Yearbook of Asian Affairs
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2019 Volume 2019 Pages 23-36

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概 況

国内政治面では,大統領選挙でプーチン氏が再選され,2024年までの通算4期目の任期に入った。

経済面では,原油価格の上昇により1%台ながらもプラス成長が継続し,連邦政府の財政も収入の増加と支出の抑制方針により黒字に転じた。

対外関係では,アメリカなど西側諸国による経済制裁が強化された一方で,ドイツやフランスとの経済関係やトルコとの経済・軍事関係を強化するなどによってそれに対抗している。日本との関係では,首脳会談が4回開催され,9月にプーチン大統領が平和条約の年内締結を唐突に提案するなどの動きがあった。中国との関係では,首脳の往来や合同軍事演習,北朝鮮核問題での共同歩調などで引き続き関係の強化がみられる。朝鮮半島との関係では,金永南最高人民会議常任委員長が来訪し,マトヴィエンコ上院議長が北朝鮮を訪問するなど,韓国の文在寅大統領のロシア訪問とあわせて,朝鮮半島情勢への積極的な関与がみられる。東南アジア諸国との関係では,主に安全保障面での関係強化がみられた。南アジア諸国との関係では,インドとパキスタンの両国とそれぞれ軍事演習を行い,アフガニスタン和平会議を主催するなど,積極的な政策が展開されている。

国内政治

2018年は大統領選挙の年であり,3月18日の投票日に向けて現職のプーチン大統領が通算4期目に挑んだ。政権側の目標は「投票率7割・得票率7割」で有権者総数に対する絶対得票率50%以上をねらったが,結果は投票率67.5%,得票率76.7%,絶対得票率51.8%で,その目標はほぼ達成されたといえる。

当選したプーチンは4期目就任の当日5月7日に,6年間の任期を通じた政策目標を示す通称「5月大統領令」(「2024年までのロシア連邦発展の国家目標と戦略的課題」)に署名した。その内容は,(1)人口増,(2)平均寿命伸長,(3)実質所得増,(4)貧困率削減,(5)住環境改善,(6)技術革新の加速,(7)経済・社会全般へのデジタル技術導入の加速,(8)世界平均を上回る経済成長率の達成・インフレ率抑制,(9)製造業・農林水産業などの分野での輸出志向産業の創出,である。5月18日にはメドベージェフ首相率いる新内閣が発足した。

6月14日にロシアでサッカー・ワールドカップ(W杯)が開幕したが,同日,政府は年金受給開始年齢に関して男性は60歳から65歳に,女性は55歳から63歳に引き上げ,付加価値税率を18%から20%へ2019年1月1日から引き上げる方針を閣議決定した。この決定に対して,各地で抗議デモが起きプーチンの支持率も下落した。世論調査機関のレヴァダ・センターによれば,1月に80%,5月に79%だった同大統領の支持率は7月に67%へ下落した。このためプーチンは8月29日にテレビ演説で,女性の年金受給開始年齢を当初案の63歳から60歳に引き下げる修正を表明した。

支持率の低下は統一地方選挙にも影響を与えた。9月9日の統一地方選挙第1回投票では,22の連邦構成主体で知事・首長の直接選挙,16の連邦構成主体で議会選挙が実施されたが,議会選挙では11主体で与党である統一ロシアが過半数の議席を獲得できず,支持の低下が示された。

知事・首長選ではモスクワ市を含む17主体で統一ロシア系候補が当選したものの,オリョール州では共産党候補が当選した。また4主体では過半数を獲得した候補がなく9月16日に決選投票となり,ウラジーミル州では統一ロシア系候補が当選したが,ハバロフスク地方で自由民主党,ハカシア共和国で共産党の候補が当選した。また,沿海地方では統一ロシア系候補のタラセンコ知事代行が僅差で当選という選挙管理委員会決定が当初出されたが,不正選挙疑惑への抗議が相次ぎ選挙結果が無効とされ再選挙となった。再選挙を前にサハリン州のコジェミャコ知事が9月27日にサハリン州知事を辞職し沿海地方の知事代行に任命され,与党系候補となった。投票直前の12月13日に極東連邦管区の首府をハバロフスクから沿海地方のウラジオストクへ移す大統領令にプーチンが署名し,移転を公約した同代行への事実上の支援となり,同月16日に実施された再選挙では同代行が61.9%の得票率で当選した。

このように,年金改革をきっかけにした支持率の低下は統一地方選挙での不調につながったものの,プーチン政権の基盤そのものを脅かすには至っておらず,対外政策も基本的に影響を受けることはなかった。

