Journal of Rural Problems
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Short Paper
Analysis of Bioeconomy–Macroeconomy Linkages
Takashi Fujimoto
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2025 Volume 61 Issue 3 Pages 144-151

Details
Abstract

The bioeconomy includes sectors that produce biological resources, such as agriculture, forestry, and fisheries, as well as sectors that utilize these resources, such as the production of food, textiles, wood, and paper. Japan’s bioeconomy strategy aims to promote economic growth by advancing bioeconomy-related businesses while addressing social challenges such as environmental issues, food security, and energy security. This study assessed the backward and forward linkage effects of the bioeconomy sectors to identify key sectors for bio-based economic growth. The findings indicate that: (1) bio-based sectors have stronger linkages with the macroeconomy compared to non-bio-based sectors, and (2) key sectors include wheat and the like, pulses, sugar crops, crops for beverages, feed and forage crops, dairy cattle farming, beef cattle, hogs, broiler chickens, inland water fishery, sugar, saccharified products, manufactured ice, organic fertilizers, knitted apparel, timber, wooden chips, wooden furniture, wooden fixtures, papers, and paper products.

1. はじめに

バイオエコノミーは,(1)生態系とそれらが提供するサービス,(2)生物資源を生産する一次生産部門(農林漁業),(3)生物資源を使い,食品,飼料,バイオ製品を生産する産業部門を含む(EC, 2018: p. 4).バイオエコノミーの成長に向けた政策が,少なくとも 50か国において実施されているが(OECD, 2018: p. 14),その背景には,以下の要因があるだろう.第1に,再生可能な生物資源を活用することで,持続可能な社会・経済を実現できる.第2に,バイオエコノミーを通じて,経済成長と環境政策目標を結び付けることができる(OECD, 2018: p. 14).第3に,生物資源は,枯渇性資源のように,地球上に偏在するのではなく,どこにでも存在する.日本でも,2024年,バイオエコノミー戦略を策定している.バイオエコノミー戦略の目標は,国によって異なるが,環境保全,食料安全保障,エネルギー安全保障など社会問題の解決を,経済成長のエンジンに転換しようとする点は共通している.

本研究では,産業連関分析により,バイオエコノミー各産業部門とマクロ経済の連関を分析し,バイオベース経済成長のエンジンとなる,Key部門,後方連関部門,前方連関部門を特定する.ある部門による中間投入財の購入,販売を通じた,その部門と他の部門の関係は,それぞれ後方連関効果(Backward linkage:以下BL),前方連関効果(Forward Linkage:以下FL)と呼ばれる.BLは,部門kの生産により,川上産業に誘発された,部門kの生産に必要な中間投入財の産出,FLは,部門kの生産により,川下産業において,自身の生産における中間投入に必要なk財の供給が誘発した産出である.後方連関効果と前方連関効果の双方が平均以上の部門は,Key部門とみなされ(Miller and Blair, 2022: p.305),Key部門が活性化すると,その効果は,他の部門に広く波及し,経済全体に及ぶ.

2. 分析方法

(1) 後方連関効果・前方連関効果の計測方法

以下,産業連関表の列部門をj,行部門をiと表記し,それぞれ部門ji財と呼ぶ.

日本では,Leontief逆行列L={lij}の列合計ilijを後方連関指標(影響力係数),Lの行合計jlijを前方連関指標(感応度係数)としてきた(総務省,2019).しかし前方連関効果は,Ghosh逆行列G={gij}の行合計jgijとするのが一般的である.そして,BLはLeontiefのdemand driven modelより,FLはGhoshのsupply driven modelより得るべきと合意されている(Miller and Blair, 2022: p. 319).最近では,Hypothetical Extraction Method(以下HEM)が用いられることが多い.HEMは,経済から部門kを仮想的に抽出し,部門kによる購入と,k財の販売をゼロと仮定する.HEMを用いれば,BLあるいはFLを,n部門から成る経済において,部門kを除くn1部門が,部門kによる需要がなくなることで被るロス,あるいはk財に対する需要を満たせなくなることで被るロス,と直観的に説明できる.そこで本研究は,HEMを用いる.

