Journal of the Japan Innovative Diabetes Treatment
Online ISSN : 2436-0058
Abnormalities of the exocrine pancreas in type 1 diabetes
Tomoyasu Fukui Tetsuro Kobayashi
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2024 Volume 18 Issue 1 Pages 49-58

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はじめに

急性発症1型糖尿病は、数か月間にわたり口渇、多飲、多尿、体重減少などの高血糖症状が出現し、16.6%から79.0%の症例では高血糖による高浸透圧血症またはアシデミアに関連すると推定されている血中アミラーゼなど膵酵素の上昇を認め、急性膵炎に類似した検査値異常を伴い(多くは無治療で自然軽快)、通常糖尿病ケトアシドーシスにより発症する1,2)。発症直後の膵β細胞は細胞障害性Tリンパ球を中心とした炎症細胞浸潤により破壊され(insulitis: 膵島炎)、血糖依存性のインスリン分泌能は高度に障害するため生涯にわたりインスリン治療が必須となる。

膵島炎の発症、進展のメカニズムは長年にわたり研究されているが、まだ十分には解明されていない。近年、pre-symptomatic phase(膵島関連自己抗体陽性、1型糖尿病未発症、以下stage 2)の段階における膵外分泌腺領域には、膵島炎に先行してpreproinsulinに対する自己反応性CD8+Tリンパ球3)、エンテロウイルスRNA/汎白血球マーカーであるCD45共陽性細胞等が確認され4)、病期の進行と共にこれらの炎症細胞が膵島へ浸潤する可能性が示されており、膵外分泌腺領域を中心とした1型糖尿病の成因・臨床研究も精力的に行われており、興味深い研究結果が蓄積されつつある。この総論では筆者らが関与してきた研究を含め、1型糖尿病で認める膵外分泌腺領域の異常を紹介しながら、特に急性発症1型糖尿病と緩徐進行1型糖尿病 (SPIDDM)の成因との関係性を概説したい。

1型糖尿病にみる膵外分泌腺異常

1) 膵臓の正常解剖と機能

成人の膵重量は60-100g程度で外分泌と内分泌を営む2つの異なる機能を有する後腹膜に位置する臓器である。膵外分泌領域は膵全体の約95%を占め、“acinus”と呼ばれる腺房は、1) 腺房細胞、2) 導管細胞由来の腺房中心細胞、3) 導管上皮細胞で構成され多数の腺房が集簇し1つの小葉となる。腺房細胞から分泌された膵液は、小葉の中心にある介在膵管に集められ、各小葉内の介在膵管は小葉間導管、小膵管を経て、最終的に主膵管へ合流する5)

膵島は直径約100μm前後の大きさで小葉内に島状に点在し、重量は膵全体の約1~2%を占めるにすぎないが、膵臓へ供給される血流の約20%の血流が膵島へ流入し、高密度の毛細血管網が走行する血流に富んだ器官である。膵島を還流した血流は、その後周囲の腺房へ供給される(islet-acinar portal system)。膵島から分泌されるホルモンの中でインスリンは膵外分泌機能維持に最も重要であり、腺房細胞のインスリン受容体に作用しアミラーゼの合成、分泌に関与する6)。Pancreatic polypeptide、ソマトスタチン、グレリン、グルカゴンは消化酵素の分泌を抑制する6,7)。また消化管ホルモンであるCholecystokinin (CCK)は、迷走神経や腺房細胞に発現するCCK受容体を介して消化酵素の分泌を促進し、過剰な飲酒や高脂肪食の摂取はCCKの分泌を増加させ、膵に慢性的な炎症を惹起する6,7)。Glycoprotein 2 (GP2)は腺房細胞から分泌される顆粒膜タンパク質である。腺房細胞の膜表面から腺房腔へと放出されたGP2は膵管を経由して腸管の管腔へ流出し、腸管において大腸菌の腺毛に結合し、腸管上皮への付着や侵入を防ぐことが明らかとなり、膵外分泌腺は腸内細菌のbacterial translocationの阻止にも重要な役割を果たしている8)

