Yearbook of Asian Affairs
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Print ISSN : 0915-1109
Trends in Countries and Regions
Pakistan in 2022: A Year of Political Turmoil and Natural Disaster
Aeka InoueMomoe Makino
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2023 Volume 2023 Pages 551-574

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2022年のパキスタン

概 況

2022年のパキスタンは,政権交代,洪水,州議会の波乱と,年間を通じてさまざまな動揺に見舞われた。4年目のイムラン・ハーン首相をめぐっては,年初から不信任の動きが活発化し,4月に不信任案が可決されて退任した。また4月には最大州であるパンジャーブで州首相選挙と州議会補欠選挙が行われた。一方6月から続いた大雨などの影響でインダス川が氾濫し,8月末には国土の3分の1が水没するに至った。新型コロナウイルス感染症は1〜2月に増加して1日の感染者数が過去最多にのぼったが,その後,統計上は急速に沈静化した。また,前年増加に転じたテロ件数が,今年も前年を上回った。

2021/22年度の経済は,実質経済成長率は6%と好調であったものの,経常収支赤字の拡大と対外債務支払いのため,外貨準備高が減少し,国際収支危機が現実的になった。中国などの二国間融資ですらIMFからの融資を基準としたため,IMFの融資条件,具体的には財政赤字削減に取り組むしか選択肢がなくなった。外貨準備高の減少により為替相場が下落を続け,インフレ率が対前年度比12.2%と高騰した。

対外関係では,政府はアフガニスタンのターリバーン政権を承認できない立場を維持しており,また国境フェンスをめぐる問題も燻り続けた。ウクライナ侵攻を続けるロシアに対しては,軍事的手段を批判し外交による問題解決を求めつつ,欧米による制裁には加わらない立場をとっている。

国内政治

首相不信任案の可決

イムラン・ハーン政権打倒を目指して2020年に野党11党が結成したパキスタン民主運動(PDM)は,2021年春に力を失ったが,同年秋にハーン政権と軍の関係が悪化したとの観測が流れると,再び活気づいた。2022年初より,野党による内閣不信任案提出の動きが活発化し,法案可決の目処が立った3月8日,野党は下院議長に法案を提出し,議会の招集を求めた。下院議長は14日以内に議会を招集し,不信任案が議会に上程されてから3日以降7日以内に採決することが憲法で定められている。

ハーン首相と閣僚たちは,不信任案可決を回避するため,それが提出される以前の3月初めから,連立与党のパキスタン・ムスリム連盟カーイデアーザム派(PML-Q)や統一民族運動(MQM)の指導者たちを訪問して首相支持を要請していた。首相はさらにカラチやハイバル・パフトゥンハー(KP)州ディールを遊説し,就任以来続けてきた汚職撲滅をさらに進め,野党幹部の汚職を正すと世論に訴えた。不信任案が提出されると,次はその採決を遅らせるべく,下院議長(連立与党パキスタン正義運動党[PTI]所属)が議会招集を遅らせたり,首相が今回の不信任案提出は政権転覆を目論む外国勢力(のちにアメリカとした)が関与して行われているなどと主張したりした。

不信任案は4月3日に採決されることになったが,ハーン首相はこの日,副議長に不信任案を却下させたうえで,議会を解散してしまった。これで首相は不信任決議を回避したかにみえたが,最高裁がこの扱いを憲法違反の疑いがあるとみなし,同日中に自ら違法行為を立件し裁定する権限(スオモト)によって審理を開始した。そして最高裁は7日,下院副議長が首相不信任案を棄却したことは憲法違反であり,不信任案が提出されている場合,議会は解散できないため4月3日の下院解散は無効とし,9日午前10時までに下院を招集し,首相不信任案の採決を行わなければならないとの判決を下した。これを受けて,一日遅れの4月10日に首相不信任案の採決が行われ,賛成が過半数に達する174票で可決された。

ハーンの失職後,11日にはパキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派(PML-N)のシャハバーズ・シャリーフ党首が首相に選出され,19日に新内閣が発足した。しかしハーンはその後も,この不信任案の背後にはアメリカがいるとして,自らの支持層である若年層の反米感情を喚起しながら新政府批判を続けた。

イムラン・ハーンの反政府活動

下野したハーン前首相は,各地で集会を開き,早期に議会を解散して総選挙を実施するよう政府に求め続けた。ハーンが各地の支持者たちにロングマーチを呼びかけ,5月25日にイスラマバードで座り込みを計画したところ,政府は前日から主要道路を封鎖したりPTI支持者を事前に拘束したりしてこれを阻止しようとした。カラチやラホールでは警官隊とPTI支持者との間で衝突が起きた。ハーンの呼びかけに応じたKP州からの運動員や支持者たちは,イスラマバードの議会前で警官隊と衝突し,投石や街路樹への放火にエスカレートしたため,政府は軍の出動を要請するに至った。翌26日朝,ハーンは一転して座り込み中止を決めた。この一夜で何があったかは不明で,ハーン自身は,流血の事態になることを避けるためだったと説明したが,一部では,軍が介入してハーンを抑えたとの観測もあった。

ハーンが自身の失脚にアメリカが関与しているという主張を続けたことについて,ニール・W・ホップ米国務省報道官は,「非常に混乱をもたらすもの」と述べ,ワシントンはパキスタンとの強力なパートナーシップの再構築への強い期待を持っていると強調した。米パキスタン関係は中国パキスタン関係に比較して停滞しているが,シャハバーズ・シャリーフ首相も,その背後にいるナワーズ・シャリーフも,ハーンより親米的であり,今後の変化につながる可能性はある。

ハーンはその後も,早期の議会解散と総選挙を求め続けた。その遊説中,11月に襲撃事件が起こった。3日,ワジラバードで政治集会中だったハーン一行が銃撃され,ハーンを含む14人が負傷し,党運動員1人が死亡したのである。銃撃犯として逮捕されたムハンマド・ナヴィードは,ハーンについて,「憎悪を広め,人々を誤解させている」「冒涜的で反宗教的」などと非難したという。

