Biwako Journal of Rehabilitation and Health Sciences
Online ISSN : 2758-1799
Print ISSN : 2758-1780
CASE STUDY
Biomechanical effect of soft robotic glove on golf-swing speed: A preliminary case study focusing on post-stroke hand weakness
Yuma SonodaJun TeraiTakahiko Sato
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2023 Volume 2 Pages 17-24

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要旨

近年,把持力補強を目的としたソフトロボットグローブが脳卒中患者などの日常生活の自助具として導入されているが,ゴルフなどのスポーツおいても有効である可能性がある.しかし,ゴルフスイングの運動力学的解析は,健常アスリートに焦点が当てられており,障害者における知見が不足している.本研究では脳卒中後左片麻痺を持つ障害者のレクリエーション・ゴルフのための予備的評価として,ソフトロボットグローブを用いたゴルフスイングの運動力学的データを取得した.ゴルフ未経験の健常者2名(男性,右利き)がボランティアで参加し,光学式三次元動作分析装置と各足1枚ずつの床反力計を用いて,反射マーカーからクラブのヘッドスピード[m/s]を記録した.また,インパクト局面での足部の運動力学的データとして,水平距離(スタンス幅)[mm]と鉛直床反力[N]が抽出された.左手にソフトロボットグローブを装着したスイングでは,インパクト局面でヘッドスピードと左軸足の床反力に有意な増加を示した.さらに,ソフトロボットグローブを装着することによるパワーアシストで,Borg CR-10 scaleも4から2~3へ軽減され,良好なスイングが認められた.また,脳卒中後左片麻痺患者(男性,右利き,Brunnstrom stage上肢V・手指IV)で,シミュレーターを用いて計測したところ,左手にソフトロボットグローブを装着したスイングでは,ヘッドスピードと推定飛距離が有意に向上した.したがって,ソフトロボットグローブは,片麻痺ゴルファーの把持力補助において有効なウェアラブルデバイスとして利用できる可能性が示唆された.今後,症例集積研究にて有効性を明らかにする必要がある.

Abstract

In recent years, soft robot gloves have been introduced as self-help devices for reinforcing grip strength in daily life, such as for stroke patients, and may be effective in sports such as golf. The biomechanics of golf swings have been researched previously. Support for golfers with disabilities remains poorly documented with existing studies focusing on athletes. This study presents kinematic data for the use of a soft robot glove on one hand in a golf swing performed with a seven-iron assuming recreational golf for a disabled person with post-stroke left hemiplegia. Two healthy right-handed men with no golf experience volunteered for participation, and a Vicon motion capture system with two force plates, one for each foot, recorded kinematic data. The launch marker recorded the club head speed, while the horizontal foot distance and vertical floor reaction forces were extracted at the impact phase. Swings with a soft robotic glove on the left hand showed a significantly increased head speed and floor reaction force of the pivot foot at the impact phase. Wearing a soft robotic glove also reduced hand muscle fatigue (Borg CR-10 scale 4 to 2 or 3) while maintaining good swings. In addition, measurements using a simulator showed that swinging with a soft robotic glove on the left hand significantly improved head speed and estimated distance in left hemiplegic patients after stroke (male, right-handed, Brunnstrom stage upper limb V, finger IV). In conclusion, the soft robotic glove can be an effective grip-assisted device for hemiplegic golfers and should be investigated in future case series studies.

序論

過去30年間で世界の脳卒中の発生率は70%増加,その有病率は85%増加し,2019年には世界で死因(660万人)の第2位で,生存者でも大半は手足の麻痺,言語障害や高次脳機能などの障害を抱えた生活を余儀なくされている[1].それらの障害者に対してリハビリテーションが果たす役割は大きく,なかでも脳卒中後片麻痺に対する作業療法や理学療法においては,近年のリハビリテーション工学の発展によって,訓練機器や補装具の選択肢が拡張している.また,柔らかい擬人化構造のロボット(soft wearable robot [exosuit])の開発が進み,手の作業に対するソフトロボットグローブ(以下,SRG)の利用が最近注目されている[2, 3].そして,作業療法・理学療法への応用として,高齢者のプレリハビリテーション[4, 5],脊髄損傷[6],多発性硬化症あるいは脳卒中患者の在宅リハビリテーション[7]などで,SRGを用いた介入の有効性が示されている.SRGの中で,現在,日本国内で市販されているものにCarbonhand®(BioServo Technologies, Kista, Sweden)がある.本製品は,Soft Extra Muscle(SEMTM)技術が用いられており,筋電センサではなく指先のタッチセンサが感知した圧力に応じて,筋腱を模した内臓ワイヤーが縮まり,指を屈曲させて握る力を電動でサポートする仕組みが特徴的である(Fig. 1).また,日常生活動作における手のパワーアシストを目的とした福祉機器・自助具であり,近年,国内でも作業療法での実践報告がみられる[8, 9].さらに,SEMTMの工業用にIronhand®(BioServo Technologies)があり,米国産業衛生専門家会議(ACGIH)Hand Activity Threshold Limit Value®によって推奨される,Carbonhand®とIronhand®は連続作業時の手の疲労を抑制する設計である(例:手根管症候群の防止)[10].手の疲労評価は,Borg CR-10 scale[11, 12]などが用いられ,欧米では作業療法士等によって労働上のこれらの評価と活動指導がなされており,SRGを導入する企業が増加している.

