Journal of Rural Problems
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Short Paper
Market Segmentation for Environmentally Friendly Agricultural Products in Japan: A Literature Review of Demographic Characteristics
Atomu NittaAtsushi Tanaka
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2024 Volume 60 Issue 2 Pages 75-82

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Abstract

This study explores the market segmentation for environmentally friendly agricultural products by reviewing previous studies conducted in Japan. The literature review, which focused on demographic characteristics, identified three key consumer segments: elderly individuals, child-rearing women, and unmarried workers. Identifying these distinctive segments is important for developing efficient and targeted measures for stimulating demand. Further research on segmentation, which considers psychological and behavioral traits of consumers, is recommended.

1. はじめに

『みどりの食料システム戦略』(令和3年5月)では,2050年までの目標として,「オーガニック市場を拡大しつつ,耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大」することのほか,化学農薬や化学肥料の使用量低減等が掲げられている(農林水産省,2021).こうした目標を達成するためには,有機農産物を始めとする環境保全型農産物・食品(以下,有機農産物等)の供給増に対応する需要喚起が必要となろう.

古くからマーケティングでは売上の80%が20%の顧客から来るとされるように,対象となる製品を多く消費する人々の属性を分析し,このような消費者セグメントに商品を届けることが求められる(Hughes, 1978).ここでセグメントとは,多様化している消費者を同質的なグループに区分したものであり,こうして区分された消費者セグメントのニーズに見合った製品を提供することで,より効果的なマーケティングを展開できる(塩田,2005).また,セグメントを明らかにすることはセグメンテーションと呼ばれる.

有機農産物等は自然環境や生産物に配慮して生産されている一方で,慣行農産物に比べて販売価格が高くなる傾向にある.そのような状況下で,有機農産物等を高く評価し,相対的な高価格を受容して購買している消費者セグメントを明らかにすることは,効率的・効果的な需要喚起策の検討に資する.

我が国においては,有機農産物等に対する評価と消費者属性の関係を明らかにした先行研究は多くみられる.こうした研究は我が国の消費者全体の中で,どのような属性の消費者が有機農産物等を高く評価するのか,平均的な傾向を明らかにした研究と言える.また,有機農産物等を高く評価する消費者層が複数のセグメントに分かれることを明らかにした先行研究も,数は少ないもののみられる.しかし,先行研究によって注目する消費者属性等が異なり,知見が十分に整理されているとは言い難い状況にある.

以上より,本稿の目的を,先行研究の知見を整理することで,有機農産物等の消費者セグメントを明らかにすることとする.

2. 調査方法

(1) レビューの対象と方法

本稿では,有機栽培や特別栽培のほか,無農薬・無化学肥料や減農薬・減化学肥料を含む環境保全型・生物多様性保全型の農産物・食品をまとめて有機農産物等と表現し,これらを分析対象とした先行研究を広く収集対象とする.また,こうした有機農産物等に対する「評価」の指標としては,支払意志額や購入金額,購入頻度,購入経験等の多様な指標が先行研究では用いられていた.網羅的な整理を意図して,本稿ではあえてこれらを区別することはせず,すべて同様に評価の指標として扱った.消費者属性としては,取り上げている先行研究の多さから主に人口統計変数に注目して整理する.人口統計変数とは,年齢,性別,収入,子供の人数,世帯員数,職業等を指し,消費者のセグメンテーションで一般的に用いられるものである(塩田,2005).他に心理的変数や行動変数によるセグメンテーションも重要であるが,先行研究で利用されている心理的変数や行動変数は多様であり,こうした変数に注目して整理する場合,共通した用語での議論が困難である.

以上の定義に基づき,本稿では,2通りの先行研究を収集・整理する.1つ目は有機農産物等に対する評価と消費者属性との関係を回帰分析等により明らかにしたものである.この知見の整理により,有機農産物等の消費者層の平均的属性を明らかにする.2つ目は有機農産物等を高く評価する消費者層を属性の類似性に従って複数のセグメントに分け,セグメント間における人口統計変数の違いを明らかにしたものである.この知見を,1つ目の先行研究の結果や考察と対比することで,有機農産物等の消費者セグメントを明らかにする.

