Yearbook of Asian Affairs
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2014 Volume 2014 Pages 231-258

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2013年のベトナム 保守色が目立った憲法改正,マクロ経済は安定を取り戻す

概況

ベトナムでは12年ぶりに憲法が改正された。国家と社会に対する共産党の指導的役割を規定する第4条を含むほとんどの条文が改正の対象となり,初期の草案では若干の革新的な提案も含まれていた。しかし,最終的に成立した改正憲法は,現状維持の色彩の強いものとなった。並行して行われた土地法改正でも,土地収用の事由を具体的に規定するなど,一定の改善はみられたが,経済社会発展を目的とする土地収用一般を不可とするなどの抜本的な改革案は見送られた。

2013年の経済は,2012年に引き続き5%台前半のGDP成長率にとどまったものの,消費者物価指数が過去10年で最低の水準にまで落ち着くなど,マクロ経済状況が安定した。携帯電話の輸出増により貿易収支は黒字となり,外国直接投資の認可額も前年比50%以上の大幅増となった。金融セクターに改革の兆しがみられたものの,国有企業改革は大きく進まなかった。不良債権処理や財政赤字の増額,国有企業の債務返済などで,政府が根本的な問題解決を先送りし,将来の負担やリスクを増やすような対応が目立ち,先行きに不安を残す結果となった。

南シナ海問題をめぐる中国との関係では,首脳の相互訪問などを経て,一定の歩み寄りがみられた。サン国家主席は,ベトナムの指導者として5年ぶりのアメリカ公式訪問を行い,両国間の「全面的パートナーシップ」を確立した。2013年は多くの国々との間で国交40周年を迎えたこともあり,新たに5カ国との間で戦略的パートナーシップが確立されるなど外交関係が進展した。

国内政治

1992年憲法改正の経緯と結果

2013年の憲法改正の準備作業は2年前から始まった。2011年8月2日付国会常務委員会の意見書によれば,今回の憲法改正の目的は主として,(1)2011年に改正された党綱領など最近の党の文書に示された方針,路線などを制度化すること,(2)ドイモイ路線実施25年の成果を確認し,近代的工業国の建設のために全国民の愛国精神や団結力を発揮させること,および(3)憲法の規定を国家の基本法として適切な内容,体裁にすることの3つとされる。

同意見書に従い,2011年8月6日,フン国会議長を委員長とする憲法改正起草委員会(以下,起草委員会)が設立された。起草委員会は,省庁や地方政府など関係各機関からの憲法に関する報告,提案を聴取した後,それらをふまえて改正草案を準備した。この草案は,2012年11月の国会決議により,2013年1月2日,国民に公開された(1月草案)。憲法草案は,関係機関のウェブサイトや新聞などの媒体を通じて公開されたほか,印刷されて各世帯に配布された。意見聴取の期間は当初3月末までとされたが,後に延長され,9月末までとなった。地方政府や諸団体は,会議の開催や用紙の配布などにより人々の意見聴取に努めた。その結果,最初の3カ月間で2600万件を超える意見が寄せられたという。

今回の憲法改正のひとつの特徴は,その対象が包括的であったことである。1月草案では,改正前1992年憲法(旧憲法)の全条文147カ条中,14カ条を除いてすべて修正,補充ないし削除する案が示されていた。すなわち,国家と社会に対する共産党の指導的役割(旧第4条),土地の全人民所有(旧第17条),経済における国家部門の主導的役割(旧第19条)などにかかる諸条文も改正論議の俎上に載せられていたのである。草案の内容は,全体として旧憲法の社会主義的諸原則を大きく修正するものではなかったが,経済における国家部門(国有企業など)の主導的役割への言及がないことなど,注目される変更点も見受けられた。

内外の知識人も憲法論議に加わった。なかでも,1月19日付で72人が署名した「1992年憲法改正にかかる建議書」(通称「建議書72」)は,起草委員会の草案は民主的憲法の本質を十分に理解したものでないと批判し,前文および第1章(政治制度),人権,土地所有など7項目について建議を行うとともに,参考資料として独自の憲法案を提示した。その憲法案は,国家と社会に対する共産党の指導的役割に関する旧第4条の撤廃,土地の私的所有の承認など,旧憲法の社会主義的諸原則を根本的に改める内容を含んでいた。「建議書72」はまずインターネット上で公表され,2月4日にはグエン・ディン・ロック元法務相を団長とする署名者の代表15人によって起草委員会事務局に提出された。

「建議書72」の署名者(「建議書72」グループ)には,かつて大臣や副大臣,歴代首相の秘書やアドバイザーを務めた著名知識人が含まれていた。現体制のいわば内部者であるこれらの知識人らが大胆な改革案を打ち出したことに対し,党指導部は厳しい姿勢で応じた。2月25日,チョン党書記長は,憲法第4条を撤廃するなどの意見を「政治思想的,道徳的堕落以外の何物でもない」と激しく批判した。この発言を直ちに自らのブログで批判した『家族と社会』紙の記者は,翌26日,同紙を解雇された。2月27日にはフン国会議長が,憲法草案に対する国民の意見聴取を利用して党,政府を打倒しようとする試みを断固として阻止すべきであると発言している。

「建議書72」グループに対する圧力があったこともうかがわれる。3月22日には,ロック元法務相が,テレビ番組のインタビューで,「建議書72」の起草への自らの関与を否定している。しかし,「建議書72」はインターネット上で賛同者を増やし,3月27日時点で1万1688人が署名したとされる。

起草委員会は,4月12日,新しい草案を国会常務委員会に提出した(4月草案)。この4月草案では,国名の変更や経済社会発展目的による土地収用を容認する規定の削除など,国民の要望に沿った改正案が,当該条文の複数の改正案のなかのひとつなどの形で盛り込まれていたという。しかしながら,第5回国会に提出された草案(5月草案)は,多くの部分で4月草案の変更点を元に戻し,1月草案に近いものとなっていた。経済における国家部門の主導的役割を明記しない案は,当該条文の3つの改正案のうちのひとつとなった。

11月28日,第6回国会で,憲法改正案は採択された。出席議員488人中486人が賛成(議員総数の97.6%),残りの2人は棄権であった。全11章120カ条から成る新憲法では,経済における国家部門の主導的役割に関する規定が存続するなど,旧憲法の社会主義的諸原則は基本的に維持された。もっとも,国民の厳しい視線を意識したものとみられる修正箇所もある。第4条には「共産党は……人民に奉仕し,人民の監察を受け,その決定に関し人民に責任を負う」という文言が新たに加えられた。また,公民の基本的な権利と義務に関する旧第5章は,新憲法では第2章となり,章名に新たに「人権」の一語が加えられ,生存権や環境権などの規定が追加された。他方,国防,国家安寧,社会秩序などのために必要な場合には,法律により人権,公民権を制限できるという一般的な制限規定が新設された。新憲法の名称は,2013年憲法ではなく,「改正1992年憲法」となった。

