Yearbook of Asian Affairs
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2013 Volume 2013 Pages 245-264

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2012年のラオス 問題を抱えながらも強気な姿勢が目立つ

概況

2012年,ラオスはあらゆる面で強硬な姿勢を示した。政治では,5月に「複数政党制」導入の声を抑え込み,12月には言論の自由を求めたスイスのNGO代表を国外退去とした。また同じく12月には,2005年のマグサイサイ賞受賞者であり,社会活動家のソムバット・ソムポーン氏が何者かに拉致される事件が起きた。政府は関与を否定しているが,ラオスが人民革命党による一党独裁体制であることを改めて印象づけた出来事といえる。経済ではGDP成長率が8%を超え高成長を維持している。ただ外国投資が増える一方で,住民との土地紛争が後を絶たない。外交では,ベトナムと外交関係樹立50周年を迎え特別な関係が確認された。その裏では中国への依存が深まった。また,近隣諸国や国際社会の反対を押し切り,メコン川本流へのダム建設を進めるなど強気な姿勢も目立った。

国内政治

「3つの建設」運動

2月15日,政治局は「県を戦略単位に,郡を全分野における強力な単位に,村を開発単位に建設することに関する決議第03号」を公布した。通称「3つの建設」(サームサーン)運動である。チュアン党宣伝・訓練委員会委員長は「3つの建設」を,(1)新しい時代の革命,(2)基層(村など末端レベルを指す)の主体性の向上,(3)新たな段階への開発の推進だと述べている(Pasason,2012年11月26日付)。これには,一部の権限を中央から地方に委譲することで地方の主体性を向上させ,かつ国家管理を効率的に実施することで基層開発を促進し,貧困削減を達成しようというねらいがある。2000年3月にも「県を戦略単位に,郡を計画・予算単位に,村を執行単位に建設することに関する首相指導書第01号」が公布されたが,成果は上がらなかった。今回改めて最高権力機関である政治局から決議が公布されたことは,基層開発に対する党の強い意志の表れといえる。また文書の名称変更からもわかるように,郡の役割をより強化したことが特徴である。

今回の決議第03号は,今後のラオスの政治・行政改革にとって非常に重要な意味を持っている。というのは,「3つの建設」は中央・地方関係を根本的に変革する要素を含んでいるからである。具体的には,県や郡に常駐するセクター組織(農林や保健など省庁の出先機関)の長の任命権を,大臣から県知事と郡長にそれぞれ委譲するなど,1993年に公布され現行の行政管理メカニズムを規定した政治局決議第21号の改正を視野に入れている。まずは10月1日から1年間の予定で,全国の17都・県,51郡,105村において試験的に実施され,その後全国展開される予定である。

カムプイ党中央執行委員,「複数政党制」導入を提言

2012年5月,カムプイ・パンマライトーン党中央執行委員・国家社会科学院院長が,雑誌『社会科学』第6巻第11号に「複数政党制」導入を提言する論文を掲載した。カムプイは2011年6月の第7期第1回国会でも,イデオロギー教育を批判し多元的な教育内容の導入を訴え話題となっていた。

今回の論文でカムプイは,党を制限するメカニズムがないため,党は社会や法を超えた存在となり,独裁は腐敗を導いてしまうと指摘した。一方でカムプイは,複数政党制は競争を通じて,また野党や社会の監視を受けることで支配政党が自己改革を行い,社会の要望に適宜対応することを可能にし,さらには人々も適切な人物を選出できる制度だと主張した。そして,婉曲的表現ながらも複数政党制の導入は不可欠とし,人民革命党の現状に危惧を表明したのである。

この背景には,党が抱える汚職や不正,また経済格差や土地問題などがある。論文の内容から判断すると,カムプイは一党支配体制を完全に否定し「民主化」を求めているのではなく,これらの問題解決のために検査や競争メカニズムの導入を訴えていると理解できる。事実カムプイは「民主化」という表現は使用していない。また,人民行動党の一党支配が続いているものの,複数政党制による競争的選挙を行っているシンガポールの例を取り上げており,複数政党制による「競争的権威主義体制」への移行を視野に入れているとも考えられる。しかし彼の真意がどうあれ,カムプイが現在の党のあり方に限界をみていることは間違いない。