先行研究は,2022年4月から2023年1月において,Google ScholarとJ-STAGEを用いて収集した1.その結果,何らかの形で有機農産物等に対する評価と消費者の人口統計変数との関係,または有機農産物等に対する評価が高い消費者のセグメンテーションを分析したものは29報みられた.これら29報の文献が,本稿におけるレビューの対象である.このうち28報で何らかの形で有機農産物等に対する評価と消費者の人口統計変数との関係が分析されており,3報で有機農産物等を高く評価する消費者層のセグメンテーションが分析されていた.

本稿と類似の問題意識に基づく調査として,農林水産省の委託調査が行われている(博報堂,2015).そこでは,少数の女性消費者へのインタビューや関係者へのヒアリング等により,今後の有機農産物等の市場活性化のために想定しうるターゲットとして,子育て層,シニア層,及び都市型ワーカー層という3つが定性的に提案されていた.そこで,本稿における消費者セグメントの解明では,博報堂(2015)の調査結果との対比に注意する.

(2) 収集した先行研究の概要

発行年は1996年から2021年の期間であった.分析に使用されたデータの調査年で分類すると,1990年代前半が1報,1990年代後半が7報,2000年代前半が9報,2000年代後半が4報,2010年代前半が5報,2010年代後半以降が3報であった.有機農産物等の消費者の人口統計変数やセグメントに関する研究は,有機JAS認証の導入(2000年)前後に増加し,やや数を減らしながらも現在まで実施されてきている.

調査対象の品目では,農産物・食品一般を対象とするものが6報,米のみを対象とするものが7報,野菜一般(生鮮野菜含む)のみを対象とするものが5報みられるほか,より詳細な品目を対象としたものや複数の品目を個別に分析したものもみられる.

データの収集方法としては,何らかのアンケート調査によるものが多い(22報).そのほかには,大阪商業大学比較地域研究所と東京大学社会科学研究所によるJGSS(Japanese General Social Surveys)の個票データを利用したものや,スキャンデータを利用したものもみられる.

分析方法としては,コンジョイント分析または仮想評価法を用いて支払意志額等を計測したものが多い(12報).その他には,評価の指標と消費者属性との関係をロジスティック回帰等により計測したものや,有機農産物等の購買頻度や購買経験等を消費者属性に基づいて集計したものもみられる.消費者層のセグメンテーションを行った3報の先行研究は,すべてクラスター分析を用いていた.

以上のように,本稿でレビューの対象とする先行研究は,実施時期,対象品目,データ,分析方法が様々である.本稿は,こうした先行研究を大掴みに比較検討するものであることに注意が必要である.

3. 調査結果

(1) 評価と消費者の人口統計変数との関係

相対的に多くの先行研究で調査対象とされている属性に着目し,先行研究の結果を整理した(表1).具体的には,年齢,性別,収入・所得,子供人数・子供有無,世帯員数・家族員数,主婦・主夫か否か,及び生協・消費者グループ等への参加有無の7属性が比較的多くの先行研究(6~28報)で調査対象とされていた2

表1.

有機農産物等に対する評価と消費者属性との関係に関する先行研究の分析結果

当該属性が調査対象 評価との関係1)
年齢 28 20 4
性別(女性) 22 11 0
収入・所得 21 14 0
子供人数・子供あり 16 7 1
世帯員数・家族員数 16 3 5
主婦・主夫 8 4 0

生協や消費者グループ等への参加あり

6 6 0

資料:各文献をもとに筆者作成.

1)当該属性が調査対象となっていても,有機農産物等に対する評価との関係が分析されていないものと,統計分析において有意差がみられていないものは数えていないため,「正」と「負」の文献数を足し合わせても,「当該属性が調査対象」の数には一致しない.

年齢を調査対象とする28報の文献のうち,相対的に年齢が高い消費者で有機農産物等に対する評価が高いことを指摘したものは20報ある(藤本,1996北﨑,1999足立,2000松久,2000藤井他,2001峯木他,2001大橋,2004石田・會田,2005峯木他,2005佐藤他,2005磯島,2006會田他,2007中村他,2007山本,2007Managi et al., 2008氏家,2010松岡・氏家,2015黒川他,2019佐々木,2021氏家・松岡,2021).ただし,石田・會田(2005)山本(2007)は,70代以上は60代以下と比べて購買頻度が下がることを指摘しており,この原因は買い物回数の減少であると考察されている(石田・會田,2005).こうした留意点はあるものの,年齢が高い消費者の方が有機農産物を高く評価する傾向にあるようである.これは,「現代の中高年層は公害や環境汚染に注目が集まり,有機農業運動が進展した70年代に子育てをしてきた世代」(山本,2007:p. 187)であり,「健康や安全性,地域の環境問題などに関心が高く,多少高くても品質の良いものを購入したいと考えている」(磯島,2006:p. 43)層が多いためであると考えられる.

