Yearbook of Asian Affairs
Online ISSN : 2434-0847
Print ISSN : 0915-1109
Trends in Countries and Regions
Malaysia in 2024: Efforts to Maintain the Government on Both Political and Economic Front
Yukiko Taniguchi
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2025 Volume 2025 Pages 319-344

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2024年のマレーシア

概 況

2024年のマレーシアは前年に引き続き,政治・経済ともに安定していた。

アンワル首相率いる希望連盟(PH)と国民戦線(BN)を中心とする連立政権は,安定した統治を続けた。年初や年末にPHとBNの連立を崩壊させようとする野党からの挑発を受けつつも,与党内の他勢力や安定を望む国王から政権に対する支持もあり,攻撃を退けた。他方,報道や表現の自由に対する政府の抑圧が目立ち,そのための法整備が進んだ。

2月には,巨額の政府資金流用で有罪となり服役しているナジブ元首相に対し,刑期を半減する恩赦が下された。さらに,懲役刑の残りの刑期を自宅拘禁とするよう前国王が恩赦の際に付言していたとされ,ナジブはその実行を求めて司法審査を申請した。ナジブの裁判の動向は政権の結束に水を差しかねない争点であるため,野党連合・国民同盟(PN)はナジブへの支持を表明するなどして政権に揺さぶりをかけている。

経済面では,民間および政府投資の伸びに影響を受け,2024年の国内総生産(GDP)成長率は5.1%と好調であった。特に建設業は前年比17.5%の成長となり,2014年以来の2桁成長を記録した。2025年予算で政府は財政健全化に注力する姿勢を示し,ガソリン補助金制度の改革を明言した。また新たなブミプトラ(マレー系やその他の先住民)支援政策として,「ブミプトラ経済変革計画2035」が発表された。

対外関係では,アンワル首相は精力的に外遊を行った。BRICSへ加盟を申請する一方,国内ではアメリカ大手企業からの大規模投資が相次いで発表された。各国への中立と自国の利益の追求という外交姿勢を体現していたといえる。またパレスチナ問題には引き続き政府や市民の関心が寄せられた。イスラエル支援企業に対する国内の不買運動の影響は,飲食チェーンの売り上げや空港運営会社の買収問題に波及した。

国内政治

3年目を迎えたアンワル政権

2022年11月にアンワル政権が発足してから2年あまりが経過した。2024年は総じて政治的に安定した1年であったといえる。

政権は,首相が総裁を務める人民公正党(PKR)らの政党連合PH,統一マレー人国民組織(UMNO)率いるBN,サラワク政党連合(GPS),サバ人民連合(GRS)などによる連立から成っている。2020年の政変以降,野党は与党の連立を崩壊させようとたびたび試みており,2024年も野党の倒閣工作や連立加盟政党の離反の噂がときおり流れたが,実際に実行されることはなかった。

具体的には,年始に与野党の一部政治家が多数派工作のためにドバイで会合をもったという噂が出たり,年末にはUMNOのナジブ元首相の自宅拘禁問題(後述)をめぐり,野党連合PNの汎マレーシア・イスラーム党(PAS)が与党UMNOへ接近するなどした。政権の安定を脅かしかねないこれらの動きを封じ込めたのは,首相任命権をもつ国王や与党内サバ・サラワク両州の勢力である。

2024年1月,前述の噂が広がるなか,首相との会談で前国王は「いかなる政治的策略にも関与しない」と述べたことが明らかになった。1月末に即位を控えていた新国王(ジョホール州王)も,即位まではすでに予定されていた謁見以外は一切認めないと述べた。さらに2月末の国会開会の際,新国王は「政治的安定を損なおうとするいかなる政党からの要請も受け入れない。すべての政党は統一政府(現政権)を尊重しなければならない。政治をやりたい者は次の選挙を待つべきである」と演説し,政治家たちに念を押した。

サバ州のGRSやサラワク州のGPSも,次回の総選挙までアンワル政権を支持し続けるとすぐさま表明した。現在,与党ならびに閣外協力を結んだ友党が保持する下院議席153のうち,54が両州の議席である。全議席222においても約25%を両州が占める。こうした現状では,両州の勢力をどれだけ引き入れられるかが政権獲得に直結しており,両州陣営の迅速な意志表明がけん制として有効に機能している。

政権に対する有権者からの支持もさほど揺らいでいない。世論調査会社ムルデカセンターによる調査では2023年10月以降,首相支持率と政府支持率ともに下落傾向であった。しかし,2024年6月を境に支持は戻りつつある。首相支持率では不支持が支持を上回ったのは6月のみで,それ以降支持が回復し,10ポイント以上不支持よりも高い値を維持している。不支持が2023年10月以降過半数を超え,支持との差が開いていた政府支持率も,拮抗状態となっている。

本年4度実施された各州議会の補欠選挙においても,おおむね現職政党が勝利した。野党連合PNが勝利したペナン州議会補欠選挙では,前年の州議会総選挙よりも与党のPHが得票率を減らしたことで与党支持の後退と評されたが,次のクランタン州議会補欠選挙では野党マレーシア統一プリブミ党(PPBM)から与党UMNOが議席を奪還した。したがって,連立与党内,与野党間の関係,有権者の支持,いずれの面からみても現状アンワルは安定して政権を維持しているといえるだろう。

言論の自由に対する統制強化

長らく野党の指導者を務めたアンワル首相は,先頭に立って政府に改革を求めてきた。しかし,いまでは当のアンワル政権が言論の自由を統制する方向に舵を切っている。一部のメディアなどに対する検閲的な対応は前年にもしばしばみられた。2024年は,報道や表現の自由を抑制し,政府の監督下に置くことを目的とした法整備が進められた点で,抑圧が強化されたといえる。

とりわけ各方面に影響をもたらしたのは,SNS事業者に対する規制の導入である。7月末,マレーシア通信マルチメディア委員会(MCMC)は国内で800万人以上の登録者を有するSNSやチャットツールを運営するプラットフォーム事業者に対し,2025年1月1日よりライセンス取得を義務付けると発表した。取得しない場合には違法となり,政府は法的措置を講じるとした。対象となったのは,FacebookやInstagram,X,WhatsApp,YouTube,TikTok,Telegramなどを運営する大手各社である。

この規制を盛り込んだ通信マルチメディア法改正案には,MCMCによるプラットフォーム事業者への利用者データの開示命令や命令に従わない場合の懲罰の強化など,MCMCや通信大臣の裁量を拡大する内容が含まれている。ファフミ・ファジル通信大臣は,政府がこれまで行ってきたコンテンツの削除要請に対する各社の対応は十分ではなかったと述べており,ライセンス制の導入によりSNS事業者に対する圧力を強める狙いがあると考えられる。

