Yearbook of Asian Affairs
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2016 Volume 2016 Pages 21-36

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概況

2015年ロシアでは,対外強硬策への国民の支持もあって,プーチン大統領の支持率は高止まりしている。一方,ロシア経済は,原油価格下落の影響を受けて実質GDP成長率がマイナスになり,消費者物価上昇率は2桁台のスタグフレーションに陥った。経済面での苦境下で汚職高官の摘発が進められ,公務員給与の引き下げがなされた。

また,西側諸国による対ロシア制裁を受けて,プーチン政権はアジア太平洋シフトを強めた。極東振興策では,新型特区(先行社会経済発展区域)の選定やウラジオストック自由港法の成立などが相次いで進められ,東方経済フォーラムの実施も相まって,プーチン政権による極東重視の政策が具体的に展開された。日本との関係では,岸田外相のロシア来訪,安倍首相とプーチン大統領との数次にわたる会談など,関係の改善が進められた。中国との関係では,習近平国家主席の来訪とプーチン大統領の中国訪問が行われて二国間関係が緊密化するとともに,アジアインフラ投資銀行(AIIB)へのロシアの参加が決まるなど,多国間の枠組みでの協力の強化もみられる。

内政の動向

内政全般の動向をみると,2014年3月のクリミア編入以降,プーチン大統領の支持率は,複数の世論調査機関による調査でおおむね80%台の高水準を維持している(図1)。2015年2月27日に起きたネムツォフ元副首相(反政府派の有力政治家)暗殺事件を経ても,大統領の高支持率は維持されている。また,9月以降のシリアへの軍事介入にみられる対外強硬策も,大統領の高支持率の要因となっている。

図1  プーチン大統領の支持率

(出所) レヴァダ・センターによる調査より筆者作成。

大統領への高支持率を背景に,与党に対する支持も底堅い。9月13日に実施された統一地方選挙の第1回投票では,知事・首長の当落をみると,イルクーツク州を除いて与党「統一ロシア」が勝利している。9月27日の決選投票でイルクーツク州知事に野党の共産党候補が現職を破って当選しており,与党の完勝とはならなかった。

一方で,地方政府高官の汚職に対する取り締まりが強化されている。3月3日には,ホロシャヴィン・サハリン州知事が収賄容疑で逮捕された。汚職容疑による地方政府高官の検挙はサハリンだけにとどまらず,9月27日には中西部に位置するコミ共和国のガイゼル首長が詐欺などの容疑で逮捕されている。これらの動きの背景には,地方政府高官の不正を摘発することで,景気後退への国民の潜在的な不満が政権批判に向かわないようにする大統領の意図が見え隠れする。なお,プーチン大統領の長年の友人であるヤクーニン・ロシア鉄道社長が8月20日に社長職から解任されたが,この人事が汚職をめぐるものであるかどうかは現時点で不明である。

経済の概況

ロシア経済における最大の変動要因は国際的な原油価格の動向である。2014年後半に急落した原油価格は,2015年も引き続き低水準で推移した。北海ブレントの1バレル当たり価格の動向をみると,年初には55.4ドルであったが,年末には36.6ドルまでおよそ3割も値下がりした。この原油価格下落の影響を大きく受け,さらに西側による経済制裁もあって,2014年にはかろうじてプラス成長(0.7%)であったロシア経済は,2015年第1四半期以降にマイナス成長へと陥り,通年の実質GDP成長率は-3.7%となった。一方,インフレが進み,消費者物価上昇率は2015年末の前年同期比で12.9%となった。とくに食料品価格の上昇率は14.0%であり,住民の生活への影響が大きくなっている。ロシア経済はマイナス成長とインフレがあわせて進行するスタグフレーション状態に陥った。なお為替の動向は,年初で1ドル=56.24ルーブルであったが,年末までに1ドル=72.88ルーブルまで減価している。

景気の後退をうけて,一部の外資系企業がロシアから撤退を表明している。たとえばゼネラルモーターズ(GM)は,販売の不調を背景として3月18日にロシアでの現地生産の中止を発表した。トヨタも,極東のウラジオストックで行っていたSUVの組み立ての中止を8月18日に表明している。

原油価格下落による歳入不足によって,公務員の給与削減が打ち出されている。具体的には,大統領,首相をはじめとする政府高官の給与を3月1日から12月31日までの期間において10%削減する大統領令が2月27日に発令されたほか,大統領府,首相府,会計検査院の職員の給与を5月1日から12月31日までの期間において10%削減する大統領令が3月5日付で発令された。10月8日に閣議決定された2016年予算法案では,約2兆ルーブルの財政赤字が見込まれている。ちなみに2015年までは3年間の予算が組まれていたが,原油価格変動の可能性をふまえて,2016年は単年で予算が組まれることになった。

