Journal of Rural Problems
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Short Paper
Implicit Determinants of Willingness-to-Pay for Reduction of GHG Emissions in Dairy
Hiroyuki Iwamoto
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2025 Volume 61 Issue 3 Pages 136-143

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Abstract

This study quantitatively examined consumers’ willingness-to-pay (WTP) and psychological determinants for livestock products produced with environmental consideration. Estimation of the WTP for greenhouse gas (GHG) reduction certification display based on the analysis of the result of choice modelling indicated it was 36 yen. Analysis of the result of structural equation modeling indicated the significance of popularization enlightenment, which promotes the attitude that purchase of environment-friendly livestock products mitigates environmental issues. Additionally, social popularization enlightenment, which enhances social norm consciousness by positively evaluating environment-conscious consumption behavior, was also considered useful.

1. はじめに

本稿の課題は,環境に配慮して生産された畜産物(環境配慮型畜産物)に対する消費者の支払意志額(WTP)と心理的な規定因を定量的に検討することにある.

これまでに環境に配慮して生産された農畜産物に対する消費者のWTPを定量的に明らかにしようという試みは一定の蓄積を重ねつつある1.これらの既存研究では,WTPの推計とともに,WTPに影響を与える年齢,性別,所得などの社会経済属性が明らかにされてきた.これらの成果は,どのような消費者層に環境配慮型農畜産物の需要が存在するのか,あるいは,どのような消費者層に環境配慮型農畜産物を訴求すればよいのかという実践的課題に対する有用な示唆を与えてきたと考える.

一方で,WTPの背後に存在する潜在的な心理的規定因とその関係性については検討の余地がある.WTPを表明するにいたる背景には,どのような心理的要素がはたらいているのかを規定因とその相互作用として明らかにすることで,環境配慮に関する情報について,どのような情報が効果的に規定因に働きかけるのか,あるいはどのような規定因を強くもつ消費者に働きかければ効果的なのかなど,従来の社会経済属性とは違う観点から需要拡大を検討するうえで有用な知見を提供しうると考える.

本稿では,乳牛の温暖化ガス排出削減効果をもつ飼料給与によって生産された有塩バターを事例として,具体的に2点の分析課題を明らかにする.第1に,環境配慮型畜産物に対する消費者評価をChoice ModellingからWTPとして定量的に求める.第2に,WTPや環境配慮型畜産物の購入意志に影響を与える規定因を共分散構造分析(SEM)から明らかにする.

2. 分析方法およびデータ

(1) Choice Modellingの概要

環境配慮型畜産物の消費者評価を定量的に求める方法として,本稿ではWeb調査で収集した選択実験データによるChoice Modellingを用いた.

畜産物の中でも幅広い購買層が期待できる食品であり,メーカー,ブランド等での品質差の小さい畜産物として本稿では,有塩バターを評価対象財とした.評価対象財を構成する属性として以下の4点を設定した.

第1に,産地属性を設定した.回答者に提示した産地は,国産,十勝産,外国産の3水準である.これらは選択肢固有定数項(ASC:Alternative Specific Constant)とした.

第2に,GHG(温暖化ガス)削減認証表示を環境配慮の属性として設定した.この表示は家畜呼気中のGHG排出を抑制すると言われている藻類を飼料中に添加していることを示す.回答者にはGHG排出抑制効果があるとされる藻類の説明,その藻類を飼料に添加していることを認証基準として説明したうえで,GHG削減表示として提示した2.ただし,GHG排出削減については,その効果を数値として明示していないことから,「GHG排出削減の取り組み」に対する認証であり,回答者ごとに想定される効果が異なっている可能性があることに留意を要する.回答者への提示は,それぞれ「温暖化ガス削減マーク」「表示なし」の2水準である3

第3に,アニマルウェルフェア認証表示を属性として設定した4.わが国では複数のアニマルウェルフェアに関する認証団体が独自の認証基準によって認証表示を定めている状況にある.本稿では,調査用の認証表示を作成し,選択実験直前に認証基準を説明したうえで,アニマルウェルフェア・マークとして回答者に提示した.回答者への提示は,それぞれ「アニマルウェルフェア・マーク」「表示なし」の2水準である.