一方,11月に行われたロングマーチが26日で終わるのにあわせ,PTIの州議会議員は総辞職すると発表した。28日には,PTIが与党であるパンジャーブ州議会とKP州議会の解散や,シンド州議会とバローチスタン州議会のPTI議員の辞職が党内で決定された。党所属の議員を総辞職させることで,総選挙をせざるを得ない状況を作り出そうというねらいがあった。ただし,解散,辞職の時期は年内に発表されることはなかった。

このような強引な手法は,PTI党内でも反対が出ており容易なことではない。しかし,ハーンの不信任案が提出される直前の2月21日にギャラップ・パキスタンが,次の選挙で投票する政党を1000人に聞いた世論調査によれば,PTIが23%,PML-Nは22%,パキスタン人民党(PPP)が10%であったように,有権者の間では,特に若年層でPTIへの支持は根強いものがあるとみられ,ハーンが早期の総選挙実施を求める背景となっている。

ところで,PTIは2014年ごろから外国からの献金を受けている疑惑が懸案となってきたが,選挙管理委員会は8月2日に,PTIは政党令で禁じられている外国からの献金を受けている,との判断を示した。ただし,献金問題は他の政党も抱える問題で,PML-Nが期待するようにこれをもってPTIの解散やイムラン・ハーンの議員としての地位を揺るがすまでに至ることは難しいとみられる。

パンジャーブ州首相をめぐる混乱

パンジャーブ州では,4月16日に州首相選挙が行われ,PML-Nのハムザ・シャリーフ(シャハバーズ・シャリーフ首相の息子)が半数を超える得票で選出された。パンジャーブ州議会はPTIが多数を占めているが,PTI議員のうち25人がハムザに投票した結果である。しかし,このような議員の造反(フロアクロッシング)は憲法で禁じられているため,選挙管理委員会はこれらの25議員の失職を宣言し,うち20議席について7月17日に補欠選挙が実施された。この選挙で,20議席中15議席をPTIが獲得し,その結果,PTIとPML-Qで議会過半数を占める188議席を獲得することとなった。

この間,PTIとPML-Qは,造反議員の票によって州首相に選ばれたハムザの当選は無効であるとする訴えを起こしていた。これについて最高裁は7月1日に,補欠選挙まではハムザの州首相の地位を認め,補欠選挙後22日に改めて州首相の選挙を実施する,との裁定を下した。

7月22日,州首相の選挙が実施された。得票数ではPTIのパルヴェーズ・イラーヒーが186票,ハムザ・シャリーフが179票を獲得した。ところが,PML-Qは選挙前にPML-N支持に立場を変更しており,党員にはハムザに投票するよう党からの指示が出ていたことが明らかとなると,党議拘束を破ってイラーヒーに投票した党員10人の票は得票に含めない,と副議長が判断した。その結果,得票数が逆転し,ハムザ・シャリーフが当選となった。するとイラーヒー候補や法曹関係者が,この副議長の判断は違憲の疑いがあるとして,最高裁に裁定をもとめた。最高裁はこれを受けて審理を行い,7月26日にイラーヒー側の主張どおり,副議長の判断は憲法違反であると認め,パルヴェーズ・イラーヒーが当選との判断を下した。こうして混乱の末に,イラーヒーが州首相に就任した。

全土に及んだ洪水被害

パキスタンでは6月中旬から異例の降水量が続き(7月は例年の3倍以上,8月は8倍近く),8月には実に国土の3分の1が水没するに至った。災害慈善活動支援センター(Center for Disaster Philanthropy)によると,11月18日までに少なくとも1739人が犠牲になり,被災者は3300万人,被害家屋210万件,被害総額149億ドル,経済的損失152億ドルに上った。洪水により790万人が避難を余儀なくされ,2023年1月2日の時点でも8万9000人が帰還できていない。洪水で何らかの被害を受けた地域は4州とアーザード・ジャンムー・カシミール(AJK),ギルギット・バルティスタン(GB)と,ほぼ全土に及んだ。

特に被害が大きかったのはインダス川下流域に位置するシンド州で,死者の45%(701人,地域別の数字は9月20日時点,以下同様),負傷者の65%(8422人)を占めている。同州では2010年と2011年にも大きな洪水被害が起きているが,今回はそれより大規模で州内のほとんどが被災した。2番目に被害が大きかったのはカーブル川の氾濫や鉄砲水に見舞われたKP州(死者306人,負傷者369人)で,バローチスタン州(死者300人,負傷者181人),パンジャーブ州(死者191人,負傷者3858人),AJK(死者48人,負傷者24人),GB(死者22人,負傷者6人)の順に多数の被害が報告されている。以上の洪水などにより,例年雨季を中心にみられるデング熱やマラリアなどの伝染病が増えたほか,被災地では皮膚疾患,下痢,コレラなども発生した。

今回の洪水の原因として降水量に加えて指摘されているのが,地球規模の気候変動がもたらす温暖化である。パキスタンの北部山岳地帯には,年間を通じて氷河が多数あるが,今年は温暖化の影響で氷河の一部が溶解してインダス川に流れ込んだことで,洪水の被害はさらに大きくなったという。このことについては,2021年6月の世界環境デーに際して,当時のイムラン・ハーン首相がパキスタンは気候変動に対して脆弱であり,この問題には裕福な国がもっと積極的に貢献すべきであるなどと述べていた。今回の政権交代によって就任したシェリー・レーマン気候変動相は,2022年5月16日の記者会見で,環境関連については前政権の政策を踏襲すること,すでに熱波に関するタスクフォースを設置し,パンジャーブとシンドに熱波センターを置いていることなどを述べていた。

