Yearbook of Asian Affairs
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2019 Volume 2019 Pages 117-150

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2018年の中国

概 況

国内政治においては,3月の両会(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議全国委員会会議)において共産党の全面的な指導が強調され,一連の機構改革により党組織が国家機構を監督する構造が整えられた。憲法改正がなされ,習近平国家主席(党総書記,中央軍事委員会主席)の名前を冠した政治思想を加筆,国家主席の任期規定が撤廃され,習近平政権の長期化への道が開かれた。しかしアメリカの政治・経済的圧力が強まるなかで,行き過ぎたプロパガンダへの批判や習近平個人への権力集中に対する批判が強まった。一方,社会コントロールの高度技術化が進み,顔認証システムや社会信用制度などが普及しつつある。また少数民族や宗教団体に対する締め付けが厳しくなり,国際社会からは人権の侵害であるとの批判が高まった。

国内経済はGDP成長率が6.6%と,前年の6.8%から0.2ポイント下降した。この背景として,デレバレッジ(過剰債務の削減)を主とした金融リスク防止への対応,上半期の金融引き締め期の地方政府によるインフラ建設などの投資減速,米中貿易摩擦による先行き不安に伴う投資の様子見などが挙げられる。下半期には金融緩和的措置に転換し,民間の中小企業への融資などが増加した。こうした措置を受け,固定資産投資額は前年比1.3ポイント低下の5.9%増にとどまった。不動産市場は価格抑制策の実施対象地域で住宅販売価格の上昇率が低下したが,二級・三級都市では価格が高騰した。個人消費は自動車販売台数が前年比ベースで28年ぶりに減少した。米中貿易摩擦が中国の貿易に与えた影響は限定的だったが,今後の動向を注視する必要がある。

対外政策においては,米中間で貿易摩擦が過熱し,政治や安全保障も含めた国際的な覇権争いの様相となった。中国は「一国主義」反対を明言して積極的に多国間協力を推し進め,「新型国際関係」や「人類運命共同体」といった独自の概念を提唱している。米中関係悪化の影響もあり台湾との緊張が高まる一方で,日中関係は改善基調で進展した。

国内政治

国家主席の任期撤廃と権力集中

1月18~19日の中国共産党第19期中央委員会第2回全体会議(2中全会)では2004年以来となる憲法改正を議論し,コミュニケにおいて「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を憲法に記載する」と発表した。続いて2月25日に党中央委員会は国営新華社通信を通じて,国家主席の任期を「国家主席・副主席の任期は2期10年を超えない」とする憲法条文を削除する改正案を発表した。改正案は3月11日の全国人民代表大会(全人代)で賛成2958票,反対2票,棄権3票で採決された。

新憲法は,従来は国務院の部署であった監察部を格上げし,国家および地方に監察委員会を設置して国務院,法院,検察院,軍と並ぶ独立の機関と定めた。さらにマルクス・レーニン主義,毛沢東思想,鄧小平理論,「3つの代表」重要思想(江沢民の政治論)と並べて,「科学的発展観」(胡錦濤の政治論)と「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」を加筆し,習の名前を冠した政治思想を明記した。

憲法で定められた国家主席・副主席の任期規定が撤廃され,党総書記に関する任期はそもそも定められていないことから,習近平は2023年以降も最高権力者として政権を担う可能性が高まった。あるいは実際に長期政権化しなかったとしても,第2期習政権がレームダック化することを回避し,より長期的な観点から内政・外交を戦略的に進める環境が整った。ただし,国家主席の任期は毛沢東政権期の国内の政治的混乱の反省をふまえ,最高権力者の終身制を是正するために1982年制定の憲法に明記されたものであった。そのため通例は共産党への異論が唱えにくい中国国内でも,ソーシャルメディアなどを通して任期撤廃や個人独裁への反対論が表出した。

こうした観点から2018年には,いくつかの留意すべき動きがあった。3月2日に中国中央テレビ(CCTV)などが製作した映画「すごいぞ我が国」(中国語:厲害了,我的国)が公開され,中国の発展と習近平の指導を称える強いプロパガンダに注目が集まった。14日までに興行収入が2億元(約34億円)を記録したとされるが,他方でさまざまな形でチケットが配布された,公務員などが動員されていたなどの指摘もある。しかし,4月19日には上映中止が通達された。インターネット上では極端なプロパガンダを批判する書き込みも多く,事実とは異なる描写も見られる点などが,政治指導者の間で問題視された模様である。

習近平礼賛への反発はそれ以降にも続いた。北京大学が創立120周年を迎えた5月4日には,校内の「三角地」と呼ばれる学生運動の象徴の場所に,一卒業生が個人崇拝や国家主席の任期撤廃を批判する壁新聞を掲示した。7月上旬には,上海で習近平のポスターに墨汁をかけて批判する女性の自撮りの動画がネット上で公開され,注目を集めた。さらに7月24日には許章潤・清華大学法学院教授が天則経済研究所のホームページで「私たちの目下の恐れと期待」と題した文書を発表し,国家主席の任期撤廃や習近平に対する個人崇拝を批判した。なお,許教授は2019年3月に停職処分になっている。

天則経済研究所は政治改革を提唱する経済学者の茅于軾が1993年に設立した民間シンクタンクだが,7月10日に北京事務所が閉鎖された。茅于軾は12月に米ボイス・オブ・アメリカのインタビューに対して,共産党に留まりたくないと考える知識人は多いと述べて,知識人を中心に現政権への不満が高まっていることを示唆した。2019年1月初旬にも北京大学社会学系教授の鄭也夫が,共産党は「歴史の舞台から退場」するべきだとの趣旨の文書を発表した。

このような動きに対して党中央政治局は12月25~26日に民主生活会を開催し,引き締めをはかった。重要講話を発表した習近平は,「四つの意識」,「四つの自信」と並べて「二つの擁護」(習近平総書記の党中央と全党の核心としての地位,党中央の権威と集中統一指導の擁護)を必ず遂行することを強調した。

党・国家の機構改革による国家統治の効率化

2月26~28日に開催された3中全会において「党・国家機構改革の深化に関する中共中央の決定」および「党・国家機構改革深化案」が採択された。会議は「党・国家機構改革深化の主要任務は,党が全面的に指導する制度を整備・堅持し,各分野・各方面の活動に対する党の指導を強化し,より揺るぎなく力強い党の指導を確保することだ」としている。これは,1980~1990年代に進んだ「党政分離」(共産党と政治の分離)を逆行させる動きとして注目された。

「党・国家機構改革深化案」は8章60項目からなる。各章は,党中央機構,全人代,国家機構,全国政治協商会議,行政法律執行,軍,群集団体組織,地方機構を規定し,幅広い「党の全面的指導」を保障する。党中央の組織として政府の部門をまたいだ,事実上の政策決定機関である「指導小組」のうち4つ(中央改革全面深化,中央サイバーセキュリティ・情報化,中央財経,中央外事工作)を「委員会」として格上げした。なお中央外事工作委員会は中央海洋権益保護工作指導小組の職務を引き継ぎ,海洋権益確保を外交面から一体的に運用する方針となった。また党中央組織部に国家公務員局を編入し,党員以外の公務員においても人事管理を統括した。宣伝部門においては党中央宣伝部が新設の国家放送電視総局を指導し,報道・出版,映画部門を直接管理する。また党中央統一戦線部に国家宗教事務局を編入,国家民族事務委員会も直接の指導下において,宗教問題や民族問題に対する党の指導を強化した。

「党・国家機構改革深化案」の一部は3月の第13期全人代第1回会議に国務院機構改革案として提出された。国務院機構改革の主たる内容は,職能の重複する部門の再編や新しい職能部門の設置である。国務院は,国務院弁公庁のほかに26の構成部門を設置した。省レベルにおいては,自然資源部,生態環境部,農業農村部,文化・観光部を改組・創設し,退役軍人事務部と応急管理部を新設した。省レベル以下の機関についても,国家市場監督管理総局,中国銀行保険監督管理委員会,国家放送電視総局,国家衛生健康委員会,国家医療保障局,国家知的財産権局などの機関が新設された。

なお,3中全会は党大会の翌年秋に開かれるのが通例だが,2月下旬開催が多い2中全会が1月に開かれたために前倒しされた。このため通例は党大会のない年の秋に開催される党中央委員会全体会議の年内開催は見送られた。

先進技術を用いた社会管理の強化

2014年6月に国務院が『社会信用制度建設計画要綱(2014~2020年)』(以下『要綱』)を発表し,2015年にはアリババ系の「芝麻信用」をはじめとした8つの新型信用サービスが開始された。2018年1月には,この8社と業界団体の「中国互聯網(インターネット)金融協会」が共同出資して人民銀行の管理下に個人信用情報機関「百行征信有限公司」を設立した。北京市は2020年末までに常住の全市民を対象とした「個人誠信分」(個人信用スコア)プロジェクトを完成させると発表した。数値化した「信用」に基づいて格付けを行い,それに応じてサービスや罰則を与えるシステムである。行政サービスや病院などに芝麻信用を導入している地域もあり,急速に広がりをみせている。