土地法改正およびその他の立法活動

第13期第5回国会(2013年5月20日~6月21日)および第6回国会(10月21日~11月29日)では,憲法を含め,合計18の法案が可決された。

急速に開発が進むベトナムでは,土地収用にまつわる紛争が激化している。2012年初頭には,ハイフォン市ティエンラン県で,県当局による恣意的な土地収用に対して土地使用権者が武装抵抗を試み,強制収用に当たっていた警察官ら6人が負傷する事件も起きている。裁判や不服申立の対象となっている事案の7,8割は土地関連ともいわれる。その背景にあるのが,土地の管理に関する法の規定の不明確,不合理である。土地法は,早期の改正が必要との認識から,当初,第5回国会で採決が行われる予定であったが,第5回国会では意見がまとまらず,採決は第6回国会に持ち越された。第6回国会でも予定の審議日程を超過して議論が行われた。土地法改正草案に対しては,憲法改正草案と同様,1月2日から国民の意見聴取が行われ,最終的に700万件近い意見が寄せられたという。

11月29日に成立した改正土地法は,2003年土地法と比べて7章66カ条多い全14章212カ条から成る。改正土地法は,土地収用にかかる国民の懸念に対応するため,土地収用が認められる事由や,収用決定,補償などの手続きの明確化に努めている。また,土地使用権の期限は,これまで稲作用地などについては20年とされていたが,すべての農地につき一律50年となった。一方,土地の全人民所有および国家による統一的管理の原則は維持された。また,当局による恣意的な土地収用を抑制するために経済社会発展目的の土地収用一般を不可とすべきという提案も実現しなかった。改正土地法は2014年7月1日より施行される。

居住法改正では,2006年成立の同法で1年間の合法的な居住により中央直轄市に戸籍を移転することが可能になったことを改め,中央直轄市の中心部については居住要件を2年間とした。なお,当初の草案では,公安省は,刑務所で服役中の場合および2年以上海外に滞在している場合には戸籍登録を抹消することを提案していたが,反対意見が多かったため,提案を取り下げている。

企業所得税法改正では,2014年初頭から企業所得税率を従来の25%から22%へ,さらに2016年からは20%へ引き下げることを定めた。年間売り上げ200億ドン以下の中小企業については,2013年7月1日から税率20%が適用されている。

表1   2013年の国会で可決された憲法,法律

(出所) ベトナム国会ウェブサイト(http://na.gov.vn)より筆者作成。

国会における国家幹部の信任投票実施

6月10日,ベトナムで初めての国会による国家幹部に対する信任投票が実施された。信任投票については,2001年の憲法改正以来,国会の権限として認められているが,共産党員が9割を占める国会で,国会議員の2割による発議を要件とする信任投票は実現が困難であった。しかし,国会による他の国家機関,とくに政府の活動監視の必要性は近年強く認識されているところでもあることから,2012年12月の国会決議により,毎年1回,国会により選出または承認された国家幹部全員を対象に信任投票を行うこととなった。

信任投票の対象となったのは,国家主席,首相,閣僚,国会議長,最高人民裁判所長官などを含む国家幹部47人である。投票の方法は,まず信任の度合いを「高信任」「信任」「低信任」の3段階で評価して投票する。「低信任」が国会議員の半数を超えた場合,対象となった国家幹部は自ら辞職を願い出ることができる。「低信任」が3分の2を超えた場合,あるいは2年続けて国会議員の半数を超えた場合,対象となった国家幹部は改めて「信任」か「不信任」かを問う投票にかけられ,その結果不信任票が過半数に達すれば解職されることになる。

投票翌日に公表された投票の結果によれば,「低信任」が過半数に達した国家幹部はいなかったが,首相および一部の閣僚に対しては比較的厳しい評価が下された。もっとも「低信任」の割合が高かったのがビン国家銀行総裁(42%),次いでルアン教育・訓練相(36%),第3位がズン首相(32%)であった。ちなみに,「高信任」の割合がもっとも高かったのはガン国会副議長で,75%であった。

全体に国会関係者は信任の度合いが高く,政府関係者は信任の度合いが低いという傾向はみられるが,政府関係者に限ってみれば,投票の結果は個々の幹部の職務遂行に対する一般的な評価や国民の懸念の所在を明らかにすることに一定程度成功したといえよう。ただ,技術的な問題として,「高信任」「信任」「低信任」の3段階評価では「低信任」が過半数に達することは困難であることが指摘され,最初から2段階評価とすべきという意見も出ている。

汚職問題への取り組み

2011年末の党中央委員会第4回総会決議は,党の高級幹部にまで及ぶ汚職問題が国民の党に対する信頼を損なっていることを指摘した。同決議に基づいて展開されてきた綱紀粛正運動のひとつの主眼は,党の政府,首相に対する監視・指導の強化であった。

その流れのなかで実現したのが,2012年の汚職防止法改正による汚職防止指導委員会の党政治局への移管,およびその常務機関となる党中央内政委員会の復活である。内政委員会は2012年12月28日に設立され,委員長にはグエン・バー・タイン・ダナン市党委書記が任命された。党書記長が委員長を務める汚職防止指導委員会は,2月1日の政治局決定により設立され,活動を開始した。

ダナン市の発展を推進してきた強いリーダーシップや歯に衣着せぬ発言で知られるタイン内政委員長の就任は注目を集めた。しかし,1月17日,政府監査院は,ダナン市当局が2003年から2011年にかけて多くの土地関連事業において規定違反を犯し,国家財政に3兆4340億ドン(約1億6000万ドル)の損失を与えたという監査結果をまとめた(3月5日公表)。ズン首相は監査の結論および関係者に対する処分の提案に同意を与え,公安省に事案の調査を指示したとされる。タイン委員長は2003年にダナン市党委書記に就任しており,この土地管理疑惑は汚職撲滅を指導する立場にある同委員長の威信に傷をつけることとなった。

また,5月2~11日にかけて開催された党中央委員会第7回総会において,ニャン副首相およびガン国会副議長の2人が新たに政治局員に選出された。このとき,タイン委員長は,ヴオン・ディン・フエ党中央経済委員会委員長とともに,候補として名前が挙がっていたとされているが,選出されなかった。政治局員の肩書を持つことは,タイン委員長が効果的に職務を遂行するために重要な条件であったと考えられる。内政委員会はこれまであまり顕著な活動を行っていない。

汚職問題への取り組みとしてもっとも目をひいたのは,主要な汚職事件の被告に対し極刑が宣告されたことである。11月15日には,ベトナム農業農村開発銀行(アグリバンク)傘下の第2ファイナンスリース会社(ACL2)の幹部らが2008~2009年にかけて,経済管理に関する規定に違反し,国家に5318億ドンの損失を与えたとされる事件で,それぞれ約600~800億ドンを横領したとされる同社の元社長ら2人に死刑判決が下された。12月16日には,ベトナム海運総公司(ビナラインズ)幹部らが2007~2008年にかけて国家に3670億ドンの損失を与えたとされる事件で,それぞれ100億ドンを横領したとされる同社の元会長および元社長に死刑が宣告された。