このような経緯のなか,レーマン気候変動相は今回の洪水被害が出始めた当初から,洪水と気候変動との関わりを指摘し,パキスタンが大きな犠牲を払っていることを国際社会に対して強調してきた。また,シャハバーズ・シャリーフ首相も,9月の国連総会での演説のなかでこの問題を取り上げ,パキスタンが排出している温室効果ガスは微々たるものであるのに,気候変動の結果,過去最悪の洪水被害を受けているとして,国際社会に復興支援を求めた。

国連のグテーレス事務総長は,9月9~10日にパキスタンを被災地慰問のために訪問した。グテーレスは,パキスタンはこの壊滅的な洪水で国民の3300万人が家を失い,300億ドルの被害・損失を受けたとしたうえで,パキスタンは気候変動に大きな影響を及ぼしてきたわけではないにもかかわらず,そこから最も劇的な影響を受けている国のひとつであり,気候変動の最前線にいると指摘し,国際社会に人道援助を呼びかけた。ドイツの環境NGOジャーマンウォッチが発表した「世界気候リスク指数2021」によれば,パキスタンは世界の温室効果ガスの1%未満しか排出していないが,過去10年で気候変動の影響をもっとも受けた国第8位である(Eckstein, David, Vera Künzel and Laura Schäfer 2021. Global Climate Risk Index 2021: Who Suffers Most from Extreme Weather Events? Weather -Related Loss Events in 2019 and 2000-2019. Germanwatch)。

国際収支危機が現実的になったパキスタンにとって(「経済」を参照),洪水被害は追い打ちをかけた。UNDPが,中国やパリクラブをはじめとする債権国に対して,パキスタンの債務支払いを猶予するか,返済条件の変更に応じるよう求める準備をしていることが報じられた(Financial Times,2022年9月23日)。

パキスタン政府は被災者救援のため,災害管理庁(NDMA)を通じて50億ルピー(約3億2000万円)を超える支出を行った。また国際社会へ援助を要請し,国連,世銀,アジア開発銀行などの国際機関や,中国,アメリカ,EUなどの代表が会合して支援を協議して総額5億ドルの即時支援を決めるなど,8月25日までに相次いで緊急支援策が発表された。9月末の時点で,16の国と機関がパキスタンへの経済支援を表明し,14カ国が物資の支援を行っている。日本政府も緊急支援物資として国際協力機構(JICA)を通じて,テントやビニールシートを供与したほか,緊急無償資金協力として世銀とUNDPを通じて700万ドルの支援を行った。

テロ件数の増加

パキスタン平和研究所(PIPS)の年次報告書によると,2022年はさまざまな民族主義や宗教関連の武装勢力により,262件のテロ事件が起き419人が犠牲となった。うち206人は警察や軍を含む治安機関関係者,市民は152人,武装勢力は61人が死亡した。件数は前年の207件から27%増,犠牲者数は前年比25%増であった。

パキスタン・ターリバーン運動(TTP),イスラーム国・ホラーサーニー(IS-K)などのイスラーム武装集団によるテロ事件が,前年128件から179件へと急増した。それに次いで,シンドやバローチスタンの民族主義に関わる事件が,前年の77件から79件へと増えた。テロ発生地域としては,262件のうち169件はKP州で前年比52%増,次いでバローチスタンであるが,こちらは前年81件から79件に減少した。

4月26日にカラチ大学の中国語センター(中国が設置する孔子学院のひとつ)のゲート付近で自爆テロがあり,付近を走行していた車が巻き込まれて,中国人教員3人(センター長である教授と教員2人)が死亡し,そのほかに中国人3人とパキスタン人レンジャー1人が負傷した。自爆犯は修士課程の女子学生で,直前に友人にTwitterで「さようなら」と伝えていたという。警察によれば,中国人を標的にしたと見られ,バローチ解放軍(BLA)が犯行を認めている。

また12月23日にはイスラマバードの警察の検問所を狙ったテロがあり,警察官1人が死亡,6人が負傷した。2014年のアボッターバードの学校襲撃以後,テロリストを軍事法廷で裁く時限立法が成立し,軍によるテロ封じ込めは成果を上げてきたが,前年,本年と件数が増加していることは,今後の懸念材料である。

女性最高裁判事の就任

1月24日にアーイシャ・マリク・ラホール高裁判事が,最高裁判事に就任した。女性が最高裁判事に就任するのはパキスタンで初めてである。マリク判事はパリ,ニューヨーク,ロンドンで教育を受けた,ハーバード・ロースクール出身の56歳で,2012年からラホール高裁判事を務めていた。また,彼女は12月7日にイギリスBBCが発表した「100 Women 2021」(100人の女性 2021)に唯一のパキスタン人として選ばれた。

陸軍参謀長の交代

バジュワ陸軍参謀長の任期満了により,11月24日,アルヴィ大統領は憲法の定めに従って,アーシム・ムニール陸軍中将を大将へ昇進させ陸軍参謀長に任命した。またサーヒル・シャムシャド・ミルザー中将を大将に昇進させ,統合参謀本部議長に任命することも発表された。陸軍参謀長の交代に際しては,政権が軍の意向に反した人事を強行することで政変の原因になった例がこれまで度々あり,今回も事前にさまざまな憶測が飛んだが,妨害もなく順当な人事が行われた。バジュワ陸軍参謀長は退任前日に演説し,今後も軍は政治に介入しないという原則を守る,と改めて明言した。

(井上)

経 済

2021/22年度の経済概況

2021/22年度の実質国内総生産(GDP)成長率は,6%と前年度の5.7%(修正値)に引き続き好況であった。前年度は,前々年度(2019/20年度)がコロナ禍を受けてマイナス成長であり,ベースが低かったために,高い成長率が達成しやすかったが,今年度もその水準を維持できたことは評価すべきだろう。