Fig. 1 Occupational therapy using soft robotic glove (SRG)

Robotic soft extra muscle (SEM) technology (Bioservo Technologies, Kista, Sweden) is a powered hand exosuit that works by contraction of an artificial muscle tendon wire mounted on a ‍touch sensor (without using an electro­myography sensor) and is an intuitive grip-strengthening aid.

一方で,SRGの使用は,食事動作の自立や書字の質向上,製造業における反復動作の安全性向上だけでなく,テニスやゴルフなどのスイングを伴うスポーツまたは障害者スポーツにおいてもパフォーマンス向上に寄与する可能性がある.その背景としては,握力の補助によって運動力学的パラメータが強化または正常化されることが示唆される[2].また,身体障害や認知障害の重症度の低い脳卒中患者においても,スポーツやレクリエーションへの参加には,体力の向上だけでなく,心理的健康の改善や対人関係の充実など,多くの利点がある[13, 14].しかしながら,手の障害を持つゴルファーに焦点を当てたSRGの有効性に関する研究は見当たらない.また,ゴルフスイングの運動力学的解析は,主として男性アスリート[15]に焦点が当てられており,女性アスリート[16]や高齢ゴルファー[17],特に脳卒中患者といった障害者のゴルフに対する研究が不足している[18].これまでに,アスリートでは左手の握力[16]や足の圧力分布[19]がヘッドスピードと相関することが知られている.そこで,本研究では,脳卒中後片麻痺患者のCarbonhand®を用いたレクリエーション・ゴルフやインドア・ゴルフへの参加レベルのゴルフスイング動作を想定し,症例集積研究に向けた予備的基礎研究として,健常者を主な対象に三次元動作分析装置を使用してゴルフスイング時の運動パラメータ変化について,ヘッドスピードと床反力の圧力分布に焦点化して力学的解析を行うこととした.

方法

1. 研究デザインと対象

本研究は,レクリエーション・ゴルフにおけるソフトロボットグローブの活用に対し,その有効性を予備的評価するための健常者2名と高齢障害者1名による事例研究である.

実験1は,「左」片麻痺患者におけるゴルフスイング動作を想定した,健常者を対象とした事例研究である.実験前に,ヘルシンキ宣言を順守し,書面にてインフォームドコンセントが行われた.尚,本研究は,本学研究倫理審査会の承認(番号:BR21005)を受け実施した.本研究の参加者は,ポスターでボランティアを募集し,適格基準を満たした志願者で,ゴルフ経験の無い健常者(体の痛みの無い,右利き),男性2名である.今回,スイングのパフォーマンス影響を与えることが予想される痛み,ならびにゴルフ経験値による学習効果の差違を考慮し,筋骨格系疼痛またはゴルフ経験を有する者を除外した.

実験2は,実際の「左」片麻痺患者1名(高次脳機能障害の無い,Brunnstrom stage上肢V・手指IV,男性,右利き,ゴルフ歴15年)による実験である.尚,参加前に,ヘルシンキ宣言に則り,口頭にて説明し同意を得た.

2. 実験1

2.1.  実験条件

左片麻痺のゴルフスイングを想定のもと,以下の2つの実験で構成された.尚,ゴルフスイングの三次元動作分析において十分な施行回数は,8–12回が推奨されている[20].

男性A(40歳,腰痛歴なし)は,条件(I)右片手,(II)両手・素手(Carbonhand®なし),(III)左Carbonhand®装着(パワーアシスト「強」:握力20,000[mN])にて,各10回のスイングを順に実施した(計30回).

