2015 Volume 2015 Pages 255-282
2014年,ベトナム共産党および政府は,南シナ海における中国との衝突や,国内における反中暴動の激化などの非常事態への対応を迫られた。ベトナムが排他的経済水域を主張する海域における中国による海底油田探索活動の断行は,中国共産党との関係維持に細心の注意を払ってきた党指導部に大きな衝撃を与えた。しかし党指導部は,この危機に臨んで結束を維持し,事態の悪化を回避することにひとまず成功した。
国内政治においては,2016年初頭に予定されている次期党全国代表者大会(党大会)の準備が始まった。次期党指導部人事に影響すると予想される党中央委員会による党政治局員,書記局員に対する信任投票の実施は2015年に持ち越されたが,国会による国家幹部に対する第2回の信任投票は11月に実施され,2013年の第1回信任投票の時と比較してグエン・タン・ズン首相に対する信任度の改善が目を引いた。
経済は総じて安定していた。主要なマクロ経済指標には年を通じて大きな変動がなく,年間GDP成長率は政府目標や各所の予測を上回る5.98%に達した。貿易黒字や大規模国有企業改革の進展といった明るい動向もみられた。しかし,2014年経済に大きな動揺がなかったのは,市場に衝撃を与えうる構造改革が先延ばしにされたことによるとみることもできる。公的債務返済のための新たな債券発行により公的債務は膨らみ,金融機関の不良債権に対する厳格な分類基準の適用は前年に続いて延期された。結果として,2011年以降,構造改革の柱とされている金融部門や公共投資部門の改革はほぼ進まなかった。
2014年の党中央委員会総会は1回だけの開催となった。第11期党中央委員会第9回総会は5月8~14日に開催された。総会では,(1)1998年の「民族の本質に密着した進歩的ベトナム文化構築と発展に関する第8期党中央委員会第5回総会決議」の実施状況の評価と「国の強固な発展の必要に応じたベトナム文化と人の構築と発展に関する決議」の採択,(2)党内の選挙に関する2009年の規則の改正,(3)党,国家組織,祖国戦線および各政治社会団体幹部に対する信任投票に関する2013年の規定の改正および信任投票の実施,(4)2016年初頭に予定されている第12回党大会に提出される政治報告および経済社会発展5カ年計画草案の準備,(5)南シナ海のベトナムが排他的経済水域を主張する海域で中国が石油掘削装置(オイルリグ)を設置した問題への対応策などの諸項目に関して報告,討議が行われた。
このうち,(3)の党幹部等に対する信任投票は,党中央委員会第4回総会決議のなかで,批判・自己批判などとならぶ綱紀粛正,国民の信頼回復のための方策として提起されたものである。党最高幹部である政治局員,書記局員までをも対象とする包括的な信任投票の実施はこれまでに例のない試みであり,次期党大会における党指導部人事の動向にも無視できない影響を与えることが予想される。第9回総会では,中央・地方の各党機関・単位等は2014年中に信任投票を実施すること,ただし党政治局員,書記局員に対する信任投票については,国会における国家幹部に対する信任投票(後述)実施後にこれを行うことが決定された。
(4)については,各文書の大綱について意見が集約され,その意見をふまえて,党政治局が各文書の草案を作成し,次回の党中央委員会総会に提出することになった。
(5)は,第9回総会開催の直前に生じたオイルリグ設置問題(対外関係の項参照)への対応であるが,この問題につき,総会決議は「全党,全国民,全軍は団結を強化し,心を合わせ,警戒と洞察をもって祖国の独立,主権および領土を断固として防衛する;同時に,国家の建設と発展のために平和で安定的な環境を維持する」と述べるにとどまった。その後の事態の推移を受けた対応については,党政治局レベルで協議が重ねられたものとみられる。
党中央委員会総会は,通常年2回,各国会会期に先立って開催されるが,10~11月の第13期第8回国会前には党中央委員会総会は開催されなかった。党大会文書の草案準備にあたっての党指導部内の調整や,党政治局員,書記局員に対する初めての信任投票実施の準備に時間がかかったものと推察される。結局第10回総会は年内に開催されず,2015年1月に持ち越された。
次期党人事に関するより具体的な動きとして,党政治局および書記局は,2月28日,地方党組織の次期指導部人事の準備のため,44人の党幹部の地方への異動を決定した。うち22人は次期およびそれ以降の各期の党中央委員候補となることが予定されている。44人のなかにはズン首相の長男のグエン・タイン・ギ中央委員会予備委員が含まれており,同氏はズン首相がかつて党委書記を務めたキエンザン省の副書記に就任した。
国会の動き第13期第7回国会(5月20日~6月24日)および第8回国会(10月20日~11月28日)では,前年の憲法改正を受けて,合計29に上る法案が可決された(表1)。経済法分野では,主として経済活動への規制を緩和する方向で,企業法,投資法などの改正が行われた(経済の項参照)。国会,人民裁判所,人民検察院の組織に関する一連の法改正も行われた。改正国会組織法では,国家幹部に対する信任投票に関する規定や議員の権利義務に関する規定が拡充された。また,2001年国会組織法では全国会議員の25%以上とされていた専従議員の割合が35%以上に引き上げられた。
(出所) ベトナム国会ウェブサイト(http://na.gov.vn)より筆者作成。
第7回国会では,初日,グエン・シン・フン国会議長が,開幕演説のなかで,南シナ海における中国のオイルリグ設置を特別重大な主権侵害行為であると非難し,ファム・ビン・ミン副首相兼外務相が南シナ海情勢に関する報告を行った。会期末が迫った6月19日,ホーチミン市選出のチュオン・チョン・ギア議員は南シナ海問題に関する国会決議の採択を提案したが,これは実現しなかった。フン国会議長は,閉幕演説で改めて中国の行為の違法性を強調し,国会議員や国民の愛国心を称え,各国の国会や国会議員,団体や個人によるベトナムの立場への支持に謝意を表した。
2014年の国会におけるひとつの焦点は,国会が選出または承認した役職者(国家幹部)に対する信任投票制度の見直しと第2回投票の実施であった。国家幹部に対する信任投票は,2012年の国会決議第35号(以下,35号決議)にもとづき,2013 年6月にその第1回目が実施された。35号決議では信任投票は任期の第2年目以降毎年行われることとされていたが,2月21日,国会常務委員会は,党政治局の意見をふまえ,第7回国会で予定されていた第2回信任投票の実施の見送りを国会に提案することを決定した。フン国会議長はその理由について,第1回投票の実施後,その実施時期や方法について多くの意見があり,制度の有効性を高めるためにまず35号決議を改正することが必要だと説明している。そこで,第7回国会で35号決議の改正案が審議されたが,意見がまとまらず,会期中に成立に至らなかった。しかし,国民の間でも注目度の高い信任投票の実施を無期限に引き延ばすのは得策でないという考慮も働いたのであろう。第8回国会では,引き続き35号決議の改正について審議する一方で,現行の35号決議にもとづいて第2回信任投票を行うことになった。
