Yearbook of Asian Affairs
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2019 Volume 2019 Pages 69-94

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2018年の朝鮮民主主義人民共和国

概 況

2018年の朝鮮民主主義人民共和国(以下,「朝鮮」とし,南北関係においては「北側」とする)では,国内政治では国家核武力が完成したことから並進路線の終了が宣言され,経済建設に集中することが呼びかけられた。

経済では,制裁のなかでも景気が萎縮しないよう投資拡大に努めているものの,農業部門などで制裁の影響が徐々に出始めている。

南北関係については,金正恩委員長の板門店南側の訪問や文在寅大統領の平壌での肉声演説など過去にはない形式で3度にわたって首脳会談が行われた一方,米韓合同軍事演習が中止となり,朝鮮半島の緊張状態は一気に緩和した。

外交では,朝鮮半島非核化への前進となる史上初の朝米首脳会談が実現し,この流れの中で冷却していた朝中関係が急速に緊密となった。

国内政治

核武力を軸とする並進路線の終了

朝鮮においては金正恩が朝鮮労働党(以下,党)での役職は党中央委員会委員長,朝鮮人民軍(以下,人民軍)での役職は最高司令官,国家での役職は国務委員会委員長として,党と軍と国家の最高の地位にある。金正恩は,2013年以来毎年行っている「新年の辞」を2018年も行った。

2018年1月1日の「新年の辞」では2017年11月29日の火星-15号の打ち上げ成功を機に発表された国家核武力の完成宣言が改めて強調された。そして金正恩は,「わが国の核武力はアメリカのいかなる核の脅威も粉砕して対応することができ,アメリカが冒険的な火遊びを行うことができないように制圧する強力な抑止力である」とし,こうした抑止力により「アメリカは決して私とわが国を相手にして戦争を仕掛けることができない」と述べた。

さらに金正恩は,今年が朝鮮の建国70周年に当たることを指摘し,「共和国の核武力建設で収めた歴史的勝利を新たな発展の跳躍台とし,社会主義強国建設のすべての戦線で新たな勝利を獲得するための革命的な総攻勢を展開していくべきである」と強調し,「革命的な総攻勢で社会主義強国建設のすべての戦線で新たな勝利を獲得しよう」というスローガンを提示した。

これまでの核兵器とミサイルの開発は,経済と国防建設を同時に推し進める「新しい並進路線」のもとで進められた。理屈からすると「国家核武力が完成」は並進路線の一方である核兵器を基本とする国防建設の完了を意味するので,もはや経済と国防建設を「並進」させる必要はなくなるはずである。

この理屈どおり,4月20日に開催された党中央委員会第7期第3回総会(以下,総会)では,並進路線の終了が宣言され,経済建設に集中することを明言した。

総会の第1議題では,金正恩が「革命発展の新たな高い段階の要求に即して社会主義建設をさらに力強く推し進めるためのわが党の課題について」と題する報告を行った。報告では「国家核武力建設という歴史的大業を5年足らずという短期間に完璧に達成した」ことを強調し,これを「並進路線の偉大な勝利」と位置づけた。そして「核兵器実用化の完結が検証されたという条件の下,もはやわれわれには,いかなる核実験も中長距離・大陸間弾道ミサイルの試験発射も必要なくなり,それに伴い北部核実験場も自らの使命を終えた」と結論づけた。

総会では第1議題に関する決定書「経済建設と核武力建設の並進路線の偉大な勝利を宣布することについて」が採択され,(1)国家核武力完成宣言,(2)4月21日以降の核・ミサイル発射実験の中止,(3)核実験中止のための国際協力,(4)核兵器と核技術を移転しないこと,(5)経済建設への集中,(6)朝鮮半島の平和・安定構築のための国際協力をうたった。

もちろん,並進路線の終了宣言は,南北首脳会談を含む朝鮮半島情勢の平和構築の環境が醸成されたことと,アメリカが朝米首脳会談を含む対話に応じてきたことなどが強く影響していることは否めない。しかし,総会における並進路線の終了宣言は南北および朝米首脳会談についても言及されていない。金正恩は,報告で「昨年,国家核武力完成を宣布した後,われわれの主導的な行動と努力によって全般的情勢がわが革命に有利に急変している」と述べ,「わずか数カ月前までは想像すらできなかった出来事が連発している驚異的な現実は,わが党の並進路線がもたらした輝かしい結実だ」と強調した。

金正恩は第1議題に関する報告のなかで「経済建設と核武力建設を並進させることに関する戦略的路線が掲げた歴史的課題が輝かしく遂行された今日,わが党の前には勝利の信念高らかに革命の前進速度を一層加速化し,社会主義偉業の最後の勝利を早めなければならないという重要な革命課題が提起されている」と述べた。そして「わが共和国が世界的な政治・思想強国,軍事強国の地位に確固として上り詰めた現段階で,全党,全国が社会主義経済建設に総力を集中すること,これがわが党の戦略的路線である」と表明した。これにより,並進路線は,経済建設に総力を集中する「新たな戦略的路線」に転換されることとなった。

政府の人事

4月11日の最高人民会議第13期第6回会議では第3議題として「組織問題」が扱われ,黄炳瑞が国務委員会副委員長から,金己男,李万建,金元弘が同委員から解任され,金正覚,朴光浩,太鍾守,鄭京澤が国務委員会委員に補選された。黄炳瑞の解任と金正覚の補選は人民軍総政治局長が黄炳瑞から金正覚に交代したこと(2月8日判明),金己男の解任と朴光浩の補選は党宣伝煽動部長が金己男から朴光浩に交代したこと(3月28日判明),李万建の解任と太鍾守の補選は党軍需工業部長が李万建から太鍾守に交代したこと,金元弘の解任と鄭京澤の補選も国家保衛相が金元弘から鄭京澤に交代したことに関する措置であるとみられる。

2016年6月の第13期第4回会議で国防委員会から改編された国務委員会はこれまで,金正恩委員長の下,副委員長3人と委員8人で構成されていたが,今回の人事により国務委員会は金正恩委員長と副委員長2人(崔龍海と朴鳳柱),委員9人(金英哲,李秀勇,李容浩,朴英植,崔富日,金正覚,朴光浩,太鍾守,鄭京澤)という体制となった。

党の人事

4月20日の党中央委員会第7期第3回総会では第3議題として「組織問題」が扱われ,党政治局員,党中央委員および委員候捕の異動が発表された。

政治局員には金正覚人民軍総政治局長・次帥が補選された。これは前述のとおり金正覚が黄炳瑞に代わって人民軍総政治局長に就任したことに伴う措置であるとみられる。なお,金正覚もその後,人民軍総政治局長を解任され,金秀吉に交代した(5月26日判明)。