インターネット上の言論統制,さらに強化

他項でも触れているように,2013年,ベトナムは,改正憲法の人権規定を拡充したり,国連人権理事会理事国となるなど,内外に人権重視の姿勢をアピールした。その一方,反体制活動の取り締まり,とくにインターネット上の言論統制は厳しさを増し,多くのブロガー(ブログ開設者)などが逮捕されたり,有罪判決を受けた。

1月9日,ゲアン省人民裁判所は,カリフォルニアに本拠を置く反体制組織,ヴィエトタンとのつながりを理由として,ブロガーら14人を人民政権転覆罪で有罪とし,最高13年の懲役刑を宣告した(うち4人につき,5月23日,控訴審で減刑)。5月16日には,反体制的リーフレットを配布したという理由で大学生ら2人が反国家宣伝罪に問われ,6年と8年の懲役判決を受けた(8月16日,控訴審で懲役3年執行猶予付きと懲役4年に減刑)。10月2日,ブロガーのレ・クォック・クアンは脱税の罪で30カ月の懲役判決を受けた。国際的人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチが2014年1月に発表した報告書によれば,ベトナムの裁判所は,2013年1年間で少なくとも63人の非暴力的民主活動家に有罪判決を下したという。

インターネット上の情報共有や言論に関する新しい規制も導入された。7月15日,政府は,インターネットサービスの管理,提供,使用に関する議定72号を公布した(9月1日施行)。議定72号は,インターネットサービスの提供に関し免許制を導入することなどを定めているが,その規定が,個人のブログやソーシャルメディアへのニュースなどの掲載を禁じているとも読めることが波紋を呼んだ。在ベトナム・アメリカ大使館は,8月6日,議定72号に関して深い懸念を表明し,ベトナム政府に対し,表現の自由の尊重を求めている。もっとも情報・通信省幹部によれば,議定72号は報道機関の知的所有権,著作権を保護することを目的としており,個人によるネット上の情報共有を禁止するものではないとされる。

11月13日に公布された通信分野などにおける行政違反の処罰に関する政府議定174号(2014年1月15日施行)は,ウェブサイトやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて反国家的宣伝などが行われた場合,最高1億ドンの罰金が科されることを定めている。

当局による言論統制の強化に対し,活動家やその支持者は対抗姿勢を強めている。10月2日,上述のレ・クォック・クアンの裁判当日には,被告の支持者数百人が街頭に出て被告の釈放を訴え,裁判所周辺は物々しい警戒体勢が敷かれた。5~7月には,ク・フイ・ハー・ヴーやグエン・ヴァン・ハイら服役中の著名な活動家が刑務所内の処遇に抗議してハンガーストライキを行ったことがブログなどを通じて伝えられた。

ヴォー・グエン・ザップ将軍死去

抗仏,抗米戦争において人民軍を指揮し,ベトナムを勝利に導いた伝説的英雄,ヴォー・グエン・ザップ将軍は,10月4日,老衰により102歳で死去した。抗米戦争後は政権中枢から遠ざかり,1991年には1955年以来就いていた副首相職をも離れ,完全に政界から引退したが,その後も主要な社会問題に関して公開書簡などの形で直言を続けた。とくに中央高原におけるボーキサイト採掘プロジェクトに関しては,環境上および安全保障上の理由から,2009年初頭以来,数次にわたってズン首相にその中止を訴え,世論糾合の推進力となった。

ザップ将軍の葬儀は10月12,13日の2日間にわたって営まれた。ベトナムの国葬は,通常,党書記長,国家主席,首相,または国会議長経験者のみが対象とされるが,ザップ将軍については特例的に国葬が行われることとなった。故ホー・チ・ミン主席と並んで国民的人気を博したザップ将軍の自宅および葬儀が行われた国家葬儀場には多くの市民が弔問に訪れ,将軍の柩が葬儀場から運ばれる際には,沿道は最後の別れを告げる市民で埋め尽くされたという。故人と遺族の希望により,遺体は故郷のクァンビン省に埋葬された。

経済

携帯電話輸出と外資の回復に支えられた成長

2013年のGDP成長率は5.42%となり,2013年年初に立てられた目標値(5.5%)は下回ったものの,2012年の成長率5.25%を若干上回る結果となった。年平均7%超の成長を記録した2000年代前半のような水準までは回復しなかったものの,「下げ止まり」の様相をみせたといえる。

成長を後押ししたのは輸出の増加と過去4年間の低迷から回復した外資の流入であった。統計総局の速報値によれば,輸出は前年比15.4%増の1322億ドル,輸入も前年比15.4%増の1313億ドルとなり,貿易収支は8億6300万ドルの黒字であった。これで2年連続の貿易黒字となった。2013年は不作や世界的な価格下落により,コーヒーが26.6%減,コメが18.7%減など,主要農産物の輸出額が大幅に減少した。しかし,繊維・縫製品(18.6%増)や携帯電話(69.2%増),電子・コンピューター部品(36.2%増)など工業製品の輸出額の2桁増が農産物の輸出減を大きく上回る形となった。

2012年に貿易収支が2011年の100億ドル以上の赤字から一気に黒字に転じたが,そのもっとも大きな要因は携帯電話の輸出の大幅増であった。2013年も携帯電話の輸出が順調に伸び続け,縫製品を抜いて輸出額第1位の品目となった。「電話および電話部品」の輸出額は輸出品目のなかで唯一200億ドルを超える215億ドルとなった。なお,携帯電話をもっとも多く輸出しているのは,バクニン省に工場をもつ韓国のサムスン電子である。

2013年の外国直接投資の認可額は,前年比54.5%増となる216億ドルとなった。2008年以降は毎年認可額が下落し続けていたが,ようやく下落に歯止めがかかったことになる。最大の投資国は2年続けて日本となり,57億ドルの認可があった(認可額全体の26.6%)。日本からの年間投資総額は前年に引き続き過去最高額を更新した。2012年の日本からの投資は新規案件が78%を占めていたのに対し,2013年は全体の77.5%が既存投資案件の増資であった。出光興産を中心とするタインホア省のギソン製油所関連の投資がもっとも大きな案件(28億ドル)であった。

一方,認可額2位以下で続くシンガポール,韓国,中国の投資は,新規案件が多かった。とくに韓国は,新規案件だけで認可額が38億ドルに上っている(日本の新規案件は13億ドル)。その大半は携帯電話を含む電子関連産業で,サムスン電子の第2工場(タイグエン省)への投資が20億ドル,LG電子のハイフォン工場への投資は15億ドルとなっている。