経 済

2018年の国際原油価格(Brent)の水準が通年平均で1バレル約71ドルと,2017年の54ドルよりも上昇したことを背景に,実質GDP成長率は前年比2.3%増となり,2017年の1.6%増(2018年12月修正値)に引き続き緩やかなプラス成長を維持した。プラス成長が維持された要因として,輸出と個人消費の増加があった。前者はルーブル安や石油輸出量の増加,後者は1月と5月に実施された最低賃金の引き上げやインフレ率の低下による実質賃金の上昇によるところが大きい。

インフレ率の低位安定を受けて,中銀は2月と3月に政策金利をそれぞれ0.25%ポイントずつ引き下げて7.25%とした。しかし,アメリカが対ロシア経済制裁を4月6日と8月8日に追加したことや新興国からの資金流出傾向を背景にルーブル相場が8月に対ドルで約2年半ぶりの水準まで下落したことから,9月14日に政策金利を0.25%ポイント引き上げた。政策金利の引き上げは2014年12月以来となる。さらに12月14日には,2019年1月の付加価値税増税による物価上昇の加速を抑制する必要もあって政策金利を0.25%ポイント引き上げ,7.75%とした。なお2018年末のインフレ率は前年末比4.26%と,2017年末の同2.51%から若干上昇し,中銀が設定した目標の4%を若干上回った。

2018~2020年度(連邦財政は2015年度まで3カ年にまたがり編成されてきたが,原油価格の急落を受け2016年度予算は単年度で編成され,2017年度から再度3カ年の編成に戻された。なお財政年度は1月1日開始)の連邦予算において,2018年単年の財政収支はGDP比1.3%の赤字で編成されたが,原油価格の推移が想定を上回り財政収入の名目額が増加したことで,2018年通年の実績値で財政収支は同2.6%の黒字となった(Economic Expert Groupによる)。財政収入をGDP比でみると,2017年は18.5%,2018年は18.8%とほぼ同水準であったが,財政支出は2017年にGDP比20.1%であったものが2018年は16.1%と大幅に低下し,財政黒字化の主要因となった。支出抑制の内訳は,国防・国家安全保障・法執行費がGDP比で2017年の5.8%から2018年には4.6%と減少したのに加え,文化・社会部門費がGDP比で2017年の6.2%から2018年には4.5%と国防費を上回る大幅な減少となっている。11月30日に大統領が署名した2019~2021年度予算でも緊縮路線は維持されており,3カ年にわたりGDP比0.8~1.8%の財政黒字が見込まれている。

なお世界銀行が10月31日付で発表したDoing Business 2019によれば,ビジネス環境面でロシアは31位(前年35位)となり,39位の日本を上回った。一方,トランスペアレンシー・インターナショナルによる汚職認知指数ではロシアは180カ国中138位と低迷しており,汚職対策が課題となっている。

制裁への対抗

イギリスで3月4日に発生した元ロシア情報機関員の毒殺未遂事件に関して,日本を含めた主要7カ国(G7)外相がロシアを非難する声明を4月17日に発表した。またアメリカ財務省は4月6日,ウクライナ情勢をめぐり,アルミニウムの世界有数の大手ルサールの大株主デリパスカ氏らを新たに制裁対象とした。

制裁が強化される一方,ドイツとバルト海底経由で直接結ぶ天然ガス・パイプライン「ノルドストリーム2」の建設が進み,フランスのトタル社が北極圏のヤマル・ガス田開発に参画していることに加え,新たに同社が北極圏のArctic LNG-2プロジェクトへの出資を決めるなど,経済面での関係強化がみられる。

さらにNATO加盟国トルコとの関係強化が目立つ。11月19日には,ロシアから黒海海底経由でトルコに至る天然ガス・パイプライン「トルコストリーム」の海底部分建設完了式典がトルコのイスタンブールで行われた。トルコはロシアから新鋭の地対空ミサイルシステム「S-400」の購入を進めており,トルコのチャブシオール外相は11月20日,S-400の購入手続きの完了を発表した。多国間でも,シリア情勢をめぐりロシア,トルコ,イランの首脳会談が4月4日にトルコで,9月7日にイランで開催されるなど,アメリカとの関係が良好ではない3カ国の首脳外交が展開された。

このほか周辺諸国との関係では,8月12日,ソ連解体後から対立が続いていたカスピ海の法的地位をめぐる条約に,沿岸5カ国(ロシア,カザフスタン,トルクメニスタン,イラン,アゼルバイジャン)が調印した。カスピ海を湖と主張するイランと,海と主張する4カ国との対立を経て,国連海洋法条約の適用はせず独自の枠組(「領海」15カイリ,排他的漁業水域25カイリ)を設定し,外国軍の排除が定められた。これにより,カスピ海の海底パイプラインの建設が法的に可能となった。