1型糖尿病と腸内細菌の関連性に関しては、腸内細菌叢の多様性の欠如に伴う腸管免疫の破綻と1型糖尿病の新規発症との関係が示唆されている9)。腸球菌や大腸菌などを、実験的にラットの膵管に注入すると、膵管内で膵液による殺菌作用により放出されたlipopolysaccharide、lipoteichoic acid、毒素などの細菌成分がtriggerとなり膵管上皮細胞からMCP-1、IL-6などの炎症性サイトカインが分泌され、膵管周囲の炎症細胞浸潤と同時に膵島炎が誘導された(図1)10)。このことから、腸内細菌は膵管や血行を介し、1型糖尿病の成因に関与する可能性が考えられる。

図1 水腫性変性を伴いヒトの膵島炎に類似した所見

参考文献 10. Fig 4Fより抜粋。茶: CD43陽性細胞、赤: インスリン陽性細胞。

2) 膵萎縮

膵臓の大きさは生後から30歳ころまで成長を続け、体重や体表面積と強く相関する11)。しかしながら、急性発症1型糖尿病の膵サイズは体重補正後も、糖尿病の罹病期間に関わらず非糖尿病者と比較し有意に低く(重量は35-45%、容積は18-52%低下)6,11) 、著者らも発症急性期(発症1週間以内)の急性発症1型糖尿病の膵体積はコントロール群に比べて有意に低値であったことを報告した(図2)12)。さらに膵島関連自己抗体陽性の非糖尿病脳死ドナーの膵重量も非糖尿病対照群と比較し有意に低値であることが報告されている(平均61.3g vs 81.4g)13)。これらの結果は、急性1型糖尿病は発症前から膵が萎縮している可能性を示唆している。

図2 1型糖尿病発症直後の腹部CT所見

参考文献12. Fig S1より抜粋。左: 新規発症1型糖尿病、右: コントロール。

我々の過去の検証で、SPIDDMの膵重量は非糖尿病患者に比べて有意に低値であり(平均29.8g vs 79.3g)、さらに急性発症1型糖尿病の膵重量よりも低いことを報告しており(平均29.8g vs 42.1g)、SPIDDMの低膵重量の原因には急性発症1型糖尿病と異なるメカニズムが存在する可能性がある14)

過去の実験動物の検証より、膵島から腺房細胞へのinsulinotrophic効果の消失が原因で1型糖尿病の膵サイズが低下すると推定されてきた6,11)。しかしながら、発症後もインスリン分泌能は経年的に低下するが、1型糖尿病の膵サイズは罹病期間と関係なく減少している症例が多いため、残存インスリン分泌能との関係を明らかにするのは困難であった。インスリン受容体欠損マウス (IR)、IGF-1受容体マウス (IGF-1R)の膵重量はコントロールマウスと比べ低下を認めないが、IRとIGF-1Rのダブルノックアウトマウスの膵重量は有意に低値であり、IRとIGF-1Rは胎児の膵外分泌の成長には必要であるが、膵内分泌の成長には必要でなかったと報告されている15)。筆者らは1型糖尿病患者のIGF-1値と体重補正後膵体積 (pancreatic volume index: PVI)に注目し、両者の関係を検証したところ、平均C-ペプチドが0.43ng/ml、罹病期間が3年 (0.3年–11年)と内因性インスリンが低下している1型糖尿病患者のIGF-1 Z-scoreはPVIと有意な正相関を示すことを報告した16)。つまり、内因性インスリン分泌能の低下に加えてIGF-1 分泌障害が、1型糖尿病患者の膵臓の縮小に寄与している可能性が示唆された。

最近のトピックスとして、免疫チェックポイント阻害薬投与に関連し発症した自己免疫性糖尿病患者では、診断時に内因性インスリン分泌の低下に加え膵萎縮を認め、経過と共に萎縮が進行する場合があることが報告された17)。高血糖と診断される前に一過性のリパーゼ上昇を認めていることから免疫チェックポイント阻害薬に関連した膵外分泌腺の炎症との関係性が想定されるが、その詳細は明らかになっておらず、今後さらなる症例報告の蓄積や膵組織の検討などが必要である。

3) 膵管の形態異常、異形成、閉塞性膵炎

Nakanishiらは、1型糖尿病患者に膵管造影を実施したところ、急性発症(19%)と比較し、SPIDDM患者(60%)では主膵管の拡張や途絶、蛇行、石灰化、分枝膵管拡張などの膵管の形態異常を高頻度に認めることを報告した18)