2018年には国家発展改革委員会が奨励する「信易+」プロジェクトが各地で展開されている。「信易」とは「信用があれば容易になる」という意味で,信用制度に基づいてよいサービスを享受するという動きである。たとえば青島では11月に「交運信易カード」を200人の市民に配布し,旅行,医療,保険,レンタカーなどで7~10%の値引き価格でのサービス供給を保証した。他方で罰則についても実施が進んでおり,最高人民法院執行局の孟祥局長によれば全国の裁判所は2016年から2018年末までの累計で,「信用失墜」の被執行者に対して 1746万人の航空券購入,546万人の動車および高鉄(いずれも中国版新幹線)の乗車券購入を制限した実績がある。

少数民族や宗教活動に対する締め付けの強化

一連の機構改革のなかで党中央統一戦線工作部の機能が拡充された。その目的のひとつに,統一戦線工作部が主管する少数民族問題や宗教問題での強権的な政策の推進があった。

新疆ウイグル自治区では,2017年4月1日に「過激主義除去条例」を施行して宗教的・文化的な生活スタイルや表現を規制の対象とした。それを受けて再教育施設が建設され,拘束される違反者が急増,国際人権団体によれば再教育施設には推定100万人が収容されている。2018年には複数の国際人権団体や国連が人権侵害として非難する事態になった。アメリカ政府機関の「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会」(CECC)も10月10日に発表した年次報告書のなかで,監視システムなどを用いた党のコントロールのかつてない強化を指摘した。自治区当局は,CECCが報告書を発表する直前の10月9日に「過激主義除去条例」を改正して「職業技能教育訓練センター」設置に関する条項を加筆,再教育施設を合法化したとの批判を呼んだ。

キリスト教などの宗教活動に対しても,2月1日に改訂版「宗教事務条例」(2017年8月26日公布)が施行されるなど管理の制度化が進んだ。各地で非公認の宗教活動の取り締まり,教会の取り壊し,信者の拘束などが実施されている。9月9日には北京市最大の「地下教会」(非公認教会)のひとつである「シオン教会」が閉鎖された。12月9日夜からは,四川省成都に拠点を置くプロテスタント系「地下教会」の「秋雨聖約教会」の牧師や信者の80名あまりが一斉拘束された。

一方,7月31日には公認団体による会議「第6回全国的な宗教団体による合同会議」において,「宗教活動場所で国旗を掲げることに関する共同声明」が発表された。この結果,8月27日には開山1500年を超える嵩山少林寺でも,初めての国旗掲揚式が執り行われて耳目を集めた。こうした宗教団体への管理強化には2つの特徴がある。第1に,海外からの影響――とくに西欧からの思想的影響――を排除しようとする姿勢が鮮明である。第2に,党の方針に従わない団体を法的に抑圧する反面,方針と合致する宗教活動については保護し,社会管理に役立てようとしている。

不正ワクチン問題による政治不信の増幅

7月に大手製薬会社による製造記録の改ざん,および品質基準を満たさずに廃棄指導を受けたワクチンが大量に出荷され,児童が欠陥ワクチンを接種していた問題が明らかになった。7月15日に国家薬品監督管理局は,吉林省の長春長生生物科技有限会社の狂犬病ワクチンは製造工程に記録改ざんがあるなどの理由で生産停止を命じ,ワクチンの製造資格を剥奪した。だが後に,同社が基準不適合として破棄すべきであった三種混合ワクチン(百日咳,ジフテリア,破傷風)25万本を山東省の疾病予防センターに出荷し,発覚時に同省内の21万人以上の児童が接種していたことが明らかになった。また同様に,武漢生物製品研究有限責任公司が品質不適合であったにもかかわらず,重慶市疾病予防センターと河北省疾病予防センターへ40万本の三種混合ワクチンを出荷し,河北省では14万人以上の児童が接種済みであった。

こうした不正行為に対して,SNS上などでは急速に批判の声が広がった。事態を重く見た政府は7月22日に李克強首相が国務院に調査チームを設置したと公式サイトで発表した。さらに翌23日付の新華社は新興5カ国(BRICS)首脳会議に参加するためアフリカ訪問中であった習近平国家主席も,異例の外遊先からの徹底調査を指示したことを報じた。8月16日には党中央政治局常務委員会がワクチン問題を取り上げ,習近平が重要講話を発表して釈明するにいたった。これによって金育輝吉林省副省長の免職,李晋修吉林省政協副主席の辞任を決定するなど関連幹部40人あまりの処分を決定した。

(江藤)

経 済

下押し圧力に直面する経済

2018年の国内総生産(GDP)は90兆309億元,実質成長率は6.6%を達成した。政府目標の6.5%前後の範囲内となったが,前年の6.8%から0.2ポイント下降した。国家統計局は,2017年から安定した経済情勢として表現してきた「穏中向好」(安定の中,向上あり)から「穏中有進」(安定の中,前進あり)と表現を変更した。足下の経済は「穏中有変」(安定の中,変化あり),「変中有憂」(変化の中,憂いあり)と表現し,「外部環境は複雑で厳しく,経済は下押し圧力に直面している」との認識を示した。

貿易は12.6%増(前年比,以下同じ)の4兆6200億ドル,輸出額が9.9%増の2兆4874億ドル,輸入額が15.8%増の2兆1356億ドルとなった。輸出と輸入がそろって2兆ドルの大台を初めて突破,2年連続で前年の実績を上回った。貿易収支は3517億ドルの黒字となったが,黒字額が16.2%減少した。

固定資産投資(農家を含まない)は5.9%増の63兆5636億元,増加率は1.3ポイント低下となった。セクター別にみると,民間企業がけん引役となり8.7%増の39兆4051億元,増加率が2.7ポイント上昇した。この背景には下半期の金融緩和策への転換による民間企業向け資金供給措置が挙げられる。

対内直接投資(銀行・証券・保険分野を含まず)実行額は0.9%増の8856億元となり,過去最高額を記録した。全体の3割を占める製造業は35.1%増,そのうちハイテク製造業が20.1%増と高い伸びを示した。国別では,ドイツが79.3%増,日本が13.6%増,アメリカが7.7%増と好調だった。これを受けて,商務部の鐘山部長は1月11日,「中国は依然として有望な投資先だ」とし,「2019年は外資投資の安定成長のために,全国版および自由貿易試験区のネガティブリストの縮小や,外商投資産業指導目録の改定,外商投資法の公布などに取り組む」と述べた。

内需は堅調だった。社会消費品小売総額は9.0%増の38兆987億元(名目値),うち,都市部が8.8%増の32兆5637億元で,全体の85.5%を占めた。なかでもインターネット小売額は23.9%増の9兆65億元となり,社会消費品小売総額の18.4%を占め,その比率が3.4ポイント高まった。

消費者物価指数(CPI)の上昇率は2.1%,前年の1.6%から0.4ポイント拡大した。なかでも野菜の7.1%,医療保健の4.3%の高騰が目立った。

人民元の対ドルレートは2017年,人民元相場の安定に向けて当局が対外直接投資の規制強化など元安抑制策を主導し,2018年初に6.5030と元高ドル安で推移し,3月には米中貿易摩擦にともない元高趨勢が続いた。しかし4月以降はアメリカの連邦準備理事会(FRB)による利上げ加速期待から外貨建て債務を多く抱える新興国通貨を中心にドルが上昇,人民元は元安にシフトし,8月は6.9340まで下落,その後は米中貿易摩擦の激化により12月中旬まで6.9台が続いた。

金融政策は引き締めから緩和へ

2018年の経済運営方針は,根本的な要件として「質の高い発展」を促進し,サプライサイド構造改革を主軸とし,3大攻略戦(重大リスク防止・解消,貧困脱却,環境汚染防止)を進めるとされた。財政金融政策は,積極的な財政政策を継続し,穏健的な金融政策を中立に維持し,金融リスクの防止と解消を進めるとされた。重点業務は,①サプライサイド構造改革の深化,②市場の各プレイヤーの活力鼓舞,③農村振興戦略の実施,④地域協調発展戦略の実施,⑤全面的開放の新枠組み形成の推進,⑥人民の生活の保障と改善水準の向上,⑦住宅供給の拡大と賃貸・販売並存の住宅制度確立の加速,⑧生態文明建設の推進の加速などを掲げた。

3大攻略戦のひとつである重大リスク防止・解消のうち,金融リスクの防止と解消に関して,2018年前半は金融引き締め的立場を取り,短期金利の引き上げなどが行われたが,後半になると緩和的立場に転換する動きがあった。

