Journal of Rural Problems
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Short Paper
Business Expansion and Downsizing and Its Factors in Community-Based Group Farms: Empirical Study Based on the Questionnaire in Yamaguchi Prefecture
Keishi OgawaKazuoki TakahashiMitsuyoshi Ando
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2024 Volume 60 Issue 3 Pages 111-118

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Abstract

Community-based group farms are expected to become sustainable farm businesses that preserve local farmlands and communities. It is important to explore whether these farms can meet these expectations. This study aims to identify business expansion and downsizing and its factors in community-based group farms by conducting a statistical analysis using data from a questionnaire survey of 145 farms in Yamaguchi Prefecture. We found several factors that affect farms’ orientation toward expansion or downsizing. Specifically, younger members’ participation in farm decision-making and employment of young employees significantly positively influence farms’ orientation toward expansion. However, profitability has no significant influence on farms’ orientation. Farm size and diversification negatively influence farms’ orientation toward downsizing. Population changes and non-farmers’ participation in agricultural-resource management in the farms’ located area positively affect farms’ orientation toward expansion.

1. 背景と目的

法人化した集落営農(以下,集落営農法人)は,水田の団地的利用により,小規模な家族経営と比較し高い効率性を実現し,また,集落内の多数の農家による共同経営体として,比較的潤沢な人的資源を確保してきた.しかし,主食用米の需要・価格低下に伴い,基幹的な事業である水田作の収益性が低下しており,また,高齢化や人口減少,定年延長及び再雇用の促進に伴って,後継者や労働力の確保が困難となるなど,課題に直面している.こうした厳しい経営環境への対応として,新たな品目・事業の導入や,人材確保に向けた取り組み,近隣組織との合併,法人形態の変更など,多様な経営展開が検討されている.一方で,こうした取り組みが進まない組織は,存続が困難となる可能性がある.したがって,多様な経営展開の実態や将来展望を捉えることで,集落営農法人の現状理解や課題の把握,支援施策の検討を進めることが重要であると考えられる.

集落営農の動向については,農林業センサスや集落営農実態調査等の刊行統計から,水田農業における位置付けや地域別の経営資源の集積など,一定の現状把握が可能となっている(鈴村,2019).しかし,これらから集落営農法人による環境対応や経営展開の将来像を見通すことは難しい.将来展望を捉えるには,刊行統計とは別に定量的な調査・分析を行い,法人の将来意向やその背景を把握する必要がある.

既往研究においては,集落営農法人の役員を対象としたアンケート調査をもとに,事業や地域貢献活動,専従者雇用について,多様な実態が明らかにされている.久保(2013)は,事業と後継者確保の特徴に基づいて集落営農法人を類型化し,各類型における後継者確保の方策について整理している.井上(2019)小川・八木(2020)は,作目や農業関連事業から事業選択の類型を示すとともに,事業選択の要因を明らかにしている.井上他(2016)竹山・山本(2013)は,地域貢献活動の実施状況について実態を示している.しかし,集落営農法人による経営展開の動向について,法人の意向や将来展望から定量的な実態把握を試みた研究は見られない.

そこで本研究は,集落営農法人の経営展開に関する意向(以下,経営展開意向)と,それを規定する組織的・地域的な要因(以下,規定要因)について定量的に分析することで,今後の経営展開の見通しを示し,適切な支援のあり方について考察することを目的とする.

2. 方法

(1) 対象の選定と分析手順

国内の集落営農の多くが今後直面する状況を先取りする地域として,山口県を対象に選定した.後に示す通り,山口県は集落営農の法人化の先進地域であり,国の施策に沿った集落営農の展開を展望するのに適切である.また,零細規模の法人が多く,水稲作の収益性低下の影響を受けやすい.さらに,高齢化が進行しており,労力不足が深刻化している.

分析手順としては,第一に,定量的に実態を把握するため,山口県内の集落営農法人の役員を対象としたアンケート調査結果と,法人の立地集落に関する刊行統計の調査結果をもとにデータセットを作成し,これを分析に用いた(表1).第二に,経営展開意向の実態を明らかにするために,アンケート回答結果の単純集計を確認した.第三に,経営展開意向の規定要因を明らかにするために,経営展開意向とその規定要因と考えられる経営内外の条件を表す分析指標を作成し,前者を被説明変数,後者を説明変数とするロジスティック回帰分析を行うことで,両者の関係性について統計的に推定した.

表1.

