のためには交付金が必要」という論理が展開されているように思われる.

飼料自給率向上の他の方向は考えられないのであろうか.飼料用米は水田作経営にとっても畜産経営にとっても選択可能な作物ないし飼料の一つにすぎない.むしろ,日本の気象条件を考えると生産性の高い粗飼料(牧草や青刈トウモロコシ,稲WCS等)を活用した家畜飼養を検討する発想が必要ではないだろうか.もちろん中小家畜や肥育牛は濃厚飼料中心の飼養を変えることは困難であるが,酪農経営や肉牛繁殖経営では,むしろ現行の濃厚飼料に傾斜した飼養に伴う家畜の健康上の様々な問題が顕著になる中で,国内で生産性の高い粗飼料を活かした飼養方法へ舵を切る取り組みも増えているように思われる.

飼料用米と言う単一作物で是非を議論するのではなく,農業労働力の激減する中で農地資源の効果的な活用,さまざまな飼料の生産力,持続的な家畜生産や畜産物の生産力,資源循環など総合的な視点に立ってさまざまな国産飼料の生産と利用の在り方を検討することが重要と考える.

 
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