2024 Volume 60 Issue 2 Pages 67-74
The objective of this study is to analyze consumer choice behavior concerning Japanese milk in Hong Kong using a choice experiment. Data from an online survey of 400 respondents were used for the analysis, revealing four key points: (1) 60.5% of participants consumed Japanese milk; (2) Hong Kong consumers favored both local and Japanese milk; (3) Consumers showed a preference for unhomogenized milk and vitamin-enhanced milk; and (4) Japanese milk was preferred by middle-aged, higher-income groups, men, and individuals with a university degree or higher. The findings indicate that maintaining the current advantages of Japanese milk products is essential in order to compete with foreign milk products. Promotion measures targeting middle-aged individuals, men, and those with university degrees or higher were found to be effective.
近年,日本は農産物の輸出拡大に注力している.日本産農産物輸出にはアジア市場が重要であり,日本産であることの優位性の維持が必要となる(駄田井他,2021).その中で,特に香港は比較的日本からの距離が近い点や日本の食品が人気を博している点等から,非常に重要な輸出先となっている.香港において,日本の輸出重点品目の一つである牛乳の需要が拡大しており,今後の輸出拡大が期待されている.例えば,United Nations(2022)によると,日本産ミルク及びクリーム(HSコード0401)の総輸出量は180万kg(2011年)から853万kg(2022年)に増加し,うち香港の割合が最も高い(70.0%)1.
しかし,香港における牛乳の輸入量のうち,日本産が占める割合は相対的に少ない.例えば,2022年時点で香港のミルク及びクリーム(HSコード0401)の総輸入量のうち,日本産は僅かに6.5%であるが,豪州産が13.1%,中国内陸産が25.3%であった(United Nations, 2022).日本産牛乳の更なる輸出拡大のためには,豪州,中国内陸等といった牛乳輸出地域との競合にどう対抗するかという課題がある.こうした背景のもと,香港での日本産牛乳に関するマーケティング戦略の策定が求められる.
そこで本稿では,香港での牛乳に対する消費者選好を明らかにすることを目的とする.その際に,選択型コンジョイント分析(Choice-Based Conjoint Analysis,以下,CBC)を用い,原産地等の異なる牛乳への消費者評価を解明する.更に,日本産牛乳と他国産牛乳を比較すると共に,どういった消費者が日本産牛乳を高く評価するかを明らかにする.その上で,今後の牛乳の輸出販売戦略を検討する.
海外消費者を対象に日本産牛乳への消費者評価を分析した研究として,例えば,西田(2020)は香港の牛乳の需給動向を整理しているが,牛乳消費の一般的な傾向しか捉えていない.斎藤他(2010),渡邊(2014,2015)では中国での牛乳への消費者評価を分析しているが,斎藤他(2010)は中国産と日本産,渡邊(2014,2015)は地方乳業,大手乳業と外国メーカーを比較するのみである.前述の通り,市場の拡大が期待される香港は多くの国から牛乳を輸入している.消費者が各外国産牛乳と比較して日本産牛乳を如何に評価するのか,特に日本産牛乳が各国との競合にどのように対抗するのかといった課題の分析は管見の限り行われていない.従って,本稿では多くの原産地のうち日本産牛乳が如何に評価されているのかを検証する.
CBCは仮想的な選択肢を複数組み合わせた選択セットから,最も好ましい選択肢を選択する試行を繰り返し,その選択肢を構成する属性と水準の選好を求める方法である.CBCは限界支払意思額や需要関数を計測できることで汎用性が高いという特徴があり,マーケティング分野等で広く用いられている.CBCで分析する際に非常に重要となるのが,プロファイル設計であり,すなわち商品の属性,水準,属性水準の組み合わせ及びプロファイルの組み合わせである(鷲田他,1999).
表1は牛乳の属性と水準を示したものである.属性は「原産地」,「保存方式」,「特徴」,「ビタミンD」,「価格」の5つとした.水準は「原産地」6水準,「保存方式」2水準,「特徴」6水準,「ビタミンD」2水準,「価格」6水準と設定した.「価格」は1ℓ当たりの価格であり,事前調査で香港の店舗での価格を参照して設計した2.なお,味という属性は定量化が難しく,個人の受け止め方も異なり,選択実験に入れるとバイアスがかかる可能性が考えられるため,除いている.
選択型コンジョイント分析に使用した属性と水準
属性 | 水準 |
---|---|
原産地 | 日本産,中国内陸産,香港産,豪州産,ベトナム産,スイス産 |
保存方式 | 常温,チルド |
特徴 | 無調整,低脂肪,脱脂肪,高鈣,高鈣脱脂肪,高鈣低脂肪, |
ビタミンD | あり,なし |
価格(HKD/1ℓ) | 17,22,27,32,37,42 |
1)HKDは香港ドルである.香港ドルを円に換算すると,1HKDは18.2円である(2023年8月).
