Yearbook of Asian Affairs
Online ISSN : 2434-0847
Print ISSN : 0915-1109
[title in Japanese]
[in Japanese][in Japanese]
Author information
MAGAZINE FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2015 Volume 2015 Pages 71-98

Details

2014年の韓国 セウォル号沈没事故で揺れた国政運営

概況

国内政治では,4月16日に発生した大型フェリー船セウォル号の沈没事故が韓国社会に衝撃を与え,政治的にも経済的にも大きな影響が出た。安哲秀が結成する予定の新党「新政治連合」が民主党と統合し,最大野党「新政治民主連合」が結党したことは話題になったが,同党は現時点で与党に代わる選択肢として有権者の支持を受けているとはいえず,朴槿恵政権の政権基盤は揺らいでいない。また,年末には,統合進歩党に対して韓国憲政史上初となる政党解散命令が下された。

経済は,セウォル号の沈没事故の影響によって民間消費が鈍化したり,中国の成長減速を受けて輸出も伸び悩むなどしたが,通年では2013年をやや上回る経済成長率を確保した。低インフレとウォン高基調のなか,景気の下降リスクから2度にわたる政策金利の引き下げや拡張型の景気対策が実施される一方で,家計の債務残高は増え続けている。設備投資は年後半から好転しつつあるものの,サムスン電子や現代自動車をはじめとする主要企業の多くで減収や減益が相次いだ。そうしたなか,朴政権は「創造経済」の推進に向けて「経済革新3カ年計画」を発表し,中小・ベンチャー企業などの支援・育成に動きはじめた。

対外関係では,3年4カ月ぶりとなる離散家族再会事業の実現で南北関係が進展するかにみえたが,その後は黄海の北方境界線上での警告射撃の応酬やビラ散布問題のために関係改善は進まなかった。日本とは依然として歴史認識問題をめぐる確執が解決せず,3月の日韓米首脳会談以外にはほとんど交流がなかった。対米関係は安全保障面で緊密な連携を維持しており,中国とは3回に及ぶ首脳会談が開かれ,韓中自由貿易協定(FTA)交渉も実質的な妥結に至った。

国内政治

新政治民主連合の結成

2014年の韓国政界の大きな動きとして注目されたのが,安哲秀を中心とする政界の再編である。2013年4月に国会議員として当選した安哲秀議員が率いる「国民と共にする新政治推進委員会」は,2月17日に新党「新政治連合」の創党に向けた発起人大会を開き,新政治連合創党準備委員会の中央運営委員長として安哲秀が選出された。安哲秀は大会の席上で,「古い政治を打破し,新しい政治の枠組みをつくる」と話し,与党セヌリ党と最大野党民主党に次ぐ第三勢力として新政治連合が台頭すると思われた。

3月2日に安哲秀と金ハンギル民主党代表が共同で記者会見を開き,6月4日に実施される統一地方選挙までに新政治連合と民主党による統合新党を結成すると表明したことで,政界再編の流れは急転した。セヌリ党はこの統合新党の結成を「低級な野合の政治シナリオ」と批判した。新政治連合と民主党による統合新党の名称は「新政治民主連合」に決まり,3月26日に開催された結党大会で,安哲秀と金ハンギルが共同代表として選出された。

セウォル号の沈没事故

4月16日午前,仁川から済州島に向けて航行していたフェリー船セウォル号が,全羅南道珍島近海で沈没する事故が発生した。事故現場は潮の流れが速い危険な海域で,海洋警察の救助作業は困難を極めた。船には修学旅行中の壇園高等学校の生徒325人を含む乗客476人が乗っていたが,そのうち救助されたのは172人,死者・行方不明者数は304人に上るという大惨事となり,韓国のみならず国際的にも大きな注目が集まった。

10月6日,検察は捜査結果を発表し,沈没事故の最大の原因は,船舶の無理な増改築と貨物の過積載,船員の運航ミスにあるとした。セウォル号の船会社である清海鎮海運は,客室や積載量を増やすために船舶の増改築を重ねており,船体のバランスが不均衡になっていた。また,セウォル号は過積載の状態で運航することが常態化しており,事故当日も最大積載量の2倍を超える貨物が積まれ,固定もされていなかった。事故当時に船の舵をとっていたのは新人の3等航海士であり,船長は操舵室におらず,事故の発生後,乗客の救助義務を放棄していち早く海洋警察の救命ボートで脱出した。また,船が沈没している間にも「危険なので船内にとどまるように」という放送が繰り返し流されていた。利益を優先して安全を軽視する海運会社のずさんな運航体制と,非常事態に対する船員の訓練不足が引き起こした大惨事によって韓国社会が受けた衝撃は大きく,事故の背景には目先の利益を優先して適切な監督・規制を実施することができず,安全に対する意識が低いという社会的な問題があるという認識が広まった。

韓国放送公社社長の解任と国務総理の辞任問題

セウォル号の沈没事故は韓国社会にさまざまな形で影響を及ぼした。最初に表面化した動きは,沈没事故による「自粛ムード」のなかで相次いだ各種の行事・集会の取りやめである。詳細は後述するが,こうした動きの広がりは観光・娯楽産業への影響にとどまらず,消費心理そのものの萎縮をもたらした。

セウォル号沈没事故の報道をめぐる議論が韓国放送公社(KBS)の社長解任にまで発展する事態も生じた。KBSの金時坤報道局長がセウォル号の沈没事故に関連して,「セウォル号沈没事故の死亡者数は,交通事故による年間死亡者数を考えるとそれほど多いものではない」という不適切な発言をしたと全国言論労組KBS本部が5月3日に主張した。この発言をめぐる批判の高まりを受け,金報道局長は5月9日に記者会見を開いた。会見の場で金報道局長は職務を辞任する意向を表明し,同時に事故報道について大統領府(青瓦台)からの介入があったこと,KBSの吉桓永社長もそれに合わせて政権の批判を自制するように指示したことを暴露し,吉社長は退陣するべきだと主張した。この暴露会見を受けて,5月29日にKBS労組と全国言論労組KBS本部の両労組がストライキに突入し,報道の中立性を侵害したとして吉社長の退陣を要求した。6月5日にはKBS理事会が吉社長に対する解任推薦案を可決し,朴大統領が6月10日に同案を裁可したことで,吉社長は強制的に職務を解任された。

さらに,海洋警察による救助作業や船体引き上げ作業の遅れは政権に対する批判へとつながった。4月27日,鄭烘原国務総理は会見を開き,事故発生後に政府が適切に対応できなかったことの責任をとって辞任する意向を表明した。朴大統領は鄭国務総理の辞表を受理し,後任の国務総理候補として安大熙前最高裁判事を指名し辞退され,次に文昌克前中央日報主筆を指名したがこちらも辞退された。朴大統領は6月26日に鄭国務総理の留任を決定した。