第4に,商品200g当たりの販売価格を価格属性として設定した.回答者には350円,450円,550円,650円の4水準を提示した5

評価対象属性を組み合わせた3パターンのバターのプロファイルに「どれも買わない」を加えた4つの選択肢を1つのチョイスセットとした.産地属性を除く3属性の水準内容が異なる16のチョイスセットを直交計画にしたがって作成し,2群に分割した調査対象者に8回の繰り返し質問として提示した.

本稿では,Random Parameter Logit Model(RPLM)を用いてWTPを推計した6.RPLMは,Conditional Logit Modelと比較して回答者間や選択場面でのパラメータ変動を許容する特長を持つ.そのため,平均値として求められるパラメータの他に,個人ごとのパラメータから限界評価額を推計できる7

(2) 共分散構造分析の概要

WTPの背後にある規定因を明らかにする方法として,本稿ではSEMを用いた8

広瀬(1994)は環境配慮行動を対象に,その規定因に関する理論的枠組みを提示した.環境配慮行動は,その趣旨に賛成,あるいは自ら実施したいという意欲をもっていても,実際の行動には移されないことがしばしば起こる.広瀬(1994)理論モデルは,目標意図をもつ段階と行動意図をもつ場面に規定因を分け,また,行動に移す際の面倒さといった環境配慮行動を抑制する規定因についても考慮していることにその特長がある.

本稿では,広瀬(1994)の理論的枠組みをフェアトレード商品購入の規定因の解明に援用した豊田(2016)を参考にしつつ,仮説モデルを図1のように設定した.

図1.

仮説モデル

資料:広瀬(1994)豊田(2016)をもとに筆者作成.

1)構成概念を楕円形,観測変数を長方形で示す.なお,WTP以外の観測変数は省略している.

2)矢印は因果関係,両矢印は相関関係を意味する.

本稿の仮説モデルでは,環境問題に貢献したいという目標に関する規定因「目標意図」の背景には自ら行動することで環境問題解決に影響を与えることができると考える規定因「対処有効性認知」が存在し,目標意図は環境配慮型畜産物を購入するという行動が社会的に善い影響をもたらすと考える規定因「行動に対する態度」の形成に影響を与え,さらに「行動に対する態度」が環境配慮型畜産物を購入したいという規定因「行動意図」の形成に影響を与えると仮定した.

これら一連の主観に基づいて環境配慮型畜産物の購入を肯定する規定因の存在を仮定する一方で,環境配慮型畜産物を購入したいという「行動意図」の形成を躊躇させる規定因についても仮定した.具体的には,環境配慮型畜産物を購入しなくても批判されないだろうと考える規定因「行動受容」が環境配慮型畜産物の購入を妨げる費用や面倒さ,知識の習得のわずらわしさなどに関する評価に関する規定因「実行可能性評価」に影響を与え,「行動意図」に負の影響を与える仮定である.また,環境配慮型畜産物の購入が社会的にどのように評価されるかという規定因「社会的規範」も客観的な視点から「行動意図」に影響を与えうると仮定した.

SEMに用いる観測変数とその平均値を表1に示す8.構成概念の観測変数は,各質問に5(いつも当てはまる)から1(まったく当てはまらない)までの5件法で得た回答とRPLMから得られたGHG削減認証表示に対する個人別WTPを用いた9

表1.