(2) 先行研究

The Joint Research Centre of the EC(JRC)は,EU加盟国を対象に,農業部門と食品部門を高度に細分化したAgoSAMs,さらにバイオベース産業部門を加えたBioSAMsを推定した(Mainar-Causapé and Philippidiss, 20181

AgroSAMsやBioSAMsを活用し,バイオエコノミー部門のBLFLを,スペインを対象に計測した研究に,Cardenete et al.(2014)Ferreira et al.(2024)があり,EU28か国を対象に計測した研究に,Philippidis et al.(2014)Fuentes-Saguar et al.(2017)Philippidis and Sanjuán(2018)Mainar Causapé et al.(2021)がある.

本研究では,バイオエコノミー部門のBLFLを,日本を対象に計測する.筆者の知る限り,EU加盟国以外において,高度に細分化されたバイオエコノミー部門のBLFLを計測した研究は見当たらない.

(3) データ

平成27年国内産業連関表(総務省,2019)を用いた.基本表を,部門分類が可能な限り細かな対称表となるように,部門統合した(i,j=1,,n; n=391).バイオエコノミー部門は,EC(2018: p. 4)の定義に従い,生物資源を生産する一次生産部門,および生物資源を使い製品を生産する部門とし,表2に示すように,農林漁業,飲食料品,繊維製品,パルプ・紙・木製品に含まれる87部門とし,残り304部門を非バイオエコノミー部門とした.屑・副産物(古紙,鉄屑,非鉄金属屑)は,マイナス投入方式で処理され,その発生額は生産額として計上されないので(総務省,2019),分析対象外とした.

(4) 後方連関効果

産業連関表の横方向のバランス式は,

  
Z i + Y + E M = X (1)

である.Zは部門jによるi財の中間需要Zijの行列,iは1の列ベクトル,Yi財の国内最終需要Yiの列ベクトル,Ei財の輸出Eiの列ベクトル,Mi財の輸入Miの列ベクトル,Xi財の生産額Xiの列ベクトルである.Zが国産Zdと輸入Zmにより構成され,Yが国産Ydと輸入Ymにより構成されるとし,(1)式を(Zd+Zm)i+(Yd+Ym)+EM=Xと書き換え,M=Zmi+Ymを代入すれば.非競争輸入型の需給バランス式,

  
Z d i + Y d + E = X (2)

を得る.投入表には,中間投入Zijと最終需要Yiの内数として,輸入ZijmYimが示されているので,Zd={Zijd=ZijZijm}Yd={Yid=YiYim}を得ることができる.投入係数行列をAd=ZdX̂1={aijd=Zijd/Xj}とし(X̂XiあるいはXjを要素とする対角行列),Zd=AdX̂を(1)式に代入すれば,AdX̂i+Yd+E=X,を得る.さらに,X̂i=Xを代入すれば,

  
A d X + Y d + E = X (3)

を得る.(3)式をXについて解けば,Yd+E=(IAd)Xを得ることができ,

  
( I A d ) 1 ( Y d + E ) = X (4)

と変形できる.(IAd)1 はLeontief逆行列である.(4)式から部門kを抽出すれば,

  
( I A k d ) 1 ( Y k d + E k ) = X k

を得る.kは部門kに関わる値を0に置き換えたことを示す.例えば,3部門からなる経済において,部門k=1を抽出した場合,

  
A 1 d = ( 0 0 0 0 a 22 d a 23 d 0 a 32 d a 33 d ) Y 1 d = ( 0 Y 2 d Y 3 d ) E 1 = ( 0 E 2 E 3 )

である.一般的なLeontief modelは,最終需要Yd+Eが変化する時,生産Xがどう変化するか分析する.それに対してHEMは,AdYdEが,それぞれAkdYkdEkへと変化する時,部門kを除くn1部門の生産がどう変化するか分析する.

部門kの後方連関効果は,

  
B L k = ( i X X k ) i X k

である.iは1の行ベクトルである.BLkは,部門kを除くn1部門の産出の変化なので,部門kの生産Xkが控除される.部門kの産出1単位がもたらす後方連関効果は,

  
Δ B L k = B L k / X k (5)

である.(5)式を用いて,ΔBLkを計測する.ΔBLkは,Xkの1単位変化に対する,BLkの感応度を示す.

