Journal of Rural Problems
Online ISSN : 2185-9973
Print ISSN : 0388-8525
ISSN-L : 0388-8525
Short Paper
An Empirical Study on the Effects of Agricultural Experiential Learning on Elementary School Students
Daisaku Shimada Sougo SuzukiTomohiko Ohno
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2026 Volume 62 Issue 2 Pages 71-77

Details
Abstract

This study examined the effects of agricultural experience programs on elementary school students. Questionnaires were administered at two intervention schools and one control school before and after their experiences in rice paddies. The effects were analyzed using the difference-in-differences method. The results indicate that students at the intervention schools showed significant increases in both their motivation to interact with local residents and their interest in living organisms within the rice paddies. In contrast, no significant changes were observed in other areas, such as interest in agriculture or attachment to the local community. These differences may stem from the program content. However, the five-point scale used in the survey may have had limited sensitivity to children’s perceptions due to ceiling effects. Moreover, the program’s effects may unfold over time, suggesting that the pre- and post-survey design may not have fully captured them. Improving measurement methods remains a challenge for future research.

1. はじめに

令和のコメ騒動と言われる現象の中,農業への注目度が近年まれにみるほど高まっている.報道はコメの価格に関することに集中しているが,農業の様々な役割について人びとの認知度を高め,日本社会と農業の関係を根本的に問い直すような議論を喚起する好機とも言える.しかし,このような議論を喚起するうえで問題となってくるのが人々と農業の関係性の遠さである.都市的ライフスタイルが浸透し,人びとが実感を伴いながら農業を理解する機会が少なくなっている.そこで,学校教育の一環として,実体験を通じて農業への理解を深める機会を提供する農業体験学習が注目される.

農業体験学習に関する農林水産省の施策が本格化したのは1990年代だとされている(山田,2016).その後2002年には「総合的な学習の時間」が導入され,全国の小・中学校で農業体験学習が広く実施されるようになった.しかし,農業体験学習の効果を定量的に把握しようとした研究は少ない.この点について一連の研究を展開してきた山田は「農業体験学習の教育的効果に関する研究の多くは,授業実践を対象にした定性的な効果の把握によるものであり,そうした研究は,教育的効果についての評価が調査者の主観的判断に委ねられており,その性格上,検証可能性と再現性が保証されているとはいいがたい(山田,2016:p. 11)」と指摘している.

こうした中,農業経済学の観点から,効果を定量的に把握した研究として次のようなものがある.山田(2006)は,全国の小学校教員を対象としたアンケート調査により,宿泊の有無,農家の協力の有無,環境との接触の有無といった取り組み方が,教育効果にどう関係するかを調べた.その結果,宿泊を伴う方が明るさや活気そして情緒の安定など精神面での効果が高く,農家の協力が得られている方が農業や地域への関心が高まり,環境との接触がある方が,生き物や食べ物への関心が高まるとしている.取り組み方と教育効果の関係は,合理的で解釈のしやすい結果となっているが,教員の評価というフィルターを介したことにより,そのような合理性のある結果が抽出された可能性がある.概して教育効果が積極的に評価されている調査結果と言えるが,体験学習を実施する側である教員の期待が含まれていないか十分に検討する必要があるだろう.

体験を行った児童への事後アンケートを実施したものとして山田(2008)がある.実施場所の違いが効果にどう影響を与えるのかを現場での参与観察と校長への聞き取りを組み合わせて調査している.校内で実施した場合には積極性や自主性が高まり,郊外へ日帰りで訪問した場合には自然・生き物への観察力や農業・農村への理解が深まり,泊りがけで農村を訪問した場合には心の安定性が高まるとしている.

さらに,体験の前後に児童を対象としたアンケートを実施したものとして山本(2008a2008b)が挙げられる.親子で参加する農業体験について調べたこの研究では,農村の自然や生き物に触れること,農作業の楽しさ,お米の出来方や農業について学ぶこと,参加者と話すこと等の項目で児童の意識が変化し(山本,2008a),気分や感情の面では,親子の怒りや不安が低下し心理的な保健休養効果がある(山本,2008b)としている.