12月に同法の改正案とあわせて可決されたオンライン安全法では,児童ポルノや金融詐欺,ネットいじめ,暴力やテロの煽動などの内容を有害コンテンツと指定し,規制対象とした。そして利用者が一連の有害コンテンツにさらされるリスクの軽減や安全管理をプラットフォーム事業者に義務付けた。

規制強化の背景には,インターネット上の嫌がらせや論争の過熱がある。7月にTikTokのインフルエンサーであった女性が脅迫や嫌がらせを苦に自殺する事件があった。女性の葬儀には通信大臣自ら出席し,遺族へ規制の強化を明言した。

さらに,3月にはコンビニチェーンであるKKマートの首都近郊の店舗において,「アッラー」という文字が書かれた靴下が販売されていたことがSNS上の投稿を契機に問題となった。SNSで論争が過熱するだけでなく,一部の与野党政治家の過激な発言やKKマートの不買運動につながり,当該チェーンの店舗に火炎瓶が投げ込まれる事件や脅迫,嫌がらせなども発生した。

SNS上の過熱した論争が実社会での民族,宗教間の分断を強め,暴力を招いていると政府は認識し,問題視しているとみられる。民族間対立の激化やそれに伴う暴力の誘発は,1969年の民族暴動以降,歴代政権にとって最も避けるべき事態だという背景もある。

こうした政府の規制強化に対し,多くの市民社会団体が非難の声を上げている。通信マルチメディア法は「不快」とされる内容の投稿を違反行為と定めており(第233条),かつてBN政権下でジャーナリストや政治家などを摘発する手段として用いられてきた。改正案ではこの条項についても「極めて不快」と文言を置き換えたうえで残された。アンワル首相率いるPHは同法の廃止を野党時代にマニフェストに掲げていたが,それを反故にしたことになる。

他にも,通信省が2月に発表したジャーナリスト倫理規定の改訂版では,同省傘下の情報局がジャーナリストの認定を取り消す権限をもつことが問題視された。また,別途MCMCの権限拡大を含めたMCMC法の改正案は12月の下院審議で採決が延期され,議会特別委員会に付託され検討されることになった。

マレーシアは,2024年5月に発表された世界報道の自由度ランキングにおいて,前年よりも34位下落し107位となっており,次回はさらに下落する可能性がある。アンワル首相はこの状況に対し,マレーシアの報道の自由に対する国際的な認識を向上させる必要はあるが,王族,人種,宗教の「3R」の問題があるため限界があるのだと議会で答弁している。したがって,政府による規制強化や抑圧的な対応は,今後も継続するとみられる。

ナジブ元首相の汚職裁判をめぐる問題:恩赦と自宅拘禁

ナジブ元首相の汚職裁判が1年を通して政治的な争点となった。2009年から2018年まで首相を務めていたナジブは,2015年に海外メディアの報道により,ワン・マレーシア開発公社(1MDB)の運営に関連して多額の資金を流用していたことが暴露された。このスキャンダルは与党UMNO内で反発を招き,党の分裂を招いたうえ,2018年の政権交代の一因となった。政権交代後にはナジブや関係者が逮捕され,裁判が進められてきた。

そして2022年の総選挙の結果,かつて与野党として対立していたPHとUMNO率いるBNが連立を組んで政権を樹立したことにより,ナジブをめぐる一連の汚職裁判の進捗や判決は連立与党内の懸念事項となった。

UMNOは党としてナジブの無罪と釈放を主張してきた。現在も残る支持者や党員のなかでナジブの人気はいまだ根強く,ナジブの帰還が党の再興につながると彼らは考えている。とはいえ現総裁のザヒドも最終的には起訴取り下げとなったものの汚職で摘発されているため,多くの有権者はUMNOに長年の汚職の温床というイメージをもつ。ナジブへの印象には党内外で乖離が存在するのである。

他方,PHは野党時代から改革を掲げてナジブ元首相のスキャンダルを追及してきた。PHが率いる現政権下でナジブが免責となれば有権者に裏切りと捉えられかねないが,UMNOとの連立が政権維持の要である以上,極端な対立を避けたい意向もある。

ナジブに恩赦が与えられる可能性は,収監当初から存在していた。2022年8月,1MDBの子会社であるSRCインターナショナルに関わる背任などについてナジブに下された有罪判決が確定した。禁錮12年,罰金2億1000万リンギという刑罰が執行され,ナジブは収監された。UMNOからは不公平な裁判だったとして司法への批判が上がり,支持者らは国王へ恩赦を訴えて集会を行った。そしてナジブはこの刑罰に関する恩赦を同年9月と2023年4月に申請した。

申請が提出された以上,ナジブへの恩赦は国王が主宰する恩赦委員会で審議される見通しであった。さらに連邦憲法上は1年以上の懲役刑を受けた場合,議席が剥奪されるという規定があるが,恩赦を請願し,却下されない限りは議員としての地位が維持されるという点も,ナジブやUMNOにとってメリットであった。

いつナジブからの請願が審議されるのか,恩赦が本当に下されるのかについて大きな関心が集まり,2024年に入ると先走った報道もみられた。実際に恩赦が下されたと公表されたのは2月初旬であった。恩赦委員会は禁錮刑の期間を6年に短縮し,罰金を5000万リンギに減額するという部分的な恩赦を発表した。

恩赦は,司法長官や連邦直轄領大臣を含む恩赦委員会による助言を受けて,国王が専権事項として最終的な判断を下す。ナジブに恩赦が下された背景には,国王であったパハン州王が同州の貴族家系出身であるナジブと親しい間柄であることも影響したとみられる。今回の恩赦は,5年の任期を終えるパハン州王が行った国王としての最後の公務であった。

部分的な恩赦となったことは,ナジブ支持・不支持双方の陣営や有権者には不満が残るものの,政権にとっては良い結果であった。アンワル首相らPH側は支持者からの非難にも恩赦の判断は国王の専権事項だと弁解が可能である。さらにナジブは他の容疑に関する裁判もまだ残っており,即座に釈放されるわけではない。釈放後も5年間は公職に就けないため,少なくとも2027年末頃に行われるであろう次回総選挙には参加できないことになる。UMNO側,とりわけザヒド総裁にとっては一定の収穫があったと支持者に示せるうえ,人気の高いナジブの復帰が遅れることで党内での自らの影響力を維持できる。与党内の結束が揺らぐことなく,この局面を切り抜けることができた。