一方,極東の経済をみると,鉱工業生産指数は年初と年末を除いておおむね連邦全体を上回った(図2)。その要因として,サハリン州での石油・ガス産業による生産が順調であったことが挙げられる。ただし,極東でもインフレは進行しており,年末の消費者物価上昇率は前年同期比で12.0%であった。

図2  鉱工業生産の動向

(出所) 国家統計庁のデータより筆者作成。

極東の開発をめぐる動き

2015年には複数の極東振興策が具体化していった。すなわち,ウラジオストック自由港の法制化,新型特区(先行社会経済発展区域)での進出企業の認定作業の進展,極東での住民への土地無償供与に関する法案の下院への提出,国策会社である極東発展基金による融資の決定である。

ウラジオストック自由港法は,6月4日に国家院(下院)へ提出,7月3日に可決,同月8日に連邦院(上院)で承認,同月13日に大統領による署名を経て10月12日に発効した。この法律により,ウラジオストックやその周辺地域において税制面での優遇措置や通関の迅速化,規制緩和,査証取得手続きの簡素化などが実施される。

ウラジオストック以外に自由港を設定する可能性について,9月4日にプーチン大統領は東方経済フォーラムで行った演説において,自由港の制度を極東の主要な港に拡大することを検討するよう政府に提案した。10月にはトルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表が,カムチャツカ地方,ハバロフスク地方,サハリン州,チュコト自治管区が自由港の候補となっていると述べている。

新型特区は,6月25日付の政府決定でハバロフスクなど3カ所が最初に選定され,8月21日付の政府決定で5カ所,28日付の政府決定でカムチャツカが選定された。進出企業の認定作業も進み,2015年末までに認定された進出企業は21社となり,そこには日本の日揮の現地子会社も含まれる。同社はハバロフスクにおいて野菜の温室栽培事業にとりかかっている。また新型特区での労働力確保に向けて,9月2日付で極東人材開発機構を設立する政府令が出されており,また新型特区への投資誘致に向けて,同日付で極東投資誘致・輸出支援機構を設立する政府令が出されている。

極東連邦管区における住民への土地の無償供与に関する法案は,11月12日に閣議で承認され,下院に提出されたが,審議は越年した。同法案は,極東における人口減少への対策として,極東の住民や極東に移住を希望する者に農業などの目的で利用する土地1ヘクタールを分配し,5年間の活動実績があれば無料で譲渡するというものである。なお,同法案は実効支配下の北方領土にも適用される見込みである。

極東発展基金の融資に関しては,8月に3件の事業が認定された。そのなかには,ユダヤ自治州ニジュネレニンスコエと中国黒竜江省同江との間のアムール川を横断する鉄道橋の建設プロジェクトが含まれる。なお同基金については,プーチン大統領が9月4日の演説で増資を検討していることが言及された。

対日関係

ロシアによるクリミア編入以降,アメリカ政府高官によるロシア訪問が控えられていたことの影響により,日ロ関係も停滞していたが,2015年に入ると,外務次官級協議が2月12日にモスクワで再開されるなど,関係の進展がみられた。同協議では,プーチン大統領の年内の日本訪問に向けて,まずは岸田文雄外相によるロシア訪問の準備を進める点で一致した。同月28日には,ノヴァク・エネルギー相が,サハリン産の電力を日本に輸出するための政府間協定を締結すべきとの提案(ホロシャヴィン・サハリン州知事によるもの)を支持する発言をしている。

5月12日にアメリカのケリー国務長官がロシアを訪問したことで,5月下旬から7月上旬にかけて,日ロ関係でいくつかの動きがみられた。5月21日には,第4回日本・ロシアフォーラムに出席するために,ナルイシュキン下院議長が日本を訪問した。そして,6月18~20日に開催されたペテルブルク国際経済フォーラムの場でプーチン大統領は安倍首相との会談への意欲を表明した。同フォーラムでは日ロラウンドテーブルが設けられ,石黒憲彦経済産業審議官,ガルシュカ極東発展相らが参加した。同月24日には安倍首相とプーチン大統領の電話会談が行われるに至り,プーチン大統領訪日をめぐる協議を継続する点で一致するなど,進展がみられた。岸田外相のロシア訪問に関しても,7月2日には林肇外務省欧州局長,6日には谷内正太郎国家安全保障局長がそれぞれロシアを訪問して準備を進めた。

