2024 Volume 18 Issue 1 Pages 1-13
【目的】妊娠糖尿病患者に対する対面と遠隔栄養指導の満足度調査の結果を報告する。
【方法】選択基準は対面および遠隔栄養指導を受けたことのある妊娠糖尿病患者。遠隔栄養指導(1回20分)は電話で行った。出産後のフォロー時に栄養指導の満足度などにつき、アンケート調査を行い、またカルテから情報を抽出した。主要評価項目は妊娠糖尿病患者の対面栄養指導を基準とした遠隔栄養指導の満足度とし、150 mm visual analog scaleで計測した。
【結果】解析の対象者は30名(年齢34±4.0歳、インスリン使用6.7%、血糖自己測定器使用86.7%)。栄養指導の回数(中央値[四分位範囲])は対面1 [1, 2]回、遠隔2 [1, 3]回であった。対面栄養指導を基準とした遠隔栄養指導の満足度は0.0 [-13.0, 0.0] mmで、対面栄養指導と遠隔栄養指導の間に差を認めなかった(p = 0.411)。身体的負担は-56.0 [-75.0, -22.8] mm (p <0.001)、時間的負担は-49.0 [-75.0, -23.5] mm (p <0.001)、理解度は-2.5 [-39.8, 0.0] mm (p <0.001)であった。満足度と話し足りなさには負の相関が見られ(相関係数 = -0.430、p = 0.018)、満足度と実践への繋がりには正の相関が見られた(相関係数 = 0.455、p = 0.012)。
【結論】妊娠糖尿病患者に対する遠隔栄養指導の満足度は対面栄養指導と差がない可能性が示唆された。また、遠隔栄養指導では対面栄養指導よりも身体的および時間的負担が少ないものの、理解度が低い可能性があることが示唆された。加えて、対面栄養指導と比較した遠隔栄養指導の満足度は話し足りなさおよび実践への繋がりと関連していることが示唆された。
Aim: Reporting the results of a satisfaction survey of in-person and remote nutrition guidance for patients with gestational diabetes mellitus.
Material and Methods: Inclusion criteria were patients with gestational diabetes mellitus who have received in-person and remote nutrition guidance. The remote guidance (20 minutes per session) was conducted by telephone. A questionnaire survey on satisfaction with nutritional guidance was administered at the postpartum follow-up, and information was extracted from the medical records. Primary outcome was satisfaction with remote nutrition guidance compared with in-person nutrition guidance for gestational diabetes mellitus, measured using a 150-mm visual analogue scale.
Results: The analysis included 30 subjects (age 34 ± 4.0 years old, 6.7% using insulin and 86.7% using self-glucose meters). The number of nutritional guidance sessions (median [interquartile range]) was 1 [1, 2] in-person and 2 [1, 3] remote. Satisfaction with remote nutritional guidance based on in-person nutritional guidance was 0.0 [-13.0, 0.0] mm, with no difference between in-person and remote nutritional guidance (p = 0.411). Physical burden was -56.0 [-75.0, -22.8] mm (p <0.001), time burden was -49.0 [-75.0, -23.5] mm (p <0.001), and comprehension was -2.5 [-39.8, 0.0] mm (p <0.001). Satisfaction was negatively associated with lack of talk (correlation coefficient = −0.430, p = 0.018) and positively associated with connection to practice (correlation coefficient = 0.455, p = 0.012).
Conclusion: There was no significant difference in satisfaction between remote nutrition guidance and in-person nutrition guidance for gestational diabetes mellitus. Remote nutrition guidance was less of a burden on the body and time than in-person nutrition guidance, but that showed a lower level of understanding. Satisfaction with remote nutritional guidance compared to in-person nutritional guidance was related to lack of talk and connection to practice.
妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus: GDM)とは、「妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常である」と定義され、妊娠中の明らかな糖尿病、糖尿病合併妊娠は含まない1)。診断基準は2015年に改定され、75g経口ブドウ糖負荷試験(oral glucose tolerance test: OGTT)において① 空腹時血糖値 ≧92 mg/dL(5.1 mmol/L)、② 1時間値 ≧180 mg/dL(10.0 mmol/L)、③ 2時間値 ≧153 mg/dL(8.5 mmol/L)のうち、1点以上を満たした場合となり、GDM患者は12.08%と推定されている。妊娠期間中の血糖コントロールの悪化は母児合併症のリスクとなる可能性が報告されており2,3)、GDM患者は健常妊婦と比較して将来的に高頻度に糖尿病、メタボリックシンドロームを発症することが知られている1)。また、出生児への影響としては、母体の高血糖状態が、出生時体重、帝王切開率、新生児低血糖率、臍帯血Cペプチド高値と正の相関があることが示されている4)。妊娠中の血糖コントロールは、空腹時血糖値 95 mg/dL未満、食後1時間値 140 mg/dL未満または食後2時間値 120 mg/dL未満、HbA1c 6.0~6.5%未満が目標とされている5)。妊娠期間中の食事の基本としては、母体の健康維持と胎児の健全な発育に必要なエネルギーを確保しつつ、血糖コントロールを良好に保つことである。妊娠期間中の推奨付加エネルギー量については、日本糖尿病学会と日本産婦人科学会によって示されているが、明確に統一されていないため、現段階では妊娠中の推奨体重増加量を目安としつつ、血糖コントロール状況、胎児の発育状況などを考慮しながら調整していくことが望ましいとされている5)。食事前後の血糖値の変動を少なくし良好な血糖コントロールを行うための方法として、1日の総エネルギー量の配分と食事摂取時刻に配慮し、食事の1回量を抑えて回数を増やす分割食の導入が勧められる。仕事や生活リズムを考慮し、1日3回食で食後血糖が目標値を超えた場合に5~6回に分割して摂取することを試みたり、血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose: SMBG)により食後2時間血糖値を測定し、食事および運動療法により血糖コンロトール目標が達成できない場合にはインスリン療法の導入を検討したりする1)。
SMBGは自らの血糖値を把握する手法の1つとされており、糖代謝異常合併妊娠の血糖管理に有益であるため6)、空腹時血糖値および食後血糖値を評価することが望ましいとされている7)。2016年の診療報酬改定により、SMBGの保険診療の適用範囲が拡大され、①妊娠前BMI ≧25 kg/m2以上かつ75g OGTTで1点以上陽性、もしくは②75g OGTTで2点以上陽性のいずれかを満たす患者も対象となった8)。しかし、75g OGTTにおいて1点陽性で非肥満のGDM患者においてはSMBGが適用範囲内となっていないのが現状である。
新型コロナウイルス感染拡大を契機として遠隔医療の広がりが見られ、特に重症化リスクのある妊娠糖尿病患者は遠隔医療などのデジタルアプローチが適切だとされ、遠隔診療によって血糖コントロールが改善したという報告がある9)。遠隔栄養指導に対する検証では、女性の減量プログラムにおいて電話栄養指導の方が、従来の対面栄養指導に比べて脱落率が高かったものの減量の成功率は高かったという報告がある10)。また、新型コロナウイルスのパンデミックの状況下において遠隔栄養指導の実施により炎症性腸疾患者の栄養状態が改善したという報告もある11)。さらに、心血管疾患患者へのランダム化比較試験では、栄養士による電話やテレビ会議が行われた介入群において有意に体重減少が見られ、また試験へのアドヒアランスや満足度が高かったことが示されている12)。加えて、2022年の診療報酬改定により、情報通信機器を用いた栄養指導において初回から加算が取れるようになった13)。
国立病院機構京都医療センターでは、妊娠糖尿病患者に対して対面栄養指導と電話を用いた遠隔栄養指導を実施しているが、両者の満足度の比較や要因については十分調査がなされていない。加えて、栄養士が介入した妊娠糖尿病患者の対面栄養指導と遠隔栄養指導の満足度を直接比較した研究が乏しい。