2018年4月の中央財経委員会では金融リスクの防止・解消を重要課題とし,中央政治局会議では穏健中立な金融政策の維持が示され,デレバレッジ(過剰債務の削減)の言及が削除された。5月の人民銀行の中国貨幣政策執行報告においても穏健中立な金融政策の維持が示されたが,デレバレッジと金融リスク解消に取り組むことが明記された。7月には劉鶴副総理をトップの主任として,2017年新設された国務院金融安定発展委員会の第1回会議が開催された。会議では「2017年10月に開催された中国共産党第19回全国代表大会以降の金融リスク防止に関する取り組みは良好な成果を遂げている」とし,「構造的なレバレッジ解消は,秩序正しく進んでいる」と評価した。同会議は8月と9月にも開催され,金融リスク防止・解決に向けた専門会議は10月まで計10回開催された。

7月23日の国務院常務会議では内需の拡大に向けた企業減税,地方政府や銀行による債券発行の支援などの方針を発表した。具体的には1兆3500億元の地方債発行の承認,地方政府に対する余剰資金の活用,地方融資プラットフォームの資金需要に対する金融機関の対応要求が挙げられる。7月31日の中央政治局会議では習国家主席が「六つの安定」(雇用,金融,対外貿易,外資,固定資産投資,成長期待)を求め,景気のてこ入れ策に転換した。これにともない,金融政策はそれまでの穏健中立から穏健に変更され,金融緩和的措置を行う方針に転換した。具体的措置として,中国人民銀行による3度の預金準備率の引き下げ(4月,6月,10月),短期金利の低め誘導などが挙げられる。10月の中央政治局会議では国内経済への下押し圧力が強まっているとの見方が明示され,長期にわたり蓄積されたリスクが表面化し,一部の企業の経営が厳しくなっていると報告された。これに対して,穏健な金融政策の実施を再度明示し,シャドーバンキング規制による資金繰りの悪化を受けていた民間企業に対する新規融資の拡大などを実施することとした。こうした金融緩和の流れをくみ,10月に国務院は「インフラ分野における弱点補強への注力に関する指導意見」を発表した。同意見の目的は,内需拡大と構造調整の促進,中長期的な供給力の向上に向け,投資減速するインフラ分野の弱点補強に向けた有効な投資を拡大することである。その後,都市部の地下鉄建設の認可を再開するなど,すぐに投資拡大の事例が現れた。

こうした金融緩和措置以外にも消費の下支えに向けた減税措置が行われた。7月には増値税(付加価値税)税率引き下げを実施した。10月には個人所得税の一部で減税(基礎控除額の引き上げ,所得税率の適用範囲の変更)を開始し,さらに12月には国家税務総局が「新個人所得税法の全面実施に係る若干の徴収・管理関連問題に関する公告」を2019年1月1日に施行すると発表した。減税措置が今後の消費の拡大を下支えすることによって,景気のてこ入れを行う方針が見込まれている。

12月18日の改革・開放40周年記念式典において習国家主席は,中国は先進国が数百年かけて歩んだ工業化プロセスを数十年で完成したことや,GDPが改革開放当初の3679億元から2017年には82兆7000億元に拡大したことなどの成果を強調した。対外開放については「改革開放40年の実践は,開放が進歩をもたらし,閉鎖が必然的に立ち遅れをもたらすことを啓示している」との認識を示したうえで,「責任ある大国としての役割を果たし,グローバル・ガバナンス体制の改革と建設に積極的に参加する」,また「開放・透明・包摂・無差別の多国間貿易体制を支持する」と述べた。今後の経済発展の方針については,サプライサイド構造改革を重点とし,内需の拡大や地域協調発展戦略の積極的実施,重大リスクの防止・貧困の脱却・環境汚染防止にも力を入れる方針を示した。さらに,「イノベーション駆動型の発展戦略を実施し,基幹・コア技術の自主革新を加速する」とした。同式典では「改革のパイオニア」100人が表彰された。経済界からはアリババグループの創業者である馬雲,テンセントグループの共同創業者である馬化騰らが選出された。

債務拡大懸念が再燃するか?

2008年に生じたグローバル金融危機への対応として,中国政府は4兆元の景気刺激策を行うなど投資に過度に依存した経済成長パターンを続けた。金融機関による融資や債券の発行などにより,インフラや設備投資を積極的に行った。このことでレバレッジが拡大し,2009年以降,地方政府,国有企業,金融機関の債務が急増した。この時期の中国経済はグローバル金融危機の影響を大きく受けなかったと評価された一方,その後の経済成長速度の鈍化により債務を返済できないケースが増加し,生産能力や住宅在庫の過剰などの問題が続いている。拡大したレバレッジは構造改革を進めるうえで乗り越えなければならない大きな課題となっている。これに対して,中国政府は2015年以降,デレバレッジを最重要政策のひとつに掲げ,地方政府,国有企業,金融機関等に対して,過剰生産能力の削減や債務返済のサポートを行っている。

IMF統計によると,2016年末の中国政府の債務残高は34兆5000億元となり,負債の対GDP比率は46%だった。警戒レベルは60%であり,中国はこれを下回っているが,財政赤字が拡大していることから今後の動向が懸念されている。債務の急増は主に地方政府のインフラ投資や,国有企業の生産設備増強によるものである。

国家統計局によると,2018年11月末時点の地方政府の債務残高は18兆2900億元であり,全国人民代表大会が批准する限度額の範囲内であるとした。しかし,地方政府の債務は実態が不透明であり,会計検査院による調査があると残高が増加し,表面化していない潜在的な債務がかなり多くあることが懸念されている。

上述したとおり,2018年は景気の下支えに向けて,預金準備率を引き下げ,余裕資金を確保し,民間企業の債務に対応する金融緩和が採られた。地方政府の債務拡大を懸念し,インフラ投資が抑制されてきたが,景気の下支えに向けて今後再燃する可能性も大きいといわれている。

二級・三級都市で続く住宅価格上昇

近年の不動産市場について,2016年は規制緩和の結果,不動産バブルが生じた。2016年12月の中央経済工作会議で「住宅は住むもので投機の対象ではない」と述べ,住宅価格高騰下における「バブル発生の抑制,価格乱高下の防止」を示した。この方針の下,2017年は住宅ローンの頭金比率の引き上げや金利の引き上げ,ローン承認期間の長期化などの不動産抑制策を実施した。しかし,2018年の住宅価格は伸びが高まる結果となった。その背景には,二級都市(重慶市,東部・中部地域の省都などを含む30都市)や三級都市(西部地域の省都,東部・中部地域のその他の都市を含む38都市)における住宅移転補助金の支給に伴う宅地再開発により,在庫削減と価格の上昇が続いたことが挙げられる。これに対して,政府は価格上昇圧力が強い地域に対して補助金支給の中止を行うことで,上昇基調に歯止めをかけている。このほかにも6月には大都市の一部(杭州,西安,長沙など)で企業に対する住宅投資の規制を開始するなどの対策も講じている。

しかし,2018年下半期の景気てこ入れと金融緩和により,住宅投資が過熱することへの懸念も存在している。10月には,北京など一部の都市で住宅ローン金利の引き下げやローン審査時間の短縮化などの金融緩和の影響が生じた。

今後の懸念材料として,景気の下支えを目的とした金融緩和により住宅供給過剰となり住宅価格が下落することが挙げられる。他方,住宅価格の上昇が続いた場合は個人消費の下押し圧力が強まることが懸念される。

「貧困の脱却」解決に向かうも課題も山積

貧困の脱却を所管する国務院貧困支援開発指導小組弁公室によれば,2017年末時点の農村部の貧困層は3046万人としている。貧困問題の解決をより強化するために,2018年8月に中国共産党中央と国務院は「貧困脱却をめぐる3年計画の着実な実行に関する指導的意見」を発表した。中央農村工作指導小組弁公室の韓俊副主任,国務院貧困支援開発指導小組弁公室の欧青平副主任は,同意見の記者発表において, 2017年末までの5年間で,農村の貧困人口5564万人を安定的に貧困から脱却させ,貧困発生率を10.2%から4.5%に低下させたと述べた。また,今後3年間で,約3000万人の農村貧困人口を貧困から脱却させる目標については,年間1000万人を達成させなければならないため,難易度が極めて高いと述べた。貧困脱却支援事業の課題として,不十分なフィージビリティスタディ,官僚的形式主義,データの改ざん,貧困支援資金の違法運用などを指摘した。

2018年12月の「中国扶貧改革40周年座談会」では,国務院貧困支援開発指導小組弁公室の劉永富主任が,改革開放後の40年間で7億人余りが貧困から脱却し,貧困発生率は1978年の97.5%から2017年末には3.1%まで低下したと発表した。また,このことで人類の貧困削減の歴史上,中国は奇跡を起こしたと評価した。

強化・厳格化される環境規制

「3大攻略戦」の3つ目は環境汚染の防止である。中国の大気汚染をはじめとした環境問題は我が国において2013年にPM2.5に関して報道され,認識が深まった。中国の大気質(AQI)レベルは2013年から2016年まで改善傾向にあり,2017年は停滞したものの2018年は改善した。2018年のPM2.5の濃度を北京のケースで振り返ると,51μg/m3となり,2017年の58μg/m3より約12%改善した。