9月3~5日にウラジオストックで開催された第1回東方経済フォーラムでは,約30カ国から1500人以上の外国人が参加し,日本からは,松嶋浩道農水省審議官,原田親仁駐ロ大使,前田匡史国際協力銀行専務,重久吉弘日揮グループ代表,堰八義博北海道銀行会長ら官民あわせて約120人が参加している。

9月下旬以降,日ロ関係は急速な進展をみせた。同月20~22日に岸田外相のロシア訪問が実現し,ラヴロフ外相との間で平和条約締結に向けた外務次官級協議を10月8日に開催する点で合意するとともに,貿易経済に関する日ロ政府間委員会第11回会合をシュワロフ第一副首相とともに主催した。10月下旬にはパトルシェフ安全保障会議書記が日本を往訪して,24日に谷内国家安全保障局長と会談している。さらに同月末には,ニューヨークでの国連総会の機会に安倍首相とプーチン大統領が短時間ではあるものの会談し,プーチン大統領の訪日,ウクライナ情勢,シリア情勢などを話し合った。

これと並行して10月4日にはドボルコヴィッチ副首相が日本を往訪し,安倍首相と会談するとともに,翌5日にはロシア経済近代化に関する日ロ経済諮問会議の第5回会合を原田駐ロ大使とともに主催し,省エネ,医療,農業,インフラなどを協議した。8日にはモスクワで平和条約締結問題をめぐる外務次官級協議が杉山晋輔外務審議官とモルグロフ外務次官との間で行われている。

安倍首相とプーチン大統領は,11月15日にトルコのアンタルヤで開催されたG20首脳会議の機会に会談した。そこではプーチンの年内の訪日が先送りされることが確定したものの,ロシアの地方都市に安倍首相が非公式に訪問する案が話し合われた。

首脳や政府高官レベルでの関係は2015年におおむね好転したものの,日ロ間に懸案が存在しないわけではない。6月29日にロシアの排他的経済水域でのサケ・マスの流し網漁を禁止する法律にプーチン大統領が署名し,2016年1月に発効することとなったが,この措置は根室を拠点にロシアの水域でサケ・マス漁を行っている漁師に大きな打撃をもたらすことになる。7月17日には,北海道の漁船がロシアの排他的経済水域で漁獲枠を超えた操業を行ったとして歯舞諸島付近で拿捕され,ロシア側の裁判で罰金刑を科されるという事案も生じている。また,ユネスコ世界記憶遺産に登録されたシベリア抑留について,ロシア外務省は10月22日に,旧ソ連・ロシアとの合意文書を日本が「乱暴に歪曲している」と批判している。

また,北方領土をめぐっては,実効支配を続けるロシア側の強気の姿勢に変化はみられない。6月5日には,トルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表が新型特区を北方領土に創設する可能性に言及している。また,7月から9月にかけて,閣僚による北方領土への訪問が相次いだ。7月18日にスクヴォルツォワ保健相が色丹島を訪問した。8月13日にはトルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表およびコジャミャコ・サハリン州知事代行が択捉島を訪問し,全ロシア青年教育フォーラムに出席している。22日にはメドベージェフ首相が択捉島を訪問し,水産加工工場などを視察したほか,全ロシア青年教育フォーラムに出席している。この訪問に対して岸田外相が駐日ロシア大使に抗議したところ,ロゴジン副首相が,ハラキリして静かにせよという趣旨の日本側を揶揄するソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)への投稿を行った。9月1日にはトカチョフ農相が択捉島を訪問し,2日にはモルグロフ外務次官が「クリル問題は70年前に解決済み」と発言している。さらに7日にはソコロフ運輸相が国後島と択捉島を訪問している。

閣僚による北方領土訪問ラッシュともいうべき一連の動きの背景には,首脳や政府高官の対話を通じて日本との関係強化は図るものの,北方領土に関しては実効支配を誇示し,平和条約の締結交渉を有利に進めようとする意図が見受けられる。

エネルギー資源関連では,6月26日にガスプロム社のミレル社長がウラジオストックでの液化天然ガス(LNG)ターミナル建設計画の無期限延期を表明するということがあった。しかし,これは,ガスプロム社の財政上の都合によるもののようであり,パイプラインを通じた中国向けの輸出が優先されるようになったものとみられる。この一方で,三井物産と三菱商事も出資するサハリン2において,オペレーターであるガスプロム社と主要株主であるロイヤルダッチシェル社が, LNGの生産能力を2019年に現在の1.5倍である年産1500万トンまで拡大する基本設計に,12月17日に合意している。

中国との関係

2015年を通じてロシアと中国との関係は首脳,閣僚の往来によって二国間のみならず,BRICS,上海協力機構(SCO),AIIBといった多国間の枠組みにおいても強化され,エネルギー資源や軍事面の協力でも進展があった。

