2023年は,ロシア・ウクライナ戦争が膠着状態に陥り,イスラエルとハマスの軍事衝突が発生するなど,国際情勢の混沌が深まる1年でした。なかでもアジア地域の経済は,前年から成長が鈍化したものの改めて底堅さを示したといえます。IMFの世界経済見通し(2024年4月)によれば,2023年のアジアの新興市場国・発展途上国の経済成長率は世界平均の3.2%を上回り,5.6%となりました。
とはいえ,下振れリスクが解消されたわけではありません。食料・資源価格の高騰やそれに伴う各国のインフレは比較的落ち着きましたが,紛争が激化すれば問題が再燃する可能性があります。中国経済の動向もアジア各国にとっては気がかりです。主要先進国の金融引き締め政策が長期化する恐れもあります。
一方,政治に目を向けると,体制の強権化や政情不安といった前年からの流れが続きました。野党排除の選挙が繰り返されたカンボジアでは,フン・センが息子に首相職を譲った後もいっそう権力集中を進めています。タイでは民意に反して保守政権が成立しました。ミャンマーでは激しい内戦が続いています。
対外関係では,多くの国が引き続きアメリカや中国との関係を中心に外交を展開するなかで,グローバルサウスと呼ばれる国々が注目を集めました。
このような各国の動向を多面的に把握し,冷静かつ正確な分析を行うことは,アジア諸国・地域だけでなく,混沌とする世界を理解するうえでも欠かせません。
アジア経済研究所では,アジア各国・地域の政治,経済,対外関係に関する動向を的確に伝えることを目的に,1970年以降毎年『アジア動向年報』を発行してきました。本年報では,各国・地域を長年観察してきた研究者が現地一次資料や現地調査に基づき現状分析を行うのみならず,その歴史的背景や意味についても明らかにし,アジアの「今」を理解するうえで有用な情報の提供に努めています。
また,本年報とともに,既刊の年報から各章を抽出して10年ごとに1冊に束ね,各国の動向を10年単位で把握できる「各国別バンドル版」(1990~1999,2000~2009,2010~2019)もウェブサイトで公開中です。本年報がアジア地域・諸国の現状を理解するための一助となることを願っています。
2024年5月