2)牛乳の属性・水準について,CBCの設問を提示する前に,以下のように説明した.(1)原産地について,香港産は輸入した原材料を香港で加工・製造されたものを,日本産,スイス産,ベトナム産,豪州産及び中国内陸産はそれぞれ,当該地域で製造された牛乳を輸入してそのまま販売するものを意味する.(2)保存方式について,チルドは常に冷蔵を,常温は未開封前に常温保存可能を意味する.(3)脂肪分特徴について,脂肪は牛乳の脂肪分の割合であり,無調整で3.5%以上,低脂肪1.5%,脱脂肪0.0%を意味する.高鈣はその他の牛乳よりも,カルシウムの含有量が50%高い.例えば,高鈣脱脂肪は高カルシウムで脂肪分0.0%を意味する牛乳である.
3)予備調査から香港で販売されている牛乳のパッケージについては,「無調整」,「低脂肪」,「脱脂肪」,「高鈣」等が明記されているため,本稿では「特徴」の水準に設定した.このような属性の水準を適用している例は渡邊(2015)がある.
選択肢集合の作成については合崎(2015)を参照し,データ解析環境「R」の「support.CEs」パッケージを用いて実施した.図1に示したように,5つの属性を組み合わせた4パターンの牛乳のプロファイルに「どれも買わない」を加えた5つの選択肢を1つのチョイス・セットとした.各属性の水準が異なるチョイス・セットを直交計画に従って36セット作成した.その上で,回答者の負担軽減のため,回答者をランダムに4ブロックに割り振り,1人につき9枚のカードを提示した.
コンジョイント質問の一例
本稿では混合ロジットモデルで推定を行う.混合ロジットモデルは,CBCの標準的な推定方法の1つであり,各属性のパラメータの平均及びばらつきを推定することで,回答者ごとの選好の異質性を考慮したモデルである3.山重他(2015)を参考に,下記のように定式化を行った.
まず,主効果モデルにおいては,効用関数Uniは(1)式の通り表すことができる.
(1) |
ここで,Vniは回答者nが選択肢iを選択した場合の効用のうち観察可能な部分,Xniは商品価格以外の属性ベクトル,βnはランダムパラメータ・ベクトル,Pnは価格属性ベクトル,θは価格に対する固定パラメータ,εnは誤差項である.
また,図1に示したように,「どれも買わない」を選択肢5として設定した.選択肢5には原産地等の変数がないため,選択肢5については0,それ以外は1となる選択肢固有定数項(Alternative-Specific Constant,以下,ASC)を用い,効用関数を推定する方法がある.本稿では,原産地間の推定結果を比較しやすくするため,小坂田・藤野(2018)や中村他(2009)を参考に,「どれも買わない」場合の効用は0のままで6つの原産地のダミー変数を使用し,ASCを使用せずに比較を行う.なお,(1)式のランダムパラメータはいずれも正規分布を仮定した.
また,本稿では,日本産牛乳を高く評価する層を解明するため,各原産地ダミーと,消費者属性(性別,年齢,教育水準,所得)との交差項を加味した交差効果モデルも推定した4.表2は用いた消費者属性の変数の定義である.
消費者属性の変数の定義
変数 | 定義 | |
---|---|---|
女性 | 女性=1,その他=0 | |
年代 | 20代 | 20~29歳=1,その他=0 |
30代 | 30~39歳=1,その他=0 | |
40代 | 40~49歳=1,その他=0 | |
50代 | 50~59歳=1,その他=0 | |
60代 | 60~69歳=1,その他=0 | |
大卒 | 大学を卒業した場合=1,その他=0 | |
月収 | 低所得 | 1万HKD未満=1,その他=0 |
中所得 | 1~3万HKD=1,その他=0 | |
高所得 | 3万HKD以上=1,その他=0 |
1)月収は世帯当たり月収を意味する.
アンケート収集は,中国系のアンケート調査会社(51調査網)に依頼し,インターネットを通じて実施した.調査期間は,2023年7月6日~7月19日である.調査は,香港における性別・年代別の人口構成比に沿って同地域在住の20~60代の男女を対象とした.サンプルサイズは400であり,そのうち過去1年間に1度も自身で牛乳を購入していない者はいなかった.なお,過去1年間に牛乳を飲用していない者もいなかった.また,すべての質問項目において,中国語(繁体字)で表記した質問票を用いた.