この論文に対して,チュアン党宣伝・訓練委員会委員長が5月22日付の党機関紙Pasason(人民)に論説を掲載し,カムプイの主張に真っ向から反論した。5月下旬,カムプイは党中央執行委員会から降格し,8月には国家社会科学院院長からも外れた。ただし国会議員としては職にとどまっている。完全にパージされなかった理由はいくつか考えられるが,やはり彼の真意が「民主化」ではなくあくまで党の改革を通じた問題解決にあったからではないだろうか。いずれにしろ,カムプイ論文は公刊後すぐに回収されたため一般市民の目にほとんど触れることはなく,この問題は静かに幕引きが図られた。

NGO代表の強制退去とソムバット事件

12月7日,外務省はスイスのNGO団体ヘルヴェタス・スイス・インターコーポレーション(Helvetas Swiss Intercooperation)の代表アン・ソフィー・ジャンドロ(Anne-Sophie Gindroz)に対する48時間以内の国外退去処分を発表した。理由は,彼女が在ラオスのドナーコミュニティに対して,ラオスでは民主的議論の余地がなく,NGOの活動を抑制していると体制を批判する文書を送ったためである。翌週15日には,著名な社会活動家で2005年のマグサイサイ賞受賞者であるソムバット・ソムポーン氏が,何者かに拉致される事件が起きた。帰宅途中に警察の検問に呼び止められ,その後何者かに連れ去られたのである。その一部始終が防犯カメラに映っておりYouTubeでも公開されている。国際社会から疑惑の目を向けられたラオス政府は,12月19日に声明を発表し政府の関与を否定したうえで,事件は個人的トラブルが原因ではないかとの見解を示した。しかし,ソムバット氏にはとくにトラブルはないといわれており,反体制活動を行っていたわけでもない。アメリカやEUなども懸念を表明し,政府に対して真相究明を求めている。

別々にみえるこれら2つの事件は,実は関連性が疑われている。2人は10月に行われた第9回アジア欧州市民フォーラム(AEPF)の運営に携わっていた。同フォーラムでは,ゴムの植林が村人の生活向上に寄与すると主張した政府に対し,国内NGOが土地問題を取り上げ反論する場面があった。その後この発言者は政府関係者から嫌がらせを受けたともいわれている。アン・ソフィー氏の文書はこの問題を受けて発信されたものである。ソムバット氏がこの問題に直接関与していたかは不明だが,一部政府関係者が,国際舞台の場で面子を潰された責任を氏に転嫁した可能性は十分考えられる。2つの事件は,経済自由化が進んでいる一方で,指導部の政治的姿勢には変化がないことを明確に物語っている。

国会特別会議の開催――中国=ラオス高速鉄道プロジェクトの承認

10月18日,国会は1992年以来となる特別会議を開催し,政府が中国輸出入銀行から約70億ドルを借り入れ,中国=ラオス高速鉄道プロジェクトを実施することを承認した。当初,中国企業との合弁による実施が予定されていたが,中国側が投資回収の可能性が低いと判断し撤退したため,ラオスが単独で実施することになった。採算が疑問視されるプロジェクトの承認をこのタイミングでとりつけたのは,翌月に温家宝首相の来訪を控えていたためであり,いわば非常に高度な政治判断が働いたといえる。

融資条件の詳細は今後の協議に委ねられるが,ラオスは政府保証により30年の特別融資(10年間の元本返済免除,金利2%)で借り入れ,返済には鉄道事業のすべての収入と資産,2つの鉱物資源プロジェクトからの全収入を充てるなど,すでに厳しい条件が付されている。ラオスは現在でも35億ドルの対外債務を抱えており,これに70億ドルが加算されればGDP(約90億ドル)を優に超えてしまう。国際機関などは本プロジェクトが経済に悪影響をもたらすとし,懸念を表明している。

経済

高成長と順調な外国投資

世界銀行の推計によると,2012年のGDP成長率は8.2%と前年を0.2ポイント上回った。インフレ率は年初の6.7%から10月には3.5%まで低下した。また2011/12年度の財政赤字も前年度の対GDP比2.7%から2.3%へと縮小した。ただ,公務員給与引き上げにより2012/13年度は財政赤字の拡大が見込まれている。

一方,世界銀行は2012年の貿易赤字を約13億ドル(輸出は28億4500万ドル,輸入は41億6200万ドル)と予想している。2010年の4億2400万ドル,2011年の8億2700万ドルから大幅に上昇していることがわかる。これは外国投資の増加に伴う燃料,建設資材,車輌の輸入増が原因とみられている。

