Journal of Rural Problems
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Short Paper
Collaboration and Complementary Relationships between Large Farms and New Entrants to Spread Organic Agriculture: Case of Tsukuba City, Ibaraki Prefecture
Fumiaki YokoyamaKeishi OgawaMasaya Nakatsuka
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2024 Volume 60 Issue 4 Pages 141-149

Details
Abstract

The purpose of this study was to assess the effectiveness of collaboration and to shed light on the real state of cooperation between large farms and new entrants to organic farming. We conducted a case study on a large organic farm that collaborates with several neighboring farms as well as a new entrant in organic farming that had been collaborating with a large farm in Tsukuba for several years. To collect shared data, we conducted an interview survey with farm managers. Large organic farms buy organic vegetables from new entrants and sell them through their own distribution channels, which is beneficial for large farms as it can ensure sufficient supply to maintain ongoing relationship with buyers. This collaboration is also beneficial for new entrants as they can achieve consistent sales without the hassle of finding buyers, allowing them to focus on acquiring expertise in cultivation and business management.

1. はじめに

持続可能な食料システムの構築に向け,「みどりの食料システム戦略」が策定されるなど,有機農業の拡大は今や政策的な課題である.農水省の調べによると新規就農者のうち2~3割は有機農業に取り組むとされ,なかでも今後の担い手として,農外から新規参入者への期待は大きい.

しかし,新規参入者は,栽培技術習得や販路確保の面から問題を有しており,近隣農家や公的機関等による地域的な支援体制の整備が課題となっている(高津,2007濱村,2015).実際,有機農業者グループや,企業参入をはじめ有機農業の大規模経営体のある地域では,全体として有機農業への取り組み割合が高く(胡,2015),有機農業者のネットワークが形成されている地域では,新規参入者の定着が促進されていることが指摘されている(安江・下口,2018).これは,有機農業に先行して取り組む農家や法人との連携が,有機農業の新規参入者の定着に結びつく要因となることを示唆している.また,有機専業農家が,新規参入した小規模有機農家の家族を雇用することで,専業農家は不足する労働力の確保が可能となり,新規参入者は生活の安定化が実現できるといった,相互補完的な関係性も指摘されている(相川,2013藤田・波夛野,2017).このように先行する農家や法人と新規参入者との地域的な連携は,双方の経営の課題解決や発展に繋がる可能性がある.

一方,慣行栽培においては,大規模経営が新規参入者への支援や連携に取り組む実態と効果が示されている.具体的には,澤田(2015)は大規模農業法人での研修を経て独立就農した,新規参入者の経営展開の特徴と定着要因に注目し,大規模法人による就農前後の支援により,新規参入者が技術の早期取得,生産部門への特化,大規模法人を通じたネットワークによるつながりといったメリットを受けること,大規模法人も生産体制の強化,販売量の拡大,生産者の確保・仲間づくりといったメリットを受けている実態を明らかにしている.また,新規参入者にとって契約生産の義務化により経営の自立性が低下することや,大規模法人の経営業績に販売高が影響を受けること,大規模法人にとっては就農者の育成・指導にコストが発生することなど,デメリットも指摘されている.一方で,管見の限り,有機農業に取り組む大規模農業法人と新規参入者との連携に関する実態は十分に明らかにされていない.

そこで本研究では,生産・販売両面において特有の課題(濱村,2015)を有する有機農業1における,大規模農業法人と新規参入者2の連携・補完の実態について,その関係性を継続してきた事例から明らかにし,両者の有効な連携・補完関係やその成立条件を解明することを目的とする.なお,本稿では,連携・補完関係に着目し事例選定を行ったが,大規模農業法人と小規模農家の取引関係は,支配・従属的な関係を招くことも指摘されており(C・J・フィッツモーリス,B・J・ガロー,2018),その点にも留意しながら分析,考察を進めることとした.

2. 研究の方法

本研究では,有機農業での独立就農を希望している就農者の研修を受け入れている大規模有機農家と,独立を果たした新規参入者の連携・補完関係を分析対象とする.