膵組織学的検証では、罹病期間が長い急性発症1型糖尿病の膵外分泌腺組織では、膵管肥厚所見に加え、軽度から中等度の局所の炎症所見と伴い小葉単位で萎縮する“lobular atrophy”を高頻度に認める。Moinらは、lobular atrophy の原因として、1型糖尿病発症後の膵の慢性炎症により刺激されたPDG (pancreatic ductal glands)から由来した膵管上皮細胞が細胞増殖(過形成)し、膵管の管腔に乳頭状に発達する結果、膵管内圧が上昇し閉塞性膵炎を引き起こすためと推測している19)

一方、SPIDDM膵では、膵外分泌腺の慢性炎症を反映し、腺房導管化生 (acinar-ductal metaplasia: ADM)、膵上皮内腫瘍性病変 (pancreatic intraepithelial neoplasia: PanIN) (注釈、文献14内ではductal epithelial hyperplasia/dysplasia: DEHDと記載されていたが、現在はPanINの呼称統一されているためPanINと表記する)、分枝膵管の嚢胞所見を高頻度に認める14)。ADMは、腺房細胞障害後に脱分化し導管へ変化した嚢胞状に拡張した病変であり、通常アミラーゼ染色は陰性、膵管上皮マーカーであるサイトケラチン19抗体は陽性となる5)。PanINはADMから連続する膵管上皮の異形成病変であり、核の異形を伴う丈の高い円柱上皮細胞が膵管内腔へ乳頭状に突出、さらにその細胞が産生するムチンにより膵管内腔は狭窄し、最終的に閉塞性膵炎を随伴する。そのため、SPIDDM膵組織ではlobular atrophyを高頻度に認める14)。以上の結果より、急性発症1型糖尿病はPDG由来の非腫瘍性の膵管上皮細胞増殖が19)、SPIDDMはPanINなど膵管内の腫瘍性の上皮増殖性病変が原因となりlobular atrophyを引き起こすメカニズムが推定される14)

4) 膵内外分泌組織に対する自己免疫異常

約40-70%の1型糖尿病患者には、lactoferrin (膵腺房細胞に分布)、carbonic anhydrase Ⅱ(膵管上皮に分布)、amylase alpha-2A、pancreatic cytokeratin(膵管上皮細胞の細胞骨格を形成する中間系フィラメントタンパク質の線維) や、消化酵素であるbile salt-dependent lipaseに対する自己抗体が検出される6)。Kobayashiらは、新規発症1型糖尿病の87%でIgM型の抗pancreatic cytokeratin抗体が陽性を示し、罹病期間と共にIgG型の自己抗体が増加し、発症時に高値を示したエラスターゼの値と共に抗体価が低下することを報告した20)。膵管上皮細胞がウイルス感染により破壊されpancreatic cytokeratinが細胞外へ放出された結果、二次的に自己抗体が産生された可能性に加えて、Epstein-Barr virusとcytokeratinの分子相同性も報告されているため、pancreatic cytokeratinに対する抗体の出現はウイルス感染症との関与も推定される。

抗amylase alpha-2A抗体は88%(15/17)の劇症1型糖尿病、21%(9/42)の急性発症1型糖尿病で陽性し21)、NODマウスは高血糖に先行して抗amylase alpha-2A抗体価が上昇することが報告されている22)。これらは、抗amylase alpha-2A抗体と1型糖尿病の関係を示唆する重要な知見であるが、膵外分泌組織に対する自己抗体の病因的意義は低いと思われる。

著者らは、自己免疫性1型糖尿病(急性発症32例、SPIDDM39例)の膵島関連自己抗体とPVIとの関係を調べたところ、急性発症、SPIDDMともにGAD抗体価、ZnT8抗体価とPVIの間に相関関係は認めなかったが、IA-2抗体が高抗体価 ( ≥ 10 U/ml)群 (High IA-2)は、陰性群と比べてPVIが有意に低値であった。High IA-2群の発症様式は急性発症が主体であり、膵島抗原に対する自己免疫応答の違いも、膵サイズに影響している可能性がある23)

近年、膵性糖尿病 (type 3c diabetes)の患者血清を用いて膵島関連自己抗体を測定したところ9.3%24)から10%25)の症例でGAD抗体が陽性を示し、一部の症例では膵島炎の所見を認めていたため25)、慢性的な膵外分泌の炎症により膵島の自己免疫が惹起される可能性があると考察されており、膵性糖尿病で認める膵島関連自己抗体の産生機序の解明が期待される。