11月15日,国家幹部に対する第2回の信任投票が実施された。前回の投票の時と異なり,投票のプロセスは報道機関に公開されなかった。また,当初は投票の結果についても報道を禁じる旨の国会事務局の通告があった。11月13日付で出された同通告は14日には撤回され,投票の結果については報道してよいことが確認された。国会事務局は初めの通告は誤りであったと説明している。しかし,党政治局員の半数は国会による信任投票の対象となる国家幹部であることに鑑みれば,党政治局員,書記局員に対する信任投票に先立って行われた国家幹部に対する信任投票の結果が政治的に繊細な情報とみなされたとしても不思議はない。
公開された投票の結果では,首相や国家銀行総裁に対する評価が前年と比べて顕著に改善したことが注目された。ズン首相に対する低信任票の割合は前年6月の32%から今回は14%弱に下がり,他方,高信任票の割合は42%から64%へと上がった。これは,前年来,政府のマクロ経済安定化政策が功を奏し,国有企業改革などにも一定の進展がみられたこと,また,南シナ海問題に際してズン首相が中国に対し毅然とした態度を示したことなどが,国会議員にも評価されたものと解される。信任投票の結果を報じる記事に対するインターネット上の読者のコメントなどをみると,国会による国家幹部の評価を支持する意見の一方,信任度の低い幹部は辞職すべきであるという意見や,「高信任」「信任」「低信任」の3段階の評価でなく「信任」「不信任」などの2段階評価とすべきであるという意見も少なからずみられる。
11月28日には35号決議に代わる85号決議が可決された。この改正によって,今後,信任投票は,国会の各期(5年間)につき1回,任期3年目における第2回目の通常国会で実施されることとなった。投票の方法としては,これまで同様,「高信任」「信任」「低信任」の3段階評価が維持された。
不透明感を残す汚職撲滅への取り組み2014年には,前年に引き続き,汚職・不正事件に関わる裁判で,主として企業関係者に対し厳しい判決が相次いだが,党・政府の汚職撲滅への取り組みには不透明感も残った。
1月27日,ホーチミン市人民裁判所は,ベトナム商工銀行の元行員フイン・ティ・フエン・ニュー被告に終身刑,他の被告22人にも最高20年の懲役刑を宣告した。36歳のニュー被告は,不動産投資の失敗によって抱えた負債の返済のために,印章や文書を偽造し,商工銀行の名を用いて企業や個人から約4兆ドンを集め,だまし取ったとされる。3月13日,ベトナム開発銀行のダクラク・ダクノン支店のヴ・ヴィエト・フン元支店長は,収賄罪などにより死刑判決を受けた。フン被告は,民間企業2社に対し総額2兆ドンに上る不正融資を受けさせる見返りとして高級輸入車を受け取ったと認定された。6月9日には,グエン・ドゥック・キエン・アジア商業銀行(ACB)元副会長に対し,故意に国家の経済管理に関する規定に違反した罪など4つの罪により,懲役30年の判決が下された。キエン被告はベトナム最大の民間商業銀行のひとつ,ACBの創業者の1人であり,政治家,とくにズン首相ともつながりが深かったとみられる。
5月7日,最高人民裁判所は,ズオン・チ・ズン・ベトナム海運総公司(ビナラインズ)元会長ら2人に死刑を宣告した第1審判決を支持する判決を言い渡した。ズン被告らは,故意に経済管理規定に違反して国家に多大な損失を与え,それぞれ100億ドンを横領したとされる。ズン被告は2012年5月に逮捕状が出された際,国外に逃亡していたことから,その逃亡を幇助した者にも捜査が及んだ。2013年2月にはハイフォン市の元警察副署長であったズン被告の弟が逃走幇助の容疑で逮捕されており,1月8日の裁判で懲役18年の判決を受けた。その公判で,ズン被告本人が,自分に捜査情報を漏らしたのは,ファム・クィ・ゴ公安次官であると証言したことが波紋を呼んだ。ハノイ市人民裁判所は,この件に関し,国家機密漏洩と収賄の容疑で捜査を開始するよう同市人民検察院に要請した。しかし,渦中の人物であるゴ公安次官が,2月18日,肝臓癌により急死したため,捜査は打ち切られた模様である。
政府開発援助(ODA)絡みの汚職事件も新たに明るみに出た。3月21日,鉄道関連のコンサルタント会社,日本交通技術(JTC)が,受注したODA事業に絡み,ベトナム鉄道総公司幹部らに8000万円の賄賂を支払ったという疑惑が,日本の新聞報道により伝えられた。日本のODA絡みの汚職事件としては,2008年にやはりコンサルタント会社のパシフィック・コンサルタンツ・インターナショナル(PCI)がホーチミン市の交通運輸局元次長に対し贈賄を行った問題が発覚している。PCI事件を受けて,両国政府はODAにかかる不正・腐敗の再発防止策をまとめ,実施してきた。そのようななかでの事件発覚とあって,ベトナム当局は迅速な対応を示した。
3月23~24日には,ベトナム鉄道総公司の2人の副社長を含む4人の幹部が職務停止処分を受けた。25日にはグエン・ゴック・ドン交通・運輸省次官が,情報収集のため,急遽訪日した。同日,ミン副首相兼外務相は福田在ベトナム大使と面談し,容疑が事実であるとすればベトナム政府は厳正に対処することを確約するとともに日本側当局へ捜査協力を求めた。同月28日にはディン・ラ・タン交通・運輸相が福田大使と会談し,ODA交通案件における不正防止のための日越対策協議会の設置で合意した。5月3~9日には鉄道総公司の幹部,元幹部計6人が逮捕された。
日本政府は,6月2日,ベトナム政府に対し新規ODAの一時停止を通告したが,ベトナム側の事実解明および再発防止策の強化への取り組みを評価して,7月18日には鉄道総公司が関係するもの以外の案件については,新規採択の検討を再開することを表明している。JTC幹部らに対しては10月1日に初公判が開かれており,ベトナム側の司法手続きの今後の進展が注目される。
チャン・ヴァン・チュエン政府監査院元院長の資産等にまつわる疑惑も国内世論を騒がせた。同氏は,2007~2011年にかけて政府監査院院長を務め,その後引退しているが,ベンチェ省の敷地面積1万6000平方メートルにも及ぶ邸宅やホーチミン市の高級住宅地にある複数の物件など,総額1000万ドルとも推定される資産を同氏およびその家族が保有していることが2014年初頭からメディアによって報じられた。世論の関心の高まりを受けて,7月24日,党中央検査委員会は,チュエン元院長の資産について調査を行うことを決定したと発表した。11月21日,メディアに公表された調査の結果によれば,元院長は,上記の物件を含む6つの物件の取得,利用に関し,多くの規定違反や虚偽の申告を行っていたことが判明した。元院長は,これらの資産の返還を命じられたが,この件に関する刑事責任の追及は行われなかった。党書記局も,12月30日,元院長に対し警告という軽い処分を行うにとどまった。