具体的に対象としたのは,茨城県つくば市で有機農業に取り組む農地所有適格法人である株式会社H(以下,法人H)と,法人Hでの研修を経て独立し,現在,法人Hと連携関係にある新規参入者(以下,有機農家T)である.法人Hは,有機農業生産を主な事業とし3,全国でも有数の栽培規模及び売上規模を有する大規模経営体である.事業開始した初期から20年以上にわたり,有機農業者との連携や,地域の有機農業での新規参入者への支援を行っており,これまで10件ほどの新規参入者と連携を行ってきている.

有機農家Tは,法人Hから,研修を経て独立し,その後,連携関係にある農家として紹介を受けた.法人Hと連携関係にある新規参入者のうち,法人Hとの関係がとくに深い農家であるため,有機農家Tと法人Hの取組に焦点を当てて分析を進める.

調査は2023年8月から10月にかけて法人Hの代表であるK氏と,有機農家Tの代表T氏への対面での聞き取り調査を,それぞれ個別に行った.手順としては,まず,法人Hに対して,有機農家T以外の農家を含む新規参入者との連携内容とその評価について聞き取りを行い,その後,連携内容に対する評価について有機農家Tへ聞き取りを行った.聞き取り調査は,半構造化インタビューにより1回,3時間程度で実施した.加えて,T氏に対しては電話での補足調査を2回実施した.

3. 事例調査結果

(1) 事例の概要

調査事例の概要を表1に整理した.法人Hは,現代表のK氏が1998年に農業に参入し,2007年に法人化して設立された.参入当初から現在まで,ベビーリーフを主な生産品目とし,現在は総売上に占める販売高構成比は8割であり,露地ならびに施設で栽培している.全圃場の約10%で有機JAS認証を取得しており,その他の圃場も特別栽培基準に準拠した栽培を行っている.農業生産のほか,周辺農家から有機農産物を買取り,自社販路にて販売する事業や,有機農産物の袋詰め加工を事業として実施している.主な販売先は量販店である.また,関連会社として,農産物の輸送を行う物流事業を行っている.全体の年間販売高は2023年3月期の実績で10億7,500万円である.

表1.

調査事例の概要

法人H 有機農家T
代表者(年齢) K氏(57歳) T氏(38歳)
事業開始年度 1998年 2018年
経営耕地面積 露地60 ha,ハウス17 ha 露地5.5 ha
主な栽培品目 ベビーリーフ,葉物野菜,ハーブ ツルムラサキ,ほうれん草,スティックブロッコリー,人参など18品目
栽培方法とその割合 有機JAS規格(全圃場の10%)
特別栽培基準(全圃場の90%)
有機JAS規格(全圃場)
従業員数 社員50名
アルバイト・パート120名
妻,社員1名,技能実習生2名,アルバイト・パート2名
販売高(年間) 10.75億円(2023年3月) 2,500万円(2023年3月)
主な販売先 量販店80%,生協,宅配会社等 卸売業者60%,法人H30%,食品スーパー,宅配

資料:法人HのK氏ならびに有機農家TのT氏への聞き取り調査より筆者作成(2023年10月時点の情報).

参入当初から安定的に販路を確保したが,これはK氏が就農以前の知り合いより紹介を受けた青果物商社との間で,ベビーリーフの契約栽培取引を結ぶことができた点に起因する.その後,規模拡大を進める中で,2017年に更なる需要拡大を見越し,加工場や倉庫の拡張等に5億円の設備投資を行った.しかしながら,ベビーリーフの需要低迷により売上が横ばいとなり,2017年から2022年には赤字を計上したが,この間,同時に経営改善を行い,2023年度は黒字化の見込みである.法人Hによる新規参入者との連携は,当初は,量販店等との継続取引において必要な有機農産物の供給量の確保と,自身と同じ有機農業への新規参入者を支援したい,というK氏の個人的な想いから開始された.その後,法人Hの事業展開や経営改善に伴い形態を変えつつも現在まで継続されている.