政府によると,2012年の国内外の投資は合わせて約25億9300万ドルであり,民間投資が3億5600万ドル,公共投資が6800万ドル,外国投資(合弁含む)が21億6800万ドルであった。最大の投資分野は鉱物部門で54件(17億7000万ドル),第2位はエネルギー部門で10件(3億9500万ドル),次いで農業部門43件(2億3600万ドル),サービス部門12件(6700万ドル)となっている。エネルギー・鉱物部門だけで20億ドルの投資である。エネルギー・鉱業省によると,2011/12年度の同部門の総生産は17兆9191億キープと前年度比18.79%増となり,GDPの12.3%を占めた。電力は約111億kWh,4億6996万ドル相当を輸出した。

順調な経済成長の一方で,都市と農村の格差や土地問題などがますます深刻化している。また8月には,ラオスでカジノ事業を展開するマカオ資本のサナム・インベストメント(Sanum Investment Ltd.)がラオス政府を相手取り,4億ドルの不法接収を行ったとして世界銀行の投資紛争解決国際センター(ICSID)に提訴するという事件も起きた。ラオスは世界銀行によるビジネス環境のランキングDoing Business 2013でも163位にとどまっており,投資やビジネス環境の整備はいまだに大きな課題である。

賃金引き上げ

1月1日から非熟練労働者の最低賃金が34万8000キープから62万6000キープ(約80ドル)に引き上げられた。しかし諸手当を含めて新規法定額を満たすなど消極的な対応をとる企業も多く,労働者からは不満の声が上がっている。また,民間給与との格差を埋めるため公務員給与も引き上げられた。5月30日付で首相令第221号が公布され,10月1日より給与が37%引き上げられ,手当が1人につき76万キープ支払われることとなった。2013/14年度は現行の91%,2014/15年度には167.5%引き上げられることがすでに決定している。しかし給与引き上げに伴い事業費や経費を削減された省庁もあり,財源の確保が課題となっている。

労働者不足問題と不法外国人労働者の取り締まり

労働者不足が問題となり政府が対応に乗り出した。とくに縫製産業は,輸出額を現在の年間1~2億ドルから2015年に5億ドルに拡大するとしており,そのためには6万人の労働者(2011年比で3万人増)が必要だとしている。労働者不足は,タイへの出稼ぎ,季節労働者による定着率の低さ,また社会の高学歴化が進み労働市場における需要と供給がマッチしなくなったことなどが理由である。とくに都市部では高学歴が高収入を保証すると考えられるようになり,学歴ブームといえるほど大学進学が当然となっている。しかし企業が求めるのは,工場労働者や職業訓練学校卒業者などの技術をもった人材である。現在ラオスには教育省管轄下に22の職業訓練学校やセンターがあり,年間1万5000〜7000人の受け入れ能力を有するが,2011年の卒業者は1万人と受け入れ能力を大きく下回っている。政府は大学入学を制限し,職業訓練学校入学者への奨学金を増やすなどの対応をとっているが,問題の解決は難しい。

一方,不法外国人労働者への規制も強化された。政府は,まず首都ヴィエンチャンで試験的に,(1)卸売業,小売業,縫製業,畜産業などに携わり事業価値が10億キープ以上の不法外国人労働者への滞在登録を許可し,(2)事業価値が10億キープ未満2億5000万キープ以上の者には2年間の猶予期間を与え,(3)基準額に達しない者は滞在を許可しないとする政策を実施する。しかし不法外国人労働者の多くは,行商,爪研ぎ,美容室,鉄屑収集などを行っており,平均的な事業価値は3000〜4000万キープ程度である。そのほとんどはベトナム人と中国人である。政府がどの程度厳格に規制を実施するかは不明だが,背景には失業率を低下させラオス人の収入向上を図ろうというねらいがある。しかしラオス人が参入を好まない職業も多く,規制強化がラオス人の収入向上につながるとは限らない。

悪化する土地問題

ソムディー計画・投資大臣は6月の第7期第3回国会において,2015年末まで鉱物資源関連のプロジェクトや,ゴムやユーカリ栽培のための新規土地コンセッション(国土の使用権や事業にかかる建設,操業,採掘権などを供与すること)の審議を中止すると発表した。しかし政策発表後も投資認可は行われており,土地問題は一向に解決の兆しがない。たとえばカムアン県では,土地収用への政府補償額に納得しない住民が,他県の第三者に解決を依頼しようとした際に逮捕され,2カ月以上拘留される事件が起きた。アッタプー県でもベトナム企業が土地問題を引き起こしている。首都ヴィエンチャンのタートルアン湿地帯開発プロジェクトは,一部住民が土地補償額で行政と合意していないにもかかわらず建設が開始された。さらにタラートサオ・ショッピングモールでは,新規開発に伴う立ち退き条件に不満を示した商人たちが集会を開催し,行政に対して不満をぶつけた。このような直接行動は極めてまれであるものの,開発に伴う土地を巡る紛争が政治問題化しており,政府は迅速かつ公正な対応を求められている。