他方,体験の有無による違いを児童アンケートによって調べたものとして大浦他(2009)がある.給食の調理方式が自校式か否か,県の食農教育モデル校に指定されているか否かが,児童の知識,行動,意向に影響を与えるかを群馬県の4つの小学校を対象に調べ,給食が自校調理式の方がセンター調理式よりも食や農の知識が高く,食農モデル指定校の方が非指定校よりも食や農の知識が高いとしている.

このように児童を対象にアンケートを実施し,定量的に効果を測ろうとする研究が行われてきたが,これらの方法で体験の効果が十分に測れたとは言い難い.農業体験学習の前後を比較しただけでは,その変化が体験による効果なのか,あるいはそれ以外の要因によるものなのかの区別がつかない.農業に関連したニュースの多寡などの社会的影響,さらには,児童の成長のように,時間の経過とともに一般的に起こる変化に起因するとも考えられる.一方,農業体験学習の実施の有無を比較するだけでは,その違いが体験の有無によるものなのか,もともと存在した違いなのかは区別がつかない.食や農に関する意識が高い地域だからモデル校に指定されたという可能性も排除できない.もともと意識が高い地域だから体験が実施されたという逆の因果関係の可能性である.

こうした問題点を踏まえて,より一歩進んだ手法で迫っているのが英・矢部(2014)である.英・矢部(2014)では,前後比較と体験の有無の比較を組み合わせる形で農業体験学習が環境意識と食習慣に及ぼす影響を分析している.この研究では,実施校の事後の結果が,実施校の事前の結果よりも有意に高く,なおかつ実施校の事後の結果が体験学習を実施していない学校よりも有意に高い場合に効果があったと解釈できると想定している.調査の結果,生き物や循環型の農業に対する意識に関しては効果があり,日常行動や食習慣に対しては効果がなかったとしている.

英・矢部(2014)の結果は大変興味深いが,さらなる検討の余地が残されている.前後比較が実施校でしか行われておらず,対照校では事後アンケートだけが行われている.このような設計の場合,実施校で観察された前後の変化は,対照校でも起こっているがもともと存在していた地域差により,実施校の事後の結果が対照校よりも高いという解釈も成り立つ.したがって,この方法で効果ありとしている場合においても,実際には一般的な成長と地域差の結果に過ぎない可能性がある.

本研究では,この点に関して,農業体験学習を実施する介入校と実施しない対照校の両方で前後比較を行い,前後の結果の差に,介入校と対照校で差があるかを調べる差の差分法(2節で詳述)を用い,因果関係の解明に接近する.本研究は,農業体験学習の効果を定量的に把握する農業経済学分野の研究の土台に立ち,それらを差の差分法を用いることによって一歩前進させるものである.

2. 研究の方法

(1)差の差分法

農業経済学や環境教育の研究では,農業や環境の分野における体験学習の効果を定量的に測定することが課題となっている.こうした効果の因果関係を解明するには,ランダムに処置を割り当てて,介入群と対照群を比較するランダム化比較試験が最も信頼性の高い方法として知られている.同時に,教育現場において,児童をランダムに介入群と対照群に分けて実験を行うという手法は,現場の制約や倫理的な観点から,採用し難いことも指摘されている.桜井(2024)は,世界中で行われてきた環境教育評価研究をレビューした研究によると,無作為に介入群と対照群を設けるようなランダム化比較試験を実施したような事例はほとんどなかったと指摘している.

そこで本研究では,奈良市の互いに隣接する公立小学校3校から協力を得て,2024年度に農業体験学習を実施する介入校2校,農業体験学習を実施しない対照校1校の児童に,田植え体験の前後および稲刈り体験の前後の計4回のタイミングでアンケートを実施し,差の差分法により効果を検証した.

差の差分法(Difference in Differences略してD-in-D)とは,介入群と対照群でそれぞれ介入前後のデータを取り,介入前後の差において,介入群と対照群に差があるかを調べるという簡潔な手法であり,近年の実証分析で広く活用されている(田中,2015).なお,この手法を用いるに際しては「介入群がもし介入を受けなかった場合,介入後のトレンドは,介入群と対照群で平行になっている」という仮定が成立していることが重要である(中室・津川,2017).しかし,介入群がもし介入を受けなかった場合のトレンドは誰にも分らないので,介入前の介入群と対照群のトレンドが平行であれば,この仮定が満たされている可能性が高いと考えられている.