有機農家Tは,代表であるT氏が2018年8月に独立し立ち上げた.T氏は農業高校および農業大学校を卒業後,複数の農業法人で計9年間勤務した後,法人Hで2年間研修を受け独立した4.現在では5.5 haの農地で18品目の有機野菜を栽培している.最近1~2年で新たに借り受けた農地を除き,全ての圃場で有機JASの認証を取得している.2023年3月期の販売高は2,500万円である.販売先として,法人Hが33%を占めているが,法人Hとの連携・補完関係を端緒に,栽培技術・栽培管理のノウハウを蓄積することで,独自に販路の開拓も進めている.

(2) 法人Hの新規参入者との連携実態

法人Hと新規参入者との連携内容について,K氏への聞き取り結果をもとに,技術講習,研修,資材共同購入,買取販売,集出荷施設の貸出し,加工・パッキング施設の貸出し・作業代行,ネットワークの構築,情報提供・助言の8項目に整理した(表2).

表2.

法人Hの新規参入者との連携内容

連携事項 開始時期 実施状況 内容
技術講習 1999年 2006年終了 新規参入者の軒先に出向き技術講習を実施.
研修 2006年 継続 法人Hで希望者を受け入れ,栽培技術,販売管理,品質管理についてOJTを通じた研修を実施.期間は1年~3年.
資材共同購入 1999年 2005年
終了
肥料や資材などの共同購入.必要量の取りまとめや発注等の業務は法人Hが無償で行う.
買取販売 1999年 2017年に取引条件を変更し継続 (変更前)新規参入者の有機野菜を買上げ自社の販路で販売.新規参入者から持ち込まれる農産物は全量買取.有機野菜は各農家のロゴを付けて販売可能.運搬が困難な場合,法人Hが各農家の軒先へ収集に回る.販売手数料は20%に設定.買取った農産物の袋詰め・取引先への出荷は法人Hが実施.袋代5円/袋,袋詰め手間賃25円/袋,物流費15%は法人Hが負担.
(変更後)事前に取り決めた品目と出荷量を買い取るが新規参入者の収穫量に応じて出荷量は任意に調整が可能.各農家の軒先への収集は廃止.販売手数料を35%へ変更.袋代,袋詰め手間賃,物流費は継続して法人Hが負担.
集出荷施設の貸出し 2015年 継続 集出荷施設として法人Hの倉庫を有償で貸出し(倉庫使用料は物流費15%に含む).
加工・パッキング施設の貸出し・作業代行 2017年 継続 加工・パッキング施設の有償貸出し.希望する農家へ有機野菜の加工・袋詰め作業を1パックあたり25円で作業受託.
ネットワークの構築 1999年 継続 法人Hと取引のある地域の有機農業者や有機農業の技術指導員を無償で紹介.
情報提供・助言 1999年 継続 無償で,量販店など流通小売の需要動向や,新品目の要望などを新規参入者に伝える.作付品目選定の助言も無償で実施.

資料:法人HのK氏への聞き取り調査より筆者作成(2023年8月時点の情報).

技術講習は,K氏が農業に参入して2年目の1999年より,新規参入者や近隣の慣行農家に向けて開始された.これは,K氏が各農家の軒先へ訪問し,有機ベビーリーフの栽培方法について指導を行うものであった.現在では,技術講習は終了し,代わりに自社での研修生の受け入れを行っている.法人Hで就農希望者を1年から3年間受け入れ,栽培技術,販売管理,品質管理についてOJTでの研修を実施している.これまでT氏を含め,10件の研修生を受け入れた実績がある.販売管理の研修内容としては,法人Hの取引先との商談への同席や営業力をつける研修として,研修生に量販店との商談を体験してもらうといったOJTが行われている.

資材の共同購入は,ベビーリーフの技術指導や買取販売を行う農家に対し,各種資材や肥料の必要量を法人Hが取りまとめたうえで,自社分も含め一括購入し,農家へ手数料なしで売り渡すものであった.現在では取組は終了している.