しかし,ナジブの恩赦に関する問題はこれにて幕引きとはならなかった。続いて生じたのは,ナジブが残りの刑期をどこで服すかという問題であった。残り6年の服役に関して,自宅での拘禁を許可する旨の附則を当時の国王が2024年1月29日付の恩赦に付していたはずだとナジブは主張し始めたのである。

4月初めには,ナジブがその附則の存在を確認する司法審査を請求した。この請求では,内務大臣ら政府関係者数人を挙げ,国王による附則の存在の確認と回答を行うように裁判所が命ずること,さらに附則が存在する場合にはその記載どおりに自宅拘禁が執行されることを求めた。

7月,高等裁判所はナジブの申請を却下した。副首相のザヒドUMNO総裁やパハン州首相は,この申請にともない提出した宣誓供述書において,彼らがザフルル投資・貿易・産業大臣より国王の附則を撮影した画像をみせられたとして,附則の存在を主張していた。高裁はナジブ自身によるものも含め,こうした主張は単なる伝聞に過ぎないと判断したのである。

ところが,2025年1月,ナジブの控訴を受けて開かれた控訴審では一転して請求が認められ,高裁に審理が差し戻されることとなった。直前に提出されたパハン州の王室からの書状が判断の決め手となった。この書状はパハン州王室事務官による署名入りで,パハン州王(当時国王)が恩赦の際にそうした附則を発行しており,その附則は有効で真正であることが記されていた。

他方,控訴裁の決定の前に,ナジブが自宅拘禁となるには恩赦委員会に申請しなければならないという司法長官室の声明や,恩赦や減刑を求める受刑者は次回の恩赦委員会の会合までに申請をするよう注意喚起をする王宮(国王)の声明が出されていた。今後,高裁で再度審理が行われることになるが,どのような議論が展開されるのか,見通しは不明瞭である。

また附則がなぜ恩赦当初に公表されなかったのか,ナジブ支持者からは政府に批判が集まっている。附則は回覧されておらず,目にしていないと内務大臣や首相は述べている。しかし,必ずしも政府にナジブの自宅拘禁を妨げようとする意図があるとは見受けられない。政府は自宅拘禁法を導入する意向を示しており,2025年中に可決されるとみられる。政府はナジブとの関連を否定しているが,施行によりこれまで法律上整備されていなかった自宅拘禁が認められることになる。

11月末には,恩赦の対象とは別件である,国際石油投資会社への政府資金の不正流用に関する背任などの容疑に関して,検察側の起訴取り下げ(DNAA)が認められた。ナジブにとって有利に状況が進んでいる一方,与党にはナジブの裁判の動向という問題が決着のみえぬまま持ち越されていく状況となっている。

野党陣営の動向

野党連合PNでは内紛が表面化した。PNはPPBMとPASを中心とする連合であり,2020年の政変以降はUMNOとともに政権を担った。2022年総選挙後の連立交渉ではBNの取り込みに失敗して下野したものの,下院ではPASが議会第1党になるなど一定の勢力を占めている。さらに2023年に6つの州で行われた州議会選挙でも,おおむね議席数を増やした。

しかし,2024年はPPBM内やPPBMとPAS両党間での不和とみられる出来事が続いた。10月に行われたPPBMの党内役員選挙では,UMNO出身で党副総裁のハムザ・ザイヌディン派とPKR出身のアズミン・アリ派に党内が分裂していることが取り沙汰された。青年部や女性部の選挙では結果の差し替えや異議申し立てなどが起こり,党員から苦情が上がった。党員の立候補を妨げるものではないとしながらも,総裁であるムヒディン元首相が選挙前の7月に党幹部上位5人の顔ぶれを発表して競争をけん制したうえ,総裁・副総裁が無投票当選となったことも党員の不満を生んだとみられる。

またPPBMとPASの間では,PNの首相候補に関する論争があった。ムヒディンがPNの唯一の首相候補であるというPPBM副総裁補のファイザル・アズムの発言に端を発したものである。PAS側からはより多くの下院議席を保持し,強固な草の根の組織をもつPASこそがPNを率いるのにふさわしいと反論が生じた。さらに,11月末にはPAS副総裁補がPNの会計責任者を辞任するという事態も起きた。

両党の幹部たちは両党間の関係は良好であり,亀裂はないと述べている。しかし,他方でPASによる与党UMNOへの接近もしばしば観察される。現在野党であるPASと与党のUMNOは,2022年にBNがPHと連立政権を組むまでは近しい関係を築いていた。2019年に両党はマレー人ムスリムの政党連合として国民合意(MN)を結成した(両党は結社登録局への正式な登録に合意していたが,実際の申請には至らなかった)。2020年の政変以降はともに連立政権を担った。協力が絶たれることになったのは,当時の与党内でのPPBMとUMNOの関係悪化から,2022年総選挙に際してPASがどちらか一方との選挙協力をUMNOから求められ,PPBMを選んだ結果であった。

2024年中には何度かPASとUMNOの政治家の面会や会合が話題に上がっていた。そして前述のナジブ元首相の自宅拘禁問題では,明確にPASがUMNOに接近を試みた。国王附則に関する控訴審が開かれる2025年1月6日に,UMNOとPASが共同でナジブへの連帯集会を開催すると発表したのである。その後,減刑を求める者は恩赦委員会に申請書を提出すべきとする前述した王宮からの声明や警察長官からの警告を踏まえ,UMNOは集会の中止を決定し,ザヒド総裁は党員に参加しないよう注意喚起した。ところが,PASはナジブの所属政党であるUMNOの参加なしに集会を決行するに至った。

これは,UMNOのなかでもナジブやその支持者らに接近することで,与党の結束にくさびを打ち込もうとする動きとみられる。しかし,PASは宗教上の敬虔さとあわせて政治的なクリーンさを有権者へのアピールポイントとして,近年支持を拡大してきた。汚職やスキャンダルの象徴であるナジブと手を組むという路線をPASが引き続き維持していくのか,見通しは不透明である。

経 済

マクロ経済:投資拡大が成長を牽引

2024年の通年での経済成長率は前年の3.7%から改善し,5.1%であった。四半期別に前年同期比でGDP成長率をみると,第1四半期から順に4.2%,5.9%,5.4%,5.0%と推移した。成長の要因は,民間・政府双方で好調な投資と前年から回復した輸出であった。

実質GDPを需要項目別にみると,通年で民間投資は前年比12.3%増,前年後半から拡大が続いていた政府投資は11.1%増であった。特に第3四半期はそれぞれ15.5%増,14.4%増を記録した。また民間消費支出と政府支出もそれぞれ通年で5.1%増,4.7%増と拡大した。