党中央委員には8人が補選された。このうち委員候補から委員に昇格したのは申永哲(内閣政治局長),孫哲柱(航空・反航空軍政治委員,航空軍上将),張吉成(党中央軍事委委員,陸軍上将),金聖南(党国際部副部長)の4人であり,残りの4人には金俊善(経歴不明),金昌鮮(国務委員会部長),鄭英国(最高人民会議常任委員会書記長),李斗星(中将)が名を連ねた。

党中央委員候補には,金俊善(経歴不明),李善権(祖国平和統一委員会委員長),洪正得(人民軍所属),石相元(少将),張吉龍(化学工業相),朴勲(建設建材工業相),高基哲(経歴不明),安明建(陸軍中将),高明鉄(北倉地区青年炭鉱連合企業所支配人),洪万浩(最高人民会議第13期代議員),金哲夏(興南肥料連合企業所支配人),金用九(経歴不明),金哲龍(白頭山英雄青年突撃隊指導局局長),金日国(体育相)ら14人が補選された。

このほか,総会では高鉄万(貿易銀行副総裁)と崔成根(順川地区青年炭鉱連合企業所2・8直洞青年炭鉱支配人)が党中央検査委員会委員に補選された。

一方,党中央委員・委員候補,党中央検査委委員らの解任に関する具体的内容は発表されなかった。しかし,補選された人物に国家や軍隊,重要企業の責任者が多いことはこれまでと同様であり,今回の人事に関して党の権力構造に及ぶような変化は確認できない。

南北関係

金正恩は2018年の「新年の辞」で平昌で開かれる冬季オリンピック競技大会について「民族の威信を誇示する良い機会となるであろうし,われわれは大会が成功裏に開催されることを心から望む。このような見地からわれわれは代表団の派遣を含めて必要な措置を講じる用意があり,このために北南当局が緊急に会うこともできるであろう」と述べた。

これを受けて1月9日に板門店で南北高位級会談が開かれ,北側が平昌オリンピックに高位級代表団と民族オリンピック委員会(国内オリンピック委員会=NOC)代表団,選手団,応援団,芸術団,テコンドー演武団,記者団を派遣することなどで合意した。1月17日には南北の実務協議が開かれ,開会式での統一旗を掲げての南北合同入場行進や,アイスホッケーの南北合同チームの結成について合意し,同月20日に国際オリンピック委員会に承認された。

南北合意にもとづき,南北スキー選手の合同練習が北側の馬息嶺スキー場で実施(1月31日~2月1日)され,権赫峰文化省局長と玄松月三池淵管弦楽団団長が率いる北側芸術団による「平昌冬季オリンピック・パラリンピック成功祈願三池淵管弦楽団特別公演」と題された公演が8日に江陵,11日にソウルと計2回行われた。北側芸術団の韓国公演は7回目で,2002年8月にソウルで開かれた「8・15民族統一大会」以来15年半ぶりであり,地方都市での公演は初めてとなった。

南北和解の雰囲気が醸されるなかで,2月9日から金永南最高人民会議常任委委員長を団長とする高位級代表団が南側を訪問した。代表団には,金与正党宣伝煽動部第1副部長と李善権祖国平和統一委員会委員長も含まれた。金永南団長は9日夜,平昌オリンピック開会式の直前に開かれた夕食会を兼ねた歓迎レセプションに出席し,翌日10日には青瓦台で文在寅大統領と会見した。朝鮮中央通信2月11日発によると10日に青瓦台での会見で,金正恩の委任を受けた金与正が席上,親書を伝達し,金正恩の意図を口頭で伝えたと報じた。青瓦台報道官の発表によると,会見の席上,金与正が文在寅に対して,金正恩が文在寅と「早い時期に会う用意」があり,「都合の良い時期」に訪問するよう要請するとのメッセージを口頭で伝えたとされる。これに対し,文在寅は訪北に前向きな姿勢を示した。

南側は,3月5日に鄭義溶青瓦台国家安保室室長を首席とする特別使節団を5日から1泊2日の日程で北側に派遣した。金正恩は,6日に特別使節団と会見した。3月6日発朝鮮中央通信は金正恩が「南側特使から首脳対面に関連する文在寅大統領の意志を伝え聞いて意見を交換し,満足のいく合意を得た」と伝えた。また金正恩が「当該部門がこのことに関する実務的措置を速やかに講じることに関する綱領的な指示」を出したとも報じた。

帰還した特使団はそのまま青瓦台に直行し,訪朝結果について文在寅に報告した。鄭義溶は同日に青瓦台で記者会見を行い,金正恩との合意内容を発表した。それは,(1)南と北は4月末,板門店の「平和の家」で第3回南北首脳会談を開催することにし,そのために具体的な実務協議を行う,(2)南と北は軍事的緊張の緩和と緊密な協議のため,首脳間のホットラインを設置することにし,第3回南北首脳会談の前に最初の通話を実施する,(3)北側は朝鮮半島の非核化の意志を明らかにし,朝鮮に対する軍事的脅威が解消され,朝鮮の体制の安全が保障されれば,核を保有する理由がないという点を明確にした,(4)北側は非核化問題の協議および朝米関係正常化のため,アメリカと虚心坦懐に対話を行うことができるという意思を表明した,(5)対話が続く間,北側は追加の核実験および弾道ミサイルの試験発射など,戦略挑発を再開することはないということを明確にし,核兵器はもとより,通常兵器を南側に対して使用しないことを確約した,(6)北側は平昌オリンピックのためにつくり出された南北間の不可侵と協力の良好な雰囲気を維持していくため,南側のテコンドー演武団と芸術団の平壌訪問を招請したというものであった。

4月27日に板門店南側の「平和の家」で首脳会談が行われた。南北両首脳は軍事境界線を示すコンクリート製の縁石まで出向き,境界線を挟んで握手を交わし,予定時刻の9時30分に金正恩は軍事境界線を越えた。その際,両首脳が手をつないで一緒に北側に渡るという「サプライズ」もあった。首脳会談には北側から金英哲党副委員長兼統一戦線部長と金与正,韓国側からは任鍾皙大統領府秘書室長と徐薫国家情報院長がそれぞれ同席した。その後,両首脳は軍事境界線の標識がある「徒歩の橋」まで散策し,途中ベンチに座り約30分にわたり単独で会談を行った。

散策を終えた両首脳は「平和の家」に戻り,共同宣言「朝鮮半島の平和と繁栄,統一のための板門店宣言」(以下,板門店宣言)に署名した。板門店宣言の骨子は(1)関係の改善と発展に関して,各分野の対話と協議を早期に開催し,開城に共同連絡事務所を設置し,8月のアジア大会に共同出場し,8月15日に離散家族再会行事を実施し,経済協力を推進する,(2)軍事的緊張緩和に関して,拡声器放送などすべての敵対行為を中止し,朝鮮西海(黄海)の北方限界線(NLL)を平和水域にし,将官級軍事会談を開催する,(3)平和体制構築に関して,南北の不可侵合意を再確認し,段階的な軍縮を実施し,朝鮮戦争の年内終結のために米中と協議し,朝鮮半島の完全な非核化を実現する,というものである。また,宣言には首脳会談の定例化と秋の文在寅の訪北も明記された。