また,外国直接投資の実行額は前年比9.9%増の115億ドルとなり,2008年の水準に戻った。外国投資企業による輸出は884億ドルに上り,総輸出額の66.9%を占めた。このうち石油を除いた金額でも812億ドルあり,総輸出額の61.4%であった。

マクロ経済は安定に向かう

2000年代前半から続いた不安定なマクロ経済状況も,やっと落ち着きを取り戻した。長らくベトナムを悩ませていたインフレが終息の兆しをみせ,2013年末時点の消費者物価指数は前年同月比6.04%上昇という過去10年でもっとも低い値となった。ベトナム国家銀行(以下,国家銀行)は2012年ほど大きな金利の引き下げを行わず,3月と5月に1%ずつの引き下げにとどめた。5月以降の政策金利(リファイナンスレート)は7%となっている。為替も安定し,通貨ドンの対ドル基準レートは年間で1.3%のドン安にとどまった。外貨準備高は,2012年末の210億ドルから320億ドルにまで増加した(10月末時点)。これは輸入額の12週分に当たる。

過去数年加熱していた金市場も安定し,金の価格も大幅に下落した。サイゴンジュエリー社の2013年末の店頭価格は1テール(1.2オンス)あたり3462万ドンとなったが,これは年初から1162万ドン(約545ドル)もの下落であり,過去最大の年間下げ幅であった。国際的な価格の下落に加え,国家銀行による価格安定化策により投機的な買い付けが抑制されたことも要因となった。2012年5月以来,金地金の製造や金原料の輸出入を国家銀行が独占的に管理する体制が導入されていたが,加えて2013年3月には国家銀行が金地金の入札による販売を開始した。

2012年後半から低迷が続いた株価は年初から上昇し,2013年末のVNインデックスは,前年比22%高の504.63ポイントとなった。また,海外在住ベトナム人からの送金は110億ドルに達し,2012年の100億ドルを超え,過去最高額となった。

しかし,政府の財政状況は,将来のマクロ経済状況の再悪化を懸念させるものとなった。11月,第6回国会において2013年の財政赤字をGDPの5.3%とし,2014年も同水準の財政赤字を見込むとする予算・決算案が承認された。この財政赤字は,世界銀行が「危険水域」とするGDPの5%を超える水準である。収入が見込みを下回った(見込みより3.1%減)うえに,インフラ建設を中心とする進行中の開発プロジェクトの支出が見込みを大幅に上回ったこと(同15.4%増),公的債務の支払いが大きな負担となっていることなどが財政赤字の根拠であるとされている。とくに公的債務は深刻なレベルにあり,第6回国会でディン・ティエン・ズン財政相は,2013年末時点の公的債務はGDPの56.2%に達していることを明らかにした。GDPの65%という国連が定めた公的債務の危険水域の値を下回っているものの,財政相は同時に,2014年には公的債務が59.8%まで上昇すると予測している。赤字を補填するために,2014~2016年の3年間で170兆ドンの国債が発行される予定である。債務返済が今後の重荷になることは間違いないだろう。

金融セクターに大きな動き

金融セクターでは,2012年に発表された「2011~2015年金融機関再編計画」が本格的な実施に移された。1月には,金融機関の不良債権処理の手続きに関する政府議定2号および不良債権の分類を定義した国家銀行通知2号が公布された。3月には,再編計画実行のための指導委員会が設立されるとともに,国家銀行による金融機関への特別監査に関する通知(国家銀行通知7号)が公布された。

もっとも大きな動きは,2012年に大きく積み上がった金融機関の不良債権処理が着手されたことである。ただしその動き出しは2013年後半を待たねばならなかった。国家銀行傘下に不良債権処理会社(Vietnam Asset Management Company: VAMC)を設立し不良債権の買い取りを行うことは,2012年末には決定していたが,国家銀行通知2号で定められた定義に則った不良債権の分類が遅れたこともあり(結局,2014年6月まで延期されることが決定),VAMCの設立は7月までずれ込んだ。不良債権の買い取りが実際に始まったのは10月になった。VAMCはまず農業・農村開発銀行からの2兆5000億ドンの不良債権の買い取りを皮切りに,年末までに26の金融機関から36兆ドンの不良債権を買い取った。

VAMCは定款資本が5000億ドンと企業規模は小さいため,主にVAMC特別債を発行し不良債権と引き換えに帳簿価格で銀行に引き取らせるという形で処理を行っている。特別債は5年満期で利率は0%である。銀行は特別債を担保に国家銀行から借り入れを行うことができる。その一方で,特別債の額面の20%を毎年引当金として資産評価勘定に計上することになっている。VAMCによる不良債権買い取りにより,銀行は当面の資金の流動性は確保できることになった。

しかし,VAMCによる不良債権の買い取りは,問題の解決を5年先送りにしただけという批判もある。不動産や株式売買における外国人に対する規制が存在するベトナムでは,不良債権を外国人投資家へ売却することにも限界があり,不良債権処理の先行きは不透明である。なお,国家銀行は,年末時点での不良債権は総貸付額の4.7%であると発表している。

2013年は,銀行の買収・合併も加速した。まず,1月に資産総額第2位のベトナム輸出入銀行(Exim Bank)と第5位のサイゴン商信銀行(Sacom Bank)との大型合併の計画が正式に発表された。Exim Bankは2012年, ANZ銀行が所有していたSacom Bankの全株式を取得して筆頭株主となった。両行は今後3~5年をかけて合併を実行するとしている。これにより,資産総額ではアジア商業銀行(ACB)を抜き,民間商業銀行第1位となる見込みである。また,ホーチミン住宅開発銀行(HD Bank)は11月,ダイアー銀行(DaiA Bank)との合併と,100%フランス資本の金融機関であるSociete Generale Viet Finance証券 (SGVF)の全株式の買収を発表した。さらに,ベトナム石油ガスグループ(ペトロベトナム)の子会社であるPV Finance証券(PVFC)が9月,小規模銀行のひとつフオンタイ銀行(Western Bank)と合併し,ベトナム大衆銀行(PVcom Bank)という新たな銀行に再編された。一方,建設省系の大信銀行(Trust Bank)は5月,株式の84%を売却する再編に際し,ベトナム建設銀行(Vietnam Construction Bank)に名称を変更した。

国有企業改革と民間大企業の動き

国有企業改革の進展は,2013年も計画どおりには進まなかった。2013年に株式会社へ改組(株式化)した国有企業の数については不確かな情報が多く,ズン首相は,12月に開催された「開発パートナーシップフォーラム」ではその数を100社であるとし,2014年2月には「2012年と2013年合わせて99社」であると発表している。そのほかにも,世界銀行の12月の報告では43社という数字も示されている。いずれにせよ,2012年から2015年の間に500社を株式化するという目標から大きく遅れていることは間違いないであろう。