産業別にみると,投資の拡大を反映し,建設業が通年で17.5%と大きな伸びをみせた。前年の6.1%増からさらに拡大しただけでなく,2014年以来の2桁成長となった。また輸出が前年からもち直したことに影響を受け,製造業が前年の0.7%増から同4.2%増となった。サービス業も通年で5.4%増と好調を維持した。

貿易統計をみると,輸出額は約1兆5077億リンギで前年比5.7%増となった。前年比8.0%減という2009年の世界経済危機以来の縮小幅となった2023年から,増加に転じた。輸入額も約1兆3708億リンギと前年比13.2%増と拡大した。輸出入ともに,電子・電機製品(輸出入それぞれ前年比4.5%増,28.0%増)や機械・装置・部品(同20.6%増,27.5%増)の増加が成長を牽引した。

国別の貿易動向からは,アメリカ向けが輸出の拡大を牽引していることがわかる。同国向け輸出は通年で前年比23.2%増と著しい伸びとなり,16年ぶりに中国を上回ってシンガポールに次ぐ第2位の輸出先となった。特に2024年後半はトランプ米大統領の就任に伴い,高額関税が課されるリスクを見据えて,同国への前倒しの輸出が進んだとみられる。またアメリカからの輸入額も通年で42.1%と大きく増加した。一方,中国向け輸出は通年で2.2%減となったものの,輸入は14.8増となり依然として最大の貿易相手国である。また台湾との貿易総額が大きく増加し,日本を超えて第4位となった。同国向けの輸出入はそれぞれ通年で54.4%増,30.2%増となった。品目別でみると,上述したいずれの国への輸出入も電子・電機製品や部品が中心となっている。

為替市場は変動の激しい1年となった。年初の1ドル=4.59リンギから5月にかけてリンギ安が進み,2月にはアジア通貨危機以来の安値を更新して1ドル=4.79リンギとなった。7月から9月にかけては,アメリカの利下げなどに影響を受け,一転してリンギ高が進んだ。9月末には1ドル=4.12リンギまで上昇したが,その後再びリンギ安に進み,12月末には1ドル=4.47リンギとなった。

消費者物価指数(CPI)上昇率については,2022年の3.3%をピークに2年連続で低下し,通年で1.8%の上昇となった。1年を通じて1.5%から2.0%の間で推移し,総じて低い水準にとどまった。

2025年予算:財政健全化への道筋

10月18日,政府は2025年予算案を下院に提出した。アンワル政権下で出された過去2回の予算に引き続き,財政健全化を目指す内容となった。財務大臣を兼任する首相は演説冒頭で,最近訪問した4地域(サバ,サラワク州およびPNが多く議席をもつクランタン,クダ州)の事例を挙げ,人々が直面する課題を直にみて理解することが今回の予算編成に活かされたと説明した。

予算案自体は財政赤字の削減から項目が始まっており,政府が財政健全化に注力する姿勢が示されている。財政赤字は政権の初年度である2022年にはGDP比で5.5%であったが2024年には推定4.3%まで下がり,2025年の目標値は3.8%と定められた。歳出は4210億リンギと前年の修正予算よりも3.3%拡大し,過去最高額ではあったが,これは経常支出の拡大によるものである。開発支出は860億リンギと前年同様に据え置かれた。他方,歳入は3400億リンギと,前年の修正予算と比して約5.6%の拡大を見込む。

そして政府は,財政健全化のための歳出削減と歳入拡大の具体案を示した。前者の目玉となったのは,ガソリン(RON95)補助金改革である。

アンワル政権は発足当初より「ターゲット型補助金」の導入に取り組んできた。背景には,従来の包括的な補助金制度は政府歳出に多大な負荷をかけているうえ,富裕層や外国人,企業などが恩恵を受けたり,制度を不正利用されたりしているという問題意識がある。この現状を貧困層や中間層の市民に対象を絞った補助金制度へ転換することで改善しようとしている。2023年には電力,2024年にはディーゼル燃料などで導入されてきた。

2025年半ばからは,より対象者の多いガソリン(RON95)においてターゲット型補助金を導入することが示された。ディーゼル燃料の補助金と同様に,所得上位15%を除いた国民の85%は引き続き補助金が受けられるように設計されるという。これにより約80億リンギの支出削減を見込む。

他方,歳入拡大に関しては,売上サービス税(SST)の課税対象が拡大される。生活必需品などの食料品は引き続き免税となるものの,サーモンやアボカドといった輸入高級品が食料品のなかでも課税対象となる。この拡大により,SSTからの歳入が14.2%増加すると見込まれている。前年に行われたサービス税の6%から8%への引き上げは15.4%の増加に寄与したと推定されており,同等のインパクトとなる。また10万リンギを超える配当所得に対し2%の税金を課すことや,砂糖入り飲料への物品税を引き上げることなども盛り込まれた。

2025年末にはサバ州議会選,2026年末以降は各地の州議会選挙に始まり,下院選が控える。そうしたムードが始まる前の期間を利用し,国民への分配を重視してきた近年の政権とは異なる,財政健全化に注力した現実的な内容となった。

ブミプトラ経済変革計画2035

8月,政府は「ブミプトラ経済変革計画2035」(PuTERA35)を発表した。これは,マレー人を中心とするブミプトラの社会経済的地位を向上させることを目的とした政策である。いわゆる「ブミプトラ(優遇)政策」は,1969年の民族暴動の後に制定された新経済政策(NEP,1971~1990年)内で目標に据えられ,後継の長期開発計画である国家開発計画(NDP,1991~2000年),国家ビジョン計画(NVP,2001~2010年),新経済モデル(NEM,2011~2020年),繁栄の共有ビジョン(SPV,2021~2030年)でも,その大枠が引き継がれてきた。

さらに,ナジブ政権下では2011年にNEMの下で「ブミプトラ経済変革ロードマップ」(BETR)が,2020年にはイスマイル・サブリ政権下でSPVに基づいて「ブミプトラ開発アクション2030」(TBP2030)がそれぞれブミプトラに特化した政策として策定されてきた。今回のPuTERA35はこれらに連なる政策であり,さらに2023年に発表された,アンワル政権の指針であるマダニ経済政策と第12次マレーシア計画中間報告に基づくものだと政府は説明している。マダニとは,マレー語の「持続可能性,繁栄,変革,尊敬,信頼,思いやり」から1字ずつ取り,アラビア語で開明的,先進的なことを意味する語である。