他方,逆に相対的に若年の消費者の方が,有機農産物等を高く評価するとの分析結果もみられる(佐藤他,2001合崎,2005西村他,2012b長尾・保永,2017).このように一方では高齢,一方では若年の消費者が有機農産物等を評価しているという,一見矛盾する結果が得られているのは,有機農産物等の消費者層の中でも異なるセグメントの特徴が観察されたためである可能性がある.

女性の方が男性よりも有機農産物等に対する評価が高いことを指摘したものは11報あり(藤本,1996松久,2000上岡,2002大橋,2004石田・會田,2005佐藤他,2005會田他,2007西村他,2012a2012b長尾・保永,2017黒川他,2019),逆に,男性の方が高く評価することを指摘したものは見当たらなかった.男女で比較すれば,女性の方が有機農産物等を高く評価する傾向にあるようである.これは,女性の方が「環境のために,有機,無農薬,減農薬栽培といった農法は重要」(上岡,2002:p. 16)と考える傾向にあることと関係していると考えられる.

相対的に収入が高い消費者で有機農産物等に対する評価が高いことを指摘したものは14報ある(藤本,1996石田・會田,2005會田他,2007山本,2007Managi et al., 2008氏家,2010西村他,2012a2012b松岡・氏家,2015水木,2016長尾・保永,2017黒川他,2019佐々木,2021氏家・松岡,2021).逆に,収入が低いほど高く評価することを指摘したものは見当たらなかった.収入が高い消費者の方が,有機農産物等を高く評価する傾向にあるようである.これは,有機農産物等は慣行栽培によって生産されたものに比べて,一般に販売価格が高い傾向にあると考えられるが,高所得層ほど価格差を受容しやすく,有機農産物等を比較的躊躇なく購入できるため(石田・會田,2005山本,2007松岡・氏家,2015)と考えられる.

相対的に子供の人数が多い消費者,または子供がいる消費者で有機農産物等に対する評価が高いことを指摘したものは7報ある(藤本,1996佐藤他,2001合崎,2005佐藤他,2005松岡・氏家,2015佐々木,2021氏家・松岡,2021).逆に,子供との同居がない消費者の方が高く評価することを示したものは1報ある(長尾・保永,2017).子供の有無で比較すれば,子供がいる消費者の方が有機農産物等を高く評価する傾向にあるようである3.これは,有機農産物等が子供に対する「安全性の観点」(松岡・氏家,2015:p. 288)や,「将来世代の環境や,子供たちの健康に対する配慮」(佐藤他,2005:p. 251)から評価されているためと考えられる.

相対的に世帯員数が多い消費者で有機農産物等に対する評価が高いことを指摘したものは3報ある(藤井他,2001合崎,2005佐藤他,2005)一方で,相対的に世帯員数が少ない消費者の方が高く評価することを指摘したものは5報ある(北﨑,1999佐藤他,2001Managi et al., 2008西村他,2012a2012b4.ただし,西村他(2012a,2012b)は,生態系保全米に対する購買意志や支払意志額と世帯員数の関係が統計学的に有意に負となったことについて,世帯所得は制御されていることを踏まえて,「一人当たり世帯年収の高い家計ほど」(西村他,2012b:p. 209)高い評価を示した結果と解釈している.以上のように,世帯員数については,先行研究によって結果が異なっており,また世帯所得との関係も想定されるなど,有機農産物等に対する評価との関係が複雑であることが窺われる.

職業や就業形態を調査対象とした先行研究も多くみられるものの,文献によって区分が異なっており比較が困難なことから,ここでは比較的多くの研究で取り上げられていた主婦・主夫か否かに注目する.主婦・主夫で有機農産物等に対する評価が相対的に高いことを指摘したものは4報ある(峯木他,2001峯木他,2005佐藤他,2005水木,2016).逆に,主婦・主夫でない消費者の方が高く評価することを指摘したものは見当たらなかった.主婦・主夫は有機農産物等を相対的に高く評価する傾向にある可能性がある.これには,消費者運動や「産消提携」活動などが主に専業主婦によって担われてきたこと(波夛野,2004)が関係している可能性がある.