韓国ギャラップが5月上旬に行った世論調査では,事故発生前は5~6割台で推移していた朴大統領の職務遂行支持率は,事故発生後に4割台まで下落した。沈没事故の犠牲者追慕集会やデモが連日実施され,真相究明と再発防止を求める声が高まった。与野党は5月11日に,沈没事故の後処理について議論するための「セウォル号臨時国会」を召集することで合意した。5月19日,朴大統領は対国民談話を発表し,沈没事故に対する政府の適切な対処ができなかった最終責任は自身にあると謝罪した。また,本来の任務を果たせなかったとして海洋警察庁を解体し,国民安全処を新設して,政府機関の各部署に分散した安全関連機能を一元化する方針を示した。

統一地方選挙と国会議員再・補欠選挙の実施

 2010年以来4年ぶり,第6回目となる統一地方選挙は6月4日に実施された。選挙結果は表1のとおりである。

表 1  2014年統一地方選挙結果

(出所) 中央選挙管理委員会選挙統計システム(http://info.nec.go.kr/)。

投票率は56.8%で2010年に実施された前回選挙の投票率を上回り,1998年の第1回選挙に次いで2番目に高い数字となった。広域自治体の結果をみると,首長選ではセヌリ党が8自治体,新政治民主連合が9自治体を制し拮抗する結果となったが,議員選の結果はセヌリ党が新政治民主連合よりも優勢となり,基礎自治体でもセヌリ党が首長選,議員選ともに多数を占めた。統合進歩党,正義党,労働党などのいわゆる進歩政党は,広域・基礎自治体の両方で1人も首長を出すことができず,退潮傾向が鮮明になった。選挙前に「セウォル号審判論」として報道各社が喧伝した有権者の批判の声は,少なくとも朴政権と与党を大敗させるまでには至らなかったといえる。

統一地方選挙は与野党の勝敗を明確に判定しにくい結果となったが,全国の15選挙区で7月30日に実施された国会議員再・補欠選挙では,セヌリ党の獲得議席11に対して新政治民主連合はわずか4と,与党が圧勝した。セウォル号沈没事故での対応の不手際によって朴大統領に批判が集まったのは確かだが,野党がその批判票の受け皿となっていない現実が,再・補欠選挙によってより明確になった。安哲秀,金ハンギル共同代表は敗北の責任をとって代表職を辞任した。

セウォル号沈没事故の後処理と事故関係者の公判開始

セウォル号沈没事故の真相究明と被害者・遺族の支援のために5月上旬から与野党間で「セウォル号特別法」が議論されていた。しかし,その内容をめぐって意見の対立があり,そのため半年近くにわたって法案を1件も処理できないなど,国会が空転する原因にもなっていた。与野党は10月31日に特別法案の内容で合意し,「4.16セウォル号惨事真相究明および安全社会建設などのための特別法」(セウォル号特別法)は11月7日に国会を通過した。その4日後の11日,李柱栄海洋水産部長官は行方不明者捜索作業の打ち切りを発表し,沈没事故の後処理は一応の終結をみた。

一方,事故発生時に乗客の救助義務を放棄したことで罪に問われていたセウォル号乗組員らの裁判が,6月10日から光州地方法院で始まった。検察は事故当時の船長だった李俊錫被告以下4人の乗組員について殺人罪を求刑したが,11月11日に光州地方法院が下した判決では,いずれの被告にも乗客に対しての殺人罪は適用されず,遺棄致死罪などの罪状によって懲役刑が言い渡された。検察と被告らはともに不服として控訴した。

また,6月12日には,セウォル号を運航していた清海鎮海運の実質的なオーナーであり,検察の捜査から逃亡していた兪炳彦容疑者の変死体が発見された。剖検を行った国立科学捜査研究院は7月25日に,遺体は兪容疑者のもので間違いないが,死因は不明と発表した。

鄭允会国政介入疑惑の発覚

セウォル号沈没事故の後処理が一応の終結をみた11月の終わりに,朴大統領にとって大きな打撃となるスキャンダルが発覚した。『世界日報』は11月28日付の紙面で,入手した大統領府の内部文書をもとに,民間人の鄭允会が朴大統領の側近と呼ばれる数人の秘書官と定期的に接触し,国政に介入していたと報じた。鄭允会は朴大統領の元秘書であり,公職についていない現在も朴大統領と近しい関係にある,いわゆる「秘線」の実力者として取り沙汰されてきた人物である。大統領府は28日に会見を開き,文書の存在そのものは事実だと認めたが,その内容は「風説を集めたチラシにすぎない」として事実関係を否定,『世界日報』社長ら6 人を名誉毀損で告訴して事態の早期収拾を図った。

だが,その後も鄭允会の国政介入疑惑についての議論が収まることはなかった。報道各社の続報によって,内部文書の流出に朴大統領の実弟である朴志晩が関与した疑惑まで報じられ,朴志晩は事情聴取のため12月15日にソウル中央地検に出頭した。新政治民主連合も,疑惑の渦中にある鄭允会と秘書官ら12人を職権乱用などの疑いで検察に告発し,国会での真相究明を要求するなど攻勢を強めた。国政介入疑惑の問題の本質は朴大統領の不透明な政治スタイルにあるという批判が高まり,大統領の支持率は急落した。

韓国憲政史上初の政党解散命令

2013年9月26日に,検察は統合進歩党所属の李石基議員を内乱陰謀および内乱扇動罪の容疑で起訴した。11月5日,政府は統合進歩党の目的と活動が民主的基本秩序に反すると判断し,憲法裁判所に対して同党の違憲政党解散審判を請求した。第1次弁論は2014年1月28日に始まり,12月19日,憲法裁判所は統合進歩党に対して憲政史上初となる政党解散命令を下した。この判決によって統合進歩党は違憲政党として解散し,同党所属の現職国会議員5人は議員職を喪失した。裁判官の多数意見は,統合進歩党綱領の「進歩的民主主義」を,人民民主主義革命を掲げる「自主派」の理念であると規定し,また同党の主導勢力が自由民主主義体制を転覆しようとしていることから,統合進歩党は最終的に北朝鮮式社会主義を追及していると評価し,これを民主的基本秩序に反するものとして,政党解散が必要だと判断した。

憲政史上初となる政党解散命令を受けて,与野党の反応は分かれた。セヌリ党は「大韓民国を否定する勢力に対する憲法の勝利,自由民主主義の勝利であり,野党は選挙協力を通じて違憲勢力が国会に進出する手助けをしたことについて反省しなければならない」という内容の声明を出し,朴大統領も「自由民主主義を守った歴史的な決定」であると評価した。一方で新政治民主連合は,「憲法裁判所の決定を重く受け止めるが,民主主義の基礎である政党設立の自由が毀損されたことを憂慮する。時代錯誤的な理念は批判されるのが当然だが,それは国民が判断し選択する問題だと考える」と声明を出した。

全国紙の社説でも反応が分かれた。『朝鮮日報』は12月20日,「憲法裁判所は,北朝鮮に盲目的に従う『従北』勢力は韓国と民主主義の敵だと判断し,彼らから憲政秩序を守るために政党解散命令を下した。憲法裁判所は今回の決定で韓国を守った」と評価した。同日の『東亜日報』も「統合進歩党は民主的法的秩序の政党といえず,憲法裁判所の決定は正しい。韓国を守るためには,偽進歩,偽装民主化勢力を取り除かなければならない」と主張した。