妊娠糖尿病患者への栄養指導は初回は必ず対面栄養指導を実施した。2回目以降の栄養指導方法については、毎回医師の診察時に管理栄養士の記載したカルテ内容や血糖コントロール状況を踏まえて、患者の背景や意向により決定した。栄養指導媒体は初回の対面栄養指導時に配布し、2回目以降の遠隔栄養指導時においても同様のものを使用した。外来栄養指導の算定については、点数は対面で行った場合には初回260点、2回目以降235点、情報通信機器などを用いた場合は初回200点、2回以降180点であり、実施時間はいずれも初回は30分以上、2回目以降は20分以上とされている13)。実施回数は月1回で初回栄養指導を実施した月のみ月2回可能とされている13)。栄養指導の内容としては、初回栄養指導時には妊娠糖尿病の食事療法についての概要を説明し、患者の生活背景の応じた分割回数の提案や実施方法の説明を中心に行った。2回目以降は前回の栄養指導以降の食事内容、分割食回数、血糖コントロール状況などの聞き取りを行った。
本研究は妊娠糖尿病患者の対面および遠隔栄養指導の満足度についての比較を行うことを目的に検討を行った。妊娠糖尿病患者の対面および遠隔栄養指導の満足度を明らかにし、満足度と関連のある要因を明らかにすることで、患者の生活スタイルや社会情勢に合わせた柔軟な栄養指導を実施できるようになることが期待される。
本研究デザインは観察研究とした。対象は、国立病院機構京都医療センターで妊娠糖尿病のため対面および電話での遠隔栄養指導の両方を受けたことのある者とした。除外基準は登録時の年齢が20歳未満の患者とした。
方法は、出産後、妊娠糖尿病のフォローのため国立病院機構京都医療センターを受診した患者に対して本研究への参加が可能かを打診し、同意説明文書によるインフォームドコンセントが得られた対象者に対して妊娠中に受けた栄養指導の満足度などについてのアンケート用紙に回答してもらうとともに、当該患者カルテより各種情報を抽出した。アンケート調査は2022年10月26日から2023年7月24日の間に実施した。
主要評価項目は妊娠糖尿病患者の対面栄養指導と比較した遠隔栄養指導に対する満足度とした。副次評価項目は対面栄養指導と比較した遠隔栄養指導に対するおすすめ度、安心感、身体的負担、時間的負担、話し足りなさ、理解度、実践への繋がり、胎児についての情報、生活状況、指導媒体とした。満足度、おすすめ度、安心感、身体的負担、時間的負担、話し足りなさ、理解度、実践への繋がりは150 mmビジュアルアナログスケール(visual analog scale: VAS)で評価した。
150 mm VASは痛みの感じ方の比較に使用される150 mmの視覚的アナログスケールであるが14)、試験介入後のquality of life (QOL)の評価として用いられることもある15)。本研究では、両者に差がない0 mmを基準として、-75 mm (対面栄養指導の方がより感じた)から+75 mm (遠隔栄養指導の方がより感じた)の範囲を設定し、研究参加者にはスケール上に1箇所、縦線を記入して回答するよう依頼した。
調査項目は年齢、非妊娠時体重、非妊娠時身長、非妊娠時BMI (Body mass index)、既往歴 (妊娠糖尿病)、家族歴 (糖尿病)、妊娠回数、喫煙歴、血圧、空腹時血糖、HbA1c値、血清総コレステロール値、血清中性脂肪値、血清HDL(High density lipoprotein)コレステロール値、血清LDL(Low density lipoprotein)コレステロール値、血清総たんぱく値、血清アルブミン値、外来診察回数、栄養指導歴、分割食回数、インスリン療法の有無、血糖自己測定器 (SMBG) 使用の有無、出生児の状態、社会的資源とした。75g OGTTのデータは、妊娠糖尿病診断時と出産後1ヶ月時点を、そのほかの血液検査データは初診時、出産直前、出産後1ヶ月時点を取集した。HbA1c変化量は、初回栄養指導時と出産直前の差とした。
統計方法については、名義変数にはカイ二乗検定を用いた。連続変数についてはShapiro-Wilk検定を用いて正規性の検定を行い、正規分布に従わないとき、1群では1 サンプルによるノンパラメトリック検定、2群ではMann-WhitneyのU検定、多群ではKruskal-WallisのH検定を行った。正規分布に従うとき、多群では一元配置分散分析を行った。相関解析には箱ひげ図で示された外れ値も含めた。関連性の程度についてはSpearmanの順位相関係数を用いて評価した。検定は両側とし、p値が0.05未満のとき統計学的に有意であるとした。データは、特に断らない限り、正規分布に従わないとき中央値[四分位範囲]、正規分布に従うとき平均値±標準偏差で示した。群分けはK平均クラスタリングによって行った。統計解析にはソフトウェアはIBM SPSS Statistics 29を用いた。