文在寅の訪北は9月18~20日の日程で開催することが決まった。また,それに先立ち9月14日に開城工業団地内に南北双方の当局者が常駐する南北共同連絡事務所が開設された。

9月18日に文在寅は夫人とともに大統領専用機で平壌国際空港に降り立った。その際,金正恩が直接出迎えた。1日目の南北首脳会談は,党中央委員会本部庁舎で行われた。会談には,北側からは金英哲と金与正が,南側から鄭義溶と徐薫が同席した。

両首脳は百花園迎賓館で2日目の会談を行った。この日の会談の同席者は,北側から金英哲,韓国側から徐薫の2人に絞られた。会談終了後,両首脳は「9月平壌共同宣言」に署名し,つづいて努光哲人民武力相と宋永武韓国国防相が「板門店宣言履行のための軍事分野合意書」に署名した。

両首脳夫妻は夕食後,平壌市内のメーデースタジアムで大マスゲーム・芸術公演を観覧した。公演終了後,両首脳は観衆や出演者を前に演説を行った。南側の大統領が北側で一般市民向けに演説を行ったのは今回が初めてである。文在寅は演説で「70年の敵対を完全に清算し,再び一つになるための平和の大きな一歩を踏み出すことを提案する」と呼び掛けた。

両首脳は20日午前,朝鮮半島最高峰の白頭山(両江道)を訪問した。文在寅は4月の南北首脳会談の際,「白頭山と盍鵙高原(北朝鮮北部の高原地帯)をトレッキングすることが夢だ」と述べていた。青瓦台の発表によると,白頭山訪問は金正恩の提案によるもので,前日の19日に急きょ決まったという。

9月平壌共同宣言の骨子は,第1に,軍事的敵対関係の終結について,「板門店宣言履行のための軍事分野合意書」を平壌共同宣言の「付属合意書」として採択し,南北軍事共同委員会を早期稼働させる,第2に,交流・協力の拡大と民族経済の均衡的発展について,2018年のうちに東・西海線鉄道および道路連結・近代化のための着工式を行う,開城工業団地と金剛山観光事業をまず正常化し,西海経済共同特区および東海観光共同特区を造成する問題を協議する,自然生態系の保護および復元のための北南環境協力を進める,第3に,離散家族問題について,金剛山地域に離散家族・親戚の常設面会所を開く,赤十字会をつうじた画像・ビデオ交換を実施する,第4に,多分野の協力・交流について,10月に平壌芸術団のソウル公演を実施する,東京オリンピックほか国際競技への共同参加と2032年夏季オリンピックの南北共同開催を誘致する,南北共同で三・一人民蜂起100周年記念イベントを開催する,第5に,非核化について,平安北道鉄山郡東倉里のミサイル発射台を永久破棄する,アメリカの「相応の措置」を前提に寧辺核施設を永久破棄する,非核化のための南北協力を実施する,第6に,適切な時期に金正恩がソウルを訪問する,というものである。

なお,文在寅は署名後の共同発表で金正恩のソウル訪問が「特別な事情がなければ年内に行われる」と述べていたが,2018年中には実現しなかった。

経 済

貿易の縮小

2018年にも制裁は緩和されることはなかった。そのため貿易は大きく減少したものと推測される。最大の貿易相手国(2017年基準では全体の94.5%)である中国との貿易をみると,2018年の対中輸出は2億2000万ドルで前年比87%減となり,輸入は22億4000万ドルで同33%減少した。全体の貿易額は24億6000万ドルで制裁が本格化する以前の2016年比では約60%も減少している。国連安全保障理事会決議2371号(8月5日)では,石炭,鉄,鉄鉱石,鉛,鉛鉱石,海産物などの輸出を禁止している。また,国連安保理決議2375号(9月11日)では,繊維製品の輸出と新規海外労働者の労働許可証を禁止している。さらに2397号(12月22日)では,年間の原油を400万バレル,石油精製製品を50万バレルに供給量を制限する一方,海外に派遣された労働者も24カ月以内に送還するようにしている。つまり,朝鮮にとっては投資資金としての外貨は不足しており,また住民生活にも直結する原油も足りないものと推測される。

内需主導の成長

しかしながら,金正恩は2019年「新年の辞」で「過酷な経済封鎖と制裁のなかで自らの力を信じ,自らの手で前途を開拓しながら飛躍的な発展を成し遂げた昨年を誇らしく総括」すると指摘している。最高人民会議第13期第6回会議で行われた朴鳳柱総理の報告では,「人民経済の長男である金属工業部門が金策製鉄連合企業所(咸鏡北道)酸素熱法溶鉱炉の建設を完工させ,無煙炭で銑鉄の生産を正常化することができるようにし」たことや,「電力工業部門が新たな発電能力造成のための北倉火力発電連合企業所(平安南道)火力発電設備増設工事を基本的に終え,電力生産を増やすことのできる展望を開いた」ことなどを,具体的な企業所名を挙げて指摘した。また,建設部門では黎明通り(平壌市,昨年4月完工)が「近代的な街路形成の模範,標準」として建設され,洗浦地区(江原道の洗浦地区畜産基地)が大規模畜産基地に変貌し,恵山=三池淵間(両江道)および庫岩=沓村間(江原道)の鉄道工事が完工したことが触れられている。輸送部門では,恵山=三池淵間の鉄道工事について『労働新聞』6月17日などで「工事(の完工)を繰り上げるためのたたかい」が展開されているとしていた。

このように制裁のなかでも経済が萎縮しないよう投資がそれなりに行われているということは,投資資金の確保のための実効的な諸政策が実施されているからである。

その内容は第1に,貯蓄率の向上政策である。2015年12月の第3回全国財政銀行部門活動家大会を機に「金融機関採算制」が導入されたことが伝えられている。金融機関採算制とは銀行が「金融業務をつうじた収入で支出を補償し,国家に利益を与える経営活動方式」である(ハン・ヨンチョル「金融機関採算制とその運営上の重要問題」『金日成総合大学学報〔哲学,経済〕』2018年1号)。金融業務で採算を得るためには,原資となる預金が必要であるが,昨今は貯蓄率向上のための方法が経済的誘因にもとづいて展開されている。これは,過去2009年の貨幣交換や2003年の人民生活公債の発行のように,いわば「強制貯蓄」を促してきたこととは対照的である。現地学術誌では,貯蓄率向上のためには保険商品の開発やキャッシュレスサービスの拡大などのオンライン決済システム環境の整備などが指摘され,「結果として……より多くの住民が貯金に関心をはらい,積極的に参加するようになり,住民の手中にある多くの遊休貨幣資金が動員され,国家の経済発展に効果的に利用されるようになる」とし,貯蓄率の上昇=投資率の上昇という構図を指摘している(リ・ミョンジン「金融サービス情報システムを構築するうえで重要な問題」『金日成総合大学学報〔哲学,経済〕』2018年3号)。

