2014 Volume 2014 Pages 133-168
2013年の中国は,全国人民代表大会(全人代)を経て,習近平が中国共産党総書記,中央軍事委員会主席,国家主席の主要3ポストのトップに就任して中国の最高指導者となり,目下のところ権力の基盤固めに注力している。
国内政治は,国務院機構改革をはじめとする行政改革や,汚職腐敗の撲滅のための「党の大衆路線の教育実践活動」の実施,「中央全面深化改革指導小組」の創設の決定などを通じて,改革を全面的に推進する方針が打ち出された。その一方で,社会の矛盾に対する不満が募り,集団抗議行動が激化しているなかで,習近平政権は党内外における思想・言論に対する厳しい取り締まりを行っている。
国内経済は,大幅な失速が危惧されるなか,2012年と同じ7.7%成長を維持した。しかし,これは,中国政府が目指している消費の拡大によって実現したものではなく,投資依存の経済成長という従来のやり方によるものだった。一方で,中国政府は,改革・開放をいっそう推進すべく,中国(上海)自由貿易試験区(上海自由貿易区)を設立したり,中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(第18期3中全会)で市場の機能を重視する姿勢を示した。中国政府は,成長か改革かという二者択一ではなく,双方の実現を求められるという,非常に難しい舵取りに直面している。
対外関係は,尖閣諸島の領有権問題をめぐって日中関係が悪化の一途をたどるなかで,中国政府は東シナ海上空に防空識別圏の設定を発表した。米中関係に関しては,両国関係を「新たな大国関係」と位置づけることによって,中国がアメリカに並び立つ超大国であることを国際社会に強くアピールした。
2012年から2013年にかけて中国は政権移行期を迎えた。これまで10年間続いてきた胡錦濤政権が任期満了となり,新しく習近平政権が誕生した。2012年11月,中国では第18回党大会が開催され,その直後の中央委員会においては中央政治局常務委員会委員7人が選出された。2013年3月5~17日には全国人民代表大会(全人代)が開催され,習近平が国家主席・国家中央軍事委員会主席に,李克強が総理に就任した。また,3月3~13日には中国人民政治協商会議(政協)第12期全国委員会第1回会議が開催されて国務院の主要人事が決定するとともに,江沢民前国家主席の側近と目されている元上海市党委員会書記の兪正声が政協主席に選出された。さらに,最高人民法院院長(最高裁長官)には,胡錦濤と同様,共産主義青年団の出身である湖南省党委員会書記の周強が選出された。
全人代第1回会議第4回全体会議において「国務院機構改革・職能転換プラン」が可決されたことは注目を集めている(賛成2857票,反対56票,棄権26票)。同プランには,(1)鉄道部の廃止と交通運輸部への編入と国家鉄道局の設立,(2)衛生部と国家人口計画出産委員会の廃止と国家衛生計画出産委員会の新設,(3)国家食品薬品監督管理局の廃止と再編,(4)国家広播電影電視総局と国家新聞出版総署の廃止と国家新聞広電総局の新設,(5)国家海洋局,農業部漁政局,公安部海上警察,及び税関総署の海上警備部門の統合と国家海洋局としての再編,(6)国家エネルギー局と国家電力監督管理委員会の統合と再編といった6項目の統廃合が示された。
これに関して,3月17日に全人代閉会後の記者会見において李克強は「市場ができることは多くを市場に移管し,社会ができることは社会に引き渡して,政府は政府が管理すべきことを管理する」と述べて,「小さな政府」を目指すために行政改革を積極的に推進していく方針を示した。
党内外における思想・言論統制の強化習近平政権下の中国では思想や言論面における党内外の言論統制が強まっている。2013年1月初旬には,地域メディアを管轄する広東省共産党委員会宣伝部が週刊紙『南方週末』の新年号を事前検閲して改ざんしたことが大きな問題となった。問題となったのは,リベラルな報道で人気を集めてきた『南方週末』の1月3日付「中国の夢,憲政の夢」と題する正月特集記事である。当初の紙面は「憲政の夢が実現されて初めて人民の自由を守ることができる」として,「憲政」,すなわち憲法に基づく民主的な政治や自由・平等の実現の必要性などを説く内容の記事となっていた。だが,「憲政」を論じることを問題視した同省党委員会宣伝部が検閲を行い,「中華民族の偉大な復興」の日は近いといった中国共産党を賛美する内容に急きょ差し替えたのである。これに対して,同月4日には記者が広東省党委員会宣伝部幹部の辞任を要求する声明を発表するとともに,公然と抗議活動を行った。また,ネット上にも批判の声が拡大して,同問題に対する当局介入を支持する中国共産党傘下の『環球時報』に対する不買の声が高まった。さらに,全国の記者,弁護士,知識人などが言論の自由を求めて抗議の声を上げた。
世論の強い反発を重くみた広東省党委員会書記の胡春華は,『南方週末』の事前検閲中止を受け入れ,抗議した現場の記者を処罰しないという穏便な方法で問題を収拾しようとした。胡春華は次世代の有力な指導者候補であることから注目が集まった。だが,その後,当局は同紙に対する監視体制をかえって強めている。
それ以降,習近平政権は党内外における思想や言論に対する統制を強化する姿勢を示している。その一環として,5月上旬には党中央弁公庁は「目下のイデオロギー領域の状況に関する通達」(9号文件)を関係部門に送り,憲政,人権,報道の自由といった考え方を否定する方針を示した。それと同時に,全国の大学や知識人に対して,「七不講」(7つの禁句),すなわち,(1)人類の普遍的価値,(2)報道の自由,(3)公民社会,(4)公民の権利,(5)党の歴史的過誤,(6)特権階級の権益独占や腐敗,(7)司法の独立,についての議論を禁じる通達を出したことが明らかとなった(New York Times,2013年8月20日)。また,8月下旬には,習近平が全国思想宣伝工作会議の場で「イデオロギー工作は党にとって非常に重要な任務である」として,言論統制をいっそう強化する方針を公式に示した。さらに,10月には国内の記者25万人を対象として「マルクス主義報道観」や「中国の特色ある社会主義」を含む6項目の試験に合格しなければ,2014年の記者証の更新を許可しないという,当局による異例の方針が明らかにされた。
汚職腐敗の撲滅と「党の大衆路線の教育実践活動」の推進2013年3月の全人代における中国最高人民検察院の活動報告のなかで,2012年までの過去5年間に収賄や横領などで立件された公務員が21万8639人(省長級は30人,局長級が950人)に上り,5年前よりも立件数が1万人以上増加しており,汚職腐敗の撲滅が進んでいない現状が明らかになった。
汚職腐敗に対する社会の不満が募っている現状をふまえて,習近平は共産党幹部の綱紀粛正に注力している。1月22日,習近平は中央紀律検査委員会全体会議で「(大物の)トラも(小物の)ハエも叩き,不正の風潮,腐敗を解決する」と述べ,蔓延する汚職腐敗に対する中央から末端に至るまでの厳格な取り締まりを行う決意を示した。その一環として,習近平政権は「党の大衆路線の教育実践活動」という政治学習キャンペーンを積極的に推進している。同キャンペーンの狙いは,党幹部の汚職腐敗が蔓延して大衆の人心が乖離することを危惧し,大衆を重視して,党が大衆のなかに入って国内の諸問題を解決することにより,党の求心力を高めることにある,とされている。さらに,党幹部の贅沢な接待の禁止や倹約の徹底など税金の無駄遣いを禁止する「八項目の規定」や,腐敗撲滅のための「四風」(4つの風潮)の一掃などを提唱している。
4月19日の習近平が主宰する中央政治局会議では全党を挙げて同活動を拡大することが決定された。また,6月18日には党の大衆路線をめぐる教育実践活動工作会議が実施されて,中央政治局常務委員7人全員が出席した。同会議において習近平が重要講話を行って「党が人心を失えば存亡の危機を迎える」と強い危機感を示したうえで,「大衆路線は我が党の生命線である」とした。さらに,「党内における大衆との乖離現象は数多く存在し,形式主義,官僚主義,享楽主義,贅沢浪費の『四風』として表われている。これに対しては徹底的に調べて,修正し,一掃しなければならない」として,党員に対する綱紀粛正の徹底を指示した。さらに,7月からは中央政治局常務委員全員が一斉に地方の農村や工場などを視察して「党の大衆路線の教育実践活動」を本格的に始動させた。
薄熙来の裁判の決着と新たな権力闘争の火種8月22日,収賄,横領,職権乱用の罪で起訴された薄熙来元中央政治局委員兼重慶市党委員会書記の初公判が山東省済南市の中級人民法院(地方裁判所)で行われた。国内外の注目を集めた同裁判の開廷にあたっては,裁判所付近に会見場が設置されて,中国版ツイッター「新浪微博」(ウェイボー)が法廷内のやりとりを逐一中継した。さらに,1審,2審ともに法院の報道官が異例の記者会見を行うことを通じて,当局は裁判の公正や透明性をアピールすることに腐心した。しかし,実際には「新浪微博」に対する検閲が行われていたことがまもなく明らかになった。