(5)前方連関効果

産業連関表の縦方向のバランス式は,

  
i Z + V = X (6)

である.iは1の行ベクトル,Vは部門jの粗付加価値Vjの行ベクトル,Xは部門jの産出額Xjの行ベクトルである.産出額が0の屑・副産物の中間投入を外生化しよう.屑・副産物の中間投入を0に置換した中間投入行列をZs={Zijs},屑・副産物の中間投入行列をSとし,Z=Zs+Sを(6)式に代入すれば,

  
i Z s + i S + V = X (7)

を得る.k財の供給が国内にもたらすFLを計測するので,輸入の中間投入を外生化すれば,(7)式は,

  
i Z s d + i Z s m + i S + V = X (8)

と変形できる.産出係数行列を B d = X ̂ 1 Z s d = { b i j = Z i j s d / X i } としよう.産出係数 b i j は,産出先別産出割合を示すことから,allocation coefficientsと呼ばれる. B d = X ̂ 1 Z s d Z s d = X ̂ B d と変形し.(8)式に代入すれば, i X ̂ B d + i Z s m + i S + V = X ,を得る.さらに, i X ̂ = X を代入すれば,

  
X B d + i Z s m + i S + V = X (9)

を得る.(9)式をXについて解けば,iZsm+iS+V=X(IBd)を得ることができ,

  
( i Z s m + i S + V ) ( I B d ) 1 = X (10)

と変形できる.(IBd)1はGhosh逆行列である.(10)式から部門kを抽出すれば,

  
( i Z s k m + i S + V k ) ( I B k d ) 1 = X k

を得る.部門kの前方連関効果は,

  
F L k = ( X i X k ) X k i (11)

で,k財の供給1単位がもたらす前方連関効果は,

  
Δ F L k = F L k / X k (12)

である.(12)式を用いて,ΔFLkを計測する.

(6)Key部門の定義

連関効果を部門間比較するため,ΔBLkΔFLkを,平均が1となるように,それぞれ,

  
Δ B L k s = Δ B L k 1 n k = 1 n Δ B L k k = 1 , 2 , , n (13·1)
  
Δ F L k s = Δ F L k 1 n k = 1 n Δ F L k k = 1 , 2 , , n (13·2)

と基準化した.上付き文字Sは基準化を意味する.(13・1)式と(13・2)式の分母は,それぞれΔBLkΔFLkk=1,,n(屑・副産物を除くのでn=388)にわたる平均値である.

1は,ΔBLksΔFLksによる,各部門の分類方法を示す.独立部門は,ΔBLks1かつΔFLks1で,川上と川下の双方の産業との連関が弱い.後方連関部門は,ΔBLks>1かつΔFLks1で,川上産業との連関は強いが,川下産業との連関は弱い.前方連関部門は,ΔBLks1かつΔFLks>1で,川上産業との連関は弱いが,川下産業との連関は強い.Key部門は,ΔBLks>1かつΔFLks>1で,川上産業と川下産業の双方と連関が強い.ΔBLks>1の部門の振興は,その効果が,当該部門に加え,川上産業に広く及ぶ.ΔFLks>1の部門の振興は,その効果が,当該部門に加え,川下産業に広く及ぶ.

表1.

ΔBLksΔFLksによる部門分類

ΔBLks1 ΔBLks>1
ΔFLks1 独立型門 後方連関部門
ΔFLks>1 前方連関部門 Key部門

3. 結果

2の値は,バイオエコノミー部門における,(5)式のΔBLkと(12)式のΔFLk(部門kの産出1単位がもたらす後方連関効果と前方連関効果)を示した.例えば,米産出1単位は,川上産業と川下産業に,それぞれ0.718単位と1.456単位の産出を誘発する.表2の分類は,(13)式のΔBLksΔFLksを用い,表1に基づき行っている.注意したいのは,表2の値は,基準化前のΔBLkΔFLkなので,ΔBLks>1であってもΔBLk1ΔFLks>1であってもΔFLk1,であることが少なくない点である.