また,経済集団や大規模総公司の株式上場は2013年も見送られた。ベトナム航空やベトナム繊維総公司(ビナテックス)は年初,2013年中に新規株式公開(IPO)を行うと発表していたが,戦略的投資家の選定に時間がかかっているなどとして,結局,2013年中のIPOを実施しなかった。

国有企業の株式化を推進するため,11月,100%国家所有の国有企業の株式化に関する政府議定189号が公布された。これは2011年7月の政府議定59号の修正・補充であり,主に経済集団や総公司の親会社が株式化する際の条件を緩和するものである。また,同議定は,株式価格の決定に必要な土地使用権の価値の評価方法を明確化している。また,11月には国家資本投資総公司(SCIC)の機能,任務,活動メカニズムに関する政府議定151号が公布され,SCICによる国家資本の投資により株式化を加速させるという原則が再確認された。さらに12月,SCICの2015年までの構造改革計画(首相決定2344号)が承認され,巨額の配当金が見込めるビナミルク,FPTテレコム,ハウザン製薬,ベトナム国家再保険の4社の株式を長期的に保有すること,その一方で建設大手ビナコネックス,バオベト保険,FPTなどの大手企業を含む376社の株式の保有比率を引き下げることを発表した。また,2015年までにSCICが投資する企業を100社以下に絞る一方,定款資本を50兆ドンまで増加させることが計画されている(2005年の設立時の定款資本は5兆ドンであった)。

また,ベトナムの127の経済集団や国有総公司による債務総額は1300兆ドンにも上るといわれており,各国有企業の経営立て直しが急務となっているが,政府は,国有企業の経営効率とガバナンスの向上のために,さまざまな政令を公布した。6月,国有企業の財務監査と業績評価,情報公開に関する政府議定61号が公布された。この議定では,企業が赤字を計上した場合には特別監査にかけられることも決められた。7月には,国有企業の行き過ぎた多角化による経営悪化を防ぐため,100%国家所有の国有企業に対し,その中核業務以外の事業からの撤退を促す政府議定71号が公布された。同議定は,100%国家所有の国有企業による不動産や銀行,保険,投資ファンド,証券業への投資を禁止すること,現在すでにこれらの業種に投資している国有企業は売却計画を策定すること,としている。

一方,2010年に破綻して以来再建が進まなかったベトナム造船集団(ビナシングループ)の再建問題には進展がみられた。9月,交通・運輸省は,ビナシングループから中核業務以外の企業を切り離すことにより経済集団を解体し,造船工業総公司(Shipbuilding Industry Company: SBIC)に改組すると発表した。これにより,今後1万4000人の解雇を行うこととなった。また,10月,ビナシングループのグエン・ゴック・ス会長は,2013年中に債務返済の目処が立つだろうと発表した。これまでに国内の債務29兆ドンのうち,12兆ドンを社債発行で処理し,残りも2013年から2014年年初にかけて社債を発行して処理する予定であるとした。さらに,返済期限を過ぎて2011年にイギリスの法廷に提訴されていた6億ドルの海外債務の問題は,2025年までの政府保証つきの低利子債券をビナシンが発行することで,債権者との合意に達したとした。残りの少額債務の総計は10兆ドンになるが,これも額面の30%程度で処理できる見通しが立ったという。ただし,これら「処理」は,主に債券の発行による債務返済の先延ばしが決定したというものであり,根本的な再建により業績が上向かなければ,将来の債務返済も困難となるだろう。

2013年は多くの民間企業にとっても厳しい1年であった。民間の中小企業を中心に,解散あるいは活動停止した企業数は,2012年より11.9%増加し,6万737社に上った。そのようななかにあっても,いくつかの大規模民間企業,とくに内需向け企業が大型投資や新たな事業戦略の展開といった目立った動きをみせた。ベトナム初の民間航空会社であるベトジェットエア航空は2月,初の国際線(ホーチミン=バンコク間)を就航させた。そして8月,同社は前年の赤字から年初7カ月で1200億ドンの黒字に転じたことを受け,18~42カ月後にIPOを行うという計画を発表した。9月には,エアバスと最大92機のA320型航空機を購入する覚書を交わした。また,ビナミルクとTHミルクの乳業大手2社は,それぞれビンフォック省,ゲアン省に大規模工場を完成させた。さらに,不動産大手のビングループは7月,プールなどのレジャー施設も併設した大型商業施設「ビンコム・メガモール・ロイヤルシティ」をハノイにオープンさせた。

情報通信大手のFPTは7月,これまでチュオン・ザー・ビン会長が兼任していた社長(CEO)に副会長のブイ・クアン・ゴックが就任することを発表した。新社長の就任は,「近代的なガバナンスの基準に沿って会長と社長を分け,経営効率化を図るため」としている。2012年9月に経営に関する意見対立により前社長が辞任して以降,ビン会長が社長も兼ねてきたが,約1年ぶりに新社長が決定したことになる。

対外関係

海上共同開発へ向けて中国と作業グループ設置に合意

2013年の対外関係では,南シナ海の領有権問題が引き続き主要な懸案となったが,中国の新指導部の発足および両国首脳の相互訪問を機に,両国はこの問題の解決に関して一定の歩み寄りをみせている。

2013年前半には,ベトナム漁船が中国船に発砲を受けたり,追跡,破壊されるなどの事件が相次いだ。中国国家測量地理情報局が新たに発行した中国地図に多くの南シナ海の島や主要な暗礁の名称を追加したこと(1月)や,中国国家海洋局が公表した「中国第12次5カ年計画の実施のための国家海洋事業発展計画」において南シナ海における油田探査の拡大や巡視の日常化などが掲げられていること(4月)もベトナム側を刺激した。これらの問題について,外務省報道官はその都度中国側を批判する発言を行っている。また,3月14日は,チュオンサ(南沙)諸島における中国との海戦(1988年)の25周年にあたり,『ニャンザン』紙をはじめ各紙がこれまであまり知られていなかった同海戦についての記事を掲載した。

他方,政府は中国との対立を避ける姿勢をも示してきた。1月にフィリピンが国連海洋法条約に基づき中国を国際海洋法裁判所に提訴した件については,ベトナム外務省は,4月25日,「関心を持って進捗を見守る」とコメントして中立的な立場をとった。5月31日,ズン首相は,アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)における基調演説のなかで,アジア太平洋地域が抱える安全保障上の課題のひとつとして南シナ海問題にも触れ,「根拠のない主張や国際法違反の行為」などが一部にあると述べたが,中国の参加者から国際法違反の具体例を問われると直接的な回答を避けた。6月2日にはハノイで行われた反中国デモを警察が鎮圧した。