9号線鉄道プロジェクト

11月,マレーシア企業ジャイアント・コンソリデイテッド(Giant Consolidated Ltd.)が,サワンナケート県からベトナム国境までの国道9号線沿いに鉄道を建設することでラオス政府と合意した。建設期間5年,総工費50億ドル,土地コンセッション期間は50年であり,沿線に物流倉庫やホテルなども建設する巨大プロジェクトである。政府は,この鉄道建設により雇用が増えラオスが輸送・物流の連結国になると主張するが,9号線が東西経済回廊として期待通りの効果を上げていない現状を考慮すれば,非常に楽観的な見通しといえる。外国投資と鉄道欲しさに安易なインフラ建設を行うのではなく,いかに9号線をラオスに利するよう開発していくか,長期的戦略をもったインフラ整備が望まれる。

サイニャブリーダム問題

前年に引き続き,2012年もサイニャブリーダム建設計画が問題となったが,政府はこの問題に対して強行姿勢を貫いている。ダムはサイニャブリー県のメコン川本流に建設が予定されている総工費約35億ドルのプロジェクトである。建設はタイの建設大手チョー・カンチャン社(Ch. Karnchang Public Co. Ltd.)が請け負い,電力の95%はタイ発電公社(EGAT)が購入する。ラオスには29年のコンセッション期間で39億ドルの収入がもたらされる予定である。下流に位置するタイの諸県,ベトナム,カンボジア,また国際NGOなどは,生態系や下流域住民の生活に悪影響を与えるとして批判を強めている。しかしラオス政府は,魚の回遊を可能にするため設計を貯水型から流し込み式に変更し,かつ魚梯を設け,また排砂システムを導入することで土砂流の問題も解決できるため,生態系への影響を最小限に抑えられるとし批判を一蹴している。11月7日,ラオスは起工式を開催し建設を正式に開始した。

対外関係

新たな段階を迎えた対ベトナム関係

両国は,外交関係樹立50周年,友好協力条約締結35周年を迎えた2012年を「友好・団結年」と位置づけ,さまざまなイベントを開催するとともに頻繁に指導層の相互訪問を行った。2月,チュオン・タン・サン・ベトナム国家主席が来訪した。チュームマリー党書記長・国家主席との首脳会談では,若者世代に両国の特別な団結の歴史を普及することで合意した。両国は2010年から,両国の特別な団結は次世代に引き継ぐ価値ある関係と位置づけている。同じく2月,トーンシン首相がベトナムを訪問しグエン・タン・ズン首相と会談した。ズン首相が今回の訪問は両国の包括的協力関係,とくに経済,貿易,投資分野の関係促進に寄与すると述べたのに対し,トーンシン首相はベトナム企業がラオスで投資を行うための最適な環境を整えると約束した。またズン首相は,4月にベトナムを訪問したソムサワート副首相と会談した際,ベトナムは常にラオスとの伝統的友好関係,特別な団結関係,また包括的協力関係の強化を最優先事項としており,両国関係は次世代に継承されるべき貴重な財産であると述べた。7月には首都ヴィエンチャンで「2012年ベトナム・ラオス友好・団結年」祝賀会が行われ,ベトナムからはレ・ホン・アイン政治局員が参加した。2012年の締めくくりとして12月末,チュームマリー党書記長・国家主席がベトナムを訪問した。グエン・フー・チョン・ベトナム共産党書記長との首脳会談では,ベトナム・ラオス友好・団結年に実施された事業を総括し,国民の多くが両国の特別な団結の重要性について理解を深めたとの認識で一致した。