第2に,企業の分配制度の変更による国家予算の増加である。これまでは「純所得分配」といって,国家納付分は企業の総売上からコストを除いた純所得にもとづいて計算されていた。これにたいして現在は「所得分配」といって,国家納付分は総売上にもとづいて計算され,コストはその後に補償される。「純所得分配」では,原価は分配に先立って補償されることになっているので,経済的動機としてのコストの節約意識はさほど強く働かないばかりか,「経費」という名目で自らの取り分を増やそうとする動機が働いた場合は,本来は納付されるべき国家企業利益金が減ってしまう恐れもある。これにたいして「所得分配」では国家への分配(国家企業利益金と取引収入)が行われたのちに原価を補償することになっているので,原価をできる限り節約することが自らの取り分の増加につながる。

最高人民会議第13期第6回会議での報告では「2018年の国家予算収入は前年比103.2%増となることを予見しており,そのうち予算収入の基本項目である取引収益金は102.5%増に,国家企業利益金は103.6%増え,収入総額の85.3%を占めることになるだろう」とされている。企業の国家納付分である取引収益金と国家企業利益金が歳入全体に占める割合については朝鮮の財政報告ではめったに言及されず,直近で確認できるのは2005年でありその時の占有率は約72%であった。今回の占有率はそれよりも13ポイント以上も上回っている。この増加の要因として,純所得分配から所得分配への変更によるところが推測される。

目下,経済制裁の影響は厳しいものの,銀行を介した資金の循環と国家予算をつうじた投資によって,内需にベースを置いたある程度の景気は維持できているものと考えられる。

厳しかった食糧事情

食糧事情は前年より厳しい状況になっている。国連食糧農業機関(FAO)によると2017年の秋と2018年の春に収穫された穀物は脱穀前の粗穀基準で前年比4.5%減の485万トンと推計されている。FAOでは朝鮮の穀物需要を552万トンと推計しており,計画している15万トンの輸入を考慮しても65万2000トン不足することになる。その理由についてFAOでは(1)化学肥料の供給が61万2136トンにとどまり前年(85万12トン)より落ち込んだこと,(2)ガソリンなどの石油製品の供給が6万350トンと同じく前年(6万7990トン)より落ち込んだこと,降雨不足により貯水池の灌漑用水が169億9000万立方メートルに落ち込んだこと(前年は223億立方メートル)などを指摘している。このうち,化学肥料と原油の供給不足は制裁の影響によるところが大きいと考えられる。

対外関係

史上初の朝米首脳会談

歴史上初となる朝米首脳会談は,朝米関係を韓国が仲介することで実現した。特使として北側を訪問した鄭義溶青瓦台国家安保室長と徐薫国情院長は3月8日,アメリカ政府に金正恩委員長との会見結果などを説明するため訪米した。鄭義溶は,トランプ大統領との面会後にホワイトハウスで記者会見し,トランプが金正恩委員長からの早期会談の要請を受け入れ,5月までに首脳会談に応じる意向を示したと発表した。

その後,ポンペオ国務長官が4月1日と5月9日に訪朝し,金正恩委員長と面談を行った(なお,4月1日時点でのポンペオの肩書は中央情報局長)。ポンペオの訪朝を機に朝鮮に拘束されていた3人のアメリカ人が引き渡された。そして,トランプは5月10日,「シンガポールで6月12日に朝米首脳会談を開催する」と発表した。

しかし,5月11日から韓国周辺で定例の米韓空軍の共同訓練「マックスサンダー」を実施したことなどに朝鮮は反発し,朝鮮中央通信5月16日発は「日程に上った朝米首脳対面の運命について深思熟考すべきであろう」と,朝米首脳会談の取りやめの可能性を示唆した。さらに金桂寛第1外務次官は16日付の談話で,ボルトン米大統領補佐官が見返りよりも核放棄を先行させる「リビア方式」に言及したことに反発してトランプ政権が朝鮮の一方的な核放棄だけを強要するのであれば「朝米首脳会談に応じるかを再考慮するほかないであろう」と主張した。5月24日には崔善姫外務次官が談話でペンス副大統領を非難して朝米会談の再考を示唆した。

これにたいしてトランプは24日に金正恩委員長宛に書簡を送り,朝米首脳会談の中止を通告した。すると,金桂寛第1外務次官は談話で「予想外で極めて遺憾である」とし「歴代大統領がなしえなかった勇断を下して朝米首脳が出会うという重大なイベントをつくるために努力してきたことを評価している」とし再考を促した。トランプは25日,この談話を評価し,予定どおり6月12日の開催もありえると表明した。

金正恩はさらに,25日に南北の連絡チャンネルをつうじて文在寅に「形式にとらわれず会いたい」と伝え,5月26日に板門店で急遽,南北首脳会談を開いた。朝鮮中央通信5月27日発は「金正恩委員長は,6月12日に予定されている朝米首脳会談のために多くの努力を傾けてきた文在寅大統領の労苦に謝意を表し,歴史的な朝米首脳会談に対する確固たる意志を披歴した」と指摘した。朝米首脳会談の予定日が朝鮮のメディアで報じられるのはこれが初めてであり,当初の予定どおり開催しようとする朝鮮の意思を強く示した形となった。そして,6月1日には金英哲党副委員長が訪米してトランプと面談を行い,トランプは6月12日の朝米首脳会談を明言した。

金正恩は,6月10日に平壌を出発し,夜にはシンガポール大統領官邸兼首相府でリー・シェンロン首相と会見し,シンガポール政府の協力に「深い謝意」を表明した。また,金正恩は6月11日夜に宿泊先のホテルから専用車で外出してシンガポールのビビアン・バラクリシュナン外相とオン・イェクン教育相の案内の下,市内の植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」やリゾート施設「マリーナベイ・サンズ」の展望台を見学するとともに,マーライオン像近くのジュビリー・ブリッジを散策した。

朝米首脳会談は6月12日にシンガポール南部にあるセントーサ島のカペラホテルで行われた。両首脳は通訳のみを交えた40分ほどの単独会談を行った後,朝鮮側から金英哲,李秀勇党副委員長,李容浩外相,アメリカ側からポンペオ国務長官,ケリー大統領首席補佐官,ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を交えた拡大会談を1時間ほど行った。そして,拡大会談出席者のほか,朝鮮側から努光哲人民武力相,崔善姫外務次官,金与正第1副部長,韓広相党部長,アメリカ側からサンダース大統領報道官,ソン・キム駐フィリピン大使,ポッティンジャー国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長を交えたワーキングランチを行った。両首脳はホテルの中庭を散策してから,共同声明の署名式の会場に入った。