本研究は同志社女子大学「人を対象とする研究」に関する倫理委員会の承認(承認番号:2022-18)および、国立病院機構京都医療センター倫理委員会の承認(承認番号:22-056)を受け、患者より書面によるインフォームドコンセントを得て実施した(UMIN000049298)。
患者基本情報を表1に示す。対象者は30名で平均年齢34±4.0歳、非妊娠時BMI 22.5±3.3 kg/m2、栄養指導を受けていたときに仕事をしていた人は60.0%、妊娠糖尿病既往歴のある人は6.7%、6歳未満の子どものいる人は60.0%であった。対面栄養指導の回数は1 [1, 2]回、遠隔栄養指導の回数は2 [1, 3]回、栄養指導回数の合計は3 [3, 4]回で、遠隔栄養指導の方が実施回数は多かった(p = 0.026)。インスリンを注射していた患者は6.7%、SMBGを使用していた患者は86.7%であった。血液検査データとしては、空腹時血糖91.5±8.9 mg/dL、HbA1c 5.3±0.2%であった。妊娠糖尿病と診断されたときの75g OGTTの結果については、1点陽性は16.7%、2点陽性は66.7%、3点陽性は16.7%であった。
表1 患者基本情報(n=30)
年齢 (歳) | 34±4.0 | |
非妊娠時 BMI (kg/m²) | 22.5±3.3 | |
就労 (%) | 60.0 | |
妊娠糖尿病既往歴 (%) | 6.7 | |
家族の糖尿病既往歴 (%) | 66.7 | |
6歳未満の子ども有 (%) | 60.0 | |
妊娠回数 (回) | 2 [1, 2] | |
栄養指導歴 | 対面 (回) | 1 [1, 2] |
遠隔 (回) | 2 [1, 3] | |
合計 (回) | 3 [3, 4] | |
分割食回数 (回) | 5 [5, 6] | |
外来診察回数 (回) | 3 [3, 4] | |
インスリン療法 (%) | 6.7 | |
血糖自己測定 (%) | 86.7 | |
総タンパク質(g/dL) | 6.4±0.5 | |
アルブミン(g/dL) | 3.6±0.8 | |
総コレステロール(mg/dL) | 265.3±37.5 | |
中性脂肪(mg/dL) | 197.4±51.2 | |
空腹時血糖(mg/dL) | 91.5±8.9 | |
HbA1c(%) | 5.3±0.2 | |
診断時75gOGTT | 1点陽性 (%) | 16.7 |
2点陽性 (%) | 66.7 | |
3点陽性 (%) | 16.7 |
データは平均値±標準偏差または中央値[四分位範囲]または割合(%)で示す。
BMI: Body mass index;OGTT: Oral glucose tolerance test
主要評価項目である対面栄養指導を基準とした遠隔栄養指導の満足度は0.0 [-13.0, 0.0] mm (p = 0.411)で、対面栄養指導と遠隔栄養指導の間に差を認めなかった (図1)。身体的負担は-56.0 [-75.0, -22.8] mm (p <0.001)、時間的負担は-49.0 [-75.0, -23.5] mm (p <0.001)で、対面栄養指導の方が高かった。理解度は-2.5 [-39.8, 0.0] mm (p <0.001)、安心感は0.0 [-35.8, 0.0] mm (p = 0.018)で、対面栄養指導の方が高かった。話し足りなさは0.0 [0.0, 18.0] mm (p = 0.034)と遠隔栄養指導の方が強かった。実践への繋がりは0.0 [0.0, 0.0] mm (p = 0.05)、おすすめ度は0.0 [0.0, 0.8] mm (p = 0.234)で、対面栄養指導と遠隔栄養指導との間に差を認めなかった。
〇:外れ値 ★:極端な外れ値(箱の高さの3倍を超える値)
Post-hoc解析として実施した150 mm VASの項目間の相関行列において、満足度と話し足りなさには負の相関が見られ(相関係数 = -0.430、p = 0.018)、満足度と実践への繋がりには正の相関が見られた(相関係数 = 0.455、p = 0.012)(表2)。
満足度 | 身体的 負担 |
時間的 負担 |
理解度 | 安心感 | 話し足りなさ | 実践への繋がり | おすすめ度 | |
満足度 | 1.00 | 0.179 | 0.102 | 0.158 | 0.169 | -0.430* | 0.455* | 0.366 |
身体的 負担 |
1.00 | 0.196 | 0.276 | 0.378 | 0.225 | 0.382 | 0.106 | |
時間的 負担 |
1.00 | -0.143 | 0.118 | 0.041 | 0.040 | -0.117 | ||