2月2日にラヴロフ外相が中国を訪問し,習近平国家主席と会談したほか,ロ印中3カ国の外相会談が実施されており,BRICS諸国のなかでもロシア,インド,中国の関係強化がみられた。

5月9日にモスクワで行われた対ドイツ戦勝70周年記念式典には,習近平国家主席が出席した。席次はプーチン大統領の隣であり,ロシアによる中国重視の姿勢が明示された。なお中国は同式典に人民解放軍の儀仗隊を初めて参加させている。式典前日の8日に行われたロ中首脳会談では,「シベリアの力」パイプライン西ルートの建設を進める点で一致した。また,モスクワとカザンを結ぶ全長約770キロメートルの高速鉄道の建設をロシアと中国のコンソーシアムが推進するプロジェクトなど,総額250億ドル規模の合意がなされた。さらに,中国の「一帯一路」構想に沿う形で,ロシアと中国が中央アジアでインフラ整備の面で協調する点において一致した。

中国が主導するAIIBに創立メンバーとして参加する期限は3月末に設定されていたが,ロシアのシュヴァロフ第一副首相は中国の海南省で開催されたボアオ・アジア・フォーラム年次総会に出席した際,3月28日にAIIBへの参加を表明し,同月30日に正式な形で参加を発表した(協定の批准は12月28日)。

6月29日には,AIIBの設立協定書に,参加57カ国のうち国内の承認手続きを経た50カ国(ロシアを含む)が署名した。同銀行の出資金額は,中国297億8000万ドル,インド83億7000万ドル,ロシア65億4000万ドルであり,ロシアは第3位となっている。なお同日に「シベリアの力」パイプライン東ルートの国境部分の起工式が行われている。

7月8~9日にロシア中部のウファで第7回BRICS首脳会議ならびに上海協力機構(SCO)首脳会議が開催され,プーチン大統領は習近平国家主席ら各国首脳と会談した。

9月1日にはショイグ国防相が中国を訪問し,2日には北京で開催された対日戦勝70周年記念式典にプーチン大統領が出席した。同大統領は翌3日に習近平国家主席と会談し,エネルギー関連を中心に約30の合意文書に調印した。合意文書には,ヤマルLNGプロジェクトの権益9.9%をシルクロード基金がオペレーターであるノバテック(Novatek)社から購入する枠組み合意も含まれる。これにより同プロジェクトの権益の比率は,ノバテック社50.1%,フランスのトタル(Total)社20%,中国石油天然気集団(CNPC)20%,シルクロード基金9.9%となる。

9月3~5日にウラジオストックで開催された第1回東方経済フォーラムには,中国から汪洋副首相をはじめとする複数の閣僚を含めて約270人が参加し,同フォーラムを重視する中国側の姿勢が示された。同フォーラム期間中には,ロシア極東・中国東北部地域間協力評議会の第1回会合が開催されている。なお,極東での中国の経済面の動きとしては,中国と約1000キロメートルの国境を接しているザバイカル地方政府が中国企業に対して農地11万5000ヘクタールを49年間にわたり賃貸する議定書が6月16日に調印されている。

11月中旬にはドボルコヴィッチ副首相が中国を訪問した。16日に北京でロ中エネルギー協力委員会第12回会合が開催され,「シルクロード経済ベルト」とユーラシア経済同盟の連携を基にエネルギー協力の発展を目指す点で一致がみられた。

12月14日,メドベージェフ首相が中国を公式訪問して習近平国家主席と会談し,SCOやAIIBの枠組みで中国との関係強化を望んでいると表明した。また同首相は李克強首相との間で第20回ロ中定例首相会談を実施し,ヤマルLNGプロジェクトの権益9.9%をシルクロード基金が購入する契約の調印に立ち会った。

また,国際エネルギー機関(IEA)によれば,2015年末時点でロシア産原油の最大の輸出先がドイツから中国に変わったが,これはロシアと中国との経済面での関係が緊密化しているなかでの象徴的な事象と評価できる。

安全保障面での動きをみると,5月11~21日にロシアと中国の海軍による合同演習「海上連合2015」の第1段階が地中海で行われた。2012年に開始された同演習はこれまで黄海,日本海,東シナ海で実施されてきたが,今回初めてヨーロッパ地域で行われており,ヨーロッパや中東における両国の軍事的プレゼンスを強める動きとみることができる。なお25日には,ロ中戦略安全保障協議の第11回会合がモスクワで開催されている。また,同演習の第2段階は8月21~28日に日本海において実施され,海上での演習に加えてウラジオストック近郊での合同上陸訓練も行われた。