観測変数一覧

観測変数 平均値
「行動意図」に関する観測変数
RPLMから推計されたGHG削減認証表示の個人別WTP(対数変換値) 2.80
無条件で環境に配慮した牛乳を購入したい 2.64
可能な限り(条件が許せば)環境に配慮した畜産物を購入したい 3.14
地球温暖化に関するパネルなどがあったら思わず環境に配慮した畜産物を買ってしまう 2.98
「行動に対する態度」に関する観測変数
環境に配慮した取り組みは,地球温暖化対策に効果的だ 3.17
環境に配慮した取組は,人と動物の社会の共生意識が醸成されるという点でよいことだ 3.14
環境に配慮した取り組みは地球温暖化に対する社会の意識を高める点でよいことだ 3.19
「目標意図」に関する観測変数
私は地球温暖化の解決に何かしらの形で貢献していきたい 3.13
私は地球温暖化に無関心ではないという意思をもって生活している 3.01
私は地球温暖化に対して何らかの形で関わっていきたい 3.13
「対処有効性認知」に関する観測変数
自分でまず何かを始めることが地球温暖化の問題解決の第一歩だ 3.14
自分の地球温暖化に対する取組が,人の行動にも影響を与えることができる 2.98
自分と他者が連携することが,地球温暖化を解決する大きな力となる 3.07
自分の地球温暖化に対する取組が,問題解決に貢献する可能性は小さくない 3.01
「社会的規範」に関する観測変数
環境に配慮した畜産物を購入することで自分が世間から評価される 2.61
環境に配慮した畜産物を購入することを世間から期待されている 2.71
環境に配慮した畜産物を購入することは消費者として義務になりつつある 2.75
「実行可能性評価」に関する観測変数
環境に配慮した畜産物は,内容・意義と比較して値段が高すぎる 3.06
環境に配慮した畜産物の購入にお金を回す余裕がない 2.90
地球温暖化について考えたり,勉強することが面倒くさい 2.48
環境に配慮した畜産物をわざわざ購入するのは面倒くさい 2.56
「行動受容」に関する観測変数
環境に配慮した畜産物を購入している人は周りでは多くない 3.16
環境に配慮した畜産物に無関心だからといって周りから非難されることはない 3.15
身の周りで環境に配慮した畜産物に関心をもつ人は見当たらない 3.07

資料:インターネット調査より筆者作成.

1)個人別WTP以外の観測変数は,5(いつも当てはまる)から1(まったく当てはまらない)までの5件法による回答の平均値.個人別WTPはneg-log変換による対数値を示している.

(3) データ

データは株式会社アスマークによるインターネット調査を利用して2023年12月に収集した.調査対象者は,バターの消費者評価を得るという課題に適切な評価を表明しうる日常的な購入経験のある回答者として,1か月以内にバターの購入経験がある全国の20歳以上の男女とした10.回答者数は1,900人である.分析には無効回答を除いたサンプルサイズ1,899を対象とした.データの個人属性は平均年齢54.2歳,男性比率47.7%であった.

3. 分析結果

(1) Choice Modelling分析結果

RPLMによる推定結果を表2に示す.平均および標準偏差パラメータは有意水準1%であった.価格パラメータの符号は負となった.

表2.

RPLMの推定結果

(A)平均パラメータ
係数 変動係数 WTP(円) WTP 95%信頼区間(円)
国産表示 9.5553*** 0.0356 551 [542.54, 560.20]
十勝産表示 9.9243*** 0.1301 573 [563.38, 581.95]
外国産表示 6.9913*** 0.2612 403 [392.83, 414.01]
GHG削減認証表示 0.6216*** 1.5410 36 [31.72, 40.02]
AW認証表示 0.9730*** 0.7908 56 [51.40, 60.89]
価格 −0.0173*** −1.0000
(B)標準偏差パラメータ
国産表示 0.3415***
十勝産表示 1.2909***
外国産表示 1.8262***
GHG削減認証表示 0.9579***
AW認証表示 0.7695***
価格 0.0173***
サンプルサイズ 15,192
Log-Likelihood −12,441.13
Adjusted ρ2 0.4093

1)AWはアニマルウェルフェアを意味する.

2)***は1%の有意水準で有意であることを意味する.