PuTERA35では,国家経済基盤強化,ガバナンスと制度の啓発,社会正義の擁護という3点を核とし,あわせて12の推進策を示した。そして2035年までに達成を目指す9点の具体的な数値目標を設定した。おもな内容は,ブミプトラの極度貧困率を2022年の0.3%から0.0%に下げる,高度技能人材におけるブミプトラの割合を61%から70%に引き上げる,ブミプトラの個人や機関による株式保有率を18.4%(2020年)から30%に引き上げる,などである。

今回PuTERA35が策定された背景には,ブミプトラの中心であるマレー人からの支持を確保したいアンワル政権の意図があると考えられる。現政権,特にPHは非マレー人の強固な支持を基盤としているうえ,前年の6州での州議会選挙では野党PNへのマレー人票の流入が継続した(『アジア動向年報2024』)。つまりマレー人からの支持は,政権安定のため重要な課題である。前政権のTBP2030の終了を待たず,策定からわずか2年で代替政策を示したことからも,現政権がマレー人有権者を強く意識していることがうかがえる。

他方,PuTERA35の内容自体は,過去のブミプトラ政策で取り組まれてきた目標と大きな違いはみられない。上述した数値目標は,いずれも世帯の経済状況の改善やブミプトラ企業の支援といった長年引き継がれてきた目標である。従来と異なる点を挙げるとすれば,社会正義の擁護が経済強化と並ぶ核として据えられたことであろう。これはオラン・アスリ(半島部の先住民)の社会経済地位の向上や,サバ州とサラワク州の発展というブミプトラ内の格差に焦点を当てたものであり,近年の開発計画でも重視されるようになってきていた。

むしろ本政策において重要であったのは,発表に際して「他のコミュニティを排除しないように慎重に計画されなければならない」と首相が述べたように,政権が包括性を重視していることを何度も強調した点だと考えられる。首相による政策の前文にも「ブミプトラコミュニティのための排他的な経済計画であるだけでなく,疎外された大多数の人々の経済を活性化させるのに役立つ計画である」と記された。また前述のブミプトラ経済会議には,初めて華人やインド人の商工会議所の代表を招待すると首相が大々的に発表するなど,非ブミプトラに対する包括性に強い配慮がみられた。

対外関係

外資誘致の推進とBRICS加盟

アンワル首相は前年に引き続き,精力的に外交に取り組んだ。延べ23カ国を訪問したうち,欧米諸国はドイツ(3月)とロシア(9月)のみである。アジアの周辺国や中東アラブ地域も含めたグローバルサウス諸国との関係を重視していることがみてとれる。

2024年はマレーシアと中国の外交関係樹立50周年の節目の年であった。6月に李強首相がマレーシアを訪問した際には,訪問に先駆けてアンワル首相がBRICSへの加盟意思を表明した。また,2022年のロシアによるウクライナ侵攻後初めて,マレーシア首相としてロシアを訪問し,プーチン大統領と会談した。こうした動きは欧米諸国に反旗を翻したかにもみえるが,後述のイスラエルという例外を除き,各国に対し中立を保ち自国の利益を追求するというマレーシアの長年の外交方針は変わっていない。

実際,2024年はアメリカなどの大手企業によるマレーシアでの大規模投資の計画が続々と発表された。マイクロソフトは人工知能(AI)分野に約22億米ドル(5月),グーグルはデータセンターおよびクラウドサービスの拠点開発として約20億米ドル(5月),アマゾンウェブサービスはアジア太平洋支社をマレーシアに開設し,データセンターを建設するために約62億米ドル(8月),オラクルはクラウド施設の建設に約65億米ドル(10月)をそれぞれマレーシアに投資すると発表した。首相が推し進める産業高度化のための外資誘致が実を結んだといえる。今後も国際情勢の変化に適応し全方位外交を行いながら,経済,貿易上の実利を重視していくであろう。

パレスチナへの連帯と国内問題への波及

2023年10月から始まったイスラエルとパレスチナの衝突には,マレーシアでもマレー人を中心とする政治家や市民が多大な関心を寄せ,国家としてパレスチナへの連帯を示す行動が起こされてきた(『アジア動向年報2024』)。2024年に入ってもそうした状況は続いたうえ,次第に国内の政治や経済に影響が現れた。

まず,イスラエルを非難し,パレスチナを擁護するマレーシアの姿勢を首相や外相が国際舞台で明確に示し続けた。首相は5月に訪問したカタールにおいて,就任後初めてパレスチナ・ハマスの指導者であるイスマイル・ハニーヤらと会談した。さらに,政府はエジプト政府との交渉,協力を経て,8月にパレスチナ人負傷者とその家族127人をカイロからマレーシア空軍機で輸送し,受け入れた。

モハマド・ハサン外相は,2月にオランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)で開かれた審理に出席し,インドネシアのレトノ外相らとともに,イスラエルによるパレスチナの領土支配は国際法違反であると認定するよう要求する口頭陳述を行った。この審理は2023年1月に国連総会からの要請によって開始されたものである。2024年7月にICJはイスラエルの占領を国際法違反と認める判決を下し,駐留や入植活動を早期に終了するよう命じた。外相は他にも,国連安全保障理事会(1月)やイスラーム協力機構臨時外相会議(8月),国連総会(9月)などに出席し,イスラエルを非難する演説を行なった。

パレスチナへの連帯を鮮明にする政府の動きは,前年に引き続きアメリカなどから批判を呼んだが,そうした圧力を一顧だにしない姿勢を貫いている。

7月に上述のハニヤがイランで暗殺された際,首相は「凶悪な殺人」だとして非難し,哀悼の意を示す投稿を自身のInstagramとFacebookに行った。しかし,それらが運営企業のアメリカ・メタ社によって削除されたため,首相府として同社に抗議し,説明を求めた。メタ社は「運用上のミス」として謝罪し,投稿を復元するに至った。

また5月にはアメリカ財務省で経済制裁を管轄するテロ・金融情報担当次官がマレーシアを訪問し,サイフディン・ナスティオン内相と会談した。訪問の目的は,アメリカが制裁を行っているイランがハマスなどのテロ組織への資金提供のためにマレーシアを利用しているという疑惑についてマレーシア政府と協議するためであった。具体的には,マレーシア海域でイラン産原油が積み替えられ中国へ送られている,イランやハマスなどがマレーシア国内で慈善団体を装い募金を集め,テロ組織への資金供与につながっているといった疑いをアメリカ政府は抱いており,マレーシア政府に対応を求めたとみられる。しかし内相は,政府は国連が課した制裁のみを認め,個別の国が課したいかなる制裁も認めないという立場を説明し,アメリカ政府代表団はそれを尊重したと会談後に述べ,首相も域内での原油積み替えの証拠はないと主張している。