経営展開意向の指標

分析項目 分析指標 アンケート回答項目 回答数
10年後の経営展開 3水準の名義尺度(経営の拡大,現状維持,経営の縮小) 経営の拡大 32
現状維持 84
経営の縮小 29
合計 145
株式会社への変更意向 株式会社化に関心があることを示すダミー変数 株式会社化済み 9
検討中 6
予定はないが関心ある 44
必要なし 24
わからない 7
合計 90

資料:アンケート調査回答をもとに作成

1)株式会社への変更意向は,10年後の経営展開について拡大または現状維持と回答した法人のみ回答.

(2) 分析枠組みと分析指標

まず,本稿の分析枠組みについて説明する.本稿では経営展開意向を,法人役員による現状に基づいた法人の将来に関する意思決定と捉えた.また,その意思決定は,現在の社会経済環境のもとで,法人組織内部と,立地する地域の現状をもとに,行われるものと想定した(図1).

図1.

分析枠組み

次に,経営展開意向の分析指標について説明する.集落営農法人においては,農地集積の一層の進展や,新たな品目・事業の導入など,経営の拡大が期待されている.一方で,収益性の低下や後継者・労力の不足に対応できず,経営の縮小を余儀なくされる法人も想定される.こうした実態を広く捉え,集落営農の将来展望を把握することが,適切な支援の検討に必要と考える.そこで第一に,経営展開意向を捉える指標として,10年後の経営展開(経営の拡大,現状維持,経営の縮小)を分析指標とした1.また,不確実性が大きい現代社会において,株式会社へ組織変更を行い,迅速な経営判断や,人材不足を補うための専従者雇用,農外事業の実施を進めることが対応策の一つとして注目されており,その動向や支援施策の検討もまた重要な課題である.そこで第二に,株式会社化の意向についても分析指標とした.

経営展開意向の規定要因は,集落営農法人の事業選択や地域貢献活動の要因を分析した既往研究を参考に,集落営農法人の組織条件と立地地域の条件(以下,地域条件)に関する指標を設定した.組織条件については,経営面積規模や専従者の確保,従事者の年齢層等の経営資源が検討されており,事業選択や地域貢献活動との関連が示されている(井上,2019小川・八木,2020久保,2013など).また,雇用や新たな事業拡大の条件として,収益性や多角化の状況も重要である(小川,2023).将来的な経営展開の判断も,これらの組織条件を考慮してなされていると想定できる.したがって,アンケート調査結果をもとに,面積規模,若手役員の確保,若手専従者雇用,従事者高齢化,収益性,多角化に関する分析指標を作成した2(表2).

表2.

経営展開の規定要因

分析指標 定義 平均 最小 最大
組織条件 面積規模 経営耕地面積(ha) 29.5 3.1 203
若手役員の確保 60歳未満の役員数(人) 0.7 0 4
若手専従者雇用 50歳未満の常雇有無 0.2 0 1
従事者高齢化 70歳以上従事者の割合 0.5 0 0.9
収益性 10aあたりの総収入(万円) 11.9 3.9 28.4
多角化 売上に占める水稲以外の売上の割合 0.28 0 0.9
地域条件 田の傾斜 田の傾斜(平坦地=0,傾斜地=1) 0.32 0 1
人口増減_若手世代 20~59歳の人口増減率(R2からR12の推定値) −0.22 −1.00 0.91
人口増減_高齢世代 60~74歳の人口増減率(R2からR12の推定値) −0.36 −0.88 0.5
多面支払の実施 多面的機能支払(あり=1,なし=0) 0.96 0 1
多面支払非農家参加 多面的機能支払への非農家団体の参加(あり=1,なし=0) 0.71 0 1

資料:アンケート調査回答および刊行統計の整理をもとに作成.

1)田の傾斜は,2005年の農林業センサスの調査結果をもとにしたものであり,団地としての地形上の主傾斜について,傾斜度が1/100未満を平坦地,1/100以上を傾斜地と定義するものである.

2)人口増減率は,国勢調査の男女別年齢別人口の2020年および2030年の推計値を用いて計算した.