6月,サン国家主席は,中国新政権発足後初めての中国訪問を行った。習近平国家主席との会談では,両国の友好協力関係が強調され,多くの分野における互恵関係を強化することが合意された。南シナ海問題については,ベトナム農業・農村開発省と中国農業省との間で海上の漁業活動問題にかかわるホットラインの開設を行うこととされた。10月には李克強中国首相が来訪し,ズン首相,チョン書記長,サン国家主席,フン国会議長と相次いで会談した。会談後の共同声明では,両国間の全面的戦略協力関係を深化させ,とくに海上,陸上,金融の3分野での協力を推進するため,それぞれ合同作業グループを年内に発足させることが発表された。李首相は,両国が海上共同開発で合意したことは,両国が南シナ海における平和を維持し,共通の利益を推進するとともに紛争を抑制することができることを示していると述べ,合意の意義を強調した。

アメリカとの全面的パートナーシップ締結

ベトナムの人権問題により,ベトナムとアメリカの戦略的パートナーシップ締結交渉は停滞してきたが,7月,サン国家主席は,ベトナム首脳としては2008年以来のアメリカ公式訪問を実現し,両国間の協力関係を一歩前進させた。

サン国家主席とオバマ大統領の会談では,環太平洋経済連携協定(TPP)の早期妥結を目指す方針や,平和的手段による南シナ海問題の解決支持などが確認された。また,ベトナムの人権問題についても率直な意見交換がなされ,今後もこのような問題について建設的対話を継続することなどが合意された。会談後の共同声明で,両首脳は,両国関係を新たな段階に進め,全面的パートナーシップを確立することを決定し,政治・外交,通商・経済,科学・技術,教育など9つの分野で協力促進のためのメカニズムを創設することを宣言した。

12月に来訪したケリー国務長官は,通商・経済,安全保障,環境,教育分野での協力促進につきベトナム側と協議した。通商・経済分野では,両国のTPP交渉の早期妥結支持が確認されるとともに,TPP妥結の際にはアメリカはベトナムに対しその実施のために420万ドルの技術援助を行うことが表明された。安全保障面では,ベトナムの海上防衛力強化のため,アメリカが5隻の高速巡視艇の提供を含め1800万ドルの援助を行うことが表明された。ケリー国務長官はまた,ベトナム側に対し,政治犯の釈放など人権状況の改善を要請した。

アメリカとの間では,このほか,原子力協定の調印(10月),地雷不発弾問題解決に関する協力覚書の調印(12月)などが行われた。企業レベルでも,10月28日,ベトナム航空は,ゼネラル・エレクトリック社との間で,ボーイング787型機「ドリーム・ライナー」用エンジン40基の購入契約を締結し,推定17億ドルという巨額の契約が注目を集めた。

活発な二国間,多国間外交活動の展開

2013年には党書記長,国家主席,首相のトップスリーによる外遊や外国首脳の来訪が頻繁に行われ,各国との経済,安全保障などの分野での関係が強化された。

ロシアとの間では,ショイグ国防相(3月)およびプーチン大統領(11月)の来訪,ズン首相(5月)およびタイン国防相(8月)のロシア訪問が行われた。ベトナムはロシアから潜水艦6隻を購入する契約を2009年に結んでおり,その最初の1隻の引き渡しが2013年11月7日に行われた。ロシアはまた,カムラン湾で艦船補修施設などをベトナム側と共同で建設することを計画している。貿易,原子力,石油開発などの分野での協力についても協議が行われている。

日本との間では, 1月,安倍首相が就任後初の外遊でベトナムを訪れ,ズン首相と会談して,経済分野での協力強化や,政治・安全保障分野での対話,協力の推進などで一致した。12月にはズン首相が,日・ASEAN特別首脳会議のため滞在中の東京で安倍首相と会談し,ベトナム沿岸警備隊(8月27日,海上警察を改組)への日本の巡視船艇などの供与に関する具体的協議の開始などで合意した。

2013年はパリ和平協定締結40周年であり,ベトナムは日本を含む多くの国々との間で国交40周年を迎えた。イタリア,シンガポール,フランスとの間では国交40周年を機に戦略的パートナーシップを確立した。ベトナムは,国連安全保障理事会常任理事国5カ国すべてとの間で戦略的または全面的パートナーシップを結んだことになる。そのほかにもASEAN主要メンバーであるタイ,インドネシアとの間で新たに戦略的パートナーシップを構築した。

ベトナムは,国際機関など多国間外交の場における活動にも積極的に参加している。5月のシャングリラ・ダイアローグでの基調演説で,ズン首相はベトナムの国連平和維持活動への参加を表明した。また,ベトナムは,国際原子力機関理事会議長国(任期1年),国連人権理事会の理事国(任期2014~2016年),およびユネスコ世界遺産委員会の委員国(任期2013~2017年)に選出されている。

2014年の課題

2013年憲法改正では,旧憲法の社会主義的諸原則に大きな変更はなかったが,新憲法がまったく旧態依然というわけではない。なかには,党・国家機関の国民に対するアカウンタビリティを強化する趣旨とみられる条文改正もある。2014年は,新憲法施行に伴って必要となる多くの法改正が予定されている。憲法に定められた基本原理を具体化,制度化していく過程では,国民による権力監視を実効性のあるものにしていく努力が求められる。また,憲法改正という一大イベントが終わった2014年,党内の綱紀粛正,国家機関の汚職防止への取り組みを加速することができるかどうかも注目される。

経済面では,マクロ経済の安定を維持しつついかに成長を回復させるかが課題となる。2014年年初からの企業所得税率引き下げによる,さらなる外資流入とベトナム企業の活動の活性化が期待される。

一方,長期的な安定成長軌道に乗るためには,経済構造の改革をいかに迅速に進められるかが鍵となる。2014年にはベトナム航空やビナテックスといった大規模国有企業のIPOが予定されており,また,SCICも多くの保有株式の売却を計画している。これらが予定どおりに実現できるかが課題である。2013年に本格的な改革の動きがみられた金融セクターでは,2014年年初から,海外の戦略投資家の株式保有比率上限が15%から20%に引き上げられる。海外の大手銀行からの資本流入のみならず,経営ノウハウの移転も期待でき,さらなる金融セクターの改革が進めば,企業の構造改革が進むことにもつながる。今後の動きが注目される。

対外関係では,2013年に中国と海上共同開発に向けた協力を検討するための作業グループ設置で合意したことは注目される。しかし,海上共同開発に向けた協力の試みは緒に就いたばかりであり,また,それ自体が肝心の国境問題の解決に直結するものではない。この地域をめぐる複雑な国際政治と主権意識を高める国内世論の間で,党・政府は引き続き難しい舵取りを強いられることになる。

(坂田:地域研究センター研究グループ長)

(石塚:新領域研究センター)