一方,同日の『中央日報』は「憲法裁判所の判断は,冷厳な南北分断状況で避けられない苦肉の策だったが,政党の解散は極端な措置であり,国際社会の一部も批判的な目を向けている。これによって多様で非暴力的な進歩価値の表現と活動が萎縮してはならない」として,判決を受け入れつつも,『朝鮮日報』や『東亜日報』のように全面的に擁護する姿勢とは一線を画した。

憲法裁判所の判決をもっとも強く批判したのは『ハンギョレ新聞』である。同紙は「韓国民主主義の死,憲法裁判所の死」と題した12月20日の社説で,「憲法裁判所の決定にはまともな証明も確実な根拠もない。判決は司法史に残る大きな汚点であり,法の刃を借りた政治弾圧の時代へ歴史の時計を逆に戻した。今ここに解散と解体の危機に直面したのは,数十年かけてつくってきた韓国の民主主義だ」と批判した。

政党解散命令で統合進歩党が喪失した5議席のうち地域区の3議席については,2015年4月29日に補欠選挙が行われることになっている。

経済

マクロ経済の概況

2014年の韓国経済は,セウォル号の沈没事故の影響による個人消費の落ち込みや,中国の成長減速や韓国企業の海外生産の拡大などを受けた輸出不振に見舞われたものの,通年では景気は引き続き緩やかな回復局面にある。2015年年初に韓国銀行が発表した国内総生産(GDP)の速報値によれば,2014年の実質GDP成長率は3.3%で,2年連続で前年を上回る伸び率を示した(表2)。ただし,3.5%前後とされる潜在GDP成長率にはわずかに及ばず,GDPギャップはマイナスが続いているとみられる。

表2  支出項目別および経済活動別国内総生産成長率

(注) 数値はすべて暫定値。四半期別数値は季節調整後の値。在庫増減はGDPに対する成長寄与度を表す。

(出所) 韓国銀行「2014年第4四半期および年間国内総生産(速報)」2015年1月23日。

支出項目別には,まずGDPの約半分を占める民間消費が前年比1.7%増と前年の成長幅を下回り,力強さを欠いた。家計所得の伸びは若干拡大したものの,セウォル号の沈没事故を受けて消費心理が冷え込んだことや,膨れ上がる家計負債が重荷となったことが大きかった。また,建設投資は年前半には堅調な住宅建設や住宅投資が下支えとなり不動産市況には復調の兆しがみられたが,第4四半期に入って税収不足による公共事業の滞りから土木分野が低迷したために,年間では前年比1.1%増と伸び率は大きく鈍化した。輸出は半導体や無線通信機器といったIT関連機器や鉄鋼,船舶などが健闘したものの,中国の景気減速など厳しい輸出環境が影響して前年比2.8%増にとどまった。一方,設備投資は前年には朴政権の経済政策の動向を見守る姿勢から,企業には生産設備の増強や更新を見送る動きが目立ったが,年後半になって自動車関連や機械類の分野で好転したことで,年間では前年比5.9%増のプラス成長に転じた。また,ソフトウェア投資などの知識財産生産物投資も,前年比5.3%増と底堅い成長を示している。

経済活動別には,輸出や設備投資の堅調さを反映して製造業が前年比4.0%増と伸びたほか,サービス業(同3.2%増)も保健・社会福祉事業や金融保険業,情報通信業などが比較的高い伸び率を示したことで前年を上回る水準を記録した。しかし,建設投資の鈍化を受けて建設業は前年比0.4%増と伸び悩んだ。国内総所得(GDI)の成長率は,原油価格の下落やウォン高傾向などによって実質的な貿易損失規模が縮小し(18兆8000億ウォンから13兆2000億ウォン),交易条件が改善されたことでGDP成長率を上回る3.8%を記録した。また,1人当たり名目GDPおよび1人当たり国民総所得(GNI)はともに,前年同様に2万5000ドルを超える見通しである。

低インフレ,景気対策,雇用情勢

2014年の消費者物価および生産者物価の上昇率はそれぞれ1.3%と-0.5%で,前年(1.3%と-1.6%)とほぼ同水準となった。消費者物価上昇率は韓国銀行が目標値とする2.5~3.5%を下回っているために一部でデフレを懸念する声があるなか,内需不振やウォン高・円安基調による景気下降リスクを重くみた韓国銀行は,8月と10月に政策金利を0.25ポイントずつ引き下げた。2度にわたる利下げによって,政策金利はリーマン・ショック後の金融緩和時(2009年)と同じ過去最低水準になったが,ウォン相場の上昇圧力を緩和させたいとする政府の期待もうかがえる。

7月には新たに就任した崔炅煥・経済副総理兼企画財政部長官が率いる政府の経済チームが,内需活性化を柱とする総額41兆ウォン規模の景気刺激策を打ち出し,そのうちの約4分の3は年内に執行された。経済対策のおもな内容は,不動産取得時の借り入れ規制の緩和や家計への税額控除,企業の投資促進や労働分配率の向上,株主配当の拡大などを目的とした税制改革(一定基準以上の内部留保に対する課税など)であり,金融・財政両面での拡張志向がみられる。しかし,2度にわたる政策金利の引き下げと不動産融資規制の緩和による副作用として,銀行など金融機関からの家計向け融資が急増し,足元の家計負債総額は1089兆ウォン(12月末現在)まで増大した。

雇用情勢は景気が緩やかな回復軌道にあるなか,やや改善された。統計庁の発表によれば,2014年の全体の就業者数は2560万人で,前年比53万3000人増であった。部門別には,保健・社会福祉サービス業(前年比13万9000人増)や小売卸業(同13万2000人増),宿泊・飲食業(同12万7000人増)などのサービス部門で堅調な伸びがみられたほか,製造業でも前年を大きく上回る14万6000人の増加をみた。ただ,全体の失業率は3.5%で前年比0.4ポイント悪化し,とくに20歳代の失業率は9.0%と前年比1.1ポイントも悪化した。これは経済活動参加率が上昇したぶん,非労働力人口が減少したことによるものであるが,非正規職から正規職雇用への転換など雇用の質の改善は引き続き課題である。なお,名目賃金上昇率は前年比2.5%増で,消費者物価上昇率を上回っている。

国際収支状況

関税庁の発表(2015年1月)によれば,2014年の通関基準の輸出額は5731億ドル(前年比2.4%増),輸入額は5256億ドル(同1.9%増)で,貿易黒字は475億ドルの過去最高額を更新し,貿易総額も4年連続で1兆ドル超えを達成した。輸出の内訳を品目別にみると,スマートフォンなどのモバイル機器市場の拡大を受けて半導体(前年比9.2%増)や情報通信機器(同6.3%増)が前年に続き大きく伸びたほか,鉄鋼製品(同8.9%増)や船舶(同7.0%増)もプラス成長に転じて輸出を牽引した。とくに,輸出品目トップの半導体が初めて輸出額600億ドルを突破したことは特筆される。一方で,乗用車(同1.2%増)や自動車部品(同2.1%増)はウォン高の影響により振るわず,年後半の原油価格の下落を受けて石油製品(同3.2%減)は落ち込んだ。