共同声明の内容は,(1)新たな朝米関係を構築する,(2)「朝鮮半島における持続的かつ安定した平和体制の確立」に共に取り組む,(3)朝鮮半島の完全な非核化に取り組む,(4)戦争捕虜・行方不明兵の遺体返還を進める,というものである。

これまで半世紀以上にわたって敵対してきた両国が真摯に対面し,アメリカ側が安全保障を提供し,朝鮮側が非核化を進めるとの意思を首脳の発言として表明した点で朝米共同宣言は画期的であった。

しかしながら,履行過程の認識については朝米間で隔たりがある。朝鮮側の主張は「段階的行動原則にもとづく信頼関係の構築」であり,アメリカ側は「一括非核化」を強く主張している。たとえば,6月13日発朝鮮中央通信は「(アメリカは)対話と交渉を通じて関係改善が進捗するのに応じて対朝鮮制裁を解除できるとの意向」を表明したと伝えている。また,同報道は一対一の会談に続いて行われた拡大会談について伝えたなかで「朝米両首脳は,朝鮮半島の平和と安定,朝鮮半島の非核化を成し遂げていく過程で段階別・同時行動原則を順守することが重要であることについて認識を共にした」と述べ,金正恩は「アメリカ側が朝米関係改善のための真の信頼構築措置を講じていくならば,わが方もそれに応じて引き続き次の段階の追加的な善意の措置を講じていくことができるという立場」を明らかにしたとしている。ところが,トランプは6月12日の記者会見で制裁の解除について「完全に非核化したことをわれわれが確認するまで制裁解除はない」と述べ,「完全な非核化」が実現するまでは経済制裁を維持する考えであることを強調している。

第1回首脳会談の時点で具体的に決まったことは,韓米合同軍事演習の中止と米兵遺骨返還のみである。

共同声明には明記されていないが,6月13日発朝鮮中央通信は金正恩が「トランプ大統領が都合の良い時期に平壌を訪問するよう招請し,トランプ大統領も金正恩国務委員長がアメリカを訪問するよう招請した」とし,「朝米両首脳はこうした招請が朝米関係の改善のためのもう一つの重要な契機になるものと確信しつつ,それを快く受諾した」と指摘している。トランプも6月1日,金英哲党副委員長との会見後に「1回の会談で(非核化が)実現すると言ったことはない」と述べ,首脳会談を複数回行う可能性を示唆し,首脳会談後の会見では「恐らく首脳会談がもう1回必要になる」と述べている。

首脳会談後の7月6~7日にはポンペオ長官が再度訪朝して金英哲党副委員長との高官協議を行った。この協議に関して,朝鮮外務省報道官は7日夜に談話を発表し,アメリカ側の態度と立場が「実に遺憾なこと極まりないものだった」と非難した。その内容は,「アメリカ側は,シンガポール首脳対面および会談の精神に反するようにCVIDだの,申告だの,検証だのと言い,一方的な強盗さながらの非核化要求ばかりを持ち出してきた」,「情勢悪化と戦争を防止するための基本の問題である朝鮮半島平和体制構築の問題については一切言及せず,すでに合意された終戦宣言の問題にまであれこれと条件や口実を設けてはるか先へと引き延ばそうとする立場を取った」というものであった。その一方で,談話は金正恩からトランプへの親書を金英哲副委員長がポンペオ長官に伝達したことを明らかにし,「わが方はトランプ大統領に対する信頼心をまだそのまま持っている」と,交渉を続ける意思も表明した。

3度の朝中首脳会談

金正恩委員長は3月25日から28日まで中国を非公式訪問した。外国訪問は就任以来,これが初めてである。

26日に特別列車で北京入りした金正恩は同日,人民大会堂で習近平国家主席と初の首脳会談に臨んだ後,李雪主夫人と共に習近平主催の歓迎宴に出席し,27日には中国科学院で「第18回党大会以来の中国科学院の革新成果展」を見学してから習近平夫妻主催の昼食会に出席し,午後には帰国の途に就いた。

南北および朝米の首脳会談に先立って中国との首脳会談を実現することで,近年冷え込んでいた朝中関係のさらなる冷却化を回避するとともに,中国という外交的後ろ盾を取り戻すことになったといえる。

朝中首脳会談を機に,朝中間の要人の往来が活発化した。4月3日には,朝鮮の李容浩外相が北京で中国の王毅国務委員兼外相と会談した。また,4月13~18日には中国共産党中央対外連絡部の宋涛部長が芸術団を率いて訪朝した。滞在期間中,金正恩は宋涛部長と2度にわたって会見を行ったほか,自ら歓迎宴を催して芸術団の公演も観覧して歓待した。また,王毅国務委員兼外相も5月2~3日に訪朝し,金正恩と会見した。

そして,金正恩は5月7~8日にかけて中国東北部・遼寧省大連市を訪問し,習近平と2回目の首脳会談を行った。会談は7日,大連市内で行われた。朝鮮側の報道によると,会談で金正恩は,習近平が「多忙な政治日程にもかかわらず貴重な時間を割いて遠く大連にまで来て温かく迎接」してくれたことに謝意を表明した。また,会談では「共通の関心事となる重大な諸問題の解決方途」に関する意見交換がなされたと報じられた。

さらに,朝米会談を終えた金正恩は6月19~20日に再び訪中して習近平と会談を行った。会談は6月19日,北京の人民大会堂で行われた。6月20日発朝鮮中央通信は朝中首脳会談について「朝鮮半島非核化解決の展望をはじめ,共通の関心事となる一連の問題について有益な意見交換が行われ,議論された問題で共通の認識に達した」と伝えた。会談で金正恩は「中国の党と政府が朝米首脳の対面および会談の成功裏の開催のために積極的で真心のこもる支持と立派な幇助を寄せてくれたこと」に謝意を表明した。これに対し習近平は「朝米首脳対面および会談を成功裏に主導して朝鮮半島情勢を対話と協議の軌道,平和と安定の軌道に乗せたこと」を「高く評価」し,祝意を表明した。そして「朝鮮半島非核化実現のための朝鮮側の立場と決心を積極的に支持する」と述べるとともに,「中国は今後も引き続き自らの建設的役割を発揮していくであろう」と言明した。

6月21日発朝鮮中央通信によると,金正恩夫妻は20日午前,釣魚台国賓館で習近平夫妻と再び対面した。金正恩は昼食会に先立ち,習近平と「単独談話」を交わした。同報道は「朝中最高領導者同志らの単独談話では,現情勢と差し迫った国際問題に関する慎重な意見交換が行われ,新たな情勢の下で両党・両国間の戦略・戦術的協同をさらに強化していくための諸問題が討議された」と伝えた。