5) 膵外分泌腺の炎症 

一般的にstage 2の時点では、膵内外分泌腺の炎症は軽微であると推定されているが、ADMに加えて、膵実質の脱落と線維化が観察され、炎症細胞浸潤を伴い小葉単位で高度に障害されている症例も報告されている (図3)26)

図3 ADMと慢性膵炎

参考文献26. Fig 2aより抜粋。ボックス:ADM、*:脂肪置換、#:線維化、i:炎症細胞浸潤; NP:正常外分泌腺。

Rodriguez-Calvoらの研究グループは、stage2の段階や初期の1型糖尿病の膵外分泌組織においてはCD4+Tリンパ球やCD11c+樹状細胞による炎症細胞が主体であり、CD8+Tリンパ球は、stage2から1型糖尿病発症の進展に伴い増加することを報告している27)。さらに、膵外分泌組織に浸潤するCD4+Tリンパ球とCD11c+樹状細胞の細胞数は強い相関関係を示したため、樹状細胞は主要組織適合遺伝子複合体分子上の抗原ペプチドを提示し、CD4+Tリンパ球の増加を引き起こし膵外分泌腺炎症の初期の病態に深く影響している可能性がある27)。一方、SPIDDMの膵外分泌腺では、慢性膵炎の膵組織と類似しCD68+マクロファージが炎症の主体であり、次にCD8+Tリンパ球が多く、CD11c+樹状細胞、CD4+Tリンパ球、CD20+Bリンパ球は僅かである。膵外分泌腺のCD8+Tリンパ球は、PanINにより障害された小葉内で特に多く観察され、CD8+Tリンパ球数と膵重量には有意な負の相関性を認めていたことから、PanINに随伴した閉塞性膵炎がSPIDDMの低重量に起因する最大の要因になると思われる28)

6) 膵外分泌腺機能障害

2つのコホート研究を併合した解析により、血清トリプシノーゲン濃度は膵島関連自己抗体陰性の非糖尿病患者や1型糖尿病第一近親者、膵島関連自己抗体単独陽性の非糖尿病患者と比較すると、2つ以上の膵島関連自己抗体陽性非糖尿病患者で有意に低下していることが明らかになった29)。つまり、stage2の時点で膵外分泌腺機能や膵サイズは共に大きく障害されている可能性があり血清トリプシノーゲン濃度や血清リパーゼ濃度などの測定はclinical onsetへの進展を予知するマーカーとして期待されている29)

急性発症1型糖尿病患者の膵外分泌機能をfecal elastase-1や、リパーゼ活性を評価する13C-mixed triglyceride breath testで評価すると健常者と比べて 30-50%の低下を認める6)。また1型糖尿病は、慢性膵炎患者で認める体重減少、背部痛、下痢などの自覚症状は乏しいが、retinol binding proteinやprealbuminなども有意に低値であり膵外分泌腺機能低下により潜在的には低栄養状態であることを示唆している30)

7) 膵がん

日本人のデータを含む複数のメタ解析によって主に2型糖尿病と膵がんリスクとの関連が報告されている31,32)。1型糖尿病の膵がんの相対リスクは非糖尿病者に対して1.53~2.00と欧米諸国を中心に報告されているが33,34)、日本人1型糖尿病の膵がんの相対リスクは不明であり、日本人1型糖尿病と膵がんの関連性はまだ明らかでない。慢性膵炎患者の膵がん発生リスクは約13倍、膵管内乳頭粘液性腫瘍 (IPMN)や膵嚢胞がある場合の膵がん発生リスクは約2-10倍と報告されており、日本人1型糖尿病の中でも慢性膵炎や嚢胞性病変を合併する1型糖尿病は膵がんの発症には特に注意が必要と思われ、医療者は糖尿病患者に対し適切に膵がんのスクリーニングを受診するように推奨すべきである。