日本との関係

2018年を通じて,日ロ間では前年と同様に首脳同士の会談は活発に行われ,5月26日(サンクトペテルブルク国際経済フォーラム参加後),9月10日(ウラジオストクでの東方経済フォーラム開始前日),11月14日(シンガポールでのASEAN関連首脳会議の際),12月1日(アルゼンチンのブエノスアイレスでのG20首脳会合の際)の4回開催された。東方経済フォーラムの全体会合でプーチンが前提条件抜きでの日ロ平和条約の年内締結を唐突に提案し,シンガポールの会談では二島返還に言及した1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約締結交渉を加速させる点で両首脳が合意した点が特筆される。しかし,その後の交渉などの場でロシア側は第二次世界大戦の結果により北方領土の主権を獲得したという主張を繰り返すなど,年内に平和条約が締結されることはなかった。

閣僚級では,3回目の外務防衛閣僚協議(2プラス2)と合わせて外相会談が4回実施され,オレシュキン経済発展相が計4回日本を訪問するなど,往来は活発にみられた。二階俊博自民党幹事長が4月下旬に来訪して自民党と統一ロシア党との交流促進協定を締結するなど,政党間の交流もみられた。

安全保障面では,6月5日にロシア国境警備局の艦船が小樽を訪問して海上保安庁と合同で海上犯罪阻止の合同訓練を実施し,7月5日にはロシア太平洋艦隊の艦船3隻が舞鶴港に寄港し海上自衛隊と合同で捜索・救難訓練を行い,11月10日にはソマリア沖にてロシア海軍と海上自衛隊が海賊対策の合同演習を実施するなど,両国合同の演習が前年同様に実施された。なお10月に自衛隊の河野克俊統合幕僚長が来訪し,ショイグ国防相,ゲラシモフ参謀総長と会談した。

中国との関係

中国との間では前年同様に両国の首脳が相手国を1回ずつ訪問するなど,首脳会談が4回行われた。6月8日,プーチンが中国を訪問し(訪問は2000年以降19回目),15件の文書に調印するとともに,外国人向け最高勲章の友誼勲章を受章した。続く6月9~10日には青島で上海協力機構(SCO)首脳会議が開催され,プーチンも参加した。7月26日には,南アフリカ・ヨハネスブルクでのBRICS首脳会合(25~27日)に際し,ロ中首脳が非公式に会談を実施した。9月11日,ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムに習近平国家主席が初参加し,ロ中両首脳がロシア風クレープを調理するパフォーマンスをみせた。12月1日,アルゼンチンのブエノスアイレスでのG20首脳会合の際にプーチンと習国家主席の首脳会談が行われた。

朝鮮半島をめぐる動きでは,シンガポールでの米朝首脳会談を前にした6月9日,ラヴロフ外相は朝鮮半島情勢をめぐる中国との共同行程表について,(1)好戦的発言の停止,(2)当事者間の対話開始・平和条約調印,(3)多国間対話の実施,の3段階と説明している。10月9日にはモルグロフ外務次官,中国の孔鉉佑外務次官,北朝鮮の崔善姫外務次官による協議がモスクワで行われるなど,ロシアは朝鮮半島情勢をめぐり中国と共同歩調をみせている。

極東をめぐる動きでは,2月7日,極東バイカル地域と中国東北部との協力発展に関するロ中政府間委員会共同議長のトルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表と汪洋副首相が中国ハルビンで会談し,ロ中地域間協力交流年の開幕式典に出席した。なお同委員会の第2回会合は8月22日に中国大連で開かれた。6月16日,ロ中人民元投資基金管理会社の設立協定がハルビンで調印されたが,同基金にはロ中投資基金(RCIF)と中国側2社が出資している。なお8月23日には,ガスプロム社がサハリン=ハバロフスク=ウラジオストク間の天然ガス・パイプラインを中国国境まで延伸する設計を業者に委託したとの報道が出ている。

北極をめぐる動きでは,1月26日,中国国務院新聞弁公室が「中国の北極政策」を発表し,「一帯一路」構想と北極政策を結びつけて「氷上のシルクロード」と称している。7月19日,ヤマル半島からの液化天然ガス(LNG)輸送船が北極海の東回り航路で砕氷船の先導なしに江蘇省如東港に到着し,ノヴァク・エネルギー相らが記念式典に参加した。同航路の航海日数は19日で,従来のスエズ運河とマラッカ海峡を経由する航路(35日)の約半分となった。7月30日,中国海軍代表団がロシア北方艦隊主力拠点のセヴェロモルスクを訪問し,エヴメノフ北方艦隊司令官と沈金龍人民解放軍海軍司令員が会談した。

