Yearbook of Asian Affairs
Online ISSN : 2434-0847
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2014 Volume 2014 Pages 217-230

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2013年のASEAN 米中競合の下での一体性と中心性の模索

概況

2013年のASEANにおいては2つの問題が中心的な位置を占めた。

ひとつは米中という大国間の競合の下で地域機構としてのASEANがどのようにして一体性を保ち,政策を打ち出していくかという問題である。なかでも,南シナ海の領有権問題は2012年にASEAN加盟国内での亀裂を露呈してしまった案件ということもあり,2013年もASEAN協力における最大の焦点となった。議長国が親中派のカンボジアからバランス重視のブルネイへと交替したこともあって,ASEAN諸国は2013年には対外的に足並みをそろえ,中国との間で法的拘束力のある行動規範(COC)の策定プロセスを開始するという成果もみせた。経済面においてはアメリカが主導しASEAN加盟国の一部が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)とASEANが主導する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)という2つの広域的な自由貿易協定(FTA)の交渉が進められている。

もうひとつの問題は2015年末に完成することになっているASEAN共同体のスケジュール履行である。なかでも経済共同体の達成が議論されているが,進展は必ずしも順調ではない。とくに非関税障壁の撤廃やサービス貿易の自由化における遅れが問題となっており,期日までの完成は厳しい見通しとなっている。

政治安全保障協力

南シナ海問題

2012年に続き,2013年も南シナ海問題がASEAN協力の最大の焦点となった。豊富な天然資源を有する南シナ海においては,島々の領有権や海域の管轄権をめぐり,中国,台湾,フィリピン,ベトナム,マレーシア,ブルネイの6つの国・地域が対立している。上記のうち,後者4カ国がASEAN加盟国であるが,近年はマレーシアとブルネイは中国とは比較的平穏な関係を保っており,専らフィリピンとベトナムが中国と対立を激化させている。加えて,アメリカは公的には中立であるという立場をとりながらもフィリピンやベトナムを支援する姿勢をみせており,同じく中国との間に領有権問題を抱える日本も南シナ海問題に対しASEAN支援の立場で関与を試みている。それらに対し,中国はあくまで南シナ海問題は国際問題化させるべきではなく二国間で処理すべきであると反発しており,日米のみならず地域機構としてのASEANの関与にも否定的である。

そのようななか,ASEANは2012年には加盟国内の対中強硬派と親中派の間で激しい対立を露呈し,親中派のカンボジアが議長国であったということもあって年次外相会議においてASEANの歴史上初めて共同声明を出すことができないという失態を演じた。2013年のASEANは第1に中国との交渉において一体性を示すこと,そのうえで第2に2002年に中国との間で合意に至った法的拘束力を伴わない「南シナ海における関係諸国行動宣言」(DOC)を格上げして紛争処理のメカニズムを規定する法的拘束力のある「行動規範」(COC)を策定するための協議を開始すること,の2点が課題となった。

2013年のASEANでは議長国がカンボジアからブルネイに交替したほか,ベトナムの前外務次官のレ・ルオン・ミンが新事務局長に就任するという主要人事の異動があった。ミン氏は1月の就任式で南シナ海問題において「行動規範」を早期に策定することへの意欲をみせた。しかし同月,フィリピンは中国を国連海洋法条約に基づいて国際海洋法裁判所に提訴した。いわばASEAN以外の枠組みにも解決の方途を求めたことになるが,フィリピンのこの行動は事前にほかのASEAN諸国への協議も行われなかったようである。上記のように2012年の外相会議でASEANは加盟国間の亀裂を露呈したうえ,同年末にフィリピンがベトナム,マレーシア,ブルネイという南シナ海問題当事国での高官会議を呼び掛けた際にもマレーシアとブルネイは中国への配慮から欠席の意向を示した。フィリピンの行動の背景にはASEANという枠組みにみられるこのような停滞へのいらだちもあったと思われる。