理解度 | 1.00 | 0.255 | -0.100 | 0.252 | -0.083 | |||
安心感 | 1.00 | 0.005 | 0.389 | 0.063 | ||||
話し足りなさ | 1.00 | -0.245 | -0.178 | |||||
実践への 繋がり |
1.00 | 0.376 | ||||||
おすすめ度 | 1.00 |
データをSpearmanの順位相関係数で示す。
* : p <0.05
満足度と背景因子の関連につき、対面栄養指導と遠隔栄養指導に差が生じていないかの検証を行うために、K平均クラスタリングによって群分けを行った結果、満足度が対面栄養指導の方が高い群(20%)、変わらない群(63%)、遠隔栄養指導の方が高い群(17%)の3群に分けることができた(表3)。満足度と背景因子の関連では、年齢や就労などの患者背景、栄養指導回数、初回栄養指導時と出産直前でのHbA1c変化量、児のアウトカムのいずれにおいても3群間で有意差はなかった。
表3 満足度と背景因子の関連
満足度 | 対面栄養指導の方が高い | 変わらない | 遠隔栄養指導の方が高い | p値 | |
6 (20) | 19 (63) | 5 (17) | |||
患者背景 | 年齢 (歳) | 32.3±4.1 | 34.2±3.7 | 34.8±5.4 | 0.556A |
非妊娠時BMI (kg/m²) | 21.8±4.6 | 22.9±3.3 | 21.7±2.0 | 0.681A | |
就労 | 3 (50) | 11 (58) | 4 (80) | 0.582B | |
6歳未満の兄弟あり | 4 (67) | 13 (68) | 1 (20) | 0.144B | |
通院時間30分以内 | 1 (17) | 7 (37) | 2 (40) | 0.630B | |
栄養指導 | 栄養指導回数 (回) | 3 [3,4] | 3 [3,4] | 3 [3,4] | 0.645B |
対面栄養指導回数 (回) | 2 [1,2] | 1 [1,2] | 2 [1,2] | 0.291B | |
遠隔栄養指導回数 (回) | 2 [1,2] | 2 [2,3] | 1 [1,2] | 0.374B | |
血液検査データ | HbA1c変化量 (%) | 0.48±0.19 | 0.41±0.26 | 0.40±0.16 | 0.826A |
児のアウトカム | 正出生体重児 | 2 (33) | 17 (89) | 5 (100) | 0.237B |
正期産 | 6 (100) | 18 (95) | 5 (100) | 0.749B | |
経腟分娩 | 4 (67) | 13 (68) | 4 (80) | 0.868B |
データは、平均値±標準偏差または人数(%)または中央値[四分位範囲]で示す。
A:一元配置分散分析;B:Kruskal-WallisのH検定(post-hoc解析)
HbA1c変化量は、初回栄養指導時と出産直前の差を示す。
本研究の対象者の就労率は60.0%、6歳未満の子どものいる割合は60.0%と比較的高かった。また、遠隔栄養指導の実施回数が対面栄養指導の実施回数と比べて有意に多かった背景には、本研究が新型コロナウイルス感染症が流行している時期に実施されたことと関係しているかもしれない。さらに、遠隔栄養指導は医師の診察日とは別日に設定することが容易であるため、限られた妊娠期間中に医療従事者の介入できる機会を増やすことができた可能性がある。治療面ではインスリン使用率6.7%と低かったが、SMBG使用率は86.7%と高かった。
妊娠糖尿病患者への対面栄養指導と電話での遠隔栄養指導における満足度は変わらなかった。しかし、遠隔栄養指導は身体的負担や時間的負担が少ないものの、理解度や安心感が低く、話し足りなさを感じていたことがわかった。おすすめ度と実践への繋がりは満足度と同様に差は見られなかった。
電話での遠隔栄養指導におけるメリットとしては、来院負担の軽減・来院しない家族への介入・感染予防(来院不安軽減)・インターネット環境不要などの点が挙げられる。一方、デメリットとしては、食事量の把握が困難・表情が見えない・難聴患者への実施がしにくいなどの点が挙げられる16)。電話を用いた遠隔栄養指導のメリットの一つとして来院負担の軽減が挙げられていることから、今回の研究においても遠隔栄養指導は身体的負担や時間的負担が低かったと考えられる。