重要日誌 ベトナム 2013年
  1月
1日 海洋法施行。
1日 最低賃金引き上げ。
2日 憲法草案への国民の意見聴取始まる。
7日 2013年の経済社会発展計画と予算の執行にかかる政府決議1号,および生産経営活動の支援や不良債権処理にかかる政府決議2号公布。
9日 人民政権転覆罪でブロガーら14人に最高13年の懲役刑宣告(うち4人は5月23日,控訴審で減刑)。
14日 外務省報道官,中国海南省の「沿海国境警備治安管理条例」の公布などに抗議。
16日 安倍首相,就任後初の外遊で来訪,ズン首相らと会談(~17日)。
16日 ズン首相,ベトナム航空総公司の再構築計画承認。
17日 政府監査院,ダナン市人民委員会が土地管理に関する法令違反により国家予算に巨額の損失を与えたとする報告書をまとめる。
17日 チョン書記長,ベルギー,EU,イタリア,イギリス歴訪 (~24日)。
18日 フェルナンデス・アルゼンチン大統領,来訪(~21日)。サン国家主席らと会談。
19日 著名知識人ら72人,「1992年憲法改正にかかる建議書」(建議書72)に署名。
21日 国家銀行,不良債権の分類にかかる通知2号公布。
21日 ベトナムとイタリア,戦略的パートナーシップ樹立を宣言。
23日 公安相,ファム・タイン・タン・アグリバンク元社長の逮捕を発表。
25日 ハノイでパリ和平協定40周年記念式典開催。
28日 カイメップ・チーバイ港落成式。
28日 ギソン製油所プロジェクトのEPC契約締結。
29日 Exim BankとSacom Bank,合併計画を公表。
  2月
1日 党政治局,汚職防止指導委員会の設立に関する162号,163号決定に署名。
1日 スターバックス1号店,ホーチミン市で開店。
4日 グエン・ディン・ロック元法務相ら,「建議書72」を起草委員会事務局に提出。
4日 ズン首相,ビナラインズの再編計画承認。
4日 人民政権転覆罪で主犯格の被告に終身刑,ほかの被告21人に10~17年の懲役判決。
19日 首相,「2013~2020年の経済再構築を質,効果および競争力向上に向けての成長モデル転換と連携させる総合計画」承認。
21日 ベトナム投資開発銀行(BIDV),チャン・バック・ハー会長逮捕の噂を否定。
25日 チョン書記長,憲法第4条撤廃などの提案を「政治思想的,道徳的堕落」と批判。
26日 国家銀行,サイゴンジュエリーと金地金加工契約を締結。
26日 Vietinbank,臨時株主総会で三菱東京UFJ銀行を外国戦略投資家として承認。
26日 ブログでチョン書記長の発言を批判した『家族と社会』紙記者,同紙を解雇される。
27日 フン国会議長,憲法草案に対する国民の意見聴取を利用して党,政府を打倒しようとする試みを断固として阻止すべきと発言。
  3月
4日 ショイグ・ロシア国防相,来訪(~5日)。タイン国防相らと会談。
4日 『フォーブス』誌の2013年世界長者番付にビングループのファム・ニャット・ヴオン会長がベトナム人として初めて登場。
6日 起草委員会,憲法改正に関する国民の意見聴取期間を9月30日まで延長。
14日 チュオンサ諸島海戦25周年。
14日 国家銀行,金融機関の特別監査にかかる通知7号公布(4月27日施行)。
21日 チョン書記長,中国の習近平国家主席と電話会談,協力関係進展につき協議。
22日 ロック元法相,テレビ番組で「建議書72」への関与を否定。
25日 外務省報道官,20日にベトナム漁船が中国船から発砲を受けたことに抗議。
26日 サムスン電子,タイグエン工場起工。
26日 国家銀行,政策金利引き下げ。リファイナンスレートは9%から8%へ。
28日 国家銀行,金地金の入札実施。
29日 米軍のベトナム撤退完了40周年。
  4月
5日 ティエンラン事件の土地使用権者に殺人未遂および公務執行妨害罪で5年の懲役判決(7月30日に控訴審で確定)。
10日 ティエンラン事件の土地使用権者らの家屋の破壊につき,ティエンラン県人民委員会元副主席に30カ月の懲役判決(8月1日に控訴審で執行猶予)。
24日 ズン首相,ブルネイで開かれたASEAN首脳会議に出席(~26日)。
24日 外務省報道官,中国による南シナ海の島々の名称を記載した地図の発行などを批判。
26日 外務省報道官,フィリピンによる国際海洋法裁判所への中国提訴につき,ベトナムは関心を持って進捗を見守ると発言。
  5月
2日 党中央委員会第7回総会開幕(~11日)。新たに政治局員2人を選出。
10日 国家銀行,政策金利引き下げを発表。リファイナンスレートは8%から7%へ。
12日 ズン首相,ロシア,ベラルーシ歴訪 (~17日)。
15日 有料放送事業者に外国語放送の翻訳を義務づける2011年の首相決定20号施行。
16日 反国家宣伝罪で大学生ら2人に6年と8年の懲役刑(8月16日,控訴審で減刑)。
16日 中国政府,南シナ海での漁船操業を禁止(~8月1日)。
20日 第13期第5回国会開幕(~6月21日)。
22日 ビンズオン省でのクレーン事故により南部22省およびプノンペンで停電。
23日 「アジアの未来」国際会議出席のため訪日中のニャン副首相,安倍首相と会談。
26日 ブロガーのチュオン・ズイ・ニャット,民主的権利の濫用容疑で逮捕。
27日 外務省報道官,中国船によるベトナム漁船の破壊(20日)に抗議。
27日 国家銀行,1月21日付通知2号による債権分類基準の適用を2014年6月まで延期。
31日 ズン首相,シャングリラ・ダイアローグに出席,基調演説を行う。
  6月
2日 ハノイで反中国デモを警察が制圧。
3日 「建議書72」グループ,第5回国会に提出された憲法草案に対する反対の声明。
10日 国会で国家幹部に対する信任投票。
13日 ブロガーのファム・ヴィエット・ダオ,民主的権利の濫用容疑で逮捕。
15日 ブロガーのディン・ニャット・ウイ,民主的権利の濫用容疑で逮捕。
19日 サン国家主席,中国訪問(~21日)。習国家主席と会談。
24日 『フォーブス・ベトナム』創刊。
25日 チョン書記長,タイ訪問(~27日)。インラック首相と会談,戦略的パートナーシップ構築で合意。
25日 国有企業の会計監査,業務評価,財務状況公開に関する政府議定61号,公布。
27日 サン国家主席,インドネシア訪問(~28日)。ユドヨノ大統領と会談,戦略的パートナーシップ構築で合意。
27日 国家銀行,ドンの対ドルレート1%切り下げ(28日実施)。
  7月
1日 公務員の最低賃金引き上げ。
1日 個人所得税率改定。非課税対象所得上限を月400万ドンから900万ドンに引き上げ。
9日 VAMC設立。
9日 ベトナム・ラオス間第460号国境標識の除幕式。2008年以来の国境標識増設事業完了。
9日 ネスレベトナム,ドンナイ省のベトナム最大のコーヒー加工工場の操業開始。