表3は回答者の属性を示したものである.まず,性別では男性が45.5%となっている.年齢層は20~29歳が13.5%と最も少なく,それ以外の年齢層はほぼ21%前後となっている.所得階層は世帯当たり月収を示し,その階層は低所得層が16.5%,中所得層が65.0%,高所得層が18.5%である.また,過去1年間に日本産牛乳を飲用した経験のある者は242名で,全サンプルの60.5%を占めている(表3).そのうち,飲用経験者の学歴は,大学卒業が最も多く,52.5%となっている.なお,低所得層において日本産牛乳を飲用した経験者が最も少なく,6.6% であった.このように,高教育水準や中高所得層で,日本産牛乳を飲用した経験者が多い点が窺える.
回答者の属性
属性 | 項目 | 全サンプル(400名) | 日本産飲用経験有(242名) | ||
---|---|---|---|---|---|
度数 | 割合(%) | 度数 | 割合(%) | ||
性別 | 男性 | 182 | 45.5 | 127 | 52.5 |
女性 | 218 | 54.5 | 115 | 47.5 | |
年齢 | 20~29歳 | 54 | 13.5 | 24 | 9.9 |
30~39歳 | 82 | 20.5 | 63 | 26.0 | |
40~49歳 | 88 | 22.0 | 58 | 24.0 | |
50~59歳 | 89 | 22.3 | 60 | 24.8 | |
60~69歳 | 87 | 21.7 | 37 | 15.3 | |
学歴 | 中学校卒業 | 90 | 22.5 | 25 | 10.3 |
高校卒業 | 136 | 34.0 | 90 | 37.2 | |
大学卒業 | 174 | 43.5 | 127 | 52.5 | |
月収 | 低所得 | 66 | 16.5 | 16 | 6.6 |
中所得 | 260 | 65.0 | 168 | 69.4 | |
高所得 | 74 | 18.5 | 58 | 24.0 |
1)低所得層は1万HKD未満を,中所得層は1~3万HKDを,高所得層は3万HKD以上を意味する.なお,参考として,世帯当たり月収入の中央値は2.8万HKDである(香港特別行政区政府統計處,2022).
計測結果は2種類あり,牛乳属性のみを説明変数とする主効果モデル(表4)と,消費者属性を説明変数に取り入れた交差効果モデル(表5)である.なお,本稿では混合ロジットモデルを用い,シミュレーションによる最尤法を推定した.その際,シミュレーションに使用される乱数を500回発生させた.
主効果モデルの推定結果
変数 | 係数 | Z値 | 標準偏差 | Z値 |
---|---|---|---|---|
日本 | 1.684** | 8.88 | 2.368** | 13.56 |
中国内陸 | 1.436** | 9.23 | 0.986** | 8.33 |
香港 | 2.171** | 15.22 | 0.623** | 4.24 |
スイス | 1.043** | 6.83 | 0.798** | 5.49 |
豪州 | 1.006** | 6.21 | 1.200** | 9.72 |
ベトナム | −0.322 | −1.52 | 1.619** | 8.54 |
チルド | 0.062 | 1.15 | 0.356** | 3.50 |
低脂肪 | −0.389** | −3.78 | 0.954** | 7.34 |
脱脂肪 | −0.412** | −4.24 | 0.538** | 3.18 |
高鈣 | −0.089 | −0.92 | 0.642** | 4.58 |
高鈣低脂 | 0.118 | 1.34 | 0.494** | 3.17 |
高鈣脱脂 | 0.053 | 0.58 | 0.494** | 3.01 |
ビタミンD | 0.188** | 3.30 | 0.516** | 5.86 |
価格 | −0.005+ | −1.66 | ||
観測値数:18000 対数尤度:−4868.2 |
1)**,*,+はそれぞれ係数が1%,5%,10%の水準で有意であることを意味する.
2)観測値数は回答者数(400)×選択実験の質問数(9)×選択数(5)を意味する.