経済でもベトナムのプレゼンスが高まっている。1月,政府はベトナム企業ロンタイン・ゴルフ投資・貿易株式会社(Long Thanh Golf Investment and Trading Joint Stock Co.) が首都ヴィエンチャンで建設するゴルフコースと複合不動産施設を,特定経済区に引き上げることを承認した。7月にはベトナム企業ホン・クアン社(Hong Quang Work Construction & Real Estate Investment Co.)とラオス企業ヴィエンチャン・トレード(Vientiane Trade Co. Ltd.)の合弁企業が,首都ヴィエンチャンのサントン郡で3000万ドルの金・銀採掘事業を開始した。8月には,ベトナム企業2社がセコーン県とアッタプー県に水力発電所を建設することでラオス政府と合意した。総額は約4億ドルである。ベトナムはラオスに対しこれまで429件,49億ドル相当の投資を行っており,投資額では第1位となっている。政府報告によると,ベトナムによる投資は主に不動産,電力,農業・森林,鉱物部門に行われ,件数の約80%,投資額の約93%に相当するプロジェクトが中部・南部の8県に立地し,とくに首都ヴィエンチャン,サワンナケート,アッタプー,チャンパーサック県に集中している。北部で影響力を拡大する中国に対し,ベトナムは中部,南部で影響力を強めている。

依存を深める対中国関係

2012年はラオスの中国への依存を印象づけた年となった。5月,トーンシン首相は中国を訪問し温家宝首相と会談した。両首脳は,両国の友好関係や全面的な協力関係が両国人民に利益をもたらしてきたとし,「包括的な戦略的パートナーシップ」を高く評価した。そして今後も「良き友,良き同志,良き隣国,良き協力パートナー」との方針に基づき,関係を発展させることを確認した。またこの機会に中国は,国際会議場の建設に5000万元の追加支援を行うと発表した。6月,賀国強中国共産党政治局常務委員が来訪した際,セーバンヒアン1,2水力発電所建設に関する覚書,ナムカン3水力発電所建設へのソフトローン供与,ナムウー水力発電所建設に関するコンセッション協定などに締結した。9月,トーンシン首相は第9回中国・ASEAN博覧会(CAEXPO)出席のため南寧を訪問し,習近平国家副主席と会談した。ラオス側はこの席でカムアン県の灌漑事業について支援を要請した。

11月にはアジア欧州会合第9回首脳会合(ASEM9)出席のため温家宝首相が来訪した。この会議は,国際社会におけるラオスの名声を高める絶好の機会となった一方で,各国にラオスの中国依存を印象づける結果となった。メイン会場は中国の支援4億5000万元により建設され,会議前には引き渡し式が開催された。また,首脳の席順も国名順に関係なく,議長国ラオスの隣に中国が配置されるなど中国への配慮が明らかであった。温家宝首相と会談したトーンシン首相は,ラオスが中国との関係をこれまで以上に拡大し,とくにガバナンスについて中国から学びたいと述べている。さらに中国は,6000万元の無利子融資,鉄道に関する協力,衛星通信計画への2億4500万ドルの特別融資,光ケーブル敷設への5億8950万元の特別融資,国家開発銀行によるナムウー水力発電所への7億7000万元の融資,国家開発銀行によるラオス開発銀行への2000万ドルの信用供与などに合意し,13の文書を締結した。

経済関係も深化している。5月,「ヴィエンチャン・ニューワールド」(Vientiane New World)計画が発表された。これは中工国際工程股份有限公司(CAMCE Investment)が6億ドルを投資し,首都ヴィエンチャンにレジャー施設や住居などを含む複合施設を建設する事業である。貿易関係も順調に拡大し,貿易総額は2010年の10億5000万ドルから2011年には12億8000万ドルとなった。とくにラオスにとって重要なのは雲南省との経済関係である。ラオス・雲南貿易は2011年に2億6500万ドルとなり,両国間貿易全体の約2割を占める。また,2011年6月までに125の雲南省企業がラオスに進出し,7億4000万ドルの投資を行っている。投資・貿易関係が拡大したことを受け,6月には中国工商銀行(ICBC)が元建て口座の開設許可を獲得し,ラオス唯一の人民元決済行となった。

クリントン米国務長官来訪

7月11日,アメリカのクリントン国務長官が来訪しトーンシン首相と会談した。滞在は4時間と短かったが,アメリカの国務長官来訪は57年ぶりであり,両国関係の改善にとって重要な1日となった。オバマ政権は戦略的基軸をアジアにシフトしており東南アジアへのコミットメントを強めている。背景には中国への牽制という側面もあるが経済的関心も高い。9月には在タイ・アメリカ商工会議所(AMCHAM)がラオス支部を設立している。今後ますますアメリカ企業のラオス進出が予想される。