チュエン元院長に対しては,退任前の半年間に監査院の職に60人の任命を行っており,そのなかには不必要,不適切なものが含まれていたとも報じられている。11月29日付のベトナム語版BBCの記事は,レ・カ・フュー元党書記長が,元院長による幹部の任命についても調査すべきであると述べたと伝えている。
人権状況:著名活動家釈放の一方,新たな逮捕・投獄続く国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチによる2015年1月29日付の記事によれば,2014年,ベトナムは12人の政治犯を刑期満了前に釈放した。そのうち,ク・フイ・ハー・ヴーおよびグエン・ヴァン・ハイは国外追放となり,出所後直ちにアメリカに移送された。政治犯の釈放は,とくにベトナムとの関係強化が進むアメリカをはじめとする国際社会の視線を意識した動きであると解される。他方で,2014年にベトナムの裁判所は少なくとも29人の体制批判者や活動家に対し有罪判決を下している。また,著名なブロガーであるグエン・フー・ヴィンやホン・レ・ト,グエン・クアン・ラップを含む少なくとも13人が逮捕・拘禁されている。さらに,少なくとも14人の活動家が暴徒などによる暴行被害にあい,そのいずれの事件についても犯人は明らかになっていないという。
ク・フイ・ハー・ヴーは,5月16日,『ワシントン・ポスト』紙への寄稿のなかで,自分自身を含む政治犯の釈放は歓迎すべきことではあるが,それが実際の人権状況の改善と混同されてはいけないと指摘している。なぜなら,ベトナム政府は政治犯を国際社会から安全保障や貿易上の利益,援助などを引き出すための取引材料として用いているからである。国際社会が安全保障や貿易上の利益と引き替えに要求すべきものは,個々の政治犯の釈放よりもむしろ,政府の人権抑圧の主たる道具となっている反国家宣伝罪や民主的権利濫用罪等に関する刑法上の3つの条項の撤廃であると,ヴーは主張する。名の知れた政治犯の3分の2はこれらの3つの条項の適用により投獄されているという。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは,9月には,ベトナムの警察による逮捕,取調べ,勾留中の容疑者への暴力の問題についても報告書をまとめている。窃盗などの容疑者が,時には死に至るまでの凄惨な暴行を受ける事件は,国内メディアでもしばしば報じられるようになっている。同報告書は,2010年8月から2014年7月の4年間に生じたこのような事件についての国内外のメディアやブログの報道にもとづいて作成された。同報告書によれば,全国63の省市のうち,5中央直属市を含む49の省市で同様の事件が報告されているという。
2014年の経済は,前年から持ち越された諸々の課題を抱えつつも,堅調な成長をみせた。マクロ経済の安定に加え,外国投資セクターが工業・建設業の成長や高付加価値品の輸出拡大を牽引した。年間GDP成長率は5.98%で,政府目標(5.8%)や国際機関の予測(5.4~5.6%),また前々年(5.25%)および前年(5.42%)の成長実績をも上回る結果となった。期間別成長率も,第1四半期5.06%,第2四半期5.34%,第3四半期5.06%,第4四半期6.96%と,年間を通じて安定成長が維持された。
部門別では,農林水産業(3.49%)および工業・建設業(7.14%)の成長率が前年実績を上回った。顕著な伸びをみせた工業・建設業では,製造業の成長率(8.45%)がとくに大きかったほか,数年来低迷していた建設業も,外国投資資金の流入を受けて,回復の兆候をみせた(7.07%)。サービス業の成長率は5.96%と前年実績を下回る結果となったものの,小売(6.62%),金融・保険(5.88%),不動産業(2.85%)といった主要業種で前年実績を上回る成長がみられた。不動産市場は2011年頃から大きく低迷していたが,住宅購入・建設費に対する金融支援策を背景とした不動産需要の増加や不動産部門への外国直接投資の流入拡大などにより,回復に向かった。
対外貿易は,統計総局の速報によると,輸出総額1500億ドル(前年比13.6%増),輸入総額1480億ドル(前年比12.1%増)で,ドイモイ開始以来,最高額の貿易黒字(20億ドル)を記録した。輸出拡大を牽引した品目は前年に引き続き電話・電話部品で,輸出額は前年比13.4%増の241億ドルとなった。第2の輸出品目である繊維・縫製品も欧米市場向けを中心に輸出が拡大し,輸出額は208億ドル(前年比15.8%増)に達した。ただし,これら品目の輸出は大半が外資企業によるもので,国内企業のみの貿易実績は150億ドルの輸入超過であった。
外国直接投資の登録資本総額(年初から12月15日までの実績)は202億ドルで,前年比6.5%減だったものの年間目標(170億ドル)は上回る結果となった。登録資本総額のうち,新規投資は156億ドルと前年比9.6%増だったのに対し,増資は46億ドルで前年比37.6%の減少となった。前年に比して2014年は大型投資が少なかった。部門別にみると,製造業,不動産業,建設業の順に投資受入額が大きかった。とくに製造業への投資額は登録資本総額の71.6%にあたる145億ドルに上った。投資国別では,韓国の投資額が登録資本総額の36.2%を占める73億ドル(うち新規投資61億ドル)で最大となった。サムスンによるタイグエン省のハイテク・コンプレックス・第2フェーズ案件(30億ドル),ホーチミン市の家電コンプレックス案件(14億ドル),バクニン省のスマートフォン・タブレット向けディスプレイ工場建設案件(10億ドル)といった,携帯電話・電子製品関連の一連の大規模案件が認可されたことが大きかった。前年の最大投資国であった日本は投資総額21億ドルで4位に終わった。投資受入地域別では,3月にサムスン電子の携帯電話工場が稼動したタイグエン省が,前年に続きもっとも多くの投資を呼び込んだ。
国内企業の経営は依然として厳しい状況にあった。2014年に新たに設立された企業数は前年比2.7%減の7万4842社(資本総額では前年比8.4%増)にとどまり,小規模企業を中心とする6万7823社が活動停止または解体に追い込まれた。
企業の経営環境改善や競争力強化のため,政府は他のASEAN諸国と比べても非効率な行政手続きの簡素化(政府決議19号)や,経営不振に陥った企業に対する税の優遇措置(政府決議63号)といった方針を打ち出した。また,10月には国家銀行がドンの預金金利および優先業種への貸付金利の引き下げを決めた。さらに,第8回国会では2005年企業法・投資法にかわる新たな企業法・投資法が承認された。投資法では投資禁止分野および条件付き投資分野の明確化,企業法では企業登録手続きの簡素化といった,より自由な企業活動を促すとみられる変更がなされた。