『労働新聞』7月1日は中国共産党創建記念日に際しての記事で,金正恩がこれまでに3回行った中国への「歴史的訪問」に触れ,朝中関係が今日,「伝統的な関係を超越して古今東西に類を見ない特別な関係へと発展している」と述べた。

日本との関係

南北と朝米と朝中の間で首脳会談が行われたのに対して日本との間では首脳会談はおろか政府間交渉も行われなかった。平昌オリンピック(2月)や北東アジアの安全保障について話し合う国際会議「ウランバートル対話」(6月14~15日),第25回ASEAN地域フォーラム閣僚会合(シンガポール,8月4日)などには日朝の政府高官が参加したものの,単なる「接触」で終わり交渉には進まなかった。

日本が拉致問題の解決を呼び掛けるたびに朝鮮側は拉致問題は解決済みであるというスタンスを崩していない。8月22日の朝鮮アジア太平洋平和委員会スポークスマンは「わが民族の数百万の生命を無残に殺戮した大罪悪については知らぬふりをして数人の拉致被害者問題を騒がしく宣伝している」と非難した。

しかしながらいくつかの交流は行われた。建国70周年記念イベントに参加するために猪木寛至参議院議員や在朝被爆者支援連絡会の福山真劫代表,チュチェ思想国際研究所の尾上健一事務局長,日本金日成・金正日主義研究全国連絡会の鎌倉孝雄代表相談役,北野守・日本福岡県日朝友好協会会長らが訪朝した。10月23日にはスポーツ交流のため日本体育大学サッカー部員らが日本体育大学代表団(団長=松浪健四郎理事長)として訪朝した。

また,11月28日には朝鮮オリンピック委員会委員長を兼任する金日国体育相が各国オリンピック委員会連合ANOCの年次総会に参加するため来日した。閣僚クラスの来日は1991年以来27年ぶりとなったが,日朝政府間交渉につながるような進展はなかった。

2019年の課題

金正恩は,2019年の「新年の辞」で「朝鮮半島の恒久的かつ強固な平和体制を構築し,完全な非核化へと進もうとすることは,わが党と共和国政府の不変の立場であり,私の確固たる意志である」と指摘している。この場合,朝鮮半島の平和体制については関係国との多国間協議であり,朝鮮半島の非核化については朝米間の二国間協議である。

というのも,「新年の辞」では「休戦協定の当事者との緊密な連携のもと,朝鮮半島の現休戦体制を平和体制へと転換するための多国間協議を積極的に推進し,恒久的な平和保障の土台を実質的に整えるべきである」と呼び掛けている。板門店宣言では「恒久的かつ強固な平和体制の構築のための北・南・米の3者または北・南・中・米の4者の会談の開催を積極的に推進していく」ことがうたわれている。すでに,この4者は2018年に二国間レベルでは首脳同士が会談を行い一定のパイプを切り開いている。したがって,2019年は朝鮮半島問題をめぐって関係する4者が多国間レベルの対話チャンネルを開いていく可能性も考えられる。

ただし,朝鮮半島の平和体制と表裏一体をなす非核化の問題については,朝鮮は一貫して朝米間で解決すべきと主張している。これについて新年の辞では,「いつでもアメリカ大統領と対座する準備ができており,必ず国際社会が歓迎する結果を出すために努力する」と指摘しているが,その一方で「アメリカが世界の前で行った約束を守らず,わが人民の忍耐心について誤った判断をし,一方的に何かを強要しようとし,依然として共和国にたいする制裁と圧迫へ乗り出すのなら,われわれとしてもやむを得ず,仕方なく国の自主権と国家の最高利益を守護し,朝鮮半島の平和と安定を成し遂げるための新たな道を模索せざるを得ない」として,アメリカ内で対朝鮮制裁維持を主張する声が根強いことを踏まえアメリカの出方をけん制している。

一方で南北間で約束されている金正恩のソウル訪問がどのタイミングで実行されるのかも見物である。今年はまた,最高人民会議代議員選挙の年でもある。新たな代議員の選出とそれにもとづく人事からも国勢を占う必要がある。

(『季刊朝鮮経済資料』編集長)