安全保障面では,地対空ミサイルシステム「S-400」の供給面で進展がみられた。7月26日には,ロシアが4月に引き渡しを始めたS-400の最初の配備分について中国側が受領を完了したという報道がなされた。8月27日,李作成中央軍事委員会連合参謀部参謀長が来訪し,ゲラシモフ参謀総長と会談したほか,22~29日に実施されたSCO合同軍事演習「平和の使命2018」を視察した。9月11~17日には,ロシア・中国・モンゴル3カ国による大規模軍事演習「ヴォストーク2018」がザバイカル地方で実施された。4年に1度実施される同演習は,もともと中国を仮想敵国に含めていたが,今次演習では中国軍も参加することになった。10月21日,太平洋艦隊の艦船3隻が青島港に寄港した後,黄海で中国海軍との合同演習を行った。

エネルギー資源をめぐる動きでは,9月11日,ノバテク社のミヘリソンCEOは東方経済フォーラムにおいて,北極圏の「Arctic LNG-2」の権益をフランスのトタル社と同条件で中国石油天然気集団(CNPC)に売却する準備があると述べた。9月16~18日,中国の韓正副首相が来訪し,17日に貿易エネルギー協力政府間委員会第15回会合をコザク副首相とともに開催した。会合終了後,コザク副首相はロ中間の「シベリアの力2」(西ルート)でのガス供給契約を年内に締結する方針を表明した。なお,中国税関によれば2018年の中国の原油輸入先はロシアが3年連続で最大の供給国となっている。

経済面では,前年から引き続き,ロ中間の貿易決済で米ドルを排除しようとする動きがみられる。たとえば,メドベージェフ首相が11月5日に上海で開催された第1回中国国際輸入博覧会の開幕式での演説で,ルーブルと人民元による決済拡大の必要性を指摘した。

北朝鮮・韓国との関係

米朝首脳会談の開催など朝鮮半島をめぐる情勢が変化するなか,ロシアは北朝鮮および韓国の両国との関係を強化し,影響力を強めようとしている。1月11日,プーチン大統領が北朝鮮の金正恩国務委員長を「核兵器とミサイルの獲得という戦略的課題を解決しゲームに勝った」「成熟した政治家」と評価する発言を行った。1月26日,ロシアが国連制裁決議に違反して北朝鮮産石炭を日本や韓国に再輸出したとロイター通信が報道したが,27日,ペスコフ大統領報道官は制裁決議を遵守していると反論した。

ロシア国内では極東を中心に北朝鮮からの労働者が多数就労しているが,国連の経済制裁により本国への帰還が求められている。1月12日,タラセンコ沿海地方知事代行は,同地方に滞在する約1万人の北朝鮮労働者が残留できるよう連邦政府に要請した。2月6日,マツェゴラ駐北朝鮮大使は,複数の連邦構成主体から北朝鮮労働者の送還が開始されているが,帰国を望まない労働者の強制送還は行わずに国連難民高等弁務官事務所と協議していることを明らかにした。2月8日,外務省は,国連安保理の制裁決議は北朝鮮労働者の2017年12月から24カ月以内の本国送還を規定しており,期限まではロシア国内で就労可能であると述べている。

3月上旬に米朝首脳会談の6月開催の実現性が高まると,北朝鮮,韓国との協議が活発化した。3月21日,ガルシュカ極東発展相が北朝鮮を訪問し,金英在対外経済相とともにロ朝貿易経済科学技術協力に関する政府間委員会第8回会合を開催した。4月9~12日,北朝鮮の李容浩外相が来訪し,ラヴロフ外相,トルトネフ副首相,パトルシェフ安全保障会議書記と会談した。5月31日,ラヴロフ外相が北朝鮮を訪問して金正恩国務委員長らと会談した。6月12~15日,北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長が来訪し,W杯開会式に出席してプーチンと会談した。7月16日,W杯閉会式に出席した北朝鮮の李龍南副総理とコズロフ極東発展相が会談した。7月19日,モルグロフ外務次官が北朝鮮を訪問し,李容浩外相,崔善姫外務次官,申弘哲外務次官と会談した。9月7日,マトヴィエンコ上院議長が北朝鮮を訪問し,金正恩委員長らと会談した。なお同議長は10月4~6日に韓国を訪問し,文在寅大統領と会談している。

9月11~13日にウラジオストクで開催された東方経済フォーラムには,韓国から李洛淵首相,北朝鮮から金英在対外経済相が参加した。同フォーラムの会期中,ロシア・北朝鮮・韓国による経済協力会合が行われ,鉄道連結や天然ガス・パイプラインの敷設で合意した。

韓国との関係については,6月1日,チトフ第1外務次官と林聖男第1外務次官による戦略対話がソウルで開催された。6月5日,モルグロフ外務次官と李度勲外務省朝鮮半島平和安全保障問題特別代表がモスクワで朝鮮半島情勢などを協議した。6月15日,ガスプロム社のマルケロフ副社長は,北朝鮮を経由して韓国に至る天然ガス・パイプラインの建設協議を韓国側との間で再開したと発表した。