環境規制は2018年においてさらに強化・厳格化された。1月には「生態環境損害賠償制度改革法案」を施行した。全国的に導入した「生態環境損害賠償制度」は,地方政府が企業などの環境汚染者に対して汚染除去や環境修復費用など関連する損害を賠償する制度である。同制度はその賠償範囲,賠償義務主体・賠償請求主体・損害賠償解決手法などを明示したものである。

法改定も幅広く行われた。主に「大気汚染防止法」,「環境影響評価法」,「環境騒音汚染防止法」,「循環経済促進法」,「環境保護税法」,「省エネ法」などが挙げられる。1月に改定した「環境保護税法」では,元来中国国内で汚染物質を排出する企業に対する罰則等を制度化した「汚染排出費制度」を「環境保護税」に変更した。「環境保護税」は,大気汚染物,水汚染物,固形廃棄物,騒音の単位当たりの税額を設定し,汚染物質排出企業が汚染当量数に適用税額を乗じた額を地方政府に納税する流れとなる。8月には「土壌汚染防止法」を公布,2019年1月に施行される。

環境汚染の防止に関する政策文書のなかでは,中国共産党中央・国務院による「生態環境保護の全面的強化,汚染防止攻略戦の徹底に関する意見」,6月には国務院が「青空防衛戦勝利3年行動計画」(以下,青空計画)を発表した。青空計画は2013~2017年まで実施した「大気汚染防止行動計画」を引き継ぐ計画で,2018~2020年までの改善目標と実施内容を示したものである。重点地域は,北京・天津・河北とその周辺地域,長江デルタ地域,汾渭平原一帯(陝西,河南,山西の一部)とした。目標として,二酸化硫黄(SO2)と窒素酸化物(NOx)を2020年までに2015年比15%以上削減すること,PM2.5の削減目標未達成の地区級市以上の都市に対して2020年までに2015年比で18%以上を減少することなどを掲げた。

新たなサービスビジネスは過当競争から寡占化へ

イノベーション推進に関する政策として,国家発展改革委員会は2017年6月,サービス業のイノベーションを加速し,中国が「サービス業強国」となるための「サービス業イノベーション発展大綱(2017~2025年)」を発表した。同大綱では2025年までにGDPに占めるサービス業の付加価値比率を60%まで高める目標を設定した。このうち,近年急伸するシェアリングエコノミーに関して,中国国家情報センターは,今後数年間で年間平均40%前後の成長,GDPに占める比率が2020年に10%,2025年に20%を占める規模に達すると予測している。2016年に都市部で広がったネットデリバリー弁当(「外売」)業界は当初,企業が急速に参入したが,現在は「餓了麼」,「美団外売」,「百度外売」の3社に絞られた。この背景にはアリババグループとテンセントグループの存在が挙げられる。2018年,アリババは「餓了麼」の未保有株をすべて買い取り,テンセントは「美団外売」に出資するなどネットデリバリー弁当業界への参入を強化した。

また2015年以降,国内の都市部において急速に発展したシェアサイクルは,都市交通の「ラスト1マイル」問題の解決,交通渋滞の緩和,環境に配慮した移動システムの構築に貢献し,シェアリング経済の推進に大きく寄与したと評価された。約3年間で70社強が参入したが,すでに大都市では供給過剰に陥り,サービス企業の営業停止により,消費者がシェアサイクルサービス企業に納めたデポジットが返還されないという新たな問題が生じた。これに対し,2017年8月に交通運輸部や国家発展改革委員会など10部門が共同で「シェアサイクルの発展奨励と規範化に関する指導意見」を発表し,駐輪問題,デポジットの管理,情報セキュリティ確保等の問題への対応方針を示した。2018年に同業界は「摩拝単車」(モバイク)と「ofo」(オッフォ)の2社にほぼ絞られた背景として,テンセントグループ「美団外売」によるモバイクの買収・完全子会社化が挙げられる。

このように,スマートフォンとフィンテックを活用した新ビジネスは3年程度で寡占化が進む傾向にある。競争力が高い企業は超大手企業の傘下に入り,規模を拡大,価格競争力も強化され,中小企業が淘汰されるなどの状況がみられる。

小売り業界を変革する2人の「馬」氏

上述の2大超大手企業のトップは,アリババグループが馬雲(ジャック・マー),テンセントグループが馬化騰(ポニー・マー)であり,この2人の馬が近年,小売りなどの業界に新たな風を送り込んでいる。2009年に電子商取引(EC)最大手のアリババグループが開始した11月11日「独身の日」に行われるネット通販セールは2018年も行われ,アリババグループだけで開始から2分で100億元を突破し,1日の取扱高は過去最高の2135億元で26%増となった。また,EC業界第2位の京東グループの取扱高も過去最高の1598億元となった。2016年に馬雲(当時,アリババグループの総裁)は「新小売り戦略」を発表,「純粋な電子商取引はもうすぐ終焉を迎え,今後10~20年で新小売りが電子商取引にとって代わるようになる」と予測した。馬雲はただ予測を行うのみならず,自らのグループで新小売りを展開している。現在その象徴的な存在として2016年開店の食品スーパー「盒馬鮮生」が挙げられる。「盒馬鮮生」は,他社に先行し新サービスを提供するリアル店舗である。食品安全性の訴求,野菜等の生鮮品の当日売り切り,スマートフォンを通じたトレーサビリティ情報の公開,QR決済,無料宅配,無人運転カート,顔認証などITの駆使などO2O(オンラインとオフラインの融合)を展開する。2018年末時点の店舗数は全国135店舗である。とりわけ,店舗周辺3キロメートル圏内へ30分以内で無料宅配するサービスが好評で,この圏内の住宅価格が高騰すると言われるほどの影響がある。テンセントグループは2018年,出資先のECプラットフォーム第2位の京東グループが食品スーパー「7Fresh」を北京市内に開店,1年間で12店舗まで拡大した。

自動車の販売台数が前年比減

世界最大の自動車市場である中国は,GDPの約1割を自動車関連産業が占めている。中国政府は2017年4月,「自動車産業中長期発展計画」を発表し,2020年と2025年までの目標として,生産台数は2020年3000万台前後(うち新エネルギー車200万台),2025年3500万台前後(新エネルギー車700万台)を掲げた。

2018年の自動車の生産・販売状況(中国汽車工業協会発表)について,生産台数は前年比4.2%減の2780万9000台,販売台数は同2.8%減の2808万1000台となった。このうち,乗用車は同5.2%減の2352万9000台,同4.1%減の2371万台となった。商用車は同1.7%増の428万台,同5.1%増の437万1000台となった。新エネルギー車は同59.9%増の127万台,同61.7%増の125.6万台となった。このうち,電気自動車(EV)は同65.5%増の79万2000台,同68.4%増の78万8000台,プラグインハイブリッド車(PHEV)は同143.3%増の27万8000台,同139.6%増の26万5000台となった。自動車販売台数が減少した理由は,小型車購入税優遇税の終了,乗用ガソリン車やディーゼル車に対するナンバー規制などが挙げられる。EV車の販売が好調な理由はガソリン高騰への懸念やエコ意識の向上に加え,購入税10%の免税措置,大都市でのナンバー登録規制の対象外などが挙げられる。輸出台数は16.8%増の104万1000台,第4四半期以外は月間輸出台数がいずれも前年同期を上回った。

自動車販売台数が28年ぶり前年比減となった理由について,同協会は排気量1600cc以下の乗用車車両購入税減税の終了,景気減速,米中貿易摩擦に伴う消費者心理の悪化を挙げた。乗用車販売台数の約4割を占める中国ブランド車が8.0%減の998万台,同1割を占めるアメリカのブランド車が18.5%減,同2割を占めるドイツと日本のブランド車がそれぞれ4.8%増,5.7%増と好調だった。

外資出資規制の緩和

中国国内に完成車法人を設立する際の外資出資規制の緩和策について,2018年4月,国家発展改革委員会は自動車産業の外資出資規制を2022年までに緩和する計画と発表した。これに対して,BMWは中国合弁会社への出資比率を75%に引き上げる計画を発表した。なお,アメリカの電気自動車大手のテスラは,2018年7月に新工場建設で上海政府と合意,2019年下半期に稼働させ,「モデル3」,「モデルY」の2車種の生産を計画している。

2018年12月,国家発展改革委員会は「自動車産業投資管理規定」を発表した。同規定の目的は,新エネ車の過剰投資の抑制,新興メーカーの乱立の防止などである。これまで同委員会が行っていた自動車投資プロジェクトの承認を廃止し,地方政府への届出制に移行する。

新エネ車市場,競争過多から航続距離による淘汰の時代か?