薄被告は初公判で起訴内容を全面的に否認して,自らを「政治闘争の敗者」であるとして汚名返上を図ろうとした。しかし,9月22日に行われた判決公判では,無期懲役が言い渡されるとともに,政治的権利の終身剥奪と全財産没収の判決が宣告された。薄熙来はただちに上訴したものの,棄却されて10月末には判決が確定した。もともと薄熙来の逮捕の背景には,重慶市党委員会書記時代の「唱紅打黒」(革命歌の歌唱とマフィアの取り締まり)などの派手なキャンペーンを通じて大衆の支持を広く集め,それを後ろ盾として「政変」を企て党中央指導部の地位を得ようと目論んでいたことがあったとする権力闘争説もある。仮にそのような説が正しいとすれば,習近平政権はそういった権力闘争説が広く社会に流布することによって,中国国内に混乱が巻き起こることを避け,あくまでも汚職腐敗に問題の焦点を当てて,懲役刑で処分するという選択をしたとの見方もできる。また,11月の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)の開催直前に同裁判に決着をつけて政治的混乱を避ける格好となったともいえる。
その一方で,権力闘争の新たな火種が生まれている。薄熙来に近い存在と目されてきた元中央政治局常務委員の周永康の周辺では逮捕者が相次ぎ,石油利権に絡む汚職腐敗問題をはじめとする数々の疑惑が取り沙汰されている。8月26日には,周の出身母体である中国石油天然気集団公司(CNPC)の王永春副総裁が「重大な紀律違反」の容疑で事情聴取を受けていることが判明した。江沢民とも関係が深い周永康にまで捜査の手が及ぶかどうかが今後注目される。
鬱積する社会の矛盾に対する不満と集団抗議行動の激化中国では社会の矛盾に対する不満が鬱積している。2013年度版の中国社会科学院の『中国社会情勢の分析と予測』(社会青書)によれば,中国国内では集団抗議行動(群体性事件)が毎年数万件から十数万件発生している。また,集団抗議行動の原因の約半数が土地収用問題によるもので,20%が環境問題,30%が労働争議であるという分析結果が示されている。また,同青書には触れられていないチベット族やウイグル族による民族独立運動や反政府運動も実際には後を絶たない。習近平政権は,政権基盤を揺るがしかねない抗議活動に対する取り締まりを強化している。
10月28日,北京の天安門前にウイグル族3人が乗った新疆ナンバーの車両が突入するという事件が発生した。同車両は天安門に向かって直進した後,毛沢東の肖像画前の橋の欄干に衝突して炎上して5人が死亡,42人が負傷した。同事件は天安門広場の毛沢東の肖像画の目前で起きたことから,貧富の差や社会の矛盾に強い不満を持つ人物の犯行とみられていたが,同月30日,公安当局は同事件をウイグル独立派による組織的かつ計画的な「テロ」であると断定した。
さらに,11月6日,山西省太原市の党委員会庁舎前で連続爆破事件が発生して,1人が死亡,8人が重軽傷を負った。爆破の標的とされた建物は共産党地方政府の中枢であった。同月8日には容疑者の男が拘束され,「爆発を起こして社会に報復をしたかった」と動機を語っていることが明らかになった。同容疑者は過去に窃盗罪で懲役9年の判決を受けており,不公正な司法に強い不満を募らせていたのではないかという憶測も流れている。
いずれにせよ,今回,天安門での車両炎上事件や山西省党委員会庁舎前での連続爆破事件は,政府を標的としつつも,市民をも巻き込んだ無差別の殺傷事件となったという点において前例がない。今後,このような無差別の殺傷事件が負の連鎖として中国国内で再び発生することが危惧される。今回の事件はいずれも中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)を目前にして起こった事件であったため,共産党指導部は警戒感を強めた。11月8日には国務院が「突発事件への緊急対応方法」を関係当局に通知して,中国全土の警備を強化した。
「国家安全委員会」と「中央全面深化改革指導小組」の創設国内の不穏な動きに対する厳戒態勢のなかで,11月9日から4日間にわたって開催された中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)では,政治分野における新たな決定がなされた。とくに,11月12日に採択された「改革の全面的な深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」のなかに盛り込まれた,「国家安全委員会」と「中央全面深化改革指導小組」の創設が注目される。
「国家安全委員会」の創設にあたっては,「国家安全保障体制と国家安全保障戦略を整備して国家の安全を確保する」ことが掲げられ,軍・外交・公安・情報などの政府関係機関などを包摂した新たな機関を設置する方針が3中全会の決定のなかで示された。中国当局は「国家安全委員会」の創設の目的をいまだ明らかにしていないものの,アメリカの国家安全保障会議(NSC)を意識した外交や国家の安全保障問題を扱う機関となるという見方がある一方で,最近の中国国内における不穏な動きをふまえて,その制圧や治安維持強化を主な目的とするものであると指摘する声もある。
「中央全面深化改革指導小組」については,「改革の全体設計,統一的な調整,全体的な推進,実行督促を担当する」として,同小組が中心的な存在となって,中央から末端までにわたる国内の政治・経済改革を推進していく方針が示された。また,12月30日の中央政治局会議において,習近平が同小組のトップになることが新たに判明した。これによって,習近平が改革の主導者となることが国内外に示された。
無人探査機による月面着陸の成功12月14日,中国が四川省の西昌衛星発射センターから打ち上げた無人探査機「嫦娥3号」が月面着陸に成功した。探査機による月面への軟着陸は中国にとっては初の偉業となり,アメリカ,旧ソ連の成功に次いで,第3番目となった。「嫦娥3号」は,無人探査車「玉兎号」とともに,数カ月にわたって,月面の画像撮影や地質調査等を行った。また,月面着陸の成功に先立って,6月には有人宇宙船「神舟10号」を打ち上げ,無人宇宙実験船「天宮1号」と2度目の有人ドッキングにも成功している。
中国は,1992年に有人宇宙飛行計画「921計画」を正式に発表して以来,宇宙開発に注力してきた。2003年には初の有人宇宙船「神舟5号」の打ち上げに成功した。翌2004年には月面探査計画「嫦娥プロジェクト」を開始して,2007年には月周回衛星「嫦娥1号」を,2010年には月により接近した軌道を周回する「嫦娥2号」を打ち上げた。今回の「嫦娥3号」の月面着陸の成功を踏まえて,採取したサンプルを地球に持ち帰ることや,独自の宇宙ステーションの運用開始を目指している。中国は宇宙開発の積極的な推進によって大国としての存在感を国際社会に誇示するとともに,国威発揚によって中国国内における新政権の求心力を高めようとしているものとみられる。その一方で,中国の宇宙開発によって,月の資源獲得や宇宙技術の軍事転用などを危ぶむ声も国際社会の間で広がっている。
2013年の国内総生産(GDP,速報値)は,56兆8845億元(1元=17.18円)となり,同成長率は実質で前年比7.7%だった。この成長率は政府目標の7.5%を上回り,2012年のそれと同水準だった。7.7%という伸び率はその他の国と比べれば依然高成長だが,2000年代半ばの10%以上の伸び率や,2008年のリーマン・ショック以降の9%以上の伸び率と比べれば鈍化している。政府はリーマン・ショックやヨーロッパ債務危機などによる経済減速を拡張的な財政・金融政策などで乗り切ってきた。しかし,景気刺激策への依存は物価の高騰を招いたり,経済構造の歪みを助長しかねないことから,財政政策は引き続き拡張的ではあるものの,従来の成長路線を完全に踏襲することの弊害が大きくなっている。そこで,政府は従来の高成長路線とは異なる安定成長路線への転換を模索している。政府は,ある程度の成長を維持することで失業率の上昇などによる社会不安を招かないようにしながら,同時に,経済改革の深化によって路線転換を図るという難しい舵取りが求められている。
実質GDP成長率の推移をみると,2013年前半は経済が減速したものの,年後半になんとか回復した。2012年の第4四半期は前年同期比(以下同様)7.9%増で終えたが,2013年の第1四半期は7.7%増,続く第2四半期は7.5%増へと減速した。世界経済の力強い回復が期待できないなか,国内でも生産能力の過剰問題が出るなど,停滞感がただよった。2013年の輸出額は前年比7.8%増ではあるが,期待されたほどには伸びず,なかでも6月は前年同月比3.3%減少した。しかし,年後半は,第3四半期に経済成長率が7.8%増,第4四半期に7.7%増へと回復した。鉄道建設や住宅建設などの経済安定化措置が打ち出されたことで,景気の持ち直しに成功することができた。しかし,この事実は,基本建設投資や不動産開発などに依存した従来の成長路線を変えられなかったことも示しており,路線転換の難しさを露呈するかたちとなった。
積極的な景気刺激策をとりにくい背景には,物価上昇の懸念もある。2013年は金融緩和策をとらなかったこともあり,消費者物価指数(CPI)は前年比2.6%の伸びにとどまった。政府目標の3.5%前後を大幅に下回り,マクロ経済の安定化に成功した。2011年のCPI上昇率は景気刺激策によって5.4%となったが,2012年からは落ち着きをみせている。ただし上昇率にはばらつきもある。2013年のCPIは都市では2.6%,農村では2.8%の伸びとなった。商品ごとにみると,食品価格が前年比4.7%上昇となり,比較的高かった。なかでも食料(穀物,イモ類,豆類)価格は4.6%上昇,野菜価格は8.2%上昇となった。一方で,肉類のなかでもっとも消費量の多い豚肉については,0.3%上昇にとどまった。豚肉価格は2011年に高騰したものの2012年以降は落ち着いている。