買取販売は,新規参入者が栽培した有機農産物を買上げ,自社の販路で販売する取り組みである.取り組みの当初は,持ち込まれる農産物はベビーリーフや他の有機野菜を全量買取しており,法人Hの集出荷施設まで運搬ができない農家に対しては,法人Hが該当農家の軒先へ農産物の収集に回っていた.また,販売手数料は20%に設定されていた.その後,法人Hの赤字転落後の経営改善において,取引形態の見直しが行われた.その結果,現在では,農産物の全量買取は廃止され,買取する品目と量を各農家と事前に取り決めている.厳密な契約取引関係になく,新規参入者の収穫状況に応じて柔軟に取引量の調整が行われている.原則として有機JASの承認を得た農産物に買取を限定し,新規参入者の農園のロゴマークが印字されたパッケージで販売される.また,各農家の軒先への収集は廃止された.さらに,販売手数料は35%へと変更している.

集出荷施設の貸し出しは,法人Hが所有する自社倉庫や集出荷場の利用を希望する新規参入者へ有償で貸し出す取り組みである.

加工・パッキング施設の貸出し・作業代行は,希望する新規参入者への施設貸出と,有機農産物の袋詰め作業を受託する取り組みである.

情報提供・助言は,法人Hが取引のある量販店など流通小売や取引先バイヤーからの情報や要望を元に,需要動向を農家に伝え,それをもとに作付け品目選定を助言する取り組みである.

ネットワークの構築は,法人Hが連携する新規参入者に,法人Hと取引のある地域内の有機農業者や有機農業の技術指導員を紹介する取り組みである.

(3) 法人Hの新規参入者との連携目的と評価

3は法人Hが新規参入者と連携を行う目的とその自己評価の結果である.評価は,満足・やや満足・やや不満・不満の4段階で尋ねた.

表3.

法人Hの新規参入者との連携目的と評価

連携事項 目的 評価1) 評価の理由
技術講習 ・新規参入者への定着支援
・継続取引に必要なベビーリーフ供給量の確保
満足 新規参入者の定着と収量アップを支援し,継続取引に必要な供給量を確保できた.自社生産の拡大により,必要性は低下した.
研修 ・新規参入者への定着支援
・労働力の確保
やや満足 新規参入者の定着支援につながるとともに,採用が難しい中,研修生として意欲が高く良く働く人材を確保できる2).独立を前提とする者も受け入れているが自社の従業員として残ってほしいと考える人材もいる.
資材共同購入 新規参入者の手間やコストを軽減するため やや不満 注文の取りまとめや受け渡しの手間が大きかった.
買取販売 (変更前)
・新規参入者の定着支援
・継続取引に必要なベビーリーフの供給量確保
(変更後)
・取引先の要望に応じた多品目の有機野菜の調達
満足 (開始当初)新規参入者の定着を支援できた.量販店との契約栽培に必要なベビーリーフの供給量が確保できた.しかし,全量買取による廃棄ロスの発生や,販売手数料が不十分であり,利益は得られなかった.
(変更後)全量買取の廃止と手数料設定の見直しにより,買取販売は赤字ではなくなった.取引先より要望される多品目の生産に対応することが可能となり取引継続につながる.
集出荷施設の貸出し 集出荷施設の稼働率向上による収益性向上 満足 集出荷施設の稼働率向上により,自社の収益性が高まっている.
加工・パッキング施設の貸出し・作業代行 加工施設の稼働率向上による収益性の向上 やや満足 施設の稼働率を上げ収益性を高めることにつながる.まだ稼働率向上の余地がある.
ネットワークの構築 新規参入者の定着率向上 満足 新規参入者同士が連携し,事業についての相談など行っており,新規参入者の定着につながっている.
情報提供・助言 取引先の要望(多品目の出荷)への対応 満足 需要の高い栽培品目について栽培推奨を行い,多品目・新品目の販売が可能となる.
連携の目的と総合評価 【当初の目的】
・新規参入者の定着支援
・継続取引に必要な供給量確保
【現在の目的】
・新規参入者の定着支援
・労働力の確保
・高収益品目への集中と取引先の要望への対応の両立
・自社設備の稼働率向上
満足 新規参入者の定着支援に取り組めている3)
取り組みの初期においては,継続取引に必要な供給量を確保できた.量販店と継続取引するうえで必要となる多品目・新品目への対応が新規参入者との連携により可能となっている.自社にとって相対的に収益性の低い品目を新規参入者へ栽培委託することで,収益性の高いベビーリーフへ生産が集中でき,収益改善につながった.自社設備の稼働率も向上している.