中国の自動車産業は毎年新しい政策・規制が多く発表されている。2017年12月26日,財政部など4部門は「新エネルギー車の車両購入税徴収免除に関する公告」を発表し,新エネルギー車の購入に関して,2018年1月1日から2020年12月31日にかけて,車両購入税の徴収を免除すると発表した。これにより,2014年9月1日から2017年12月31日まで実施してきた免税政策が3年間延長となった。対象となる車両は「車両購入税を免除する新エネルギー車車種目録」に登録されている車両が対象となる。2017年12月31日までに同目録に登録されておらず,2018年1月1日以降,新登録する車両は,航続距離がEV車で100キロ以上,燃料電池車で300キロ以上でなければならない。前年までに登録していた条件よりもそれぞれ20キロ,150キロ厳しくなった。バッテリーやモーター等の品質保証期間についても同様に厳しくなり,乗用車の場合は8年または走行距離12万キロ以上となった。同年6月12日には,航続距離150キロ未満のEV車に対する購入時補助金を完全に撤廃した。また同150~300キロは20~50%減,同300キロ以上は2~14%増額とし,メーカーにとってEV車の航続距離が販売台数に大きく影響する政策となっている。

航続距離を伸ばすために,リチウムイオン電池の開発をめぐる企業の動向が活発になっている。すでに中国は車載用電池のシェアが世界の6割を超える市場となっている。車載用電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)はホンダと新型電池の共同開発を行うなど完成車メーカーとの連携を強化している。

また,新エネ車市場に参入する企業として,蔚来汽車(NIO)や小鵬汽車(Xpeng Motors)など中国の新興EVメーカーに加えて,メルセデス・ベンツやBMWなど外資メーカーの新エネ車シフトも加速している。この背景として,2019年から施行される「乗用車企業平均燃費・新エネ車クレジット並行管理弁法」(NEVクレジット弁法)がある。同弁法は乗用車メーカーに新エネ車生産を課すもので,乗用車メーカーの生産・輸入台数に占める新エネ車比率の目標を2019年10%,2020年12%と設定し,その目標比率が未達成の場合,他社の余剰クレジットを購入し,補填するとともに,罰則としてICE車の生産停止や減産措置等となる。こうした新エネ車生産の義務化により日系を含む完成車メーカーは開発を急ピッチで進めている。

(森)

対外関係

米中関係は貿易摩擦から覇権争いへ

2018年は,米中間で追加関税措置と報復関税が3回発動されるなど米中貿易摩擦が激化し,両国の次世代をにらんだ覇権争奪競争へと発展,急速に緊張と先行きの不透明感が強まった。

2018年の米中貿易摩擦の経緯を振り返る。3月に通商法301条に基づいた調査を終了したアメリカが追加関税実施の声明を出し,これに反対した中国との交渉を開始した。7月6日には,アメリカが対中輸入額340億ドル相当の818品目に25%の追加関税を課し,中国も同額の545品目に同率の追加関税を課すことを決定した。なお,中国は完成車の輸入関税率を15%,自動車部品を6%に引き下げていたが,アメリカ原産の輸入車には追加関税を賦課し40%の関税を課すなど,他国原産の輸入車よりも不利な状況に置いた。

追加関税の第2弾は8月23日に実施された。アメリカは160億ドル相当の279品目に25%の追加関税を課し,中国は同額の333品目に同率の追加関税を課した。第3弾は9月24日に,アメリカが2000億ドル相当5745品目に賦課している制裁関税の税率(現行10%)に対して,2019年1月1日から25%に引き上げるとした。これに対して,中国は600億ドル相当5207品目のうち3571品目に10%,1636品目に5%を課すことを決定した。だが,その後の12月1日に米中首脳会談が行われ,貿易摩擦激化回避策の実施で合意した。アメリカ側の回避策は,9月24日に決定した2019年1月1日に発動予定の対中制裁関税引き上げの一時凍結,90日以内に5分野(技術移転の強要,知的財産権の保護,非関税障壁,サイバー攻撃,サービス・農業)の協議に合意できない場合に凍結している関税引き上げ措置を実施することであった。中国側の回避策は,貿易不均衡を是正するために農産品,エネルギー製品,工業製品を購入することに合意し,国内市場や消費者ニーズに沿った市場開放と輸入拡大を進めること,制裁関税の撤廃に重点を置き二国間協議を推進することであった。

中国税関総署の発表によると,2018年の二国間貿易は輸出が前年比11.3%増の4784億ドル,輸入が0.7%増の1551億ドルとなり,貿易収支は17.2%増の3233億ドルであった。米中貿易摩擦が生じたものの,貿易額への影響は限定的だったといえる。商務部国際貿易経済合作研究院国際市場研究所所長の白明副は「米中貿易摩擦による関税引き上げを見込んだ駆け込み輸出が,一定程度かさ上げした」との見方を示した。

中国の対米輸出額の成長率をみると,第1四半期が14.8%増,上半期が13.6%増,第1四半期から第3四半期までが13.0%増,通年が11.3%増で推移した。傾向としては後半の伸び率の低下が示すとおり,単月でみると11月と12月はマイナスに転じた。マイナスに転じた理由について,白副所長は「2018年12月の輸出が前年同月比で減少したのは駆け込み輸出の反動によるもの」とみており,今後の動向について「米中貿易摩擦が沈静化したとしても,すぐに輸出は回復しないだろう」との見方を示した。

対中認識の悪化は,経済だけでなく安全保障面にも広がった。トランプ政権は2017年12月に発表した「国家安全保障戦略」(NSS)で,「アメリカ・ファースト」(米国第一主義)を政府の責務として強調するとともに,「力による平和の維持」を明示し,中ロを「現状変革勢力」(revisionist)と位置づけていた。続いて1月19日に発表した「国家防衛戦略」(NDS)でも,中国およびロシアとの長期的かつ戦略的競争が国防省の主要な優先事項だと記した。6月27日から8月2日まで米海軍が主催した多国間合同演習「リムパック(RIMPAC=Rim of the Pacific Exercise)2018」では,南沙諸島や西沙諸島の軍事拠点化を理由として中国への参加招待を取り消した。

こうした対中警戒の高まりを包括的に表現したのが,マイク・ペンス副大統領である。10月4日にハドソン研究所で行った「トランプ政権の対中戦略」と題する演説のなかで,中国のアメリカ社会や政治への干渉,技術の窃取,中国国内での人権抑圧,国際社会での影響力や軍事・先端技術での競争,貿易摩擦など多方面での対中批判を展開し,「現政権は,アメリカの利益,アメリカの雇用,アメリカの安全保障を守るため,断固とした行動をとり続ける」と強い姿勢を示した。こうした対中警戒認識は政権だけでなく議会やこれらを取り巻くアメリカ社会の知的エリートに広く共有されているとみられる。またこの演説を,冷戦を決定づけた「鉄のカーテン」演説になぞらえて,米中「新冷戦」の始まりを懸念する見方も多い。

米中関係の悪化の影響を如実に受けていると考えられるのが台湾問題である。3月16日には政府高官の相互訪問を促す「台湾旅行法」にトランプ大統領が署名し,成立した。これを受けて6月12日の米国在台協会(AIT)台北事務所の新庁舎の落成式にはロイス米国務次官補(教育・文化担当)が出席した。中国側では,国務院台湾事務弁公室報道官が米政府高官の「公式の往来と接触に断固反対」と批判した。8月13日には米台の防衛関係強化を認める「2019国防授権法」にトランプ大統領が署名した。これは台湾に対する武器供与や米台による実戦軍事演習の推進を支持する内容となっている。

さらに12月31日には,トランプ大統領がインド太平洋地域全域におけるアメリカの戦略を包括的に示した「アジア再保証推進法」案に署名し,同法が成立した。上下院ともにこの法案を可決していたため,署名なしでも自動的に成立する見込みであった。同法は台湾へのコミットメントを明確に示し,武器供与についても「中華人民共和国からの現在の,あるいは将来あり得る脅威に見合った防衛装備品の台湾への規則的な移転(regular transfer)」を行うべきだとしている。一方,年明け1月2日に習近平国家主席は,中台統一を謳う「台湾同胞に告げる書」発表40周年を祝う記念式典の講話で,統一のための武力使用を放棄しないと明言した。

北朝鮮問題もまた,中国の対米政策における政治的カードとして浮上している。3月26~27日に金正恩朝鮮労働党委員長が初めての外交訪問として北京を訪れ,中朝首脳会談を行った。4月に文在寅大統領との南北首脳会談,6月にシンガポールでトランプ大統領との米朝首脳会談を控え,関係が悪化しているとされていた習近平政権へ接近した。また,金委員長は5月7~8日に遼寧省大連,6月19~20日には北京を訪問し,習近平と立て続けに会談をした。6月には米朝首脳会談の説明をしに来たとみられており,後ろ盾としての中国を立てた形となった。

多国間の「一帯一路」構想推進,一国主義への対抗を鮮明に

6月22~23日に開催された中央外事工作会議で習近平総書記は,「人類運命共同体」の構築とグローバル・ガバナンスシステムの改革,「一帯一路」建設の推進など,積極的な対外方針を示した。国際政治の動揺を前提として中国は保護主義や「一国主義」を批判し,自らを国際社会における自由経済の擁護者と位置づけた。なお,楊潔篪中央外事工作委員会弁公室主任は総括において,「習近平外交思想の指導的地位を確立した」と述べ,習近平の権威を印象づけた。