セクター別では,農業部門が対前年度比4.4%(前年度3.5%),工業部門が7.2%(同7.8%),サービス部門が6.2%(同6%)の伸びであった。前年度と同様,大規模製造業の伸び(対前年度比11.9%)が大きく貢献した。これは,テキスタイル(繊維)部門などの輸出産業に向けた,電気料金にかかる補助金,原料輸入に関する減税,融資優遇措置(短期再融資制度[Temporary Economic Refinance Facility: TERF]や長期融資優遇制度[Long Term Financing Facility: LTFF])など,前年度から続く政策によるところが大きい。TERF自体は前年度に終了しているが,その効果が2021/22年度に現れ始め,また現行のLTFFにおける優遇利子率は,政策金利より5%低く,テキスタイル部門の純投資額は対前年度比で167%増となった。また輸出産業については,欧米市場における需要の回復やルピー安も寄与した。とりわけ衣類は前年度比49.4%(前年度マイナス23.3%)の伸びであった。サービス部門では,生産部門の好況を受けた流通・卸部門が同10%と,これも前年度と同様の伸びを記録した。農業部門は,コメやメイズといった雨季の作物は豊作だったが,乾季の小麦は伸び悩んだ。小麦はパキスタンの主食であるために,伸び悩むと輸入に頼らざるを得ず,パキスタンの食糧安全保障上の懸念につながる。結果として,今年度の食料輸入は90億ドルに上った。なお,パキスタンの会計年度は2021年7月~2022年6月であり,洪水の影響は次期会計年度となる。

経常収支赤字は,比較的低い水準で抑えられていた過去2年から反転し,大幅に悪化した。対GDP比経常収支赤字は4.6%で,デフォルトに陥ったスリランカと同水準の深刻なレベルである。前述のとおり,衣類など輸出向け大規模製造業が好況で,輸出が394億ドル(対前年度比24.8%,銀行統計ベース)と大幅に伸びたが,輸入の伸びは対前年度比34.1%とそれ以上で,貿易収支赤字の改善にはつながらなかった。3月には,IMFによる条件付き融資である拡大信用供与措置(Extended Fund Facility: EFF)の第7次審査が遅れる見込みとなり,国際収支の悪化につながった。悪化にともない,ルピーは前年度末と比べ30.9%下落した。ルピーは年度末(6月末)よりさらに10%下落し,2022年末には1ドル=224.76ルピーとなった。外貨準備高は危機的な水準にまで落ち,年末には108億ドル(対前年比54.6%減)となった(図1)。

図1 SBP外貨準備と為替相場の動き

(出所)State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin,各号。

燃料を輸入に頼るパキスタンはその国際価格高騰に対応し,消費者への影響を小さくする名目で財政拡大政策をとった。ハーン政権の最大の目玉政策は,2月28日に発表した,電気・燃料費を補助する15億ドル規模の財政パッケージである。また,2月1日から石油関連製品の売上税を免税とした。これらは財源を無視した拡大支出路線であり,過去2年の比較的緊縮的な財政政策からの明らかな政策転換であった。国際価格高騰は,輸入関税の増額をとおして税収にはプラスでもあったが,大幅な拡大支出をカバーするにはいたらなかった。結果として2021/22年度の財政赤字は悪化し,対GDP比7.9%(前年度6.1%)となった。

2021/22年度の消費者物価指数(CPI)上昇率は2桁台となり,12.2%であった(図2)。詳しくは後述するが,パキスタン中央銀行(SBP)は,2021年後半から続く金融引き締め政策をさらに強化した。

図2 CPI上昇率(対前年同月比)

(出所)State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin,各号。

国際収支危機

パキスタンの2021/22年度経常収支赤字は174億ドルと,前年度の赤字28億ドルから大幅に悪化した。

最大の要因は,輸入の増加(対前年度比34.1%増の841億ドル)である。なかでも,増加の半分ほどは,国際石油価格の上昇によっている。ほかに,コロナ禍回復後の,国際市場の需要超過による食料をはじめとした物価の高騰が挙げられるだろう。また,ウクライナ情勢による,サプライチェーンの混乱も国際的な物価の高騰につながった。パキスタンは前述の小麦をはじめとして,食料の純輸入国であり,石油は100%輸入に頼っているため,とりわけ食料・石油の国際価格に非常に影響を受けやすい。

近年では珍しく好況だった輸出の伸び(同24.8%増の394億ドル)や,毎年パキスタン経済の唯一の好材料ともいえる海外労働者送金の上昇(同6.2%増の313億ドル)をもってしても,輸入の増加を補うことはできなかった。

IMFによる条件付き融資EFFの展望も明るくなかった。2月28日にハーン首相が発表した電気・燃料費補助のための財政パッケージがかなり積極的であったことに対して,3月4日に始まったEFFの第7次審査会合では,IMFが懸念を表明した。パキスタンの政情不安も加わり,次回の供与の遅れが決定的となるばかりか,供与の時期も,いつになるのか先が読めない状況になった。

2021年末に,コロナ禍に考慮したG20とパリクラブによる「債務支払い猶予イニシアティブ」(Debt Servicing Suspension Initiative: DSSI)が失効したことを受け,2022年は対外債務支払いの負担が一気に増した。猶予分は37億ドルと推定されている。債権国が軒並み金利を引き上げたことも負担に拍車をかけた。2021/22年度は,利子払いのみで,対前年度比52%増の32億ドルとなった。

これらの要因が積み重なり,年度末までには,外貨準備高が75億ドルも目減りした。ルピーも大幅に下落し,年度末には1ドル=204.37ルピーに,年末には1ドル=224.76ルピーとなった。国際メディアでは,スリランカの次のデフォルトはパキスタンだ,といわれるようになるなど(Time,2022年5月18日付),国際収支危機が現実のものとなった。

国際収支危機に対処するため,輸入の増加を抑える政策が次々と打ち出された。歳入庁は1月20日,ノックダウン方式を含む輸入車に対する関税を引き上げた。SBPは4月7日,輸入177品目について,輸入価格100%に相当する現金の銀行への預け入れを,輸入の必須条件とした。また後述のとおり,政策金利を4月からの4カ月だけで,5.25ポイントも引き上げ,15%とした。政府は5月19日,自動車など奢侈財38品目の輸入を禁止した。これは8月19日に解除されたが,代わりに高率の関税が課されることになった。