プレゼンスを高める韓国

近年,韓国のプレゼンスが高まっている。7月,トーンシン首相が韓国を訪問し李明博大統領と会談した。両首脳は両国関係の進展を高く評価し,エネルギー・資源セクターでの協力拡大などについて話し合った。また訪問中にラオス投資セミナーが開催された。韓国はこれまでに7億4800万ドルの投資を行い,ベトナム,タイ,中国に次いで第4位となっている。2月には,コーラオグループ(Kolao Group)がサワンナケート県に車部品・生産組立工場の建設起工式を行った。2013年からピックアップトラックの生産を始める予定である。10月,セーピアン・セーナムノイ電力株式会社がラオス政府とコンセッション協定に調印した。同企業には韓国企業SKエンジニアリング&コンストラクション(SK Engineering & Construction),コリア・ウェスタン・パワー(Korea Western Power)が参加している。また同プロジェクトに対しては,韓国輸出入銀行がアジア開発銀行と共同で4億2000万ドルの融資を提供し,さらにラオス側出資分について韓国経済協力基金(EDCF)が7300万ドルの有償支援を行う。韓国は今回初めて輸出入銀行と協力基金を活用した複合型融資により,ラオスのエネルギー部門に参入してきた。今後,韓国企業による同部門への参入が進む可能性がある。

電力とインフラ整備が中心となるタイ関係

5月,第21回世界経済フォーラム東アジア会議参加のためタイを訪問したトーンシン首相は,インラック首相と会談した。両首脳は第5メコン友好橋建設,ヴィエンチャン=ノンカーイ鉄道橋建設に関して協議し,タイが道路建設やパクセー空港修繕に対して約9億バーツの融資を行うことで合意した。6月にはヴィエンチャン=ノンカーイ鉄道拡張工事に対して,タイ政府が4億9500万バーツの無償援助,11億6000万バーツのソフトローンを提供することでラオス政府と合意している。しかしラオスがタイの建設会社と契約すること,原材料の50%をタイから輸入することなどの条件が付されている。

2013年の課題

2013年はすべての面において安定的かつ着実な改革が求められる。政治では,「3つの建設」に即した行政管理メカニズムの構築が課題である。また,土地問題への対応は急務であろう。一部の国民はすでに直接行動にでており,対応を誤れば体制を揺るがしかねない。さらに2013年は,2016年開催予定の第10回党大会に向けて人事が動く時期でもある。まずは政治の安定が最優先といえる。経済では,2013年2月にWTOに正式加盟を果たしたため,自由市場経済へのさらなる対応が求められる。WTO加盟の恩恵を享受するには,労働者不足の解消,天然資源依存からの脱却,製造業の育成など解決すべき課題は多い。中国,ベトナム,タイの3カ国に偏った対外経済関係の改善も課題である。外交でも,経済関係と同様に多角化が求められている。また,サイニャブリーダム問題には慎重に対応しなければならない。ラオスは強気な姿勢を崩していないが,特別な関係にあるベトナムは決して賛成していない。対越関係だけでなく近隣諸国との関係悪化はラオスにとってマイナス要因でしかない。2012年,ラオスはあらゆる面で強気な姿勢をとり国際社会の批判を受けた。他国の支援があって初めて経済開発を進め貧困削減が達成できるということを,ラオスは再度肝に銘じる必要がある。

(地域研究センター)