中国人民銀行は,大幅な緩和も引き締めも行わない「穏健」(中立的)な金融政策を実施した。政策金利である貸出基準金利(1年物)は6%のまま変更がなかった。同金利の変更は2012年7月に0.31ポイント引き下げられたのが最後だった。預金準備率(大手金融機関)も20%のまま変更がなかった。同準備率の変更は,2012年5月に0.5ポイント引き下げられたのが最後だった。金融緩和策がとられなかったため,マネーサプライ(M2)残高は前年比13.6%増の110兆65億元にとどまった。リーマン・ショック後の2009年は前年比で27.7%も増加したが,その後は伸びが小さくなっており,2013年の伸び率は2012年のそれを0.2ポイント下回った。
習・李新政権の経済改革2013年は,習近平国家主席と李克強総理の新政権が本格スタートし,さまざまな政策が打ち出された。まず,新しい都市化(「新型城鎮化」)政策に注目が集まった。2012年12月の中央経済工作会議では,2012年の経済を総括するとともに都市化政策も含めた2013年の経済政策が議論された。都市化政策は都市に住む人口を増やすとともに都市の質を向上させようというものである。政府は都市化による内需拡大,とりわけ消費の拡大を期待している。都市化政策そのものは目新しいものではないが,従来の政策は不動産開発に偏ったものであったため,都市住民と農村住民の間の所得格差は解消されないまま不動産価格の上昇ばかりを招来してしまったという反省が政府にはあった。そこで,習・李政権は従来の「土地の都市化」ではなく,「人の都市化」を目指して,戸籍(「戸口」)に由来する差別を段階的に解消していこうとしている。具体的には,小規模都市で戸籍の規制を撤廃することや出稼ぎ労働者が都市で生活するうえでの差別をなくすことを考えている。また,大都市への人口流入は引き続き規制しつつも小規模都市や町の発展を促進しようとしている。しかし,戸籍制度の改革は人の移動のみならず,地方財政にも大きな負担をもたらすため,政府としては慎重にならざるをえない。詳細な計画は2013年3月5~17日の第12期全国人民代表大会第1回会議のあと,年前半には発表されるとの見通しもあったが,最終案は公表されなかった。最初の「中央都市化工作会議」が12月12~13日に開催され,本格的な動きは2014年以降に持ち越しとなった。
2013年半ばには,バークレイズ・キャピタルのレポートで「リコノミクス」(Likonomics)と名づけられた李克強総理の経済政策が,世界の注目を集めた。その中身は,(1)景気刺激策に頼らない,(2)影の銀行(シャドーバンキング)の問題に対処する,(3)規制緩和を主体として構造改革を実施する,というものであった。つまり,マクロ経済の安定化と規制緩和を通じた改革を目指したものである。(1)の施策の背景には,リーマン・ショック以降,政府が拡張的な財政・金融政策によって従来の経済構造の矛盾を温存させたという反省がある。そこで,リコノミクスでは安易に景気刺激策をとらないこととした。(2)の施策は2013年に大きな注目を集めた金融問題に対するものである(後述)。(3)の施策は経済改革を深化させることでさらなる経済成長を目指そうというものである。2000年代に入って規制で保護された産業の国有企業が成長を加速させた一方で,民間企業は成長が減速するという「国進民退」が問題視されるようになった。そのため,新政権が既得権者の抵抗を排し,さらなる改革を本当に実施できるか否かは大きな課題である。
改革を目指した流れとしては金利の自由化もある。これまで,銀行の貸出金利の下限は基準金利の70%までに制限されていたが,7月20日からはこの下限が撤廃された。これにより,借り手の獲得をめぐる商業銀行間の競争が激しくなり,金融産業がいっそう発展することが期待されている。
また,中国(上海)自由貿易試験区(上海自由貿易区)が9月29日に設立されたことも改革を重視する新政権の姿勢を印象づけた。上海自由貿易区は上海外高橋保税区や外高橋保税物流園区,洋山保税港区,上海浦東空港総合保税区からなり,その範囲は上海市内の保税区などに限られている。しかし,政府としてはこの国家プロジェクトを通じて中国全体に適用できるような経験を蓄積しようとしている。「中国(上海)自由貿易試験区マスタープラン」によれば,上海自由貿易区では政府機能の転換や投資分野のさらなる拡大,貿易発展パターンの転換,金融分野のさらなる開放,法制度の整備を実施することを目標としている。中国経済は1970年代末の改革・開放や2001年のWTO加盟によって経済改革と対外開放が進展したが,依然として,許認可に伴う政府の関与が多く,金融をはじめとしたサービス分野の開放が不十分な水準にとどまっている。そこで,政府機能の重点を事前の許認可から事後の管理・監督に移行させることやネガティブリスト管理方式で投資分野の拡大を図ること,クロスボーダー取引の円滑化を図ることなどを目指している。また,これらのために必要な法制度については関係部門が積極的に整備していくことを目標としている。
さらなる改革・開放をめぐっては,11月9~12日に開催された中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(第18期3中全会)でも市場の機能をいっそう重視する方針が打ち出された。1978年の第11期3中全会をはじめ新しい中央委員会が選出されてから第3回目にあたる全体会議では中長期的な政策方針が提案されることが多い。また,中国経済が現在大きな転換点を迎えていることから,2013年の3中全会は内外から多くの注目を集めた。第18期3中全会閉会直後に発表された「公報」(コミュニケ)では経済方面に関しては踏み込んだ内容がなかったため多くの失望を招いたが,同月15日に「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」(「決定」)が発表された。
「決定」では市場が資源配分のなかで決定的な役割を果たすようにしていくことが強調された。たとえば水や石油,天然ガス,電力,交通,通信などの価格の市場化や,投資禁止分野をネガティブリスト管理方式にすること,人民元為替レートや金利の自由化,都市と農村の建設用地を売買するための統一的な市場の構築などを目指していくことが明らかにされた。これを実現するため,政府の役割はマクロ経済の安定化や市場秩序の維持,所得格差の是正など,市場がうまく機能しない面にとどめ,それ以外については関与を減らすことが示された。一方で,習近平国家主席をトップとする「中央全面深化改革指導小組」を創設することで,政治・経済はもちろん,社会や文化なども含めた改革を強力に推し進めようとしている。また,国有企業改革としては国有企業やその投資プロジェクトに民間企業が参加できるようにすることなどが明らかにされた。しかし,「決定」では,市場メカニズムの重要性が強調されると同時に,公有制を主体とすることもあらためて確認された。今後,本当に市場の機能が向上して「国進民退」の流れが止まるのか否かがさらなる成長を実現するうえでの鍵となる。
依然として投資に依存した経済成長2013年の中国経済は政府目標の7.5%成長を超え,また,安定成長路線に向けた政策も打ち出された。しかし,依然として投資に依存した経済成長だった。実質GDP成長率における需要項目別の寄与度では,最終消費支出が2012年の4.2%から下落し,3.9%にとどまった(図1)。純輸出も2012年の0.1%減からさらに下落し,0.3%減となった。一方で,政府目標を達成するために貢献したのは総資本形成だった。2012年の3.6%から上昇し,4.2%となった。外需の急拡大が期待できないなか,また,世界経済が本格的に回復したとしても貿易摩擦問題を再燃させないよう慎重にならざるをえないなか,中国経済は内需拡大で経済を下支えするしかない状況が続いている。しかし,都市と農村の間や,沿海部と内陸部の間に大きな所得格差が存在するため,内需のなかでも消費に頼ることは依然難しい。そのため,2013年も投資に頼ることで2012年と同じ水準の成長率を達成するという結果になった。
(出所) 2000~2012年は国家統計局編『中国統計年鑑2013』, 2013年は報道より。
投資依存の体質は継続しているものの,その受け皿は変化している。2013年の固定資産投資は43兆6528億元となり,前年比19.6%増だったが,なかでも63%を占めた民間投資は全体の伸びを上回る前年比23.1%増だった。これを地区別にみると中部や西部といった内陸部の伸びが,東部沿海部の伸びよりも大きかった。東部への民間投資が前年比17.9%増だったのに対して,中部が同22.8%増,西部が同23.0%増だった。中国では沿海部と内陸部の所得格差が大きいため,内陸部への投資の余地は沿海部へのそれに比べて依然として大きい。