4月の第22回ASEAN首脳会議における共同声明では行動規範への言及は「早期策定に向けて協力する」というものにとどまった。これは従来繰り返されてきた,いわば決まり文句のようなものであり,ASEAN内の協議の停滞がうかがえる。もっとも,カンボジアが南シナ海問題はあくまで二国間問題であるとして国際法重視に消極的な姿勢を示したことを考えると,議長国ブルネイの采配の下,共同声明を出すことには成功したという見方もできる。

変化の兆しがみられたのが,5月の中国外相によるインドネシア訪問である。そこで中国は従来の(1)「行動宣言」重視,(2)基本的には二国間問題である,という立場を示しつつも,「行動規範」に一貫して消極的であった従来の姿勢を変化させ,策定のための高官協議を行う意志があることを明らかにした。

6月末にはASEAN外相会議や域外対話国との外相会議,ASEAN地域フォーラム(ARF)などの一連の会議が開かれた。ASEAN外相会議では従来の文言を繰り返すとともに,中国の姿勢を「肯定的な動き」と評した。そして直後の中国・ASEAN外相会議で中国は「行動規範」策定に向けた高官協議の開始並びに有識者による賢人会議の設置に向けて行動することについて合意した。他方,日本やアメリカからはASEANに一体性を保つことを要求し,「行動規範」の早期策定を促す発言がみられた。

「行動規範」策定のプロセスが具体化したことは成果ではある。ただ,中国の方針変更は単なる譲歩だとみなすことはできない。実効支配を確立するまでの時間稼ぎという意図や,アメリカの南シナ海への関与を牽制する意図もあるだろう。事実,ARFの議長声明では協議の進展を歓迎する旨が述べられ,8月のASEAN拡大国防相会議(ADMMプラス)においても南シナ海についてはとりあえず協議の進展を見守ろうとする機運が生じることとなった。

ASEANと中国による「行動規範」策定のための高官会議は9月に開かれた。しかしそこでは策定プロセスの具体的時期は明示されず,高官会議に助言するための専門家会議の設置に合意するにとどまった。その後,10月のAPEC首脳会議やASEAN首脳会議,東アジアサミットなどにおいても南シナ海について話し合われ,ASEAN・中国首脳会議では改めて「行動規範」への決意が述べられたものの,具体的な進展はなかった。

域外国との政治安全保障関係

ASEANに対して,域外国が政治・軍事・経済すべての面で関与の度合いを強め,取り込みや影響力の強化をめぐる競合が激化しつつある。

まず目立ったのは中国の積極的なアプローチと融和姿勢のアピールである。それは最大の争点である南シナ海問題において「行動規範」策定プロセスを開始させたことに明確にみられる。また,1年を通して習近平国家主席,李克強首相,王毅外相がASEAN諸国を積極的に歴訪した。8月末に中国はASEANの戦略的パートナーシップ10周年を記念して中国・ASEAN非公式外相会議を開き中国がASEAN重視の姿勢であることを強調し,10月の中国・ASEAN首脳会議では「中国・ASEAN戦略的パートナーシップ10周年記念声明」としてまとめた。さらに同会議で中国はASEANに「善隣友好条約」の締結を呼び掛けた。これは主権尊重・領土保全・武力による威嚇の禁止などを謳うものであるが,ASEAN側は「詳細について検討していく」と対応するにとどめた。このほか,中国からの国防相会議の要請についても同様の対応で答えを留保するなど,中国の融和姿勢に対しASEAN側は一定の警戒心を保ちつつ慎重姿勢をみせている。

もっとも,中国の対ASEAN政策は融和的な姿勢のみではない。2013年の特徴として,中国はベトナムに対しては懐柔策をとり,フィリピンに対しては強硬策により孤立化を狙うという戦略を鮮明にした。たとえば,ベトナムのサン国家主席は6月に訪中し実務的な協力を進める共同声明を発表し,8月にも両国は外相会談の機会をもった。その一方でフィリピンに対しては6月末の中国・ASEAN外相会議後の会見でフィリピンを個別に批判したり,8月末の中国・ASEAN博覧会へのアキノ・フィリピン大統領への招待を直前で取り消すなど厳しい姿勢をみせている。ベトナムがASEAN関連会議において南シナ海問題について沈黙することもみられるようになっており,中国によるフィリピンとベトナムの分断は功を奏しつつある。