交差効果モデルの推定結果
変数 | 主効果 | 交差効果 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
30代 ダミー |
40代 ダミー |
50代 ダミー |
60代 ダミー |
女性 ダミー |
大卒 ダミー |
中所得 ダミー |
高所得 ダミー |
||
日本 | −0.837 | 1.201* | 1.961** | 1.468** | 0.458 | −0.691* | 1.117** | 1.398** | 3.039** |
1.930** | 0.016 | 0.000 | 0.005 | 0.378 | 0.015 | 0.001 | 0.001 | 0.000 | |
中国内陸 | 1.034* | −0.034 | 0.032 | 0.032 | −0.287 | 0.229 | 0.286 | 0.237 | 1.076** |
0.920** | 0.928 | 0.934 | 0.935 | 0.448 | 0.297 | 0.256 | 0.412 | 0.010 | |
香港 | 1.745** | −0.233 | 0.024 | 0.143 | −0.359 | −0.302 | 0.522* | 0.675** | 0.832* |
0.556** | 0.491 | 0.947 | 0.679 | 0.286 | 0.119 | 0.021 | 0.009 | 0.029 | |
スイス | 0.577 | 0.100 | 0.190 | 0.196 | −0.517 | −0.243 | 0.034 | 0.863** | 0.774+ |
0.835** | 0.789 | 0.625 | 0.610 | 0.184 | 0.264 | 0.891 | 0.007 | 0.077 | |
豪州 | 0.303 | −0.491 | −0.082 | 0.028 | −0.005 | 0.194 | −0.062 | 0.974** | 1.331** |
1.232** | 0.229 | 0.844 | 0.947 | 0.990 | 0.414 | 0.819 | 0.002 | 0.003 | |
ベトナム | 0.676 | −0.734 | 0.041 | −0.697 | −2.059** | −0.576* | −1.035** | 0.664 | 0.714 |
1.442** | 0.138 | 0.931 | 0.144 | 0.000 | 0.050 | 0.002 | 0.117 | 0.220 | |
チルド | 0.061 | ||||||||
0.364** | |||||||||
低脂肪 | −0.448** | ||||||||
0.908** | |||||||||
脱脂肪 | −0.450** | ||||||||
0.557** | |||||||||
高鈣 | −0.127 | ||||||||
0.622** | |||||||||
高鈣低脂肪 | 0.087 | ||||||||
0.613** | |||||||||
高鈣脱脂肪 | 0.011 | ||||||||
0.483** | |||||||||
ビタミンD | 0.183** | ||||||||
0.534** | |||||||||
価格 | −0.005+ | ||||||||
観測値数:18000 対数尤度:−4759.1 |
1)**,*,+はそれぞれ係数が1%,5%,10%の水準で有意であることを意味する.
2)主効果に該当する変数の値は,上段が平均値,下段が標準偏差を意味する.交差効果に該当する変数の値は,上段が係数推定値,下段がp値である.
ランダムパラメータの標準偏差の値が統計的に有意である場合,回答者の間で選好が有意に異なると解釈される.本稿では,いずれの計測結果においても,すべての変数の推定値が有意であるため,回答者の異質性を考慮した混合ロジットモデルの利用の有用性を確認することができた.
(2) 主効果モデルの計測結果まず,主効果モデル(表4)において,各変数の推定結果をみると,価格はマイナスで,有意水準10%で有意である.これは価格の上昇に伴い選択確率が低下することを意味しており,理論的に整合性のある結果となった.原産地について,ベトナム以外の係数はすべて有意水準1%で有意であり,符号は正であった.これは,モデルのベースである無調整・チルド・ビタミンなしの牛乳を購入する際に,これらの原産地の牛乳が消費者の効用を統計的に有意に高めることを意味する.また,パラメータの大小関係から,回答者の原産地に関する選好順序は,降順に香港,日本,中国内陸,スイス,豪州となった5.このことから,無調整・チルド・ビタミンなしの牛乳を購入する際に,最も高く評価されているのは香港産であり,その次に日本産であることが示されている.このように,香港産以外の輸入品の中で,消費者は日本産牛乳を高く評価することが分かった.
また,原産地ダミーの標準偏差はいずれも有意であり,回答者によってばらつきが存在する点も窺える.原産地ごとの変動係数(係数の標準偏差を係数の平均値で割ったもの)をみると,日本が1.41,中国内陸が0.69,香港が0.29,スイスが0.77,豪州が1.19,ベトナムが5.03であった.このように,ベトナム産と日本産牛乳への評価のばらつきが相対的に大きいことが分かった.
また,脂肪分について,低脂肪と脱脂肪の係数はいずれも有意にマイナスであった.このことから,牛乳を購入する際に,他の要因が一定だとすると,脂肪分が調整された低脂肪と脱脂肪の牛乳は,無調整牛乳より評価が低くなることを示している.藤川・川村(2013)は官能評価による牛乳の食味評価の結果,成分無調整に比べ成分を調整した牛乳の香りが弱くなりコクがなくおいしくないと指摘した.このように,香港での牛乳市場において様々な種類のうち,無調整牛乳が消費者に高く評価されており,無調整牛乳への選好がある程度確立されていると考えられる.