6月22日,韓国の文在寅大統領が来訪してプーチンと会談し,Arctic LNG-2プロジェクトへの韓国ガス公社(KOGAS)の参入可能性に関する覚書など14件の文書に調印した。プーチンは会談後,韓国との貿易額が増加傾向にあり,アジアで中国に次ぐ第2の貿易相手国となったことを評価した。なお11月14日にもシンガポールでのASEAN首脳会合に際し両国の首脳会談が開催された。

安全保障面では,9月20日,ウラジオストク沖で国境警備局と韓国の海洋警察庁による合同演習が実施された。海軍艦船による相互訪問もみられ,10月10日,太平洋艦隊の艦船2隻が韓国の済州海軍基地に寄港し,韓国海軍創設70周年記念行事に参加する一方,11月12~15日,韓国海軍の艦船3隻が実務訪問のためウラジオストクに寄港した。

モンゴルとの関係

モンゴルとの間では,主に安全保障面で閣僚の往来が活発化した。4月4日,モンゴルのエンフボルド国防相がモスクワ国際安全保障会議に出席し,ショイグ国防相と会談した。なお両大臣による会談は,6月6日,ロシアのクイズイルでのCIS国防相評議会会合の際にも行われた。9月29日から10月12日にかけて,合同軍事演習「セレンガ2018」がロシアのブリヤート共和国で実施され,両国合わせて軍人1000人が参加した。10月18日,ショイグ国防相がモンゴルを訪問し,エンフボルド国防相と会談し,軍事面の長期協力プログラムに調印した。

首脳会談も複数回行われた。6月9日,中国青島で開催されたSCO首脳会合の際,ロ中モンゴル3国首脳会談に加えてプーチンとバトトルガ大統領との個別会談も行われ,プーチンはモンゴル向け電力料金の引き下げに言及した。9月上旬にウラジオストクで開催された東方経済フォーラムにバトトルガ大統領が参加し,プーチンと会談した。

ベトナムとの関係

ベトナムとは要人の往来が活発化している。1月22日,ショイグ国防相はベトナムを訪問し,23日にチャン・ダイ・クアン国家主席,ゴ・スアン・リック国防相,グエン・フー・チョン共産党書記長と会談した。3月22日,ラヴロフ外相がベトナムを訪問し,クアン国家主席,チョン共産党書記長,ファム・ビン・ミン副首相兼外相と会談した。4月4日,モスクワ国際安全保障会議に際し,ベトナムのリック国防相がショイグ国防相と会談した。5月15日,国営石油大手ロスネフチ社がベトナムの子会社による南シナ海域での石油掘削開始を発表したが,17日には中国外務省報道官が「中国の許可がない」と批判した。7月10日,ベトナムとの第10回外務次官級戦略対話がモスクワで開催された。同日,ペトロベトナムのチャン・シー・タイン会長がガスプロム社のミレル社長と会談し,合弁でのLNG工場建設などを協議した。

9月5日,ベトナムのグエン共産党書記長が来訪し(~8日),ソチでのプーチンとの会談で16件の文書に調印した。会談ではベトナム企業が極東などで農業分野への投資を行っていることを評価するとともに,貿易面で自国通貨での決済を拡大することで合意した。11月16日,メドベージェフ首相はパプアニューギニアでのAPEC首脳会合に出席した後,18日にベトナムを訪問し,19日にグエン・スアン・フック首相と会談した。会談ではユーラシア経済同盟(EAEU)とベトナムとの自由貿易協定締結によるロ越間の貿易取引増加を評価し,エネルギー関連での協力でも合意した。

その他の東南アジア諸国との関係

シンガポールとの間では,11月13日,プーチンがシンガポールを訪問し,14日に第3回ロシアASEAN首脳会議に出席して戦略的パートナーシップに関する共同宣言を採択したのに加え,15日には第13回東アジア首脳会議にロシア大統領として初めて出席した。

ミャンマーとの間では,1月20日,ショイグ国防相はミャンマーを訪問し,ミンアウンフライン国軍総司令官と会談し,軍艦の相互寄港に関する協定に調印した。8月17日,ミャンマーのマウンマウンチョー空軍司令官がモスクワを訪問し,フォミン国防次官と会談した。8月21日,国際軍事技術展覧会「アルミヤ2018」が26日までの期間でモスクワにて開催され,その際にミャンマーのミンアウンフライン国軍総司令官とショイグ国防相が会談した。10月22日,フォミン国防次官がミャンマーを訪問し,ミンアウンフライン国軍総司令官と会談した。