また,産業別でみると第3次産業への投資の重要度が増している。第1次産業への投資が9241億元で前年比32.5%増,第2次産業へは18兆4804億元で同17.4%増,第3次産業へは24兆2482億元で同21.0%増だった。伸び率をみれば,第1次産業への投資の急増が際立っているが,金額では,第2次産業の20分の1,第3次産業の26分の1である。相対的に金額の大きい第2次産業と第3次産業を比べると,第3次産業の方が金額でも伸び率でも第2次産業のそれを上回っており,第3次産業が急成長している様子がわかる。中国は依然として発展途上国ではあるが,第3次産業の急成長によって産業構造は少しずつ先進国型に近づいている。このように内陸部や第3次産業への投資が,経済成長を下支えしている。
また,不動産投資も拡大を続けた。建物の新規着工面積は前年比で13.5%増となり,2012年の7.2%減と比べて上昇に転じた。不動産価格についても,とくに大都市を中心に上昇した。大都市では人口も多く,依然として価格上昇が続いているが,地方の中小都市のなかには買い手のつかない物件が増えていることも話題になった。全国的な価格低迷につながる可能性があるのか,予断を許さない状況が続いている。
消費については,社会消費財小売総額が23兆4380億元となり,名目では前年比13.1%増,実質では同11.5%増だった。名目での伸び率は2004年以降13%以上という高い水準にあるが,2011年の17.1%増,2012年の14.3%増と経済成長率の下落とともにこちらも下落傾向にある。社会消費財小売総額のうち,都市部が20兆2462億元で12.9%増,農村部が3兆1918億元で14.6%増だった。農村部の伸びが都市部のそれを上回ったが,その規模には依然として大きな開きがある。消費を中心とした内需拡大を実現するためには,農村部の消費をいかに拡大させられるかが鍵になっている。
所得についても,都市住民1人当たり可処分所得が実質で前年比7%増であったのに対し,農村住民1人当たり純収入は同9.3%増となり,農村部の伸びが都市部のそれを上回った。農村住民の収入は農業をはじめとした事業収入のほか,財産収入や出稼ぎなどによる賃金収入,政府からの補助金などによる移転収入から構成されている。近年は事業収入の伸びよりも賃金収入や移転収入の伸びが大きくなっている。国家統計局の馬建堂局長によれば2013年も,賃金収入と移転収入の増加が純収入の伸びに大きく貢献した。出稼ぎ農民(「農民工」)の平均月収は2609元となり,前年比で13.9%の伸びとなった。最低賃金も上昇しており,出稼ぎ農民の所得は上昇している。また,政府による「三農」(農業・農村・農民)への支援も充実している。農業に対する2013年の補助金は約1700億元で,農村住民の移転収入は14.2%増となった。その結果,都市住民1人当たり可処分所得と農村住民1人当たり純収入で比べた所得格差は2010年以降縮小傾向にある。所得格差が拡大を停止し縮小することで,今後農村部のさらなる市場拡大が期待されているが,依然として格差は大きい。馬局長によれば2013年のジニ係数は0.473で,前年より減少したものの警戒ライン(0.4)よりも高い。消費の拡大のためにはさらなる格差解消が必要とされる。
金融システムへの不安2013年は中国のシャドーバンキングの問題が金融システムにダメージを与えることになるのか否か,世界の関心がおおいに高まった。シャドーバンキングとは投資銀行やヘッジファンドなど,通常の銀行を介さない金融仲介業務のことである。シャドーバンキングそのものは,世界各国に存在するものではあるが,金融当局の監視外で取り引きされるため政府がその規模や不良債権リスクを把握することは難しい。中国の場合は,高利回りの金融商品(「理財商品」)の販売や委託貸付などによって調達された資金が地方政府の融資プラットフォーム(「融資平台」)や不動産開発業者,民間企業などに貸し付けられるケースが多い。また,ここでの委託貸付は大型国有企業の銀行預金を銀行の紹介で融資するものが多い。地方政府の融資プラットフォームは,債券を直接に発行できない地方政府が資金調達のために設立した会社のことである。リーマン・ショック後,中国政府は景気刺激策のために4兆元の投資を決めたが,地方政府にも負担を求めたためシャドーバンキングの膨張につながった。中国政府の調べによると,2010年末までに約10兆7200億元が,地方政府によって不動産市場や公共事業などに投資された。
中央・地方政府双方による巨額の財政出動によって中国経済はいち早く立ち直り,経済成長率も12%の伸びとなったが,経済の歪みもあらわになった。不動産価格は高騰し,鉄鋼やセメントをはじめとした過剰生産能力の問題が出た。中国政府は景気過熱を警戒し投資の引き締めを図ったため,これが一部の民間企業をシャドーバンキングによる新たな資金調達に向かわせる一因ともなった。さまざまな借り手にとってシャドーバンキングは重要な資金調達経路になっている。中国社会科学院が10月に発表したレポートでは,中国のシャドーバンキングの規模が2012年末時点ですでに20兆5000億元に達していたとされている。これはGDPの40%を占める規模である。高金利での資金調達は経済成長や不動産の値上がりなどを前提としているため,景気の減速とともに債務不履行(デフォルト)となる事業も多数出てくることが予想される。経済の失速が懸念されるなかでデフォルトの連鎖が発生すれば,中国経済が大きく混乱する可能性もあるため,この行方に世界の注目が集まっている。
第3次産業への期待と第1次・第2次産業の発展経済成長を産業別でみた場合,サービス業にあたる第3次産業の発展が顕著である。産業別GDPは,第1次産業が前年比4.0%増の5兆6957億元,第2次産業が同7.8%増の24兆9684億元だったのに対し,第3次産業が同8.3%増の26兆2204億元となり,初めて第2次産業を上回った。中国では,賃金の上昇や人民元の増価,自然環境の悪化など,輸出を中心とした製造業の事業環境が悪化するなか,サービス業の発展への期待が高まっている。また,都市と農村の所得格差の是正のうえでも,サービス業は農村住民の雇用の受け皿として期待されている。政府の期待は大きく,李克強総理は5月に開催された第2回中国(北京)国際サービス貿易交易会で,「サービス業を経済・社会の持続可能な発展の新たなエンジンにしよう」という旨の講演を行った。政府は飲食業や商業などの従来型のサービス業が引き続き大量の雇用を生み出すことを目指している。また,研究開発サービス業や情報産業などの新しいサービス業が,中国政府の重視するイノベーションも牽引することで,さらなる経済成長の原動力とすることも目標としている。サービス業はそれ自体の発展のみならず,その他の産業の生産性向上にも寄与するものになるか,注目していく必要がある。
もちろん,第3次産業のみが発展しているわけではない。第1次・第2次産業も発展を遂げている。2013年の農業生産は順調に推移した。食料生産量は6億194万トンで,前年比で2.1%の伸びだった。また,肉類の生産量は8373万トンで,前年比1.8%増だった。生産量の多い豚肉は5493万トンで,前年比2.8%増だった。しかし,家禽業は春から夏にかけて鳥インフルエンザ(H7N9)が長江デルタを中心に流行したため,大きな打撃をこうむった。
政府は毎年初めに最重要政策課題として「中央1号文件」を発表しているが,10年連続で2013年も「三農」問題が選ばれた。2013年の焦点のひとつとしては,専業大農家や家庭農場,農業合弁事業など,多様な組織形態を発展させることで農業の生産性を高め,新しい農業経営システムの構築を目指すことがあげられた。生産性の向上を図るため,企業などの新しい担い手も重視している。しかし,企業が農民から農地を取得することで,その後の農民の生活が困難になるという問題も発生しているため,農民保護のための制度構築も重視されている。農業生産性の向上に向けた絶え間ない努力も行われているが,すべての農民の所得水準を農業だけで向上させることには限界もあるため,雇用の受け皿としてサービス業への期待も高まっている。これは都市化の政策とも深く関係している。
第1次産業に加え第2次産業における生産も安定した伸びとなった。鉱工業企業(年間売上高2000万元以上)の付加価値生産額は実質で前年比9.7%増だった。しかし,鉱工業生産額の伸び率は前年比で3.9ポイント下回った2012年の10.0%よりも低くなった。四半期ごとの推移は第1四半期が9.5%増,第2四半期が9.1%増,第3四半期が10.1%,第4四半期が10.0%増で,経済成長率と同様の動きをみせた。地域別では東部が前年比8.9%だったのに対し,中部が10.7%,西部が11.0%で,東部沿海部よりも中・西部の内陸部での成長が目立った。鉱工業企業の輸出額は前年比5.0%増の11兆3471億元にとどまった。外需が依然として本格回復していないことがうかがわれる。
製品別では,464種類の工業製品中340種類で,前年よりも生産量が増加した。粗鋼は7.5%,セメントは9.6%,板ガラスは11.2%,化学繊維は8.1%の増加だった。なかでも自動車は18.4%の増加だった。これに合わせて2013年の新車販売台数も13.9%増となり,2198万台に達した。これは前年の伸び率を9.6ポイントも上回るものであった。中国自動車市場は,2009年にアメリカ市場を追い抜いてから世界最大規模となっている。しかし,賃金が上昇していることから,高付加価値化が求められるようになっている。