本研究で扱うデータは,売上高のような時系列データではなく,児童へのアンケートのデータを用いている.児童は,田植えの前後と稲刈りの前後で4回のアンケートに回答しており,平行トレンドを確認するためにさらにアンケートを実施することは過重な負担となるため実施していない.その代わり,平行トレンドの仮定が満たされている蓋然性が高いと考えられる状況のもとで調査を実施した.具体的には,1校の対照校を挟み込む形で隣接する2校が介入校となっており,これら3校はいずれも公立小学校である.また,対象の学年も全て5年生とするなど,農業体験学習を実施するという介入の有無以外の点で条件が可能な限り統一されている.

(2)調査対象校の概要と農業体験学習の内容

調査対象となった3校はいずれも奈良市内の公立小学校で,農業地域類型では都市的農業地域とされるエリアに立地している.介入校のH小学校とA小学校が,授業の一環としてH小学校に隣接する水田で農業体験を実施した.この水田では,所有者の農家の協力を得て,2010年からH小学校5年生の全児童が田植えや稲刈りの体験学習を行っている.農業体験学習は,地区の地域教育協議会が主催し,ここ数年はA小学校も参加している.龍谷大学農学部地域農業・環境経済学研究室では,2022年度からこの取り組みに関わるようになった.

2024年度の農業体験学習では,各小学校とも,5年生の全児童がクラス毎に時間をずらしながら水田に訪れ,約1時間ずつ農業体験を行った.

6月初旬の田植えでは,児童が水田に入り,地域教育協議会の方々の指導の下,手で苗を植えた.その後,当研究室の学生らとタモ網と観察ケースを用いて水生の生き物観察を実施した(図1).

図1.

田植え体験で実施した生き物観察の様子

筆者らの参与観察では,児童は裸足で水田に入るのをためらうケースもあったが,多くの児童はすぐにその感触を楽しむようになり,先生が終了を告げても水田から出ようとしない児童も少なくなかった.また,生き物観察では,網をひとすくいするだけで,カブトエビ,ホウネンエビ,ガムシなどの多くの生き物が入り,そのユニークな姿を楽しそうに観察する姿が見られた.

稲刈りは,9月下旬に実施し,地域教育協議会の方が鎌を使って稲を刈る方法を指導し,児童が実際に刈り取り作業を体験した.その後,当研究室の学生らと生き物観察を実施した.捕虫網でバッタやトンボを捕獲して観察することに加えて,虫見板を用いて,数ミリの世界の生き物を観察した.株もとに虫見板を当てて穂を揺すり,落ちてきた生き物を虫眼鏡で観察した.

H小学校とA小学校が実施した農業体験学習は時期と場所および内容の面において同じものである.異なる点としては次の点が挙げられる.まず,H小学校は農業体験学習を実施した水田が校庭に面しており,日常的に目に入る環境であり,農業体験学習を主催しているこの地区の地域教育協議会との連携も活発である.他方,A小学校は直線距離で約2.7 km離れており,そのような環境にない.この点を踏まえ,田植えと稲刈りの間にあたる8月末に水田の様子を現地でレポートする動画を筆者らが作成し,A小学校では,各クラスが視聴した.加えて,田植え前と稲刈り後に筆者らがA小学校で出前授業を実施した.このようにH小学校とA小学校とでは,付随する細かな点が異なるものの,水田での体験学習の内容は同じであり,またアンケートの結果でも両小学校に有意な差はみられなかったため,これら2校を区別せず介入校として分析している.

対照校のS小学校は,H小学校とA小学校に挟まれる形で立地しており,介入校と可能な限り近い条件の学校である.

(3)アンケート調査の概要

アンケートは,これら3校でそれぞれ4度実施している.田植え1週間前,田植え直後,稲刈り1週間前,稲刈り1か月後の4回である.対照校のS小学校でも同じタイミングで実施した.アンケートでは,農業への関心,生き物への関心,地産地消への意欲,地域への愛着,地域の方との交流への意欲などについて5段階で回答する設問を,同じ内容で繰り返し,各体験の前後での変化を計測した.