マクロ経済の安定と影2014年のマクロ経済は全体的に安定の様相をみせた。消費者物価指数(CPI)上昇率は前年末比1.84%と,過去10年でもっとも低い水準となった。低インフレの最大の原因は,国際市場の動向を受けた石油製品価格の下落である。財政省は7月以降,12回にわたってガソリン価格の引き下げを指示し,リットルあたりガソリン価格は7月7日時点の2万5640ドンから12月22日には1万7880ドンまで引き下げられた。ガソリン価格の下落は,住宅・建設資材費や輸送費の引き下げにつながった。また,豊作によって食品関連価格の高騰が抑えられたことや,教育・医療サービス費の価格調整策(それぞれ2010年,2012年に開始)の実施期間が終わりに近づき,2014年には小規模な引き上げ調整しか行われなかったことも,低インフレの要因となった。
物価が安定したことを受け,国家銀行による政策金利の調整は小幅なものにとどまった。調整実施は3月の1回のみで,リファイナンス金利が7%から6.5%へ,ディスカウント金利が5%から4.5%へ引き下げられた。為替相場の変動も小さかった。6月,国家銀行は年前半の物価安定と輸出超過による外貨準備高の増加に鑑み,年後半の輸出支援を目的として,ドンの対ドル基準相場を2万1036ドンから2万1246ドンへ切り下げた。一方で,年間を通じたドンの対ドル相場上昇率は前年末比1.03%増にとどまった。金価格は国際価格に連動する形で,年前半から半ばにかけて上昇傾向にあったものの,年後半に大きく下落し,年末時価格は前年末比3.73%の下落となった。株価は国内外の情勢に影響されて乱高下を繰り返したが,年末のVNインデックスは前年末比7%の上昇となった。5月初めに南シナ海で生じた中国との衝突による影響も一時的なものにとどまった。
こうしたマクロ経済の落ち着きのなかで,将来的な不安材料が大きくなってきていることも看過できない。財政状況は2014年も一段と厳しさを増した。財政赤字の対GDP比は前年と同じく5.3%と深刻な水準となった。財政赤字の理由のひとつは公的債務の返済負担とされる。公的債務の対GDP比は前年時点ですでに54.2%と高い水準に達していたが,2014年には60.3%にまで膨らみ,国連が危険水域とする65%にいっそう近づいた。公的債務の増大を引き起こしているのは,債務返済のための新たな借入である。債務の多くが短期借入で返済までの期間が短い一方で,公的債務を投じた公共プロジェクトが効果的に実施されておらず,債務返済のための資金が生み出せていないという状況がある。11月には,政府はサンフランシスコ市場で10億ドル相当の10年国債を発行した。海外市場での国債発行は2010年以来であった。
国有企業改革に進展例年同様,2014年も国有企業改革の前進を政策的に推す姿勢が年初から強く示された。2月18日,ズン首相は国有企業の構造改革に関する会議で,2014~2015年に国有企業432社の株式化を実施するという意欲的な目標を示した。3月6日には政府決議15号が出され,国有企業の株式化および本業外または利益の上がっていない事業の売却を実現するための行動計画が示された。そこには国有企業の国家所有比率を65%以下に抑えるという計画も含まれた。9月15日には国有企業の事業売却,株式販売,証券市場への上場に関して規定する首相決定51号が出され,政府決議15号の内容がより具体化される形となった。さらに,株式化および事業売却の舵取り役と位置づけられている国家資本投資経営総公司(SCIC)について,SCICの設立時にその組織・機能に関して定めた2005年政府議定152号に代わる政府議定57号が公布され(6月16日),SCICの定款資本金額が5兆ドンから50兆ドンに引き上げられた。
こうしたなか,2014年は実態も大きく動いた。2011~2013年の株式化実績が99社というなか,2014年内に株式化された国有企業数は143社に上った。目標値には遠く及んでいないものの,例年に比べると株式化の勢いが加速したといえる。また,株式化や構造改革を実施した企業に大規模国有企業が複数含まれたことも2014年の特徴である。
具体的には,2008年頃から計画が出ては実施が見送られていた大規模国有企業の新規株式公開(IPO)が2014年内に相次いで実施に移された。まずベトナム繊維集団(Vinatex)が9月22日にIPOを実施し,公開株の90%の売却に成功した。投資家のなかには30の外国投資家も含まれた。IPO後のVinatexの国家所有比率は51%となった。続いて実施されたベトナム航空のIPO(11月14日)は2014年内で最大規模のIPOとなった。多くの投資家から注目を集めたベトナム航空株は,株式公開の初日に完売した。公開株の98.6%を購入したのは国内金融大手のテクコムバンクとベトコムバンクで,外国投資家による株式取得は極めて少なかった。IPO後のベトナム航空の国家所有比率は75%となった。IPOが成功裏に終わったことから,政府は2度目の株式公開も視野に入れ始めている。
長らくIPO候補として上がっていた通信大手のモビフォンも,株式化に向けた改革が前進した。6月10日,ベトナム郵便通信集団(VNPT)の構造改革計画が首相承認され(首相決定888号),モビフォンはVNPTから分離され,情報通信省の直接管理下で株式化されることになった。7月にはVNPTがモビフォンを情報通信省に譲渡する覚書に調印し,11月には,経済集団・総公司設立の条件(7月15日付,政府議定69号)を十分に満たすモビフォンを総公司に改組するという情報通信省の提案に,首相が合意した。12月1日,情報通信相決定1798号に従い,100%国家所有のモビフォン通信総公司が設立された。モビフォン通信総公司は今後,2015年内に株式化される計画となっている。
銀行改革はほとんど進まず銀行セクターの構造改革には進展がみられなかった。3月,国家銀行のグエン・ヴァン・ビン総裁が2014年中に6~7銀行を合併・統合する計画を発表した。しかし,年内に合併・統合を実現した銀行は1行もなかった。年初には外国戦略的投資家によるベトナム金融機関の資本金保有上限が15%から20%に引き上げられるという制度変更もあり(政府議定1号),海外銀行からの資金流入や経営ノウハウの移転など銀行改革へのプラスの影響が期待されたが,年内に目立った動きはなかった。