IMFは,上記の財政パッケージを撤回することを,EFF次回供与の条件とした。同財政パッケージは5月27日から段階的に縮小され,6月には終了した。IMFは8月29日,EFFに関し,遅れていた7次,および8次審査を終了し,17億ドル分の供与を承認した。これにより,かろうじてデフォルトを免れたパキスタンだが,その後もデフォルトの危機はつきまとった。

格付け会社ムーディーズは10月6日,パキスタン国債の信用格付けをB3からCaa1に1ランク引き下げた。つまり,パキスタン国債はジャンク債のレベルとみなされることとなった。デフォルトの噂を払拭するように,12月2日,パキスタンは満期を迎えたイスラーム国債10億ドル分につき,リスケを行うことなく償還に応じた。

シャハバーズ・シャリーフ首相は12月27日,「(IMFの条件を飲むしか)選択の余地はない」(Tribune,2022年12月28日付)と発言し,補助金をたやすく支出できないことに理解を求めた。

インフレーション

前述のとおり,2021/22年度のCPI上昇率は12.2%であった。これは,政府によるインフレ目標も,SBPによる2021年末時点の予測値であった9~11%をも上回る高い水準となった。

ハーン前首相が国民の人気を失った最大の要因として,国際メディアはインフレを指摘している(The New York Times,2022年4月9日)。政権交代の主要因かどうかはさておき,2桁のインフレが国民の負担となっていることは間違いなく,元国民的スターのクリケット選手であったハーン前首相の人気に影を落としたことは疑いないだろう。

パキスタンのインフレは,前述の輸入増加と深く関係している。食料の純輸入国であり,石油を100%輸入に頼っているため,これらの国際価格の影響を受けやすいからである。ちなみに,CPIバスケットに占める食料・燃料費の割合は,都市で46%,農村で57.4%である。なかでも,食料価格の高騰が,CPIの上昇率の約3分の1に寄与した。

SBPは,国際価格の高騰や,ルピーの下落を受けた,国内のインフレ上昇圧力に対処するため,2021年の9月から緊縮金融路線に転換しており,2021年末までに政策金利を2.75ポイント引き上げていた。2022年は,さらなるインフレ圧力に対処するため,その方針を強化した。SBPは4月7日,緊急会合を開き,政策金利につき近年で最大の上げ幅となる2.5ポイント,12.25%への引き上げを決定した。SBPは引き続き政策金利を,5月23日に13.75%,7月7日に15%,11月25日に16%に引き上げた。これらの政策金利引き上げに加え,SBPは,住宅向け補助金(Mera Pakistan Mera Ghar: MPMG)や,青年企業家向け無金利融資(Kamyab Jawan Youth Entrepreneurship: KJYE)の一時停止を決定した。

ハーン前首相が2月28日に発表した,電気・燃料費を補助する15億ドル規模の財政パッケージは,インフレに直面する国民の負担を和らげる目的をもっていた。しかし同時に財源を無視した拡大財政支出は,国内需要を喚起するために,インフレにもつながる諸刃の刃であった。とりわけ,食料,燃料費以外の物価は,これらの拡大財政支出を受けた好況な実体経済,および堅調な海外労働者送金の伸びを受け,2021/22年度第4四半期には2桁の上昇率となった。

インフレ圧力を受け,財政政策も引き締めざるを得なくなった。前述のとおり財政パッケージは,5月27日からガソリンやディーゼルの値段の引き上げを行うなど,段階的に縮小せざるを得なくなり,6月には終了した。

(牧野)

対外関係

ロシアのウクライナ侵攻に対する立場

2月21日,ロシアがウクライナのドネツク,ルガンスク地方の独立を承認し,ロシア軍に同地域の治安維持を命じると,アメリカはこれを「侵略の始まり」と捉え,経済制裁を発表した。世界が緊張感を高めて事態の推移を見守っていた時に,イムラン・ハーン首相は2月23~24日に予定していたモスクワ訪問をキャンセルも延期もせず実行した。24日夜明け前,プーチンが正式にウクライナ侵攻を宣言した時,ハーン首相とその一行はモスクワのホテルに落ち着いたところだった。翌日,ハーン首相がモスクワでプーチン大統領と握手する写真が世界に配信された。

パキスタンはウクライナ侵攻に関してロシアを直接的に非難しない姿勢で一貫している。ただ,「軍事対立には反対する」「対話と外交によって問題が解決されるべきで人命が最優先である」「パキスタンはロシア,ウクライナ両国と友好関係を持っているので仲介者としての役割は果たせる」,などとしている。3月3日の国連総会におけるロシア非難決議および10月12日のウクライナの領土保全決議は,いずれもパキスタンは棄権した。

対アフガニスタン関係

アフガニスタンのターリバーン政権は,パキスタンとの国境(デュランド・ライン)を国境と認めない立場を強めている。これに対してパキスタンは,治安や密輸防止の観点から,国境の厳格な管理を理由にフェンスの建設を進めている。デュランド・ラインは1893年にイギリスがアフガニスタンと英領インドの間に定めた境界線に基づいており,パキスタンはこれを国境線としているが,アフガニスタンの歴代の政権は一度もこれを国境と認めたことがない。アフガニスタンからパキスタン西部に広がるパシュトゥーン人の居住地域は,国境管理が厳格ではなく,住民の移動が行われてきたが,TTPなどによるいわゆる越境テロへの対策としてパキスタン政府は2007年から2600キロメートルに及ぶ国境線のフェンス建設を開始し,2017年以降本格化して,2021年8月にターリバーンが政権掌握した時点で90%,2022年初までに94%が設置されている。パキスタンとしては,テロ防止と密輸対策は両国にとって有益であるとの考えがある。しかし,ターリバーン政府はこのフェンス設置を阻止しようとしており,年初から軍事衝突が生じて死者・負傷者が出た。その後も小競り合いが起こり,12月には民間人の犠牲も出ている。アフガニスタンをめぐっては,ブットー外相がブリンケン米国務長官と会見し,対応を協議するなど,パ米関係改善の兆しが見えた。