また,ビタミンDの係数は正値で,統計的に有意であった.アンケート調査で「あなたは普段牛乳を購入する際に重視する点はどれですか?」と尋ねた結果,51.5%の回答者がビタミンによる栄養の強化を選択した.このように,多くの消費者は牛乳の栄養を重視しており,CBCでもビタミンD強化牛乳が消費者に高く評価されている点を確認できた6.
(3) 交差効果モデルの計測結果以上の結果は平均的なものであり,標準偏差が統計的に有意であった点も勘案すると,消費者によって原産地の評価は異なると考えられる.そこで,交差効果モデルで消費者属性による評価差を分析した.交差効果モデルの計測結果によると,まず20代を基準とした年齢階層別の効果については,日本産と年齢ダミーの交差項の係数は,30代1.20,40代1.96,50代1.47であり,統計的に有意であった.このことから,日本産牛乳を購入する際に,他の要因が一定だとすると,20代の消費者に比べて30~50代の消費者の方が高く評価することを示している.また,ベトナム産と60代ダミーの交差効果が統計的に有意であるものの,マイナスであった.一方,①60代ダミーと日本産の交差効果,②30~50代の各ダミーと中国内陸,香港,スイス及び豪州の交差効果は統計的に有意な関係が見られなかった.
女性を1とするダミー変数の影響は,日本産との交差効果がマイナスで有意であった.男性に比べて女性は日本産牛乳を好まないと考えられる.また,教育水準について,大卒以上と日本産の交差効果が正値で有意である.以上のように,大卒以上及び男性が日本産牛乳を高く評価する傾向にあった.なお,香港産と大卒ダミーの交差効果の係数は統計的に有意であったが,係数の値としては日本産の方が高いことを示している.このことから,他の要因が一定だとすると,大卒以上の消費者が牛乳を購入する際に,香港産牛乳より日本産牛乳を高く評価することが明らかとなった.
次に,日本産と所得階層の交差項では,中所得ダミーと高所得ダミーの係数がそれぞれ1.40,3.04であり,有意水準1%で有意であった.これは,低所得層に比べ,中高所得層の方が日本産牛乳を高く評価することを示唆している.加えて,高所得ダミー係数(3.04)は中所得ダミー係数(1.40)より高いことから,所得水準が高くなるほど,日本産牛乳に対する評価が上がることが確認できた.なお,香港産,スイス産及び豪州産牛乳でも同様の傾向が確認できたが,係数の値としては日本産の係数が若干高い値となった.
本稿では,香港を対象としたアンケート調査で得られたデータを用い,牛乳に対する消費者評価を定量的に分析した.
その結果,6財のうち香港産牛乳が最も高く評価されており,日本産牛乳は他の外国産牛乳と比べ高く評価されていることが明らかとなった.この分析結果より,冒頭で記述した駄田井他(2021)の指摘する日本産商品としての優位性について,日本産牛乳においても確認ができた.
また,消費者属性については,①30~50代の回答者で日本産牛乳への評価が高い傾向が計量的に確認された一方,他の5財への評価で統計的に有意な結果は確認できなかった.②男性は,日本産牛乳とベトナム産牛乳への評価が高い傾向が窺えた.③大卒以上である回答者は香港産及び日本産牛乳を高く評価する傾向にあったが,日本産牛乳をより高く評価することが明らかとなった.④中高所得層の消費者ほど,今回分析した6財のうち日本産牛乳を最も高く評価する傾向が窺えた.
以上の分析結果を踏まえると,今後他の外国産牛乳に対抗するためには,まず現在の日本産であることの優位性を維持することが求められる.特に,無調整牛乳やビタミンD強化牛乳が高く評価されていることから,これらの牛乳を提供・販売することが,日本産牛乳のマーケティング戦略として重要であると考えられる.また,日本産牛乳を中年層,男性,大卒以上といった消費者層が高く評価することから,これらの階層をターゲットとした消費促進策が有用である.特に,30~50代の年齢ダミーが統計的に有意である牛乳は日本産牛乳のみであり,他国産と差別化する上で,年齢階層を絞った販促活動は効果があり得る.また,中高所得層が日本産牛乳を最も高く評価する点から,香港産及び他の外国産牛乳との競合に対抗するには,中高所得層への積極的な販促活動が有効であると考えられる.
以上のように先行研究とは異なり,他の外国産牛乳や香港産牛乳への消費者評価と比較した上で,日本産牛乳への消費者評価を分析し,マーケティング戦略への示唆を提示できた点で,本稿の内容は今後の日本産牛乳の輸出拡大へ有意義なものであった.
本研究は2023年度「乳の社会文化」学術研究の助成を受けたものである.