銀行の不良債権処理についても前途多難である。不良債権の分類については,2013年に国家銀行通知2号で定義が示されたものの,適用は2014年6月まで延期されることになっていた。厳格な分類基準の適用により金融機関の貸付残高に占める不良債権比率が大幅に増加することが見込まれていたが,3月になると,国家銀行は分類基準の適用による市場のショックを回避するため,2013年国家銀行通知2号を修正する国家銀行通知9号を公布し,分類基準の一部の適用を2015年4月まで先延ばしにした。金融機関の健全性を高めるために設けられた基準の適用が再度延期されたことにより,改革にまた一歩遅れが出た。
前年に設立された不良債権処理会社(VAMC)は,年末までに82兆ドン分の不良債権を金融機関から買い取った。前年実績とあわせると,VAMCは2014年末までに総額121兆ドンの不良債権を39の金融機関から買い取っている。こうしたVAMCによる不良債権買取の成果もあり,2014年末の金融機関の総貸付残高に占める不良債権の比率は3.7~4.2%となった(国家銀行の試算による)。一方,VAMCが2014年内に処理できた債権額は約4兆ドンにとどまった。VAMCによる不良債権処理を加速するため,国家銀行はVAMCの組織・活動について規定した2013年政府議定53号の修正を政府に提案している。提案にはVAMCの定款資本を5000億ドンから2兆ドンまで引き上げるという案も含まれている。
こうしたなか,11月には,国家銀行が金融機関の業務の質向上をねらって,金融機関の資産や貸付に関する規定・制限を提示した(国家銀行通知36号)。各金融機関が満たすべき定款資本や自己資本比率・預貸率の基準,未上場証券への投資や株式持ち合いの禁止,定款資本に占める株式投資への貸付上限(5%)などが示された。規定が厳格に適用されれば,経営が非効率・不健全な金融機関が市場から淘汰されることになるだろう。
南シナ海をめぐる中国との関係については,2013年に一定の歩み寄りがみられていたが,5月初頭の中国によるオイルリグ設置により,緊迫の度が一気に高まった。7月半ばにオイルリグが撤収された後は,両国は再び関係修復を進めているが,双方が自らの権利を主張し,相手を牽制する動きも収まっていない。
1月19日はホアンサ(パラセル)諸島における越中間の海戦の40周年であった。1974年のこの日,両国海軍の間で衝突があり,それまでベトナムと中国がそれぞれ部分的に実効支配していたホアンサ諸島は,以後,全域が中国によって占拠されることとなった。2014年には国営メディアが初めてこの海戦を取り上げ,多くの報道が行われた。これを機に,ハノイ市でも7カ月ぶりに反中デモが行われた。警察は30分後にデモを解散させたが,逮捕者はなかった。
2月17日は1979年の中越戦争開戦の35周年であった。しかし,この時の国営メディアによる報道は,内容,量ともに抑制的なものであった。反中国感情の高まりを抑えるべく,党中央宣教委員会が各メディアに指示を出したようである。16日に行われた反中デモは,解散させられはしなかったが,大音量の音楽に合わせて踊るエアロビクスやダンスのグループによって演説などが妨害された。デモ参加者は,これは政府によるデモの妨害であったとみている。
このような対中配慮の姿勢は,5月2日の中国によるオイルリグ設置を境に一転する。中国海事局は3日,中国海洋石油総公司(CNOOC)が ホアンサ諸島の付近で2日から8月15日まで海底資源探索を実施すると発表した。これに対し,外務省報道官は,4日,上記発表による探索活動地点はベトナムの排他的経済水域に属しており,この海域での無許可の活動は違法であると強く抗議した。7日,ベトナム政府は,オイルリグを護衛している80隻に上る中国艦船が,約30隻のベトナム海洋警察の巡視船や漁業監視船などとにらみあい,放水や衝突による攻撃を繰り返していることをビデオ映像を交えて発表し,国内外に衝撃を与えた。
日頃,中国共産党との緊密な関係を誇る党指導部にとっても,オイルリグの設置は寝耳に水の出来事であったようである。党指導部は,急遽,チョン書記長やサン国家主席と習近平国家主席との間の電話会談などを申し入れたが,中国側は応じなかったという。両国間で初めてこの件について対話が行われたのは,6日のミン副首相兼外務相と中国の楊潔篪国務委員との間の電話会談であったが,この時は双方の主張を伝え合うにとどまった。
この事態に関してベトナムのトップリーダーのなかで最初に旗幟を鮮明にしたのはズン首相であった。ズン首相は,5月11日にミャンマーの首都ネーピードーで開催された第24回ASEAN首脳会議での演説のなかで,中国によるオイルリグの設置や艦船の派遣は非常に危険な行為であり,南シナ海の平和,安定,航海の安全に対する直接的な脅威となっていると,中国を名指しして強く批判した。
国内世論も強く反応した。11日には,ハノイでは数百人,ホーチミンでは1000人以上と伝えられる規模の反中デモが行われた。この時のデモは,警察に制止されることもなく,また,通常デモに関する報道を行わない国内メディアでも大きく報道された。中部のダナンやフエなどでもデモが行われたという。
13~14日には,南部のビンズオン省やドンナイ省,中部のハティン省などでも大規模なデモが起こった。デモに加わった工業団地の労働者らは次第に数を増して暴徒化し,中国系企業のみならず,台湾,韓国,日本などの企業に対しても破壊行為を行うに至った。ハティン省では,中国人労働者が多く働いていた台湾プラスチックグループの製鉄所建設現場が襲撃された。5月20日付のロイター報道によれば,この襲撃により中国人労働者4人が死亡,126人が負傷したという。
外国投資への影響をも懸念した政府は,直ちに軍や警察を送って暴動を鎮圧し,破壊行為を行った者など多数を逮捕した。ビンズオン省では1000人以上が,ハティン省では約100人が逮捕されたと伝えられる。15日にはズン首相が携帯電話のショートメッセージを通じて国民に対し,法に則った愛国心の発揚と違法行為への不参加を訴えた。ズン首相は17日にも同様に,社会秩序を乱す違法デモを断固として阻止するよう警察や地方当局に指示したというメッセージを国民に宛てて発信した。18日にはハノイ市,ホーチミン市などで反中デモが阻止,または解散させられ,一部の参加者が拘束された。21日には,政府のウェブサイト上で,反中デモによる被害を受けた企業に対し,税の減免や融資の実施などの支援を行うことが公表された。
中国政府は反中デモの暴走を許したベトナム政府を非難し,チャーター船を派遣するなどして,自国民のベトナムからの退避を支援,促進した。5月18日付の新華社通信の報道は,すでに3000人を超える中国人が退避したと伝えている。同日,中国外務省は,観光など両国間の交流計画を部分的に中止することを発表した。また,6月9日の『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙は,中国政府が中国国有企業のベトナムにおける入札参加を禁止したと報道している。