3)WTP95%信頼区間はデルタ法から求めた.

産地属性については国産,十勝産,外国産に関するASCのパラメータの符号は正であった.パラメータの大きさは十勝産,国産,外国産の順となった.

GHG削減認証表示属性のパラメータの符号は正であった.GHG削減認証表示属性パラメータを価格属性パラメータで除し,マイナスを乗じた支払意志額(WTP)は36円となった.個人別に推計したGHG削減認証表示のWTPでは回答者の85.3%が正のWTPとなったことから,回答者はGHG削減という環境配慮型のバターに対して概ね肯定的な評価を与えていることが示された.

また,GHG削減認証表示と同様に仮想的表示であり,消費者の倫理的な意識が評価に影響するアニマルウェルフェア認証表示属性のパラメータも正であった.しかし,アニマルウェルフェア認証表示のWTPは56円とGHG削減認証表示よりも高く,変動係数は小さい.また,正のWTPとなった回答者は全体の98.5%を占めた.これらのことから,GHG削減という温暖化対応はアニマルウェルフェアほど消費者の評価は高くなく,また,肯定的な評価と消極的な評価のばらつきが大きいことが示唆された.

(2) SEM推定結果

RPLMの推定結果から得られた各回答者のWTPの背景には,どのような規定因が存在し得るのか検討した結果を図2に示す.

図2.

環境配慮型畜産物購入の規定因のSEM計測結果

1)構成概念を楕円形,観測変数を長方形で示す.なお,WTP以外の観測変数は省略している.

2)矢印は因果関係,両矢印は相関関係を意味する.

3)***は1%水準で有意であることを意味する.

本稿で設定した7つの構成概念(規定因)について観測変数とのパスはいずれも有意水準1%で有意となり,本稿における構成概念と観測変数の設定が概ね妥当であることが示された.

本稿ではWTPの背後に環境配慮型畜産物を購入したいという「行動意図」が存在し,「行動意図」が高まることによってWTPの高まりが生じることを仮定している.WTPを含んだ「行動意図」の4つの観測変数とのパスは有意水準1%で有意であり,符号は正となった.したがって,環境配慮型畜産物の購入とWTPに影響を与える規定因として「行動意図」が想定できることが示された.

「行動意図」に影響を与える規定因として,仮説モデルでは「行動に対する態度」「社会的規範」「実行可能性評価」を挙げている.「行動に対する態度」および「社会的規範」から「行動意図」へのパスは有意水準1%で有意であり,符号は正となった.環境配慮型畜産物を購入するという行動が社会的に善い影響をもたらすと考える態度(「行動に対する態度」)や環境配慮型畜産物の購入という行動が社会的に評価されるだろうと考える「社会的規範」が環境配慮型畜産物の購入意志(「行動意図」)に正の影響を与えることが示された.一方,「実行可能性評価」から「行動意図」へのパスについては,有意水準1%で有意であり,符号は負となった.環境配慮型畜産物の購入を妨げる費用や面倒さ,知識の習得のわずらわしさなどに関する評価(「実行可能性評価」)が環境配慮型畜産物の購入意志(「行動意図」)に負の影響を与えることが示された.「行動に対する態度」に影響を与える規定因として,本稿の仮説モデルでは「目標意図」を仮定し,また,「目標意図」は「対処有効性認知」によって影響を受けるとされている.推定結果においても,「対処有効性認知」から「目標意図」を経て「行動に対する態度」へのパスは有意水準1%で有意であり,符号は正となった.このことから,自ら行動することで環境問題解決に影響を与えることができると考える「対処有効性認知」が,環境問題に貢献したいなどの「目標意図」に正の影響を与え,「目標意図」が環境配慮型畜産物を購入するという行動が社会的に善い影響をもたらすと考える態度(「行動に対する態度」)に正の影響を与えることが示された.