重要日誌 ラオス 2012年
  1月
3日 第34回経済・文化・教育・科学技術に関するラオス・ベトナム政府間会合,開催(~7日)。
3日 ベトナムのロンタイン・ゴルフ投資・貿易株式会社(Long Thanh Golf Investment and Trading Joint Stock Co.),ゴルフコースと複合不動産施設開発プロジェクトを特定経済区に引き上げることでラオス政府と合意。
9日 首都ヴィエンチャン,社会問題防止に関する会議開催。トーンシン首相が窃盗,売春,汚職,不法貿易,麻薬問題の増加に懸念を示す。
  2月
2日 ベトナムのVietinBank,首都ヴィエンチャンに支店を開業。
6日 韓国のコーラオグループ(Kolao Group),サワンナケート県で車部品・生産組立工場建設起工式開催。
9日 チュオン・タン・サン・ベトナム国家主席,来訪(~11日)。
15日 政治局,「県を戦略単位に,郡を全分野における強力な単位に,村を開発単位に建設することに関する決議第03号」を公布。
22日 第5回ラオス・中国経済・貿易・技術協力委員会会合,開催。中国がラオスに対し国際会議場建設への1億5000万元無償支援,5000万元の無利子融資を行うことなどで合意し,6つの文書に調印。
23日 トーンシン首相,ベトナム訪問(~26日)。
23日 中国の支援による国際会議場建設起工式,開催。
  3月
5日 プービア・マイニング社,2011年に利潤税2500万㌦をラオス政府に納めたことを発表。
12日 政府官房,「愛国と開発」というスローガンの下での貧困削減を目的とした「競争・顕彰運動」を開始。
13日 シリントン・タイ王女,来訪(~14日)。
15日 党中央検査委員会党委員会書記任務委譲式,開催。ブントーン・チットマニーが書記に就任。
20日 第17回ラオス・タイ協力合同委員会会合,開催(~21日)。
30日 ラオス・中国(雲南省)経済・貿易協力推進会議,開催。
  4月
5日 ソムサワート副首相,ベトナム訪問(~10日)。
7日 南部パクセーでラオス・ベトナム貿易フェア,開催。
8日 在ラオス・ベトナム投資家協会,フアパン県支部設立大会開催。
9日 カンボジアのプノンペンでメコン川委員会会合開催。ベトナムとカンボジアはラオスが進めるサイニャブリーダム建設プロジェクトを批判。
21日 第4回日本・メコン首脳会議,東京で開催。トーンシン首相が参加。
23日 ラオス・ベトナム議会協力関係,団結と友好会議,ベトナムのソンラー省で開催(~24日)。パニー国会議長が参加。
26日 第9回全国組織会議,開催(~28日)。チュームマリー党書記長・国家主席が政治思想の低下を防ぎ党の強化を訴える。
  5月
9日 フアパン県,9番目の郡としてクワン郡を新たに設置。
14日 第9期党中央執行委員会第4回総会,開催(~18日)。「愛国」と「開発」を連携させた貧困削減政策の実施や「3つの建設」運動の促進などを協議。
21日 中国の中工国際工程股份有限公司(CAMCE Investment),首都ヴィエンチャンドンチャン地区の大規模不動産開発に6億㌦を投資する「Vientiane New World」計画を発表。
22日 チュアン党宣伝・訓練委員会委員長,党機関紙Pasason(人民)に複数政党制に反対する論説を掲載。
27日 トーンシン首相,第1回中国(北京)国際サービス貿易交易会出席のため中国を訪問(~29日)。
30日 政府,国家公務員給与引き上げに関する首相令第221号を公布。
31日 トーンシン首相,第21回世界経済フォーラム東アジア会議出席のためタイを訪問 (~6月2日)。インラック首相と会談。
  6月
10日 タートルアン湿地帯特定経済区建設プロジェクトに関する住民説明会,開催。
10日 賀国強中国共産党政治局常務委員, 来訪(~12日)。
19日 タイの『バンコクポスト』,タイ・ランパン県で反ラオス政府グループの活動が活発になっていると報道。
20日 第7期第3回国会,開会(~7月13日)。2つの新法(犯罪者引渡し法,立法法),5つの改正法(民事訴訟法,刑事訴訟法,スポーツ・体育法,国有資産法,国家監査法)を承認し,農林法改正案を審議。
25日 ソムディー計画・投資大臣,2015年末まで鉱物プロジェクト,ゴム,ユーカリ植林に関する新規土地コンセッションプロジェクトの審議中止を発表。
26日 ラオス人民革命青年団,「4つの突破」の具体化に関するワークショップを開催。青年団のモットーを「2つの統一,3つの善,4つの開発」から「4つの突破」に変更。
  7月
3日 グエン・シン・フン・ベトナム国会議長,来訪(~5日)。
4日 トーンシン首相,韓国訪問(~5日)。
9日 国家会計監査機構長任務委譲式。ヴィエントーン前財政副大臣が新機構長に就任。
11日 クリントン米国務長官,来訪。
16日 ブンニャン国家副主席,ベトナム訪問(~20日)。
18日 「2012年ベトナム・ラオス友好・団結年」祝賀会,首都ヴィエンチャンで開催。