生協・消費者グループや,市民運動・消費者運動グループに参加している消費者で有機農産物等に対する評価が高いことを指摘したものは6報ある(峯木他,2001大橋,2004石田・會田,2005峯木他,2005會田他,2007山本,2007).逆に,生協・消費者グループ等に参加していない消費者の方が高く評価することを指摘したものは見当たらなかった.生協・消費者グループ等に参加している消費者は,有機農産物等を高く評価する傾向にあるようである.これには,1980年代以降に有機農産物の流通が生協において増加したこと(桝潟,2008)などが関係していると考えられる.

以上より,先行研究の分析結果を整理した結果,有機農産物等に対する評価が高いことが指摘されている消費者属性は,①相対的に年齢が高い,②女性,③高収入,④子供がいる,⑤主婦・主夫,⑥生協・消費者グループ等に参加している層であることが明らかになった.また,使用されたデータの調査年からみる限り,こうした傾向に明瞭な経年的変化はみて取れない.したがって,こうした属性を有する消費者が,有機農産物等を高く評価する消費者層ということになろう.しかし,ここで注意しなければならないのは,この消費者層は,こうした属性を有する単一のグループなのか,という点である.なぜなら,有機農産物等の消費者層には,複数のセグメントが存在し,それら多様なセグメント全体の平均像が,上述の①~⑥の属性として観察されている可能性があるからである.そこで次節では,有機農産物等を高く評価する消費者層のセグメント間における人口統計変数の違いを検討する.

(2) 消費者層のセグメンテーション

松久(2000)磯島(2006)谷口(2016)によって,有機農産物等の消費者層のセグメンテーションが行われている.具体的には,松久(2000)は,東京23区内を対象に実施したアンケート調査に基づき,食物,料理に関する消費者意識によるクラスター分析を適用した.その結果,サンプル全体が計9つのグループに区分され,そのうち「料理に使う野菜が減農薬,無農薬栽培のものかどうか気になる」程度が高い層は4つのグループに分けられた.磯島(2006)は,いわて生協組合員を対象に実施したアンケート調査に基づき,食と農産物購入に関するライフスタイルについての回答によるクラスター分析を行った.その結果,サンプルは3つのグループに区分され,そのうち減農薬栽培または特別栽培の米,ホウレンソウ,またはリンゴを「よく購入する」割合が高いグループが2つみられた.谷口(2016)は,全国を対象とするWebアンケート調査及び有機野菜を含む食材の戸別宅配の会員を対象とするアンケート調査に基づき,各人の価値観のスコアによるクラスター分析を行い,普段食べている野菜の35%以上が有機である購買層を4つのグループに区分した.

以上の文献による,有機農産物等への評価が高い計10グループ(M1~T4)の人口統計変数を整理したのが表2である.表1に示したように多くの先行研究で分析対象とされている年齢に注目すると,M3,M4,T1,及びT2は相対的に年齢が高いグループである.また,世帯内に子供がいる割合が相対的に少なく,主婦・主夫の割合が高いというように,子供が独立した世帯の主婦という消費者像が想定される.そこで本稿では,これらのグループを1つのセグメントとして捉え,博報堂(2015)と同様に「シニア層」と呼ぶ.ただし,このうちM4,T1,及びT2は女性の割合が高い点で共通している一方で,M3は男性比率が相対的に高く,また6歳以上の児童・学生がいる世帯も一部にはみられ,「シニア層」は女性と,児童・学生の子をもつ男女のように複数のセグメントに区分される可能性もある.

表2.