地域別には,最大の輸出先である中国向けが成長鈍化から前年比0.4%減となったが,FTA発効後2年を迎えたアメリカ向けが前年比13.3%増と大きく伸びて過去最大の輸出額を更新した。前年に小幅な減少を記録した欧州連合(EU)とASEAN諸国向けは,それぞれ前年比5.8%増と3.4%増でプラスに反転した。一方,対日輸出はウォン高・円安傾向などに伴う主力品目の落ち込みによって前年比7.0%減となったものの,対日輸入の減少幅のほうが大きかったために対日貿易赤字は215億ドルにとどまり,赤字幅は縮小した。なお,FTA締結国との貿易額は全体の38.8%にまで拡大し,輸出額は前年比7.0%増,輸入額は同4.7%増と貿易全体の伸びを大きく上回る。

輸入では,IT関連機器や製造装置などの資本財が前年比3.2%増,また乗用車や衣類,牛肉などの伸びを受けて消費財輸入も前年比12.2%増加した。しかし,原材料輸入は原油価格の下落などによって前年比0.6%減少し,中東の資源国との貿易赤字は輸出増の追い風もあって大幅に縮小した。経常収支は貿易収支と所得収支の黒字拡大が,旅行や知的財産権使用料などのサービス収支の赤字(81億6000万ドル)を補う形で,前年実績(811億5000万ドル)を上回る894億2000万ドルの経常黒字を記録し,3年連続で過去最高を更新した。

企画財政部の発表(2015年2月)によれば,2014年の海外直接投資額(申告ベース)は350億7000万ドル(前年比1.5%減)で3年連続の減少となり,おもに鉱工業での落ち込みのほか,地域別には中国などアジアやヨーロッパ,中南米向けでの減少が響いた。一方で産業通商資源部の発表(2015年1月)では,改正された外国人投資促進法などの規制緩和策が奏効して外国人直接投資(申告ベース)は190億ドル(前年比30.6%増)の史上最大規模を記録した。EUやアメリカ,中国など主要国からの投資が大きく増加したのに対して,日本の対韓投資は前年に続き減少したが,部品素材分野でのグリーンフィールド投資は堅調である。

国際収支のなかの証券投資は,通年で336億1000万ドルの出超となり,海外投資資金の流出が前年より大きく膨らんだ。証券市場では化粧品や流通,IT株などの伸びや7月に発表された政府の景気対策への期待感から年央にかけて外国人投資家の買い越しが目立ち,韓国総合株価指数(KOSPI)は同月末に2000台後半まで回復した。しかし,年後半には売り越し基調に転じ,輸出関連の製造業銘柄も伸び悩んだために,KOSPIは年末に一時1800台に割り込む場面もみられた。

為替相場の動向

外国為替市場では,年初には一部新興国の金融・政情不安やアメリカの連邦準備理事会(FRB)による早期利上げ観測などが材料視され,ウォン相場は軟調に推移した。しかし,年央にかけて海外投資資金の流入や大幅な経常黒字基調を受けてウォンは漸進的な上昇に転じ,7月には対ドルレートで年最高値となる1ドル=1008.5ウォンをつけた。対円レートも,年央までは対ドルレートと歩調を合わせる動きがみられた。

年後半に入ると,アメリカの量的金融緩和の終了や韓国銀行による利下げなどを背景に,一転して対ドルレートは12月には年最安値の1ドル=1117.7ウォンまで減価した(年末には1ドル=1099.3ウォンで前年末比4.0%のウォン安)。対照的に,対円レートでは日銀による追加金融緩和の影響から,12月には年最高値となる100円=912.5ウォンまで切り上がった(年末には100円=913.1ウォンで前年末比9.7%のウォン高)。ウォン高・円安の長期化を受けて,政府は対日輸出比率の高い中小企業に対して為替変動保険料の負担を半減するなどの金融支援や,対日資本財輸入にかかる関税減免といった税制優遇などの円安対策を10月にまとめている。

主要企業業績

2014年の国内主要企業の業績は,資産規模トップのサムスン電子や3位の現代自動車などが軒並み減収や減益に陥る厳しい結果となった。韓国最大企業のサムスン電子は,2014年連結決算で売上高206兆2100億ウォン(前年比9.8%減),営業利益25兆300億ウォン(同32.0%減)となり,実に9年ぶりの減収と3年ぶりの減益に陥った。足元では連結営業利益が5四半期連続,連結売上高が3四半期連続で前年実績を下回っているが,その最大の要因は中国などの新興メーカーの台頭を受けて,利益の約7割を占めていたスマートフォン事業が不振に陥り,販売単価の引き下げや販促費用の積み増しを余儀なくされたことにある。それでも,需要の堅調なメモリー部門の伸びを受けた半導体事業が収益の下支えとなった。そうしたなか,サムスン電子は大幅増配や自社株買いによって株主還元を拡大する方針を示している。また,5月に急性心筋梗塞で入院した李健熙会長が不在のなか,サムスングループは石油化学や電子材料分野で系列会社の統合を実施したり,同じく石油化学や防衛産業を手がける系列4社を売却するなど,事業の選択と集中を図るべくグループ内再編を加速させている。

一方,同じく韓国の代表的な企業である現代自動車の2014年連結決算は,世界販売台数の増加から売上高こそ89兆2563億ウォン(前年比2.2%増)で過去最高額を更新したものの,営業利益では7兆5500億ウォンと2年連続の前年割れとなった(同9.2%減)。減益の要因としては,長期化するウォン高の進行で輸出採算が悪化したことや国内工場で発生した断続的なストライキによる生産稼働率の低下などが挙げられる。そうしたなか,現代自動車も増配や自社株買いによって株主還元を強化する意向を示しているが,9月に韓国電力公社のソウル本社敷地を巨額買収してから下落傾向にある株価を引き上げる狙いもあるとみられる。同グループの起亜自動車もまた,世界販売台数こそ伸びたものの,ウォン高や新興国の通貨安の影響により減収減益が続いた。

国土交通部の発表(2014年12月末)によると,2014年の海外建設受注額は中東やアジアを中心に660億1000万ドル(前年比1.2%増)を記録し,製油所や発電施設などのプラント建設を中心に引き続き好況を呈している。海外建設受注は近年では半導体や自動車の輸出を上回る規模で,外貨獲得の稼ぎ頭として期待されている。一方で,市況の低迷が続く造船や海運,建設,鉄鋼産業などでは,42の大企業グループが負債比率の高い「主債務系列」として金融当局より財務構造改善の対象に選定され,韓進や錦湖アシアナ,東部,STXなどのグループは債権銀行団の管理の下で引き続き構造調整を進めることになった。