一方,環境配慮型畜産物を購入しなくても批判されないだろうと考える「行動受容」から環境配慮型畜産物の購入意志(「行動意図」)に負の影響を与える「実行可能性評価」へのパスは有意水準1%で有意であり,符号は正となった.このことから,環境配慮型畜産物を購入しなくても批判されないだろうとの考えは,環境配慮型畜産物の購入を妨げる費用や面倒さ,知識の習得のわずらわしさなどに関する規定因「実行可能性評価」を強める関係にあることが示された.

「社会的規範」と「対処有効性認知」は有意水準1%で有意,符号は正の相関関係となった.「社会的規範」の高さは,「行動意図」だけでなく「対処有効性認知」を高める,あるいは,「対処有効性認知」が高い場合,「社会的規範」に対する意識が高まることを示している.

一方,「社会的規範」と「行動受容」は有意水準1%で有意,符号は負の相関関係となった.高い「社会的規範」への意識は「行動受容」を低める,あるいは,高い「行動受容」は「社会的規範」を通じて「対処有効性認知」と「行動意図」を弱める関係にあることが示された.

4. おわりに

本稿の課題は,環境に配慮して生産された畜産物に対する消費者の支払意志額(WTP)と心理的な規定因を定量的に検討することにあった.分析結果から得られた主な知見は以下の点である.

第1に,RPLMからGHG削減認証表示に対するWTPを推計した結果,36円となった.回答者ごとのWTPにおいても,85.3%の回答者が正の評価額となっていることから,GHG削減認証表示は消費者に概ね肯定的に評価されていることが示された.

第2に,GHG削減認証表示畜産物といった環境配慮型畜産物に対するWTPの規定因を明らかにする仮説モデルをSEMによって検討した結果,WTPの背後には「行動意図」「行動に対する態度」「社会的規範」「対処有効性認知」「行動受容」「実行可能性評価」といった規定因が存在することが示された.

第3に,「行動意図」の背後には「行動に対する態度」と「社会的規範」という規定因が存在して「行動意図」に正の影響を与えることが示された.一方,「実行可能性評価」は「行動意図」に負の影響を与えることが示された.

第4に,「行動に対する態度」は「目標意図」から正の影響を受け,「目標意図」は「対処有効性認知」から正の影響を受けることが示された.一方,「実行可能性評価」は「行動受容」から正の影響を受け,「行動受容」の高まりは「実行可能性評価」を高めて「行動意図」を弱める関係があることが示された.

第5に,「社会的規範」は「対処有効性認知」と正の相関,「行動受容」と負の相関があることが示された.「社会的規範」は「行動意図」の形成に正の影響を与える.「対処有効性認知」の高まりは「社会的規範」の「行動意図」への影響を強く,あるいは「社会的規範」の高まりは「対処有効性認知」の高まりを通じて「行動意図」への影響を強くする.一方で,「行動受容」の高まりは,「社会的規範」の「行動意図」への影響を弱め,あるいは「社会的規範」が弱くなると「行動受容」を通じて「行動意図」に負の影響を高めることが示された.

以上の分析結果から消費者は概ね環境配慮型畜産物に対して肯定的な評価をしている.また,WTPの背後には,自分の購入行動が環境問題に貢献するという「対処有効性認知」から「目標意図」の形成,「行動に対する態度」を形成して,実際に環境配慮型畜産物を買いたいという「行動意図」につながるパスと,「社会的規範」によって「行動意図」が形成されるパス,環境配慮型畜産物の購入を躊躇させる抑制的規定因である「実行可能性評価」から「行動意図」に負の影響を与えるパスの存在が示された.

したがって,自らの行動が環境問題に貢献し得るという「対処有効性認知」を高め,環境配慮型畜産物の購入が環境問題の改善に有効であるという態度形成の強化につながるような普及啓発が環境配慮型畜産物の普及推進には重要であることが示唆される.具体的には実際に環境配慮型畜産物の購入によってどのような成果が生じ,環境問題の解決に貢献しているのかをフィードバックし,「対処有効性認知」を高めるような情報提供などが考えられる.本稿の事例としたGHG削減に例をとると,消費者のバター購入を通じて,乳牛1頭当たりあるいは,1経営当たりでのGHG排出削減量を情報として付加することなどが考えられる.