有機農産物等を高く評価する消費者のセグメントと人口統計変数

文献 グループ番号1) 人口統計変数の特徴2) セグメント
松久(2000) M1(グループⅥ) 男性比率9%;平均年齢50歳;平均家族員数3.3人;6歳未満の子供のいる世帯割合14%;児童・学生がいる世帯割合20% 子育て女性層
M2(グループⅦ) 男性比率3%;平均年齢54歳;平均家族員数3.1人;6歳未満の子供のいる世帯割合9%;児童・学生がいる世帯割合36% 子育て女性層
M3(グループⅧ) 男性比率27%;平均年齢55歳;平均家族員数3.0人;6歳未満の子供のいる世帯割合8%;児童・学生がいる世帯割合23% シニア層
M4(グループⅨ) 男性比率9%;平均年齢58歳;平均家族員数2.9人;半数を50歳以上で1,2人暮らしの世帯が占める;6歳未満の子供のいる世帯割合6%;児童・学生がいる世帯割合6% シニア層
磯島(2006) I1(品質・伝統型) 40代・50代以上が多い;世帯員数が2人以下または4人以上の世帯割合が高い;子供はいない世帯と6歳以上の子供のみという世帯が多い
I2(バランス型) 30代が多い;世帯員数4人以上が多い;6歳以上の子供のみいる世帯が多い 子育て女性層
谷口(2016) T1(第1クラスター) 男性比率約10%;年齢最も高い;収入2番目に低い;フルタイムで働く割合が最も低い;主婦・主夫が最も高い;中卒・高卒者が2割程度を占める シニア層
T2(第2クラスター) 男性比率約10%;年齢2番目に高い;収入2番目に高い;フルタイムで働く割合が2番目に低い;主婦・主夫が2番目に多い;大卒者や短大・専門学校卒者が多い シニア層
T3(第3クラスター) 男性比率約10%;年齢2番目に低い;収入最も高い;乳幼児と暮らしている割合が最も高い;フルタイムで働く割合が2番目に高い;主婦・主夫割合が2番目に低い;大卒者や短大・専門学校卒者が多い 子育て女性層
T4(第4クラスター) 男性比率約30%;年齢最も低い;収入最も低い;単身世帯が最も多い;両親と同居している割合が比較的高い;フルタイムで働く割合が最も高い;主婦・主夫割合が最も低い;中卒・高卒者が2割程度占める 未婚ワーカー層

資料:各文献をもとに筆者作成.

1)グループ番号は本稿で振ったもの.カッコ内は,各文献で振られているクラスター名.

2)松久(2000)ではサンプル全体を食物,料理に関する消費者意識についての項目に基づいて9グループに分けたうち,「料理に使う野菜が減農薬,無農薬栽培のものかどうか気になる」程度が平均よりも高い4グループについて整理した.磯島(2006)ではサンプル全体を食と農産物購入に関するライフスタイル項目に基づいて3グループに分けたうち,減農薬栽培または特別栽培の米,ホウレンソウ,またはリンゴを「よく購入する」割合が高い2グループについて整理した.谷口(2016)では「普段食べている野菜の35%以上が有機」と回答したデータをSchwartz Value Survey によって測定した価値の評価スコアに基づいて4グループに分けたものについて整理した.

他方,同じく有機農産物等に対する評価が高い層の中に,年齢層が相対的に若く,かつ世帯内に子供がいる,世帯・家族員数が多い傾向にあるグループが存在することも報告されている(M1, M2, I2, T3).また,これらのうち磯島(2006)では性別が調査対象となっていないものの,M1,M2,及びT3では女性の割合が高い点が共通している.そこで本稿では,このセグメントを,「子育て女性層」と呼ぶ.

残るグループ(I1, T4)のうち,T4は男性比率が高く,加えて単身世帯や両親との同居が多く,主婦・主夫の割合が低いという特徴がみられる.こうした属性からは,女性に限定されず,未婚で子供がいない勤労者という消費者像が窺える.そこで本稿では,このグループを1つのセグメントとして「未婚ワーカー層」と呼ぶ.残るI1については,世帯員が多い世帯と少ない世帯,子供がいる世帯といない世帯がいずれも含まれており,複数のセグメントが混在している可能性がある.

以上のセグメンテーションの結果は,博報堂(2015)が女性消費者に焦点を当てて提案したターゲット候補と類似している一方,「シニア層」はシニア女性と,児童・学生の子をもつ男女のように複数のセグメントに区分される可能性も示された.また,「未婚ワーカー層」には,他セグメントよりも多くの男性が含まれる可能性も示された.

前節の整理で得られた消費者層の平均像(①相対的に年齢が高い,②女性,③高収入,④子供がいる,⑤主婦・主夫,⑥生協・消費者グループ等に参加している)と比較すると,3つのセグメントの特徴は,それぞれ部分的にしか一致しない.平均像の把握だけでは施策の対象とすべきセグメントを見誤る可能性があり,効率的・効果的な需要喚起策を検討するためには,セグメントの多様性を明らかにすることが重要であることも示されたと言えよう.