景気の動向に合わせて,製造業の購買担当者景気指数(PMI)も年後半に上昇した。PMIは購買担当者へのアンケート調査によって作成された景気先行指標であり,50を超えると景気拡大を,50未満だと景気後退を表す。7月までのPMIは50.1(2月,6月)から50.8(5月)の間を50ポイント台で推移したが,8月以降は51.0(8月,12月)から51.4(10月,11月)の間を51ポイント台で推移した。
イノベーションでも一定の成果を達成した。国家知識産権局によれば,2013年の特許出願受理数は82万5000件で前年比26.3%の伸びとなった。知的財産権(特許,実用新案,意匠)のなかでも,特許の出願受理件数が34.7%を占め,特許が全体の3分の1を超えたのはここ5年で初めてであった。2000年代半ばから中国政府がイノベーション(「創新」)政策に力を入れるようになり知的財産権全体の件数は急増していたが,製品の核心技術に関わる特許出願受理数の割合は微減していた。これが3分の1を超えたことで中国の研究開発(R&D)活動が質的にも向上していることが示された。
経済成長の目標を達成したことで雇用状況も安定していた。2013年末時点の全国の就業者は7億6977万人で,2012年末より273万人増えた。都市部新規就業者は1310万人,再就職者は566万人となり,都市部登録失業率は4.1%だった。雇用状況は安定しているものの,人口動態を考えると,従来のような労働集約型産業の発展はもう望めない状況であるため,工業における高付加価値化とならんでサービス産業の発展が期待されている。
成長の陰高成長路線からの転換は,経済構造の歪みのみならず,環境・社会問題の高まりからも喫緊の課題となっている。中国経済は急成長してきたが,その陰で環境・社会問題も深刻化している。2013年も直径2.5マイクロメートル以下の超微粒子(PM2.5)の問題が話題となった。中国環境観測総站によれば,全国74都市で2013年上半期,基準値を超えた日数は45%にも達した。北に位置する地域ほど汚染の程度がひどくなっている。深刻な地域のひとつである北京では自動車の排気ガスが最大の原因で約4分の1を占め,発電所やボイラーなどの石炭燃焼や,河北省や天津市からの越境汚染を上回った。2月には,全国環境工作会議で2015年に重点区域の年平均濃度を5%引き下げることなどが発表されたが,問題の解決には時間がかかりそうである。
大気に加えて水も大きな問題となった。国土資源部が「地下水質基準」に基づいて全国4929地点の地下水を調査した結果,57.4%の地点の水質が「比較的悪い」か「極めて悪い」という結果になった。工場からの排水のほか,農薬の利用などによって,地表水のみならず地下水の汚染も深刻なものになっている。また,内陸部での経済活動の活発化により川上における汚染も増えており,汚染の影響が川下に向かって広域化する可能性が高い。水については水不足の問題もあらためて注目された。とくに華北平原では地下水の水位が低下しており,農業生産が困難な状況となっている。この地域は中国の農業生産に重要な地域ではあるが,灌漑の発達によって水が大量に汲み上げられ,持続可能な農業生産に大きな影響を与えている。
対外経済関係経済成長の鈍化や世界経済の回復の遅れにより,貿易総額の伸びは,前年を上回ったものの,中国政府が目標とする8%には達しなかった。2013年の中国の貿易総額は,4兆1600億ドルで,対前年比7.6%の伸びだった。中国の輸出は2兆2100億ドルとなり前年比7.9%の伸び,輸入は1兆9500億ドルで前年比7.3%の伸びとなった。その結果,貿易黒字は2597億5000万ドルとなり,2年連続で前年比プラスだった。ただし,統計上の輸出額については,問題も指摘されている。2013年前半の対香港輸出において,実際の輸出とは異なる虚偽の輸出代金を計上することで,ホットマネーが流入した恐れがある。取り締まりにより,2013年5月の輸出は,前年同月比で0.9%増にすぎなかったが,この問題が指摘されていた1~4月の伸びは,それぞれ25.0%,21.8%,10.0%,14.6%にも上った。この水増し分を除けば,2013年の貿易総額,とくに輸出額はもっと小さいものになる可能性が高い。
貿易総額の伸び悩みは,日米欧などの対先進国との貿易が関係している。貿易相手の上位は,貿易総額の順に,EU,アメリカ,ASEAN,香港,日本だった。EUとの貿易は5590億6315万ドルで前年比2.1%増,アメリカとの貿易は5210億209万ドルで同7.5%増,日本との貿易は3125億5329万ドルで,5.1%減となった。2012年は,対EUが3.7%減,対米が8.5%増,対日が3.9%減であったため,対EUは伸びがプラスに転じたものの2%台にとどまったほか,対米は伸び率が低下,対日は引き続きマイナスとなった。一方で,欧米に次ぐ貿易総額であるASEAN(4436億1083万ドル)は伸び率も高く,2012年の前年比10.2%増を上回って,2013年は同10.9%の増加となった。貿易総額に占める割合も,対EUが2012年の14.1%から減少して13.4%,対米が2012年と横ばいの12.5%だったのに対して,対ASEANは2012年の10.3%から増加して10.7%となった。
中国への直接投資は,実行ベースで1175億8600万ドル(金融部門を除く)となり,前年比で5.3%の伸びとなった。2012年の前年比3.7%減に対し,2013年は増加に転じた。業種別ではサービス業の伸びが大きく,前年比14.2%増の614億5100万ドルとなった。これは中国への直接投資全体の52.3%にもなり,初めて過半を占めた。一方で,製造業は6.8%減の455億5500万ドル,農林水産業は12.7%減の18億ドルだった。海外からの投資でも,サービス業向けのものが増加している。
一方,中国の対外直接投資は急増している。非金融直接投資は,901億700万ドルとなった。対中直接投資は1175億8600万ドルだったため,中国の直接投資額が対中直接投資に迫る勢いとなった。中国では,1978年の改革開放以降,中国からの投資も増えたが,圧倒的に対中投資が多かった。これまでは投資を受け入れることで経済成長してきたが,これからは対外投資が成長に大きく貢献する可能性がある。
製造業を中心とした輸出産業に大きな影響を与えるドル元レートは,元高ドル安で推移した。2012年は,年央に元安ドル高で推移する場面もみられたが,2013年はほぼ一貫して元高ドル安で推移した。1月に1ドル=6.2787元(月平均レート)ではじまると,12月には同6.1172元となった。輸出が伸び悩むことで,対米貿易黒字は減少しているが,年後半の景気の回復と人民元の国際化によって上昇圧力が続いた。人民元は2005年7月に管理変動相場制に移行してから元高ドル安基調で推移してきたが,そのペースは時期によって異なる。2013年のペースが続くのか否か,中国製造業への影響が大きいため今後の動向が注目される。
日中経済関係2012年の日本の尖閣諸島国有化後の問題が尾を引き,2013年の日中間の経済関係は低調だった。日中間の貿易総額は,上述のとおり,前年比で5.1%減だった。とくに,日本から中国への輸出の減少が目立った。中国からの輸入については前年比0.9%減だったが,中国への輸出は8.7%減という大幅減となった。ただし,状況の改善もあった。尖閣諸島問題によって,日系合弁メーカーの自動車販売は大きな打撃を受けたが,2013年は中国での販売が239万台となり,前年比15.3%の伸びだった。年後半に向けて状況は改善していった。また,日中双方の代表団の交流もあった。中国中信集団(CITIC)の常振明会長ら大手10社のトップが,9月24~25日の間,東京で日本政府高官や企業トップと会った。第18期3中全会後の11月18日から1週間,日中経済協会の訪問団(団長は張富士夫日中経済協会会長・トヨタ自動車名誉会長)178人が北京市と山西省を訪問し,汪洋副総理と会談した。経済交流の活発化に向けて手探りが続いている。
また,日中韓の経済的な結びつきの強化を目指して,日中韓自由貿易協定(FTA)の交渉が始まった。第1回会合は3月26~28日にソウルで,第2回会合は7月30日~8月2日に上海で,第3回会合は11月26~29日に東京で開催された。中国は日本の農産物市場のさらなる開放を求めつつ,国内製造業を保護したいと思っているが,日本は関税撤廃を目指す品目数が全貿易品目に占める割合(自由化率)について高めの目標を主張しており,両者は関税撤廃に向けた枠組みに関して合意に至ることができなかった。先進国とのFTA交渉がまだ多くない中国にとっては,どのようなかたちで自国の主張を通しながら,自らもいっそうの対外開放を実現していくことになるのか,ひとつのチャレンジに直面することになる。
尖閣諸島の領有権問題をめぐる日中関係の対立はさらに深刻化した。2012年9月の日本政府による尖閣諸島の国有化発表以来,両国関係は冷え込んでおり,日中首脳会談はもとより,電話協議も行われないという異常な状況が続いている。
2月5日,日本政府は中国海軍のフリゲート艦が尖閣諸島北方の東シナ海の公海上で,海上自衛隊の護衛艦に対して,射撃管制レーダーを照射したことを明らかにした。その直後の中国外交部の記者会見では「報道をみて(レーダー照射の)情報を初めて知った」として,軍部からの事前通告がなかったことを表明した。これに関しては,中国国防部の幹部が3月17日に共同通信社のインタビューで,照射を認めたうえで,「艦長の緊急判断だった」として計画的な作戦であったことを否定して,偶発的な出来事であったという立場を示したと報じた。だが,翌日には中国当局は一転してこの報道内容を改めて否定した。