資料:法人HのK氏への聞き取り調査より筆者作成(2023年8月時点の情報).

1)「満足」「やや満足」「やや不満」「不満」の4段階で評価.

2)就農希望者に対する研修を新規参入者と法人Hの連携ととらえている理由は,研修終了後,独立就農及び法人との連携が前提となっているためである.

3)T氏を含め5件の農家が新規参入し定着している.

新規参入者との連携の目的は,当初は,有機農業の普及ならびに参入当初に課題を抱える新規参入者への支援と,法人Hが取引先との契約に必要な供給量の確保であった.現在では,新規参入者への支援に加え,取引先の要望である多品目出荷への対応,収益品目への生産集約,加工・パッキング設備など自社施設の稼働率向上による収益性向上と事業拡大に伴う人材確保が目的となっている.このように新規参入者との連携により,K氏が農業に参入した初期のベビーリーフの供給量不足の問題が解決されるとともに,その後の量販店との継続取引において必要とされた多品目への対応も可能となっているため,総合評価は「満足」という結果であった.

次に,各連携項目の実施目的と評価を示す.技術講習は,法人H単体で取引先への十分な出荷量を確保できるようになってからは形態を変えていった.新規参入者の支援を目的とするとともに,自社農園の働き手の確保が難しいという認識のもと,労働力と優秀な人材の確保を目的に,研修を実施するようになった.結果,意欲も高く良く働くT氏のような人材を確保できた点を評価の理由として挙げている.しかし,研修を受け入れた人材は雇用につながらず,独立していくため評価は「やや満足」となっている.

資材の共同購入は,手間と労力がかかる一方,手数料も取っていなかった為,生産能力の拡大とともに支援を終了した.評価は「やや不満」である.

買取販売は,参入当初の供給量確保につながり事業の拡大に寄与した.しかし,2017年まで法人Hが受け取る販売手数料は20%で,資材費や物流費や包装手間賃など原価と同等の設定であり,法人Hが受け取る利益を反映した設定となっておらず,持ち込まれるものを全量買取し廃棄も発生していた為,利益は得られなかった.2017年まではベビーリーフの販売が伸び,会社として利益が出ていた為,新規参入者の育成支援として上記条件で買取販売を行っていた.法人Hが赤字を計上し,経営改善が求められたため,手数料を物流費・販売手数料として15%上乗せし,赤字から脱却した.また,法人Hにとって相対的に収益性が低い品目を新規参入者に栽培を依頼することで,ベビーリーフに特化することができ,収穫作業が機械化されるとともに,パッケージ作業もライン化できている.このように,自社にとって収益性が高い品目に生産を集約し,多品目需要への対応が可能となった為,買取販売への満足度は高い.

ほか,集出荷施設の貸出しや,加工・パッキング施設の貸出しと作業代行,ネットワークの構築,情報提供・助言は,それぞれ表3に示した理由にて,「満足」と自己評価されている.

(4) T氏の法人Hとの連携実態と評価

次に,法人Hが提供する連携内容のT氏の利用実態とその評価を表4に示した.まず,総合評価の回答は「満足」となっている.その理由としてT氏は,独立後に1人では栽培と営業の両立が困難であり,営業に苦手意識を持っていたが,法人Hとの関係を通じ,販売先を確保することができるとともに,技術や販路に関して指導や助言を受けられる地域内の有機農家とのネットワークを確立することができ,自身で新たな販路開拓を展開できていることを挙げている.