インドネシアとの間では,戦闘機Su-35の供給をめぐる動きがみられた。2月15日,ロシアがインドネシアにSu-35を11機売却すると報じられた。2月28日から3月1日までパトルシェフ安全保障会議書記がインドネシアを訪問し,ジョコ大統領やウィラント政治・法務・治安担当調整相と会談した上で第4回安全保障協議に出席した。ただし,Su-35の売却はアメリカによる制裁の影響で延期されたと10月4日に報じられた。

太平洋艦隊の艦船による東南アジア方面への航行も,前年に引き続き活発に行われ,カンボジアのシハヌークビル(5月22~26日),タイのサッタヒープ(5月27~31日),ベトナムのカムラン湾(6月3~6日),フィリピンのマニラ(6月9~14日)に同艦隊の艦船3隻が寄港した。また11月18日には同艦隊の艦船3隻がブルネイのムアラ港に寄港し,ブルネイ海軍と合同訓練を行った(~23日)のち,シンガポールに寄港した(27日~12月2日)。一方,10月1日にはフィリピン海軍の艦船がウラジオストクに寄港した(~6日)。

インドとの関係

2018年は,前年に引き続きインドのモディ首相が来訪したのに加え,プーチンのインド訪問が行われた。5月21日,モディ首相が来訪し,ソチでプーチンと会談し,ユーラシア経済同盟とインドとの自由貿易協定締結の可能性などを協議した。10月4~5日,プーチンがインドを訪問しモディ首相と会談し,S-400の5個連隊分のインドへの供給契約が締結され,フリゲート艦4隻の供給に関し協議された。多国間会合の場でも,7月25~27日南アフリカでのBRICS首脳会合および11月のシンガポールでの東アジア首脳会議の際に,両首相の会談が行われた。

安全保障面の関係強化も継続している。9月18~29日,インドとの空軍合同演習「アヴィアインドラ2018」第1部がロシアのリペツク州で実施された。11月18~28日,陸軍合同演習「インドラ2018」がインドのウッタルプラデーシュ州で実施された。12月10~21日,空軍合同演習「アヴィアインドラ2018」第2部がインドのラージャスターン州で実施された。また12月13~16日には,海軍合同演習「インドラ・ネイビー2018」がベンガル湾にて実施され,不審船の臨検や艦載ヘリ離着陸などの訓練が行われた。

その他の南アジア諸国との関係

パキスタンとの関係では,近年恒例の合同軍事演習が継続している。4月24日,バジュワ陸軍参謀長が来訪し,ゲラシモフ参謀総長,サリュコフ陸軍総司令官と会談した。10月21日から11月4日にかけて,パキスタンとの第3回合同軍事演習「友好2018」がパキスタン北部にて実施された。11月30日,ロシア北洋艦隊の艦船2隻がパキスタンのカラチ港に寄港後,パキスタン海軍との合同演習「アラビアのモンスーン2018」に参加した。

アフガニスタン問題への積極的な関与が前年に引き続きみられる。11月9日,モスクワでアフガニスタン和平に関する国際会合が開催され,同会合にはターリバーンの代表が参加し,アメリカの代表もオブザーバーで参加した。

バングラデシュとの関係では,7月14日,ルプール原子力発電所2号機の建設開始式典に,受注したロシア国営ロスアトム社関係者とともにボリソフ副首相が参加した。

2019年の課題

内政面では,プーチン政権にとって,年金改革に対する反発により低下した支持率を回復させることが課題となっている。経済面では,緩やかなプラス成長が見込まれるものの,2019年初めに付加価値税率が18%から20%へ引き上げられることで個人消費の冷え込みが予想されるが,これがどの程度の影響をもたらすのかという点に留意が必要であろう。対外関係では,欧米による経済制裁が継続されるなかで,引き続きアジア諸国との積極的な関係構築が図られよう。特に,中国のみならず東南アジアや南アジア諸国との間で近年みられる安全保障面での関係強化がどのように展開されるのか,S-400やSu-35など兵器の輸出の動きも注目される。

(和光大学准教授)