11日 100%国家所有の国有企業への投資と財政管理に関する政府議定71号,公布。
15日 インターネットサービスの管理,提供,使用に関する政府議定72号公布。
16日 アメリカのマクドナルド,2014年にベトナムで最初の店舗を開く計画公表。
17日 外務省報道官,中国船のベトナム漁船2隻追跡,破壊(6日)につき,中国に抗議。
24日 サン国家主席,訪米(~26日)。オバマ大統領らと会談。
26日 ハノイで大型商業施設「ビンコム・メガモール・ロイヤルシティ」,開業。
31日 情報通信大手FPT,新社長就任。
  8月
1日 電気料金,平均5%値上げ。
4日 ミン外相,来訪中の中国の王毅外相と会談,南シナ海問題の平和的解決など確認。
5日 最初の薬物注射による死刑執行。
6日 在ベトナム・アメリカ大使館,政府議定72号に関して深い懸念を表明。
7日 タイン国防相,ロシア訪問(~11日)。
9日 第2回日越国防政策対話,東京で開催。ビン国防次官出席。
9日 国連人権高等弁務官事務所,ベトナムの死刑執行(5日)を批判。
12日 「建議書72」グループのレ・ヒュー・ダン元ホーチミン市祖国戦線副議長,「民主社会党」結成を呼び掛ける。
20日 インターファクス通信,ベトナムがロシアからスホーイ戦闘機12機を購入する契約を締結したと報じる。
27日 海上警察を沿岸警備隊に改組。
  9月
2日 ズン首相,中国・ASEAN博覧会で訪問した南寧市で李克強首相と会談。
5日 祖国戦線,中央委員会幹部会議長にニャン政治局員を選出。
7日 韓国の朴槿恵大統領来訪(~9日)。サン国家主席らと会談,両国間FTAの2014年中の締結を目指すことなどで合意。
9日 国家銀行,不良債権比率が3%を超える銀行に対する支店の設置禁止などを定める通知21号公布。
11日 シンガポールのリー首相,来訪(~13日)。ズン首相らと会談,戦略的パートナーシップ協定締結。
11日 タイビン省で,土地収用に関して不服をもった住民に地方政府職員1人が射殺される。
15日 サン国家主席,ハンガリー,デンマーク歴訪(~20日)。
16日 ビナシン,1万4000人の人員削減計画公表。
23日 ベトナム,国際原子力機関(IAEA)理事会議長国(任期1年)に選出される。
24日 ズン首相,フランス訪問(~26日)。戦略的パートナーシップ協定締結。
25日 ベトジェット航空,エアバスと最大92機の航空機購入に関する覚書締結。
26日 ズン首相,国連総会の一般討論に参加(~28日)。
27日 世銀のキム総裁,ズン首相との会談で,ベトナムへのIDA融資が少なくとも2014~2017年には継続されることを表明。
  10月
1日 第6回越米政治・安全保障・防衛対話,ワシントンで開催。
1日 Western BankとPVFCの合併によりPVcom Bank発足。
2日 ブロガーのレ・クォック・クアンに脱税の罪で30カ月の懲役判決。在ベトナム・アメリカ大使館,深い懸念を表明。
4日 ヴォー・グエン・ザップ将軍,死去。
7日 サン国家主席,第21回APEC首脳会議に出席(~8日)。
7日 国連拷問禁止条約に署名。
7日 外務省報道官,アメリカの情報機関による盗聴疑惑について懸念を表明。
8日 ズン首相,ブルネイでの第23回ASEAN首脳会議と関連会合に出席(~10日)。
10日 アメリカと原子力協定調印。
13日 中国の李克強首相,来訪(~15日)。ズン首相らと会談。
21日 第13期第6回国会開幕(~11月29日)
28日 ベトナム航空,ゼネラル・エレクトリックとボーイング787型機「ドリーム・ライナー」用エンジン40基の購入契約締結。
28日 第4回越米次官級国防政策対話,ワシントンで開催(~29日)。
28日 ノキアのバクニン省の携帯電話工場完成。
29日 ディン・ニャット・ウイ,Facebookによる政府批判に基づき有罪(懲役15カ月執行猶予付き)。
  11月
1日 人口が9000万人に達する。
8日 IT工業団地に関する政府議定154号公布。
9日 ベトナム「法律の日」を初めて祝う。
12日 ベトナム,国連人権理事会の理事国に選出。任期は2014~2016年。
12日 ロシアのプーチン大統領,来訪。サン国家主席らと会談。
12日 SNS上の体制批判などに罰金を科す政府議定174号公布(2014年1月15日施行)。
15日 「建議書72」グループ,「憲法草案の採択中止を求める声明」発表。
15日 アグリバンク傘下の第2ファイナンスリース会社元社長ら2人に第1審で死刑判決。
19日 チョン書記長,インド訪問(~22日)。シン首相らと会談。
19日 ベトナム,ユネスコ世界遺産委員会の委員国に選出。任期は2013~2017年。
20日 100%国家所有の国有企業の株式化に関する政府議定189号,公布。
21日 モンゴルのエルベグドルジ大統領,来訪(~24日)。サン国家主席らと会談。
21日 ベトナム,インド石油ガス公社傘下企業に南シナ海の5つの鉱区の開発を打診。
21日 HD Bank,DaiA Bankとの合併およびSGVF証券の買収を発表。
28日 国会,改正1992年憲法を採択。
28日 イギリスと核エネルギーの平和利用に関する覚書調印。
  12月
2日 2015年までの国家資本投資総公司(SCIC)の構造改革計画を承認する首相決定2344号,公布。
5日 第1回開発パートナーシップフォーラム開催。
5日 外務省報道官,中国の東シナ海における防空識別圏設定について懸念を表明。
10日 ベトナム・ブロガー・ネットワーク設立。
12日 第1回ベトナム・ロシア次官級戦略防衛対話,モスクワで開催。
12日 外務省報道官,中国の防空識別圏に関する見解を「懸念」から「関心」に修正。
13日 ズン首相,日・ASEAN特別首脳会議のため訪日。安倍首相らと会談。
14日 ケリー米国務長官,来訪(~17日)。
15日 ラオカイ省で記録的降雪。
16日 ビナラインズ元会長および元社長に第1審で死刑判決。
16日 アメリカと地雷不発弾問題解決に関する協力覚書調印。
26日 カンボジアのフン・セン首相,来訪(~28日)。

参考資料 ベトナム 2013年
①  国家機構図(2013年12月末現在)
②  ベトナム共産党指導部(2013年12月末現在)
③  国家機関要人名簿(2013年12月末現在)
④  2014年の主な目標と主要指標

主要統計 ベトナム 2013年
1  基礎統計
2  支出別国内総生産(名目価格)
3  産業別国内総生産(実質:2010年価格)
4  所有形態別国内総生産(実質:2010年価格)
5  生産統計(実質:2010年価格)
6  国・地域別貿易
 
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