他方,パレスチナへの連帯をめぐる問題は国内にも波及した。2023年10月の衝突発生当初より,国民の間ではイスラエル関連企業に対する不買運動が始まった。イスラエルによるパレスチナ占領に加担する企業に対し,世界的に不買運動を推進するボイコット・投資撤収・制裁(BDS)運動のイスラエル支援企業リストがSNSなどを通じて拡散され,人々の不買行動は加速した。

とりわけ影響を受けたのは,外資系ブランドの飲食チェーンである。リストに掲載されたマクドナルドやスターバックスコーヒーなどに加えて,リストに挙がっていないもののケンタッキーフライドチキン(KFC)でも全国的に客足が遠のいた。これらのチェーンは,いずれも本社とフランチャイズ契約を結んだマレーシア企業によって運営されている。

2023年12月,マクドナルド運営会社がBDSマレーシア支部へ名誉毀損訴訟を起こした際,同チェーンは不買運動で600万リンギの損失が生じたと主張した。またスターバックスは売上高が半減し,2024年第3四半期まで4期連続の赤字となり,9月までに国内約400店舗のうち50店舗を閉鎖したと運営会社が発表した。KFCも4月末までに約600店舗のうち108店舗を閉鎖した。

さらに,不買運動の影響は社会経済から政治へと飛び火した。5月,マレーシア国内の空港を運営するマレーシア・エアポート・ホールディングス(MAHB)が政府系投資会社カザナ・ナショナルやアメリカのインフラ投資会社グローバル・インフラストラクチャー・パートナーズ(GIP)などの連合から買収提案を受けたと発表した。問題となったのは,MAHBの買収連合の一員であったGIP自身が,イスラエルに巨額の投資を行うアメリカの資産運用大手ブラックロックによる買収を受けている最中であった点である。つまり,MAHBを買収しようとする企業の親会社が「イスラエル支援企業」であるとして問題視されたのである。野党議員を中心に契約破棄を求め,政府を批判する声が強く上がった。しかし,ブラックロックはMAHBへの取引や管理運営に一切関与しないとGIPが約束していることや,MAHBの会長やCEOはマレーシア人となることなどを下院の質疑において首相自ら説明した。

前述のとおり,首相を中心に政府は反イスラエル,親パレスチナの立場を鮮明にしている。しかし,イスラエル関連企業との取引を全面的に禁止することは現実的ではないと首相が明言しており,一方では経済的な実利も重視する姿勢を示している。

2025年の課題

政治面では,2025年後半にサバ州の州議会選挙が控えている。サバ州では2024年後半から州議員の汚職告発などスキャンダルが続き,その隙をついてPNが候補者擁立に意欲を示している。この選挙が国政に及ぼす影響は大きくないだろうが,州議会の勢力図に変化があった場合,サバ州の勢力が中央のアンワル政権への加入を継続するかどうかが重要となる。その他にも国内経済の悪化に伴う政権支持率の下落やナジブの裁判の動向次第で,連立与党内の結束が弱まる可能性がある。

経済面では,アメリカの関税政策やその世界経済への影響がマレーシア経済の状況を左右するとみられる。2024年に恩恵をもたらしたアメリカ向け輸出の停滞が見込まれるため,経済成長は減速すると考えられる。

対外関係では,マレーシアが5回目のASEAN議長国を務める。アメリカ・トランプ政権の発足により国際情勢や世界経済の不確実性が高まるなかで,ASEANとしての結束を強化する必要がある。さらにASEANにとって積年の課題であるミャンマー問題と南シナ海問題に関して解決の道筋を示せるかどうか,手腕が問われている。

(地域研究センター)