男性B(35歳,腰痛歴あり)は,条件(IV)左Carbonhand®装着(パワーアシスト「強」),(V)両手・素手(Carbonhand®なし)にて,各15回のスイング[20]を順に実施した(計30回).

また,いずれも測定前に15回のスイング練習と自覚運動強度(Borg CR-10 scale)が評価された.以上より,測定前を含めたスイング施行数の合計は,実験1と実験2のどちらも,45回である.

2.2.  測定方法

ゴルフスイング(7番アイアン)の運動パラメータ測定は,反射マーカーをクラブヘッド(1個)・左右のつま先と踵(4個)に貼付し,サンプリングレートを600 ‍Hzに設定された11台のカメラから構成されたVicon社製の光学式三次元モーションキャプチャーシステム(Vantage, Oxford, UK)とサンプリングレートを1,200 ‍Hzに設定された2台のAMTI社製の床反力計(AccuGait, Massachusetts, US)を使用し測定された(Figs. 2 and 3).床反力データは連続する2フレームの平均値を用いて600 ‍Hzにダウンサンプリングすることで反射マーカーの座標データと同期した.なお,データ分析は,MathWorks社製数値解析ソフトウェア(MATLAB R2021a, Massachusetts, US)を用いて行い,Microsoft Excel®を使用し匿名化情報とともにデータ固定した.

Fig. 2 Experiment layout

Motion capture analysis at a recording rate of 600 ‍Hz was performed using a Vicon system with 11 infrared cameras and two force plates. Launch markers were worn on the club (seven-iron), right thumb metacarpophalangeal (MP) joint, and both feet (toe and heel). An MP joint marker was not used in this study.

Fig. 3 Image of kinematic analysis model for right-handed orthodox golf swing sequence

A: Address (start of backswing), B: end of backswing, C: impact, and D: end of swing (finish). Arrows indicate the vertical floor reaction force.

2.3.  評価項目

主評価項目はゴルフスイングのヘッドスピード[m/s]とした.ヘッドスピードは,バターワース型ローパスフィルター(8 ‍Hz)を用いて平滑化されたマーカーの鉛直座標が最低となったフレームを基準に前後5フレームを加えた区間において各フレーム間の速度を算出し,合成速度を区間通して平均することで算出した.副次評価として,手の疲労(自覚運動強度:Borg CR-10 scale),足部の力学パラメータ(スタンス幅[mm],左右足の鉛直床反力[N],荷重比[%])を評価した.スタンス幅は,クラブヘッドに貼付されたマーカーの鉛直座標が最低となったフレームにおける左右足のつま先と踵の中点の距離とした.鉛直床反力および荷重比は,クラブヘッドに貼付されたマーカーの鉛直座標が最低となったフレームを基準に前後5フレームを加えた区間における左右各足に作用した鉛直床反力の平均値から算出した.

3. 実験2

3.1.  実験条件

高齢片麻痺患者(70歳・男性)は,(1)両手・素手(Carbonhand®なし),(2)左Carbonhand®装着(パワーアシスト「弱」:握力10,000[mN]),(3)左Carbonhand®装着(パワーアシスト「強」)にて,各10回のスイングを実施した.

3.2.  測定方法

ゴルフシュミレータ(Golf Navi GTR, ITD Co., Ltd., Korea)を用いて,スイング(7番アイアン)の運動パラメータを測定した.

3.3.  評価項目

主評価項目はゴルフスイングのヘッドスピード[m/s]で,副次評価は推定飛距離[yd]であった.

4. 統計解析

各パラメータについて非正規分布を仮定してノンパラメトリック手法で群間比較することとし,中央値および四分位範囲を算出した.すべての統計解析にはSPSS ver. 26 for Windowsを使用して有意水準(P)は5%未満とし,Kruskal–Wallis検定および総当たりのMann–Whitney U検定を行い,Bonferroni–Holm法にて多重比較補正した.