海上でのにらみ合いや外交的駆け引きが続くなかで,党指導部は中国に対する対決姿勢を強めていった。ズン首相は,5月22日,ベトナムの主権を守る手段のひとつとして,国際司法機関への提訴の可能性も考慮に入れていることを初めて公にした。6月18日に,中国高官としてオイルリグ設置以降初めて来訪した楊国務委員とベトナム党指導部との会談が物別れに終わった頃から,ズン首相以外のトップリーダー達も対決姿勢を鮮明にしはじめる。同月20日には,チュオン・タン・サン国家主席がベトナム通信社のインタビューに対し,中国は海上国境問題解決のための基本原則に関する二国間協定や,国連憲章を含む国際法に一方的に違反していると批判した。7月2日には,グエン・フー・チョン書記長が,ハノイ市における有権者との会合で,中国は不法にホアンサ諸島を占拠しており,ベトナムは主権を回復するために断固として闘争を続けなければならない,戦争はしたくないが,あらゆる事態に備えて準備しなければならないと発言した。親中派とみられているチョン書記長のこの発言は,ベトナムのこの問題に関する強い姿勢を印象づけた。
7月16日,中国は,前日までに掘削活動を完了したと発表した。これに伴い,オイルリグは係争海域から撤収された。当初の予定より1カ月早い撤収の理由として,CNOOCは,資源探査活動が終了したこと,および台風シーズンの到来を挙げている。撤収によって,両国の差し迫った衝突の危機は当面回避された。
両国は再び関係修復へ向けて動き出した。8月にはレ・ホン・アイン政治局員がチョン書記長の特使として中国を訪問し,習国家主席と会談して両国間の関係改善促進で合意した。10月にはフン・クアン・タイン国防相が訪中し,常万全国防相らと会談して両国国防省間のホットライン開設に関する覚書に調印した。
関係改善への努力の一方,11月には,中国がチュオンサ(スプラトリー)諸島で大規模な埋め立て工事を行い,人工島の建設を進めていることが明らかになった。このような動きに対抗して,ベトナム外務省は,12月11日,南シナ海の領有権に関し,フィリピンが中国との仲裁を求めている常設仲裁裁判所に対して,ベトナムの立場を伝えたことを発表した。2013年1月にフィリピンが同裁判所へ中国を提訴した時,ベトナムは事態を静観する姿勢をとっていたが,オイルリグ問題の発生を受けて両国は急速に連携を深めている。今回,ベトナムは正式な仲裁当事者となったわけではないが,この仲裁事件に関する常設仲裁裁判所の管轄権を認め,また,中国による南シナ海の広範な領有権の主張には法的根拠がないとする自らの立場を明確にした。オイルリグ危機後の越中間の緊張緩和はまだ道半ばであるが,すでに次の対立の火種はくすぶっている。
その他の対外関係:アメリカ,殺傷兵器禁輸の一部解除2014年,ベトナムは,とくに南シナ海情勢に関連して,国際社会から有形無形の多くの支援を受けた。
アジア重視を掲げるアメリカは,南シナ海情勢の展開に強い関心を示した。ケリー国務長官は,5月12日,中国の王毅外相との電話会談で,中国によるオイルリグの設置や多数の艦船の投入について「挑発的」であると非難した。5月31日にシンガポールで開催されたシャングリラ・ダイアローグでは,ヘーゲル国防長官が,南シナ海における中国によるオイルリグ設置などの動きを,情勢を不安定化する一方的な行動であると批判した。
南シナ海において越中の対峙が続いていた6月,アメリカのオシウス次期駐越大使候補は,1984年以来,アメリカがベトナムに対して適用してきた殺傷兵器の禁輸措置の解除を検討する時期であるという考えを示した。8月にはデンプシー統合参謀本部議長が来訪し,ズン首相らと会談して,同禁輸措置の解除を含む両国間の国防分野の協力推進で合意した。10月2日,ケリー国務長官は,訪米中のミン副首相兼外務相に対し,同禁輸措置を一部解除したことを伝えた。当面の解禁の対象となっているのは,海上安全保障に関する防衛的な装備であるという。ベトナムは,これまで主としてロシアから兵器を購入していたが,今後はアメリカからの兵器調達の道も開かれることになる。
日本との間でも,海上安全保障の分野を中心に,多面的な協力が進められた。3月,サン国家主席は国賓として日本を訪問し,安倍首相らと会談して,従来の「戦略的パートナーシップ」を発展させた「アジアにおける平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップ」の樹立で合意した。7月末には岸田外相がハノイを訪問し,巡視船に転用するための中古船舶6隻を無償供与することをベトナム側に伝えた。
インドもまた,中国に対抗して,ベトナムとの関係を深めている。5月に就任したモディ首相は,その「アクト・イースト」政策のなかでベトナムを重要なパートナーと位置づけているという。9月には,中国の習国家主席のインド訪問に先立って,ムカルジー大統領が来訪し,サン国家主席との間で,ベトナムがインドから武器を調達するための1億ドルの融資の提供を含む幅広い協力関係の促進で合意した。翌10月にはズン首相がインドを訪問し,各分野における具体的な協力のあり方について協議を行った。
2015年には,第12回党大会の準備が本格化する。現指導部が力を入れてきた党内の綱紀粛正は明確な効果を上げたとは言いがたいが,党機関,単位等における信任投票など一定の「民主的」制度は導入されてきた。このような制度を,求心力のあるリーダーの選出や,党員,国民の間での党指導部への信頼の回復につなげていくことができるのかが注目される。
経済面では,2014年には安定成長が実現したものの,政府が2011年から新たな成長モデルとしている「質を伴った成長」に向けた根本的な経済構造の転換はほとんど進まなかった。2014年にようやく火がついた大規模国有企業改革のさらなる加速,金融機関の健全な経営に向けた改革の前進,積み上がった公的債務の解消など,課題は山積している。政府には問題を先送りすることなく,確実に改革を進めていくことが求められる。金融機関の不良債権や資産などに対する厳格な基準の適用,改正企業法・投資法の施行など,改革に向けて2014年内に示された新たな制度の実施が2015年の経済動向にどう影響を与えるのかも注目される。
外交面では,引き続き南シナ海における中国との関係が焦点になるものと思われる。中国はフィリピンが求めている仲裁に関する常設仲裁裁判所の管轄権自体を否定しており,この司法手続きの行方も南シナ海情勢の安定に影響を与える可能性がある。ベトナムは,引き続きアメリカ,日本,インド,ASEAN諸国などとの緊密な協力関係を構築しつつ,予期せぬ事態に備える必要があるだろう。
(石塚:新領域研究センター)
(荒神:地域研究センター)
1月 | |
1日 | ズン首相,年頭所感で,国民の権利の尊重や国有企業改革の推進を強調。 |
1日 | ベトナム造船集団(ビナシン)を改組したベトナム造船工業総公司,発足。 |
3日 | 外国戦略的投資家によるベトナム金融機関の資本金保有上限を15%から20%に引き上げる政府議定1号,公布。 |