経済革新3カ年計画

朴大統領は政権発足当初より,いわゆる財閥の規制改革や中小零細企業の保護・育成を指す「経済民主化」や,ICT(情報通信技術)と科学技術の復興による産業高度化という「創造経済」を打ち出していた。1月6日の年頭記者会見では,その実現策として「経済革新3カ年計画」を発表し,2月末には具体案が策定された。そのおもな内容は,規制緩和や5大有望サービス産業(保健・医療,教育,観光,金融,ソフトウェア)の育成,中小・ベンチャー企業の育成(2014~2017年に総額約4兆ウォン投資),起業支援などを通じて内需の拡大や雇用創出,「創造経済」の推進を図るとともに,負債規模の大きい公営企業の統廃合を進めるといった経営改革を実施するというものである。計画の推進によって,実質GDP成長率4%,1人当たり国民所得4万ドル,雇用率70%水準まで引き上げる目標を掲げている。まだ具体的な成果は表れていないものの,大企業が地方自治体や研究機関と連携して地域の中小・ベンチャー企業の支援や育成に当たる「創造経済革新センター」が9月より全国の市・道に設立されはじめた(2014年中には大邱・大田・全羅北道・慶尚北道の4カ所で開設)。

対外関係

南北関係

1月6日,朴大統領は年頭記者会見を開き,朝鮮半島の統一時代の基盤を構築するためには北朝鮮の核廃棄が不可欠であると強調する一方で,人道的支援の強化や民間交流の拡大についても触れ,離散家族再会事業を再び始めることが南北関係の進展につながると北朝鮮に呼び掛けた。これに対して,北朝鮮は1月16日に重大提案を発表し,南北双方が誹謗中傷と軍事的敵対行動をやめることを提案するとともに,2月末から開始される韓米合同軍事演習を中止することを求めた。また,1月24日に北朝鮮は韓国政府に公開書簡を送り,重大提案の内容を繰り返すと同時に,南北離散家族再会事業を進めることについても言及した。2月3日に北朝鮮の赤十字会が離散家族再会事業のための実務協議の開催を求める通知文を送ると,韓国政府は協議に応じることを決定した。2月5日に開かれた南北赤十字実務協議で,南北代表は離散家族再会事業を2月20~25日に行うことで合意し,3年4カ月ぶりとなる再会事業は予定どおり金剛山で開かれた。

朴大統領が呼び掛けた離散家族再会事業が早期に実現したことで,南北関係の進展に期待がもたれたが,北朝鮮が中止を求めていた韓米合同軍事演習「キーリゾルブ」「トクスリ」が2月24日から開始されると,朝鮮人民軍はそれに合わせてミサイル発射訓練や砲発射訓練を実施し,南北間の緊張は高まった。

朴大統領は3月28日,ドイツのドレスデンで演説を行い,南北の人道問題の優先的解決,南北の共同繁栄のための民生インフラの構築,南北住民間の同質性の回復を3つの柱とする朝鮮半島の平和統一に向けた自身の構想を北朝鮮に対して提案した。これに対して,北朝鮮は4月12日に「朴槿恵の『ドレスデン宣言』は民族反逆者の御託にすぎない」と批判する談話を出した。

また,3月下旬から4月上旬にかけて,正体不明の小型無人機が韓国の各地で発見されたことは大きな問題になった。無人機の1機が青瓦台の上空写真を撮影していたにもかかわらず,軍は無人機の存在を探知することができていなかった。朴大統領は4月7日の首席秘書官会議で,防空網と地上偵察体系の問題を指摘した。国防部は4月11日に発表した中間調査結果で,「無人機は北朝鮮によるものと確実視される」と発表し,5月8日に発表された最終調査結果でも同様の見解を発表した。北朝鮮は4月14日に「真相公開状」を発表し,国防部の調査結果を全面的に否認した。

南北間の緊張が続くなか,9月19日~10月4日にかけて仁川で開かれたアジア競技大会の閉幕式に北朝鮮の高官が電撃的に参加した。10月4日に来訪した北朝鮮の黄炳瑞人民軍総政治局長と崔龍海党秘書,金養健党統一戦線部長は,柳吉在統一部長官および金寛鎮国家安全保障室長と会談し,第2次南北高位級接触を行うこととそのための実務接触に入ることで合意した。これをきっかけとして南北関係は再び進展するかにみえたが,10月7日に黄海の北方境界線付近で南北の艦艇双方が警告射撃を行い,また10日には,脱北者団体が京畿道の軍事境界線付近で北朝鮮に向けて散布したビラに人民軍が銃撃を加え,韓国軍が対応射撃するという事態が起きた。10月15日,板門店で南北軍事当局者による会談が開かれ,北方境界線の越境に関する問題や北朝鮮に向けたビラ散布問題について協議したが,互いに合意することなく決裂した。10月末~11月初めにかけて予定されていた第2次高位級接触は,結局年内に開かれることはなかった。

対日関係

2013年12月26日に安倍首相が靖国神社を参拝したことで,朴大統領は歴史認識問題に関する原則的な立場をいっそう強めた。1月6日の年頭記者会見で対日関係について質問されたときには「日本政府が歴史認識に関する誠意ある姿勢をみせるように強調してきた」と述べ,安倍首相との首脳会談についても慎重な姿勢を示した。日韓の関係悪化を憂慮するオバマ米大統領が仲介役となり,3月25日にオランダのハーグで開かれた日韓米首脳会談で,安倍首相と朴大統領の初会談が実現したものの,この会談では歴史認識問題や集団的自衛権の行使容認問題についての議論は出ず,日韓米の3カ国が北朝鮮の核問題解決に向けて緊密な連携をとることが確認されるにとどまった。これ以降,日韓の局長協議や外相会談が数回にわたって開かれ,関係改善のための議論を続けていくことで双方が合意したが,年内に目立った成果はなかった。

首脳会談後も,歴史認識問題や竹島(韓国名・独島)問題をめぐって日韓関係が緊張する場面がみられた。6月20日に日本政府が「河野談話」作成過程の検証結果を公表すると,韓国外交部は駐韓日本大使を呼び出して厳重に抗議した。一方,6月11日に韓国海軍が竹島沖での海上射撃訓練の実施計画を通告した際には,日本側が中止を求めたが,韓国海軍は計画どおり訓練を実施した。また,8月15日にソウルで「光復節」の式典に出席した朴大統領は,演説で「慰安婦問題が解決すれば日韓関係が発展する」と述べ,日本側の具体的な対応を促した。

日韓関係の改善を阻む問題について双方の歩み寄りが進まないなかで,ソウル地検が10月8日,産経新聞社の加藤達也・前ソウル支局長を在宅起訴するという事件が起きた。これは韓国の市民団体が,8月3日に『産経新聞』のウェブサイトに掲載された加藤前支局長のコラムが朴大統領に対する名誉毀損であると告発したことに端を発している。コラムの内容は朴大統領の男女関係を示唆するもので,ソウル地検は加藤前支局長に対する数度の事情聴取を経たうえで,記事が名誉毀損に当たると判断して起訴に踏み切った。現職の大統領に関する報道をめぐって記者が起訴されるのは異例のことである。岸田外相は起訴当日に,「大変遺憾で憂慮している」とのコメントを出し,ソウル外信記者クラブも同日に「深刻な憂慮」を表明した。

このように,2014年の日韓関係は,現政権で初となる首脳会談を経ても目立った進展がなく,歴史認識問題に関する双方の立場の違いも埋まっていない。2015年は終戦70周年に当たるが,その年に安倍首相が発表する予定の歴史談話の内容によっては,関係のさらなる冷え込みも予想される。