地域条件については,平地と中山間地に立地する法人間において,事業選択や地域貢献活動が異なることが示されている(井上他,2016小川・八木,2020竹山・山本,2013).これは,基幹的な事業である水田作の効率性の差異に起因した農外の事業や活動のニーズの差異を反映していると見られ,当然,将来的な経営展開の判断にも影響すると想定される.また,地域の人口減少は,地域の共同資源管理や集落営農における後継者や労力の確保への影響から,法人の経営展開意向を左右すると想定される.さらに,多面的機能支払組織との連携や,共同組織を通じた非農家の資源管理参加は,集落営農法人の活動や成果に影響を及ぼしており(中村・角田,2018),地域の状況に応じて,法人に求められる対応も異なると想定される.そこで,経営展開意向に影響する地域条件として,田の傾斜,若年人口の増減率,高齢人口の増減率,多面支払の実施有無,多面支払への非農家参加を表す分析指標を設定した3

(3) データ

アンケート調査は,2021年に山口県農林水産部及びJA山口県により,県内の集落営農法人を対象として実施された.配布数は238,回収数は206(回収率87%)である.そのうち,分析に必要な項目に欠損のない145を分析に用いた.

法人の立地集落に関するデータは,アンケート回答結果ではなく,法人の所在地住所から立地する農業集落を特定したのち,農林水産省「地域の農業を見て・知って・活かすDB」(以下,DB)より,農業集落単位に集計された刊行統計(農林業センサス,国勢調査,多面的機能支払交付金)の結果を結合し,整理した.法人の立地集落は,法人の所在地住所を緯度経度情報に変換したのち,GIS上にプロットし,DBから得た集落境界データと重ね合わせることで特定した4(図2).田代(2019)が指摘する通り,西高東低の集落営農法人の分布が確認できる.

図2.

山口県の農業集落境界と対象法人

資料:農業集落境界データ及び法人の所在地より作成.

1)上図の作成にはQGISを用いた.

(4) 対象地域における集落営農の位置付けと課題

山口県において集落営農は,県内の経営耕地面積25,150haのうち,約1/4の6,460haを集積している.法人化率は全国で2番目に高い71%であり,人・農地プランの中心経営体として位置付けられている割合が86%と高い.以上より,担い手不在の地域において,経営体として,農地を集積・保全する役割を果たしている.一方で,集落営農1組織あたりの面積と構成戸数は小さく,規模の零細性が課題である.また,県内の基幹的農業従事者の平均年齢が72.3歳と高く(全国平均67.8歳),農業者従事者の高齢化への対応も課題である5

3. 結果

(1) 経営展開意向の実態

分析対象とした145法人の経営展開意向について,表2に加え,10年後の経営展開意向における具体的な取り組みを表3に整理した.

表3.

10年後の経営展開と方法

経営展開と方法 回答数
経営の拡大 32
 面積拡大 26
 複合化 10
 多角化 8
現状維持 84
経営の縮小 29
 品目・事業部門削減 7
 近隣へ作業委託 10
 経営委譲 9
 解散 13
合計 145

資料:アンケート回答をもとに作成

1)拡大,縮小の方法は複数回答可の質問を用いた.

10年後の経営展開意向については,「経営の拡大」と「経営の縮小」と回答した法人がそれぞれ32法人,29法人と全体の約2割あり,残りの約6割の84法人が現状維持としている.経営の拡大と回答した32法人のうち,約8割の26法人は経営面積の拡大を行うと回答している.複合化と多角化については,それぞれ10法人,8法人であった.経営の縮小と回答した29法人のうち,最も多い縮小の取り組みは「組織の解散」であり,半数近くの13法人が回答している.ほか「近隣への作業委託」「経営の委譲」「品目や事業部門の削減」が続く.

株式会社化の意向については,推計の対象とした74法人のうち,「予定ないが関心あり」が最も多く半数以上の44法人,「必要なし」が次に多く約3割の24法人,「検討中」は6法人のみであった.

(2) 10年後の経営展開意向の規定要因

10年後の経営展開意向とその規定要因との関連について,多項ロジスティック回帰分析により統計的に推計した.推計により得られた各変数の標準化偏回帰係数の推定値を表4に示した.推定値の正負は現状維持に対する影響の方向,数値の大きさは相対的な影響の大きさを表している.モデル適合度は良好であり,VIFにより多重共線性を検討したところ,全ての説明変数において5未満であったため,多重共線性が生じている可能性は低いと判断した.

表4.

10年後の経営展開意向の規定要因に関する多項ロジスティック回帰分析の推計結果

被説明変数(参照:現状維持) 拡大 縮小
切片 −15.882* 1.207*
組織条件 面積規模 −0.037 −1.264*
若手役員の確保 0.559* 0.060
若手専従者雇用 1.607* 0.450
従事者高齢化 −0.183 0.391
収益性 −0.081 −0.127
多角化 −0.111 −0.696*
地域条件 田の傾斜 −0.336 −0.291
人口増減_若手世代 −0.452+ −0.134
人口増減_高齢世代 0.145 0.747*
多面支払の実施 −2.992*
多面支払非農家参加 1.241* 1.062

1)表中の数字は標準化係数.