重要日誌 ロシアのアジア政策 2018年
   1月
11日 プーチン大統領,北朝鮮の金正恩委員長を「成熟した政治家」と評価する発言。
20日 ショイグ国防相,ミャンマー訪問。22日,ベトナム訪問。
29日 駐日大使がアファナシエフからガルージンに交代。
   2月
1日 モルグロフ外務次官,モスクワで韓国の李度勲朝鮮半島平和安全保障問題特別代表と会談。
3日 北朝鮮の万景峰号,ウラジオストク沖で燃料切れのSOS発信。
3日 外務省のクリク第1アジア局長,北朝鮮外務省の任天一第1欧州局長と会談。
7日 極東バイカル地域と中国東北部との協力発展に関するロ中政府間委員会共同議長のトルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表と汪洋副首相,ハルビンで会談。
9日 中銀,政策金利を7.75%から7.50%に引き下げ。
28日 パトルシェフ安全保障会議書記,タイとインドネシアを訪問。
   3月
1日 プーチン大統領,年次教書演説。
18日 大統領選挙投票日。プーチン4期目当選。
21日 ガルシュカ極東発展相,北朝鮮訪問。
22日 ラヴロフ外相,ベトナム訪問(~23日)。
23日 中銀,政策金利を7.50%から7.25%に引き下げ。
25日 西シベリアのケメロヴォ市で大規模商業施設火災発生,死者64人。
   4月
1日 ケメロヴォ州知事,辞任。
3日 モスクワ国際安全保障会議に際し,モンゴルのエンフボルド国防相,ベトナムのゴー・スアン・リク国防相らとショイグ国防相が会談(~4日)。
4日 ロシア,トルコ,イランの3カ国首脳会談,トルコのアンカラで開催。
6日 アメリカ,対ロシア経済制裁を強化。
9日 北朝鮮の李容浩外相,来訪(~12日)。
17日 日本など主要7カ国(G7)外相,イギリスでの元ロシア情報機関員暗殺未遂事件についてロシアを非難する声明を発表。
24日 パキスタンのバジュワ陸軍参謀長,来訪。
27日 二階自民党幹事長,来訪。
27日 トルトネフ副首相,モンゴル訪問。
   5月
7日 プーチン大統領,4期目任期中の政策目標を示す「5月大統領令」に署名。
15日 国営ロスネフチ社,ベトナムの子会社による南シナ海域での石油掘削開始を発表。17日に中国外務省が「中国の許可がない」と批判。
18日 メドベージェフ内閣発足。
21日 インドのモディ首相,来訪。
22日 太平洋艦隊の艦船3隻,カンボジアのシハヌークビルに寄港(~26日)。27日,タイのサッタヒープに寄港(~31日)。6月3日,ベトナムのカムラン湾に寄港(~6日)。9日,フィリピンのマニラに寄港(~14日)。
25日 安倍首相,来訪。サンクトペテルブルク国際経済フォーラムに出席。26日,モスクワで日ロ首脳会談。
31日 ラヴロフ外相,北朝鮮訪問。
   6月
1日 韓国のソウルでロ韓戦略対話開催。
5日 サハリン州国境警備局の警備艇「コーラル」,小樽に寄港。
5日 モスクワでモルグロフ外務次官と韓国の李度勲外務省朝鮮半島平和安全保障問題特別代表,朝鮮半島情勢などを協議。
6日 ロシアのクイズイルでCIS国防相評議会会合開催。ショイグ国防相,来訪したモンゴルのエンフボルド国防相と会談。
8日 プーチン大統領,中国訪問。9日,青島でSCO首脳会合に参加(~10日),ロ中モンゴル3国首脳会談開催。
12日 北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長,来訪(~15日)。
14日 W杯ロシア大会開幕。
14日 年金支給開始年齢引き上げ案,付加価値税率引き上げ案を政府が発表。
15日 ガスプロム社のマルケロフ副社長,ロシア=北朝鮮=韓国間の天然ガスパイプライン建設協議を韓国と再開したと表明。
16日 ロ中人民元投資基金管理会社の設立協定,ハルビンで調印。
22日 文在寅韓国大統領,来訪。
   7月
5日 ロシア太平洋艦隊の艦船3隻,舞鶴港に寄港。
10日 モスクワでベトナムとの第10回外務次官級戦略対話開催。ペトロベトナムのチャン・シー・タイン会長,ガスプロムのミレル社長と会談。
14日 ボリソフ副首相,バングラデシュ訪問。
16日 フィンランドのヘルシンキで米ロ首脳会談。
16日 北朝鮮の李龍南副総理,来訪。
19日 ヤマル半島からの液化天然ガス輸送船,北極海東回り航路で砕氷船の先導なしに中国江蘇省如東港に到着。
19日 モルグロフ外務次官,北朝鮮訪問。
25日 南アフリカのヨハネスブルクでBRICS首脳会合(~27日)。
30日 中国海軍代表団,ロシア北方艦隊主力拠点のセヴェロモルスクを訪問。
31日 来訪中の野田総務相,ノスコフ・デジタル発展通信マスコミ相と会談。