4日 | カンボジアのヘン・サムリン国会議長,来訪(~5日)。 |
9日 | タイグエン省で建設中のサムスン社の工場で暴動。 |
10日 | 外務省報道官,中国による南シナ海における漁業制限等の行為を非難。 |
11日 | イオンのベトナム1号店,開業。 |
12日 | ズン首相,カンボジア訪問(~14日)。フン・セン首相らと会談。 |
12日 | ズン首相,原発建設着工の延期に言及。 |
19日 | ホアンサ諸島海戦40周年にあたり,ハノイで7カ月ぶりの反中デモ。 |
20日 | 麻薬密輸の罪で被告30人に死刑判決(6月19日の控訴審で1人減刑)。 |
22日 | チョン書記長,越中国交64周年にあたり,中国の習近平国家主席と電話会談。 |
27日 | ベトナム商工銀行における巨額詐欺事件に関し,元行員フイン・ティ・フエン・ニュー被告に終身刑判決。 |
2月 | |
2日 | ダン・スオン・フン元ジュネーブ駐在領事,スイスのテレビのインタビューで,スイスへの亡命申請を明かす。 |
8日 | マクドナルドの1号店,開店。 |
16日 | 中越戦争35周年(17日)にあたり,ハノイで反中デモ。 |
18日 | レ・クォック・クアンに対する脱税容疑による裁判の控訴審,第1審判決を支持。 |
24日 | ライチャウ省で吊り橋崩落,8人死亡。 |
3月 | |
4日 | ブロガーのチュオン・ズイ・ニャット,民主的権利の濫用により懲役2年判決(6月26日の控訴審で第1審判決支持)。 |
6日 | 国有企業の株式化と事業売却について行動計画を示した政府決議15号,公布。 |
10日 | サムスン電子の第2工場(タイグエン省)が稼動開始。 |
12日 | 海外からの間接投資をドン建てで行うことを義務づける国家銀行通知5号,公布。 |
13日 | ベトナム開発銀行のヴ・ヴィエト・フン元支店長に対し,収賄罪等により死刑判決(9月26日の控訴審で第1審判決支持)。 |
16日 | サン国家主席,国賓として訪日(~19日)。安倍首相らと会談,茨城県訪問。 |
18日 | 国家銀行,政策金利の引き下げ。 |
18日 | 国家銀行通知9号,公布。債権分類の厳格化の適用開始を2015年4月1日に延期。 |
18日 | 企業の経営環境改善と競争力強化に向けた任務・対策を示す政府決議19号,公布。 |
19日 | ブロガーのファム・ヴィエト・ダオ,民主的権利の濫用により懲役15カ月判決。 |
24日 | ズン首相,オランダで開催された第3回核安全保障サミットに出席(~25日)。 |
26日 | ズン首相,キューバ,ハイチ歴訪(~29日)。 |
30日 | 全日空,ハノイ=羽田便を就航。 |
4月 | |
5日 | メコン川委員会第2回首脳会議,ホーチミン市で開催。 |
6日 | 民主活動家のク・フイ・ハー・ヴー,刑期満了前に釈放,直ちにアメリカ移送。 |
7日 | 電気販売価格表を改定する首相決定28号,公布。6月1日より新価格の適用。 |
11日 | 民主活動家のヴィ・ドゥック・ホイ,刑期満了前に釈放。 |
12日 | チョン書記長,ラオス訪問(~13日)。 |
12日 | 民主活動家のグエン・ティエン・チュン,刑期満了前に釈放。 |
17日 | 政府,2019年のアジア競技大会のハノイ開催辞退を表明。 |
18日 | 越中国境付近で,中国人不法入国者16人とベトナム国境警備隊との間で銃撃戦。警備隊員2人を含む7人死亡。 |
5月 | |
2日 | 中国,ホアンサ諸島周辺に石油掘削装置(オイルリグ),設置。 |
3日 | 日本交通技術(JTC)による贈賄疑惑に関連して,ベトナム鉄道総公司幹部4人,逮捕。 |
5日 | ブロガーのグエン・フー・ヴィンら2人,民主的権利の濫用の容疑で逮捕。 |
6日 | アメリカとの原子力協定,締結。 |
7日 | ディエンビエンフー作戦勝利60周年記念式典,開催。 |
7日 | 最高人民裁判所,ベトナム海運総公司(ビナラインズ)元会長ら2人の死刑判決支持。 |
8日 | 第11期党中央委員会第9回総会,開催(~14日)。 |
11日 | 第24回ASEAN首脳会議,ミャンマーで開催。 |
11日 | ハノイ市,ホーチミン市などで過去最大規模の反中デモ。 |
13日 | ビンズオン省,ドンナイ省で反中デモ隊が工場に放火。 |
14日 | ハティン省で反中デモ隊が台湾企業の工場建設現場襲撃,中国人労働者が死亡。 |
15日 | ズン首相,携帯電話メッセージにより国民に「法に則った愛国心の発揚」を要請。 |
18日 | ハノイ市,ホーチミン市などで反中デモを警察が阻止。 |
18日 | 新華社通信,中国政府は3000人を超える中国人をベトナムから退避させたと報道。 |
20日 | 第13期第7回国会,開幕(~6月24日)。 |
21日 | ベトナム政府,反中デモによる被害企業への税制面等における支援策を公表。 |
21日 | ズン首相,フィリピン訪問(~23日)。 |
22日 | ズン首相,中国に対する法的措置を含むあらゆる防衛手段を考慮に入れると表明。 |
26日 | 南シナ海でベトナム漁船が中国船に体当たりされ沈没。 |
28日 | ベトナムの国連代表部,中国を非難する文書の配布を国連事務総長に要請。 |
6月 | |
6日 | 日越経済連携協定によるベトナム人看護師・介護福祉士候補生第1期生が渡日。 |
6日 | トンキン湾でベトナム漁船が中国船による襲撃を受け,乗組員3人が負傷。 |
9日 | グエン・ドゥック・キエン・アジア商業銀行(ACB)元副会長に対し,詐欺罪等により懲役30年の判決(12月15日の控訴審で第1審判決支持)。 |
9日 | 『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙,中国政府が中国国有企業のベトナムにおける入札参加を一時的に禁止と報道。 |
9日 | 2025年までの工業発展基本計画および2035年までの展望を承認する首相決定879号,公布。 |
13日 | 中国外務省,南シナ海に設置されたオイルリグ周辺で,ベトナム側の船が中国船に1500回以上衝突と主張。 |
16日 | 国家資本投資経営総公司(SCIC)の組織・活動について政府議定57号,公布。 |
18日 | 国有企業の分類に関する首相決定37号,公布。 |
19日 | ベトナム来訪中の中国の楊潔篪国務委員,ズン首相,チョン書記長らと会談。 |
19日 | ハノイ市で反中デモ。 |
19日 | チュオン・チョン・ギア国会議員,南シナ海問題に関する国会決議採択を提案。 |
19日 | 国家銀行,ドンの対ドル基準相場を1%切り下げ。2万1036ドンから2万1246ドンに。 |
20日 | 国連人権評議会,ベトナム政府の人権報告書に対する普遍的定期的審査作業部会の結論採択。 |
7月 | |