また,自分が環境配慮型畜産物を購入することで社会的評価が高まるだろうと考える「社会的規範」の存在が環境配慮型畜産物購入に正の影響を与えている一方で,環境問題に無関心,あるいは購入しなくても問題はないという「行動受容」が高まると「社会的規範」への意識に負の影響を及ぼし,「実行可能性評価」にも影響を与えうることから,環境配慮型の消費行動を肯定的に評価,「社会的規範」が高まる社会的な普及啓発も有用であると考える.

なお,本稿の分析から示唆された環境配慮型畜産物の支払意志の背後に存在する規定因について,社会属性の違いを考慮した分析については,今後の課題としたい.

謝辞

本稿の選択実験データ部分の調査設計にご協力くださった木村ほのか氏には,データ使用許諾に同意いただいたことに感謝申し上げます.なお,本研究はJSPS科研費 JP 20K06252の助成を受けたものです.

1  わが国の環境配慮型畜産物の消費者評価研究として西村他(2012)岩本(2017)小坂田・藤野(2018)日向・佐藤(2023)などがある.

2  本稿ではGHG排出削減およびAWについて,消費者が十分な情報をもつ場合に最大で得られるWTPを推計することを意図していることから,選択実験の前にGHG排出削減およびAWについての定義について解説し,情報を与えている.

3  本稿で回答者に提示したAWの定義として,「家畜の本能にもとづく本来的な行動を妨げないような畜舎や飼養方法を採用し,家畜に対する倫理的な配慮と健康な家畜による畜産物生産を目指す考え方」とした.選択実験のAW認証表示基準としては,①家畜がエサや新鮮な水を自由にとることができること,②清潔で危険物のない安全な豚舎で日照や通風が確保されていること,③怪我を放置せず適切な手当てがなされていること,④家畜の本能的な行動を妨げない自由な環境で飼われていること,⑤苦痛を軽減し,恐怖を感じさせないようにと畜をすること,を定義として提示している.

4  価格設定は2023年の総務省統計局「小売物価統計調査(動向編)」月次(6月)における200 gバターの都市間平均価格480円を基準として,調査直前の同年11月における店頭調査の価格帯(440円~480円)を参考に設定した.

5  選択実験およびChoice Modellingについては,Hensher et al.(2005)を参照されたい.パラメータの推定はNLOGIT ver. 6を用いた.

6  標準偏差パラメータの確率分布は任意に定めることができる.本稿では価格以外の標準偏差パラメータに正規分布を仮定し,価格は非負の制約のため平均パラメータβ=σとする三角分布とした.なお,RPLMでは各回答者の繰り返し選択実験データをサブサンプルとする条件付きパラメータの回答者別推定も行っている(Hensher et al., 2005).

7  SEMの推定はR Ver. 4.3.3でlavaanパッケージを用いた.

8  観測変数に関する質問は,回答者の意識・態度に関する質問を多く設定していることから,これらを事前情報として選択実験の回答に影響を与える可能性,特に本稿の場合は回答者が調査者に迎合的に回答する「社会的望ましさのバイアス」が生じる可能性を考慮して,選択実験後に配置した.

9  SEMにおけるWTPは,選択実験の結果として推計されていることから,環境配慮行動を行いたいという「行動意図」の観測変数として定義している.また,推定では負値にも適用可能なneg-log変換による対数値としている(Whittaker et al., 2005).

10  2023年10月時点での日本の総人口における20歳以上人口の平均年齢は55歳,男性比率は48.2%であり(総務省統計局人口推計),年齢別人口分布および性別分布にもとづいて調査対象者を収集している.

引用文献
 
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