アンケートはクラスごとに教室で実施し,無記名としたが,出席番号で個人ごとの変化を追跡できるようにした.介入校のH小学校とA小学校の5年生は30数名のクラスがそれぞれ3クラスずつあり,基本的には全員が農業体験学習を実施した.ただし,当日の欠席などの理由で体験学習を実施していない児童の回答は除外し,さらに,個人ごとの変化のデータを分析に使用することから,4回のアンケートにすべて回答している児童のデータのみを使用している.

対照校のS小学校は30数名のクラスが2クラスあり,同様に4回すべて回答した児童のデータだけを用いている(表1).

表1.

各小学校の有効回答数

介入群 対照群
H小学校 A小学校 S小学校
有効回答数 77 70 64

ただし,これらの回答の中でも特定の設問への回答が空欄であったり,性別を「答えたくない」と回答したりしている場合があるので,分析にどの設問への回答を用いるかによって有効回答数は若干異なる.

3. 結果

農業や生き物への関心や意欲を尋ねた計8つの設問への回答について,5段階の選択肢のうち「とてもある」など肯定的な回答から順に5,4,3,2,1の値をそれぞれ付与した.それぞれの関心や意欲に関する農業体験の効果を探索的に検討するため,合算するなどの処理をせず,各設問の値を被説明変数とし,介入校を表すダミー変数,介入後を表すダミー変数,両者の交差項を説明変数とする重回帰分析を実施した.

説明変数のうち,介入校を表すダミー変数と介入後を表すダミー変数の交差項の係数が差の差分に一致することが知られている(田中,2015).農業に対する関心や意欲などは,体験(介入)の有無以外にも,性別,家族に農業従事者がいるか否か,親せきに農業従事者がいるか否か,近所に農業従事者がいるか否か,普段から外遊びをどの程度しているか(5段階),自然豊かな場所がどの程度好きか(5段階),虫をどの程度好きか(5段階)の影響を受ける可能性が高いと考えられるため,これらを統制変数とした重回帰分析を行った.田植え前と稲刈り後の体験期間全体の結果(3.1節)と田植えの前後の結果(3.2節)の両方を示す.

(1)体験期間の全体を通じての効果

体験期間全体,すなわち田植え前と稲刈り後の変化を分析した結果を表2に示す.表中の「介入校×介入後」の行に,差の差統計量の係数が示されている.介入の効果が5%有意水準で認められた項目は,地域の方との交流への意欲だけであった.体験をすることで,交流への意欲が0.357ポイント高まったことを示している.生き物への関心は,回帰係数は0.415と高いものの,10%水準で有意になるにとどまった.それ以外の項目では体験の効果を示す有意な結果がみられなかった.

表2.

期間全体についての重回帰分析の結果

地域の方
との交流
への意欲
農業への関心 農作物への興味・関心 生き物への関心 地域への愛着 地域への
定住意欲
地産地消への意欲 家庭菜園への意欲
介入校ダミー 0.339*** 0.135 0.398*** 0.026 0.148 0.119 0.236** 0.109
(0.116) (0.132) (0.127) (0.164) (0.121) (0.127) (0.103) (0.141)
介入後ダミー −0.417*** −0.045 0.033 −0.450** 0.083 −0.117 −0.100 −0.150
(0.134) (0.154) (0.147) (0.191) (0.140) (0.147) (0.120) (0.163)
介入校ダミー×
介入後ダミー
0.357** 0.045 0.032 0.415* 0.099 0.082 0.043 −0.013
(0.160) (0.184) (0.176) (0.228) (0.167) (0.176) (0.143) (0.195)
性別 −0.120 −0.249** −0.197** 0.052 0.058 0.034 −0.151** −0.220**
(0.084) (0.096) (0.093) (0.119) (0.088) (0.092) (0.075) (0.102)
家族に農業従事者 −0.032 −0.003 0.041 0.214 0.227* 0.245* −0.043 0.054
(0.130) (0.148) (0.143) (0.185) (0.136) (0.143) (0.116) (0.158)
親戚に農業従事者 0.171** 0.287*** 0.064 −0.076 0.072 0.034 −0.019 0.141
(0.078) (0.089) (0.086) (0.111) (0.082) (0.086) (0.070) (0.095)
近所に農業従事者 0.079 0.083 0.123 −0.078 −0.264*** −0.340*** 0.065 0.289**
(0.092) (0.105) (0.101) (0.131) (0.096) (0.101) (0.082) (0.112)
外遊び 0.024 −0.016 0.011 0.005 −0.017 0.015 0.048** −0.046
(0.026) (0.030) (0.029) (0.037) (0.027) (0.029) (0.023) (0.032)
自然好き 0.392*** 0.456*** 0.475*** 0.203*** 0.295*** 0.221*** 0.336*** 0.514***
(0.052) (0.060) (0.057) (0.074) (0.054) (0.057) (0.046) (0.063)
虫好き 0.124*** 0.176*** 0.079** 0.558*** −0.036 −0.062* 0.058** 0.109***
(0.031) (0.035) (0.034) (0.043) (0.032) (0.034) (0.027) (0.037)
定数項 1.593*** 0.970*** 1.500*** 0.955*** 2.992*** 3.378*** 2.620*** 1.610***
(0.250) (0.287) (0.275) (0.355) (0.261) (0.275) (0.223) (0.303)
観測数 399 400 401 402 401 401 402 402
自由度調整済R2 0.266 0.235 0.211 0.389 0.086 0.053 0.163 0.216