2)+:p<0.1,*:p<0.05.

3)モデル適合度はχ2(22)=221.1,p<0.01で良好.

4)拡大意向かつ多面支払の実施がない法人が存在しないため,拡大列の該当欄は空欄である.

組織条件の変数のうち,面積規模の係数は,経営の縮小に対して負に有意であり,これは,規模が小さい法人ほど現状維持に対し縮小意向が持たれやすいことを示している.若手役員の確保および若手専従者の雇用の係数は,経営の拡大に対して正に有意であり,これは,定年前世代の役員や若い専従者を確保している法人ほど,経営の拡大意向を持つことを示している.従事者の高齢化および収益性の係数は,経営の拡大,縮小のいずれにも有意な係数がなく,経営展開意向と明確な関係は見られない.多角化の係数は経営の縮小に対して負に有意であり,多角化が進んでおらず水田作への依存度が高い法人ほど縮小意向をもつことを示している.

地域条件の変数のうち,田の傾斜の係数は経営の拡大,縮小のいずれにも有意な係数がなく,経営展開意向との明確な関係は見られない.集落の若手人口増減の係数は,経営の拡大に対して負に有意であり,これは,立地集落の60歳未満の成人人口減少率が大きい法人ほど,拡大意向をもつ傾向があることを示している.集落の高齢人口の増減率の係数は,経営の縮小に対して正に有意であり,立地集落における60歳から74歳の人口が維持される法人ほど,縮小意向をもつ傾向があることを示している.多面支払の実施有無の係数は,経営の縮小に対して負に有意であり,これは,多面機能支払の実施がない集落に立地する法人において縮小意向が取られやすいことを示している.多面支払への非農家参加の係数は,経営の拡大に対して正に有意であり,多面機能支払の協定に非農家が参加する地域の法人において,拡大意向が取られやすいことを示している.

(3) 法人形態変更意向の規定要因

株式会社化に関する意向とその規定要因との関連について,ロジスティック回帰分析により推計した(表5).モデル適合度は良好であり,VIFにより多重共線性の可能性を検討したところ,全ての説明変数において5未満であり,多重共線性が生じている可能性は低いと判断した.

表5.

株式会社化意向の規定要因に関するロジスティック回帰分析の推計結果

切片 1.551*
組織条件 経営の拡大意向 0.629
面積規模 1.456
若手役員の確保 −0.856*
若手専従者雇用 0.486
従事者高齢化 −0.279
収益性 0.286
多角化 −0.894
地域条件 田の傾斜 0.276
人口増減_若手世代 0.350
人口増減_高齢世代 1.021*
多面支払の実施 0.411
多面支払非農家参加 0.693*

1)表中の数字は標準化係数.

2)*:p<0.05.

3)モデル適合度はχ2(12)=29.2,p<0.01で良好.

組織条件のうち,若手役員の確保と多角化の係数が負に有意であった.これは,若手役員が確保された法人や多角化が進展している法人において株式会社化の意向が小さいことを示している.経営の拡大意向,面積規模,若手専従者雇用,従事者高齢化,収益性の係数は有意でなく,株式会社化の意向と明確な関連は見られない.

地域条件のうち,集落の高齢人口増減と多面支払非農家参加の係数は正に有意であった.これは,集落の高齢人口が維持されている,また,集落の多面支払に非農家が参加している法人において,株式会社化の意向をもつ傾向があることを示している.

4. 考察

(1) 経営展開意向の実態

10年後の経営展開について,多様な意向が確認された.山口県では2000年代より継続的に集落営農法人が増加しており(田代,2019),設立から一定年数が経過した法人が増加する中で,その経営展開が今後多様化していくと見られる.他地域においても,法人化が進む中で多様な経営展開意向が示されると見られ,画一的な政策的支援が受け入れられにくい状況が進展すると見られる.そこで,今後の支援施策としては,多様な経営展開に対応するために,法人の意向や課題を個別に把握し対応する支援や,法人自らが経営課題の解決に取り組む組織能力を高める支援が重要と考えられる.

また,法人化が進展する一方,高齢化や水稲作の収益性低下の影響が強く現れる山口県において,縮小や解散の意向をもつ法人が一定数見られたことから,現状の社会経済環境の変化は,集落営農法人の存続を困難とする厳しいものであり,今後全国的に集落営農法人の縮小・解散事例が増加することが懸念される.山口県をはじめ縮小や解散意向をもつ法人が見られる地域において,その動向を確認し,地域農業への影響を検討する必要があると考えられる.