また,11月19日付の『コメルサント』紙によれば,「Su-35」戦闘機24機を中国に輸出する契約が調印されたことを,国営持株企業であるロステク社のチェメゾフ社長が明らかにした。

北朝鮮・韓国との関係

2015年には北朝鮮との閣僚級の往来が活発化し,多方面で関係が緊密になった。

2月23日から3月1日にかけて,北朝鮮の李龍南対外経済相率いる政府経済代表団が来訪し,モスクワでロシア・北朝鮮ビジネス評議会の初回会合に参加した。同会合のロシア側からの参加者は,ガルシュカ極東発展相,ロシア鉄道,ルスギドロ社などである。同会合では,南陽=羅津間の鉄道の改修や羅先経済貿易地帯への電力供給などが協議された。李龍南対外経済相はモスクワ以外にも,ウラジオストック,ハバロフスク,カルーガ,リペツク,カザンを訪問した。またロシア外務省は,3月11日,2015年をロ朝相互友好年とし,共同文化行事などを実施することを発表した。13日には,北朝鮮の李洙勇外相が来訪し,ラヴロフ外相と会談した。4月14日にはロ朝相互友好年の開幕祝賀式典がモスクワで開催され,ロシア側からはトルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表,ガルシュカ極東発展相ら,北朝鮮側からは盧斗哲副首相らが出席した。

4月22~27日にガルシュカ極東発展相が韓国と北朝鮮を訪問した。韓国訪問では,柳一鎬国土交通相,柳吉在統一相らと会談し,ロシア,韓国,北朝鮮の3カ国合同のプロジェクトなどについて協議した。また北朝鮮訪問では,李龍南対外経済相とともに貿易経済・科学技術協力に関する政府間委員会第7回会合に出席したほか,盧斗哲副首相,金万守電力工業相とも会談している。

ロ朝相互友好年の関連行事で要人の往来が活発になったことから,金正恩第一書記が5月9日にモスクワで開催される対ドイツ戦勝70周年記念式典に出席する可能性も一部で取り沙汰されたが,結果的には出席はなかった。

9月3~5日にウラジオストックで開催された東方経済フォーラムに北朝鮮の李龍南対外経済相が参加し,ガルシュカ極東発展相,モルグロフ外務次官と会談した。10月12日にはガルシュカ極東発展相が北朝鮮を訪問し,盧斗哲副首相,李龍南対外経済相と会談したほか,ロ朝相互友好年の閉幕行事に参加した。なお同時期に,クリモフ上院国際問題委員会副委員長を団長とする統一ロシア党代表団が北朝鮮を訪問している。

11月9日にはロシア軍総参謀部の代表団が北朝鮮を訪問し,朴英植人民武力相,呉琴鉄副総参謀長らと会談した。同月17日にはコノヴァロフ法相が北朝鮮を訪問し,ロ朝間で刑事共助条約および犯罪者引き渡し条約を調印した。

インドとの関係

2015年を通じ,ロシアとインドとの関係は強化され,またインドがSCOに加盟する見込みとなったことにより,多国間の枠組みでも関係の強化が図られつつあるといえる。

1月21日,ショイグ国防相がインドを訪問し,モディ首相,パリカル国防相と会見した。またロ印合弁の軍事企業ブラモス・アエロスペース社を視察している。2月2日には,ラヴロフ外相の中国訪問時にロ印中3カ国外相会談が実施されている。同月下旬には,インド企業4社に対して水牛の食肉のロシアへの輸入が許可された。

7月8~9日にはロシア中部のウファで第7回BRICSならびにSCOの首脳会議が開催され,モディ首相も参加した。ここではインドとパキスタンのSCOへの正式加盟手続きの開始が決定し,2016年に正式加盟する見通しとなっている。加盟が実現すれば,ロシア,中国に加えてインドも,BRICSとSCOの2つの枠組みに共通して加盟する国家となる。9月4日には,プーチン大統領が東方経済フォーラムでの演説において,関税同盟であるユーラシア経済同盟とインドとの間で自由貿易協定が結ばれる可能性について言及した。

12月23日には,モディ首相がロシアを来訪し,24日にプーチン大統領と会談した。両者は戦略的パートナーシップ関係やビジネス関係の強化を図る点や,軍事や原子力における両国の協力を強化する点で一致した。また両首脳立会いのもとで,原子力発電,鉄道,石油産業などに関わる10件の文書の調印がなされた。

安全保障面での動きでは,12月7~12日にロシアとインドの海軍合同演習「インドラ2015」がベンガル湾を中心に実施されている。一方,12月のモディ首相来訪の際,最新鋭の防空ミサイルシステム「S-400」をインドに売却することで合意する見通しとの報道が事前になされたが,合意には至らなかった模様である。