1)回帰係数の右肩に付されたアスタリスク(*)は統計的有意性を示しており,*は10%水準,** は5%水準,*** は1%水準で有意であることを意味する.

2)各回帰係数の下の括弧内に標準誤差を示している.

次に統制変数を見てみると,性別(男子=1とするダミー変数)は農業への関心や農業への学習意欲に影響を与えており,女子であることが正の影響を与えている.また親せきに農業従事者がいることが,農業への関心に正の影響を与え,近所に農業従事者がいることが,地域への愛着や地域への定住意欲に負の影響を与えている.また,自然が豊かな場所がどの程度好きかは,全ての項目において1%有意水準で正の効果を示しており,係数の値も高い.

(2)田植えの前後での効果

次に田植えの前と後の変化を分析した結果を表3に示す.介入の効果は,地域の方との交流への意欲,および,生き物への興味・関心で表れており,係数もそれぞれ0.340(有意水準5%)と0.648(有意水準1%)と比較的高い結果となった.全期間に関する分析と同様に,それ以外の項目に関しては,体験の効果を示す有意な結果は見られなかった.統制変数に関しては,全期間と同様の傾向がみられた.

表3.

田植え前後の期間に関する重回帰分析

地域の方
との交流
への意欲
農業への関心 農作物への興味・関心 生き物への関心 地域への愛着 地域への
定住意欲
地産地消への意欲 家庭菜園への意欲
介入校ダミー 0.319*** 0.115 0.389*** 0.024 0.134 0.129 0.239** 0.111
(0.113) (0.138) (0.123) (0.167) (0.126) (0.125) (0.100) (0.137)
介入後ダミー −0.183 −0.050 0.050 −0.300 0.083 0.033 −0.017 0.000
(0.131) (0.160) (0.142) (0.194) (0.146) (0.145) (0.116) (0.159)
介入校ダミー×
介入後ダミー
0.340** 0.192 0.051 0.648*** 0.002 0.094 0.066 0.043
(0.157) (0.191) (0.170) (0.231) (0.174) (0.173) (0.138) (0.190)
性別 −0.087 −0.295*** −0.170* 0.052 0.087 0.018 −0.172** −0.267***
(0.083) (0.100) (0.089) (0.121) (0.091) (0.091) (0.072) (0.100)
家族に農業従事者 −0.064 0.191 0.053 0.370** 0.290** 0.281** 0.005 0.073
(0.127) (0.155) (0.137) (0.188) (0.141) (0.140) (0.112) (0.154)
親戚に農業従事者 0.158** 0.232** 0.096 0.032 0.142* 0.057 0.050 0.101
(0.077) (0.093) (0.083) (0.113) (0.085) (0.084) (0.067) (0.093)
近所に農業従事者 −0.053 0.145 0.137 −0.205 −0.344*** −0.278*** 0.068 0.304***
(0.090) (0.110) (0.097) (0.133) (0.100) (0.099) (0.079) (0.109)
外遊び 0.059** −0.016 −0.010 −0.005 −0.042 0.005 0.023 −0.026
(0.026) (0.031) (0.028) (0.038) (0.028) (0.028) (0.022) (0.031)
自然好き 0.313*** 0.413*** 0.508*** 0.217*** 0.287*** 0.264*** 0.320*** 0.464***
(0.051) (0.062) (0.055) (0.075) (0.056) (0.056) (0.045) (0.062)
虫好き 0.159*** 0.190*** 0.100*** 0.538*** −0.026 −0.081** 0.042 0.106***
(0.030) (0.036) (0.032) (0.044) (0.033) (0.033) (0.026) (0.036)
定数項 1.759*** 1.140*** 1.350*** 0.955*** 3.065*** 3.249*** 2.792*** 1.802***
(0.245) (0.298) (0.264) (0.361) (0.271) (0.269) (0.215) (0.296)
観測数 395 402 401 402 402 402 402 402
自由度調整済R2 0.256 0.224 0.258 0.385 0.083 0.071 0.155 0.193