対米関係

2014年の韓米関係は,同盟国として強固な安全保障上の連携を確認した1年だったといえる。恒例の韓米合同軍事演習「キーリゾルブ」と「トクスリ」が2月24日からはじまったが,これは1993年の「チーム・スピリット」以来の最大規模となる兵力が参加した上陸演習を含む大規模なものであった。

3月25日には日韓米首脳会談が開かれ,北朝鮮の核問題で緊密な連携をとることが確認された。アメリカの東アジア戦略にとって日韓はともに重要な同盟国であり,日韓米3カ国の協力関係を強化するためのアメリカ側の働きかけは続いた。オバマ米大統領は4月25日に青瓦台で朴大統領と会談したが,会談では朝鮮半島の非核化のために協力することを確認したほか,北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対処するために,日韓米3カ国で情報を共有する重要性についての認識でも一致した。

また,首脳会談では2015年12月に韓米連合司令部から韓国軍に移管されることになっていた戦時作戦統制権の移管時期を延期することでも合意した。10月23日に韓民求国防部長官とヘーゲル国防長官はワシントンで定例安保協議を開き,特定の年度を明記せず,安定的な戦時作戦統制権移管が可能な安保環境が整い,韓国軍の軍事能力が十分に強化されることを移管の条件とする了解覚書を締結した。

11月11日,APECに出席した朴大統領とオバマ米大統領は再び首脳会談を開き,北朝鮮の非核化のために協力していくことで一致した。朴大統領は安全保障についてアメリカと緊密に協力していく姿勢を堅持しているが,高高度ミサイル防御システム(THAAD)の配備をめぐって両国の見解の相違が露呈した場面もあった。9月30日,ロバート国防副長官が,「THAADの韓国配備を検討しており,韓国政府とも協議している」と,アメリカの外交問題評議会が主催する懇談会で発言した。これに対して,韓国国防部は10月2日に「THAAD配備についてアメリカから要請があったことも論議したこともない」とロバート副長官の発言を否定した。ジェフリー・フル国防総省広報担当官も同日,「韓国と公式協議をもったことはない」と述べた。国防部がロバート副長官の発言を否定した背景には,THAAD配備を懸念する中国への配慮があったとみられる。実際,中国の邱国洪駐韓大使が11月26日,THAADの韓国配備に明確に反対すると発言している。2015年以降もアメリカと安定した同盟関係を維持していくうえで,中国との関係が障害になる可能性はある。

対中関係

2014年の韓中関係は3回の首脳会談を重ね,両国間のFTA交渉も実質妥結するなど,友好関係が飛躍的に発展した1年となった。

3月23日,ハーグで朴大統領と会談した習近平国家主席は,中国の黒龍江省ハルビン駅に安重根記念館が開館したことについて,「記念館の建設は私が指示した。両国間にとって重要な結び付きになる」と述べた。これに対して朴大統領は,「安重根義士をまつる記念館が設置されたことは,韓中の友好協力関係の象徴になる」と述べ,歴史問題で両国が歩調を合わせていることを確認した。さらに,習国家主席は7月3~4日にかけて韓国を国賓待遇で訪問して朴大統領と会談し,韓中FTAの年内交渉妥結に向けた努力,ウォン―人民元の直接取引市場の開設,2015年からの海洋境界画定交渉の開始,朝鮮半島での核開発の反対,慰安婦問題の共同研究の推進,アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立についての協議などを骨子とする共同声明を発表した。

中国が主導するAIIBについては,政府は参加を検討したものの,10月24日に開かれたAIIB設立に向けた了解覚書の調印式には参加しなかった。中国の影響力の拡大を懸念するアメリカに配慮したとみられる。一方,韓中FTAの妥結に向けた交渉は急速に進んだ。11月10日,APECで会談を開いた朴大統領と習国家主席は,FTA交渉が実質的に妥結したと発表した。

FTA

FTAに関しては,年末にかけて進展がみられた。個別案件では,12月12日にオーストラリアとのFTAが発効されたほか,9月22日に正式署名されたカナダとのFTAは2015年1月1日に発効した。また,ニュージーランドとのFTAは11月15日に交渉が妥結し,ベトナムとのFTA交渉は12月10日に実質妥結した。オーストラリアやカナダ,ニュージーランドはいずれも環太平洋経済連携協定(TPP)の参加国であり,2013年11月にTPP参加に向けた協議入りを表明した韓国にとって,これらの動きはTPPへの参加方針を正式に決定した場合の布石とみられる。

一方,先述のように11月10日には韓中FTA交渉の実質的な妥結が宣言された。韓国側は貿易品目の92%(輸入額ベースで91%)を,中国側は91%(同85%)を20年以内に関税撤廃の対象としているが,とくに農水産物の自由化率は品目ベースで70%(同40%)と決して高くない水準の自由化である。韓国は中国が提案するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現に対しても積極的な支持を表明しており,アメリカ主導で交渉が進むTPPとの間で微妙な立場をとっている。

前年より交渉がスタートした日中韓FTAについては,年内に3回の交渉会合が開催されたが,より高い水準の自由化を目指す日本側と韓中との隔たりが大きく,東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉の遅れも含めてやや停滞感が漂いはじめている。日韓経済連携協定(EPA)は,両国関係の冷え込みもあって,依然として交渉再開には至っていない。

2015年の課題

2014年,セウォル号沈没事故への対応や鄭允会国政介入疑惑の発覚による批判の高まりを受けて,朴大統領の支持率は低下した。だが,最大野党の新政治民主連合も有権者の大きな支持は集めておらず,今後の政局の動向は不透明である。鄭允会国政介入疑惑や統合進歩党への政党解散命令をめぐる社会的な議論はいまだ収まっておらず,就任3年目を迎える朴政権にとって2015年は正念場となる。

韓国銀行や国内の研究機関などは2015年の経済成長率の見通しを3.5%前後としているが,国際経済環境の変化から輸出の伸びが楽観視できないなか,内需の回復を本格軌道に乗せられるかどうかが課題となる。民間消費や建設投資の回復には,不動産市場の活性化とあわせて,増え続ける家計負債の不良化を抑制していくことが重要となろう。また,規制緩和や金融・財政支援などによって企業の設備投資マインドを喚起させ,企業収益力をいかに高めていけるかもカギとなる。一方で,2014年7月より高齢者に対する基礎年金制度が導入されたことで福祉関連の財政支出圧力が強まっており,政府は「増税なき福祉」原則の下で福祉拡充志向と財政規律のバランスをいかに図っていくかが注目される。

外交においては,対米,対中関係は2015年も堅調に推移するとみられるが,アメリカは中国の影響力拡大を懸念しており,韓国は両国の間でバランスをとって関係を発展させていく必要がある。日本との関係が改善する兆しはみえないが,北朝鮮の金正恩第一書記は2015年の新年辞で,「環境が整えば南北首脳会談もできない理由はない」と述べ,朴大統領も1月12日に開いた記者会見で,「南北首脳会談を行うための前提条件はない」と述べた。今後の交渉次第では,南北間の高位級接触が再開する可能性もある。

(柳:地域研究センター)

(渡邉:地域研究センター)