11月23日,中国の国防部は東シナ海における戦闘機による緊急発進(スクランブル)の判断基準となる防空識別圏を設定したことを突然発表した。通常,防空識別圏とは,領空に接近してくる航空機が敵か見方かを識別するために,領空の外側に設定される空域である。さらに,中国当局は軍用機,民間機を問わず,すべての外国機に対して飛行計画の提出を求め,同空域を飛行する航空機からの事前通告がなければ,防御的緊急措置を取る可能性をも示唆した。同月25日の外交部の記者会見では,今後,東シナ海のみならず,南シナ海や黄海などでも防空識別圏を設定するという中国側の意向が明らかにされた。中国が防空識別圏を設定した背景には,空軍の能力の飛躍的な向上がある。近年,中国の空軍では緊急発進の対応に加えて,空中給油機の運用による活動空域の拡大や,無人機の配備などが急速に進んでいる。しかし最大の懸念は,中国側が防空識別圏を通常の国際社会の解釈とは異なり,自らの管轄権が及ぶ空域のように捉えていることにある。将来,さらなる空軍能力の向上に伴って,事前許可のない外国機を防空識別圏から排除する可能性も危ぶまれている。
12月26日には,安倍晋三首相が現職の日本の首相としては7年ぶりに靖国神社を参拝した。習近平をはじめとする中央政治局常務委員が参加して毛沢東生誕120周年記念の式典が行われる矢先の出来事であった。外交部をはじめ,中国メディアは一斉に厳重な抗議や非難のコメントを発表した。新華社は「日本が再びアジアの『トラブルメーカー』になった」として国際社会へ警戒を強く呼び掛けた。2013年は日中平和友好条約35周年に当たる年でもあったが,両国の政府間の記念行事は実施されず,日中関係の悪化はさらに深刻の一途をたどっている。
「新たな大国関係」としてのアメリカとの関係強化6月7日,アメリカのカリフォルニア州を訪問した習近平国家主席は,2日間にわたってオバマ大統領と米中首脳会談を行った。国家主席就任からわずか数カ月後の米中首脳会談という異例の早期開催の裏には,習自身の強い意向があったとみられている。同会談の席上,習近平は米中関係が「新たな大国関係」(新型大国関係)であることを繰り返し強調して,中国がアメリカに並び立つ超大国であることを国際社会に印象づけようとした。米中首脳会談の議題は,海洋の安全保障,サイバー攻撃,朝鮮半島情勢,自由貿易圏,通商・経済問題などの多岐にわたった。とりわけ尖閣諸島問題に関しては,自制と対話を求めるアメリカ側と,あくまでも領有権を主張する中国側の議論は平行線を辿った。
近年,オバマ政権は「アジア回帰」を打ち出してきたものの,その戦略目標はいまだ定まっておらず,アメリカの同盟国がかかわる東シナ海や南シナ海における領有権紛争をめぐっては,平和的解決を期待するという意向を示しつつも,あくまでも中立の立場をとって直接的な関与を控えてきた。そのような状況下で,中国の東シナ海における防空識別圏への対応をめぐって,アメリカ政府内の足並みの乱れがみられた。
12月4日,訪中したバイデン米副大統領は防空識別圏について「突然の発表は周辺地域の重大な懸念を引き起こした」として,習近平国家主席との会談においても「深い懸念」を伝えるとともに,緊張を緩和する措置を取るように求めた。しかしながら,ヘーゲル米国防長官は同日の記者会見上で「防空識別圏を設定すること自体は新しくも,珍しくもない」として,中国側の措置を事実上容認するような発言をした。また,その直前の時期には,アメリカの航空会社各社が中国当局に飛行計画を提出していたことが明らかになった。中国外交部は,アメリカの航空会社が飛行計画を提出したことについて「飛行の秩序と安全維持のため中国と協調しようという建設的な態度であり,称賛したい」と発表した。他方,日本の航空会社に飛行計画を提出しないように要請している日本政府に対しては「問題を政治問題化する意図がある」として批判を強めた。今後,日米間の立場の相違が表面化する場面において,中国が日本との関係悪化の一方で,米中関係の強化のための外交攻勢を仕掛ける可能性も十分にあるといえよう。
ASEANへの融和策をめぐる思惑最近,中国は領土紛争の火種を抱える南シナ海における行動に法的拘束力のあるルールを決める「行動規範」の策定に向けて協議に着手する姿勢を示すことによって,東南アジア諸国連合(ASEAN)との融和政策を進めている。6月30日,中国・ASEAN外相会議の場において,中国とASEANは南シナ海における「行動規範」の締結に向けた協議を9月より正式に開始することで合意した。王毅外交部長は会議翌日の記者会見で「中国とASEANの関係は非常に良好だ。南シナ海の問題を関係全体に影響させてはならないし,絶対にしない」と述べた。また,8月29日,中国政府はASEANとの戦略的パートナーシップ関係の10周年記念行事として,ASEAN外相を北京の釣魚台迎賓館に招待して特別外相会議を開催した。王毅外交部長は会議後の記者会見においても「中国の新政権はASEANとの関係を高度に重視している」ことを強調した。同会議では,自由貿易協定(FTA)やインフラ投資を通じて,引き続き経済協力を推進する方針が確認された。さらに,9月14~15日には,中国の江蘇省蘇州で「南シナ海行動宣言」の実行に関する会議が行われ,「行動規範」の策定に向けた協議が本格的に始動した。
このような中国の協調的な一連の外交姿勢の裏には,その後に続く2013年10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)や東アジアサミットなどの多国間協議の場における孤立を避けるという短期的な目標があったとみられる。すなわち,中国の海洋進出に対する国際社会の批判の矢面に立たされることを避けるためにも,事前にASEANとの関係改善に着手する必要があったのである。しかし,南シナ海の領有権問題をめぐっては,ASEAN諸国も必ずしも一枚岩ではないため,今後の協議の難航が予想される。とくに,中国との間で領有権を争うフィリピンとの対立が先鋭化しており,ベトナムもこれに共同歩調を取る方針を示している。
さらにいえば,ASEANとの関係改善を通じて,東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への参加を模索しようという中長期的な目標が中国側にはある。現在,アメリカ主導で進められている環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に関しては,依然として国有企業の影響力が大きい中国の参加には障壁が高い。このため,アメリカ不在のRCEPへの参加を模索することによってTPPを牽制する狙いがあるものとみられる。
資源・エネルギー協力によるロシアとの連携習近平は国家主席就任後,初の外遊先として慣例通りロシアを選び,3月22日,プーチン大統領とモスクワで首脳会談を行った。首脳会談の後に発表された共同声明によれば,中ロ両国は戦略的パートナーシップ関係を質的に新たな段階に引き上げることで合意した。同合意には,(1)相互の主権の保障,領土統一,安全保障を含む「核心的利益」にかかわる問題について断固として支持すること,(2)相互の経済利益の確保のためにエネルギー分野の協力を強化すること,(3)アメリカ主導の国際的なミサイル防衛体制に反対することなどの方針が含まれている。
とくに,中ロ首脳会談を通じて,ロシア産の原油輸出の大幅増加と中国による借款供与など,資源・エネルギー分野を軸として,両国の経済関係の拡大に関する30以上の合意文書に署名した。また,ロシア国営のロスネフチ社と中国石油天然気集団公司(CNPC)が,中国への石油輸出を増やすための合意文書に署名した。さらに,それに先立って,2月末にはロシア国営のガスプロム社とCNPCが,極東の天然ガスのパイプラインを中国に敷設する計画に関する覚書に調印した。
ここ数年間,中国では石炭火力発電による大気汚染が深刻化して,北京など大都市部で健康被害への不安が広がっている。このため,早期にクリーンなエネルギーに転換せざるをえないという強い危機感が中国政府にある。このこともロシアからの天然ガスや石油の導入に向けて積極的に動いた背景にある。ロシアにとって中国は最大の貿易相手国であるが,その一方で,中国は急速な経済成長によって急増する国内のエネルギー需要を満たすためにロシアからの豊富な天然資源を必要としている。また,今回,中ロ両国の緊密な連携を演出することによって,4月末の日ロ首脳会談に先立って,機先を制して存在感を示そうという中国側の狙いがあったとみられる。さらに,今後のアメリカ政府との協議の場において交渉力を高めようとする中国側の思惑も垣間見える。
朝鮮半島の非核化で一致する韓国1月22日,国連安全保障理事会は,朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の2012年12月のロケット発射を非難する制裁強化決議案を全会一致で採択した。同決議採択の実現をめぐっては,制裁に消極的な中国側との間に1カ月以上にわたる調整があったといわれている。しかし,北朝鮮外務省は対抗措置としての核実験の実施を示唆して,2月12日には3回目となる核実験を強行した。核実験の強行を受けて,3月7日には国連安保理で北朝鮮に対する制裁強化決議が採択され,中国もこれに対してただちに賛成の立場を示した。5月22日には,北朝鮮の崔竜海朝鮮人民軍総政治局長が訪中して習近平国家主席と会談を行った。中国側は北朝鮮の核実験強行に不満を示すとともに,非核化に向けた行動を促した。他方,北朝鮮側は2007年以来中断している6カ国協議への復帰に前向きな姿勢を示して歩み寄りをみせた。また,年末には北朝鮮の国内外を震撼させるような出来事が起こった。12月12日,北朝鮮の金正恩第1書記の義理の叔父でナンバー2である張成沢国防副委員長が国家転覆陰謀罪によって死刑判決を受けて即時処刑された。元来,張成沢は中国と関係が深いと目されてきたことから,今後の中朝間の外交や経済に対して影響が及ぶ可能性が一部で懸念されている。