その他アジア諸国との関係

2015年にはメドベージェフ首相による東南アジア諸国への訪問が複数回行われた。

4月5日,メドベージェフ首相はベトナムを訪問して6日にグエン・タン・ズン首相と会談し,ユーラシア経済同盟とベトナムとの間の自由貿易協定などについて協議した。同協定は5月29日に調印された。また,ベトナムが2009年に6隻発注したロシア製の潜水艦(636.1型)のうち,3隻目が1月28日に,4隻目は6月30日に,それぞれカムラン湾に到着してベトナム側に引き渡された。

メドベージェフ首相はベトナム訪問に引き続き7日にタイを訪問して,プラユット首相と会談した。8日には,エネルギー,観光などの分野の二国間文書の調印に立ち会った。

11月18日,マニラで開催されたAPEC首脳会議には,プーチン大統領ではなくメドベージェフ首相が出席した。メドベージェフ首相は,環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉が開かれたものではなかったと批判したうえで,ユーラシア経済同盟とベトナムとの間に結ばれた自由貿易協定を引き合いに出し,日本などとの間に同様の協定が結ばれることに関する期待を表明した。21日にメドベージェフ首相は,東アジアサミット(EAS)第10回会合に参加するためにマレーシアを訪問し,23日~24日にカンボジアも訪問している。

これらのメドベージェフ首相による東南アジア訪問は,プーチン大統領による極東振興への積極的姿勢や中国訪問とともに,ロシアにおけるアジア重視の対外政策を示すものである。メドベージェフ首相は,西側による制裁や世界秩序の変化に対してロシアは東方(アジア太平洋)での協力を発展させる必要があると,9月24日付『ロシア新聞』に掲載された論文のなかで述べている。

2016年の課題

プーチン政権は,スタグフレーションによって高まりかねない国民の潜在的な不満を,対外強硬策によるナショナリズム発揚や汚職官僚の摘発などのポピュリズム的施策によってそらしてきたといえる。しかし,どこまで高支持率を維持することができるのかという点は注目される。2011年に行われた下院選挙の際には,不正選挙疑惑を引き金に10万人規模の反政府集会が首都モスクワで行われるなど広範な市民が反プーチンの意志を行動で示した。2016年9月にも下院選挙が予定されているが,その際には硬軟おりまぜた周到な策によって政権側が反政府の動きを抑えにかかり,高支持率は続く見込みである。一方,反政府側の力は野党の得票率や棄権率に反映されることになるとみられる。

日本との関係では,5月26~27日に伊勢・志摩で開催されるG7首脳会議において,ウクライナやシリアに関する問題が主要な議題として協議されることが予想される。これらはロシアが密接に関わる問題であり,議長国である日本がロシアの主張をどのように扱うのかが注目される。また,安倍首相によるロシアの地方都市への非公式な訪問の際,プーチン大統領との会談で平和条約締結の問題でどこまで進展がみられるのかという点が,今後の日ロ関係を大きく左右することになる。

中国との関係では,「一帯一路」政策が本格化して中央アジア諸国に対する中国の影響力が強まることが見込まれるなかで,ロシアの同地域へのプレゼンスがどのように変化していくのか,目を配る必要があろう。エネルギー資源の面では,「シベリアの力」パイプラインの西ルートをめぐる協議がどこまで進展するのか,注目される。ロシアでは,西側による経済制裁もあって外国からの資金調達が難しくなっているが,そのなかでヤマルLNGプロジェクトやモスクワ=カザン間の高速鉄道といった案件で中国による投資が目立っており,民間企業や国有企業の資金調達先として,中国がプレゼンスを拡大していくことが見込まれる。

経済面では,スタグフレーション状態を脱却できるかどうかが焦点となる。国際金融機関によるロシアの実質GDP成長率の予測をみると(2016年1月時点),世界銀行は,2016年は-0.7%,2017年はプラスに転じて1.3%としており,またIMFの予測(2016年1月)は,2016年は-1.0%,2017年はプラスに転じて1.0%としている。両者ともに2016年のマイナス成長を経て2017年にはプラス成長になると予測している。プラス成長への転換には,西側による経済制裁および通貨安に対して国内で輸入代替のための生産活動がどの程度活発化するのかにかかっている。

一方で,財政赤字が続くなかで,シリアへの軍事介入に伴う経費が財政に与える影響にも目を配る必要がある。また,外貨準備の名目額は2015年末で3684億ドルあるが,そのうち少なからぬ資産内容の劣化が生じているとの見方もある。財政赤字と向き合いながらアジア太平洋へのシフトを志向するプーチン政権が,2015年に新たな制度が出揃った極東振興策によってどこまで外国企業の投資を誘致できるのかが注目される。