表2.

前方連関効果と後方連関効果の計測結果とそれらによる部門分類

部門 ΔBLk ΔFLk 分類 ΔBLk ΔFLk 分類
耕種農業 1 0.718 1.456 前方 食料品(つづき) 45 動植物油脂 0.460 1.336 前方
2 麦類 2.878 1.747 Key 46 調味料 0.768 0.422 後方
3 いも類 0.716 0.677 独立 47 冷凍調理食品 0.994 0.607 後方
4 豆類 1.348 1.343 Key 48 レトルト食品 0.893 0.292 後方
5 野菜 0.694 0.393 独立 49 そう菜・すし・弁当 1.000 0.063 後方
6 果実 0.677 0.356 独立 50 その他の食料品 0.742 0.424 独立
7 砂糖原料作物 1.106 2.112 Key 飲料 51 清酒 0.810 0.367 後方
8 飲料用作物 0.832 1.333 Key 52 ビール類 0.438 0.767 独立
9 他の食用耕種作物 0.758 2.365 強前方 53 ウイスキー類 0.511 0.478 独立
10 飼料作物 0.975 2.507 Key 54 その他の酒類 0.607 0.293 独立
11 種苗 0.414 0.852 前方 55 茶・コーヒー 0.537 0.516 独立
12 花き・花木類 0.717 0.325 独立 56 清涼飲料 1.029 0.168 後方
13 他の非食用耕種作物 0.490 1.135 前方 57 製氷 0.840 1.401 Key
畜産 14 酪農 0.901 1.488 Key 飼料・有機質肥料 58 飼料 0.639 2.030 強前方
15 肉用牛 0.957 1.126 Key 59 有機質肥料 0.836 1.607 Key
16 1.138 1.511 Key たばこ 60 たばこ 0.208 0.000 独立
17 鶏卵 1.223 0.760 後方 繊維 61 紡績糸 0.545 1.710 強前方
18 肉鶏 1.413 1.518 Key 62 綿・スフ織物 0.729 0.448 独立
19 その他の畜産 1.085 0.528 後方 63 絹・人絹織物 0.872 0.136 後方
サービス 20 獣医業 0.499 0.184 独立 64 その他の織物 0.887 1.522 Key
21 農業サービス 0.675 2.219 強前方 65 ニット生地 0.611 0.732 独立
林業 22 育林 0.117 0.861 前方 66 染色整理 0.620 1.983 強前方
23 素材 0.656 2.717 強前方 67 他の繊維工業製品 0.798 0.829 後方
24 特用林産物 0.915 0.361 後方 68 織物製衣服 0.698 1.280 前方
漁業 25 海面漁業 0.505 1.058 前方 69 ニット製衣服 0.895 1.285 Key
26 海面養殖業 0.838 0.562 後方 70 その他の衣服 0.815 0.620 後方
27 内水面漁業・養殖業 0.763 0.871 Key 71 寝具 0.704 0.807 独立
食料品 28 食肉 1.974 0.511 強後方 72 床敷物 1.104 0.409 後方
29 酪農品 1.081 0.426 後方 73 他の繊維既製品 0.705 0.385 独立
30 その他の畜産食料品 1.045 0.186 後方 木材 74 製材 0.764 1.423 Key
31 冷凍魚介類 1.060 0.202 後方 75 合板・集成材 0.700 1.434 前方
32 塩・干・くん製品 0.809 0.239 後方 76 木材チップ 1.156 3.393 Key
33 水産びん・かん詰 1.024 0.176 後方 77 その他の木製品 0.781 1.220 Key
34 ねり製品 0.730 0.238 独立 78 木製家具 0.853 1.092 Key
35 その他の水産食料品 0.975 0.247 後方 79 木製建具 0.894 1.236 Key
36 精穀 1.503 0.425 後方 80 他の家具・装備品 1.029 1.226 Key
37 製粉 0.600 1.259 前方 81 パルプ 0.725 3.040 強前方
38 めん類 0.991 0.268 後方 82 洋紙・和紙 0.945 2.102 Key
39 パン類 0.848 0.108 後方 83 板紙 1.094 2.979 Key
40 菓子類 0.900 0.067 後方 84 段ボール 1.574 2.573 Key
41 農産保存食料品 0.906 0.174 後方 85 塗工紙・建設用紙 1.114 1.370 Key
42 砂糖 0.825 1.152 Key 86 段ボール箱 1.256 1.694 Key
43 でん粉 0.641 2.195 強前方 87 その他の紙製容器 0.811 1.485 Key
44 糖化製品 1.065 1.379 Key