他方で国際社会においては,中国の異質性を指摘する声も高まっている。中国の経済発展は政治改革を伴わず,民主化の進展に繋がらなかったという結果は,アメリカをはじめとする先進諸国から関与政策の失敗と受け止められている。また「債務の罠」や現地社会の雇用にさほど寄与しない開発計画など,「一帯一路」構想に対する懸念も高まった。マレーシアは「東海岸鉄道」計画(2019年1月に中止を表明,4月に再開で合意)を含む中国との大型公共事業を中止する方針を示し,港湾開発事業「マラッカ・ゲートウェイ」についても一時中断した。ミャンマー政府も,11月8日に西部ラカイン州チャオピュー経済特区で中国が主導する港湾開発事業を5分の1に規模縮小することを決定した。また先進各国は,中国の資金援助を代替するための支援策強化を進めており,トランプ政権は7月30日に1億1350万ドル(約126億円)規模の資金を拠出してインド太平洋地域のインフラ投資を促進する方針を明らかにした。

こうしたなか,中国は多国間協議を積極的に推進し,習近平国家主席や李克強首相らが参加する首脳外交も活発に行った。6月に上海協力機構(SCO)首脳会議を青島で開催し,インドとパキスタンからもSCO正式加盟後初めて首脳が参加した。7月10日には,中国・アラブ諸国協力フォーラムの第8回閣僚級会議を北京で開催した。また,習近平国家主席は7月25日に南アフリカで始まったBRICS首脳会議に出席,世界的な貿易戦争に勝者はいないとの考えを示した。

7月7日にブルガリアで開催された中国・中東欧諸国首脳会議(16+1)には李克強首相が出席し,バルト海沿岸の国やバルカン諸国の首脳らと会談した。西欧諸国は中国によるEU分断に警戒を示している。9月3~4日には中国アフリカ協力フォーラムが開催された。3日の首脳会合で習近平は,「覇権主義や強権主義が依然として存在し,保護主義と一国主義が台頭している」と述べたうえ,3年間で600億ドル(約6兆6000億円)の経済支援を表明した。9月11日,習近平はウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」に参加したのち,ロシアのプーチン大統領と首脳会談を行った。エプロン姿で料理を披露しあう演出を通じて,中ロ両国の親密ぶりをアピールした。会談後の記者会見では,中国とロシアは保護貿易主義と一国主義に対して団結して対抗する必要があると述べ,暗にアメリカをけん制した。

習近平国家主席は11月17~18日にパプアニューギニアの首都ポートモレスビーで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で,17日に保護主義と一国主義が世界経済に影を落としていると指摘し,18日のAPEC首脳会議でも,「多国間貿易体制を擁護し,旗幟(きし)を鮮明にして保護主義に反対しなければならない」と批判した。だが,続く11月30日の20カ国・地域(G20)首脳会議では,「一国主義,保護主義」への批判に言及せず,米中通商摩擦が激化するなかでアメリカへの配慮をうかがわせた。

日中関係は「正常な軌道」に

2018年の日中関係は,両国首脳が「正常な軌道」に戻ったと表現したように,第三国市場での経済協力を軸に改善基調で推移した。他方で,尖閣諸島海域での緊張は継続しており,協調と競争が併存した。日米豪印や日欧間では対中政策を視野にいれた戦略的な協力関係の構築が進んでいる。

5月4日には安倍晋三首相,習近平国家主席の初めての電話首脳会談が行われ,北朝鮮問題について協議した。続いて同8~11日には李克強首相が来日,第7回日中韓サミットの他,日中首脳会談や日中平和友好条約40周年記念イベントに参加した。李首相は「新たな発展を得て長期にわたる安定した健全な発展を目指すべき」と前向きな姿勢を示し,両首脳は東シナ海を「平和・協力・友好の海」とするとの共通認識を改めて確認, 6月8日からの「海空連絡メカニズム」運用開始に合意し,第三国における日中民間経済協力に関する覚書を交わすなど,協調姿勢を鮮明にした。

10月25~27日には安倍晋三首相が訪中した。日本の首相としては国際会議出席のための訪中を除くとおよそ7年ぶりの訪中であった。25日に李克強首相と会談し,日中イノベーション協力対話を新たに創設する,日本産食品の輸入規制の早期の規制解除,対中ODAの新規供与を終了して新たな枠組みをつくる,防衛当局間の海空連絡メカニズムの初の年次会合の年内開催などで一致した。また資源開発に関する「2008年合意」の完全な堅持を確認し,意思疎通を強化することで合意した。なお,「2008年合意」には東シナ海の資源共同開発が含まれていたが,実現はされていなかった。

10月26日に安倍首相は,北京の釣魚台迎賓館で習近平国家主席と会談した。安倍首相は①競争から協調へ,②お互いパートナーとして脅威にならない,③自由で公正な貿易体制の発展,を3原則として提示した。両者は東シナ海問題では引き続き意思疎通を強化し不測の事態の回避に努めることで一致,朝鮮半島の非核化に向けて関連安保理決議の完全な履行の重要性を改めて確認した。

さらに安倍首相は日中第三国市場協力フォーラムに参加した。同フォーラムではインフラ,物流,IT,ヘルスケア,金融等に関する52件の協力覚書が署名・交換され,日中協調の進展をアピールした。他方で日本側は,経済協力の条件として「開放性,透明性,経済性,財政健全性といった国際スタンダードに沿った,第三国の利益となるウィン=ウィン=ウィンのプロジェクト」を提示した。その他にも安倍首相と習国家主席は,9月12日にはロシアのウラジオストクでの東方経済フォーラム出席,11月30日にはアルゼンチンのブエノスアイレスでのG20サミット出席などの機会に,日中首脳会談を実施した。

地域安全保障をめぐる緊張の高まり

中国の2018年予算案における国防費は前年実績比8.1%増の1兆1069億元(約18兆4500億円)を計上しており,アメリカに次ぐ世界第2位の規模であった。実際の人民解放軍の活動範囲も拡大している。2018年にはアメリカをはじめとする世界の主要国および周辺各国が,中国へのけん制を強化しており,緊張が高まった。

最も緊迫しているのは南シナ海情勢である。5月には中国が造成した人工島に対艦巡航ミサイルと地対空ミサイルシステムが配備されたと報じられた。アメリカは継続的に南シナ海で「航行の自由」作戦を展開しており,徐々に中国側のいら立ちが募っていった模様である。9月30日に米イージス駆逐艦「ディケーター」に対し,中国海軍の蘭州級駆逐艦が前方45ヤード(約41メートル)以内に接近する事態が発生した。また台湾海峡において,人民解放軍は1月と3月に空母「遼寧」を通過させたほか,4月18日に実弾演習を行った。他方で米海軍は,2018年中に3回に渡り台湾海峡で艦艇を通過させた。

インドとの関係においては,2017年にはブータンのドークラーム地方をめぐって軍事的緊張が高まったインドと中国であったが,2018年度前半に急速に関係改善した。4月に習国家主席とモディ印首相が湖北省・武漢で非公式首脳会談を行い, 政治的対立の回避で合意した。8月に魏鳳和国防相がインドを訪問した折にはシタラマン印国防相との間で信頼醸成の方針で合意,部隊間交流などの拡大方針が示された。ただし9月には中国軍の越境が報じられ,2019年1月にはインド中央公共事業局が国境沿いの道路整備計画を発表するなど,情勢は不透明である。

オセアニア地域においても,太平洋島嶼国に対する中国の経済支援が安全保障上の影響力拡大に繋がるのではないかという懸念が高まっている。4月には中国がバヌアツで海軍基地を建設する計画があると報じられた。9月5日に開催された太平洋の18カ国・地域でつくる太平洋諸島フォーラム(PIF)の首脳会議では,域内の安全保障協力を強める共同宣言を採択した。地域を主導するオーストラリアやニュージーランドは第5世代移動通信システム(5G)整備において華為技術(ファーウェイ)の製品を避ける方針で一致している。

華為技術をめぐる政治摩擦およびデジタル・テクノロジー競争

米中貿易摩擦が経済に及ぼした影響として,中興通訊(ZTE)やファーウェイに対する市場アクセス問題が挙げられる。アメリカ政府の意向を受け,日本政府は12月にZTEやファーウェイの製品に対して,事実上の政府調達からの排除や通信キャリアへの使用中止を求めた。また複数の通信キャリアが5Gネットワークの構築に当たってファーウェイ製品を使用しない方針を発表した。オーストラリアやニュージーランドも同様の対応を採っている。

こうした動きに対し,ファーウェイは12月19日,自社従業員向け交流プラットフォームの「心声社区」において,「一部の報道は事実と異なる,または誤解されたもの」と反駁した。また,①ドイツではすべての業務が正常に実施,②フランスでは各通信キャリアの5Gネットワーク構築に参加,③日本では通信キャリアと5Gに関する応札対応や実験を実施,④ニュージーランドでは政府が通信キャリアに対して提示した5Gに関する考えに対してさまざまな意見があるものの管理プロセスが確定せず,顧客が政府との調整を継続中,と各国の対応状況も説明した。5G契約については,「すでに25の商用契約を結び,世界で50のビジネスパートナーと協力協議を締結,5G基地局の販売数は1万を超えている。2019年上半期には5Gチップを搭載したスマートフォンを発売し,下半期には商業ベースに乗せる」と成果を強調した。