(井上)

2023年の課題

国内政治では,PTIが与党である州議会の解散と,PTI議員の総辞職の行方が,今後の国政の帰趨にも大きな影響を及ぼすとみられる注目点である。シャハバーズ・シャリーフ政権が2023年8月までの任期を全うするにせよ,それ以前に解散に追い込まれるにせよ,選挙の年となる。PTIが国民の間で一定の支持を維持していることは留意せざるを得ないが,イムラン・ハーンが汚職の追及以外に明示的な政策を公約していないことは問題である。彼への支持は若年層を中心に,既成政党への批判票という意味もあるとみられ,新しいパキスタンを掲げてきたハーンには,それを受け止める責任があるだろう。

2023年には,IMFのEFFが終了予定であり条件の縛りがなくなるため,2022年に実施された増税や光熱費への補助金削減など,世論から反感を買うような政策は取り下げられる可能性がある。財政赤字の拡大が懸念される。またIMFからの融資条件にかかわらず,構造的な赤字体質改善に取り組むことが必要だろう。とりわけ税収ベースの拡大は,近隣諸国と比較しても喫緊の課題である。しかし,これまでの経緯からして,また選挙もあるために拡大支出傾向が予想され,そのような取り組みは期待できない。

テロ件数が増加に転じていることは予断を許さない。テロ対策は2015年から一時軍の手に委ねられ,圧倒的な軍事力による封じ込めが奏功してきた。この時の対応相手はもっぱらTTPであったが,今般の中国人を狙ったテロやバローチスタンの民族主義的な背景をもったテロへの対処には,同じ手法が有効なのだろうか。中国人を標的にしたテロは,引き続き対中国関係とも関わって重要な課題となろう。

アフガニスタン国境のフェンス問題は,アフガニスタンが妥協しない可能性が高い。ターリバーンとパキスタンの紛争とならないよう,パキスタン側からの注意深い対応が求められる。

(井上:就実大学教授)

(牧野:開発研究センター)