他方,アメリカについてはアジア重視のありかたを疑問視する声がしばしば聞かれた。オバマ政権は2011年秋頃から対外政策のアジア太平洋への軸心移動を明確にしており,2013年にもフィリピンとの間で軍事演習や新軍事協定締結への動きをみせるなど,影響を増しつつある中国へ対抗する動きもみせた。8月にはヘーゲル国防長官が東南アジアを歴訪し,またASEAN関連会議で南シナ海問題について「行動規範」策定を支持するのもこれまでと同様であった。ただ,東南アジア諸国にとっては,ケリー国務長官が中東訪問を優先したことから,クリントン前国務長官と比べるとアジアへの関心が薄いのではないかという懸念がみられた。加えて,国内の財政問題のためにオバマ大統領がASEAN諸国の歴訪とAPEC・TPP首脳会合,東アジアサミットへの出席をすべて取りやめたことは,中国とバランスをとる勢力を欠くという意味でも東南アジア諸国の困惑と落胆を呼んだ。ただ,これと類似した例としては2005年と2007年のライス国務長官のARFへの不参加があるが,今回は外交政策の問題ではなく内政上の都合により出席がかなわなかったのだということは考慮する必要があり,一概に「アジア離れ」とは結び付けられない。

アメリカのアジア重視姿勢への懐疑が強まるのと対照的に,東南アジア重視の姿勢を鮮明にしたのが日本である。安倍晋三首相は1月のインドネシア,ベトナム,タイを皮切りに,11月のカンボジア,ラオスへの訪問によってASEAN全10カ国歴訪を2013年の1年間のうちに完了させた。これらの訪問では協力・援助とともにしばしばアジアの海を平和なものにすることや南シナ海の「行動規範」に触れ,中国を牽制する意図をうかがわせた。

また,1月のインドネシア訪問の際には「ASEAN外交の5原則」を発表した。同原則においては,「自由民主主義,基本的人権などの普遍的価値の定着と拡大のための努力」や「力ではなく法が支配する海洋を公共財としてASEAN各国とともに全力で守る」ことが盛り込まれており,これらもやはり中国への対抗という意味合いが見て取れる。さらに7月にフィリピンへ巡視船を供与するなど,東南アジア諸国の海洋安全保障の向上支援も行われた。

7月初頭の日・ASEAN外相会議では日・ASEAN友好協力40周年を記念して12月に特別首脳会議を開くことが発表された。加えて,40周年記念事業の一環として9月にはサイバー安全保障協力のための閣僚会議が,10月には国際犯罪対策に関する閣僚会議がそれぞれ開かれ,共同声明を採択した。そして12月の日・ASEAN特別首脳会議で安倍首相は中国の防空識別圏への懸念を表明し,「飛行の自由」を確保するための協力強化を盛り込んだ共同声明を発表した。また,災害救援分野での国防相会合を提案するとともに,防災や交通網整備を軸に5年間で2兆円規模の政府開発援助の拠出を発表した。

このように,日本のきわめて積極的な対ASEAN外交の背景には急激な経済発展によるASEAN諸国自体の重要性の増大もあるものの,中国への牽制という意味合いが鮮明となっている。ただ,ASEAN側の方針はあくまで中国とアメリカ・日本のどちらかのみを選択することを避け,バランスをとることにある。さらには加盟国内で立ち位置の違いもかなりの程度存在する。そう考えると日本と歩調を合わせて中国に対抗していくという構図は容易には作ることはできない。

他方,ASEAN・日米中を含んだ軍事協力による相互信頼醸成も試みられている。4月には東アジアサミットでの枠組みで日米中を含む12カ国の参加による,大規模な津波を想定した図上演習が行われた。7月にはADMMプラスに加盟する18の国の軍・部隊で初めてとなる合同演習がブルネイで行われ,8月末に開かれたADMMプラスでは,開催を3年に1度から隔年に変更する共同宣言が採択された。