これに関連して,カナダ当局は12月5日にファーウェイの副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟を,アメリカの対イラン貿易制裁に違反した疑いで逮捕した。アメリカの要請に基づく逮捕で,アメリカ側は身柄引き渡しを求めている。一方,12月中に4人のカナダ人が中国当局に拘束されており,中国側は孟CFOの身柄を引き渡さないようカナダ政府に揺さぶりをかけているとみられる。

また12月10日,アメリカ半導体大手のクアルコムは,福建省の福州市中級人民法院がアップルのスマートフォン7機種の販売差し止めを命じたと発表した。クアルコムによる,アップルに対する特許権侵害の訴えを受けたものである。これに対し,アップル側はソフトウエアの更新によって権利侵害の状態を解決すると発表した。

第1回中国国際輸入博覧会が開催

中国は貿易黒字の縮小に向け,輸入促進策を継続実施している。2018年11月5日から10日までの6日間,上海市内で「中国国際輸入博覧会」を初めて開催した。151カ国・地域から3617社が出展,72カ国・地域の3600社を超えるバイヤーが来場した。主催者側発表の成約見込み額は578億3000万ドル,うち,ハイエンド・インテリジェント機器が165億ドル,食品・農産品が127億ドル,自動車が120億ドルなどとなった。アメリカ企業は国・地域別で第3位の約180社が出展,FacebookやGoogleも出展した。なお,日本からは468企業・団体が出展,出展面積約2万平方メートルと国・地域別では最大規模となった。

なお,習近平国家主席は11月5日の開幕式でも「各国は開放政策を堅持し,旗幟を鮮明にして保護主義や一国主義に反対すべきだ」と述べ,アメリカへの批判を繰り返した。

(江藤,森)

2019年の課題

国内政治では,習近平政権に対する不満をコントロールする政治的圧力とガス抜きのバランスが重要となる。また社会信用制度の構築など,新しいテクノロジーを用いた社会統制が強化される可能性が高い。少数民族や宗教団体など,現行体制の下で規制されるアクターの自由度はさらに低下するだろう。他方で習近平政権には2020年頃に「小康社会」(いくらかゆとりのある社会)を全面的に実現するという目標があり,どのような具体的成果を示していくかが注目される。

国内経済に関して言えば,サプライサイド構造改革,3大攻略戦を引き続き進め,デレバレッジなど成長阻害要素への対応に加え,米中貿易摩擦の激化への対応により,構造改革に本格的に着手できているとは言えない現状である。2018年12月開催の中央経済工作会議ではマクロ経済政策に関して,カウンターシクリカル(中国語で「逆周期調節」,不況時の規制緩和化と好況時の規制厳格化)な調整を強化し,大幅な減税と費用の引き下げ政策や地方政府の特別債の発行枠の大幅な拡大など積極的な財政政策,小規模企業や民間企業の資金調達難の解消など穏健な金融政策を継続する方針を示した。2019年のGDP成長率について,国際通貨基金(IMF)と世界銀行は6.2%,国際連合,アジア開発銀行,中国社会科学院は6.3%と予測している。成長の下押し圧力となり得る要素は,現在過剰気味な製造業の設備投資の減退,米中貿易摩擦の動向次第で輸出が減少することなどが挙げられる。

対外政策においては,国策である「中国製造2025」を中国が放棄することはできず,アメリカとの技術覇権争いは長期化すると考えられる。台湾問題や南シナ海域での「航行の自由」をめぐり,米中間の安全保障上の緊張も高まるだろう。他方でEUや日本など関係各国の「アメリカ第一主義」への警戒心も根強いことから,中国はアジアを中心とした周辺国との関係を強化しようとするだろう。そのためには4月に開催予定の第2回「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムの成功が必須となる。こうしたなか,習政権は日本に対してさらなる関係改善を図る可能性がある。習近平国家主席のG20出席以外での来日が実現し,安倍政権が国賓待遇で迎えるならば,日中関係改善のひとつのメルクマールとなるだろう。また,日本が議長国を務める6月のG20大阪サミットでの,米中両国を含めた高度技術の国際ルール形成の進展が,今後を占う試金石のひとつとなるだろう。

(江藤:地域研究センター)(森:大東文化大学)