(埼玉学園大学准教授)

重要日誌 ロシアのアジア政策 2015年
  1月
16日 ホロシャヴィン・サハリン州知事,択捉島を訪問。2014年に開港した新空港を視察。
19日 トルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表,極東の住民への土地の無料分配を提案。
21日 ショイグ国防相,インドを訪問。モディ首相,パリカル国防相と会見。ロ印合弁の軍事企業ブラモス・アエロスペース社を視察。
21日 ラヴロフ外相,2014年の外交総括会見。対日重視を表明するも日本の対ロ制裁を批判。
21日 外務省,北方領土に関する岸田外相の発言を批判。
27日 メドベージェフ首相,総額2兆㍔以上の危機対策計画に署名。
  2月
2日 ラヴロフ外相,中国を訪問しロ印中3カ国外相会談に出席。習近平国家主席と会談。
12日 杉山外務審議官,来訪。モルグロフ外務次官との間で日ロ外務次官級協議。
23日 北朝鮮の李龍南対外経済相率いる政府経済代表団,来訪(〜3月1日)。
27日 ネムツォフ元第一副首相,モスクワで暗殺。
  3月
4日 ホロシャヴィン・サハリン州知事,収賄容疑で逮捕。
13日 北朝鮮の李洙勇外相,来訪。ラヴロフ外相と会談。
18日 プーチン大統領,クリミア編入1周年記念コンサートで演説。
19日 プーチン大統領,中国共産党の栗戦書中央弁公庁主任と会見。
28日 シュワロフ第一副首相,アジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明。
  4月
3日 プーチン大統領,極東発展に関する会合で極東の発展を重視する発言。
4日 メドベージェフ首相,極東の危機対策会合をハバロフスクで開催。
5日 メドベージェフ首相,ベトナムとタイを公式訪問(〜8日)。
6日 中国の王毅外相,来訪(〜8日)。
14日 北朝鮮の盧斗哲副首相が来訪。ロ朝相互友好年の開幕祝賀式典に参加。
16日 プーチン大統領,国民との直接対話にて日ロ関係の停滞の原因は日本側にあると発言。
22日 ガルシュカ極東発展相,韓国と北朝鮮を訪問(〜27日)。
  5月
9日 プーチン大統領,戦勝70周年記念パレードで中国の対日勝利の意義に言及。
11日 ロ中海軍合同演習「海上連合2015」実施(〜21日)。演習地を地中海に拡大。
12日 ケリー米国務長官,来訪。ソチでプーチン大統領,ラヴロフ外相と会談。
17日 ヌーランド米国務次官補,来訪。
20日 ナルイシュキン下院議長,日本を訪問。第3回日ロフォーラムに出席し,安倍首相と会談。
25日 第11回ロ中戦略安全保障協議,モスクワで開催。
29日 ユーラシア経済同盟とベトナム,自由貿易協定に調印。
  6月
4日 ウラジオストック自由港法案,閣議で決定。
5日 トルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表,先行社会経済発展区域の南クリルでの創設可能性に言及。
5日 安倍首相,ウクライナを訪問。
8日 ショイグ国防相,クリル諸島での軍事インフラ建設の加速を指示。
18日 プーチン大統領,ペテルブルク国際経済フォーラムに出席。安倍首相との会談への意欲を表明(19日)。
18日 同フォーラムにおいて日ロラウンドテーブル開催。石黒経済産業審議官,ガルシュカ極東発展相らが参加。
24日 プーチン大統領,経済制裁への対抗措置(食料禁輸など)の1年間延長を表明。
24日 安倍首相,プーチン大統領と電話会談。
25日 メドベージェフ首相,初の新型特区(先行社会経済発展区域)として3カ所を承認。
29日 プーチン大統領,サケ・マス類の流し網漁を2016年1月1日から禁止する法律に署名。
  7月
3日 下院,ウラジオストック自由港法案を可決。8日に上院可決,13日に大統領署名。
7日 シルアノフ財務相,BRICS開発銀行の正式始動を発表。
7日 谷内国家安全保障局長,パトルシェフ安全保障会議書記と会談。
8日 ウファでBRICS首脳会議および上海協力機構(SCO)首脳会議開催(~9日)。プーチン大統領は各国首脳と累次会談。
17日 日本の漁船,ロシアの水域で漁獲枠の超過を理由に拿捕。
18日 スクヴォルツォワ保健相,色丹島を訪問。
23日 閣議でクリル諸島の社会経済発展に関する連邦特別プログラム(2016~2025年)を討議。
29日 プーチン大統領,押収された禁輸対象品の廃棄命令に署名。
  8月