表4.

有機農家Tの法人Hとの連携実態と評価

連携事項 利用実態 評価1) 評価の理由
研修2) 有り 満足 栽培技術を身につけることができた.1番満足している点は,研修期間中に,法人Hや法人Hと取引のある有機農家と繋がりをつくることができ,就農後の販売先を確保するとともに相談先を得た点である3)
買取販売 有り やや満足4) 自分で営業をする必要がない.収穫状況に応じて出荷量や1パックあたりの容量など融通を利かせてくれる.欲を言うと出荷先拡大や取引量を増やしてくれると良い.
集出荷施設の貸出し 有り 満足 本来ならT氏の圃場から,車で1.5時間ほどかかる取引先の集荷場へ納品するところ,車で15分程度の法人Hの倉庫へ納品することで,法人Hが取引を行う卸売業者等が集荷に訪れてくれるため配送効率を上げることができているため.
加工・パッキング施設の貸出し・作業代行 過去有り やや満足 人手が足りない時期に一時,利用していた.栽培・収穫後の出荷作業の負担軽減につながり良かったが,委託費がかかることと,現在は人手が足りているため必要性低い.
ネットワークの構築 有り 満足 地域内で先行する新規参入者と知り合い,販路開拓や事業計画づくりや補助金利用などアドバイスをもらうことができた.法人Hが招聘する県や市の有機農業研究会の技術アドバイザーと知り合うことができ,独立後に技術的なアドバイスを依頼するきっかけとなった.
情報提供・助言 有り やや満足 取引先が求める品目などの情報を教えてくれ,新たな栽培品目の選定に活かすことができた.直近はそのような情報提供が以前より少なくなっているので,以前のように何を作ったら売れるのか情報が欲しい.
総合評価 満足 営業に苦手意識があり,栽培との両立が困難と考えたため,独立前より,まずは自身では営業せず,法人Hを販売先と前提とした事業計画を立てていた.結果として法人Hが主要な販売先となり,法人Hの紹介を通じてできた,地域内の有機農家との繋がりから技術習得や新たな販売先の確保ができているため満足している.

資料:新規参入者T氏への聞き取り調査より筆者作成(2023年10月時点の情報).

1)「満足」「やや満足」「やや不満」「不満」の4段階で評価.

2)本稿で扱おうとする,大規模経営体と新規参入者の「研修」に係る連携範囲は新規参入者の就農前に限定している.

3)T氏が法人Hと連携したタイミングでは法人Hは技術講習を実施しておらず,法人Hで研修を受けている.

4)T氏が「やや満足」と評価している現在の取引条件は,取引条件の前後を比較したものではない.

5)「資材共同購入」「技術講習」は,それぞれ2005年,2006年に終了しており,T氏は対象となっていないため,評価項目から除いた.

各項目の評価を見ると,研修については,栽培技術に関するノウハウを獲得できたことを高く評価するとともに,研修を通じ,法人Hや地域内の有機農家とのネットワーク形成の基点をつくることができた点を高く評価している.

買取販売については,有機農業はものが作れても販売先がない,作ったものを販売するのが課題となることをT氏は独立前から認識しており,独立後に1人で栽培から営業まで全て自分でやることはできないこと,T氏自身が営業を得意としないと認識していた.そのため,法人Hを通じ販路を獲得できたことに満足している.表5はT氏が独立してからの経営状況の推移である.2021年に有機JAS認証を取得した後,法人Hと取引を開始し,取引初年度の2021年は500万円,2年目の2022年は850万円,3年目の2023年は4月~9月の6ヵ月間で650万円となり,販売構成比は33%となっている.しかし,T氏は現在,経営耕地面積を拡大し生産量が拡大している為,法人Hに対し更なる出荷先や取引量の拡大を望んでいることから,評価は「やや満足と」なっている.

表5.