1)回帰係数の右肩に付されたアスタリスク(*)は統計的有意性を示しており,*は10%水準,**は5%水準,***は1%水準で有意であることを意味する.

2)各回帰係数の下の括弧内に標準誤差を示している.

4. 考察

本研究では,差の差分法を用いて小学校における農業体験学習の効果を分析した.田植え前と稲刈り後の比較では,地域の方との交流への意欲が介入校で有意に向上していた.また,田植えの前後の比較では,地域の方との交流への意欲および田んぼの中にいる生き物への興味・関心が介入校で有意に向上していた.他方,農業への関心,地産地消への意欲,地域への愛着等の項目においては有意な効果がみられなかった.こうした違いはプログラムの内容に起因すると考えられる.農業体験では,地域教育協議会の方から様々な形で話を聞く機会を設けており,生き物観察においては学生が関わって児童が興味を持てるよう工夫した.他方,農業への関心や地産地消への意慾は,一般的には受け入れ農家や地域の農家にとって,効果が期待される項目と言えるであろう.こうした項目で効果が高まるプログラムとはどのようなものかを探求することは今後の課題である.

本研究の結果は,他の先行研究と比べると効果が確認出来た項目が限定的なものとなった.その要因として考えられる点は幾つかあるが,ここでは次の3点を指摘しておきたい.

1つ目は,差の差分法という先行研究よりより厳密な手法を取ったことである.介入群と対照群双方の体験前後の児童の意識や関心の差の大きさに着目する本手法は,体験学習とは無関係に起こる意識の変化やもともと意識が高い地域が体験に取り組んでいる場合の影響などを除外できるため,既存の研究手法よりも効果の判定が厳格になる手法だと一般的には言える.今回の結果がこうした手法の違いによると言えるかはさらなる検討が必要であるが,1つの可能性として指摘しておきたい.

2つ目は,本研究が採用した5段階の評価尺度では天井効果により児童の意識を十分に捉えられなかった可能性である.実際,体験前の平均値が4点台を上回っていた項目が半数を超えており(例えば,地域への愛着:4.23,地産地消への意慾:4.51),たとえ体験によって意識が高まっていたとしても,与えられた5段階の選択肢では表現できなかった可能性がある.ロイヤルティ(愛甲他編,2016:p. 162)に関する質問を設定するなどして,測定の仕方の工夫を行うことは,残された課題となった.

3つ目は,効果の表れる時間軸の問題である.今回のアンケートでは,2つの体験の前後である4つの時点でのその瞬間の児童の意識を把握しようとした.そのため,体験がもたらす長期的な効果は,実際に存在したとしても,本調査では補足できない.小学校の教員や地域教育協議会のメンバーからも,こうした体験は長く児童の記憶に刻まれるので,大人になってから効果が発現することもあるという旨の発言が相次いだ.体験がもたらす長期的な影響を測ることも今後の課題である.

謝辞

本研究を行うにあたり多くの方々にご協力頂いた.まず,奈良市立H小学校,A小学校,S小学校の児童の皆さんには,4度にわたるアンケートに答えて頂いた.また,上記小学校の先生方,およびH中学校区地域教育協議会の皆さまには,インタビューを快くお受け頂いただけでなく,結果のとりまとめの段階で有益なご助言を頂いた.ご協力頂いた全ての皆様にこの場を借りてお礼申し上げたい.

引用文献
 
© 2026 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
feedback
Top