理解度や安心感、話し足りなさについては、電話での遠隔栄養指導において検討した先行研究は見られなかった。電話での遠隔栄養指導は初回の対面栄養指導で配布した栄養指導媒体を用いて行ったが、声のみがコミュニケーション手段となることから理解度が低くなっていた可能性が考えられる。安心感については、遠隔栄養指導を行う栄養士が固定されていなかったことが関連しているのかもしれない。今後は初回の対面栄養指導から継続して同じ栄養士が担当できるような体制を整えることで、遠隔栄養指導における安心感を補うことができる可能性があると考えられる。話し足りなさについては、電話での遠隔栄養指導では対面栄養指導に比べて、より正確に栄養指導の時間を守る必要性があったことが関連している可能性が考えられる。すなわち、遠隔栄養指導時間枠は記録時間を含めて30分に設定されていること、予約枠が埋まっている場合には決められた時間に次の患者へ電話をする必要性があることなどが挙げられる。一方で、話し足りなさを感じたことが次回の遠隔栄養指導を受けようというモチベーションに繋がることも考えられ、継続したフォローを行うことに繋がった可能性も考えられる。
妊娠糖尿病患者への栄養指導における満足度は、栄養士と話が十分にできたと感じられたかや栄養指導内容を実践できたかという因子が影響していた可能性が示唆された。
妊娠糖尿病の診断時期は患者によって異なるものの、栄養指導の介入できる期間は出産までとなるため、実施できる栄養指導回数が限られることとなる。栄養指導回数を十分に確保するためには、早期診断のためにスクリーニングを行うことと、診断後すみやかに栄養指導を開始できるような連携構築が必要であると考えられる。妊娠糖尿病のスクリーニングおいて、国際糖尿病・妊娠研究グループ協会は、妊娠初回受診時に全妊婦あるいはハイリスク妊婦に対して随時血糖、空腹時血糖値、HbA1cのいずれかを測定し、初期スクリーニングが陰性であっても妊娠中期に全例に対して75g OGTTを施行するように推奨しており17)、また、欧州でも初期に妊娠中の明らかな糖尿病をスクリーニングしたあとに、中期でも75g OGTTを推奨するとしている18)。日本においては、「妊娠糖尿病スクリーニングに関する多施設共同研究」において、1回目は妊娠のできるだけ早い時期に、2回目には妊娠中期で随時血糖値を測定し、それぞれのカットオフ値以上の場合には75g OGTTを施行することとなっている19)。
コミュニケーションは、言語内容による言語的コミュニケーションと言語によらない非言語的コミュニケーションに大別される。非言語的コミュニケーションには、距離、体の動き、表情、視線、接触、話し方、嗅覚情報、見た目などが含まれる20)。また、非言語的コミュニケーションは言語的コミュニケーションを補完する場合もあれば、言語的コミュニケーションを代替する場合もある。今回の電話での遠隔栄養指導においては、電話を通した声という言語的コミュニケーションに頼ることとなり、患者の表情や身振りなどの非言語的コミュニケーションからの情報を得ることができない状況であった。このため、声のみがコミュニケーションツールとなる電話での遠隔栄養指導においては、コミュニケーション上の制約がある可能性が示唆された。今後の対策として、栄養指導媒体をより遠隔栄養指導に適した形に改良することが必要だと考えられる。
本研究では、サンプルクラスタリングにより対面栄養指導の方が満足度の高かった群、変わらない群、遠隔栄養指導の方が満足度の高かった群の3群に分けることができた。先行研究では遠隔診療によってはHbA1cなどの血液検査データが改善したという報告はあるが3)、電話での遠隔栄養指導については十分な報告がない。本研究においてもサンプルクラスタリングによって分けられた3群間において初回栄養指導時と出産直前でのHbA1c変化量に有意差は見られなかった。また、満足度と関連する背景因子は特定されなかった。
本研究の強みとしては、日本における電話での遠隔栄養指導に関する初の患者満足度調査であったことが挙げられる。電話での遠隔栄養指導と対面栄養指導の満足度に差がなかったことから、妊娠糖尿病患者を対象とした電話での遠隔栄養指導は対面栄養指導を代替できる可能性が示唆された。
本研究の限界としては、まず、単一施設での研究でありサンプルサイズが小さいことが挙げられる。このため、結果を一般化することに制約がある。今後、多施設でのより大きなサンプルサイズの研究が望まれる。次に、本研究では毎回の栄養指導ごとにアンケート用紙による測定が困難であったため、出産後に150 mm VASを用いて調査を行ったが、今後、VAS形式以外の質問手法を考慮する必要がある。さらに、アンケート実施時が出産1ヶ月後であったため、記憶バイアスが存在した可能性がある。
妊娠糖尿病患者を対象とした対面栄養指導と遠隔栄養指導の満足度には差が見られず、遠隔栄養指導は対面栄養指導と同等の満足度が得られる可能性が示唆された。
本研究の実施にご尽力いただいた国立病院機構京都医療センター栄養管理室の皆様方に謝意を表します。