株式会社化の意向については,対象とした法人のうち,半数以上において関心が見られた.農事組合法人の形態では,現状の社会経済環境への対応が困難であると認識されている可能性が示唆される.一方で,実際に株式会社化を検討している法人は限られ,現実的な取り組みとしての検討は進んでいない状況が伺える.また,必要ないとする法人も見られたことから,農事組合法人にも法人形態として一定の優位性・合理性が存在することが示唆される.

(2) 10年後の経営展開意向の規定要因

経営展開意向の規定要因について,推計結果より考察する.経営の拡大意向の規定要因について,第一に,若い世代の組織参加や雇用が進む法人ほど,経営の拡大意向をもつ傾向が見られた.山口県では,高齢化が進む中で,積極的な経営展開を進める上で,若い世代の人的資源としての重要性が高まっていることと,若い世代の組織参加や雇用を維持するために積極的な事業展開が要請されることを反映していると推察される.例えば,山口県の集落営農法人を対象とした事例分析として,労力不足への対応として,若手後継者を集落外から雇用する合意形成がなされる実態(久保,2016)や,労力不足を補うために雇用した若手専従者の労賃確保のために,多角化に積極的に取り組む実態が示されている(小川,2023).

第二に,面積規模や収益性といった経営展開を進める上で必要な経営資源の充足と経営の拡大意向との間には明確な関係は見られなかった.これは,積極的な経営展開は,物的な資源を充足するだけでは進展せず,後継者のノウハウや意欲を高める対策(久保,2013)や,組織の理念やガバナンスの整備(小川,2023高橋・久保,2017)等のソフト面の要因が重要であることを示唆していると考えられる.

第三に,若手人口の減少率が大きい地域の法人で拡大意向をもつ傾向が見られた.地域内の若年人口が減少することに対する高い危機感が,積極的な経営展開に結びついていると見られる.実際に山口県において,人口減少により集落住民による法人維持が困難となる,との判断から,若手後継者を雇用し事業拡大を進めている例が示されている(小川,2023).逆に,地域内に若手人口が維持される法人は,現状維持に留まる傾向がある可能性が考えられる.

第四に,多面的機能支払へ非農家団体が参加する地域の法人で拡大意向をもつ傾向が見られた.これは,労力不足や収益性低下に直面する中で,非農家による共同資源管理作業が,集落営農の作業負担を補完する効果(八木・芦田,2012)が発揮されているためと推察される.また,小川・八木(2020)が示唆するように,非農家を含めた多様な主体が地域農業や集落営農に関わることが,集落営農の組織発展に重要であることを示しているとも考えられる.

経営の縮小意向の規定要因については,第一に,面積規模が小さいほど縮小意向をもつ傾向が見られたことから,集落営農法人の存続には,一定の面積規模が必要であることが示唆される.実際に山口県において,小規模な法人ほど労力不足に直面し,かつ労賃確保が困難である実態が示されている(田代,2019).規模が小さい集落営農においては,組織存続のために,組織の再編や合併など,一定の面積規模が確保されるような対策を進めることが急務である.

第二に,多角化が進展していないほど縮小意向をもつ傾向が見られたことから,水稲部門の収益悪化による経済的な持続性の低下(鈴木・角田,2016)が,労賃支払いや機械更新の困難化により,法人の縮小や解散に結びつく可能性が示唆される.対象のうち,売上における水稲部門の比率が90%以上の法人が全体の28%あり,これらの法人は存続のために,水稲部門以外の事業部門を拡大する必要性が高いと見られる.あるいは,多角化事業に取り組むための人材や意欲の不足が生じている可能性がある.経営基盤を強化するための事業拡大支援とともに,長期的な視点から法人の将来像を検討する若手の参加や,法人の理念,あるいは組織能力を向上させる等のソフト面の支援の重要性がこの点からも指摘できる.

第三に,地域の高齢人口が維持される法人ほど,縮小意向をもつ傾向が見られ,集落営農の従事者として主力となる世代の人口が10年後も維持される地域の法人ほど,縮小意向が多いことが示された.これは,企業における定年延長や再雇用の進展により,この世代が集落営農法人の参加意欲が低く,組織の活力低下を招いている可能性を示唆している.