重要日誌 マレーシア 2024年

   1月
9日野党が過半数を得たという噂が広がるなか,国王はいかなる政治的策略にも関与しないことを保証したと首相が表明。
10日首都クアラルンプール(KL)で超高層ビル「ムルデカ118」が開業。ドバイのブルジュ・ハリファに次ぐ世界第2位の高さ。
11日マレーシア,シンガポール両政府,ジョホール=シンガポール経済特区を設置することに合意。
15日高速鉄道公社(MyHSR),国内外31社が参加する7つの連合体から情報提供依頼書(RFI)が提出されたと発表。JR東日本を含む日本企業は政府からの資金援助がないことを理由に参加断念と報道(12日)。
24日首相,ブルネイを訪問(〜25日)。
29日元財相のダイム,汚職防止委員会(MACC)からの資産開示の通知に従わなかったとして起訴される。
31日第17代国王にジョホール州のイブラヒム・イスカンダル州王が即位。
   2月
2日恩赦委員会,ナジブ元首相からの恩赦申請を許可し,懲役刑を6年に半減,罰金を減額することを発表。
9日最高裁,クランタン州のシャリーア(イスラーム法)刑法で定められた同性愛の禁止など16の条項を違憲とし無効と認定。
17日ザヒド副首相,日本訪問(〜23日)。
20日通信省,ジャーナリスト倫理規定の改訂版を発表。
21日タイブ・マフムード死去。40年以上サラワク州首相と同州知事を務め,州政治を支配した巨頭。
22日外相,オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)の公聴会で口頭意見陳述に参加。イスラエルによるパレスチナ領土の占領を国際法違反とするよう要求。
26日国王,国会開会の演説で「国の政治的安定を乱そうとするいかなる政党からの要請も受け入れない」と発言。
27日選挙制度改革NGOのブルシが「100%改革」デモを実施。約100人が参加。
28日控訴裁,前年8月にムヒディン元首相に下されたジャナ・ウィバワプログラムに関連した権力濫用等に関する無罪判決を取り消し。
28日首相,ブルシ指導者らと会談。
29日政府,ブミプトラ経済会議を開催。ブミプトラを対象とする新たな経済政策として,「ブミプトラ経済変革」(TEB)イニシアティブを発表。社会経済上の正義・持続可能な国民国家・人々の福祉を目指す。
   3月
1日売上・サービス税(SST)の課税対象を拡大。また一部対象への税率を6%から8%に引き上げ。
2日PPBM,首相支持を表明した議員に議席返還を求めるため党規約の改正を発表。
4日首相,オーストラリア訪問(~7日)。
4日高裁,元財相のダイムとその家族が彼らに対するMACCの捜査を中止するよう求めた司法審査申請を却下。
10日首相,ドイツ訪問(〜15日)。
13日コンビニチェーン・KKマートの首都近郊の店舗で「アッラー」と書かれた靴下が販売されていたとして,SNS上で物議。イスラーム教徒の宗教感情を害したとして創業者の会長とその妻が起訴された(26日)。
20日国王,「アッラー」靴下の問題について責任者に厳しい措置を取るよう当局に要求。後日,人々に怒りを煽らないよう求める声明(27日)。法に従うよう当局に指示したとし,分断ではなく結束を呼びかけ。
   4月
1日ナジブ元首相,恩赦の際に国王による附則が存在したか確認するよう求める司法審査を請求。附則では残りの刑期の自宅拘禁が認められていたと主張。
3日KKマート創業者の会長が国王と面会し,「アッラー」靴下問題について謝罪。
14日KL国際空港で発砲事件。1人がけが。翌日容疑者の男を逮捕。
22日政府,スランゴール州に東南アジア最大の半導体設計拠点を建設する計画を発表。
23日海軍の軍用ヘリコプター2機がマレーシア海軍90周年記念式典のリハーサル中に衝突し墜落。乗組員10人が死亡。
27日首相,サウジアラビアを訪問(〜29日)。
27日自動車メーカー・プロトン,中国吉利(Geely)との連携強化のため中国浙江省の同社拠点内にR&Dセンターを開設。
   5月
2日米マイクロソフト,今後4年間でAI分野を中心にマレーシアに22億米ドルを投資すると発表。
3日世界報道の自由度ランキングでマレーシアは前年の73位から107位に後退。
7日政府,国家反汚職戦略を発表。
10日1MDB他10社がナジブ元首相の妻ロスマらに対し,横領した金で宝飾品等を購入したとして約3億5000万ドルの補償を求めて民事で提訴。
11日スランゴール州議会クアラ・クブ・バル選挙区で補欠選挙。PH(DAP)現職議員の死去により実施。PH(DAP)候補が約57%を得票し勝利。
12日首相,カタール,キルギス,カザフスタン,ウズベキスタン訪問(〜19日)。カタールではパレスチナのイスラーム組織ハマスの最高指導者ハニヤらと会談(14日)。
15日国内空港を運営するマレーシアエアポートホールディングス(MAHB)は,政府系投資会社カザナ・ナショナル,被用者積立基金(EPF),米投資会社GIP,アブダビ投資庁らの連合から買収提案を受けたと発表。
22日首相,日本訪問(〜24日)。
22日ザヒド副首相,中国訪問(〜6月1日)。
28日ディーゼル車補助金への申請受付が開始。半島部に居住するB40およびM40(所得下位40%および中位40%)グループの所有者を対象に毎月200リンギを支給。
28日政府,国家半導体戦略を発表。KLで行われた半導体産業展示会セミコン東南アジア2024の開会式で首相が政策内容を公表。
30日米グーグル,データセンター等の建設のためマレーシアに20億米ドルを投資すると発表。
   6月
10日半島部で販売される軽油への補助金が廃止。以降,市場価格に従い変動。
17日政府,鶏卵の小売価格をA〜C等級で各3セン引き下げると発表。補助金効率化による削減分を国民に還元すると説明。
18日首相,来訪中の中国・李強首相と会談。BRICSへの加盟を申請する意向を表明。
26日選挙管理委員会の新委員長にラムラン・ハルンが就任。ブルシは政権による不透明な選出過程を非難。
27日マレーシアからタイ,ラオスを経由して中国・重慶までを結ぶ国際貨物列車「ASEANエクスプレス」が運行開始。
29日首相辞任要求デモ。官邸前で約150人が参加。
   7月
1日7月20日開催の国王戴冠式に伴い,所管当局は各主催者に同日に開催予定の公演の中止を勧告。
3日高裁,自宅拘禁を認めたとされる国王布告の附則に関する司法審査を求めたナジブ元首相の請求を却下。ナジブは控訴(16日)。
6日ペナン州議会スンガイ・バカップ選挙区補欠選挙。PN(PAS)現職議員の死去により実施。PN(PAS)候補が約59%を得票し勝利。前年選挙時よりもPNとPHの得票差が拡大。
10日下院議長,首相支持を表明して除名された元PPBM議員6人は党籍変更規定に抵触しないと発表。議席はく奪とならず。
18日PPBMのワン・アフマド・ファイサル下院議員が下院での採決の結果,職務停止に。匿名の手紙を引用してEPF役員が空港運営会社買収計画の首謀者だと下院質疑で発言したことが問題視された。
27日通信マルチメディア委員会(MCMC),翌年1月より大規模SNS運営事業者に対して政府へのライセンス申請を義務づけると発表。
   8月
3日首相,タイ国境で同国首相と会談。
4日KLで開催されたパレスチナ連帯集会に数百人が参加。
16日政府,ガザ侵攻によるパレスチナ人負傷者を治療のため国内へ受け入れる決定。127人をマレーシア空軍の軍用機でエジプト国境から輸送。 
17日クランタン州議会ヌンギリ選挙区補欠選挙。現職PPBM議員が党員資格を喪失し,州議会議長が空席宣言したため実施。BN(UMNO)候補が約61%得票し勝利。2022年総選挙後の補欠選挙で初めて選挙区の現職政党が敗北。
17日首相,インド訪問(〜21日)。
17日政府,ブミプトラ経済変革計画2035(PuTERA35)を発表。
23日首都中心部で歩道が陥没。インド人観光客1人が行方不明。
25日首相,ブルネイ訪問(〜26日)。
27日野党PPBM総裁のムヒディン元首相,補欠選挙の運動期間中に前国王を侮辱する演説を行ったとして扇動罪で起訴される。
   9月
2日KLに筑波大学マレーシア校が開校。
4日首相,ロシア訪問。東方経済フォーラムに出席(〜5日)。
7日首相,来訪中のプラボウォ・インドネシア次期大統領と会談。
8日ザヒド副首相,中国訪問(〜12日)。
17日ゴム手袋製造大手スーパーマックスがアメリカのテキサス州でゴム手袋の生産を翌年1月までに開始すると発表。
19日国王,中国を訪問(~22日)。習近平国家主席と会談(20日)。
28日ジョホール州議会マコタ選挙区補欠選挙。BN(UMNO)現職議員の死去により実施。BN(UMNO)候補が約79%を得票し勝利。
30日「国家気候変動政策2.0」発表。
  10月
2日首相,パキスタン,バングラデシュ訪問(〜4日)。
4日保健省,公衆衛生のための喫煙製品規制法の施行に伴い,翌年1月よりオフィスビルなどを禁煙区域に指定すると発表。
8日首相,ラオス訪問(〜11日)。ASEAN首脳会議に出席。
9日首相,訪問中のラオスでシンガポール首相と会談。
12日KLでパレスチナ連帯デモ。PAS女性部が主催,数千人が参加。
17日連邦憲法改正案が下院で可決。改正内容はマレーシア人の母親をもつ海外生まれの子に自動的に国籍を付与することなど。
18日首相兼財相,翌年度予算案を下院に提出。
19日首相,インドネシアを訪問(〜20日)。
24日ナジブ元首相,1MDB問題について謝罪声明を発表。
24日ペラ州で観光バスとトラックの衝突事故。日本人観光客1人が死亡。
30日高裁は,1MDBをめぐる21件の権力濫用とマネー・ローンダリングの容疑に関して,ナジブ元首相に反証を命令。検察の提出した証拠の妥当性を認定。
  11月
1日MCMC,国内2番目の5Gネットワーク事業者としてUMobileが選ばれたと発表。同社の最大株主であったシンガポールの投資会社が株式の一部を売却したことで,最大株主が現国王や関係者となるため物議。
4日首相,中国を訪問(~7日)。
6日首相,米大統領選挙を制したトランプに祝意を表明。
9日首相,エジプト,サウジアラビア,ペルー,ブラジル訪問(~19日)。APEC首脳会議(ペルー),主要20カ国・地域(G20)サミット(ブラジル)に出席。
9日ニュースサイト「マレーシアキニ」,議員が賄賂について会話する数本の動画を証拠とした内部告発があったと報道。のちにサバ州議会議員8人が関与と暴露。
13日実業家で元財相のダイムが死去。
18日控訴裁,サバ州議会議員ブン・モクタルと妻の収賄容疑に関して,高裁の無罪判決に対する検察側の控訴を受け入れ,判決を破棄。審理を高裁へ差し戻し。
21日首相,来訪中のラム・ベトナム共産党書記長と会談。
24日首相,韓国を訪問(〜26日)。
24日高裁,内務省に対し,前年押収したスイスの腕時計メーカー・スウォッチ社の製品を同社へ返還するよう命令。政府は同社のLGBTプライド月間に合わせた虹色のコレクションがLGBT運動の促進を意図していると問題視。
27日高裁,国際石油投資会社への政府資金の流用に関する背任などナジブ元首相らに対する6件の容疑に関して,検察の起訴取下げ申請(DNAA)を認定。
29日クランタン州を中心に洪水被害が拡大。10州で14万人が避難(12月1日)。
  12月
3日2025年度予算案が下院で可決。
5日バトゥプテ島に関する王立調査委員会,マハティール元首相に対し刑事訴訟を提起するよう政府へ勧奨。2018年の首相在任中,シンガポールの領有権を認めた国際刑事裁判所(ICC)の決定に関するマレーシアからの審査要求を内閣の同意なしに撤回したと非難。
9日通信・マルチメディア法改正案が下院で可決。有害コンテンツやネットいじめの取り締まりを目的とする刑法および刑事訴訟法改正案(10日),オンライン安全法(11日)も可決。
12日検察,外国人ビザシステムに関連した収賄など,ザヒド副首相への33件の容疑に関して控訴を取り下げ。2022年9月の無罪判決を控訴裁は支持。
13日UMNO所属のザフルル投資・貿易・産業相が同じく与党のPKRへ移籍を交渉中との報道。
16日首相,翌年のマレーシアのASEAN議長国就任に備え,タイのタクシン元首相を非公式個人顧問に任命。
17日ムサ・アマン元サバ州首相が同州知事に任命される。同氏は2020年に汚職容疑の起訴取り下げが認定された。
19日高裁,ナジブ元首相の妻ロスマに対するマネー・ローンダリング等,17件の容疑に関して無罪判決。
28日司法長官,ナジブ元首相の自宅拘禁要請は恩赦委員会の審査が必要と声明。
31日サバ州でムサの州知事任命に反対する学生団体主催の反汚職デモ。ハジジ現州首相支持を謳う対抗デモも開催された。