重要日誌 パキスタン 2022年
   1月
3日クレーシー外相が,国境フェンスに関するアフガニスタンとの対立について,外交的に解決しフェンス建設は進めると明言。
5日アフガン東部地区国境警備隊司令官,今後一切のフェンス建設を容認しない,パキスタンからの越境砲撃に反撃すると述べる。
13日アルヴィ大統領がウマル・アタ・バンディアル最高裁判事を次期最高裁長官として承認。
13日パキスタン財務法2022年修正法案が下院,15日上院で可決。1969年同法の修正法案で税免除の廃止など財務の健全化が目的。IMFによる条件付き融資プログラム拡大信用供与措置(EFF)10億ドル供与の条件。
13日パキスタン中央銀行(SBP)法2022年修正法案が下院,28日上院で可決。1956年同法の修正法案でSBPの独立を保障する目的。IMFによるEFF10億ドル供与の条件。
20日パキスタン歳入庁,ノックダウン方式を含む輸入車に対し,関税を増税。
24日アーイシャ・マリク(ラホール高裁判事)が女性として初めて最高裁判事に就任。
24日パキスタン国境警備兵とターリバーンとの間で軍事衝突,死者2人,負傷者27人。
24日イスラーム債10億ドル分を発行。
   2月
1日歳入庁,石油製品の売上税を無税に。
2日バンディアル最高裁長官が着任。
2日IMF,EFF第6次審査を終了。10億ドル分の供与を承認。
16日SBP,輸出向け企業への金利優遇政策,輸出金融スキーム(EFS)の拡充を発表。
18日ギャラップ・パキスタン社の世論調査結果が報道され,支持する政治家としてナワーズ・シャリーフがイムラン・ハーン,ビラーワル・ブットーを抑えて1位。
23日ハーン首相がモスクワを訪問,24日にプーチン大統領と会談。
28日首相,電気・燃料費を補助する15億ドル規模の財政パッケージを発表。5月27日から段階的に縮小し6月に終了するまで,実際に2414億ルピーを支出。
   3月
3日国連総会でロシアのウクライナ侵攻についての非難決議。パキスタンは棄権。
4日IMF,EFFの第7次審査を始める。
4日ペシャーワルで自爆テロ。少なくとも56人死亡。IS(「イスラーム国」)が犯行声明。
8日野党が下院事務局に首相不信任案と,下院招集の要求書を提出。
9日首相がカラチの州知事公邸で演説,自らの実績を強調し,野党指導者を批判。
9日インド,パキスタン領内にミサイル誤射。
17日経済調整委員会(ECC),政府小麦買い取り価格の13%引き上げを承認。
18日パキスタンムスリム連盟ナワーズ派(PML-N)は,マリヤム・シャリーフが先導してイスラマバードへ行進すると発表。
22日イスラーム協力機構(OIC)外相会議(~23日,イスラマバード)。クレーシー外相,ムスリム・ウンマの団結と統一推進がパキスタン外交政策の柱であると開会演説。
22日PML-N,スワートからイスラマバードへのデモ行進の中止を発表。デモを率いる予定だったマリヤム・シャリーフの発熱のため。
27日首相は今回の不信任案提出には外国勢力が関与していると述べる。
30日首相不信任案について,連立与党統一民族運動(MQM)が野党支持を決定。
   4月
3日首相が首相不信任案を棄却させ議会を解散。この解散につき,最高裁が権限(スオモト)により審理開始。
7日最高裁,議会解散は違憲であり,9日に首相不信任案の採決を行うよう判決。
7日SBP,緊急会合。政策金利を2.5ポイント引き上げ,12.25%に。近年で最大の上げ幅。
7日SBP,輸入177品目に関し,輸入価格100%に相当する現金のデポジットを必須に。8月6日に緩和される。
10日下院で首相不信任案が可決され,ハーン首相,ショウカト・タリン財務相ら失職。
11日下院で首相選挙。シャハバーズ・シャリーフが第23代首相に選出される。パキスタン正義運動党(PTI)議員は首相選挙をボイコット。174人がシャハバーズに投票。
16日パンジャーブ州首相選挙でハムザ・シャリーフが当選。
16日アフガニスタンの民放テレビ,パキスタン軍の越境攻撃により,少なくとも46人死亡と報道。パキスタン外務省,アフガン側からのパキスタン・ターリバーン(TTP)の攻撃への報復攻撃と弁明。
19日閣僚37人が宣誓して新内閣発足。
26日カラチ大学の中国語センター(孔子学院)付近で女子学生による自爆テロが発生。中国人教員3人が死亡。他に中国人3人とパキスタン人レンジャー1人が負傷。
27日ビラーワル・ブットー・ザルダリが史上最年少で外相に就任。
28日首相,サウジアラビア訪問(~30日)。サルマン王子と会談。5月1日,共同声明で,30億ドルの支援を進めることを発表。
   5月
4日バキルSBP総裁の任期満了に伴い,マルタザ・サイヤド副総裁が暫定総裁に就任。IMF出身のエコノミスト。
9日クウェート投資庁,パキスタンのインフラ向け7.5億ドル規模の融資に合意。
11日首相と閣僚9人,ロンドンでナワーズ元首相と今後の政策を協議。
19日自動車など奢侈財38品目の輸入を禁止。外貨準備維持を目的。8月19日に禁止を撤廃。
19日ブットー外相,アメリカ訪問(~20日)。ブリンケン国務長官と会談。
21日外相,中国訪問。王毅外相と会談。
23日SBP,政策金利を1.5ポイント引き上げ,13.75%に。
24日PTIのロングマーチと座り込み阻止のためイスラマバードで主要道路封鎖。関係者の身柄拘束。
25日カラチとラホールで警官隊とPTI関係者が衝突。
26日イスラマバードへのロングマーチでハイバル・パフトゥンハー(KP)州から来た支持者が警官隊と衝突。
27日下院でPML-Nの連立政党が相次いで与党批判。
28日PML-Nは連立政党を招いて夕食会を開き,連立の結束立て直しを図る。
28日ECC,小麦(300万トン)と尿素肥料の輸入を承認。
   6月
2日TTP,カーブルでの和平交渉で,パキスタン政府との無期限停戦を宣言。
9日イスマイール財務相,2022年度『経済白書』発表。
10日財務相,2022/23年度予算案発表。対前年度比約11%増の歳出を計上も,IMFの融資条件に合わせ,増税など緊縮的な内容。
21日中国の複数銀行が合わせて23億ドルの再融資に合意。
24日首相,銀行,テキスタイル,鉄鋼等大企業向け法人税,時限的10%引き上げを発表。39%に。
26日バローチスタン州議会は,クッドゥーズ・ビゼンジョー州首相不信任案を否決。
30日SBP,住宅向け補助金,および青年企業家向け無金利融資の一時停止を決定。
   7月
1日最高裁は,ハムザ・シャリーフのパンジャーブ州知事の地位を22日まで認め,22日に再度選挙するよう裁定。
3日バローチスタンで30人以上乗せたバスが谷に転落。少なくとも19人死亡。
3日政府,鉄鋼など7品目の輸入関税を,3~11%引き上げ。
7日SBP,政策金利を1.25ポイント引き上げ,15%に。
17日パンジャーブ州議会,補欠選挙実施。20議席のうちPTIが15議席,PML-Nは4議席,無所属1議席。
22日パンジャーブ州首相選出。州議会議員による投票。PTI,PML-Qのイラーヒー候補が多数を得るが,副議長裁定でハムザ候補が当選。イラーヒーと最高裁弁護士会が最高裁に異議申し立て。
26日最高裁(判事3人)がパンジャーブ州首相選挙はイラーヒー候補が当選と判決。
   8月
2日選挙管理委員会が,PTIは外国人と外国の会社から献金を受けていたと認定。
4日ASEAN関連外相会議(プノンペン)のサイドラインで,林外相,ブットー外相と会談。
7日TTPのオマル・ホラーサーニー(2014年ペシャーワル学校襲撃事件の首謀者とされる)がアフガニスタンで爆死。
8日KP州北ワジリスタンのミールアリーで,治安当局の車列への自爆テロ。兵士3人と民間人1人が死亡,兵士7人が重傷。
16日パンジャーブ州でバスがタンクローリーに追突,炎上。バスの乗客ら少なくとも20人死亡。
19日ジャミール・アフマド,SBP新総裁に就任。
20日ハーン前首相,演説。警察,反テロ法違反の疑いで捜査。
23日SBP,公開市場操作(OMO)をとおして,1770億ルピーを市場に供給したことを発表。
25日政府が洪水による緊急事態を宣言。
29日IMF,EFFの第7,8次審査を終了。17億ドル分の供与を承認。
30日政府,国連と共同で洪水対策計画を発表。10月4日,950万人に対する8.16億ドルの人道支援に修正。
   9月
4日マイクロファイナンス会社Kashf Foundationが940万ユーロ資金調達。
8日イスラマバード高裁,法廷侮辱罪の罪で,前首相を起訴すると発表。10月3日に不起訴処分が決定。
9日グテーレス国連事務総長来訪(~10日)。洪水被害地域慰問。
19日首相が英エリザベス女王の葬儀に出席し,ウィリアム3世と面会。
22日日・パキスタン首脳会談。岸田首相,洪水見舞いに約10億円の緊急無償資金協力を実施する方針を伝える。
23日首相,第77回国連総会で演説。気候変動に起因する大洪水に見舞われているパキスタンの困難に言及し人道援助を呼びかけ。
23日UNDPがパキスタン債権国に対して洪水被害に鑑み支払い猶予に応じるよう呼びかけるとの報道。
26日ブットー外相がブリンケン米国務長官と会談。
27日イスマイール財務相辞任。後任に,イスハーク・ダル,4度目となる財務相就任。
  10月
6日ムーディーズ,パキスタン国債の信用格付けをB3からCaa1に1ランク引き下げ。ジャンク債のレベルに。
10日首相,外相,タールパルカルで,330MW発電容量のタール石炭火力発電所II建設着工式に出席。中パ経済回廊(CPEC)のプロジェクト。
10日ECC,輸出業者向け1000億ルピー電気料金助成を承認。
11日マラーラ・ユースフザイ,銃撃以来,2度目の帰国。洪水被災地訪問のため。
12日国連総会でウクライナの領土保全決議。パキスタンは棄権。
13日PTIの上院議員アーザム・スワティがパキスタン連邦捜査局(FIA)サイバー犯罪班に拘束。陸軍参謀長(COAS)に対する論争的なツイートをした疑い。
13日全国的大規模停電。復旧まで24時間。
16日下院補欠選挙で8議席中6議席をPTIが獲得。パキスタン人民党(PPP)が2議席。
21日選挙管理委員会,前首相の議員資格はく奪。外国からの贈答品を申告しなかったことが理由。
  11月
2日首相,中国訪問。習近平国家主席と会談。
3日パンジャーブ州ワジラバードでPTIの幹部らの乗った車列に銃撃。ハーン前首相を含む14人負傷。党運動員1人死亡。
5日SBP,OMOをとおして6750億ルピーを市場に供給。
7日エジプトのシャムエルシェイフで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)で,首相とグテーレス国連事務総長が共同記者会見。事務総長,洪水復興支援のためG20に対し債務スワップを提案。
8日連邦政府が,イクバール誕生日(11月9日)を国民の祝日とすると発表。2018年以来4年ぶりの復活。
16日歳入庁,石油製品への売上税増税。
23日バジュワ陸軍参謀長が退任演説し,軍は政治介入しないと明言。
24日アルヴィ大統領,アーシム・ムニール大将を次期COASに承認(11月29日発令)。シャヒール・シャムシャド・ミルザー大将を統合参謀本部議長に承認(11月27日発令)。
25日SBP,政策金利を1ポイント引き上げ,16%に。
28日IMFのEFFの第9次審査,当初の予定より遅れて開始。
28日TTP,6月から実施されていた政府との停戦協議を破棄。
  12月
2日カーブルのパキスタン大使館をISと見られる2人が銃撃し,守衛が負傷。首相は臨時代理大使を狙った暗殺未遂と述べた。
2日パキスタン,満期を迎えたイスラーム国債10億ドルを償還。
4日660MW発電容量のタール石炭火力発電所Iの電力供給開始。CPECプロジェクト。
5日マリク石油相が,ロシアは原油,石油,ディーゼルを安価にパキスタンに売ることになったと発表。
7日英BBC,アーイシャ・マリク最高裁判事を「100人の女性 2021」に選出。
11日チャマンのアフガニスタン国境で,アフガンの国境警備隊がパキスタンに向けて迫撃砲を発射,パキスタンの民間人6人が死亡,17人負傷。翌日,首相があらゆる非難に値するとツイート。
12日SBP,6月30日に停止された青年企業家向け無金利融資に代わる新たな政策を発表。マイクロファイナンス,農業向け融資が柱。
15日アジア開発銀行,洪水被害復興を含む5つのプロジェクト,総額7.75億ドル融資を合意。
23日イスラマバードで警察の検問所で爆弾テロ。警察官1人死亡。