重要日誌 朝鮮民主主義人民共和国 2018年
   1月
1日 金正恩国務委員長,「新年の辞」発表。
3日 南北直通電話再開。
9日 板門店で李善権祖国平和統一委員会委員長と趙明均統一部長官による高位級会談,朝鮮の平昌五輪参加などの共同報道文を採択。
11日 金正恩,国家科学院を現地指導。
16日 金正恩,平壌教員大学を現地指導。
22日 党中央委員会政治局,2月8日を人民軍創建日とし,4月25日を朝鮮人民革命軍創建日とする決定書。
24日 朝鮮・イラン両国政府間の文化・芸術・教育・報道・体育・青年分野の協力に関する2018-2021年了解覚書。
25日 朝鮮中央通信,金正恩の平壌製薬工場の現地指導を報道。
25日 朝鮮女子アイスホッケー選手団,合同チーム結成のため,韓国鎮川選手村に到着。
31日 金正恩,平壌トロリーバス工場を現地指導。
31日 馬息嶺スキー場で南北スキー選手の共同訓練。
   2月
5日 権革奉文化省局長と玄松月三池淵楽団団長が引率する三池淵芸術団,第23次冬季五輪祝賀公演のため南側を訪問(~12日)。
8日 金正恩,人民軍創建70周年慶祝閲兵式で演説。
9日 平昌五輪に参加する北側高位級代表団(団長=金永南最高人民会議常任委員会委員長),南側訪問(~11日)。10日に文在寅韓国大統領と会見,金与正党第一副部長が金正恩からの親書を手渡す。
12日 金正恩,平昌五輪参加のため南側を訪問した北側高位級代表団メンバーらと会見。
13日 金正恩,南側で公演を行って帰還した三池淵管弦楽団のメンバーらと会見。
16日 金正恩,光明星節に当たり錦繍山太陽宮殿を訪問。
25日 平昌五輪閉会式に参加する北側高位級代表団(団長=金英哲党副委員長),南側訪問(~27日)。文在寅大統領と会見。
   3月
5日 南側の大統領特別使節団(団長=鄭義溶国家安全保障室長),来訪(~6日)。金正恩と晩餐,親書伝達。
8日 アメリカのトランプ大統領,韓国の特別視察団(団長=鄭義溶国家安全保障室長)からの金正恩との首脳会談の要請を受け,応じる意向を表明。
20日 ロシアのガルシュカ極東発展相,来訪(~22日)。21日に金英在対外経済相と政府間貿易・経済および科学技術協力委員会第8回会議議定書に調印。
25日 金正恩,中国を非公式訪問(~28日)。26日に習近平国家主席と会談。
29日 板門店で李善権と趙明均による南北高位級会談。首脳会談の開催日を4月27日,開催場所を板門店南側の「平和の家」とすることで合意。
29日 国際五輪委員会のバッハ会長,来訪(~31日)。31日発朝鮮中央通信,金正恩との会見を報道。
31日 南側芸術団(団長=都鍾煥韓国文化体育観光部長官),来訪(~4月4日)。1日に金正恩,東平壌大劇場での公演を観覧。
   4月
3日 李容浩外務相,ロシアおよびCIS諸国訪問(~17日)。3日に北京で王毅国務委員兼外相と会談,5日にアゼルバイジャンのアリエフ大統領と会見,10日にロシアのラヴロフ外相と会談。
9日 党中央委員会政治局会議。金正恩が最近の朝鮮半島情勢について報告。
11日 最高人民会議第13期第6回会議。内閣事業報告,国家予算,組織問題を討議。
13日 中国共産党対外連絡部長の宋涛が引率する中国芸術団200余人,来訪(~18日)。14日と17日に宋涛が金正恩と会見。16日に金正恩,東平壌大劇場でバレー舞踊劇を観覧。
15日 金正恩,太陽節に際して錦繍山太陽宮殿を訪問。
20日 党中央委員会第7期第3回総会で金正恩報告,「並進路線の終了」と「経済建設に集中する新路線」を提示。
20日 南北首脳間の直通電話開通。
23日 金正恩,中国人観光客が交通事故被害に遭ったことに関して中国大使館を慰問。
27日 板門店南側地域で金正恩と文在寅による南北首脳会談,「板門店宣言」に署名。
30日 最高人民会議常任委員会,平壌時間を改めることに関する政令発表。5月5日から「平壌時間」を30分早めて南側と合わせることに。
   5月
2日 中国の王毅国務委員兼外相,来訪(~3日)。3日に金正恩と会見。
7日 金正恩,中国遼寧省大連市を訪問(~8日)。習近平国家主席と会談。
9日 ポンペオ米国務長官,来訪(~10日)。9日に金正恩と会見。拘束されていたアメリカ人3人が特赦により帰国。
14日 朴泰成党副委員長,中国訪問(~24日)。16日に習近平国家主席と会見。
18日 朝鮮中央通信,党中央軍事委員会第7期第1回拡大会議の開催を報道。金正恩が総括。
24日 咸鏡北道吉州郡豊渓里の核実験場の廃棄,坑道などを爆破。
25日 朝鮮中央通信,金正恩の庫岩—沓村鉄道路線(江原道)の現地指導を報道。路線は30日に開通。
26日 板門店北側地域で金正恩と文在寅による南北首脳会談。
26日 朝鮮中央通信,金正恩の元山葛麻海岸観光地区(江原道)建設現場の現地指導を報道。
30日 金英哲党副委員長,訪米,ポンペオ国務長官と会談。6月1日にトランプ大統領と会見,金正恩の親書伝達。
31日 ロシアのラヴロフ外相,来訪,金正恩と会見,プーチン大統領の親書伝達。
   6月
1日 板門店で李善権と趙明均による南北高位級会談。開城に共同連絡事務所を設置することで合意。
7日 シンガポールのバラクリシュナン外相,来訪(~9日)。
8日 金正恩,平壌大同江水産物食堂を訪問。
10日 金正恩,シンガポール訪問(~13日)。リー・シェンロン首相と会見。12日にアメリカのトランプ大統領と初の朝米首脳会談,共同声明署名。
10日 金永南最高人民会議常任委委員長,ロシア訪問(~18日)。14日にプーチン大統領と会見,金正恩の親書を伝達。
14日 板門店で人民軍のアン・イクサン陸軍中将と韓国軍のキム・ドギュン陸軍少将による南北将官級軍事会談,軍通信線復旧などの共同報道文を採択。
19日 金正恩,中国訪問(~20日)。習近平国家主席と会談。
22日 金剛山で南北赤十字会談。
30日 朝鮮中央通信,金正恩の平安北道薪島郡の現地指導を報道。
30日 朝鮮中央通信,金正恩の人民軍第1524軍部隊の視察を報道。
   7月
1日 朝鮮中央通信,金正恩の新義州化粧品工場の現地指導を報道。
2日 朝鮮中央通信,金正恩の新義州化学繊維工場と新義州紡織工場の現地指導を報道。
6日 ポンペオ米国務長官,来訪(~7日)。金英哲党副委員長と協議。
10日 朝鮮中央通信,金正恩の三池淵郡中興農場と三池淵ジャガイモ粉末生産工場(両江道)の現地指導を報道。
17日 朝鮮中央通信,金正恩の成鏡北道の各経済単位(漁郎川発電所建設現場,人民軍第810軍部隊傘下洛山沖合サケ養魚事業所,石幕タイセイヨウサケ種魚場,清津造船所,羅南炭鉱機械連合企業所9月1日機械工場,塩盆鎮ホテル建設現場,温堡休養所,清津かばん工場)の現地指導を報道。
22日 金正恩,江原道養苗場を現地指導。
23日 金正恩,龍浦革命事跡地(江原道法洞郡)を訪問。
25日 朝鮮中央通信,金正恩の人民軍第525号工場の現地指導を報道。
25日 金正恩,松涛園総合食料工場と元山栄誉軍人かばん工場(江原道)を現地指導。
25日 中国の孔鉉佑外交部次官,来訪(~27日)。
26日 金正恩,祖国解放戦争勝利65周年に際して祖国解放戦争参戦烈士墓(平壌市)を訪問。
27日 朝鮮中央通信,金正恩の第5回全国老兵大会参加者との記念撮影を報道。
27日 金正恩,祖国解放戦争勝利65周年に際して中国人民志願軍烈士陵(平安南道桧倉郡)を訪問。
   8月
2日 李容浩外相,シンガポールとイラン訪問(~11日)。
4日 朝鮮中央通信,金正恩の平壌トロリーバス工場とバス修理工場の視察を報道。
6日 朝鮮中央通信,金正恩の三泉ナマズ工場(黄海南道)の現地指導を報道。
8日 朝鮮中央通信,金正恩の金山浦塩辛加工工場(黄海南道)の現地指導を報道。
13日 朝鮮中央通信,金正恩の雲谷地区総合牧場と延豊湖放流漁業事業所(平安南道)の現地指導を報道。
15日 朝鮮反帝老兵委員会とロシア・ベテラン連盟の間の協力に関する了解覚書。
17日 朝鮮中央通信,金正恩の元山葛麻海岸観光地区建設現場(江原道)の現地指導を報道。
17日 朝鮮中央通信,金正恩の平安南道陽徳郡内の温泉地区の現地指導を報道。
18日 朝鮮中央通信,金正恩の咸鏡北道鏡城郡温堡温室農場建設準備事業の現地指導を報道。
19日 朝鮮中央通信,金正恩の両江道三池淵郡内建設現場の現地指導を報道。
20日 金正恩,故・金永春元国防委副委員長(16日死去)の国葬に参加。
20日 金剛山で南北離散家族再会行事(~26日)。
21日 朝鮮中央通信,金正恩の妙香山医療器具工場(平安北道)の現地指導を報道。
   9月
4日 金正恩,故・朱奎昌元国防委委員(3日死去)の霊前を弔問。
5日 金正恩,南側の大統領特別使節団(団長=鄭義溶国家安全保室長)と会見。南北首脳会談を9月18~20日に平壌で開催することで合意。
7日 日本の猪木寛至参議院議員が来訪(~11日)。
7日 ロシアのマトビエンコ上院議長,来訪(~10日)。8日に金正恩と会見。
8日 中国共産党政治局常務委員・全国人民代表大会常務委員会委員長の栗戦書,来訪(~11日)。9日に金正恩と会見。10日に金正恩とともに歓迎公演を観覧。
9日 金正恩,建国70周年に際して錦繍山太陽宮殿を訪問。
9日 建国70周年慶祝中央報告大会と閲兵式および大マスゲーム・芸術公演「輝く祖国」開催。
14日 開城に共同連絡事務所を開設。祖国平和統一委の李善権委員長と趙明均韓国統一部長官が「共同連絡事務所の構成・運営に関する合意書」に署名。
18日 文在寅韓国大統領,平壌訪問(~20日)。18~19日,金正恩と会談,19日に「9月平壌共同宣言」に署名。20日,金正恩とともに白頭山訪問。
19日 平壌で努光哲人民武力相,宋永武韓国国防部長官と「板門店宣言の履行のための北南軍事分野合意書」に署名。
29日 金正恩,創立70周年に際して金策工業総合大学(平壌市)を訪問。
   10月
4日 崔善姫外務次官,ロシア訪問(~11日)。10日に中国外交部の孔鉉佑副部長,ロシア外務省のモルグロフ次官と3者協商。
7日 金正恩,ポンペオ米国務長官と会見。
9日 朝ロ両国政府間の貿易・経済・科学技術協力委員会林業分科委第24回会議議定書。
10日 金正恩,三池淵管弦楽団劇場(平壌市)を現地指導。
11日 朝鮮中央通信,党結成73周年に際した金正恩の錦繍山太陽宮殿訪問を報道。
16日 朝鮮対外文化連絡委員会とロシア基礎研究基金の協力に関する合意書。
23日 日本体育大学代表団(団長=松浪健四郎理事長),来訪(~26日)。
25日 朝鮮労働党・全ロシア政党「統一ロシア」間の交流と協力に関する覚書。
26日 板門店で南北将官級軍事会談。非武装地帯の南北監視所22カ所の完全撤収で合意。
27日 申興哲外務省副相,ロシア訪問(~11月2日)。
30日 朝鮮中央通信,金正恩の両江道三池淵郡の現地指導を報道。
   11月
1日 朝鮮中央通信,金正恩の元山葛麻海岸観光地区建設現場(江原道)の現地指導を報道。
1日 朝鮮中央通信,金正恩の平安南道陽徳郡温泉観光地区建設現場の現地指導を報道。
3日 金正恩,中国芸術団の公演を観覧。
4日 キューバのミゲル・ディアスカネル国家評議会議長,来訪(~6日)。金正恩と会談。
16日 朝鮮中央通信,金正恩の平安北道新義州市建設総計画の指導を報道。
16日 朝鮮中央通信,金正恩の「新たに開発された先端戦術兵器」の試験の指導を報道。
18日 朝鮮中央通信,金正恩の大館ガラス工場(平安北道)の現地指導を報道。
18日 アジア太平洋平和委員会と韓国現代グループ,金剛山で金剛山観光開始20周年記念行事開催。
27日 金日国体育相,五輪関連会議出席のため日本訪問(~30日)。
27日 朝鮮・ベネズエラ両国外務省間の了解覚書および協定。
   12月
1日 朝鮮中央通信,金正恩の東海地区の水産事業所(人民軍5月27日水産事業所,人民軍8月25日水産事業所,人民軍1月8日水産事業所)の現地指導を報道。
1日 金正恩,元山靴工場(江原道)を現地指導。
7日 李容浩外相,北京で習近平中国国家主席と会見。
17日 朝鮮中央通信,金正日の逝去7年に際した金正恩の錦繍山太陽宮殿訪問を報道。
18日 朝鮮体育省と中国国家体育総局の間の2019年体育交流議定書。
25日 第4回全国農業部門熱誠者会議(~26日)。
26日 南北間の鉄道・道路連結着工式,板門駅で開催。