人権分野における協力は進展せず

ASEANは伝統的に内政不干渉原則を重視し加盟国の国内統治問題は地域機構としてのASEANの裁量外に置いてきたが,2000年代以降は人権や民主主義をASEAN協力の対象として掲げはじめている。とくに人権分野においては,時に加盟国間での激しい論争を交えつつ,2009年には政府間の人権委員会(AICHR)を設立し,2012年には「ASEAN人権宣言」を採択するという進展をみせている。2013年は人権条約を具備するに至ったASEANが人権分野においてどのような成果をみせるのかが注目されたが,結論から述べると域内の市民社会組織などからは失望と批判の声が多く聞かれる1年となった。

2013年に注目を集めた事件としては,ラオスにおいて人権活動家が失踪し,それが政府による強制だと疑われた問題があげられる。事件自体は2012年末に起こったが,欧州連合(EU)をはじめとする域外から非難が寄せられただけではなく,1月にはインドネシア・マレーシア・フィリピンの議員がヴィエンチャンに調査に向かったのをはじめ,いくつかの域内国において議会レベルで批判の声が上がったり,12月のラオス・シンガポールの首脳会談でこの問題が話題に上るなど,域内でも問題視された。ほかには,ミャンマーのラカイン(ヤカイン)州における少数派のイスラーム教徒ロヒンギャ族の難民問題もある。その処遇に対し域内のNGOなどからミャンマー政府への批判の声が上がった。この問題についてはミャンマーに関するASEAN議員連盟(AIPMC)による非難も寄せられ,インドネシア首相もミャンマーを訪問した際に言及した。

しかし,これらを含む人権問題は一連のASEAN会合で取り上げられることはなく,AICHRも機能することはなかった。2013年のAICHRの活動はあくまでセミナーの開催などによる教育および能力構築や,人権宣言の各国語への翻訳および印刷にとどまった。調査や保護活動を行わないこと,何より被害にあった市民がAICHRに通報するという仕組み自体が存在しないことがしばしば批判の的となっている。上記のラオスの失踪問題では,議員連盟からは「本来はAICHRが調査すべき」という声も聞かれ,人権を推進しようとする勢力にとってはAICHRとASEAN人権宣言を軸とするASEAN人権協力は不十分だという認識は共有されつつある。AICHRは過去の活動を自己点検した報告書を2014年に完成させ,2015年に専門家グループがそれに検討を加えることになっている。

他方,長年ASEAN協力において議題であり争点であり続けてきたミャンマーの民主化問題は後景に退いた。のみならず,ミャンマーは2014年には議長国を務める予定となっている。同国は2006年に議長国となるはずであったが,欧米が民主化の遅れを理由に難色を示したため,辞退を余儀なくされた経緯がある。

煙害への地域的対策

インドネシアで違法に行われている野焼きなどによって発生した煙が近隣諸国に多大な被害を与えるという煙害の問題は15年以上前からASEANの議題としてあがってきたが,有効な対策を打ち出せないままであった。2002年には「越境煙害についてのASEAN協定」が採択されたが,加盟国中,肝心のインドネシアのみがまだ批准していなかった。

2013年6月下旬にはマレーシアの一部で非常事態宣言が出され,シンガポールで大気汚染指数が過去最悪に達するなど深刻化したこともあり,対策を講じようとする機運が高まった。6月末の外相会議で煙害は緊急の課題として取り上げられ,シンガポールから提案された森林火災の共同監視システム導入や消火体制の強化が共同声明に盛り込まれた。

7月半ばには関係国による閣僚級の対策会合が開かれ,共同監視システム導入を推奨することで合意した。ただ,同システムのためにはインドネシア政府による森林伐採権地図の公表が必要であり,インドネシアがそのデータを公にすることに難色を示したため,どの程度まで公開するかが議論の的となった。一方で,インドネシアは上記の煙害協定を2014年早期に批准する意志があることを述べた。8月の外相会議の脇ではインドネシア・マレーシア・シンガポールの外相が煙害対策のための会合を開き,監視システムについてさらに議論がなされた。