参考資料 マレーシア 2024年

① 国家機構図(2024年12月末現在)

(注)連邦元首,州元首に関わる訴訟を取り扱う。

② アンワル・イブラヒム内閣名簿(2024年12月末現在)

③ 州首相名簿

(注)[ ]内は所属政党連合-所属政党。略称は以下のとおり。

≪政党連合≫ BN(Barisan Nasional):国民戦線,GRS(Gabungan Rakyat Sabah):サバ人民連合,GPS(Gabungan Parti Sarawak):サラワク政党連合,PH(Pakatan Harapan):希望連盟,PN(Perikatan Nasional)国民同盟。

≪政党≫ Amanah(Parti Amanah Negara):国家信託党,DAP(Democratic Action Party):民主行動党,MCA(Malaysian Chinese Association):マレーシア華人協会,MIC(Malaysian Indian Congress):マレーシア・インド人会議,PAS(Parti Islam Se-Malaysia):汎マレーシア・イスラーム党,PBB(Parti Pesaka Bumiputra Bersatu):統一ブミプトラ伝統党,PBRS(Parti Bersatu Rakyat Sabah):サバ人民統一党, PDP(Progressive Democratic Party):進歩民主党,PKR(Parti Keadilan Rakyat):人民公正党,PRS(Parti Rakyat Sarawak):サラワク人民党,SUPP(Sarawak United People’s Party):サラワク統一人民党,UMNO(United Malays National Organisation):統一マレー人国民組織,UPKO(United Progressive Kinabalu Organisation):統一進歩キナバル組織,Warisan(Parti Warisan):伝統党。

主要統計 マレーシア 2024年

1 基礎統計

(注)1)2019年以前は2010年センサスに基づく推計値。2021年と2022年は改定値。2)暫定値。3)年平均値。

(出所)人口:Department of Statistics Malaysia, Principal Statistics of Population, Malaysia, 2020-2024 およびStatistics Yearbook Malaysia, 2021。労働力人口,失業率,消費者物価上昇率,為替レート:Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics, 2025年1月号。

2 連邦政府財政

(注)1)暫定値。2)+は資産の取り崩しを意味する。

(出所)2024年:Ministry of Finance, Fiscal Outlook and Federal Government Revenue Estimates 2024。2023年以前:Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics,2025年1月号。

3 支出別国民総所得(名目価格)

(出所)Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics, 2025年1月号。

4 産業別国内総生産(実質:2015年価格)

(注)1)購入者価格表示。

(出所)表3に同じ。

5 国際収支

(注)IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。ただし,金融収支の符号については(-)は資本流出,(+)は資本流入を意味する。1)特別引出権,IMFポジション,金および外貨。

(出所)表3に同じ。

6 国・地域別貿易

(注)輸出は本船渡し条件(FOB)価格,輸入は運賃保険料込み条件(CIF)価格での表示。1) EU27カ国+イギリス。

(出所)表3に同じ。

 
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