重要日誌 中国 2018年
   1月
1日 ジョージアと自由貿易協定を発効。
1日 新エネ車購入税徴収免除を2020年末まで延長。
1日 環境保護税法,生態環境損害賠償制度が施行。
18日 国家統計局,2017年統計公報を発表。GDP成長率は6.9%の82兆7122億元。
18日 中国共産党第19期中央委員会第2回全体会議(~19日)。
19日 アメリカ「国家防衛戦略」(NDS)の発表。中国とロシアを長期的な戦略的競争相手に。
   2月
1日 改訂版「宗教事務条例」が施行。
4日 2018年「中央1号文件」として農村振興戦略の実施に関する意見を公布。
22日 政府が認定した国家級・省級の開発区の最新リストを公表。
23日 国務院扶貧開発領導小組第22回全体会議。
25日 党中央は新華社通信を通じて憲法改正案を一部発表。
26日 中国共産党第19期中央委員会第3回全体会議(~28日)。
   3月
2日 映画「すごいぞ我が国」を公開。
3日 中国人民政治協商会議第13期全国委員会第1回会議(~15日)。
5日 第13期全人代第1回会議(~20日)。李首相,政府活動報告を発表。2018年のGDP成長率目標6.5%前後。憲法改正。
16日 トランプ米大統領が「台湾旅行法」に署名。台湾との政府高官の往来を促す。
19日 中国人民銀行総裁として副総裁の易綱氏を承認。
19日 「百行征信有限公司」が正式に成立。
22日 アメリカが通商法301条に基づく対中制裁措置の発動を決定。
26日 金正恩朝鮮労働党委員長が初めての外交訪問(~27日),中朝首脳会談。
28日 中央全面深化改革委員会第一次会議。
   4月
1日 中国はアメリカ産果物や豚肉など128品目に対する追加関税措置を発表。
4日 中国はアメリカ産大豆など106品目に対して25%の追加関税を課すことを決定。
8日 ボアオ・アジア・フォーラム年次総会(~11日),習総書記が基調講演。
13日 習総書記は海南省および経済特区設立30周年大会の演説で,海南自由貿易試験区と自由貿易港の設立を発表。
16日 アメリカ政府がアメリカ企業に対して中国の中興通訊(ZTE)への製品販売を今後7年間禁止すると発表。
16日 第4回日中ハイレベル経済対話。
17日 国家発展改革委員会,2022年までに自動車分野の外資出資比率制限の段階的撤廃を発表。
19日 映画「すごいぞ我が国」の上映中止を通達。
25日 中国人民銀行が預金準備率の引き下げ。
   5月
1日 増値税率の一部引き下げ(16%,10%,6%へ)を開始。
1日 輸入する抗がん薬を含む普通薬品のゼロ関税を開始。
2日 アジアインフラ投資銀行(AIIB)はパプアニューギニアとケニアの加盟申請を新たに承認。
3日 北京にて米中閣僚級会議。
4日 北京大学「三角地」に政権批判の壁新聞が掲示。
4日 安倍晋三首相・習近平国家主席の初めての電話首脳会談。
7日 共産党中央委員会と国務院は「雄安新区」のマスタープラン「河北雄安新区規画綱要」を承認。
7日 金正恩朝鮮労働党委員長が遼寧省大連市を訪問(~8日),中朝首脳会談。
8日 李首相,訪日(~11日)。第7回日中韓サミット,日中首脳会談や日中平和友好条約40周年記念イベントに参加。
9日 河野太郎外務大臣と王毅外相は「社会保障に関する日本国政府と中華人民共和国の協定」(日中社会保障協定)に署名。
9日 「農林水産省と海関総署との日本産精米の対中輸出に関する覚書」を締結。日本産精米の対中輸出に必要な日本国内の指定精米工場とくん蒸倉庫の計7施設を追加。
11日 中央全面深化改革委員会第二次会議。
17日 国務院は「企業設立時間の一層の短縮に関する意見」を公布。企業設立所要日数がこれまでの半分以下に短縮。
17日 ワシントンにて米中閣僚級会議。
17日 商務部はアルゼンチン産牛肉の市場解禁に関する協定に調印。
19日 米中両国が経済貿易協議に関する共同声明を発表。
22日 国務院関税税則委員会は7月1日から自動車とその部品の輸入関税率を引き下げると発表。
30日 国務院常務会議にて,日用品の輸入関税率の引き下げを決定。7月1日から実施。
   6月
6日 福建省第10回海峡フォーラム,汪洋副総理が出席。
9日 第18回上海協力機構(SCO)首脳会議が青島市で開催(~10日)。
12日 ZTEはアメリカによる制裁についてアメリカ商務省との和解を発表。
12日 米国在台協会(AIT)台北事務所の新庁舎の落成式。
15日 アメリカ通商代表部は7月6日から中国産818品目・340億ドル相当に対して追加関税措置を行うと発表。
15日 中国共産党中央委員会と国務院「脱貧困攻略戦勝利3年行動計画に関する指導意見」発表。
16日 中国商務部は7月6日からアメリカ産の農産物や自動車など545品目に対して25%の追加関税措置を行うと発表。
19日 金正恩朝鮮労働党委員長が北京市を訪問(~20日),中朝首脳会談。
22日 中央外事工作会議(~23日)。
26日 AIIBはレバノンの加盟申請を新たに承認。
27日 国務院「青空防衛戦勝利3年行動計画」発表。
27日 中国共産党中央委員会と国務院「『一帯一路』国際商事紛争解決システムと組織の設立に関する意見」発表。
27日 アメリカ海軍主催の多国間合同演習「リムパック2018」開始。中国軍への招待は取り消し(~8月2日)。
28日 「一帯一路サミット」が香港にて開催。
   7月
1日 輸入するアパレル,家電,加工食品,化粧品など日用品の関税を低税率に。
4日 一般市民が習近平国家主席のポスターに墨汁をかける動画が配信された。
5日 中国人民銀行が預金準備率の引き下げ。
6日 中央全面深化改革委員会第三次会議。
6日 アメリカが対中輸入額340億ドル相当の818品目に25%の追加関税を課す。中国も同額の545品目に同率の追加関税を課す。
7日 中国・中東欧諸国首脳会議(16+1)。李克強首相が演説。
7日 第8回中国・中東欧国家経貿フォーラムがブルガリアで開催。李克強首相が演説。
10日 上海市政府はアメリカの電気自動車大手のテスラと市内に新工場を建設することに合意。
10日 中国・アラブ諸国協力フォーラム第8回閣僚級会議。
10日 天則経済研究所北京事務所の閉鎖。
15日 長春長生生物科技有限会社の狂犬病ワクチンに生産停止命令。
22日 不正ワクチン問題で李克強首相が国務院に調査チームを設置。
23日 国務院常務会議にて,企業減税,地方政府や銀行による債権発行など支援策を発表。
23日 習近平国家主席が不正ワクチン問題で外遊先から徹底調査を指示。
24日 許章潤・清華大学教授が政権批判の文書を発表。
25日 新興5カ国(BRICS)首脳会議(~27日)。習近平国家主席が参加。
31日 中央政治局会議にて,習国家主席が「六つの安定」を発表,景気てこ入れ策に転換。不動産価格上昇の抑制を決める。
31日 「宗教活動場所で国旗を掲げることに関する共同声明」発表。公認宗教団体が国旗掲揚を称揚。
   8月
3日 国務院金融安定発展委員会第2回会議。
7日 国務院が北京市など22都市での越境EC総合試験区の新設に同意。
13日 「2019国防授権法」にトランプ大統領が署名。
16日 党中央政治局常務委員会がワクチン問題を議論。40人あまりの幹部を処分。
23日 アメリカが中国から輸入する160億ドル相当279品目の商品に対して,25%の追加関税を課す。中国も同額相当の333品目に同率の追加関税を課す。
27日 少林寺で初めての国旗掲揚式。
31日 「電子商取引法」,「個人所得税法の改正に関する決定」公布。
   9月
3日 中国アフリカ協力フォーラム(~4日)。
7日 国務院金融安定発展委員会第3回会議。
11日 習国家主席,「東方経済フォーラム」に出席およびプーチン・ロシア大統領と会談。
12日 日本経済界代表訪中団が北京にて李首相と会見。
12日 ウラジオストクで安倍・習首脳会談。
20日 中央全面深化改革委員会第四次会議。
24日 アメリカが2000億ドル相当5745品目に賦課する制裁関税税率10%を2019年1月1日から25%に引き上げると発表。中国は600億ドル相当5207品目のうち3571品目に10%,1636品目に5%を課すと決定。
26日 習総書記が黒龍江省を視察。
26日 「農村振興戦略規画(2018~2022年)」を発表。
   10月
4日 マイク・ペンス米副大統領が「トランプ政権の対中戦略」演説。包括的な対中批判に「新冷戦」始まりとの見方もある。
7日 中国人民銀行が預金準備率の引き下げ。
9日 新疆ウイグル自治区政府が「過激主義除去条例」を改正。
10日 アメリカ「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会」(CECC)が年次報告を発表。
11日 国務院が消費促進体制メカニズムを完全に実施する方案(2018~2020年)を公布。
16日 国務院が中国(海南)自由貿易試験区の設立に同意。
22日 習近平総書記が6年ぶりに広東省を視察。「港珠澳大橋」の開通式典,深圳自由貿易試験区などを視察(~24日)。
25日 安倍首相訪中(~27日)。日中首脳会談,日中第三国市場協力フォーラムに参加。
26日 改定「会社法」の公布・施行。
31日 中央政治局会議。国内経済への下押し圧力が強まっているとの見方を明示。
31日 国務院「インフラ分野における弱点補強への注力に関する指導意見」を発表。
31日 北京など一部の都市で住宅ローン金利の引き下げ,ローン審査時間の短縮化。
   11月
1日 工業製品など1585品目の輸入関税率の引き下げを開始。
4日 中央全面深化改革委員会第5次会議。
5日 第1回中国国際輸入博覧会が上海で開幕(~10日)。
6日 習近平総書記が上海市浦東新区陸家嘴を視察。
11日 「独身の日」アリババ1社で2135億元の売上。
17日 アジア太平洋経済協力会議(APEC)(~18日)。習近平国家主席が参加。
21日 国務院常務会議にて,2019年1月1日から越境EC輸入商品の手続きの簡素化など緩和策を発表。
30日 20カ国・地域(G20)首脳会議。
30日 安倍・習首脳会談。
   12月
1日 トランプ大統領と習国家主席がブエノスアイレスにて米中首脳会談。
1日 米中首脳会談で二国間貿易摩擦激化回避策の実施で合意。
5日 ファーウェイの副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟をカナダで逮捕。
8日 中国扶貧改革40周年座談会。
10日 国家発展改革委員会「自動車産業投資管理規定」発表。
13日 党中央政治局会議。内需拡大の方針を掲げる。
14日 アメリカ通商代表部が対中輸入額2000億ドル相当の5745品目に賦課する制裁関税税率引き上げ日時を「アメリカ東部時間2019年3月2日0時1分」と発表。
18日 改革・開放40周年記念式典。
19日 中央経済工作会議(~21日)。
19日 AIIBはアルジェリア,ガーナ,リビア,モロッコ,セルビア・モンテネグロの加盟申請を新たに承認し,合計93カ国・地域に増加。
22日 全国商務工作会議にて米中貿易摩擦による国内外情勢の複雑化などを議論。
25日 党中央が民主生活会を主催(~26日)。
25日 個人所得税法実施条例を公布。
28日 中央農村工作会議(~29日)。
28日 中国がアメリカ産のコメの輸入許可を発表。
29日 トランプ大統領と習国家主席が電話協議。

参考資料 中国 2018年
①  国家機構図(2018年12月末現在)
②  中国共産党・国家指導者名簿(2018年末現在)
②  中国共産党・国家指導者名簿(2018年末現在) (続き)
②  中国共産党・国家指導者名簿(2018年末現在) (続き)
②  中国共産党・国家指導者名簿(2018年末現在) (続き)
③  各省,自治区,直轄市首脳名簿(2018年末現在)

主要統計 中国 2018年
1  基礎統計

(注)1)2018年のデータはすべて速報値。2)都市部失業率は,各地の就業サービス機関に失業登録を行った人数に基づく数値である。

(出所)『中国統計年鑑2018』,国家統計局ウェブサイト( http://www.stats.gov.cn/tjsj/ndsj/),中国人民銀行ウェブサイト( http://www.pbc.gov.cn/diaochatongjisi/116219/116319/3471721/3471760/index.html)。

2  国内総支出(名目価格)

(出所)『中国統計年鑑2018』。

3  産業別国内総生産(名目価格)

(注)1)2018年のデータはすべて速報値。

(出所)表1に同じ。

4  産業別国内総生産成長率(実質価格)

(注)1)2018年のデータはすべて速報値。

(出所)表1に同じ。

5  国・地域別貿易

(出所)海関(税関)総署『各年12月輸出入商品主要国別(地域)総額表』。

6  国際収支

(注)1)その他投資には,金融デリバティブを含まない。

(出所)『中国統計年鑑』(各年版)。

7  国家財政

(出所)『中国統計年鑑2018』,中国財政部ウェブサイト

http://www.mof.gov.cn/zhengwuxinxi/caizhengxinwen/201901/t20190123_3131193.html)。

 
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