その一方で,2月に韓国の新大統領に就任した朴槿恵は,6月27日,中国を公式訪問して習近平国家主席や李克強総理と会談を行った。韓国の歴代大統領としては,就任後,訪米の後に訪日するという外交上の慣例を破っての訪中となった。中韓両国は首脳会談を通じて,朝鮮半島の非核化を目指すとともに,中韓自由貿易協定(FTA)の推進を通じて経済関係を強化することで一致した。
両岸の政治的協議の実現へ向けた外交攻勢2012年夏以降,尖閣諸島問題をめぐって日中関係が悪化すると,同年9月下旬には,台湾籍の漁船や巡視船が大挙して尖閣諸島の日本領海内に侵入した。台湾の同海域侵入としては過去最大規模のものとなった。このことによって,尖閣諸島の領有権問題をめぐって中国と台湾が手を結んだのではないかといった憶測も国際社会の間に流れた。しかし,2013年2月20日には,台湾外交部が尖閣諸島の領有権問題をめぐって中国と連携しないという公式声明を発表した。さらに,2013年4月10日には懸案であった日台漁業協定がついに締結され,日本と台湾の間に一定の歩み寄りがみられた。
10月6日,習近平は第21回APEC首脳会議に出席するためにインドネシアのバリ島を訪問して,台湾の前副総統の蕭萬長と会談を行った。習は会談の席上で両岸関係に関して「将来を見据え,双方の間に横たわる政治的な意見の相違は徐々に解決しなければならず,後の世代に先送りしてはならない」と語った。さらに,習は「一つの中国」の枠組みの下で台湾との平等な協議を行いたいと表明して,台湾に対して政治的協議の早期実現を強く呼び掛けた。2014年秋にはAPECが北京で開催されることが決定しており,その場において,習近平と台湾総統の馬英九の首脳会談を華々しく実現することを中国側は希望している。今後,中国側の台湾に対する外交攻勢が強まる可能性がある。
習近平政権の誕生以降,両岸の要人交流が活発化している。もともと習近平は長年にわたって台湾に近い福建省長などを務めた経験を有していることから,台湾問題に高い関心を寄せているとみられている。このため在任中に両岸関係を何らかのかたちで動かそうとするのではないかといった見方もある。しかし,将来の統一問題をも視野に入れた両岸の政治的協議については,台湾では現状維持を支持する声が圧倒的に強く,さらには,馬英九総統の支持率が10%前後を推移して低迷し続けているという現状からすれば,実現に向けての道のりは険しいといえよう。
2014年の中国は,中国共産党総書記,中央軍事委員会主席,国家主席のすべての地位を手にした最高指導者である習近平が派閥間のバランスを取りながら,名実ともに権力を掌握することができるかどうかが優先的課題である。
国内政治は,国内改革の司令塔としての習近平の権力集中が進むなかで,本来,国内問題を担当している国務院総理である李克強との力のバランスをいかに図っていくかがとくに注目される。新指導部は自らの権力基盤を強化するための手段として,今後も国内改革を前面に掲げる一方で,引き続き党内外における思想・言論統制をいっそう強めていく可能性が高い。
国内経済は,成長の維持と改革の推進のバランスをいかにとっていくのかが,引き続き重要なポイントとなる。経済成長については,これまでの投資依存体質をどれだけ消費牽引型に転換できるのかが課題となる。また,経済改革については,2013年に着手したものを発展させ,「決定」を実行に動かすことができるかが鍵となる。しかし,成長の中身の転換にしても,改革にしても,経済を大幅に失速させてしまっては元も子もない。外需頼みへ逆戻りすることを支持するわけではないが,世界経済が本格的に回復し,貿易摩擦問題を再燃させない範囲で外需の拡大が経済成長を下支えするようであれば,中国政府が直面している難しい舵取りが少しは楽なものになるだろう。
対外政策は,アメリカと並び立つ超大国としての自信を深めつつあり,国際社会における孤立を避けつつも,引き続き周辺諸国に対して強硬な外交政策を取っていくことが予想される。とりわけ,尖閣諸島の領有権問題をめぐって悪化している日中関係は楽観視できない状況にある。
(松本:地域研究センター)
(木村:新領域研究センター)
1月 | |
4日 | 週刊紙『南方週末』,検閲問題で広東省党委宣伝部幹部辞任要求の声明発表。 |
4日 | 上海証券取引所でリスク警戒ボードの運用開始。 |
5日 | 第18回党大会の精神の学習と貫徹に関する研究が中央党校で開講(~7日)。習近平総書記が重要講話。 |
5日 | 四川省人民代表大会,魏宏を代理省長に任命。 |
5日 | 中央紀律検査委員会監察部,2012年の紀律違反で16万718人を処分。 |
7日 | 全国エネルギー業務会議,シェールガスなど非在来型資源の開発強化へ。 |
10日 | 全国海洋工作会議,尖閣諸島での巡視の常態化を堅持する方針を決定。 |
18日 | 国家統計局,2013年統計公報を発表。GDP成長率は7.8%の51兆9322億元。 |
21日 | 中央紀律検査委第2回全体会議(~22日)。習総書記が重要講話。 |
25日 | 公明党山口那津男代表,来訪。習総書記と会見,安倍晋三首相の親書を渡す。 |
29日 | チベット自治区人代,ロサン・ジャムカンを省長に任命。 |
31日 | 2013年中央1号政策文書「現代農業および農村の発展に関する決定」を公布。 |
2月 | |
2日 | 習総書記,甘粛省を訪問(~5日)。農村,企業,社区,軍事施設などを視察。 |
5日 | 小野寺五典防衛相,中国海軍フリゲート艦が1月30日に東シナ海で海上自衛隊の護衛艦にレーダー照射をしていたと発表。 |
12日 | 楊潔篪外交部長,北朝鮮の3回目の地下核実験に対する反対声明を発表。 |
25日 | 第11期全国人民代表大会常務委員会第31回会議(~27日)。 |
26日 | 党第18期中央委員会第2回全体会議(2中全会)(~28日)。 |
3月 | |
3日 | 中国人民政治協商会議第12期全国委員会第1回会議(~13日)。 |
5日 | 第12期全人代第1回会議(~17日),李克強,政府活動報告を発表。中国の国防予算案,前年実績比10.7%増。 |
14日 | 全人代第1回会議第4回全体会議,習近平を国家主席・国家中央軍事委員会主席に選出。「国務院機構改革・職能転換プラン」が可決。 |
15日 | 全人代第1回会議第5回全体会議,李克強を総理に選出。 |
22日 | 習国家主席,ロシア,タンザニア,南アフリカ,コンゴ共和国を訪問(~30日)。 |
22日 | 習国家主席,プーチン大統領と会談。 |
25日 | 黒竜江省人代,陸昊を代理省長に任命。 |
26日 | 寧夏回族自治区人代,劉慧を代理省長に任命。 |
26日 | 日中韓自由貿易協定(FTA)交渉の第1回会合(~28日),韓国のソウルで開催。 |
27日 | 安徽省人代,王学軍を代理省長に任命。 |
27日 | 第5回BRICSサミット,南アフリカのダーバンで開催。 |
28日 | 広西チワン族自治区人代,陳武を代理省長に任命。 |
28日 | 青海省人代,郝鵬を代理省長に任命。 |
29日 | 山東省人代,郭樹清を代理省長に任命。 |
4月 | |
2日 | 外交部,北朝鮮の寧辺の黒鉛減速炉の再稼動の宣言に遺憾の意を表明。 |
2日 | 河南省人代,謝伏瞻を省長に任命。 |
7日 | ボアオ・アジア・フォーラム年次総会(~8日),習国家主席が出席。習総書記が台湾の蕭萬長前副総統と会見。 |
11日 | 湖南省人代,杜家毫を代理省長に任命。 |
16日 | 国務院新聞弁公室,国防白書「中国武装力の多様化運用」を発表。 |
17日 | 国務院常務会議,第1四半期の経済情勢を分析,次段階の工作について検討。 |
19日 | 中央政治局会議,「党の大衆路線」教育実践活動を展開することを決定。 |
20日 | 四川省雅安市蘆山県でマグニチュード7.0の地震が発生。 |
23日 | 政治局常務委員会,四川省雅安市蘆山県の震災救援活動について検討。 |
23日 | 新疆ウイグル自治区カシュガル地区マラルベシでテロが発生,21人が死亡。 |
23日 | 第12期全人代常務委員会第2回会議(~25日)。 |
26日 | 陳徳銘元商務部長が海峡両岸関係協会会長に選出。 |
5月 | |
5日 | アッバス・パレスチナ自治政府の議長,来訪(~7日)。習国家主席と会談。 |
6日 | ネタニヤフ・イスラエル首相,来訪(~10日)。李総理と会談。 |
8日 | 第1回中国国際技術輸出入交易会,上海で開催(~11日)。 |
14日 | 国務院新聞弁公室,白書「2012年の中国人権事業の進展」を発表。 |
19日 | 李総理,インド,パキスタン,スイス,ドイツを訪問(~27日)。 |