そして10月のASEAN首脳会議において監視システムが採用されることとなった。今後もデータの共有など課題は残っているが,積年の課題であり地域機構としてのASEANにおける機能不全の典型例のひとつとしてあげられてきた煙害問題への対策として重要なステップであると評価できる。

経済協力

経済共同体構築への取り組み

ASEAN諸国は2015年末までに政治安全保障・経済・社会文化の3つの分野からなるASEAN共同体を構築することを目指している。そのなかでもとくに注目され,経済相会議にとどまらず首脳会議でも重要な議題となっているのがASEAN経済共同体(AEC)である。AECは2007年11月に採択された「AECの青写真」において,「単一の市場と生産基地」「競争力のある経済地域」「公平な経済発展」「グローバルな経済への統合」の4本の柱からなるとされており,具体的には17の行動分野と77の措置が規定されている。AEC構築の主たる狙いは域外からの投資の呼び込みである。しかしAECの進捗は遅延のペースにあり,非関税障壁の撤廃やサービス貿易の自由化が課題とされている。2012年には共同体の完成期限を2015年年初から年末へと1年間後ろ倒しすることが決定された。

域内移動の自由化はAECの重要な構成要素であるが,4月の第22回ASEAN首脳会議ではビジネス関係者のビザ免除制度である「ASEANビジネストラベルカード」の導入を進めることに合意した。さらに将来的には域外国にも適用していく可能性があることも示唆された。また,観光客の移動自由化についても,域内全域でのビザ免除や域外からの観光客に対する共通ビザの発行を進めていくことも合意された。

8月には第45回ASEAN経済相会議が開かれた。ASEANではAEC行程表の進捗状況を「AECスコアカード」によって評価するという形をとっているが,7月までの段階で履行度合いは79.7%であることが報告された。ちなみに,2012年の経済相会議では72%であったこと,経済共同体構築の期限が2015年末であるということを考慮すると,この段階でのこの数値は決して十分なものではない。加えてスコアカードは基本的には加盟各国自身の記入によるため,この数値も正確なものではないおそれがあるという指摘もある。AECが遅延していることをふまえ,2012年4月のASEAN首脳会議では統合への障害に対応するための優先的な活動や具体的な手段を選定する必要性を指摘する「ASEAN共同体構築のためのプノンペン・アジェンダ」を採択した。それに則りこの経済相会議ではAECの分野別諸機関により作成された具体的な項目のリストを承認し,当面の重要課題として設定した。その他の課題としては,AECの効用をASEANのビジネス業界や一般市民に伝えていく必要があることもあげられた。

他方,同会議では成果として,非関税措置を削減するために地域レベルおよび国家レベルで作業プログラムを承認したこと,地域的な自己証明システムのための第2パイロットプロジェクトに関する覚書が発効したこと,7カ国に規模を縮小して行われたASEANシングル・ウィンドウ(ASW)のパイロットプロジェクトにおける接続テストが成功したこと,などが報告された。なお,ASWとは通関手続きなどに関する窓口を一本化・電子化するためのものであるが,各国レベルでの法的枠組みなどの整備が遅れていることも指摘された。

そして10月の首脳会議においても各国首脳は危機感を強め,「2015年経済共同体創設に向けた努力を加速する」ことで合意した。そのほか議長声明ではASEANインフラ基金による融資を年内にも始めることが盛り込まれた。これによりASEAN地域の物理的な連結性が向上することが期待されている。

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)と環太平洋経済連携協定(TPP)

政治安全保障分野と同様に,経済分野でも域外諸国とASEANの協力は活発化している。大国間で「ASEAN取り込み」の競合がみられるのも同様である。

2013年にはASEAN地域に関わる2つの広域的な経済連携協定の交渉が進められた。ひとつはTPPである。これはアメリカ主導の枠組みであり,ASEANからはシンガポール,マレーシア,ブルネイ,ベトナムが参加しており,タイも参加を表明している。TPPは労働者の権利や環境基準,知的財産権の保護などを含んだ深度の高い自由化であるため,国有企業中心の中国は参加することが難しい。2013年内での協定妥結が目指されたが,関税撤廃をめぐり足並みがそろわず,イニシアチブをとるアメリカのオバマ大統領が10月のTPP首脳会議を欠席したこともあり,思うような進展はみられなかった。