19日 首都ヴィエンチャン商工会議所設立。
  8月
15日 ラオスでカジノ事業を展開するサナム・インベストメント(Sanum Investment Ltd.),ラオス政府を相手取り4億㌦の不法接収について世界銀行投資紛争解決国際センター(ICSID)に提訴。
15日 サイゴン・ハノイ銀行(SHB),チャンパーサック県パクセー郡に支店を開業。
23日 月例閣僚会議開催(~24日)。中国=ラオス高速鉄道プロジェクトに関する進捗状況を報告。
28日 計画・投資省,ベトナム企業2社にセコーン3,セッカマン4水力発電所建設を認可。投資総額は約4億㌦。
  9月
10日 社会の否定的現象解決に関する路線策定会議,サワンナケート県で開催。ルアンパバーン県,サワンナケート県,チャンパーサック県,首都ヴィエンチャン代表が参加。
17日 内務省,「3つの建設」に関するセミナー開催(~19日)。10月1日から15省が職員を基層に派遣すると発表。
19日 在タイ・アメリカ商工会議所(AMCHAM),首都ヴィエンチャンに支部を設立。
20日 トーンシン首相,第9回中国・ASEAN博覧会(CAEXPO)に出席するため中国を訪問(~23日)。
27日 ラオス外国商業銀行(BCEL)と中国ユニオン・ペイ(中国銀聯),全面的な協力で合意。
  10月
1日 「3つの建設」運動の試験的実施を開始。期間は2013年9月30日まで。
2日 グエン・シン・フン・ベトナム国会議長,第7回アジア・欧州議員会議(ASEP)参加のため来訪。
8日 ベトナム共産党大衆工作委員会,ハノイで動員業務に関する研修を行い,ラオスから17県の建設戦線代表と国家建設戦線代表が参加(~20日)。
13日 在ラオス・ベトナム投資家協会設立8周年記念式典,開催。
16日 第9回アジア欧州市民フォーラム(AEPF),首都ヴィエンチャンで開催(~19日)。
18日 国会特別会議,開催。中国=ラオス高速鉄道プロジェクトを承認。
26日 WTO,ラオスの加盟を承認。
  11月
1日 ラオス天然資源・環境省,ベトナムホーチミンパラゴム株式会社がチャンパーサック県コーング郡でゴム栽培を行うことを認可。
3日 ロンタイン・ヴィエンチャン特定経済区オープン。
4日 アジア欧州会合第9回首脳会合(ASEM9)出席のため温家宝首相が来訪。
5日 マレーシア企業ジャイアント・コンソリデイテッド(GCL),9号線(ラオス=ベトナム)の鉄道建設でラオス政府と合意。投資額は50億㌦。
5日 ASEM9,首都ヴィエンチャンで開催(~9日)。
5日 中国政府,国際会議場のラオス政府への引き渡し式開催。
7日 サイニャブリーダム建設起工式,開催。
11日 ラオスとベトナムの党中央組織委員会,党建設に関する理論と実践学術セミナー開催(~16日)。
11日 第12選挙区カムアン県,国会議員補欠選挙を実施。ポンサネー候補が当選。
15日 トーンルン副首相・外相,特別代表として中国を訪問(~17日)。劉雲山政治局常務と会談し,習近平総書記へのチュームマリー党書記長・国家主席のメッセージを伝える。
26日 第9期党中央執行委員会第5回総会,開催(~30日)。各経済部門の企業状況などを協議。
  12月
5日 第7期第4回国会,開会(~19日)。4つの新法(証券法,灌漑法,電子取引法,多様な形態の輸送に関する法),7つの改正法(陸上輸送法,陸上交通法,環境保護法,国防義務法,反汚職法,刑法第146条,薬物法第75条,76条)を承認し,加工業法を審議。
7日 外務省,スイスのHelvetas Swiss Intercooperation在ラオス代表アン・ソフィー・ジャンドロ氏の国外退去を命じる。
9日 第7期第4回国会,WTO加盟を批准。
12日 2012年ラオス・ベトナム友好団結年国家級祝賀式典,サワンナケート県セポーン郡で開催。
13日 みずほコーポレート銀行,邦銀で初めてラオスの外国商業銀行(BCEL)と業務協力協定を締結。
15日 2005年のマグサイサイ賞受賞者で社会活動家のソムバット・ソムポーン氏,何者かに拉致される。ラオス政府は関与を否定。
22日 タートルアン湿地帯特定経済区開発プロジェクト,建設開始。
25日 チュームマリー党書記長・国家主席,ベトナム訪問(~28日)。
31日 2012年ラオス観光年閉幕式,開催。2012年の観光客数311万人,収入は4億5000万㌦と発表。

参考資料 ラオス 2012年
①  国家機構図(2012年12月末現在)
②  政府主要人名簿(2012年12月末現在)

(注) は女性。

③  ラオス人民革命党政治局員

(注) は女性。

④  国民議会(国会)

(注) は女性。

⑤  司法機構

主要統計 ラオス 2012年
1  基礎統計
2  GDP成長率と物価上昇率
3  産業別国内総生産(実質:2002年価格)
4  主要農作物生産高
5  主要品目別貿易
6  政府財政
7  国際収支
 
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