22日 | 北朝鮮の崔竜海朝鮮労働党政治局常務委員・人民軍総政治局長,来訪(~25日)。習国家主席と会談。 |
31日 | 省エネルギー型家電の購入に対する補助金支給が終了。 |
6月 | |
1日 | 習国家主席,トリニダード・トバゴ,コスタリカ,メキシコを訪問(~6日)。 |
7日 | 習国家主席,アメリカ・カリフォルニア州を訪問(~8日)。オバマ大統領と会談。 |
9日 | 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の10カ国による第1回交渉,ブルネイで開催(~13日)。中国が代表団を派遣。 |
11日 | 有人宇宙船「神舟10号」の打ち上げに成功。 |
12日 | 台湾の呉伯雄国民党名誉主席,来訪(~14日)。習総書記と会談。 |
14日 | 国務院常務会議,大気汚染対策の10項目の措置を確定。 |
15日 | 習国家主席,プーチン・ロシア大統領と電話会談,朝鮮半島情勢などを協議。 |
18日 | 党の大衆路線をめぐる教育実践活動工作会議(~19日)。習総書記が重要講話。 |
26日 | 新疆ウイグル自治区トルファン地区ピチャン県でテロ襲撃事件が発生,35人が死亡,25人が負傷。 |
26日 | 第12期全人代常務委第3回会議(~29日)。 |
27日 | 韓国の朴槿恵大統領,来訪(~30日)。習国家主席と会談。 |
28日 | 新疆ウイグル自治区ホータン県で騒乱が発生。 |
28日 | 習総書記,政治局常務委会議を主宰,新疆における社会安定のための工作を検討。 |
30日 | 王毅外交部長,ブルネイを訪問(~7月2日)。中国・ASEAN外相会議,ASEAN+3(日中韓)外相会議,東アジアサミット外相会議,ASEAN地域フォーラム(ARF)外相会議に出席。 |
7月 | |
5日 | 中ロ合同海上軍事演習「海上連合2013」を日本海で実施(~11日)。 |
8日 | 北京市第2中級人民法院,劉志軍元鉄道部長に執行猶予付きの死刑判決を宣告。 |
10日 | 第5回米中戦略経済対話,ワシントンDCで開催(~11日)。 |
11日 | 習総書記,河北省を訪問。「党の大衆路線」教育実践活動を実施。 |
15日 | 国家統計局,2013年上半期のGDP成長率は7.5%と発表。 |
19日 | 中国人民銀行,翌日から金融機関の貸出金利の下限規制の撤廃を決定。 |
22日 | 甘粛省定西市でマグニチュード6.6の地震が発生。 |
25日 | 李源潮国家副主席,北朝鮮を訪問(~28日)。朝鮮戦争停戦60周年記念行事に出席,金正恩国防委第一委員長と会談。 |
27日 | 中ロ合同反テロ軍事演習「平和の使命2013」,ロシアのチェリャビンスクで実施(~8月15日)。 |
29日 | 齋木昭隆外務事務次官,来訪(~30日)。劉振民外交部副部長,王毅外交部長と個別に会談。 |
30日 | 中央政治局会議,海洋強国建設の検討についての集団学習を実施。 |
30日 | 日中韓自由貿易協定(FTA)交渉の第2回会合,上海で開催(~8月2日)。 |
31日 | 中央軍事委,習近平中央軍事委主席の上将就任式を開催。 |
8月 | |
1日 | 王外交部長,マレーシア,ラオス,ベトナムを訪問。タイで中ASEANハイレベルフォーラムに出席(~6日)。 |
8日 | 新疆ウイグル自治区アクス地区で警官隊が発砲,3人が死亡。 |
14日 | 楊潔篪国務委員がロシアを訪問(~16日)。第9回中ロ戦略安全保障協議に参加。 |
15日 | 外交部,日本の閣僚の靖国神社参拝に強く抗議。 |
19日 | 全国思想宣伝工作会議,北京で開催(~20日),習総書記が重要講話。 |
20日 | 新疆ウイグル自治区カシュガル地区で公安当局がウイグル族の集団を急襲,22人を射殺。 |
22日 | 薄熙来の初公判が山東省済南市中級人民法院で開廷。 |
22日 | 国務院,中国上海自由貿易試験区の設置を承認。 |
26日 | 第12期全人代常務委員会第4回会議(~30日)。 |
26日 | 中国石油天然気集団公司(CNPC)の王永春副総裁,重大な紀律違反の容疑で事情聴取を受けていることが判明。 |
27日 | 中央政治局会議,腐敗の処罰と予防に関する活動計画を採択。 |
28日 | 習総書記,遼寧省を視察(~31日)。瀋陽戦区の部隊を訪問。空母「遼寧」に乗船。 |
29日 | 中国・ASEAN特別外相会議。 |
29日 | ASEAN拡大国防相会議,ブルネイで開催。常万全国防部長がヘーゲル米国防長官と会談。 |
9月 | |
3日 | 習国家主席,トルクメニスタン,カザフスタン,ウズベキスタン,キルギスを訪問(~13日)。 |
7日 | 習国家主席,カザフスタンでの大学講演で,「シルクロード経済ベルト」に言及。 |
13日 | 習国家主席,キルギスで上海協力機構(SCO)サミットに出席。オバマ大統領,プーチン大統領と会談。安倍首相と会話。 |
14日 | 「南シナ海行動宣言」の実行に関する高官会議・合同作業部会,江蘇省で開催(~15日),「南シナ海行動規範」について協議。 |
19日 | 王外交部長,アメリカを訪問(~21日)。国連総会に出席,バイデン米副大統領,ケリー国務長官,ヘーゲル国防長官と会談。 |
22日 | 山東省済南市中級人民法院,薄熙来に無期懲役を宣告。 |
23日 | 習総書記,河北省を訪問。「党の大衆路線」教育実践活動に関する会議に参加。 |
27日 | 外交部,中国の海洋活動を問題視する内容の安倍首相の国連演説に反発。 |
29日 | 上海自由貿易試験区が正式に発足。 |
30日 | 中央政治局会議,「科学的発展観学習要領」を審議,全党への印刷・配布に同意。 |
30日 | 政治局,「革新による発展の駆動」戦略に関する」第9回集団学習を開催。習総書記が重要講話。 |
10月 | |
1日 | 中国建国64周年記念,中央政治局常務委員が天安門広場記念碑に献花。 |
2日 | 習国家主席,インドネシア,マレーシアを訪問。第21回アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席(~8日)。 |
6日 | 習総書記,台湾の蕭万長前副総統と会談,両岸の政治対話を呼び掛ける。 |
6日 | チベット自治区ナクチュ地区で軍と警察がチベット族のデモ隊に発砲,3人が死亡。 |
9日 | 李総理,ブルネイ,タイ,ベトナムを訪問。第16回中国・ASEAN首脳会議,ASEAN+3(日中韓)首脳会議,第8回東アジアサミット出席(~15日)。 |
20日 | 中国=ミャンマー間の天然ガスパイプラインの全区間が完成,稼動。 |
21日 | 第12期全人代常務委第5回会議(~25日)。 |
21日 | ロシアのメドベージェフ首相,来訪(~23日)。習国家主席,李総理と会談。 |
24日 | 周辺外交工作座談会,北京で開催(~25日)。習総書記が重要講話。 |
25日 | 国務院常務会議,株式会社の最低登録資本金額の制限の撤廃を明確化。 |
28日 | 新疆ナンバー車両が天安門で衝突,炎上,ウイグル族5人を容疑者として拘束。 |
11月 | |
3日 | 習総書記,湖南省湘西トゥチャ族ミャオ族自治州,長沙を訪問(~5日)。経済・社会の発展状況について視察。 |
6日 | 山西省党委員会庁舎前で連続爆破事件が発生,1人死亡,8人重軽傷。 |
6日 | 習総書記・国家主席・中央軍事委主席,全軍党建設工作会議代表と会見。 |
8日 | 国務院,「突発事件への緊急対応方法」を関係当局に通知。 |
9日 | 中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)(~12日)。習総書記が重要講話。「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」を採択。 |
16日 | 新疆ウイグル自治区カシュガル地区でウイグル族が警察派出所を襲撃。 |
18日 | 日中経済協会訪問団,来訪。汪洋副総理と会見。 |
22日 | 山東省青島経済技術開発区で送油管が爆発,死者55人余り,行方不明者9人。 |
23日 | 中央政府,東シナ海における防空識別圏の設定を発表。 |
25日 | 程永華中日大使,齋木外務事務次官の防空識別圏の撤回要求を拒絶。 |
26日 | 日中韓自由貿易協定(FTA)交渉の第3回会合,東京で開催(~29日)。 |
12月 | |
4日 | バイデン米副大統領,来訪(~5日)。李総理,習国家主席と会見。 |
10日 | 中央経済工作会議(~13日),6点の主要任務を提起。習総書記が重要講話。 |
12日 | 中央都市化工作会議(~13日),習総書記が重要講話。 |
15日 | 新疆ウイグル自治区カシュガル地区で住民と公安が衝突。警官2人を含む16人が死亡。 |
23日 | 第12期全人代常務委第6回会議(~28日)。 |
23日 | 中央農村工作会議(~24日),習総書記が重要講話。 |
26日 | 毛沢東生誕120周年記念式典,中央政治局常務委員が参加。習総書記が重要講話。 |
26日 | 外交部,安倍首相の靖国神社参拝に強い抗議と非難の談話を発表。 |
30日 | 新疆ウイグル自治区ヤルカンド県で武装グループが県公安局を襲撃。 |
30日 | 中央政治局会議,「全面深化改革指導小組」のトップに習総書記が就任することを決定。 |
30日 | 工業情報化部,「ロボット産業の発展推進に関する指導意見」を発表。 |