31日 モスクワで第3回日ロ外務防衛閣僚協議(「2プラス2」)開催。
   8月
12日 カスピ海の法的地位をめぐる条約にロシアなど沿岸5カ国が調印。
17日 ミャンマーのマウンマウンチョー空軍司令官,来訪。
21日 モスクワで国際軍事技術展覧会「アルミヤ2018」開催(~26日)。ミャンマーのミンアウンフライン国軍総司令官が来訪。
22日 中国大連にて極東バイカル地域と中国東北部との協力発展に関する政府間委員会第2回会合開催。
27日 中国の李作成中央軍事委員会連合参謀部参謀長,来訪。22~29日のSCO合同軍事演習「平和の使命2018」を視察。
29日 プーチン大統領,年金改革問題でテレビ演説。女性の年金受給開始年齢につき,当初案の63歳から60歳への引き下げを表明。
   9月
5日 ベトナムのグエン・フー・チョン共産党書記長,来訪(~8日)。
7日 ロシア,トルコ,イランの3カ国首脳会談,イランのテヘランで開催。
7日 マトヴィエンコ上院議長,北朝鮮訪問。
9日 統一地方選挙,第1回投票実施。
10日 安倍首相,ウラジオストク訪問。プーチン大統領と通算22回目の首脳会談。
11日 ウラジオストクで第4回東方経済フォーラム開催(~13日)。
13日 中国・モンゴルとの軍事演習「ヴォストーク2018」演習(11~17日)の現場をプーチン大統領,ショイグ国防相,ゲラシモフ参謀総長,中国の魏国防相が視察。
14日 中銀,政策金利を7.25%から7.50%に引き上げ。
16日 統一地方選挙,決選投票実施。不正疑惑で沿海地方知事選は12月16日に再選挙。
17日 中国との貿易エネルギー協力政府間委員会第15回会合,開催。
18日 インドとの空軍合同演習「アヴィアインドラ2018」第1部,ロシアのリペツク州で実施(~29日)。
20日 ウラジオストク沖でロシア国境警備隊と韓国海洋警察庁による合同演習実施。
29日 モンゴルとの合同軍事演習「セレンガ2018」実施(~10月12日)。
   10月
1日 パトルシェフ安全保障会議書記,ブルネイ訪問。
1日 フィリピン海軍の艦船,ウラジオストクに寄港(~6日)。
4日 プーチン大統領,インド訪問(~5日)。
4日 マトヴィエンコ上院議長,韓国訪問。
6日 北朝鮮の崔善姫外務次官,来訪。
8日 自衛隊の河野克俊統合幕僚長,来訪。
9日 モスクワでモルグロフ外務次官,中国の孔鉉佑外務次官,北朝鮮の崔善姫外務次官と協議。
10日 太平洋艦隊の艦船,韓国の済州海軍基地に寄港。
18日 ショイグ国防相,モンゴル訪問。
20日 アメリカのトランプ大統領,中距離核戦力全廃条約からの離脱の意向を表明。
21日 太平洋艦隊の艦船3隻,中国の青島港に寄港。黄海で中国海軍と合同演習。
21日 パキスタンとの合同軍事演習「友好2018」,パキスタンで実施(~11月4日)。
22日 フォミン国防次官,ミャンマー訪問。
30日 レベデフ最高裁長官,北朝鮮訪問(~11月1日)。
   11月
5日 メドベージェフ首相,中国訪問。
9日 モスクワでアフガニスタン和平に関する国際会合開催。ターリバーン代表も参加。
10日 海上自衛隊とロシア海軍による海賊対策の合同演習,ソマリア沖で実施。
12日 韓国海軍の艦船3隻,ウラジオストクに寄港(~15日)。
13日 プーチン大統領,シンガポール訪問。14日,第3回ロシアASEAN首脳会議に出席。
16日 メドベージェフ首相,パプアニューギニア訪問。APEC首脳会合に出席。18日,ベトナムを訪問。
18日 太平洋艦隊の艦船3隻,ブルネイのムアラに寄港。
18日 インドとの陸軍合同演習「インドラ2018」,インドで実施(~28日)。
19日 「トルコストリーム」海底部分建設完了式典。プーチン大統領も出席。
20日 トルコのチャブシオール外相,ロシアからのS-400の購入は不可逆と表明。
27日 太平洋艦隊の艦船3隻,シンガポールに寄港(~12月2日)。
30日 プーチン大統領,2019~2021年予算に署名。緊縮路線を維持。
30日 北洋艦隊の艦船2隻,パキスタンのカラチ港に寄港。
   12月
1日 アルゼンチンのブエノスアイレスでG20首脳会合。日露首脳会談も実施。
10日 インドとの空軍合同演習「アヴィアインドラ2018」第2部,インドのラージャスターン州で実施(~21日)。
13日 極東連邦管区の首府,ハバロフスクからウラジオストクに移転。
13日 インドとの海軍合同演習「インドラ・ネイビー2018」,ベンガル湾で実施(~16日)。
14日 中銀,政策金利を7.50%から7.75%に引き上げ。
16日 沿海地方知事選の再選挙で与党候補が当選。
 
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