4日 メドベージェフ首相,2025年までのクリル諸島の社会経済発展に関する連邦特定目的プログラムに関する政令に署名。
5日 ナルイシュキン下院議長,広島・長崎への原爆投下を人道に対する罪と批判。
13日 トルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表およびコジャミャコ・サハリン州知事代行,択捉島を訪問,全ロシア青年教育フォーラムに出席。日本政府は抗議。
18日 トヨタ,極東ウラジオストックでのSUV組立の中止を表明。
20日 ヤクーニン・ロシア鉄道社長,解任。
22日 メドベージェフ首相,択捉島を訪問。水産加工工場などを視察,全ロシア青年教育フォーラムに出席。岸田外相は駐日ロシア大使に抗議。ロゴジン副首相,日本側の抗議に対しハラキリして静かにせよと批判。
  9月
1日 トカチョフ農相,択捉島を訪問。
2日 モルグロフ外務次官,「クリル問題は70年前に解決済み」と発言。
2日 プーチン大統領,中国を訪問。抗日戦争勝利70周年記念行事に出席。
4日 プーチン大統領,ウラジオストックで開催された東方経済フォーラムに出席。
7日 ソコロフ運輸相,国後島と択捉島を訪問。
13日 84の連邦構成主体で各種選挙を実施。おおむね与党が勝利。
19日 捜査委員会,コミ共和国の首長らを横領容疑で摘発。
20日 岸田外相,ロシア来訪(〜22日)。
22日 パトルシェフ安全保障会議書記,日本を訪問(〜24日)。
28日 プーチン大統領,国連総会で演説。安倍首相やオバマ米大統領らと個別会談。
30日 プーチン大統領,国外派兵の許可を上院に要請,即日承認。
30日 国防省,シリアでの軍事作戦開始を表明。
  10月
4日 ドボルコヴィッチ副首相,日本を訪問。日ロ経済諮問会議第5回会合に出席。
8日 モスクワで日ロ次官級協議開催。
12日 ガルシュカ極東発展相,北朝鮮を訪問。
14日 プーチン大統領,アムール州のボストーチヌィ宇宙基地の建設現場を訪問。最初の打ち上げの2016年春への延期を提案。
22日 ショイグ国防相,クリル諸島などへの基地の設置予定を表明。
22日 外務省,日本のシベリア抑留資料のユネスコ記憶遺産登録申請を批判。
23日 安倍首相,中央アジア5カ国を訪問。
31日 ロシア旅客機がエジプトで墜落。
  11月
9日 ムトコ・スポーツ相,世界反ドーピング機関によるロシアでのドーピング疑惑の発表を受けて,厳正な調査を表明。
12日 極東の住民への土地の無償分配に関する法案が閣議決定。
15日 プーチン大統領,G20サミット出席のためトルコを訪問。各国首脳と個別会談。安倍首相との会談で,プーチン大統領の年内訪日の先送りで合意する一方,安倍首相によるロシア地方都市への非公式訪問を協議。
15日 プーチン大統領,BRICS非公式首脳会合に参加。
17日 プーチン大統領,シリアでの軍事作戦について,フランス海軍と共同で活動するよう軍に指示。
18日 メドベージェフ首相,APEC首脳会議出席のためフィリピンを訪問。
19日 ロステク社のチェメゾフ社長,中国にSu-35戦闘機24機を20億㌦以上で売却する契約が締結されたと表明。
21日 メドベージェフ首相,東アジアサミット出席のためマレーシアを訪問。
23日 メドベージェフ首相,カンボジアを訪問。
24日 トルコの戦闘機,シリア国境付近でロシアの戦闘機を撃墜。
24日 プーチン大統領,トルコ指導部を「テロの共謀者」と非難。
26日 オランド仏大統領,来訪。プーチン大統領と会談し,対テロ協力の強化で一致。
28日 プーチン大統領,輸入の制限やビザ免除停止などを含む対トルコ制裁措置命令に署名。
30日 プーチン大統領,パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に出席。アメリカ,中国,韓国などの首脳と個別に会談。
  12月
3日 プーチン大統領,連邦議会に向けた年次教書演説。
14日 メドベージェフ首相,中国を公式訪問。SCO政府首脳評議会に出席(15日)。李克強首相と第20回ロ中定例首相会談(17日)。
15日 ケリー米国務長官,来訪。プーチン大統領,ラヴロフ外相と会談。
17日 プーチン大統領,恒例の大型記者会見。
23日 インドのモディ首相,来訪。プーチン大統領と会見(24日)。
31日 プーチン大統領,新たな国家安全保障戦略を承認する命令に署名。
 
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