結果

1. 実験1

男性A(40歳):ヘッドスピード[m/s]の中央値(四分位範囲)は,条件(I)20.0(17.6–20.6),(II)23.6(22.9–23.7),(III)26.0(25.4–26.6)で,Kruskal–Wallis検定(P = 0.002)および総当たりのMann–Whitney U検定(すべてP = 0.008)において有意差を認めた(Fig. 4).また,左右の荷重比(左足のみの荷重:0%,右足のみの荷重:100%)についても,条件(I)14.0(13.1–14.6),(II)17.7(17.2–17.9),(III)19.6(19.1–19.9)で,総当たりのMann–Whitney U検定(すべてP = 0.008)において有意差を認めた(Fig. 4).さらに,インパクト局面において,右の床反力には3つの条件の間で有意差は認めなかったが,左の床反力[N]では,条件(I)と(III)の間で有意差を認め(P = 0.008),それぞれの中央値(四分位範囲)は690(647–719)と867(830–892)であった.スタンス幅[mm]でも,条件(I)と(III)の間で有意差を認め(P = 0.008),それぞれの中央値(四分位範囲)は358(348–373)と406(401–408)であった.

Fig. 4 Experiment 1A (40-year-old man)

Preparatory swing was performed 15 times, and hand fatigue was assessed using the Borg CR-10 scale, while motion capture measurements were performed for 10 swings under three conditions (I, II, and III). The total number of swings performed was 45, and kinematic parameters (A)–(E) were calculated using the Mann–Whitney U test (two-tailed P < 0.05).

また,左の両手での連続15回のゴルフスイングによる手の筋疲労感は,Carbonhand®の有:無で,Borg CR-10 scaleは2:4であった(Fig. 4).

男性B(35歳):ヘッドスピード[m/s]の中央値(四分位範囲)は,条件(IV)24.8(23.7–25.5),(V)25.8(25.6–26.5)で,2群間で有意差を認めた(p = 0.001)(Fig. 5).その他の指標において,有意差は認めなかった(Fig. 5).

Fig. 5 Experiment 1B (35-year-old man)

Preparatory swing was performed 15 times, and hand fatigue was assessed using the Borg CR-10 scale, while motion capture measurements were performed for 15 swings under two conditions (IV and V). The total number of swings taken was 45, and kinematic parameters (A)–(E) were calculated using the Mann–Whitney U test (two-tailed P < 0.05).

また,連続15回のゴルフスイング後の手の筋疲労感は,Carbonhand®の有:無で,修正Borg CR-10 scaleは3:4であった(Fig. 5).

2. 実験2

脳卒中後左片麻痺(Brunnstrom stage上肢V・手指IV)を持つレクリエーション・ゴルファー(70歳):ヘッドスピード[m/s]の中央値(四分位範囲)は,パワーアシスト「なし」25.5(25.3–26.7),パワーアシストあり「弱」27.2(26.4–28.5),パワーアシストあり「強」29.0(27.3–29.2)で(Kruskal–Wallis検定:P = 0.003),「なし」と「強」(P = 0.001)の間で有意差を認めたが,「なし」と「弱」(P = 0.075),同様に「弱」と「強」(P = 0.052)の間で有意差を認めなかった(Fig. 6).

Fig. 6 Experiment 2 (70-year-old man with left hemiplegia)

Using an indoor golf simulator, the club head speed and estimated distance were measured for 10 swings at each of the three strengths (Non, Weak, and Strong) while wearing a soft robotic glove (SRG). Significant changes were calculated using the Mann–Whitney U test (two-tailed P < 0.05).

また,推定飛距離[yd]の中央値(四分位範囲)は,パワーアシスト「なし」92.8(86.4–105.4),パワーアシストあり「弱」107.8(103.5–118.8),パワーアシストあり「強」125.3(122.0–130.3)で(Kruskal–Wallis検定:P = 0.00043),「なし」と「弱」(P = 0.043),「なし」と「強」(P = 0.00038),「弱」と「強」(P = 0.009)それぞれの群間で有意差を認めた(Fig. 6).尚,本研究参加者の病前の平均飛距離は約135 ydであった.