バイオエコノミー部門は,非バイオエコノミー部門と比較して,マクロ経済との連関が強い.バイオエコノミー部門の内,28部門がKey部門に分類され,独立部門に分類されるのは15部門にすぎない.また,ΔBLksΔFLksの平均値は,バイオエコノミー全部門にわたる平均値が1.147と1.249に対して,非バイオエコノミー全部門にわたる平均値は0.958と0.930である2ΔBLksΔFLksk財の生産額による加重平均値は,それぞれ,バイオエコノミー部門1.170と0.928に対して,非バイオエコノミー部門0.806と0.728である.

バイオベース経済成長のために振興すべき部門を,Key部門に加え, Δ B L k s > 2.0 Δ F L k s 1.0 の強後方連関部門, Δ F L k s > 2.0 Δ B L k s 1.0 の強前方連関部門とし,表2において太字で示した. Δ B L k s > 2.0 Δ F L k s > 2.0 の基準は,Key部門では Δ B L k s + Δ F L k s > 2.0 Δ B L k s > 1.0 Δ F L k s > 1.0 が成立し,強後方連関部門や強前方連関部門でも,同様に Δ B L k s + Δ F L k s > 2.0 Δ B L k s > 2.0 Δ B L k s + Δ F L k s > 2.0 Δ F L k s > 2.0 が成立することを根拠にしている.

振興すべき部門を示そう.生物資源生産においては,「耕種農業」では,Key部門:麦類,豆類,砂糖原料作物,飲料用作物,飼料作物;強前方連関部門:その他の食用耕種作物,「畜産」では,Key部門:酪農,肉用牛,豚,肉鶏,「サービス」では,強前方連関部門:農業サービス,「林業」では,強前方連関部門:素材,「漁業」では,Key部門:内水面漁業・養殖業,である.重要農産物の米は,ΔBLks=0.943ΔFLks=1.732と,Key 部門や強前方連関部門に,わずかに達せず,経済成長のエンジンと考えることもできる.その他の食用耕種作物(生産額の89.6%がそば)は,前方連関効果が大きいのは,その需要のほとんどが中間需要だからである(96.8%).

生物資源利用においては,「食料品」では,Key部門:砂糖,糖化製品;強後方連関部門:食肉;強前方連関部門:でん粉,「飲料」では,Key部門:製氷,「飼料・有機質飼料」では,Key部門:有機質肥料;強前方連関部門:飼料,「繊維」では,Key部門:その他の織物,ニット製衣服;強前方連関部門:紡績糸,染色整理,「木材」では,Key部門:製材,木材チップ,その他の木製品,木製家具,木製建具,その他の家具・装備品,「紙」では,Key部門:洋紙・和紙,板紙,段ボール,塗工紙・建設用紙,段ボール箱,その他の紙製容器;強前方連関部門:パルプ,である.

結果の解釈にあたり,注意すべきことがある.第1に,ΔBLkΔFLkが大きいほど,k部門の生産1単位が,大きな付加価値を生むので有益というわけではなく,川上産業や川上産業に,より多くの生産を誘発するという意味で有益である.そのため,ΔBLkΔFLkが大きい部門の振興政策は,社会の理解を得やすい.第2に,2015年における部門間取引を,前提とした結果である.例えば,ペーパーレス化が進み,紙の中間需要が減少すれば,紙類がKey部門でなくなる可能性がある.第3に,BLあるいはΔBLkFLあるいはΔFLkは,生産額ベースに加え,所得,雇用,付加価値ベースなど,政策評価の目的に応じ,異なる指標により計測されるが3,最も一般的な生産額ベースよる分析にとどめ,その他の指標による分析は本研究の範囲外とする.