T氏の就農後の経営状況

2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年1)
経営耕地面積(ha) 0.7 1.4 2.7 3.7 4.7 5.5
販売高(万円) 60 300 870 1,900 2,500 2,000
法人Hへの販売高(万円) 0 0 0 500 850 650
法人Hへの販売比率 0.0% 0.0% 0.0% 26.4% 34.0% 33.0%

資料:新規参入者T氏への聞き取り調査より筆者作成(2023年10月時点の情報).

1)2023年4月~2023年9月までの実績.

そのほか,集出荷施設の貸出しやネットワークの構築については,評価は「満足」となっている.加工・パッキング施設の貸出し・作業代行や情報提供については,評価は「やや満足」となっており,それらの理由は表4に示すとおりである.

4. 考察

(1) 新規参入者と大規模農業法人との連携効果

T氏を事例に,新規参入者が大規模法人との連携を通じて享受していたメリットを考察する.まず,一般的に有機農業への新規参入者が直面する,基本技術の習得や販売先の確保といった課題に対し,大規模法人での研修を端緒とする連携関係を通じ,有機野菜の栽培技術や品質管理技術の獲得や,独立後の販売先の確保を実現していた.新規参入者は,栽培管理,出荷管理,販売管理と多様な課題に対応する必要があるが,法人HがT氏の販路となるとともに,集出荷機能や加工・パッキング機能を参入当初に活用できたことで,T氏は栽培管理に専念することができ,栽培技術の確立とその後の栽培面積拡大を実現することができたと推察される.更に,作付品目と栽培規模を決定していくうえでの実需者の情報を大規模法人との連携を通じて得ることができている点はメリットである.また,大規模法人を通じ,地域内で有機農業に取り組む新規参入者とのネットワークを形成できていた点もメリットである.

本事例のT氏のように,販路開拓や営業を得意としない新規参入者が少なくないことを考慮すると(高津,2007),法人Hのように販路を有する大規模法人が,新規参入者の独立初期の販売先としての機能を担うことは,有機農業特有の課題(濱村,2015)として慣行農業よりも販路がより限定的である点を踏まえると,新規参入者の定着において特に効果が高いと推察される.

また,法人Hを介した地域内の有機農業に取り組む新規参入者とのネットワーク構築により,T氏が経営ノウハウを獲得することができた点も重要であったと考えられる.つまり,法人Hと新規参入者との関係だけでなく,法人Hを基点とした有機農家のネットワークを通じて,より多様な連携関係が成立しており,そうしたネットワークが胡(2015)安江・下口(2018)が指摘するように,T氏の事業拡大や地域における有機農業の普及に効果的と推察される.既往研究では,有機農業への新規参入者の定着には,公的機関による支援の重要性が指摘されてきたが(山本・竹山,2016),本研究の結果は,有機農業においても,大規模法人と新規参入者の連携・補完関係が,新規参入者の定着に有効となる可能性を示唆していると考える.

大規模法人にとっての新規参入者との連携によるメリットとデメリットとしては,概ね澤田(2015)が慣行農業を対象に示した実態と一致することが確認された.澤田(2015)がデメリットとして指摘した契約生産の義務化は,T氏と法人Hの連携関係からは見られなかった.一方で,新規参入者が希望する取引量の拡大や,情報提供や助言が提供されておらず,これらの点から連携によるメリットを拡大する余地が残されている.しかし,取引量の拡大はあくまで大規模法人側に決定権が強く,情報提供も大規模法人の事業展開において必要な際に行われるものと推察され,こうした連携関係の実現は難しい可能性が考えられる.

(2) 大規模農業法人と新規参入者の有効な連携・補完関係の在り方とその成立条件

大規模法人と新規参入者の初期の連携において,買取販売では,「有機農業での新規参入者支援」という法人Hの代表の個人的な思いに沿って,適正な販売手数料が設定されていないなど,法人Hの負担が大きい形態が取られたが,法人Hが赤字を計上し経営改善に取り組むにあたって,連携関係の見直しが行われた.これは,有機農業への取り組みが動機となった連携関係が構築されうること,一方で,その継続性においては,慣行農業と同様に,大規模法人側の経済的条件が満たされることが重要であることを示唆している.