参考資料 朝鮮民主主義人民共和国 2018年
①  国家機構図(2018年12月末現在)
②  朝鮮労働党中央機構図
③  党および国家機関の指導メンバー

③  党および国家機関の指導メンバー(続き)

(注)は就任そのものの日付が発表されていないため,その職にすでにあることが判明した報道の日付を記載。

主要統計 朝鮮民主主義人民共和国 2018年
1  国家予算収入総額および国家予算支出総額・収支(2010~2018年)

(出所)各年度国家予算報告による。 2015年の実績金額は,訪朝時(2016年11月)社会科学院からの聞き取り。

2  国防費(2010~2018年)

(出所)各年度国家予算報告による。

3  農業

(注)1)主作物のジャガイモは夏に,裏作のジャガイモは春に収穫されるもの。2)傾斜地生産のほとんどはトウモロコシ。

(出所)FAO, GIEWS Update, 9 July(http://www.fao.org/3/CA0363EN/ca0363en.pdf).

4  公表されたGDP(2007年以降)

(注)数値は「名目」と思われる。

(出所)2013年の数値は,『朝鮮民主主義人民共和国投資案内』(朝鮮対外経済投資協力委員会,2014年)より。2016年と2017年は社会科学院経済研究所の李基成教授のインタビュー(『日本経済新聞』 2018年10月12日付)。それ以外は『週刊東洋経済』第6490号(2013年10月12日)および社会科学院の李基成教授が2016年8月に在日朝鮮人研究者に伝えたもの。

5  公表人口統計(単位:1,000人)

(出所)2008年はセンサス(DPRK 2008 Population Census National Report, Central Bureau of Statistics of DPRK, 2009)から。2000年は北朝鮮の国連提出資料(Core Document Forming Part of the Reports of State Parities. United Nations Human Rights Instruments. May 15, 2002)。2014年はDPRK Socio-Economic, Demographic and Health Survey 2014(中央統計局,2015年12月)。2015年は,李基成・金哲『朝鮮民主主義人民共和国の経済概括』(出版物輸出入商社,2017年)。2016,2017年は社会科学院経済研究所の李基成教授のインタビュー(『日本経済新聞』 2018年10月12日付)。

 
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