重要日誌 韓国 2014年
  1月
1日 国会,2014年度予算案を可決。
6日 朴槿恵大統領,就任後初の記者会見を開き, 2 年目の国政運営構想を発表。
8日 検察,KB 国民カードら大手クレジットカード3 社の顧客個人情報の流出を発表。
8日 金融委員会,「中小企業信用保証制度改善方案」を発表。
10日 産業通商資源部,「改正外国人投資促進法」を公布。
14日 政府,閣僚会議で「第 2次エネルギー基本計画」を確定し,電力設備に原子力発電所が占める比重を現在の26.4%から 2035年までに29%まで高める方針を提示。
16日 東国製鋼,JFEスチールと包括的技術協力協定を締結。
19日 中国黒龍江省ハルビン駅に建立された安重根義士記念館が開館。
26日 サムスン電子,アメリカのグーグル社と広範囲な特許相互利用で合意。
28日 憲法裁判所,統合進歩党の政党解散審判第 1次弁論を開催。
  2月
3日 金融当局,顧客の個人情報流出を受けて,大手クレジットカード 3社に対して3カ月間の一部営業停止処分。
4日 雇用労働部,「働く女性のための生涯キャリア維持支援方案」を発表。
5日 南北赤十字実務接触協議,板門店で開催。離散家族再会事業の実施で合意。
12日 村山元首相,来訪。「日本が過去の歴史を反省するべき」と発言。
13日 在韓中国大使館領事部,ソウル市公務員の北朝鮮スパイ疑惑をめぐる裁判で,国家情報院を通じて検察側が証拠として提示した中国当局の出入国管理記録は偽造されたものと回答。
17日 安哲秀を中心とする新政治推進委員会,「新政治連合」創党発起人大会を開催。
17日 水原地方法院,内乱陰謀・扇動罪の容疑で起訴された李石基議員に懲役12年の判決。
20日 南北離散家族再会事業,実施(~25日)。
23日 韓国銀行,オーストラリアと50億豪㌦規模の通貨交換(スワップ)協定を締結。
24日 韓米合同軍事演習「キーリゾルブ」「トクスリ」,開始。
25日 企画財政部,「経済革新 3カ年計画」を発表。
27日 大法院,横領罪で SKグループの崔泰源会長に対して懲役4年の実刑判決を確定。
27日 金融委員会,「家計負債構造改善促進方案」を発表(4月3日,後続措置を推進)。
27日 アラブ首長国連邦のムハンマド・アブダビ首長国皇太子,来訪。朴大統領と会談。
  3月
6日 韓国銀行,インドネシアと10兆7000億㌆規模の通貨スワップ協定を締結。
10日 朴大統領,ソウル市公務員の北朝鮮スパイ疑惑事件での国家情報院の証拠偽造疑惑に対して遺憾を表明し,捜査を指示。
10日 大韓医師協会,政府の医療政策に反発して集団休診を実施。
11日 韓カナダ FTA,交渉妥結。
13日 東芝,NAND型フラッシュメモリの技術情報流出をめぐる問題でSKハイニックスを東京地裁に提訴。
14日 ポスコ,新会長兼最高経営責任者(CEO)に権五俊社長を選任。
23日 朴大統領,オランダ・ハーグで中国の習近平国家主席と首脳会談。
25日 日韓米首脳会談,ハーグで開催。
26日 民主党と新政治連合,統合して「新政治民主連合」を発足。
27日 現代自動車,中国重慶に年産30万台規模の新工場の建設を発表。
28日 朴大統領,ドイツ・ドレスデンでの演説で統一構想にふれ,対北3大提案を発表。
31日 アメリカ・バージニア州で,公立学校の教科書に「東海」と「日本海」の併記を義務づける法案が成立。
  4月
1日 公正取引委員会,資産総額 5兆㌆以上の相互出資制限企業集団に 5グループ追加し,63グループを指定。
6日 金融監督院,金融機関からの信用供与額が多い主債務系列に42グループを指定。
8日 韓オーストラリア FTA,正式署名。
12日 北朝鮮国防委員会,談話を発表し,朴大統領のドレスデン演説を批判。
15日 南在俊国家情報院長,ソウル市公務員の北朝鮮スパイ疑惑事件で,同院職員が証拠偽造で起訴された問題について謝罪。
16日 大型フェリー船「セウォル号」,珍島付近で沈没。死者・行方不明者304人。
25日 オバマ米大統領,来訪(~26日)。朴大統領との首脳会談後の記者会見で従軍慰安婦問題について「重大な人権侵害」と発言。
27日 鄭烘原国務総理,セウォル号沈没事故での政府対応の遅れの責任をとって辞意を表明。
  5月
2日 国会,「基礎年金法案」などを可決。
2日 ソウルの地下鉄 2号線上の往十里駅で,列車の衝突事故が発生。200人以上が負傷。
8日 国防部,3月末から4月にかけて発見された小型無人機が北朝鮮のものであるとする最終調査結果を発表。
9日 サムスン電子,中国西安の半導体新工場の稼動を発表。
9日 金時坤 KBS報道局長,セウォル号沈没事故に関する発言で職務辞任を表明した会見で,大統領府(青瓦台)からの報道介入を暴露し,吉桓永 KBS社長は退任すべきと主張。
11日 李健熙サムスン電子会長,急性心筋梗塞で手術入院。
17日 日中韓投資協定,発効。
19日 セウォル号沈没事故の真相究明と後続措置を議論するための臨時国会が開催。
19日 朴大統領,国民向け談話を発表し,セウォル号沈没事故の対応を謝罪。海洋警察庁を解体する法改正案を国会に提出すると表明。
20日 朴大統領,アラブ首長国連邦を訪問。西部ブラカ原発 1号機の原子炉設置式に出席。
26日 SNS大手のカカオ,検索サイト大手のダウムコミュニケーションとの経営統合を発表。
28日 安大熙・前最高裁判事,最高裁判事退職後の弁護士活動期間に高額収入を得ていたことが前官礼遇であるとの追及を受けて,鄭烘原国務総理の後任指名を辞退。
29日 KBS労組と全国言論労組 KBS本部,吉桓永社長の退陣を求めてストライキに突入。
  6月
1日 鄭義和国会議長,国会先進化法を改定する見解を示す。
4日 第6回全国統一地方選挙,実施。広域自治体首長では与野党の勢力が拮抗するが,基礎自治体では与党が圧勝。
5日 KBS理事会,吉桓永社長の解任推薦案を可決(吉社長は15日に職務解任)。
5日 サムスン電子,アメリカの書店大手バーンズ・アンド・ノーブル(B&N)社とタブレットの共同開発で提携。
11日 次期国務総理候補に指名された文昌克・前中央日報主筆,過去に「日本の植民地支配は神の意思」と発言していたことが発覚。
20日 韓国海軍,日本政府の抗議を無視し,竹島沖で海上射撃訓練を実施。
21日 江原道の陸軍第22師団に所属する兵士が銃を乱射。12人の死傷者が出る。
23日 外交部,日本政府が「河野談話」作成過程の検証結果を公表したことに対して厳重抗議。
24日 文昌克・次期国務総理候補,過去の発言に対する批判を受けて指名を辞退。
26日 政府,鄭烘原国務総理の留任を発表。
  7月