4. おわりに

(1) 先行研究との比較

バイオエコノミー部門のBLFLの計測には,前述したように,EUにおける先行研究があり,本研究の特徴を,それら先行研究と比較して述べよう.

用いたデータベースが異なる.先行研究はSAM(Social Accounting Matrix)を用いているが,本研究は産業連関表を用いた.SAMを用いることで,生産,分配,支出の経済循環を考慮できる.しかし,用いられたSAMは,公式なものではなく独自に推定したもので4,しかも,バイオエコノミー部門分類が32部門以下である.他方,本研究では,政府公表の産業連関表を用い,バイオエコノミー部門分類がより細分化された87部門である.

次に,検出されたKey部門を比較しよう.いずれの先行研究も,同様のデータベース(JRCによるAgoSAMsやBioSAMs)を用いている.そこで,比較対象をMainar Causapé et al.(2021)に絞る.Mainar Causapé et al.(2021)は,EU28か国を統合したBioSAMを用い,本研究と同様にHEMを用い,BLFLを計測している.Mainar Causapé et al.においてKey部門とされたのは,穀物,油糧種子,油脂植物,工芸作物,粗放的畜産,集約的畜産,酪農,漁業,酪農品,酪農品を除く飲食料品,バイオエネルギー,バイオ産業である.Mainar Causapé et al.と本研究では,部門分類が異なるので,直接比較はできないが,Key部門に共通点と相違点が認められる.本研究においても,同様にKey部門だったのは,穀物に含まれる麦類,工芸作物に含まれる砂糖原料作物,飲料用作物,粗放的畜産に含まれる肉用牛,集約的畜産に含まれる豚,肉鶏,酪農,漁業に含まれる内水面漁業・養殖業,バイオエネルギーに含まれる木材チップ,バイオ産業に含まれるその他の織物,ニット製衣服,製材,その他の木製品,木製家具,木製建具,その他の家具や装備品,洋紙・和紙,板紙,段ボール,塗工紙・建設用紙,段ボール箱,その他の紙製容器である.相違点は以下のとおりである.Mainar Causapé et al.では,油糧種子,油脂植物,酪農品がkey部門だが,本研究ではKey部門でなかった.またMainar Causapé et al.では,酪農品を除く飲食料品がKey部門だが,本研究では,飲食料品においてKey部門だったのは,砂糖,糖化製品,製氷に限定され,残りの27部門はKey部門でなかった.逆に,豆類,飼料作物,飼料,有機質飼料は,Mainar Causapé et al.ではkey部門ではないが,本研究ではKey部門であった.

(2) 政策的含意

最後に,分析結果から,政策的含意を考えよう.

まず,バイオエコノミー部門は,非バイオエコノミー部門と比較して,マクロ経済との連関が強く,経済政策をバイオエコノミー部門に傾斜すれば,経済成長を効率的に促すと言える.

次に,バイオベース経済成長のためのKey部門,強後方連関部門,強前方連関部門が関わるバイオエコノミー戦略を考えよう.

第1に,Key部門:麦類,豆類,砂糖原料作物,砂糖,有機質肥料;強前方連関部門:その他の食用耕種作物(主にそば),農業サービス,を振興し,持続的一次生産システムの確立による食料安全保障を,経済成長のエンジンとすべきだ.化学肥料の原料のほぼ100%を輸入に依存し(農林水産省,2024a),小麦,大豆,砂糖,そばの国内自給率は,2023年,それぞれ17%,7%,25%,28%にすぎない(農林水産省,2024b2024c).小麦,大豆,砂糖,そばの生産振興は,少なくない補助金が支出されているので,それら部門に生じる付加価値は限定的だが,後方・前方連関効果を通じ,他部門に誘発される生産が大きいので,食料安全保障と経済成長を両立すると言える.

第2に,Key部門:飼料作物,酪農,肉用牛,豚,肉鶏;強後方連関部門:食肉;強前方連関部門:飼料,を振興し,畜産物バリューチェーンの再構築による食料安全保障を,経済成長のエンジンとすべきだ.この戦略の要となるのは,飼料の供給基盤の強化と,食肉処理施設の更新・存続である.飼料の自給率は,2023年,27%にすぎない(農林水産省,2024d).他方,食肉処理施設が,老朽化などの課題に直面している(全国農業協同組合連合会,2024).