参考資料 パキスタン 2022年
①  国家機構図(2022年12月末現在)
②  政府等主要人物(2022年12月末現在)
②  政府等主要人物(2022年12月末現在)(続き)
②  政府等主要人物(2022年12月末現在)(続き)

(注)1)PTI(Pakistan Tehreek-i-Insaf)パキスタン正義運動党。2)PMLN(Pakistan Muslim League-Nawaz)パキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派。3)PMLQ (Pakistan Muslim League Quaid-e-Azam)パキスタン・ムスリム連盟カーイデ・アーザム派。4)PPP(Pakistan People’s Party)パキスタン人民党。5)MQM(Muttahida Qaumi Movement)統一民族運動。6)BAP(Balochistan Awami Party)バローチスタン人民党。7)MMA(Muttahida Majlis-e-Amal Pakistan)パキスタン統一行動評議会。8)JWP(Jamhoori Wattan Party)民主祖国党。9)BNPM(Balochistan National Party Mengal)バローチスタン国民党メンガル派。

主要統計 パキスタン 2022年
1  基礎統計1)

(注)1)会計年度は7月1日~翌年6月30日。以下,同。人口,労働力人口は年度末の数値,その他は各年度平均値。2)修正値。3)暫定値。

(出所)Government of Pakistan, Finance Division, Economic Survey 2021-22; State Bank of Pakistan, Annual Report Statistical Supplement, Statistical Bulletin, 各号。

2  支出別国民総生産(名目価格)

(注)1)修正値。2)暫定値。

(出所)Government of Pakistan, Finance Division, Economic Survey 2021-22.

3  産業別国内総生産(2015/16年度価格)

(注)1)修正値。2)暫定値。

(出所)表2に同じ。

4  国・地域別貿易

(注)1)再輸出/輸入を除く。

(出所)State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin, 各号。関税統計ベース。

5  国際収支

(注)IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。ただし,金融収支の符号は(-)は資本流出,(+)は資本流入を意味する。

(出所)State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin, 各号。銀行統計ベース。

6  国家財政

(注)1)暫定値。

(出所)State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin, 各号。

 
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