第四に,多面的機能支払の実施がない地域の法人において,縮小意向をもつ傾向が見られたことは,共同資源管理組織が,法人の存続にとって重要であることを示唆している.この背景として,中村・角田(2018)が指摘する,多面的機能支払いの組織と集落営農法人との緊密な連携が生産コストの削減につながる可能性が考えられる.

(3) 法人形態変更意向の規定要因

株式会社化の意向の規定要因について,第一に,若手役員が少なく,多角化が進展していない法人ほど株式会社化への意向をもつ傾向があることが示された.これは,労力不足への対応として地域外からの人材確保や,新しい事業導入のニーズが高い法人ほど,株式会社化への関心を持つことを示していると考えられる.反対に,後継者となる人材や水稲作以外の収益源が十分に確保されている法人においては,株式会社化する意向は高くないと見られる.実際に,若手後継者を雇用し多角化を進める農事組合法人が示されている(小川,2023).したがって,組織形態を変更する際に必要となる合意形成コストを考慮すると,株式会社への関心を有する農事組合法人が実際に組織形態変更を検討する可能性は,現時点ではそれほど高くないと見られる.重要なことは,組織形態に関わらず,必要な人材の確保や事業拡大をいかに進めるか,という点であると考えられる.

第二に,高齢人口が維持される見込みの地域や,多面支払へ非農家の参加がある地域の法人で,株式会社化の意向がある傾向が見られた.この背景については,参考になる既往の報告や実態が管見の限り見られず,事例分析による実態解明が必要と考える.

5. 結論

本研究は,厳しい社会環境への対応が迫られる集落営農法人を対象に,経営展開意向に関する実態とその規定要因をもとに,将来の経営展開の展望を示し,適切な支援策を検討することを試みた.対象として,法人化が進む一方,高齢化や水稲作の収益性低下の影響を強く受けると考えられる山口県の集落営農法人を選定し,アンケート調査結果をもとに,10年後の経営の拡大・維持・縮小の意向と,株式会社化への意向の実態整理と,組織と地域の条件が経営展開意向に及ぼす影響を定量的な推計を行った.

経営展開意向の実態については,対象とした法人の約2割で縮小や解散が現実的な選択肢の1つとして検討されており,対策が急務であることや,農事組合法人から株式会社への法人形態変更には多くの関心が寄せられているものの,現実的な選択肢としての検討は進んでいないことが明らかになった.

経営展開意向の規定要因の分析からは,第一に,組織発展のためには若い人材の組織参加や雇用が重要であること,第二に,縮小や解散を避け,組織が存続するためには,一定の面積規模の確保や,水稲作以外の事業を導入するなど,経営基盤の強化に向けた対策が重要であること,第三に,立地集落の人口や多面的機能支払の状況が集落営農の経営展開に影響することが明らかになった.

また,本稿の貢献として,定量的な分析結果に基づく考察に加え,アンケート結果と刊行統計との結合により,経営的・地域的要因を同時に,かつ多角的に含めた分析が可能となることを示した.

今後の課題としては,より長期的に経営展開を捉え,より精度の高い規定要因の解明を行うことや,地域の人口減少が集落営農の将来展開に及ぼす影響について,実態調査を通じて,地域の資源管理への影響や,組織のガバナンスへの影響など,そのメカニズムを明らかにすることが必要である.また,集落営農が政策的に推進され,その展開に地域差が存在する(安藤,2008)ことを踏まえれば,山口県以外の府県における定量的な実態把握を行い,本研究で得られた知見の一般化可能性の検討や,地域間の比較検討を行う必要があると考えられる.

1  10年後の経営展開意向について,回答の実現可能性と妥当性を確認するため,経営の拡大及び経営の縮小と回答した法人について,それぞれ2件ずつ聞き取り調査を行なった.その結果,経営の拡大あるいは縮小に向けた具体的な取り組みや実態を確認することができた.詳細は,小川(2023)を参照.

2  若手役員及び高齢従事者の年齢区分については,近年の定年延長や高齢化の影響を踏まえ,定年前の65歳及び,75歳以上の区分が適当と思われる.しかし,アンケートでは回答負担の軽減のため,60代,70代等の10歳区切りで調査を行なったため,表2の通り,60歳及び70歳での区分としている.

3  人口増減率の分析指標は,若年人口と高齢人口とで,人口減少による影響が異なると想定し,2つの指標を設定した.

4  1つの集落営農法人に対し,所在地のある1集落を対応させているため,複数集落に展開する集落営農法人の地域条件については,正しく反映できていない可能性がある.

5  対象地域の概要について,2020年時点の統計資料を整理した.

引用文献
 
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