第3に,Key部門:内水面漁業・養殖業,を振興し,水産物の安定供給,淡水域の生物多様性の維持,内水面環境の保全,地域社会・文化の維持を,経済成長のエンジンとすべきだ.近年,内水面漁業の産出額は横ばいだが,内水面養殖の産出額はウナギを中心に増加傾向にある(水産庁,2025).

第4に,Key部門:糖化製品(ぶどう糖・水あめ・異性化糖);強前方連関部門:でん粉,における,バイオ製品の開発を,経済成長のエンジンとすべきだ.でん粉は,67%が糖化製品の原料として利用されるが,食品,繊維,製紙など用途が広い(農林水産省,2023).最近では,特定保健用途食品・機能性表示食品,医薬品,エタノール,生分解性プラスチックなど,用途が益々広がっている(中久喜,2021).

第5に,Key部門:その他の織物,ニット製衣服;強前方連関部門:紡績糸,染色整理,によるバイオベース繊維の普及や繊維製品のリサイクルを,経済成長のエンジンとすべきだ.化学繊維には,石油を原料とする合成繊維と,木材,てん菜,サトウキビなど生物資源を原料とするバイオベース繊維がある.バイオベース繊維は,カーボンニュートラルで,しかも生分解性を有する点で,環境に優しい(日本ファッション・ウィーク推進機構,2024).また,繊維製品のリサイクル率の改善の余地は大きく,2020年の15.6%から2020年の17.4%に上昇しているが(環境省,2023),依然として低い.

第5に,Key部門:製材,木材チップ,その他の木製品,木製家具,木製建具,その他の家具・装備品,洋紙・和紙,板紙,段ボール,塗工紙・建設用紙,段ボール箱,その他の紙製容器;強前方連関部門:素材,パルプ,を振興し,木材バリューチェーンの高度化による森林保全,再生可能なエネルギー・資源への代替による環境保全を経済成長のエンジンとすべきだ.具体的には,(1)スマート林業に取り組むことが考えられる.また,(2)木材チップのバイオマス燃料化が考えられる.エネルギー利用される木材チップは,ほとんどが廃棄物由来で,間伐材・林地残材等43%,製材等残材15%,建設資材廃棄物34%,輸入5%,その他3%である(農林水産省,2024e).また,(3)プラスチックから紙への代替が考えられる.プラスチックは,石油資源を原料とし,燃やすときに温室効果ガスが発生し,自然分解しない.そこで,紙ストローに見られるように,プラスチックから紙への代替が進んでいる.紙の利用は森林破壊と思われがちだが,製紙原料の66%は古紙である.残りの34%はパルプだが,植林木由来パルプ20%,製材残材由来パルプ6%で,森林破壊の原因となるのは,天然木由来パルプ2%,輸入パルプ6%にすぎない(日本製紙連合会,2023).

1  SAMが生産・分配・支出の3面から経済循環を描写するのに対して,産業連関表はそれらのうちの生産だけを描写する.

2  平均値の差のWelchのt検定を行った.帰無仮説H0は「バイオエコノミー部門と非バイオエコノミー部門においてΔBLks(あるいはΔFLks)の平均値は等しい」である.ΔBLks(t(122)=3.448, p=0.00)とΔFLks(t133)=2.813, p=0.01)のいずれにおいても,平均値に有意差が見いだされた.

3  生産額ベースのBLFLは,所得係数,雇用係数,付加価値係数(各部門産出1単位当たり,所得,雇用,付加価値)を用いれば,所得,雇用,付加価値ベースに換算できる.

4  Mainar-Causapé and Philippidiss(2018)は,Eurostat等 のデータを用い,(1)32部門のSAMを構築し,(2)そのSAMにおける農業部門と食料品部門を部門分割し,(3)バイオエネルギー部門やバイオ産業部門をそれらの親部門から分離し(例えば,ペレット部門は木製品部門から分離),高度に細分化されたBioSAMを推定している.

引用文献
 
© 2025 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
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