次に,新規参入者Tは,法人Hとの連携・補完関係を端緒に,栽培技術・栽培管理のノウハウを蓄積することで,独自に販路の開拓も進めている.これは法人HとT氏が厳密な契約取引関係になく,新規参入者の収穫状況に応じて柔軟に取引量の調整を行えている点や,法人HがT氏から買取販売を行う品目は有機JASの承認を得た農産物に限定し,法人Hを通じて販売される農作物には,新規参入者の農園のロゴマークが印字されたパッケージで販売されることで,新規参入者が単なる大規模法人の下請けであるという意識が低いためと考えられる.連携・補完関係を成立させ,持続していくうえでは新規参入者を下請けではなく,独立した農業経営者として関係を構築することが有効と考えられる.

一方で,新規参入者であるT氏は,法人Hとの連携に概ね満足しているものの,栽培規模の拡大に伴い生産量が増加するにつれ,法人Hに対し,買取量の拡大や情報提供が不十分である点に不満をいだいている.これは,法人Hが新規参入者に不可欠な経営資源の提供を行っており,その継続や発展が,新規参入者の経営に影響を及ぼす要因となっているためと推察される.新規参入者の経営発展に応じても,連携関係の見直しが行われる必要があるが,良好な連携関係のもとでも不満がみられたことは,両者の対等な関係を築くことが,課題となる可能性を示唆している.

また,法人Hの規模拡大や設備投資に応じても,連携の目的や内容が変化している.これより,大規模法人の経営展開に伴い,新規参入者との連携関係や,新規参入者が補完する内容には変化が生じることが想定される.

5. 結論

本研究は,大規模法人と,当該法人での研修を経て独立就農し,その後,連携関係を継続する新規参入者を対象とした事例分析を行い,連携の実態と,連携に対する大規模法人及び新規参入者の得るメリット・デメリットを明らかにすることで,両者にとって有効な連携・補完関係のあり方について検討することを目的とした.対象とした事例は,都市近郊,ベリーリーフ栽培を主としており,地域や品目の特殊性を有し,取引関係にある2者による評価のみに限定され,連携・補完関係にネガティブな評価を持つ農家を調査対象に含んでいないことから,本論が言及できる範囲は限定的である.これらの前提のうえではあるが,澤田(2015)が示したように,慣行農業と同様に,新規参入者は技術の早期取得,生産部門への特化,大規模法人を通じたネットワークによるつながりといったメリットを受けること,大規模法人は生産体制の強化,販売量の拡大,労働力確保といったメリットを受けていることが明らかとなった.よって,有機農業の普及に向けた施策として,大規模法人を中心として新規参入者の定着を促す施策を検討する意義があると考えられる.

今後の課題として,本事例で大規模有機農業法人が担った,出荷管理などの代行機能や新規参入者と地域内の有機農家とのネットワーク構築などをJAや公共機関が担う可能性についての検証や,いかに地域内に1つ目の大規模有機農業法人を育成するかといった課題が残る.

1  本稿における有機農業の定義は有機農業推進法の第2条で記される「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組み換え技術を利用しないことを基本として,農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」という定義を採用する.

2  本稿では,新規参入者は,土地や資金を独自に調達し新たに農業経営を開始した農業者とし,技術研修を受ける就農前の就農希望者や,法人等へ常雇いとして雇用される新規雇用就農者,親元就農と区別する.

3  本稿における有機農家は「本稿で定義する有機農業に経営の一部において取り組む農家」と定義する.

4  独立にあたっての農機具や種苗・農業資材取得費として使用した開業資金は1,000万円で,借入金680万円,自己資金320万円で賄っている.就農前の研修期間ならびに就農後の計7年間「就農準備資金・経営開始資金」を活用している.

引用文献
 
© 2024 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
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