3日 習近平中国国家主席,来訪(~4日)。朴大統領と首脳会談。
3日 企画財政部,「新経済チーム経済政策方向」を発表。
10日 国内最高層ビル「北東アジア貿易センター」(NEATT)が完工。
11日 米商務省,韓国製の油井用鋼管に最大15.75%の反ダンピング関税措置を発表。
17日 ポスコ,光陽製鉄所第 4熱延工場での商業生産を開始。
18日 政府,2015年からコメ輸入の関税化を発表( 9月18日,関税率513%に決定)。
25日 国立科学捜査研究院,6月12日に発見された変死体がセウォル号を運航する清海鎮海運オーナーの兪炳彦であると発表。
30日 国会議員再・補欠選挙,全国15選挙区で実施。与党のセヌリ党が圧勝。
31日 新政治民主連合共同代表の安哲秀と金ハンギル,再・補欠選挙敗北の責任をとって代表辞任。
  8月
4日 韓民求国防部長官,陸軍第28師団所属の一等兵が集団暴行を受けて死亡した事件に対して国会で謝罪。
4日 雇用労働部,来年度の最低賃金を発表(時給5580㌆)。
6日 サムスン電子,アメリカのアップル社との特許訴訟をアメリカ以外の地域では取り下げることで合意。
6日 政府,企業の社内留保金に対する課税などを骨子とした税法改正案を発表。
9日 尹炳世外交部長官,ミャンマーで開かれた ASEAN関連外相会議で岸田外相と日韓外相会談。
11日 ソウル高等法院,内乱陰謀・扇動罪の容疑で起訴された李石基議員の控訴審で,内乱陰謀容疑について無罪を宣告。
12日 パンテック,資金繰り悪化でソウル中央地裁に法定管理申請。
12日 現代自動車,同社 SUV車「サンタフェ」の燃費表示の訂正を発表。
12日 企画財政部,「有望サービス産業育成中心の投資活性化対策」を発表。
14日 韓国銀行,基準金利を2.50%から2.25%に引き下げ。
16日 サムスン電子,アメリカの IT企業スマートシングス社の買収を発表。
22日 現代自動車労組,時限ストライキに突入(以後,断続的に実施)。
28日 起亜自動車,メキシコに年産30万台規模の新工場の建設を発表。
28日 金融庁,韓国最大手の国民銀行在日支店に対して4カ月間の一部業務停止命令。
  9月
1日 国土交通部など,「規制合理化を通じた住宅市場活力回復及び庶民住居安定強化方案」を発表。
3日 金融労組,全体ストライキに突入。
4日 ロッテグループ,ロッテ免税店の日本1号店を関西国際空港に開店。
18日 現代自動車グループ,韓国電力公社の本社敷地を鑑定価格の3倍以上となる10兆5500億㌆で落札。
22日 韓カナダ FTA,正式署名。
24日 朴大統領,国連総会で演説。
25日 日韓外相会談,国連総会に合わせてニューヨークで開催。
30日 ロバート米国防副長官,「THAADの韓国配備を検討しており,韓国政府とも協議している」と発言。
  10月
2日 国防部,「THAAD配備についてアメリカから要請も論議もない」とロバート米国防副長官の発言を否定。
4日 仁川アジア競技大会の閉幕式に北朝鮮代表団が参加。
6日 サムスン電子,京畿道平沢市に半導体新工場の建設を発表(投資額15.6兆㌆)。
8日 ソウル中央地方検察庁,朴大統領に対する名誉毀損で産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長を起訴。
11日 韓国銀行,中国との通貨スワップ協定(64兆㌆規模)の3年間延長で文書調印。
14日 フランシスコ・ローマ法王,来訪(~18日)。セウォル号沈没事故の遺族や慰安婦被害女性らと接見。
15日 南北軍事実務会談,板門店で開催。
15日 韓国銀行,基準金利を2.25%から 2.00%に引き下げ。
16日 現代重工業グループ,造船 3社の役員81人の一斉退任を実施。
23日 韓民求国防部長官とヘーゲル米国防長官,戦時作戦統制権の移管時期の延期を盛り込んだ了解覚書を締結。
  11月
7日 国会,「セウォル号特別法案」などを可決。
10日 韓中首脳会談,APECに合わせて北京で開催。韓中 FTA交渉の実質妥結を発表。
11日 韓米首脳会談,APECに合わせて北京で開催。
11日 政府,セウォル号沈没事故による残りの行方不明者 9人の捜索活動打ち切りを決定。
12日 朴大統領,ミャンマーで開かれたASEAN関連首脳会議に出席。モディ・インド首相と会談。
15日 朴大統領,オーストラリア・ブリスベンで開かれた主要 20カ国・地域(G20)会議に出席。
15日 韓ニュージーランド FTA,交渉妥結。
16日 公正取引委員会,ベアリングの価格決定をめぐる談合で日独韓の企業に対して合計778億㌆の課徴金納付命令。
26日 サムスングループ,系列4社のハンファグループへの売却を発表(売却額 1.9兆㌆)。
28日 青瓦台の総務秘書官ら 8人,『世界日報』が報じた朴大統領の元秘書である鄭允会による国政介入疑惑を事実無根として,同紙社長ら 6人を名誉毀損容疑で告訴。
  12月
1日 ウォン・人民元の直接取引,外国為替市場で開始。
2日 国会,2015年度予算案を可決。
10日 韓ベトナム FTA交渉,実質妥結。
11日 ソウル警察庁,北朝鮮訪問記を執筆して韓国でトークショーを開催していた韓国系アメリカ人シン・ウンミ氏の出国停止措置を法務部に要請。
12日 韓オーストラリア FTA,発効。
16日 新政治民主連合の朴智元国会議員,北朝鮮を訪問。
16日 ポスコ,中国重慶に自動車用鋼板工場の増設を発表。
18日 サムスングループの第一毛織,韓国取引所に新規上場。
19日 憲法裁判所,統合進歩党の解散と所属議員の議員職喪失を決定。
19日 東芝,半導体の技術情報流出をめぐるSKハイニックスとの訴訟で和解が成立。
21日 憲法裁判機構「ベニス委員会」,統合進歩党の解散を命じた憲法裁判所の判決文の全文送付を要請。
30日 現代自動車,中国河北省滄州に年産30万台規模の新工場の建設を発表。
30日 検察,大韓航空の趙顕娥副社長が離陸前の同社旅客機を引き返させた事件(ナッツリターン, 5日)で趙副社長らを逮捕。

参考資料 韓国 2014年
①  国家機構図(2014年12月31日現在)

(出所) 大統領府ウェブサイト(http://www.president.go.kr)などから筆者作成。

②  国家要人名簿(2014年12月31日現在)

主要統計 韓国 2014年
1  基礎統計
2  支出項目別国内総生産(実質:2010年固定価格)
3  産業別国内総生産(実質:2010年固定価格)
4  国(地域)別貿易
5  国際収支
6  国家財政
 
© 2015 Institute of Developing Economies JETRO
feedback
Top