もうひとつの自由化の枠組みは2012年に交渉開始が宣言されたRCEPである。これはASEANに加え日本,中国,韓国,インド,オーストラリア,ニュージーランドの計16カ国で域内の貿易投資の自由化を進めるもので,交渉は2015年末までに終わるとされている。ASEAN以外の6カ国はいずれもすでに「ASEAN+1」の形でASEANとFTAを結んでいる国々であり,RCEPはそれらを統合し関税などのルールを一本化する意味合いがあることから,基本的にはASEAN主導の枠組みであるといえる。ただ,TPPの東南アジアへの拡大やそれによりアジア太平洋の通商ルールが決まることを懸念する中国は,RCEPをアメリカに対抗しASEANとの経済関係を深めるための重要な手段であると捉えている。

RCEPの第1回交渉会議は5月にブルネイで開かれ,「物品」「サービス」「投資」の3つの作業部会が開かれ交渉が進められた。8月には初の関係閣僚会議が開かれ,交渉を進めるうえでの基本ルールについての議論が行われた。その結果,どこから輸入しても同じ品目は同じ関税率にするという「共通譲許」を基本にすることが合意された。また,ブルネイの外務貿易相はTPPとRCEPは補完関係になりうることを強調し,ASEAN地域における大国間の競合の激化を牽制する姿勢をみせた。9月にはオーストラリアで第2回交渉会議が開かれ,日本から10年以内に90%以上の品目で関税をゼロにすることが提案された。これは多くの国に受け入れられる一方で,例外を許さない姿勢のオーストラリアやニュージーランドは「90%」を低いとし,関税措置の多いインドやミャンマー,カンボジアは「90%」は高いとして反発した。RCEPには経済発展の度合いにかなり差のある国々が含まれており,TPPと比べて柔軟性が高いとはいえ合意は容易ではない。

これら2つの自由貿易枠組み以外の域外経済関係としては,ASEAN経済担当閣僚は3月にEUの欧州委員(通商担当)とハノイで会談し,FTA交渉再開を検討することを発表した。また,4月のASEAN首脳会議では香港とのFTAの交渉に入ることが合意された。さらに,12月の日ASEAN特別首脳会議では日本とASEANの包括的経済連携協定における「投資」「サービス」の2分野の交渉が実質合意に至ったことが発表された。このほか,ASEAN域内の大国であるインドネシアへのアプローチをはじめとして,米中日などの域外諸国はASEAN諸国と二国間ベースでも経済的な関係を深めている。

2014年の課題

域外大国がASEANへの関与を深めそれらの競合も激化するなか,ASEANがその理念として掲げる広域的な枠組みにおける「中心性」をいかに発揮するのかというのが当面の課題である。そのためにもASEAN加盟国間での一体性を確保することが重要になってくるだろう。2013年には幾度も,2012年に加盟国の対立の結果,共同声明を出せなかったことが苦い経験として当事者の口にのぼった。

2013年の議長国ブルネイの采配はおおむね好評価を得たようであるが,2014年は初の議長国でありかつしばしば「親中派」として位置づけられるミャンマーである。ASEANの基本的な方針はあくまでアメリカか中国かのどちらかに旗幟を鮮明にするのではなく,バランスをとることにある。そのためにはまずは議長国の思慮深い判断が必要となる。

他方,AECは2015年末という期限には間に合わないことが明らかになりつつある。AECが外資の呼び込みが主たる目的ということを考えると,間に合わないにしても投資家を失望させないようなアピールをしていかなければならない。RCEPの交渉についても2015年末までに完了という期限は決してやさしいものではない。参加国の利害調整が重要である。

(大阪大学准教授)

参考資料 ASEAN 2013年
①  ASEANの組織図(2013年12月末現在)
②  ASEAN主要会議・関連会議の開催日程(2013年)
③  ASEAN常駐代表(2013年12月末現在)
④  事務局名簿(2013年12月末現在)
 
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