緩徐進行1型糖尿病の成因、進展に関する新知見

1) SPIDDM膵からのエンテロウイルスの同定

SPIDDMの成因は、GAD抗体など膵島関連自己抗体が陽性を示すことから自己免疫との関連が示唆されていたが、長い間不明のままであった。筆者らは緩徐に進行するβ細胞障害の原因としてenterovirus (EV)、腸内細菌など感染症との関係を疑い研究を進めてきた結果、SPIDDM患者の膵(膵島、腺房、膵管)においてEV感染が示唆されるエンテロウイルスの外被蛋白であるVP-1+細胞が確認され、成因に関する新知見を報告した(図4) 28)

図4 罹病期間が短いSPIDDMで認めたエンテロウイルス感染

参考文献28. Fig 1bより抜粋。茶:VP1、矢印:膵島内部、矢じり:腺房細胞。

使用したのは12例(剖検11例、生検1例)のSPIDDM膵と19例の非糖尿病膵島抗体陰性コントロール膵 (NDC)であり、VP-1抗体を用いた免疫組織化学染色 (IHC法)に加えて、in situ hybridization (ISH法)にてEV-RNAの同定を試みた。さらに、ウイルス感染後に自然免疫を誘導するパターン認識受容体に属するMDA5に加え、IFN-β1 (Ⅰ型インターフェロン)を免疫染色により検討した。

VP-1+膵島は、一部のNDCと全例のSPIDDM膵で確認され、VP1+膵島数の平均は10.7%(279膵島中30島で陽性)であり、NDCに比べて有意に高値であった。ISH法により、SPIDDMの67%の症例は膵島で、膵外分泌腺領域では全例においてEV-RNA (CVB1)が確認された。膵β細胞にはCoxsackie-adenovirus receptor (CAR)と呼ばれるコクサッキーウイルスB型とアデノウイルスに対する共通受容体が発現していることから、EVは主にβ細胞に感染することが報告されているが35)、SPIDDMの膵島ではβ細胞だけでなく非β細胞でもVP-1+細胞を認め、EVの細胞極性は消失していた。

2) エンテロウイルスに対するSPIDDM膵の免疫応答

VP1+ area/ islet (VP1陽性の面積/膵島面積、%)は罹病期間と共に5年から10年にかけて急速に低下し、10年以上で再上昇した。病初期の膵島では、自然免疫応答によりウイルス複製が抑制されるが、免疫を逃避した一部のEV感染細胞から分泌される加水分解酵素である2A protease (2Apro)により膵島内部のMDA5さらにはIFN-β1が分解もしくは抑制された結果、感染が完全に制御されず、罹病期間が進行すると共にEVによる感染が膵島、さらには腺房細胞へ拡大するためと思われる(感染拡大期)35)。このEVの感染拡大には罹病期間と共に膵島内部のCD11c+樹状細胞の減少も一因であると筆者らは推測している。CVBはnon-lytic viral egressという様式により感染細胞で溶解を受けず、隣接する細胞へ感染が移行する(cellular protrusions)メカニズムも知られており罹病期間と共に感染の拡がりが確認されたSPIDDM膵でも関与した可能性がある35,36)。VP1+腺房細胞は罹病期間の短い症例でも僅かに観察されたが、EVに感染した多くの腺房細胞は、ADMへ変化していた。

一部の劇症1型糖尿病では、ウイルス感染に伴い過剰に活性化された自然免疫応答が膵島内部の抗原に対するBystander activationが惹起され、病初期に膵島抗原に対する各種自己抗体が検出されることがあるが37)、抗体価は低く、一過性の上昇であり、高抗体価が持続することが特徴とされるSPIDDMの経過と異なっており、SPIDDMのEV感染と膵島関連自己抗体(種類、抗体価、親和性など)との関係は不明である。

まとめ

1型糖尿病の一部の症例は、遺伝的素因を背景に、環境要因としてウイルス、細菌感染など病原体が病態に深く関係し、膵外分泌腺(腺房、膵管)と内分泌腺間の綿密な組織連関の破綻により発症、進展すると推定される。SPIDDMに関与するウイルスの同定を含め今後のさらなる研究に期待したい。

謝辞

本稿で紹介させて頂きました日本人1型糖尿病膵組織を用いた成因研究は、共著者である冲中記念成人病研究所所長小林哲郎先生からご指導して頂いた研究であり、この場を借りまして厚く御礼申し上げます。

著者の COI(conflicts of interest)開示

福井 智康:なし、小林 哲郎:なし。

参考文献
 
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