2日 | サムスンのディスプレイ製造工場建設,認可(バクニン省)。 |
3日 | トンキン湾でベトナム漁船が中国船により拿捕。 |
3日 | ベトナムの国連代表部,中国のオイルリグ設置に対するベトナムの立場,およびホアンサ諸島に対するベトナムの領有権を示す2件の文書の配布を国連事務総長に要請。 |
4日 | ベトナム独立ジャーナリスト会,発足。 |
7日 | ハノイ市郊外に空軍のヘリコプターが墜落。兵士21人が死亡。 |
8日 | カンボジア・プノンペンのベトナム大使館前で反ベトナム政治集会。 |
15日 | 経済集団および総公司の設立条件を定めた政府議定69号,公布。 |
16日 | 中国,オイルリグによる石油掘削活動を前日までに完了と発表。 |
21日 | ビーリフェルド国連宗教・信仰自由問題報告官,来訪(~31日)。 |
23日 | ファム・クアン・ギ政治局員,アメリカ訪問(~28日)。 |
24日 | 党中央検査委員会,チャン・ヴァン・チュエン元政府監査院院長の資産について調査を実施することを発表。 |
28日 | 元駐中国大使を含む党員61人が連名で党中央委員会および全党員に宛てた公開書簡を発表。政治体制の民主化と中国への経済的従属からの脱却を提言。 |
29日 | ベトナム建設銀行の元幹部3人,故意に経済管理規定に違反した容疑で逮捕。 |
31日 | 日本の岸田外相,来訪(~8月2日)。 |
8月 | |
12日 | カンボジア・プノンペンのベトナム大使館前でデモ隊がベトナム国旗を焼く。 |
13日 | アメリカのデンプシー統合参謀本部議長,来訪(~16日)。 |
18日 | ラオスのチュームマリー人民革命党総書記兼国家主席,来訪(~21日)。 |
25日 | 欧州委員会のバローゾ委員長,来訪(~26日)。 |
25日 | 経営不振に陥った企業に対する税対策について示した政府決議63号,公布。 |
26日 | アイン政治局員,チョン書記長の特使として中国訪問(~27日)。 |
26日 | 人権活動家のブイ・ティ・ミン・ハン,公共秩序を乱した罪で懲役3年判決(12月12日の控訴審で第1審判決支持)。 |
9月 | |
4日 | 外務省報道官,中国によるホアンサ諸島観光ルートの開設に抗議。 |
9日 | 外務省報道官,8月1日,14日および15日にホアンサ諸島周辺でベトナム漁船が中国船から妨害行為を受けたことに抗議。 |
14日 | インドのムカルジー大統領,来訪(~17日)。 |
15日 | 国有企業の事業売却,株式販売,上場に関する首相決定51号,公布。 |
16日 | 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ,ベトナム警察による勾留中の容疑者に対する暴力に関する報告書を公表。 |
16日 | アメリカ人によるベトナムの子どもの養子縁組,6年ぶりに再開。 |
18日 | 南部空港サービス会社(SASCO),新規株式公開(IPO)実施。 |
21日 | ハノイ市ノイバイ=ラオカイ間でベトナム最長となる高速道路,開通。 |
22日 | ベトナム繊維集団(Vinatex),IPO実施。 |
23日 | ベトナム,世界知的所有権機関(WIPO)の調整委員会議長国に選出。 |
25日 | 創業134年のTAXデパート(ホーチミン市),閉店。 |
10月 | |
1日 | チョン書記長,国賓として韓国訪問(~4日)。 |
1日 | サムスンの家電コンプレックス建設,認可(ホーチミン市)。 |
2日 | アメリカ政府,ベトナムへの殺傷兵器禁輸の一部解除を決定。 |
3日 | 越米原子力協定,発効。 |
4日 | プノンペンの反ベトナム抗議行動,再燃。 |
13日 | ズン首相,ベルギー,EU,ドイツ歴訪(~15日)。 |
16日 | ズン首相,ミラノで開催されたアジア欧州会合(ASEM)に出席(~17日)。 |
16日 | タイン国防相,中国訪問(~19日)。両国国防省間のホットライン開設などで合意。 |
18日 | ズン首相,バチカン市国訪問。 |
20日 | 第13期第8回国会,開幕(~11月28日)。 |
21日 | アメリカのフロマン通商代表,来訪(~22日)。 |
21日 | ブロガーのグエン・ヴァン・ハイ,刑期満了前に釈放,直ちにアメリカ移送。 |
24日 | オーシャン銀行のハー・ヴァン・タム元会長,融資に関する規則違反の容疑で逮捕。 |
27日 | ズン首相,インド訪問(~29日)。 |
27日 | 来訪中の中国の楊国務委員,チョン書記長,サン大統領らと会談。 |
29日 | 国家銀行,ドン預金・優先分野への貸出,ドル送金について,金利の引き下げ。 |
11月 | |
7日 | ドル建て国債10億㌦分発行。 |
9日 | サン国家主席,APEC首脳会議および関連各会議出席のため中国訪問(~11日)。 |
11日 | 2015年の最低賃金を示した政府議定103号,公布。2015年1月1日より25万~40万ドン/月の賃金引き上げ。 |
12日 | ズン首相,ネーピードーで開催されたASEAN首脳会議に出席(~13日)。 |
14日 | ベトナム航空,IPO実施。 |
15日 | 国会,国家幹部の信任投票実施。 |
20日 | 金融機関の安全性確保に向けた資産・貸付規定(国家銀行通知36号),公布。 |
21日 | 党検査委員会,チュエン政府監査院元院長の資産についての調査結果を公表。 |
23日 | チョン書記長,ロシア,ベラルーシ歴訪(~28日)。 |
24日 | ズン首相,ビエンチャンで開催されたカンボジア・ラオス・ベトナム開発三角地帯首脳会議に出席(~25日)。 |
29日 | ブロガーのホン・レ・ト,民主的権利の濫用の容疑で逮捕。 |
29日 | タイのプラユット首相,来訪(~28日)。 |
12月 | |
1日 | モビフォン通信総公司,設立。 |
6日 | 著名な作家でブロガーのグエン・クアン・ラップ,民主的権利の濫用の容疑で逮捕。 |
10日 | ズン首相,ASEAN・韓国特別首脳会議出席のため,韓国訪問(~12日)。越韓FTA交渉終了に関する宣言の調印式。 |
11日 | 外務省報道官,南シナ海の領有権に関し,常設仲裁裁判所にベトナムの立場を伝えたことを表明。 |
11日 | サムスンのタイグエン・ハイテク・コンプレックス案件(第2フェーズ),認可。 |
20日 | ズン首相,バンコクで開催された第5回大メコン圏(GMS)首脳会議に出席。 |
20日 | 国連高等難民弁務官事務所,カンボジア国境の森林に潜んでいた少数民族8人を発見。 |
23日 | サン国家主席,カンボジア訪問(~24日)。 |
25日 | 中国の兪正声全国協商会議主席,来訪(~27日)。 |
27日 | ブロガーのグエン・ディン・ゴック,逮捕(容疑不詳)。 |
31日 | 100%国有企業の売却について,政府議定128号,公布。 |