考察

本研究はSRGを用いたゴルフスイングに対し,モーションキャプチャー分析を行った最初の研究である.実験1において,両手に比べ片手ではヘッドスピードは有意に遅く,片麻痺患者のゴルフに対し,SRGによる把持力への一定のアシストが有用であることが示唆された.加えて,男性1はスタンス幅とともに左軸足の床反力が向上を示したが,圧力中心の前足への移動の早さがクラブのヘッドスピードを速くすることが示唆されており[19],ゴルフスイングにおける把持力の変化は,圧力中心や重心の変化の早さや大きさにも影響すると推測される.また,SRGは,欧米では労働場面などで連続的手作業によって起る強い筋疲労や手根管症候群を予防[10]する目的で導入されており,本研究でスイングといったスポーツ場面でもSRGの使用によって自覚的運動強度の低減が示された.したがって,片麻痺ゴルファーに対するSRGの使用は,安全性の観点からも有効であると考える.さらに,ゴルフスイングにおいては,体幹の側屈と回旋といったクランチに起因する腰痛が懸念されているが,ゴルファーのフィールド調査におけるモーションキャプチャー分析を用いた運動力学的評価では,体幹の側屈と回旋は腰痛の症候性群と無症候性群で有意差を認めなかったとの報告がある[21].これは,腰痛の発症と体幹のクランチの程度といった脊椎の変性に対し,上述のように床反力の左右比や圧力中心の移動の早さ,握力などの身体パフォーマンスをはじめとする交絡因子がより深く関与している可能性が考えられる.片手または片麻痺による非対称性の動作では腰部への負担が高まることが予想され,片麻痺や高齢ゴルファーではSRGの使用は手の痛みだけでなく腰痛の予防につながる可能性がある.本研究において,腰痛歴のある男性Bではヘッドスピードのみに変化がみられたが,腰痛歴のない男性Aでは,同調性に,ヘッドスピード向上と右足への荷重率が向上し,SRGの把持補助によってバックスイングの拡大を感じていた.早期に条件への適応(痛みや体への負担に対する防衛反応)が生じたことなどが示唆されるが,さらなる研究では,本研究と同様に光学式三次元モーションキャプチャーシステムを用いて,腰痛リスクを分析することが望まれる.

また本研究では,左片麻痺を持つ高齢患者においても,SRGのパワーアシストによってヘッドスピードに有意な向上を認め,推定飛距離ではSRGのパワーアシストの強弱の違いでも有意差を認めた.女性アスリートにおける先行研究では,ヘッドスピードが左握力の強弱と正の相関を示すことが報告されている[16].この傾向は,本研究の左片麻痺患者の結果と類似しており,より強い把持力のアシストとともに,持続的な把持によってクリップのタイミングが一定になることで,ヘッドスピードおよび飛距離が向上したと推測される.一方,ゴルフトレーニングは脳卒中患者の視覚的イメージ能力を改善できることが示唆されており[18],SRGを活用することでゴルフトレーニングなどが可能となることで,新たなリハビリテーション効果を付加できる.しかしながら,既存のCarbonhand®は,手指屈曲(握る)とともに手指伸展(手を開く)をサポートする機能を併せ持っていない欠点があり[7],重度な上肢障害や認知障害を持つ患者では不適応となるため,AI・ロボット支援技術の進化に関わらず,個々の患者とデバイスに合わせた評価・指導に作業療法士や理学療法士が役割を果たす必要がある.また,ウェアラブルな訓練機器・福祉機器と同じく,実験室外でモーションキャプチャー分析が可能なウェアラブルセンサーの開発もなされており[22],作業療法に関しても,これらの技術を活用し実践場面で客観的なデータ解析を行い,また積極的に物理療法を併用し,効果的かつ適応的な介入を確立することが望まれる.

本研究の限界として,今回は健常者を主とした少数例での予備的実験の結果であり,選択バイアスが与える影響を否定できない.今後,様々な片麻痺患者の症例を集積し,インパクトの巧緻性などに対して好影響を与えるかも調査していく必要がある.また,上肢や体幹にもマーカーをつけ,詳細な角度変化や重心位置を評価することも重要である.さらに,本機等のSRGにおけるスポーツモードの開発に寄与するべく,パワーアシストの最適なタイミングや強度を解明するさらなる研究を行う必要がある.

結語

本研究結果から,右利き健常者において,SRGを左手に装着してパワーアシストすることにより,ゴルフスイング中の自覚運動強度も減少し,ヘッドスピードも向上することが示唆された.同様に,脳卒中後左片麻痺患者でも,SRGを麻痺手に装着することでヘッドスピードおよび飛距離が向上することが示唆された.したがって,SRGの活用は,脳卒中後片麻痺患者のレクリエーション・ゴルフへの参加,あるいはリハビリテーションとしてのゴルフトレーニングに対し,検討すべき選択肢の一つになり得る.

謝辞

本研究に御協力頂いたびわこリハビリテーション専門職大学リハビリテーション学部の教職員の皆様に心より感謝いたします.なお,研究のデザインと準備,ならびに研究資金提供はYSが,データ収集はYSとJTが行い,データ分析と解釈はTSとYSで行った.原稿執筆と改訂は著者全員で行った.

〔利益相反〕該当する利益相反(COI)は存在しない.

文献
 
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