4. おわりに

先行研究を整理した結果,有機農産物等の消費者層には,「シニア層」,「子育て女性層」,及び「未婚ワーカー層」と呼ぶべき3つのセグメントがみられることが明らかになった.まず,相対的に年齢が高い「シニア層」は,有機農業運動が進展した時期に子育てを経験し(山本,2007),環境や安全性,地域の環境問題などに関心が高い(磯島,2006)ことで,有機農産物等を高く評価していると考えられる.次に,相対的に年齢が若く,世帯内に子供がいる「子育て女性層」は,子供に食べさせるものとしての安全性・健康の側面からの評価や(佐藤他,2005松岡・氏家,2015),将来世代の環境に対する配慮(佐藤他,2005)によって,有機農産物等を高く評価していると考えられる.最後に,独身の勤労者で,比較的男性も多く含まれる「未婚ワーカー層」と呼ぶべきセグメントが,有機農産物等の消費者層に含まれることも示唆された.「シニア層」には,シニア女性のみならず,児童・学生の子をもつ男女が含まれる可能性も示されており,有機農産物等を高く評価する消費者は,一般的に男性よりも女性に多いと一括りに理解されてきたが,本稿では男性を比較的多く含むセグメントの存在が示唆された.

以上のように,有機農産物等の消費者層には複数のセグメントがみられることから,効率的・効果的な需要喚起策を検討するためには,平均像の把握のみならず消費者の多様性を踏まえたセグメンテーションが重要と考えられる.さらに,上述の先行研究の指摘も踏まえながら本稿で明らかにしたセグメント同士を比較すると,それぞれ有機農産物等の異なる側面を評価していることが窺える.具体的には,「シニア層」と「子育て女性層」はともに環境負荷や安全性を評価しているが,前者が社会問題としての環境問題への対応や自身に対する安全性を主に考えているのに対し,「子育て女性層」は子供たちが生きる将来世代への環境配慮や,子供に食べさせるものとしての安全性を評価している可能性がある.加えて,「未婚ワーカー層」は,「価格より時間や手間をかけたものへの志向が強い」(博報堂,2015)とされる.

こうしたセグメントの多様性の背景には,消費者の価値観といった,人口統計変数では捉えられない要素があると考えられる.現代はマーケティング4.0「自己実現」主導型の時代と言われ(Kotler et al., 2016),消費者のニーズは多様化し,市場にも様々な嗜好が存在する.そこでは,人口統計変数のみならず,心理的変数や行動変数によるセグメンテーションも重要となる.しかし,関連する先行研究では,人口統計変数と比べて,心理的変数や行動変数に注目したものは少なく,それらの知見が整理されているとも言えない.有機農産物等の需要喚起に向けて,心理的変数や行動変数を含む多角的な視点に立った消費者セグメンテーション研究の蓄積が必要である.

さらに,本稿で明らかにしたのは消費者セグメントの現状に過ぎない.今後の需要喚起策の検討に向けては,各セグメントのボリュームや継続性のほか,消費者層のすそ野を広げる観点から,現状では有機農産物等を高く評価していない層に対する理解増進策等も検討していく必要がある.

1  具体的には,「“有機農” OR “環境保全型農” AND “消費者” AND “属性”」等のキーワードで検索したほか,収集された文献の引用文献も参考に収集した.

2  居住地は9報の文献で調査対象となっていたが,先行研究によって地域区分が異なり比較が困難なことから除外した.その他にも,学歴,食物アレルギーの有無,買物頻度,価値観等,様々な消費者属性について調査・分析されていたが,本文で述べた7属性以外の属性が調査されている文献数は,属性の分類方法にもよるものの概ね1~3報と少なかった.また,本稿でレビューの対象とした29報のうち,人口統計的変数に加えて心理的変数や行動変数(興味関心,価値観,環境配慮意識,知識,買物頻度等)も考慮したものは17報みられた.内訳は2010年以前に発表された文献18報のうち10報,2010年以降に発表された文献11報のうち7報であり,時期を問わず心理的変数や行動変数を考慮することの重要性は認識されていたと考えられる.しかし,先行研究によってこうした変数の定義や項目は大きく異なり,比較は困難であった.

3  ただし,何歳以下を子供と定義するか(18歳未満,15歳以下,12歳以下等)は先行研究によって異なる.

4  このうち北﨑(1999)は,2人世帯で,その他の区分(1人,3人,4人,5人,6人以上世帯)に比べて有機農産物・食品の購入経験がある割合や購入頻度が高いことを示した.

引用文献
 
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